悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件 作:激重大好き
クラウスに、とっさに思いついた作戦*1を打ち明けてから2週間ほどが経った。
正直、冷静になって考えるとこの作戦は非常に穴が多い。まず、『容姿の特徴以外なんの変哲もない少女(覚醒前)』を見つけるという作戦自体の意味不明さ。そして、コンピュータどころか写真もないこの世界で、そこそこの村や町がある広大な領地から人を探すという難しさなど、欠陥を探せばいくらでも見つかるこの作戦だが、作戦の詳細を聞いたクラウスは少し黙った後、
「このクラウス、必ずや探し出して見せましょう」
と二つ返事で了承した。その時はクラウスの協力を得られた喜びで聞き忘れたが、後日二つ返事だった理由を聞くと
「私は一介の執事です。私めの役割は道筋を示し、誤りを指摘する。そして、命令に忠実に従うことです。あのような具体的な指示が出たならば後は私が形にするのみ。目的や理由なぞ後に教えていただければよいのです」
とカッコよすぎる返事を貰った。
それから
他にもクラウスの協力を得ながら領地の上位市民*4に『館の処分品』と称して倉庫に埋没していた宝石や魔道具などを送り付けている。あくまでごみの処分のついでであり、俺からではなくクラウスから送られてきたことにして、力が使えないことを隠しつつ遠回しに反抗心を減らそうとしている段階だ。
精神的にもルシアンの言動やこの世界にも慣れてきた頃、広い領地から三人の少女を見つけるのはまだまだ先のことだと少し油断が生まれ始めていた。
が、
「領主様、少女『アリア』を見つけました」
「……はぇ?」
早くない???? まだ二週間しか経ってないぞ。GPSでもついてたんか?
……うちの執事が有能すぎて怖い。
【クラウス・ベルンハルトの回顧】
幼いころから、坊ちゃまは臆病でした。
虫すら殺せないほど気が弱く、体も強くありませんでした。人と話すことに過剰におびえ、私を含めて使用人とは会話することさえ稀でした。
唯一両親には心を開いておりましたが、上流社会で生きる上でその弱さはあまりにも致命的でした。
前領主様もそれを悟られており、息子を跡取りにせず、優秀な養子を迎えてルシアンには別荘での平穏な暮らしを与えようと計画していました。前領主様の奥様も私もそれが坊ちゃまのためだと賛同しておりました。
しかし、不幸は唐突に訪れました。
養子の話がまとまる前に、前領主様と奥様は流行り病で亡くなられました。
知らせを聞いた坊ちゃまの昏い表情は今でも忘れられません。
そして、坊ちゃまは碌な後ろ盾もなく、領地経営の知識もないまま、領主の座に座らされました。
だれもが「ルシアンには無理だ」と確信しており、恥ずかしながら私もその一人でした。
しかし、坊ちゃまは諦めませんでした。坊ちゃまは両親を誰よりも愛しており、その両親が愛した領地も愛しておりました。「遺された領地を台無しにしたくない」と坊ちゃまは奮闘しました。
もちろん、私含め家臣は全力で支援させていただきました。しかし、使用人との会話さえ苦手な坊ちゃまの精神的な支えは亡くなった両親のみであり、坊ちゃまは日に日に衰弱していきました。
坊ちゃまは気が弱いですが、それ以上に優しいお方でした。ゆえに私たちに心配をかけないよう「大丈夫だ」と気丈に振舞っていました。
……そして人知れず追い詰められた坊ちゃまは、力を求めて館の倉庫にて厳重に封印された禁忌の『悪魔契約書』に手を出しました。
その翌日から坊ちゃまの性格は一変し、他人を見下し、絶対的な暴力で相手を恐怖に陥れる暴君になりました。悪魔契約書の存在は館のごく一部の者しか知らず、多くの使用人は坊ちゃまの豹変に驚き、説得を試みました。しかし、坊ちゃまは暴力で応え、説得に応じることはありませんでした。
私は深く後悔しました。私があの時、もっと坊ちゃまの心に寄り添えていれば、悪魔を頼ることなどなかったのではないか、と。多くの使用人が坊ちゃまに見切りをつける中、私は坊ちゃまを元に戻す方法を探し続けました。しかし、分かったのは『悪魔契約書』を消し去るには精神的に打ち勝つのみという残酷な現実でした。
そうして日々が過ぎ、私が最早坊ちゃまを救う手段が無いと認め、坊ちゃまを討ち果たす存在を探そうとしていた時の夜。夢を見ました。
夢の中では不思議な空間の中に幼い坊ちゃまが倒れていました。近づこうとしても、声をかけようとしても私はなにもできず坊ちゃまを見ることしかできませんでした。
坊ちゃまが強い閃光とともに消え、私は目を覚ましました。
その日の朝のことです。私は珍しく私を呼び出した坊ちゃまから衝撃的な内容を聞かされました。
悪魔の呪いに打ち勝った。と
その時、夜に見た夢を思い出し、確信に至りました。『坊ちゃまは諦めずに戦い続けていた』ということに。そして、私が諦めようとしていたことに反し、坊ちゃま……いいえ、領主様は打ち勝ちました。
私は、領主様を見限ろうとし、二度も間違いを犯しました。領主さまの「臆病」という側面しか見ず、その内に秘める情熱と信念に気づけませんでした。
領主様はそんな私さえも信頼し、新たなご命令を与えてくださりました。
それは変わった人探しであり、真意までは読み取れませんでした。しかし、私はもう間違えません。
「このクラウス、必ずや探し出して見せましょう」