悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件   作:激重大好き

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バーが……赤い……


獣人「ミオ」

 

 

 

 

 街の一角、どこにでもある平凡な家の部屋に、とある母娘がいた。

 

 部屋は窓も含めすべて閉ざされており、日が昇っているにも関わらず薄暗かった。

 

 

 

「起きなさい」

 

「……」

 

「ほら、エサよ。わざわざ用意したんだから味わって食べなさい」

 

「……」

 

 

 

 そう言われた、ボロ雑巾のような服を着た娘であるその少女は皿の中の食事……と呼べるかわからない口にはできるエサを、手を使わず……家畜やペットが食べるように食べ始めた。

 

 

 

 

 

「返事くらいしたらどうなの?」

 

「……」

 

「卑しいわ。ほんとうに卑しい」

 

「……」

 

 

 

 なお少女は返事をしない……否、あえて返事をしなかった。ここで返事をしても「お前は喋るな」と理不尽に叩かれるのを知っていた。黙っていても叩かれることも多いが、少女は既に諦めていた。

 

 

 

「でも、卑しいあんたに朗報よ」

 

「……」

 

 

 

 しかし、今日は不思議と叩かれることはなかった。むしろ初めて聞くような上機嫌さを纏っており、少女は顔を上げると……その少女の頭上には、2対の獣のような耳が備わっていた。

 

 

 

「ついにあんたの買い取り手が見つかったわ! あんたみたいな幼い『獣憑き』を高く買い取ってくれるの! ついにわたしの努力が報われるってわけよ!」

 

「……」

 

「ひひっ、ここまで育てた私に感謝しなさいね」

 

 

 

 たとえそう言われようとも少女の表情は変化することなく……母親を見る目には一切の光も宿っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このむす……奴隷で間違いないのか」

 

「ええ、ええ。獣憑きの従順なペットよ! 愛玩でも鑑賞でもなんでもこなすわ! そう躾けたのよ、私が!」

 

「そうか」

 

 

 

 買い手を前にして、母親は焦っていた。いくら「売り物」のアピールをしようと、買い手の反応に手ごたえがなく、暖簾に腕押しであった。

 

 このままでは値切られるどころか買い取りの話さえ消失する予感がした。それだけは不味い……ただでさえ家を出た夫が残した財産は既に使い切りそうなのに……と焦りを感じていると、買い手は静かに言った。

 

 

 

 

 

「言い値で買おう」

 

「……え」

 

「なんだ不満か?」

 

「と、とんでもないわ!」

 

「契約成立だな。奴隷を寄越してこれに署名しろ」

 

「え、ええ! ひひっ、あんたも物好きね」

 

 

 

 男が大金の入った大袋を取り出すと、母親……いやもう親ですらないか。卑しい笑みを浮かべた女性は袋を奪うように受け取り、契約書を碌に見ないままサインをしてはそそくさと部屋を出て行った……文字が読めない可能性もあるか。

 

 

 

「はぁ……」

 

「今後のご対応は」

 

「予定通り放置でいい。どうせ勝手に身を滅ぼす」

 

「本当によろしいのですか?」

 

「諄い。俺とクラウスは『奴隷商から借金奴隷を買った』だけだ」

 

「……失礼いたしました」

 

 

 

 この領地では借金や犯罪を犯した者以外を奴隷と扱って売買するのは違法だ。なお「違法奴隷だと知らずに買った場合」は犯罪ではないが、発覚すれば取引自体が消えてしまう。

 

 それに、あいつのざまぁ展開は原作で20回は見ている。これ以上は見飽きた……と脳内で愚痴を吐く。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 ふと横を見ると、原作の勇者パーティーの1人である獣人ミオをそのまま幼くしたような少女が、光の宿っていない目でこちらを見上げていた。

 

 

 

「あんな端金でこいつを買えるなら安いくらいだろう」

 

「それは……」

 

 

 

 何とも言えない感情の目線を送ってくるクラウスを「冗談だ」と軽く流し……俺は数日前のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアを……一悶着ありつつも無事に雇い入れてから暫く。俺は慌ただしい毎日を送っていた。

 

 原因はもちろん……

 

 

 

「ルシアンさま! アリアがごえーにきたよー」

 

「……今はいい」

 

「わるいやつはいつくるかわかんないよ!」

 

「……館の中は安全だ。大人しくしろ」

 

「でもでも、まものとかあくまがかくれてたらあぶないよ!」

 

「……」

 

「え? ……ほんとにいるの??」

 

「居ない。剣を仕舞え」

 

 

 

 誰だよ5歳児に潰しているとはいえ真剣与えたやつ……俺だったわ。

 

