悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件 作:激重大好き
目が覚めたら序盤で死ぬ悪徳領主だった。
「なんだこれ……」
ついさっきまでゲームをやりこんでくすんでいたはずの手は真っ白の傷ひとつない細くスラっとした掌に、鏡を見ると現れる特徴もないボヤっとした顔は、整ってはいるが目つきが悪く傲慢そうな青年に様変わりしていた。
現実離れした出来事だが、俺にはこの事象になぜか心当たりがあり、目の前の人物にも見覚えがあった。というか、何度も菓子をつまみながら片手間に倒した序盤ボスの悪魔……の召喚者、
「ルシアン・ヴァン・アストリア……」
俺は、序盤ボスにすら満たない咬ませ犬に転生した。
異世界転生ものの定番として、転生直後の主人公の内心の混乱が渦巻く描写や過度に冷静な描写があるが、俺はどちらかといえば後者らしい。いや、冷静な描写にありがちな「どんなチートを貰ったか」や「異世界をどう攻略するか」という思考は俺の中にはない。あるのはただ一つ。
「……詰みやんけ」
諦観だった。
なぜルシアンに転生したら詰みなのか。
まず前提として今の俺には『元のルシアンの体の記憶』はあるが、『元のルシアンの思考』は一切存在していない。わかりやすい悪役としてゲーム内では傍若無人を尽くすルシアンだが、今の俺にはそれといった悪感情も欲求も持ち合わせていない。前世の自称ゲーマーの精神は一切変わってないと言える。しかしながら、ルシアンの記憶や領主らしい偉そうな仕草といった身体が覚えている記憶はそのまま残っている。とはいえ、記憶といっても何か動画を見ているかのような『他人の記憶』という意識があり、おかげで人格や記憶がごちゃまぜになったりするお約束を回避しているのかもしれない。
では、意識を乗っ取られることもなく、他人の振りを演じる必要もない『都合のいい転生』を果たしてもなお、『詰んでいる』と確信に至るのか。それには二つの理由がある。
一つ目は今までの行いは清算されてないこと。ルシアンはルシアンの父、つまり前領主が倒れて早くに病死したため若くして領主となった。しかし、ルシアンは見た目の通り利己的で他の者を見下し、好き勝手に振舞っていた。館は好みに改築・増築し、シェフも女も飽きたら捨てて次を求めた。感謝は言うわけもなく、領地にあるものはすべて自分のものだと信じて疑わなかった。そのため、領民は大なり小なりルシアンを憎んでいるし、殺したいと思う者も少なくない。こんなことを続ければ暴動やクーデターの一つでも起きそうだが、そうならない理由があった。
それは二つ目の、現状が詰みである最大の理由。『悪魔との契約』にある。
脳内に浮かび上がるゲームの知識が、残酷な真実を告げていた。ゲーム内の設定として、ルシアンは悪魔と契約していた。契約によって悪魔の力の一部を得たルシアンは、その力で傲慢に振舞っていた。しかし、破魔の剣を持った勇者たちに追い詰められ、ルシアンが最後の砦として悪魔本体を召喚、その直後、ルシアンはその悪魔に殺された。
悪魔にとってルシアンは魔力供給装置でしかなく、勇者パーティの前に召喚された悪魔は、目の前にある
「もう少しは絞り取ってから殺すつもりだがまあいい……目の前にご馳走が現れたからなァ!!」
結局のところ悪魔はルシアンから魔力を取れるだけ取り、殺すつもりだった。つまり、今から改心して善行を積み討伐フラグをなくしたところで悪魔と契約した時点で詰んでいるのだ。
ルシアンの記憶には悪魔と契約したところや契約以前の記憶が何故か無かった。しかし、記憶の中でルシアンは悪魔の力を利用している。それに、今も使おうとしたらその力を使えるという確信めいたものがあった。使ったら後が怖いので出来るだけ使いたくはないが。
そんなわけで、俺は現状を維持しようが改善しようが詰んでいるのだ。
……本当にそうだろうか?
