武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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新たな武器

 

 顔に当たる光で目を覚ます。

 

 胸の中ではミーアが穏やかな寝息を立てていた、どうやら恐怖から護りきる事が出来たようだ。

 

(これならば今日は大丈夫だろう)

 

 起こさないようミーアの腕を優しく外し、ベッドから抜け出し寝室の外に出て、ミーアの衣服を取り寝室の机に置く。

 

 再び寝室を出てから、宿の従業員が洗って届けてくれた衣服に着替え、妖刀と砕けてしまった愛刀を背負う。

 

「りーくん、おはよ……」

 

 やや俯いたミーアが寝室から出て来た、既に着替えは終わっておりすぐに出発が出来る状態だ。

 

「おはよう」

 

「一緒に寝ちゃったね……!」

 

「そうだな」

 

「むー、なんかあーくんの反応ふつうー」

 

 どうして俯いているのかと軽い心配をしていたが、恥ずかしがっていただけのようだ。

 

(これならば大丈夫そうだ)

 

「では行こうか」

 

「しゅっぱーつ!」

 

 宿を出て武具屋へ向かっていた道中、人相(にんそう)の悪い二人組絡まれているライラを見かけた。

 

「よォ姉ちゃん、俺達と遊ぼうぜ?」

 

「ごめんなさい、私急いでるので」

 

 そう言って通り過ぎようとするライラ、だが背が高いが細見の男がそれを(さえぎ)る。

 

「そんなこと言わないでさぁ、な?」

 

 見た所あの二人は冒険者のようだがm特に連盟許可証のような物を身に着けてはいない、どこか別の所属なのだろうか。

 

「そこまでにしておけ」

 

「アァ?」

 

「アルマさん……」

 

 三人がこちらを向く、冒険者達は酔っているのか顔が赤く、酒気がここまで(ただよ)ってくる。

 

「……この人達は厄介者(やっかいもの)で有名なの、私達とは違う連盟に所属してるらしいけどmいつも難癖(なんくせ)付けてくるって皆話してるよ」

 

 ミーアが小声で彼らの事を教えてくれる。

 

「いるんだよなぁ、お前みたいな騎士気取りのやつ」

 

「俺達に文句でもあんのかよ、アァ!?」

 

 大柄な男が胸倉を掴み睨みつけてくる。

 

 あまり手荒な真似はしたくないが、口で言って聞くような手合いではなさそうだ。

 

「痛い目見る前にさっさと消えな?」

 

 ミーアを遠ざけ、両手を自由にする。

 

「……それで、一体どうなるというのだ?」

 

 大男の手首を掴み、ゆっくりと力を込めていく。

 

「!?」

 

 そのことに気付いたのか大男は表情が険しくなり手を離そうとしているが、そんなことはさせない。

 さらに力を入れ大男の腕を締め上げていく。

 

「があああああ!腕が、折れる!」

 

 無論折るつもりは無い、ただ脅かしているだけだ。

 

 痛みの余り体勢を崩す大男の首を掴み持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。

 

「ぐえっ!、…………」

 

 白目を剥き気絶をする大男の首から手を離し胸倉を掴んで持ち上げ、細見の男に放り投げる。

 

「その男を連れてどこかへ行け」

 

「てめえ、よくも!」

 

 細身の男は腰の剣に手を掛けようとするが、喉元に迫った光の槍に手を止める。

 

「おにーさん、往生際が悪いよー」

 

 ミーアが揶揄(からか)うように笑いながら、長杖を振るい光の槍を二本、三本と宙に待機させる。

 

「クソッ、次会ったらこうはいかねえぞ!」

 

 形勢が悪いと判断したか、細身の男は大男を引き()りながら、どこかへと走り去っていった。

 

「怪我は無いか、ライラ」

 

「はい、ありがとうございました、アルマさんミーアさん」

 

 彼女が言う通り怪我は無いように見える、その服装からしてこれから連盟に向かう所だろうか。

 

「良ければ送って行くが」

 

「お気遣いありがとうございます、でもお二人も用事があるみたいですから、それに私も戦いには自信があるんですよ?」

 

 冒険者の皆さんには及びませんけど、と続け微笑むライラ。

 

「どうやら要らぬ手助けだったようだな」

 

「ねー」

 

 だからといって助けないという選択肢を取ることは無いが。

 

「ではまたな」

 

「はい、また連盟で」

 

「ばいばーい」

 

 ライラと別れ歩くと、程なくしてミーアの言う武具屋へと辿(たど)り着いた。

 

 その名も武具商店『エンシーズ』、街一番の大商会であり、世界の各地に支店を構えているとミーアが教えてくれた。

 

「確かに見事な品揃(しなぞろ)えだな」

 

「でしょー?あーくんが欲しいカタナも多分あるんじゃないかなー」

 

「そうだとありがたいが」

 

 少しの期待をしながら剣を集めた売り場を物色して見るが、やはり望んだ刀は置いていないようだ。

 

 片刃の物もあるにはあるのだが、分厚く幅の広い刃や極端に反りが深い物など、扱うとしても戦い方を大きく変える必要がある物ばかりだ。

 