 

 

 ……この子供所以の遠慮を知らない無邪気さと、大人顔負けの鋭さを併せ持つ奇跡的に厄介な幼女は、俺の護衛を名乗り、「護衛は常に主人の側で守る」という俺が適当に言った教えに忠実に……もはや忠実すぎて主人の命令すら聞かないほど頑固に守ろうとしていた。

 

 

 

 だが、最初の館の日に比べたら相当ましな方で……本当に四六時中俺の側に居ようとした。寝るときはもちろん、トイレや風呂までついてこようとして……俺は無事、ロリコン認定を受けた。神は死ね。

 

 

 

 そこからアリアへの懇願や、アリアのための専門教師による授業の実施、そしてアリアの両親に説得するよう促し、クラウスの助言などが積み重なり……今は多少は減って護衛は1日の4分の3程度になった。……クソが。あと風呂はなぜか親公認で、今もついてきている。……いいのかと思ったが、魔物の襲撃以降両親の俺を見る目は完全に信頼と尊敬で満ちており、逆に「娘のどこが足りないのか教えてください!」と懇願される始末。

 

 

 

 ……まぁ、千歩譲って風呂は良い。万歩譲って一日の大半にアリアが側に居ることも良い。なぜなら、結局は館の中の問題であり、領民のトップとしての尊厳は保たれるからだ。

 

 

 

 だが……

 

 

 

「ルシアンさま! かいものにいこ!」「あそこのおみせいきたい!」「このけんかっこいい! ほしい!」「クラウスさんにおいしいところきいたの!」「ルシアンさま!」「ルシアンさま!」「ルシアンさま! …………

 

 

 

 と……アリアは、俺との外出を当然の権利のように主張した。こちとらそんな権利を担保した身に覚えがないし、代わりにクラウスをけしかけようにも毎回都合悪く(よく)外しており、都合悪く(よく)俺のスケジュールは空いていた。

 

 

 

 考えるまでもなくクラウスと謀っているので、クラウスに問いただしたところ

 

 

 

「領主様の専属護衛に私めが口出しできるはずございません。領主様ご自身から断られてはいかがでしょう?」

 

 

 

 と逆に「甘やかしすぎるな」と釘を刺される始末。だが、アリアのわがままは全て「俺以外の他人にはほぼ迷惑がかからず、俺が頑張るなり我慢すれば叶えられる範囲」を超えないギリギリであり、将来的に利用する側の俺としてはアリアの望みを最大限叶えるしかないため、アリアとの外出地獄に付き合わされ……無事、領民からもロリコン認定をくらいましたとさ、ざけんなや。

 

 

 

 まぁ悪名高い領主様がたかが幼女に振り回されてたらそりゃロリコン扱いにもなるだろうな……ドブカスが。

 

 

 

 このままでは悪魔を倒しても一生ロリコン扱いを受けて憤死してしまう……と、

 

「領主様、ご報告です」

 

 そう悩んでいた俺に、一筋の希望の光が差し込んだ。

 

 

 

「……獣人の母親が見つかった?」

 

「おそらく間違いないかと」

 

「じゅうじん?」

 

「ええ、獣憑きとも……」

 

「クラウス」

 

「……失言いたしました」

 

「良い。今後気をつけろ」

 

 

 

 原作における勇者パーティーの1人、獣人ミオ。銀色の髪にモフモフの耳と尻尾が特徴で、無口だが野生の勘が鋭く、幾度となくパーティーの危機を救った少女だ。特に内心に秘める他のパーティーへの愛情は大きく、告白されたら「……ミオも、すき」と返すあの一枚絵はたいへん素晴らしかった*1

 

 

 

 そして彼女も例に漏れず薄暗い過去をもっており、生まれたときから残酷な運命を負っていた。

 

 それは、獣人だったこと。それだけであった。

 

 

 

 この世界において、獣人とはかつて栄光を極め、国を築いた古の民族だった。しかし、獣人は人間との交流を経て数を減らした。理由は単純で、人間と獣人の間には人間しか生まれなかったためである。そのため獣人は次第に数を減らし、やがて0になった。しかし、現在の人間の多くには獣人の血が流れており、大変珍しいが獣人の見た目で生まれる、いわゆる「先祖返り」を起こす者が稀にいた。

 

 

 

 その一人が、ミオだった。

 

 

 

 ……しかし、この歴史は原作においてもストーリーの終盤でようやく判明することで、それまでは獣人は「獣憑き」と呼ばれ、呪いや病気の類として扱われていた。そのことを知っている以上、惨い仕打ちを受ける獣人の存在がいることは悲しいが、残念なことに俺にできることは少ない。この話も具体的な根拠は領内には無いし、あれは勇者パーティーが広めたからこそ誤解が解けたんだ。

