武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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朱殷の霧鬼

 

 

 振り下ろされる鬼の一撃を躱(かわ)し刀で斬り付けるが、体表が先程よりも硬化しているのか傷一つ付けることが出来ない。

 さらに鬼の追撃(ついげき)を躱しながら何度も刃を走らせるも、いずれも薄皮(うすかわ)の一枚すら切り裂くこと出来ずにいる。

 

『人間の攻撃なんざ俺には効かねえぞ!』

 

 鬼は雄叫びを上げると、攻撃の勢いを更に強めていく。

 

(一度様子を見るべきか……)

 

 刀を鞘へ戻し回避に徹する。

 

 このまま斬り付けているだけでは埒(らち)が明かない、何か策を見出すべきだろう。

 

『どうしたどうしたァ!』

 

 鬼が紅い霧を手の平に集めると、それは棘の付いた金属の棒となる。

 

 振り下ろされる鬼の一撃を躱(かわ)し刀で斬り付けるが、体表(たいひょう)が先程よりも硬化(こうか)しているのか傷一つ付けることが出来ない。

 

 さらに鬼の追撃(ついげき)を躱しながら何度も刃を走らせるも、いずれも薄皮(うすかわ)の一枚すら切り裂くこと出来ずにいる。

 

『人間の攻撃なんざ俺には効かねえぞ!』

 

 鬼は雄叫(おたけ)びを上げると、攻撃(こうげき)の勢(いきお)いを更に強めていく。

 

(一度様子を見るべきか)

 

 刀を鞘(さや)へ戻し回避(かいひ)に徹(てっ)する。

 

 このまま斬り付けているだけでは埒(らち)が明かない、何か策(さく)を見出すべきだろう。

 

『どうしたどうしたァ!』

 

 鬼が紅い霧を手の平に集めると、それは棘(とげ)の付いた金属の棒となる。

 

『オラァ!』

 

 金棒が振り回される度に空気が震(ふる)え、大地が砕け散る。

 

 正に怪力、正面からの打ち合いで普通の人間がどうにか出来るような相手ではないだろう。

 

 振り下ろされる金棒を身を捩(ね)じって躱(かわ)しながら、鬼の右腕に力を込めた抜刀斬りを放つ。

 

 浅い傷が作られ僅(わず)かに血飛沫(ちしぶき)が舞うが、すぐに塞(ふさ)がってしまう。

 

 さらに勢いを増していく連撃(れんげき)を寸での所で躱しながら一撃を加えていくが、産まれた傷はいずれも煙(けむり)と共に消えてしまう。

 

『ちょこまかと避けやがって!潰(つぶ)れろ!』

 

 振り下ろされた金棒を躱し、鞘(さや)と柄(つか)を掴(つか)み地面に埋まり込んだ金棒を全力で踏みつける。

 

「『燕断(つばめだ)ち』」

 

『何ィ!?』

 

 踏まれた衝撃で金棒から手を放してしまった事に驚いたのか、鬼に隙(すき)が生まれた。

 

「『一閃』!」

 

 全力を込めた抜刀斬りは硬質化(こうしつか)した皮膚(ひふ)に容易(たやす)く食い込み右腕を切り飛ばし、喉元(のどもと)を深く切り裂(さ)いた。

 

『ガアアアア!』

 

 片腕を失った鬼は残った手足を振り回し暴(あば)れまわる。

 

 振(ふ)るわれる拳を屈(かが)んで避け、蹴(け)りを軽く飛ぶことで回避し、空中で鬼の腹(はら)を蹴(け)り距離(きょり)を作る。

 

(全力であれば攻撃は通る、だがそれだけではだめだ)

 

 再び刀を鞘に納(おさ)め抜刀斬りの姿勢(しせい)を取る。

 

 どれだけ切り裂こうともたちまち傷が塞(ふさ)がる、このまま戦い続けたとしても先に力尽(ちから)きるのはこちらの方だ。

 