「あ、これソードワンドだー!」

 

 ミーアはなにやら不思議な形の剣を眺めている、刀身が(つか)の半分程度の長さしか無い不格好(ぶかっこう)な代物だが、彼女の目を引く所でもあるのだろうか。

 

「これ気になる?」

 

「ああ、剣として使い物になりそうにないが」

 

「んふふー、これはねーこうやって使うんだよ」

 

 ミーアが柄を握り天に向けると、刀身に刻まれた文言が光り輝き、青く透き通る長い刃が生み出された。

 

「見事だな」

 

「でしょ?これはねー使ってる人の魔力を吸収して刃を作ってくれるの、魔法で剣を作るよりも魔力を節約出来るからいざという時に便利なんだよ」

 

 苦も無く剣を扱って見せるミーア、刀身の長さの割に重量はさほど無いのだろうか。

 

「持ってみてもいいか?」

 

「うん、ちょっと待ってねー今魔力込めるから」

 

 さらに輝きを増した青の剣を受け取り構えてみる。

 

「軽いな」

 

「実際に剣を使う人とかには余り人気無いんだよねー、切れ味とかは負けてないんだけど」

 

「ふむ……」

 

 左腕の袖を(まく)り刀身を押し当ててみると、引いてもいないというのに触れた部分から傷口が出来ていく。

 

「斬るというよりも、削るという感覚の方が近いか」

 

「あーくん何やってるの!?」

 

 ミーアに剣を取り上げられてしまった、これくらいの傷口であればすぐに塞がる為何も問題は無い。

 

「いや、切れ味を試すためにな」

 

「だからって自分の身体を傷つけないで……、それに切れ味を試すならあそこに試せる物があるんだよ?」

 

 ミーアが指す方向には紙や革の切れ端が置かれている、だが武器の切れ味を確かめるならばその対象となる物で行うのが一番いいだろう。

 とはいえ少し配慮が足りなかったと、泣きそうになっているミーアと、遠くで驚きの表情をしている従業員を見て考える。

 

「次からはそうするとしよう」

 

 血霧童子の力で傷を塞ぎ袖を戻す。

 

「それって魔法……じゃないよね?」

 

「書には『妖術』と書かれていた」

 

 本来は妖怪のみが扱える業なのだそうだが、修行を積んだ『陰陽師』などは扱えるようだ。

 

「ヨウジュツかー、使ってて変な感じとかないの?」

 

「そうだな、ほんの僅かではあるが身体から何かが抜け落ちたような感覚がある、それも少ししたら元に戻るが」

 

「私達が魔法使う感覚と少し似てるかも」

 

「そうなのか」

 

 その後しばらく店内の刀剣類を物色して見たが、目当ての物は見つからず別の店に行ってみようかとミーアから提案を受けていると。

 

「なにかお探しでしょうか」

 

 見事な白髭を蓄えた恰幅のいい男に話しかけられた。

 

「あなたは」

 

「失礼しました、私はこの商会の会長を務めておりますレジンと申します」

 

「よろしく」

 

 差し出された手を握り挨拶を交わす、皮が厚い職人の手だ。

 

「片刃の剣を探しているのだが」

 

「剣でしたらここには世界各地の物は一通り揃っているのですが、どういったものでしょう」

 

「そうだな」

 

 少々気は引けるが実際の物を見せてもらった方が早いだろうか、武具屋であれば刀の事も詳しいかもしれない。

 

「少し離れていてくれ、そして気を確かに持っていて欲しい」

 

「……?、かしこまりました」

 

 二人が傍から離れた事を確認し、腰帯から刀を外し鞘と柄を掴み、そしてゆっくりと引き抜いていき刃を晒す。

 

 鞘から解き放たれた刀身は店内の様々な明かりを集め怪しげな光を放った。

 

「おお……、何たる美しさ……っ!」

 

「綺麗……」

 

 妖刀の輝きに魅入られた二人の前に左手を伸ばし、指を鳴らす。

 

「わあっ!びっくりした……!」

 

「も、申し訳ない、つい見惚れてしまっていました……」

 

「気にしないでくれ、それがこの刀の力だ」

 

 人を魅了し、呑み込み、殺し、操る。

 それが妖刀なのだから。

 

「それで、これに近い物はあるか?」

 

「片刃剣ではあるようですが刃の反りや身幅も、独特な形をしていますな、恐らくはこの街のどの店にも扱っていないでしょう」

 

「やはりそうか……」

 

 そもそもがこの世界に来て僅かな時間しか経っていないのだ、その存在や製法が知られていないのも無理はない。

 

「……ある一振りがあります、それは諸刃(もろは)ではあるのですが面白い形をしてまして、それで宜しければお持ちしますが」

 

「見せてもらえるか?」

 

「かしこまりました、おい、この方にアレを持ってきてくれ」

 

「……はい!」

 

 従業員は唐突に声を掛けられたことで固まるが、直ぐの我を取り戻し店の裏へと小走りで去って行った。

 

「ねね、これとか近くない?」

 

「ふむ」

 

 ミーアが持ってきた一振りは確かに刀身が反り返っている、だが弾性を強く持たせているのか刀身に軽く力を加えると大きく(たわ)んでしまう。

 

