武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

10 / 57
連盟試験

「魔術も使えねえのに実戦だあ?」

 

 支店長と呼ばれた大男が至近(しきん)距離まで顔を近づけてくる、髭(ひげ)が当たってこそばゆいため出来ればやめて欲しいものだ。

 

「魔物の討伐(とうばつ)、盗賊の征伐(せいばつ)、どちらでも構わない」

 

「ほう?言うじゃあねえか、男に二言はねえな?」

 

「ああ」

 

「危険すぎます!彼を殺す気なんですか!」

 

 受付嬢が会話に割り込んでくる、確かに傍目(はため)から見れば無謀(むぼう)に思えるだろう。

 

「そん時はそん時だ、こいつもそれ分かって言ってんだろ、ほらついてこい」

 

 支店長は受付嬢を押しのけ入り口とも裏口とも違う扉を開く、そこには地下へ続く階段があり、降(お)りて行ってしまった。

 

 ついて行こうとすると受付嬢が立ち塞(ふさ)がる。

 

「死んじゃいますよ!こんなことで命を賭(か)ける意味なんて無いですよ!」

 

 見知らぬ相手だというのに、随分と心配をしてくれいるらしい。

 

「無論(むろん)、私もここで死ぬつもりはない」

 

 横を通り抜け階段へ向かう。

 

「あのな、男ってのは引けない時、引いちゃいけない時ってのがあるのよ」

 

「そうそう、あっ俺火酒(ひざけ)追加で!」

 

「俺もー!」

 

 後ろから聞こえる冒険達の声は気にせず階段を下りていくと、かなりの広さがある空間に辿(たど)りついた。

 

 周囲を囲うように観客席も設置されているが、所謂(いわゆる)地下闘技場と言った所だろうか。

 

「お前にはこれからウチで捕まえている魔物と戦ってもらう」

 

「なにか戦う上での決まりはあるか?」

 

 場内へ飛び降りながら支店長に問う。

 

「いいや、生き残れば認めてやるよ」

 

「分かりやすくていい」

 

「はっはっは、まずは一戦目だ」

 

 鉄格子(てつごうし)の扉がゆっくりと持ち上げられていく。

 

「こいつらは成人した男なら素手でもぶち殺せるが、群(む)れてる時はちと手間(てま)取るぜ」

 

 奥から飛び出してきたのは、緑の体表に人の半分程度の体躯(たいく)の二足歩行型魔物。

 

「ゴブリンだ、魔術が使えるなら取るに足らねえ雑魚(ざこ)共だ、それが出来ねえてめえはどう戦う?」

 

 ゴブリンは通常石や木を用いて作った物を武器として使うが、五体のゴブリンはそれぞれに金属製(きんぞくせい)の剣や斧を持っていた。

 

『ゲギャギャ……!』

 

 目を血走らせ涎(よだれ)を滴らせる様は普段の臆病(おくびょう)なゴブリンとは似ても似つかない、恐らくは何日も絶食状態(ぜっしょくじょうたい)にしているのだろう。

 

 背中から弓を外し、矢を三本引き抜いて一本を番(つが)え引き絞(しぼ)り放つ。

 

「……フッ!」

 

『『ゲギャっ!』』

 

 空気を切り裂きながら突き進む矢は瞬(またた)く間にゴブリンへと迫(せま)り、二匹を纏(まと)めて壁(かべ)に縫(ぬ)い付ける。

 

 慌(あわ)てふためくゴブリンたちは散(ち)らばろうとするが、こちらから位置(いち)を合わせてしまえば何も問題はない。

 

 地を蹴(け)って走りながら、丁度二匹が重なる瞬間(しゅんかん)に矢を放ち命を奪(うば)う。

 

「魔術が使えねえってのにすげえ矢の威力だな」

 

「石の壁に刺さる矢ってなんだ?」

 

『ゲギギギッ!』

 

 背後から迫ったゴブリンの一撃を身体を左回転させることで躱(かわ)し、その勢いのまま手に持った矢をゴブリンの側頭部(そくとうぶ)に突き刺す。

 

 力無く腕を垂らしたゴブリンから矢を引き抜き亡骸(なきがら)を地面に置く。

 

「中々やるじゃねえか」

 

「ヒュー!」

 

「ゴブリン相手とはいえ大したもんだ!」

 

 支店長のお褒(ほ)めの言葉に続き、冒険者たちが酒を片手に歓声(かんせい)をあげる。

 

「二戦目だ、門を開けろ!」

 

 支部長の号令(ごうれい)で再び門が開かれ、新たな魔物が現れた。

 

 現れたのは口から前方に伸びる巨大な牙と、大きな鼻が特徴の四足獣(よんそくじゅう)。

 

「『ギガノボア』、その激突野郎(げきとつやろう)はゴブリン共とは違って、弓だけじゃあ簡単には止まらねえぞ」

 

 ボアは前足で地面を数回蹴ると、突然走り出した。

 