 全身の力を抜き一気に脱力(だつりょく)する。

 

 相手がいくら傷付こうと絶(た)えず回復し続けるならば、こちらも斬り続ければいい。

 

 だがこちらから攻めるのではなく、相手から攻めさせることで体力の消費を最小限に抑える。

 

(鬼を断つ糸口(いとぐち)を必ず見つけ出す)

 

『死ねえ!』

 

 大きな歩幅で距離を詰めて来た鬼の攻撃を最小限の動きで回避し斬り続ける、どれほど頑丈(がんじょう)でどれだけ傷を塞(ふさ)ぐことが出来ようとも精神はすり減っていくはずだ。

 

 鬼へ刃を突き立てる度に鮮血(せんけつ)が飛び散り辺りを汚す、だがその血は全て直ぐに紅(あか)い煙(けむり)へと変わり鬼の身体に吸い込まれていく。

 

(妖刀が……)

 

 鬼へ近づく程に、鬼を斬る程に、鬼の血液が身体に触れる程に妖刀は震(ふる)えが増している。

 

 妖刀と妖怪、同じ闇から産まれた物同士共鳴(きょうめい)しているというのか。

 

(いいや、今はそんな事を考えている場合では無い)

 

『グラアアアアア!』

 

「ハッ!」

 

 鬼の拳を屈(かが)んで避け、立ち上がる勢いと共に上段へ抜刀斬りを放ち左腕を飛ばし、そのまま切り返し左肩から右わき腹に掛けてを切り裂く。

 

 そしてすぐさま刀を鞘に納め、抜刀の体勢を取る。

 

 強く踏み込み刀を振り払い胴を切り払う、そしてその場で身体全体を回転させ更なる追撃(ついげき)を放つ。

 

 回転をする度に鬼の身体は切り裂かれ、形を失っていく。

 

『ぐおおおお!?』

 

 最高の威力を誇る抜刀斬りをどうにかして連続で放てないかを考え、初代の技である『燕断ち』から私が編(あ)み出した奥義。

 

「『燕断(つばめだ)ち・輪廻(りんね)……』」

 

 回転をすることによって生じる平衡感覚(へいこうかんかく)の不和(ふわ)と、大技を連続して続けることによって発する肉体での負担、それによってこの技を使えるのは傷の治りの速い私しかいない。

 

 だが技の威力に関しては非常に信頼できる。

 

「はぁ……ふぅ」

 

 身体中に走る鈍(にぶ)い痛みを堪(こら)え、肉片(にくへん)となった鬼の肉体を見据えると、地面に散らばった鬼の残骸(ざんがい)からは既(すで)に赤い煙が立ち昇(のぼ)り始めていた。

 

(肉片にしてしまえば再生に時間が掛(か)かる筈(はず)だ)

 

 背中にある妖刀が強く震(ふる)え、暗く重い圧力を放ち始めている。

 

(この刀であれば、――っ!)

 

 その時、地面に散らばった肉塊(にくかい)から紅(あか)い煙(けむり)が多量(たりょう)に吹き出し、周囲を包み始めた。

 

 世界が紅(あか)と独特(どくとく)の鉄臭(てつくさ)さに満ちていく。

 

 段々と湿気(しっけ)が増していくのが肌で感じ取れる、これは煙というよりも。

 

「血の霧(きり)か、妙(みょう)な技を」

 

 血の霧が日光を遮(さえぎ)り、周囲が薄暗(うすぐら)くなっていく。

 

『楽しませてくれるじゃねェか、侍ィ!』

 

 どこから聞こえるのではなく、全体が声を出しているような。

 

「ようやく本気を出したという訳か」

 

 この霧全てが奴そのものだというのは今迄(いまはまで)の様子から見ても理解できる、つまりはどこからでも攻撃が出来ると考えていいだろう。

 

 全神経(ぜんしんけい)を研(と)ぎ澄(す)ませ身体中の感覚を鋭敏(えいびん)にし、どこから来ても迎(むか)え撃てるように特定の方向だけに力を入れず自然体に構える。

 

(殺気(さっき)ッ!)