 

 

 

 もちろん、できるだけ……せめて身内には獣人の誤解を解いておきたいとは思っている。そのためこの館では「獣憑き」を禁句にしている。まあクラウスでさえ慣れから抜け出せていないほど「獣憑き」は普遍的な言葉として染みついているのだが。これは俺が繰り返し周知していこう。

 

 

 

「ルシアンさま……かっこいい!」

 

「俺としては情けない限りだが」

 

「で、でもでも! ゆうきをだして、えっと、その……」

 

「……ま、俺にはクラウスが居たからな」

 

「光栄でございます」

 

「それよりもミオの話だ。続きを報告しろ」

 

「……かしこまりました」

 

 

 

 そういうと、クラウスはなぜか少し固まってから……直後に何事もなかったかのように報告を再開した。

 

 

 

「獣人は現在母親に監禁され、売るための最低限の食事のみが与えられています。父親は、妻の浮気だと断定し家を出て行った。という情報を掴んでおります」

 

「……ひ、ひどい」

 

「世間一般の認識とそんなに差異はない。ミオは生かされてるだけ運が良いかもな……だが、どう見つけ出した? 奴隷市に出回る前だろう?」

 

「ええ。ですが、アリア殿の件から察するに、現時点では売られる前ではないかと推測いたしました」

 

「……」

 

 

 

 アリアは自身の知らない話をされ、「それってなんのはなし」と聞きたそうに体を揺すりながらも、空気を読んで必死に我慢していた。

 

 こういう所があるから邪険に扱えないんだよな……本当に5歳か疑わしい。

 

 

 

「なるほどな……だが、部屋に監禁するほど隠していた存在を探し当てるとはな」

 

「……」

 

「……おいクラウス」

 

「決して領主様のご意向に逆らう愚行はしておりません」

 

「素直に吐け」

 

「……奴隷市に『領主が獣人を探している』という噂を」

 

 

 

 ……さすがにケモナーロリコン扱いは心折れるかもしれん。

 

 ……だが、その噂が出回って馬鹿でアホな母親が釣れたのも確かだ。

 

 

 

「……成果に免じて不問とする」

 

「ご厚情痛み入ります。獣人の情報は全て判明致しました。母親は働いておらず、じきに借金が溜まり奴隷市に働きかけに……」

 

「そんな七面倒な方法は要らん」

 

 

 

 そんなことを待っていたら俺はアリアによって殺される*2だろうが。

 

 

 

「ですが、母親は最低限とはいえ娘を育てており、違法性の証明は難しいかと……父親を探りますか?」

 

「至極単純に考えれば良い」

 

 

 

 今のアリアに足りないのは何か……そう、友達および仲間である。

 

 

 

 この惨事はアリアのベクトルが俺にしか向いていないため起きていることだ。だからこそ、仲間として申し分なさすぎるミオを今すぐにでも迎え入れ、アリアの興味を移せばよい。さらに護衛として雇えばアリアが護衛に就く時間も減らすことさえ見込める。

 

 

 

 なんとしてでも今すぐにミオが欲しい。だからこそ、今必要なのは……

 

 

 

「相手は売ろうとしているモノを、金で買えば良い」

 

 

 

 金に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「監視等も付けずによいのですか」

 

 

 

 ミオを連れて館に帰ってきて、クラウスが再び声をかけてきた。

 

 

 

「ああ、あの女か。一切不要だ。人材の無駄にしかならん」

 

 

 

 あの女の行きつく未来は俺が一番よく知っている。ミオのことなど一瞬で忘れて遊び惚け、最終的には借金が回らなくなり奴自身が奴隷に転落する。

 

 なお、極まれにストーリー後半のショップで奴隷として売られていることがあり、なんと購入することもできる。買ったところでミオはすぐ母親に見切りをつけ、要らなくなったからと格安で売られ、その後は底辺のチンピラに買われたことだけ判明して終わる。この世界でも似たり寄ったりの顛末を辿るだろう。

 

 

 

「ですが、このような方法は危険だと」

 

「何も知らん。あいつはただの奴隷商だ。違うか?」

 

「……いえ」

 

 

 

 クラウスが渋るのも無理はない。今回は少しばかり危ない橋を渡った。

 

 そもそも、実の子はもちろん奴隷商以外から奴隷を買うこともこの領地では違法である。

 

 

 

