悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件 作:激重大好き
クラウスに詳細の説明は馬車でと告げられ、俺は急いで身支度を済ませて馬車に乗り込んだ。
「で、アリアはどうしてこんなに早く見つかったんだ?」
勇者アリア。金髪碧眼美少女であり、原作では主人公的な立ち位置におり、凛々しい表情のなかにあどけなさが残る魅力的なキャラクターだった。
原作開始前は、ルシアンの領内の村のごく一般的な両親の一人娘として健やかに成長していた。その後俺の住む街で二人の少女(とついでに俺)と出会いストーリーが始まるのだが……。
勇者ら三人の容姿については俺が知っている限りの特徴をクラウスに伝えた。そのうち勇者以外の二人はおおまかな居場所は分かるが、取りに行く……もとい預かりに向かうには少し厄介な場所であった。だが、それでも迎えに行くのは勇者が一番遅いと思っていた……が、まさかの勇者が最初になった。
この世界にテレポートみたいな都合の良い魔法はない。いくら私兵が大量にいるとしても馬車だけで2週間はいくらなんでも早すぎる……。そんな俺の疑問にクラウスは平然と答えた。
「坊ちゃ……領主様に言われた通りの人物を探していただけでございます」
「それがおかしいと言っているんだ」
原作でもクラウスは領主のルシアンに対し勇者の情報をできるだけ隠していた。しかし、それも元を辿ればルシアンのためであったが、同じように何か隠しているのか……と疑惑の目でクラウスを睨むと、彼は穏やかに言った。
「領主様がおっしゃったことです。
『村は魔物の生息地の近くのような気がする』と」
「……確かにそう言ったが」
根拠は原作でアリアの村は魔物に襲われるからそういっただけで、補足というか当てにしないようにも伝えたはずだ。
「ええ、しかし闇雲に探すよりは良いかと思い、魔物の目撃報告が多い村より探しておりました」
「その中で見つけたのか」
「左様でございます」
……有能すぎるだろ。さすがはルシアン亡き後に領主に代わって領地を立て直したクラウスだ。
「村の詳細は」
「規模は少々小さく、街より馬車で1日もかからぬ近場でございます」
「なるほどな」
確かに原作でも幼い少女一人でも村を出てなんとか街にたどり着いていたし、そのくらいか。まあ近場とはいえ村なんてそこら中にあるし2週間で見つけるのは相当早いと思うが。
「領主様、ひとつよろしいですか」
「なんだ」
俺が一人納得していると、今度は逆にクラウスが訊ねてきた。
「……その少女が、本当に悪魔討伐に必要な人物でございますか」
「そうだ。間違いない」
少女を探すようにクラウスに命令した際、俺は悪魔の呪いには打ち勝ったが、俺の中には未だに悪魔が根付き、その少女3人の力が必要だと話した。もちろん、他の者に言わないよう口止めした上で。
もちろんゲームが根拠とは言えないので夢や神のお告げだのとごまかそうと思いきや、クラウスは『全てが終わり次第』と説明を後回しでよいと言っていた。
「いえ……ならば良いのですが……」
「……?」
理由は今は必要ないときっぱり言っていたのに、今のクラウスはどことなく煮え切らない様子だった。
そして……その理由は、村についてから判明した。
村につき、馬車の中で待つことしばらく。クラウスが馬車に連れてきたのは……
「……えー領主様。こちらがアリア殿……5歳の少女です」
「ん。こんにゅ……こんにちわ、アリアです」
「…………は?????」
そこには、ゲームで幾度となくみた勇者アリア……にそっくりな、少し舌足らずな幼女が居た。
その幼女は、魔物対策の傭兵が駐留している以外は至って平凡な、小さな村の中にいた。
「……おいクラウス。俺は『年齢は15歳程度』といったはずだが」
「ですが、年齢以外はすべて一致しておりました。人違いと判断できず実際に見ていただくべきだと考えまして」
「おかし……くはないのか」
そうだった。序章の咬ませ領主の設定なんて興味なかったから忘れてた。
そうか……今は原作の10年前なのか。
てことは俺が転生してなきゃルシアンの圧政ってあと10年は続くのか、悲惨すぎるだろ。*1