 

 横に跳(と)ぶと、赤い巨体が元居た場所を通過していった。

 

『見えてもいねェのに避けるとはやるじゃねえか、だがこれならどうだァ?』

 

 鬼の言葉と共に殺気の量が増していく。

 

(いや、量どころか全体の数が増えている……?)

 

 前や後ろ、四方八方から殺気が飛んできている。

 

『死ねェ!』

 

「っ!」

 

 咄嗟(とっさ)にしゃがむと、頭上を太い腕が通り過ぎて行った。

 

(そのまま立ち止まっている方が危険だ)

 

 その場から走り出し、嵐のような攻撃を躱(かわ)し捌(き)受け流していく。

 

 どうにかこの場を抜ける事はできないかと走り回るが一向に霧が晴れることはない。

 

 それ程に霧が広範囲に広がっているのか、それとも感覚を狂わせられているのか。

 

(元凶(げんきょう)をどうにかしなければ状況が好転(こうてん)することは無い)

 

『おいおい、逃げてばかりじゃどうにもならないぜェ?』

 

「フッ!」

 

 目の前に現れた拳を振りかぶった鬼の顔面に、跳(と)び膝蹴(とびひざ)りを放(はな)つ。

 

『グオッ』

 

 首があらぬ方向に曲がった鬼を足場(あしば)にして、なるべく高く遠くに跳ぶ。

 

 着地地点に出現した鬼が振るう金棒(かなぼう)を、空中で身体を捻(ひね)ることで躱(かわ)し、首を切り飛ばし地面に着地する。

 

(やはり脆(もろ)くなっている、これならば)

 

「この霧、なんだろう」

 

(――っ!)

 

 この声はミーアの物だ、もうここまで追いついたのか。

 

『余所見してる場合かァア?』

 

「くっ――!」

 

 眼前に迫(せま)った拳(こぶし)を防(ふせ)ぐべく、後ろに跳びながら刀を横に構(かま)える。

 

『無駄(むだ)だァアアア!』

 

「グウゥっ!」

 

 鬼の拳は刀を砕きながら胴体(どうたい)に直撃し、身体が吹き飛ばされる。

 

 どうにか受け身を取り立ち上がるも、久々の痛みに思わず片膝(かたひざ)を付いてしまう。

 

(油断した……、骨を幾(いく)つか持っていかれたか)

 

『人間とは思えねェ頑丈(がんじょう)さは褒(ほ)めてやるが、刀を無くしたお前はもう終わりだ』

 

「――私自身はまだ折れてはいない」

 

 恐怖感を煽(あお)るかのように、金棒(かなぼう)を引きずりながらゆっくりと鬼は歩いてくる。

 

 確かに浅(あさ)くない傷を負い、愛刀(あいとう)の折れた状態では五分以上の戦いに持っていくことは難(むずか)しいだろう。

 

 背中の妖刀(ようとう)が収(おさ)められた袋を外し、前に持ってきて封(ふう)を解(と)いていく。

 

『そう来なくっちゃなァ、侍ならよォ!』

 

 どうやら鬼は準備を終える事を待ってくれるようだ。

 

 初代が遺(のこ)した書はこうも記(しる)されていた、鬼は残忍(ざんにん)な性格をしているが武人(ぶじん)を好み対等(たいとう)な戦いを望 (のぞ)むのだと。

 

 弓と矢筒(やづつ)、番(つがい)の失った鞘(さや)を外して地面に置き、袋から取り出した妖刀を新たに腰の帯(おび)に差す。

 

『ハッハッハァ!おもしれえじゃねェかお前!』

 

