「……すぅ、 ……ふう」
左手で
「フンッ!」
息を止め、目前にある大木を蹴りつける。
「はあああああああああ!」
息を吐きながら鞘から
「すぅ……ッ!」
再び大きく息を吸い込み、右脚を後ろに下げると同時に、刀を胸の横の位置にまで引き左手を前へ伸ばす。
「ハァッ!」
右脚を大きく前方に踏み込みながら、左腕を引きながら右腕を前方に突きだした。
地面に足が沈む程の踏み込みによって
そして流れるように刀を引き抜くと同時にその場で体を回転させ、勢いのままに太い幹へ刃を走らせた。
青年は僅かに刃を確認してから鞘に納めると、大木を
大木は軋むような音を立てながら、青年の元々立って居た場所に倒れていく。
「悪くない……」
大きく息を吐き緊張の糸を
「少々熱中しすぎたな……、急げば夕食に間に合うか」
木に立て掛けてあった弓と
――――
「おーい、アルマー!」
長い期間の往復で踏みならした道を歩いていると、聞き
「……ん?なんか聞き覚えのある引き摺り音?」
「私に何か用事かリッド」
聞こえるようにやや大きな声で返事をしながら近づくと、同じ年の青年リッドがビクりと震え、勢いよく振り向いた
「うわっ!そこにいたのか!……ってなんだその木!?」
「森で切って来た、
「相変わらずの馬鹿力だなまったく……、てか最近修練場で見ないけどいつもどこに行ってるんだ?」
やれやれといった表情のリッドが横に並び歩き出す。
「今は森の奥に場所を移し個人で修練を積んでいる」
「森の奥?どうしてまた」
「あそこならば全力を出そうとも誰にも迷惑は掛からないからな」
数年前までは村の修練場などを使用していたが、歳を重ねて力を増していく程に行く事も少なくなり、今では森の中が修行の場となっている。
「まあ凄いもんなぁ、お前のアレは」
「普通で無いとは自覚している」
一度全力を出した時には、周囲の人間には引かれていたとリッドが教えてくれた。
とはいえどそれを辞めるつもりも無い為、こうして人が来ることのない
「それにしたって林の所にも修練場はあるんだからそっちを使えばいいだろうに」
「あそこは兄上がよく使用しているからな」
村には幾つも修練場があるとはいえ。基本的にそこを使うことは無い。
「兄上って言うと……、あっちの方か」
兄は二人いるがどちらともあまり親しくはない、とくに
「私が居ると気を悪くする、なるべくならば不和を起こしたくはない」
「そりゃそうだけどさ」
私自身あまり気にしてはいないが、周囲の人間に
「いずれ向き合う事もあるだろう」
「お前がそれでいいんなら俺からなんも言えないけどさ……」
父上の事を思えばここままで良い訳では無いのだろうが、こればかりは私だけではどうしようもない事だ、たとえ私に原因があるとはいえど。
「それよりも私の名を呼んでいたが、何か用件があったのか?」
「あーそうだった」
リッドは立ち止まると身体からこちらへと向き直る。
「
「父上が?」
何があったか分からないが、すぐに向かった方が良いだろう。
「伝言ありがとう」
「おう、じゃあな」
木に巻いていた綱を解いて回収し足に力を込めて一気に走り出す、この距離であればそう時間は掛からない。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「失礼します」
部屋の戸を開け中に入ると視線が集まる、どうやら他の
「
次兄であるジリアンに
だがその実力は確かであり、長身と
「何分距離が遠かった物で」
いつかは本気での手合わせをしてみたいものだ。
「まあいいじゃないか、アルマも座りなさい」
「はい父上」
父上の言葉に従い空いている
「さて、これで全員揃った訳から早速用件を伝えるよ」
『ミリザレフ=リューガンジ』、リューガンジ家現当主にしてヤナギ流剣術
刀、槍、弓、全ての武器を使いこなす持つ私の憧れの一人だ。
今よりもずっと幼かった頃に何度も勝負を挑んでみたものの、結局一度も勝つことは出来なかった記憶がある。