「えーと、りょうしゅさま?」
「ん?」
考え込んでいると、少女……というか幼女のアリアが話しかけてきた。
「アリア、ばしゃのなか、はじめてみた」
「そ、そうか」
「ふくも、みたことない」
「うん? ああ、俺たちの服か。確かに珍しいだろうな」
アリアの顔には緊張や恐怖の類は見られず、既に聡明さの片鱗が見えていた。先ほどまでは馬車や俺たちを観察していたようだ。将来勇者という大物になる器を目の前の幼女アリアから感じていると、アリアは声のトーンを下げ、不安そうな表情で言った。
「アリア、どうしてよばれたの?」
「ああ、それは……「ちょっと待ってください!!!」……ん?」
説明しようとすると、突然馬車の中に2人の男女が乗り込んできた。さらにその後ろから護衛の兵士が近づき2人を馬車から引っ張りだそうとしていた。
「……何事だ」
「え……? パパ? ママ?」
「アリアっ! 無事か!!」
「私はどうなってもいいから、娘だけは……娘だけは連れて行かないでください!!」
「ふ、ふたりともおちつかないと領主様が……」
突然始まったカオスな状況に呆然としていると、クラウスが1歩前に出て大きな咳払いをした。
「ん゛ん゛、う゛ぉっほん゛!!」
「「「……」」」
迫真の咳に全員がフリーズした状況を見渡して、クラウスは静かに言った。
「皆様、落ち着いてください」
「俺は至って冷静だが?」
「アリアもさわいでないよ」
「おふたりはお静かに」
理不尽な仕打ちに俺とアリアが顔を見合わせ肩をすくめていると、クラウスはアリアの両親らしき人物に向けて言った。
「アリア殿のご両親、ご用件を伺いましょう。2人を解放してください」
そういうと、俺の側に戻ってきた。兵士から解放され戸惑う二人を横目に俺はクラウスに話しかけた。
「……クラウス、アリアの両親になんと説明した」
「領主様がアリア殿を必要としている、と」
「説明不足にもほどがあるだろ」
これだから優秀で有能な執事は困る。全人類がクラウスみたいに物分かり良くないの知らんのか。
「あの……領主様、ですか?」
クラウスに文句を言っていると、アリア父が話しかけてきた。クラウスはこれ幸いといわんばかりにモノクルを掛けなおすついでに顔をそらしやがった。
「ああ。領主ルシアン・ヴァン・アストリアだ。堅苦しい挨拶は不要。聞きたいことを述べよ」
「ことをのべよ」
「ちょっ、アリア……!」
一応体裁として腰に手を当てて横柄な態度を取ると、アリアがなぜか俺の右に立ってポーズを真似していた。母親が慌てて回収していったが、アリアの表情はなぜか不満げだった。肝据わりすぎだろこいつ……。
「子供にいちいち腹は立てん。聞きたいことはなんだ」
「娘を……アリアをどうするつもりですか……」
「……私が雇い、街に連れて行く」
「そんな! まだ娘は5歳です!」
「……」
……そうなんだよな。いくら異世界とはいえ、子供に労働させるのは若くても10歳くらいだ。5歳はいくらなんでも想定外すぎる。でも10年後迎えに来ますで手遅れになっても困るし……どうしたもんか。
「まち? まちってあの、おみせがあるとこ?」
ふと横から声がすると、いつの間にか俺の右側にアリアが戻っており、今日一のテンション高い興味津々の表情で俺の返答を待っていた。
「あ、アリア……!」
「よい。そうだな。街には多くの店がある。食事、服装、武器、魔道具……とな」
「おおー……がっこうは?」
「ん? あるんじゃないか」
「アリア、がっこういってみたい!」
「生憎だが俺は学校は知らん。家に専属教師は居たがな」
「せんぞくきょーし……」
キラキラとした目で俺を見つめるアリアをみて、俺は一筋の活路を見出した。こいつ意外と簡単に買収できそうだ。
「そうだな、俺について来ればお前にも専属教師をつけてやろう」
「っ!?」
「そうだな、店にも気が済むまで連れて行こう*2」
「おお……」
「なんでも食え。買い物も好きなだけしろ」
「アリアまちにいきたい!」
「アリアッ!?」
見事に買収されたアリアは再び母親に回収された。アリアが両親の前でも「まちにいく!」と宣言すると、両親は諭すように言った。