(四足の魔物は頭蓋(ずがい)が分厚(ぶあつ)く矢が通り辛いと聞いている、ならば狙(ねら)うべきは)

 

 矢を番(つが)え狙いを定める、そして放つ。

 

「その目を貰(もら)うぞ」

 

 放たれた矢は、吸い込まれるようにボアの右目に突き刺さる。

 

『ピギイイイイッ!』

 

 ボアは悲鳴(ひめい)を上げるが足を止めることは無く走り続ける、だがその勢(いきお)いは確実に落ちている。

 

「なんて精密な射撃なんだ」

 

「魔術が使えなくてもあの腕ならウチに欲しいな……」

 

 冒険者達の評価(ひょうか)は上々(じょうじょう)と言った所だろうが、腕を組んでこちらを見下ろす支店長の評価を上げるならばもう少し派手(はで)に動いてもいいかもしれない。

 

 弓を背中に戻し重心(じゅうしん)を低くし、両手を前に構(かま)える。

 

「何やってんだあいつ、このままじゃ弾かれるぞ――!」

 

『フゴオオオオオオ!!』

 

 血を撒(ま)き散(ち)らし荒い鼻息(はないき)を繰(く)り返しながら迫(せま)る二本の牙(きば)を掴(つか)む。

 

『ブギっ!?』

 

 明らかな困惑(こんわく)の表情がボアの顔に浮かび上がる。

 

 そうもなるだろう、自分よりもはるかに小さい生き物が自慢(じまん)の突進を受け止めたのだから。

 

「はああっ!」

 

 ボアを持ち上げ、硬(かた)い地面に頭から叩き付け首の骨(ほね)を圧(へ)し折る。

 

「見たか今の、本当に魔術使えないんだよな……?」

 

「お前身体強化ありでボアの突進止められるか?」

 

「いや無理無理……」

 

 実力を見せつける程に引かれているが、この状況(じょうきょう)に置いてそれは最も良い評価と言えるだろう。

 

「次!三戦目はコイツだ」

 

 地響(じひび)きがする、つまりは相当な大きさの魔物だという事だ。

 

「な!あれは……」

 

 観客席(かんきゃくせき)が一気に騒(さわ)がしくなる。

 

「連盟はこんなの飼ってんのかよ!」

 

 木の幹(みき)のような太い手足に人の数倍はある背丈(せたけ)、そして特徴的(とくちょうてき)な大きな一つ目。

 

「次の相手は『サイクロプス』だ」

 

「いくら何でも無茶苦茶すぎます!それにあのサイクロプスは王都直々の依頼の魔物ですよ!」

 

 個人だけでは無く都市単位で依頼を受け付けているとは、思ったよりも連盟という組織は巨大なようだ。

 

「あいつの実力を測るためだ、それに後でまた捕獲依頼を出すから問題ねえよ」

 

 彼は私ならこの魔物を倒せると期待をしてくれているのだろう、ならばそれに答えない訳にはいかないだろう。

 

「いくらなんでもサイクロプスを一人でなんてのは」

 

「魔術が使える俺でも出会いたくねえのに……」

 

『グルルゥ!!』

 

 柄(つか)に手を掛(か)け、唸(うな)るサイクロプスと睨(にら)み合う、相手は巨大だがそれは引く理由にはならない。

 

「勝負ッ!」

 

『グララァッ!』

 

 ほぼ同時に駆(か)け出した。

 

(やはり動きは鈍(にぶ)い)

 

 動きは緩慢(かんまん)だが、巨体なだけはあって歩幅(ほはば)は大きく距離が詰(つ)まるのが早い。

 

『グラアア!』

 

 一発二発と振るわれる大振りの一撃を躱(かわ)し、サイクロプスの動きを観察(かんさつ)する。

 

 動き自体は警戒(けいかい)する程ではないが、重量の伴(ともな)った一撃はやはり侮(あなど)れない。

 

 罅(ひび)割れた地面を横目に懐(ふところ)へ飛び込み腹を斬り付け、さらに股下を通り抜け右脚の内腿(うちもも)を切り裂(さ)く。

 

(深くはない)

 

 筋肉の鎧(よろい)と言うべきか、サイプロプスの肉体はかなりの強度を持っている。

 

 恐らくだがその体重を支える骨がさらに強固(きょうこ)であることは間違いなく、簡単に切断とはいかないだろう。

 

(だが手はある)

 

 サイクロプスの振り向きざまの裏拳を後方に跳(と)ぶ事で避(よ)け、着地と同時に一気に距離を詰(つ)めサイクロプスの横を通り抜ける際(さい)に脇腹(わきばら)を斬(き)り裂(さ)く。

 

(まずは動きを鈍(にぶ)らせる)

 

「すげえ、あのサイクロプスを翻弄(ほんろう)してやがる!」

 

「一撃でも喰(く)らったら終わりだってのに、あの距離感で戦うの怖くねえのかよ……」

 