 妖刀を振(ふ)るうという事、それにどのような影響(えいきょう)があるのか、未だ全貌(ぜんぼう)は分からない。

 

 もしかしたら私自身もかつてこの刀を所有していた死人のように意識を奪われ、命を落とす末路(まつろ)を辿(たど)ることになるのかもしれない。

 

 だが、それはこの戦いに負けたとて同じことだ。

 

「お前の力を借りるぞ、――っ!」

 

 妖刀の鞘(さや)と柄(つか)を握(にぎ)ると何かを吸われたような感覚に襲(おそ)われる、だが今回はそれが良い方に作用したのか思考の熱(ねつ)が奪(うば)われ身体の無駄な力が抜けていく。

 

『行くぞ侍ィ!』

 

(『柳流剣術奥義(やなぎりゅうけんじゅつおうぎ)』)

 

 息を吸い込み、金棒を担(かつ)ぎ地響(じひび)きを鳴らしながら突っ込んでくる鬼を、刀の範囲(はんい)の限界(げんかい)まで待ち受ける。

 

『砕け散れェ!』

 

(『一刀無尽(いっとうむじん)』!)

 

 抜き放(はな)たれた刃は、頭上に迫(せま)った金棒を容易(たやす)く両断する。

 

「なにぃっ!」

 

(刀が軽く感じる)

 

 刀を切り返し再び迫る左腕を切り落とし、そのまま右腕を肩から切り飛ばす。

 

(握る柄が手に馴染(なじ)む)

 

『ガアアアアアアッ!!』

 

 大きく口を開き噛み砕かんと迫る鬼の首を刎(は)ねる。

 

(まるで)

 

 刀を上段に構え一気に振り下ろし、鬼の胴体(どうたい)を左右に真っ二つにする。

 

(身体の一部のようだ)

 

 鬼の身体は霧に変わることなく、粒子(りゅうし)のように崩れ妖刀に吸い込まれていき、刀身から赤と黒の輝(かがや)きが奔流(ほんりゅう)となって溢(あふ)れ出す。

 

「これは――」

 

『妖力(ようりょく)を喰(く)らう刀なんて、厄介(やっかい)なモン持ってんじゃねえかよ』

 

 血の霧の奥から新たな鬼の肉体が表れる。

 

(この禍々しい刀の光は妖力か……)

 

『それならこっちも全力を以(もっ)て答えねえとなァ!集え!血よ霧よッ!』

 

 鬼は自らの胸を引き裂き、心臓(しんぞう)を引き摺(ず)り出し天に掲(かか)げる。

 

『空即是血(くうそくぜっけつ)』

 

 そして、激しく鼓動を打つ心臓を握りつぶした。

 

『ウオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「っ!」

 

 鬼は空気が振動する程の雄叫(おたけ)びを上げると、周囲の紅(あか)が鬼へと集まり霧が段々と晴れていく。

 

 そして鬼の纏う霧が消えるとそこには木々の高さを悠々(ゆうゆう)と越える、山と見紛(みまご)う程の赤鬼がいた。

 

「な、なんだあれは……!?」

 

「アーくん!大丈夫!?」

 

 ミーアと救援隊達の声が聞こえる。

 

「問題ない!怪我人(けがにん)を連れて下がれ!」

 

 なるべく大きな声でその場にいる者達へ伝(つた)える、とてもじゃないが今は誰かを護りながら戦える状況ではない。

 

「う、うん!あーくんも気を付けて!」

 

「ああ」

 

 その場から離れていく背中を見送り刀を構える、あまりの相手の大きさに思わず力が入る。

 

『最後に名前を教えてやろう!我の名は血霧童子(ちぎりどうじ)!貴様を喰らいこの世を血昏(ちぐれ)に染(そ)め上げてやろう!』

 

 血霧童子が声を上げる程に空気が震(ふる)え、大地が揺(ゆ)れ動き世界に紅(あか)が広がっていく。

 