「パパともママとも会えなくなるのよ」
「え……」
「2度と会えなくなるかもしれないんだぞ」
「あ……」
……その様子を見て、俺はクラウスを睨んだ。が、クラウスは涼しい顔で「領主様から説明なさるのはいかがですか」と促してきた。おしつけやがったな。
仕方ないので、俺からアリアの方に近づいて声をかけた。
「あー、ちょっといいか」
「……」
「まず、村から街までは馬車なら1日もかからん。帰ろうと思えばすぐに帰れる」
「そうなの……でもパパとママがとおく……」
「なんか勘違いしてるが、俺はいつお前だけ王都に連れて行くって言った?」
「えっ? さっき……」
「確かに雇うのはアリアだが、別に同伴者が何人か増えたところで構わん。パパでもママでも2人とも連れてこい」
「いいの……?」
「そ、それは私たちはいったい……」
「客人扱いだ。衣食住の心配は要らん。気まずいなら職でも斡旋してやる*3。あーそれと……泊まり込みでなく日帰りでもいい」
「パパとママとまちにいっていいの?」
「良いと言っている」
「やった!! パパ! ママ!」
「「……」」
「……はぁ、あとはお前が説明しろクラウス」
「お疲れ様です。かしこまりました」
優しい目で見てくるクラウスをもう一度睨んでから、俺は軽くため息を吐いた。
要らん気遣い回しやがって。お見合いじゃないんだから俺の好感度なんか気にしなくていいのによ。……どうせ利用することには変わりないんだから。
そこから、理解が追い付かないのか呆然としている両親にクラウスが詳しい説明を始めた。貫禄のあるクラウスの言動は説得力を帯びており次第に両親の顔からは不安が消えかけていた。
「ね、りょうしゅしゃ……さま」
「ルシアンでいい」
で、子供にとっちゃ堅苦しい説明が始まって退屈になったのか、俺の方には再びアリアが近づいてきた。
「えっと、ルシアンさま」
「なんだ」
「ママと、パパはいっしょでも、ほかのひとはおわかれ?」
「ま、悪いがそうなるな」
「そっか……」
先ほどほどじゃないが、アリアは悲しそうな表情を浮かべた。自然な様付けといい、ここで「みんな一緒に」などと言い出さないあたり、5歳にしちゃ相当物分かりがいいんだろう。
だが5歳児は幼女。想定外すぎるし、申し訳ないが俺に幼女の相手をするスキルはない。両親に説明中のクラウスに助けを求めようにもこっちには気付いてるだろうに露骨に無視していた。
「ね、ルシアンさま。なんでアリアなの?」
「……行きたくなくなったか?」
「ううん、きになったの」
「そうだな……細かい説明は時間がかかるんで割愛するが、お前が必要だから、だな」
「……アリアが?」
「あぁ。気づいてないだけで、お前には悪魔も羨む才能がある」
「あくま?」
きょとんとした顔で首を傾げるアリアを見て、俺はふと原作ゲームの序盤を思い出した。誰が仲間になったりならなかったり別れたりするのかストーリー分岐の多いゲームだが、最初の3人はどのルートでもずっと一緒だった。
「別れがあるなら出会いもある。街に行けば新しい仲間……友達もできるだろ」
「ともだち……」
「ああ、とびきり大切な……一生涯の友達が」
「……ルシアンさまも?」
「ん? 俺か? ……まあ俺もできる限りは面倒見るし育ててやるつもりだが。てか育ってくんないと俺が困る」
「……ん、わかった」
そう言うとアリアは振り向き、両親に向かって力強く宣言した。
「アリア、ルシアンさまとまちにいく!」
「アリア……」
「……」
「……さすがですな」
……なにがきっかけかは分からないが、俺はアリアの説得に成功したらしい。原作でもアリアはやると決めたことは必ずやり通す芯の強い少女だった。目の前の幼女からもその片鱗を感じ取り、俺は内心でほっと安堵した。
10年圧政が続いていた裏設定
Q.なんでつぶれなかったの?
A.悪魔と契約後のルシアンはたしかにわがままで自分勝手で酒池肉林していたが、むやみに殺すタイプの悪者じゃなかったことと、自分はわがままで良いが他人の悪事は許さなかったためにルシアンに目を付けられない限り、街の治安はむしろ良かった。原作では勇者パーティが目を付けられたために悪徳領主の側面が強かった。