あの時から成長した今はどれほど通用するのかを確かめてみたいのだが、どうやら近頃は忙しい様でその機会が中々訪れてはこない。
その隣では次期当主であり長兄であるガイウスが座っている、腰ほどまである青みがかった黒髪を揺らし流麗に戦う姿が非常に美しいと村内で評判らしく、彼が主に使っている修練場は他よりも女性の数が多いようだ。
魔術と剣術を合わせた彼の戦闘法は相当な練度であると私も知っているのだが、私が何度も試合を申し込もうとも全く引き受けてはくれない。
理由を聞いた時には『殺し合いになってしまう』とだけ、双方ともそこまでの戦闘狂では無いと思っているのだが、言葉を発したガイウスの瞳には嘘が見えなかった。
それ以来、一度も試合を挑めずにいる。
「近々この道場でイルマ騎士団との合同訓練が行われることになってね、君達には騎士の方達との模擬戦をお願いしたいんだ」
『イルマ騎士団』、この国の首都であるイルマの名を冠した騎士団だ。
日夜厳しい修行を行っているであろう彼らとの合同訓練ならば、強者へと至る道のさらなる糧を得られるだろう。
「といってもここもそんなに広くないからね、今回来てもらうのは希望者の中から選抜された人たちだから君達の修行にもなるはずだよ」
それを聞いてより一層楽しみになった、強者との戦いは己を強くすることにおいて大事な要素の一つだ。
「戦ってくれる人が来るの?やったやったー!」
隣で小さな体躯ながらに、自分の背丈よりも長い刀を持った少女が喜び飛び跳ねている。
彼女の名は『サリア』だと父上から聞いている、村の修練場を使っていた頃に数度見かけた事がある。
「ふふっ、きっと君の期待に沿える人が来てくれるよ」
「話は終わりか?それだけならわざわざ呼ぶ必要ねえだろ」
ジリアンが気怠そうに立ち上がると、部屋から出ようと戸に手を掛ける。
「ジリアン、話はまだ終わっていない」
ガイウスが鋭い視線を向けジリアンを
「ああ?」
だがジリアンはその圧力にまったく動じることもなく、
正に
「勿論それだけじゃないよ、今回は騎士団長も視察に訪れるそうだから」
『騎士団長』の単語が出た途端にジリアンは目を見開き視線を父上に向け、先程まで発していた圧を綺麗に消しさった。
それを見たガイウスも同様に圧を収め再び
「これは君にとっても価値があるものだと思っているよ、ジリアン」
ジリアンもそう判断したのか再びドカリと座りなおす。
何でもジリアンにとって騎士団長という人間は憧れの存在らしく、いずれ彼の右腕として副団長になることが目標らしいとはリッドの談だ。
あまりそういうことは
「それともうひとつ、近隣の村近くで賊を見たって報告があった」
「賊が?」
ジリアンが聞き返す。
「少人数みたいだけど、偵察という可能性は高いからね、応援に来て欲しいとの話だよ」
「既に本隊が山のどこかに
別の質問の声が上がる。
「恐らくはね」
壁に貼られた地図を見ながら賊の
情報を得る為に少数の
多くの人員を隠せる場所かつ、人里からそれほど遠くない場所であり、いざという時にすぐ逃げられる場所を探すだろう。
相手の全容が掴めぬのならば、最大の脅威であると想定し、最悪を回避する対策を取るべしと書には記されていた。
であれば今の想定すらも超える程の相手であると警戒をしておこう。
「つまりはその賊達をぶっ潰してくりゃいいんだな?」
ジリアンが自身の拳同士を打ち付けながら気合を高めている。
騎士団長がこの地へ来ると分かった今、何かを手土産にと考えているのだろう。
だがこちらから攻め入るという案には賛成だ、相手が油断をしている夜間などに攻め込めば相手の混乱を巻き起こし、さらには周辺への被害を最小限に抑えることが出来るだろう。
「いいや、君達には私とガイウスの二人が留守にしている間の護りを任せたいんだ」
「親父と兄貴だけ……?」
「えー!そんなのつまんないよ!」