『グラアアアアアア!!』

 

 降りかかる巨大な拳を大きく飛んで避け、腕に跳びのり駆け上がっていく。

 

 押しつぶそうと迫る手を刀を振るい切り払う、切り離された鬼の一部が粒子となり、また妖刀に吸い込まれ赤と黒の奔流(ほんりゅう)が増していく。

 

 足を止めることなく突き進むと、血霧童子の体表から鬼の群(む)れが出現しこちらに襲(おそ)い掛(か)かってくる。

 

 刀を両手で握り肩の上に構え、速度を緩(ゆる)めることなく走り続ける。

 

「柳流剣術奥義『流転滅尽(るてんめつじん)』!」

 

 刃の激流(げきりゅう)は絶えず流れ続け、立ち塞がる相手の尽(ことごと)くを滅ぼし亡骸(なきがら)へと変えていく。

 

 鬼を切り裂くほどに妖刀の輝きは増し、妖力を強めていく。

 

 その光は刀を握る腕を呑み込み段々と身体へと昇って来ている、だが不思議と不快感は無い。

 

 むしろ刀を握る力や、一歩を踏み込む力が増している。

 

(今の状態ならば、ここからでも奴へ届く!)

 

 鬼の肘辺(ひじあた)りで両膝(りょうひざ)を曲げ、全身の筋力を総動員(そうどういん)し思い切り跳躍(ちょうやく)する。

 

 妖刀によって強化された肉体は想像以上の物で、一瞬で鬼の遙(はる)か頭上に到達した。

 

「我こそはアルマ=リュウガンジなり!異世界より訪れし侍(さむらい)の子孫(しそん)である!貴様をここで断(た)ち切り、今ここに真の武士(ぶし)とならん!」

 

 鬼へと落下すると共に名乗りを上げる。

 

 血霧童子は大きく口を開きその中を光で満たしていく。

 

『この一撃(いちげき)に耐えた奴はいねぇぞ!『妖力砲(ようりきほう)』!」

 

 そして巨大な紅い閃光が放たれた。

 

「受けて立つ!」

 

 刀を上段に構え、そして鬼の必殺の一撃へ刃を振り下ろす。

 

「はあああああああああ!」

 

 妖力の奔流(ほんりゅう)を纏(まと)った刃が紅い閃光とぶつかる。

 

 そして短い拮抗の後、閃光を真っ二つに切り割いた。

 

 刃が放つ赤と黒の奔流がさらに勢いを増していく。

 

「柳流剣術奥義(やなぎりゅうけんじゅつおうぎ)」

 

 体を縦に一回転させ、鬼の頭へ刃を振り下ろす。

 

「『光芒烈日(こうぼうれつじつ)』!」

 

『グオオオオオオオオオ!』

 

 振り下ろした刀の一撃は鬼の硬(かた)い体表(たいひょう)を容易(たやす)く破り、頭上から胴体までを左右に切り割いた。

 

 地面に着地し、刀を振るいゆっくりと鞘へと納めていく。

 

『やるじゃねえかよ』

 

 血霧童子の声が聞こえ、鍔(つば)と鞘(さや)が触れる直前で手を止める。

 

『妖刀があったとしても、まさか人間にヤられるなんざ思っちゃいなかったぜ』

 

 既に半分以上も崩れかけた身体で恨(うら)めしそうに私というよりも刀を睨(にら)む血霧童子、だがその表情には後悔(こうかい)という感情は見受けられない。

 

『だがまあ、久々に楽しめた喧嘩だったぜ』

 

 その表情はどこか満足そうで、人々を恐怖で陥(おとしい)れていた鬼の最後には見えなかった。

 

『またやり合おうぜ、なあアルマ』

 

 そして、血霧童子は粒子となり妖刀へ吸い込まれていった。

 

「よき死闘(しとう)であった」

 

 刀を完全に納め、緊張(きんちょう)の糸を解(ほど)く。

 