──コンコン
俺が考え事に耽っていると、部屋にノックの音が響いた。
ルシアンらしく「入れ」と命令すると、緊張と怯えが入り混じった若い見てくれの良い女性の使用人が入ってきた。少し震えた声で「朝食の用意が整いました」と言い、直立不動で俺の返事を待った。
……まあ生殺与奪が全部他人に握られてたらそりゃ怖いよな。俺だってそうなる。記憶を見るにルシアンは領民を殺すのは『無駄遣い』と考えており無用な殺傷はしなかったぽいが、それでもいつ殺されてもおかしくない相手から外見で選ばれて使用人させられたら怖いに決まっている。だいぶかわいそうになったので、俺は記憶を頼りにルシアンらしい態度と声で言った。
「貴様は使えない。クビだ」
俺は懐から、使用人の数ヶ月分の給料に相当する金貨が入った革袋を取り出し、彼女にポンと放り投げた。
「……え?」
大金を持ったままフリーズしてしまった彼女に、ルシアンのイメージは崩さないように横柄な態度で言った。
「何をしている。執事長を呼んで来い。今日中に荷物をまとめて館から出ろ」
と言って睨むと使用人は「ひゃい!」と悲鳴じみた返事をして大金を抱えて部屋を駆け足で出て行った。ルシアンの記憶を見る限りあの使用人は喫茶店の看板娘だったので、家宿無しで路頭に迷うことはないだろう。あとで一応確認しておくか。
もう少し優しい態度をとってやりたいが、周囲に『ルシアンではない別人のようだ』と思われてはいけない。事実である以上、バレたらルシアンを憎む敵に付け入る隙を与えてしまう。ゲームの設定もルシアンの素の能力は平民以下と書かれていたし、悪魔の能力はできるだけ使いたくない以上、俺の武力は現状ほぼ皆無だ。なので、今はまだ『悪魔の力を平気で振りかざす悪徳領主』を演じなければならないのだ。
──コンコン
そのまま数分待っていると、先ほどよりも洗練された心地よいノックの音が聞こえた。それを聞いて扉の外の人物を確信した俺は入るように促し、目的の人物と出会った。
「お待たせしました。領主様」
「待っていたぞ、クラウス」
執事長、クラウス・ベルンハルト。白髪混じりのオールバックに片眼鏡をかけ、一切のシワがない完璧な執事服を着こなす初老の紳士であり、細身ながらも姿勢の良さから威圧感を漂わせる絵にかいたような執事だ。ゲーム内では前領主に仕えていた執事で、忠義に厚く、頭脳明晰で領地経営にも詳しい人物だった。ルシアンには毛嫌いされており、クラウスはルシアンを『前領主様の顔に泥を塗る愚物』と評しながらも見捨てることはせず陰ながら改心させようと苦心していた。そんなクラウスだが、ルシアンに真っ向から立ち向かう勇者パーティに感銘を受け、勇者たちを逃がすためにルシアンの前に立ちふさがる。その後ルシアンによって投獄され、ルシアンと悪魔討伐後は荒れた領地を立て直す中心人物となる正義と忠義に溢れる人物だった。
「ほう。私目に要件でございますか」
「ああ……、打ち明けたいことがあってな」
俺が思いついた、生き延びるための突拍子もない計画。上手くいくかもわからない最悪世界をめちゃくちゃにして終わるコレを実行するためにはクラウスの全面的な協力が必要不可欠だった。幸いにしてクラウスはルシアンすら見捨てないほど忠義に厚いのはゲームで確認済み。裏切られる可能性はほぼないと見ていいだろう。
「悪魔の呪いに打ち勝った。昨夜までの俺はもう居ないと思え」
「……なんと」
転生のことまで打ち明けるのはルシアンとは別人判定を喰らい、忠義対象外になるリスクがある。そのため、『悪魔と契約した呪いによって傍若無人に振舞っていたが、精神的に打ち勝った』という設定を作った。
「ああ。だが代償に契約前の記憶を失った」
「それは……」
「悪魔の契約も消えていない。だからお前に協力してほしい」
そして、ついでに契約前の記憶がないのも悪魔のせいにしてしまうことで辻褄を合わせる。まさに一石二鳥の設定だ。
「……左様でございますか」
転生は明かしてないとはいえ、ほぼ「別人になりました」と宣言したようなものだ。ここで疑われたり断られると、計画は実行前に露となって消えてしまう。俺はルシアンらしく不遜な態度で、内心では祈るような気持ちでクラウスを見ていた。
「遂に……遂に、打ち勝ったのですね」
クラウスは……姿勢を一糸も乱さないまま、静かに涙を流した。
「な、何故泣く!?」
「嗚呼、領主様。見ておられますか……。臆病者の坊ちゃまがやり遂げましたぞ!」
ついには上を向いて語りだした……一瞬焦ったが、どうやらいい具合に解釈してくれたらしい。想定外の勘違いも含まれてそうだが、都合がいいのでこのまま押し通すことを決意。
「ああ。俺は乱れた領地を立て直し、そして悪魔を討ち倒さねばならん。クラウス、協力してくれるか」
「ええ、もちろんですとも!このクラウス、命が尽きるまで奉仕いたしますぞ!」
俺とクラウスはがっちりと握手を交わし、忠信を確認した。そして、善は急げと俺はクラウスに『俺が生き延びるための計画』を話した。
「早速で悪いが、以下の特徴を持つ少女を三人、見つけてほしい」
名付けて、『勇者パーティーを育てて悪魔倒してもらおう大作戦』を。
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