隣でサリアが私も行きたいと駄々を捏ね始める、彼女の力の全容は分からないが流石に子供を戦わせるわけにはいかないだろう。
「サリア、護ることも立派な戦いなんだ」
「せっかく実戦ができると思ったのに……」
父上が
「それとアルマ」
「はい」
「近頃森の奥に行ってるようだけど、この件が解決するまでそれは控えてほしい」
「……」
「とは言っても賊をどうにかするまでの間だからね、その後は自由にしてくれて構わないよ。」
「分かりました」
不要な心配はさせまいと余り人には言っていなかったが、どうやら気付かれていたらしい。
それでも魔物のいる森へ行く事を止められていなかったという事は、ある程度の力を認めてもらっていたという事だろうか。
それでも盗賊の
「あなたは森に入ってるの?私はダメだって言われてるのに」
寝転がっていたサリアが起き上がり顔を向けてくる、その視線には覚えがあった。
最近はすっかり感じなくなっていたものだ。
「師範様ー、私は何で入っちゃダメなの?」
サリアは興味も無さそうにこちらから視線を外すと、父上に疑問をぶつける。
「山は危険だし、迷いやすいからね」
「私は魔術つかえるのに……」
小さく
「サリア、あまりそういうことを言う物ではないよ」
「……」
サリアは
「さて、今回の用件は以上、
その言葉と同時にジリアンがは立ち上がると、すぐに部屋から出て行った。
それに続くように、他の面々も足早に部屋を後にする。
ガイウスはそのまま残るようで、目を閉じたまま
私もここで戻らせてもらおう。
「失礼します」
建物から外に出ると、完全に日が沈んでいた。
「……」
この世界では魔術を使えることが当たり前であり、産まれ持って魔術の
まだ幼いサリアがあのような発言をすることも仕方ないことだが、それでも
それこそ幼い頃は魔術を使えないことを
道場に置かれている
村には道を照らす灯りもあまり無い為、夜道は非常に暗くなる。
私自身は昔から夜目が効き、暗闇の中であろうとも不自由なく動けるのだが。
人と出会った際に相手が驚きのあまり気絶してしまう事あった為、今では自分の居場所を知らせる意味で灯りを持ち歩くようにしている。
「……?」
しばらく道を歩いていると見慣れた白黒の姿を見つけた、
「……ぐすっ」
「アニス、大丈夫か」
「……アルマ様?」
「どうしたこんなところで、足でも
「あっ……」
綺麗な
「ありがとうございます……、実は
アニスは転がっていた火の無い灯りを持ち上げる、それを受け取り動作を確かめてみると確かに光を発さないようだ。
『魔光機』とは魔力を
ただし通常の角灯や
「大変だったな、立てるか?」
「へ?あ、その……」
一先ず立たせようと手を伸ばすが、こちらの手と顔を交互に見て困惑するばかりで動かない。
「買い物を頼まれたのだろう、早い所帰らなければアルスに叱られてしまうぞ」
「あ、は、はいっ!」
ようやく掴んでくれた手を引き立ち上がらせ、食材の詰められた籠を拾う。
「ありがとうございます……」
「気にするな、では行こうか」
「はい!」
返事を聞き、なるべくゆっくり歩きだす。
闇を恐れているであろう彼女の方に灯りを傾けながら周囲へ気を配る、幾ら人里の中とはいえ山に賊が入ったと言われた手前だ、慎重にしておくに越したことは無いだろう。
――――
「さて、どうしたものか……」
アニスを
近場の修練場に行こうにも、全力を出せないため多少物足りなくなってしまうだろうか。
「……ふむ、弓だけなら迷惑も掛からないか」
立て掛けた弓と矢筒を背負い、一応は刀も腰帯に刺しておく。
近場の射撃場にやってくるともあってか
呼吸音すら
矢筒に入っている実戦用の物を取り出しておき、壁際に置かれている壺から訓練用の矢を
立ち位置に着き、背中から弓を外し前方に構え、矢を一本引き抜き
「ふぅ……」
一度息を吐き心を
放たれた矢は空気の壁を引き裂きながら突き進み、設置されている的を真っ二つにすると、その背後の丸太をも貫通し、その勢いのまま反対側の壁に深くまで突き刺さった。