「……あれは」

 

 息を吐き何気なく空を見上げると、緋色(ひいろ)の光の珠がゆっくりと降りてくる。

 

 目の前に落ちて来たそれを手の平で受け止めると、心臓のような鼓動(こどう)を打っているのを感じた。

 

「これは、血霧童子の力……?」

 

 不思議と危険な気配は感じ取れなかった、純粋(じゅんすい)な妖力の結晶(けっしょう)だからなのだろうか。

 

 緋色の珠は強烈(きょうれつ)な光を放ちながら、ゆっくりと宙へ浮かび上がり、そして砕(くだ)け散った。

 

 そして紅い粒子状になり周囲を舞うと、私の中へ吸い込まれていった。

 

「紅い霧……」

 

 気づけば血霧童子が纏っていたような濃(こ)い赤が身体中を包んでいた。

 

「まだ力の残滓(ざんし)が残っているのか?いや、これは――」

 

 紅い霧は傷口から発生していた。

 

 そんなはずは無いと考えながら、傷口から溢(あふ)れる血の霧を意識すると、思い描いていた左腕の形へと姿を変えた。

 

「血霧童子の力が私に宿ったのか?」

 

 血の霧を操作し離れた場所に落ちた愛刀と弓矢を引き寄せ、再び操作をすると血の霧はゆっくりと吸い込まれ、傷口が塞(ふさ)がっていく。

 

 どうしてこの力が使えるようになったのかは分からない、だが戦いの武器が増えるという事は確実に助けとなるだろう。

 

「有難(ありが)く使わせてもらう」

 

 ――

 

 折れた愛刀を元々妖刀を入れていた袋にしまっていると、遠くから走ってくるミーアが見えた。

 

「アーくん!待っててすぐに治癒魔術をかけるから……!」

 

 ミーアが長杖を取り出し治癒魔術(ちゆまじゅつ)を掛(か)けてくれた、血霧童子の力によって身体の表面の傷は塞(ふさ)がっているが、骨は折れたままであり治療(ちりょう)は有難い。

 

「ありがとう、倒れていた者達は皆(みな)無事だったか?」

 

 やむを得ず道中に置いてきてしまった彼に関しては、かなりの重傷を負っていた。

 

「うん、一先ず応急処置をして救援隊の人に送ってもらったよ」

 

「そうか……」

 

 ミーアは治癒魔術においても、かなりの腕前を持っているようだ。

 

 身体の中の違和感が無くなった為、立ち上がり身体の状態を確認する。

 

「あっ、あーくん!痛みは大丈夫なの?」

 

 ミーアは心配そうにこちらを見上げてくる。

 

「ああ、これならすぐにでもまた戦えるだろう、ありがとうミーア」

 

 流石にあの鬼との再戦は数日の時間を置きたいが。

 

「ううんいいの、あーくんが無事で良かった……」

 

「このくらいで死にはしない、私達も連盟へ戻るとしよう」

 

「うん」

 

 愛刀が折れてしまった為、何か代用できるものを探さなくてはならない。

 

 一度里へ戻り打ちなおして貰う事が一番いいのだろうが、現在は仕事を引き受けている身だ、街から離れた場所に行く訳にはいかない。

 

 刀という意味では妖刀もあるのだが、なるべくならば人に向けたくはない。

 

 軽く裾(すそ)を掴むミーアを連れ、連盟へと帰還した。




『血霧童子』
日ノ本から異世界へ流れ着いた鬼の大妖怪
自身を霧状に変える能力を持ち、その体積を数倍にも数百倍にもすることが出来る
鬼らしく残忍な性格をしているが、強者に対しては鬼基準に紳士的になる。
自分と対等と認めた相手には、全力を以て消し飛ばし霧状にして力の一部とするらしい。
その赤黒い体表から『朱殷(しゅあん)の赤鬼』と呼ばれている
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