 一応構えてみるが、やはりしっくりこない。

 

「いや、違うな」

 

「うーんそっか」

 

 実のところ、使う武器に特別な(こだわ)りがある訳では無いが、ただ一瞬の判断を争う戦いにおいては使い慣れた武器である方が命を預けられるのだ。

 

「こちらです、どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 従業員が持ってきた物は鞘が僅かに湾曲した剣だった。

 

「ここよりはるか東には魔晶国(ましょうこく)と呼ばれる地があります、この剣はその地から取り寄せたある鉱石を用いて作った物でして、ここは少し手狭(てぜま)ですので場所を移しましょうか」

 

 レジンに連れられてやって来たのは広々とした空間だった。

 

 的や木人、縄を巻き付けた丸太など、修練の為に使用されるような物が幾つも配置されているが、あれは武器の試すための物だろうか。

 

「さあここで良いでしょう」

 

 地面にいくつもの魔法陣が描かれた場所でレジンは立ち止まる。

 

魔蝕石(ましょくせき)という物をご存じでしょうか」

 

「いや」

 

「全ての根源たる魔素を喰らい絶えず成長していくという性質がある鉱石なのですが、実際に試して頂いた方が速いですかな」

 

 レジンが地面に描かれた魔法陣の一つに手を触れると、周囲にある魔法陣が一斉に光を放ちそれぞれの円の中から黒い柱が現れた。

 

 柱には逆立った鱗のようなものが全体に張り付き、それなりの強度があることを察せられる。

 

「こちらはある魔物の鱗と骨を再現した訓練用の魔術です、先程お渡しした剣を使って切っていただけますか?」

 

「ああ」

 

 妖刀を一度外し背中に縛り付け、剣を腰に差し鞘と柄の感触を確かめる。

 

 (少々柄が太いが、許容できる範囲だ)

 

 剣をゆっくり引き抜いていくと白く透き通った刀身が現れた、妖刀より僅かに長い程度だろうか。

 だが最も注目すべきところはそこでは無い、これが反りを持った諸刃の剣という事だ。

 

「剣の作成をした時には真っすぐな形状をしていたのですが、魔術師に術式の付与を依頼した際このようなになってしまったようで」

 

「偶然の結果生まれたという訳か」

 

「ええ、前払いが条件の依頼でしたし、作り直そうにも別料金だと言われ泣く泣く持ち帰って保管していました」

 

 本来であれば喜ぶべき案件では無いのだろうが、偶然この形が出来上がり私の目の前へ現れたという事に何かを感じてしまう。

 

「綺麗な剣だねー」

 

「そうだな、金属では無いようだが」

 

 柱の前に立ち剣を上段に構え、一息で袈裟(けさ)に切り割き、下段で切り返しさらに切り裂く。

 

 柱は三つに分かれて崩れ落ちた、散らばった鱗の一つを拾い上げ観察をすると、罅が入り切り口が歪んでいるのが分かる。

 

「……多少の調整は必要か」

 

「いやはやお見事な剣捌きですな、では刃を確認してみてください」

 

「ふむ?」

 

 言われた通り刀身へ目をやると僅かに光を放っている事が確認できる、だがすぐに消えてしまった。

 

「魔素を吸収し成長を続ける性質を利用し、魔術によって方向性を与える事で手入れをせずとも、自らを修復し続け最高の切れ味を(たも)つ剣となりました」

 

「それは、すごいな」

 

「たとえ根元から折れようとも、時間を掛け必ず元の形へと戻るでしょう」

 

「ふむ……」

 

 剣を鞘に納め姿勢を低くし抜刀の構えを取る。

 

「フッ!」

 

 一気に踏み込み前方の柱を中程で断ち切り、勢いのまま二本、三本と続けざまに切り捨てていく。

 最後に残った柱の中央を貫き峰側(みねがわ)に振り上げる、刃は抵抗を許すことなく突き進み(くう)へ至った。

 

 剣を鞘に納め息を吐く。

 

「気に入った、これを貰おう」

 

 諸刃であることを活かすことで、戦い幅を更に広げる事が出来るだろう。

 

「ありがとうございます、お包みいたしましょうか?」

 

「大丈夫だ、それよりもこれに名はあるのか?」

 

「いえ、名も告げられずに渡されましてですね……」

 

 言わば無銘、だがそれではこの剣も悲しむだろう。

 

「そうか……、では『(はく)』と呼ぼう」

 

 神々しく(けが)れを知らない白の輝きを放ち、名すらも持たないその身には『白』の名が相応しいだろう。

 

「……、良い名前ですね」

 

 彼らにはきっとこの言葉は分からないだろうが、それでいい。

 

 この世界に決して染まり切る事も無い、それもまた『白』だ。

 

 

 




アルマの新たな武器
『白』
魔術師による失敗によって生まれた失敗作
本来は真っすぐと伸びる美しい剣として売るつもりであったが、刃に魔術を刻む際に反りを持った刀となってしまった。
倉庫の肥やしとしていずれ潰され新たな武器の素材になる所を、アルマが店にやって来た事によってその未来は回避された
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