「やってしまった」
訓練用の矢であれば全力で撃っても大丈夫だろうと
「相変わらず、見事な
「リズ、見られてしまったか」
声の方を向くと
長い髪を後ろで1つに
「壁を穴だらけにする前にこっちを使ってもらえるかしら?その弓は
そう言って片方の弓を差し出してくる。
「すまない、
「私に謝られても困るわ」
弓を受け取り、持っていた方を壁に掛ける。
「貴方には
リズから受け取った弓は自分の物と比べても小さく、試しに弦を引くとやはりかなりの軽さを感じる。
だがリズの言葉にも同意できる、戦闘時に弓の弦が切れるなどの緊急事態が起きた際には敵の物を奪ってでも対応しなければならない、その予行演習として経験を
「ありがとう」
「どういたしまして、それじゃ」
「ああ」
歩いていく彼女を見送ってから、弓矢を構えるがやはり軽い。
「ッ!」
試しの一射目を撃つが、矢は標的に直撃する事なく大きく飛び越し地面に突き刺さった。
「少し引き過ぎた」
今の弓を使うまではこの弓を使っていたのだが、歳を重ねて力が強くなってからは触れる機会も無くなっていた、その為か少々力の加減が難しい。
リズの方を見ると、丁度弓を構えている。
矢筒から一度に三本の矢を引き抜き弓に
「ふっ!」
そして弦を解放する、さらに二射、三射と続けて放つ。
連続で放たれた矢は、離れた場所に設置された三つの的の中心を見事に貫いた。
その
何か盗める技は無いかと、彼女の一連の動きを観察しているとふいに目があった。
「どう?あなたのお眼鏡にかなう出来だったかしら」
「ああ、美しかった」
素直に
弓の
それでもたまに意見を貰えるのは彼女の優しさだろう。
「……はあ、まったく」
ため息を吐かれてしまった。
彼女はたまにこういう事がある、称賛の声は素直に受け取れば良いだろうと伝えたが。
『そういうことじゃないわよ』と怒られてしまった。
――――
手持ちの矢を撃ち尽くした為、再び
「少々一人で使い過ぎたか」
昔から修行になると熱中しすぎてしまう所があるというのは自覚していたが、こうして迷惑をかける可能性があるのならば少し
倉庫に向かい矢を
訓練用の弓を戻し、持ってきていた自分の弓を背負う。
「あら、貴方も引き上げる所かしら」
汗を拭いながらリズが近づいてくる。
「ああ」
「星が
「そうだな」
同意して名も知らぬ星々達を
「向こうでは夜もずっと明るい聞くが」
彼女は王都
「そうね、暗い夜道を歩かずに済むのは安心できるけれど、少し
技術の発展した都市では、魔術により生み出された光によって夜空の星が
闇から逃れられるようになった反面、こういった美しい景色が見えなくなってしまう事が惜しいと感じてしまうのは果たして贅沢なのだろうか。
「じゃあ私はこっちだから」
「良ければ送っていこう」
「ありがたい提案ではあるけれど、今回は
「そうか、ではまたな」
「ええ、またね」
リズリーの背中が見えなくなるまで見送った後、
「あのどれかには、同じようにこちらを見つめている者がいるのだろうか」
空を眺めながら空想的な、そんな事を考える。
「……っ!?なんだ、今の悪寒は」
底冷えするような黒い気配を一瞬だが感じた、それも、それほど遠くない場所からだ。
「向こうの方か……」
父上に入るなと言われた山の方角だった。
こんな気配感じたことが無い、未知の魔物か、それとも別の何かなのか。
「行くべきか、応援を呼ぶべきか……」
リズはすでに居らず、周囲にも人の気配は感じない。
見逃すという選択肢はない、力の無い誰かに被害を及ばす可能性があるというのに放ってはおけない。
こうしている間にもゆっくりとだが気配は村へと近づいて来ているのだ、こうして迷っている時間はない。
「……」
主人公
アルマ=リュウガンジ
18歳 男
リッド
身長176㎝
18歳 男
アルマの幼馴染であり、数少ない村の中で気楽に話せる友人