 ではミオはなぜ直接あの女から直接買えたのか、それは契約上、あの女は奴隷商であり、ミオは正式な借金奴隷として扱われていたためだ。なおこれらは俺らの思い込みではなく、契約書にもばっちりと書いてある。

 

 これで問題になろうとあの女が詐欺で捕まって終わるだろう。……そこまでしなくてもどうせ勝手に破滅するので放置で良いが。

 

 

 

「以前の俺なら勝手に奪って終いだったろうな。面倒になった」

 

「……ご冗談を」

 

 

 

 なお、アリアは道徳的にも教育的も奴隷売買に連れて行くわけにはいかないので留守番を命じた。いくら物分かりが良かろうと置いて行かれるのは癪なようで、だいぶ拗れた上に後の埋め合わせになにが要求されるか今から怖い。

 

 

 

 そして、ずっと横で俺たちの話を聞いていただろうミオは、5歳児にふさわしくない*3光のない瞳でぼんやりとまえを見つめていた。

 

 

 

 いや、ただ館までの疲労で疲れているだけかもしれない。できるだけ人目につかない近場を選んだつもりだったが、ずっと監禁されていた上に食事は最低限だったんだ。アリアの相手とか護衛の話より前にとりあえずは心身の健康を取り戻すのが先だな。

 

 

 

「クラウス、風呂と食事の用意を……あとは女の使用人を俺の名で呼んでこい」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 恭しく礼をしてからこの場を去っていくクラウス。さてミオと2人になったわけだが。

 

 

 

「……おい」

 

「……」

 

 

 

 聞えているのかいないのか……ここまでのミオも、返事は一切無く、具体的な命令が無いと動くことさえしなかった。

 

 

 

 だが、こいつは俺にとって必要不可欠な存在なんだ。この程度で挫けるつもりもない。

 

 ……それに、幼女の扱いならここんところ散々相手して上達しているだろう。それを生かせば良いだけの話だ。

 

 

 

 まずは……

 

 

 

『アリアってよんで』

 

 

 

 同じ轍は踏まないように気を付けないとな。

 

 

 

「ミオ」

 

「……」

 

「おい、ミオ」

 

「……」

 

「ミオ! 聞こえてんなら返事をしろ」

 

「……?」

 

 

 

 正面に立って大声を出して、ようやく俺が呼んでいることに気が付いたように顔を上げ、ミオと俺は初めて目が合った。

 

 

 

「み……お……」

 

「そうだ。お前以外に誰が居るんだ」

 

「みお……ミオ……」

 

「なんだ、自分の名前もわ、す…………」

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に、この間のクラウスとのやり取りを思い出した。

 

『それよりもミオの話だ。続きを報告しろ』

 

『……かしこまりました』

 

 そういうと、クラウスはなぜか少し固まってから……

 

『獣人は……』

 

 

 

 ……そうだ。クラウスは、一度もミオのことを名で呼ばなかった。てっきり少し前の獣憑きと失言したのを取り戻すためだと思っていた、が。にしては頑なに「獣人」と呼んでいた…。

 

 

 

 

 

 前世で読んだことすら忘れていた……原作ゲームのファンブックの片隅に書かれていた一文が、脳内にふと蘇った。

 

 

 

『ミオって名前は、実は違法奴隷商から逃げ出した日に自分で考えた名前なんだって! かわいいよね!』

 

 

 

 

 

「ミオ! ミオ! ミオ!」

 

「ふぐっ」

 

 

 

 ……俺は、名前のない幼女の名づけ親になってしまったらしい。

 

 

 

 そう理解したときには自分の名を連呼する目の前の幼女……ミオに勢いよく抱きつかれ、俺はしりもちをついた。

 

 なんとなくデジャヴを感じるものの、あの日とはちがいミオは力いっぱい全力で抱き着いており、獣人ゆえなのか、やせ細った体からは想像できないほど力が強い。そのくせ無理に引きはがせば怪我をしそうなほど細い手足を見ると強引な方法も取りづらい……

 

 

 

 

 

 

 

 途方に暮れていると、そこに救世主が現れた。

 

 

 

 

 

「領主様、こちら準備が整い……おや?」

 

「ルシアンさま……て、てきしゅう!?」

 

「クラウス! アリア! よく来た早くミオを丁重に引きは……」

 

「………………パパ♡」

 

 

 

 

 

 ……前世今世ともに童貞*4を突き進む俺。5歳児のパパになりました。

 

 

 

 

 

 は?

*1
早口詠唱

*2
精神的に

*3
アリアとは別ベクトルで

*4
転生前のルシアンの経験は除く




尊厳破壊少女の心を一話で救うってマ?

次回はアリアの閑話集(予定)

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