 サイクロプスの振り下ろしを身体を横にずらすことで躱(かわ)し、めり込んだ腕の肘(ひじ)の内側を突き刺しすぐに引き抜く。

 

 逆の腕による薙(な)ぎ払いを背面に跳躍(ちょうやく)することで躱(かわ)し、回転を加えながら二の腕を斬り付ける。

 

『グラアアアアアアアアッ!』

 

 サイクロプスが雄叫(おたけ)びを上げた所で大きく後ろに跳んで距離を取ると、手足を振り回し大暴れを始めた。

 

 流石にこの状態で近づくことは難(むず)しいが慌(あわ)てる必要はない。

 

「あまり動くと傷口(きずぐち)に響(ひび)くぞ」

 

 声を上げ地を踏(ふ)みしめ空(くう)を殴(なぐ)る度に、サイクロプスの身体中から鮮血(せんけつ)が溢(あふ)出していく。

 

 息(いき)が荒(あら)くなりその瞳(ひとみ)からは光を失(うしな)い始める。

 

 刀を振(ふ)るって血を払い、刃を|鞘(さや)に納(おさ)め姿勢(しせい)を低くする。

 

「柳流剣術奥義『燕断(つばめだ)ち』」

 

『グルル……』

 

 サイクロプスはようやく落ち着きを取り戻したが、すでに息も絶(た)え絶(だ)えといった状態(じょうたい)だ。

 

「これで終わらせてやる」

 

 前傾姿勢(ぜんけいしせい)のまま走り出し一気に距離(きょり)を詰(つ)める。

 

『グオオっ!』

 

 最後の力を振り絞ったサイクロプスの一撃を跳んで避け、その長い腕(うで)を足場(あしば)にして駆(か)け上がる。

 

 そしてめり込む程にサイクロプスの肩を強く踏(ふ)み込み。

 

『グォッ!』

 

「『一閃(いっせん)』」

 

 高速で解(と)き放(はな)たれた刃(やいば)は首へと吸(す)い込まれていき、容易(たやす)く筋肉を通過し強固(きょうこ)な骨すらも両断し頭部を刎(は)ね飛ばした。

 

 崩れていく身体から飛び降り地面に着地する。

 

 ゆっくりと倒れ伏すを亡骸(なきがら)を不動(ふどう)のまま見送り、懐から取り出した紙で刃を拭き取りゆっくりと鞘(さや)に納(おさ)める。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐(は)き緊張(きんちょう)をほぐす。

 

「すげえ……」

 

 誰かの声が場内に響(ひび)いた、それを皮切(かわき)りに歓声(かんせい)と困惑(こんわく)の声が続々と掛けられる。

 

「あのサイクロプスを魔術使わずに一人でやっちまうなんて、お前何もんだよ!」

 

「正確な射撃能力(しゃげきのうりょく)に怪力(かいりき)、そして剣捌(けんさば)き、是非(ぜひ)ウチに来ないか?」

 

「本当に人間かよ……」

 

 一先ず冒険者たちの評価は上々のようだ、後は支店長に認められたかどうかだが。

 

 目を向けると客席から飛び降り、こちらに歩いて来た。

 

「とんでもねえ野郎だな、おめえは」

 

「それで、結果は」

 

「勿論(もちろん)合格だ、俺の名はガロス、おめえは?」

 

 ガロスが凶悪(きょうあく)な笑みを浮(う)かべ、こちらへ手を伸ばす。

 

「私の名前はアルマ、これからよろしく頼む」

 

 握手をし笑みを返す。

 

「よしおめえら!新人歓迎会(しんじんかんげいかい)と行くぜ!今日の酒は全部俺の奢(おご)りだ!」

 

「うおおおおお!」

 

 冒険者達が歓声をあげる、余程(よほど)飲むことが好きらしい。

 

「流石ガロスさんだ!見た目通りの太っ腹だァ!」

 

「今言ったの誰だこの野郎!」

 

 どうやら中々に面白い場所のようだ。




『ゴブリン』
全長1.1㎝
二足歩行の小型魔物。背丈は人間の子供程度だが、同じ背の子供と比べて力は強い
木や石を使って武器を作れるだけの知能があり、それを用いて木の実を砕き狩りを行っている。
気性は基本的に臆病ではあるが、群れの数が増えるか相手が弱っている場合において好戦的になる。

『ギガノボア』
全長3m 体高1.8m
下顎から二本の太い牙が生えた大型の四足魔物。
頑丈な骨格と分厚い頭蓋骨を武器とした突進を得意としている。
食性は雑食かつ悪食であり、地面に転がっている物であったならば木の実でも死体でも食べてしまう。

『サイクロプス』
全長5m
顔の中央に位置する大きな一つ目が特徴であり、人間の数倍の背丈がある二足歩行の超大型魔物。
巨体なだけあり力はかなり強いが、大型故その動きは緩慢である。
だが歩幅がとても大きい為、人間の走る速度では到底逃げる事は出来ない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。