武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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護衛依頼2日目①

「このような物でも案外眠れるものなのだな」

 

 コラルに借りた最新の寝袋という物から出て立ち上がる。

 

 こういった物は使った経験が無く不安ではあったが、薄めの生地だというのに地面の硬さを感じず、温度も丁度寝やすい高さに保たれておりとても過ごしやすかった。

 

 ただ一つ難点があるとすれば。

 

 中に入る形の寝具(しんぐ)である為、襲撃に会った際は寝袋を引き千切らなければ咄嗟(とっさ)の反撃がし(づら)いといった所だろうか。

 

 日はまだ完全に昇っていない為、まだ少し薄暗い。

 

 寝袋を畳み袋に戻し、赤く光る炭が(わずか)かに残った焚火(たきび)の中に枯草や折った細枝を入れていく。

 

 荷物から紅く透き通った石を取り出して指で少し砕き、それを生きた炭の上に置く。

 

 すると石はじんわりと汗をかき始め、その液体が熱で発火する。

 その上に枯草を被せ、細枝を組んでいく。

 

 枝が本格的に燃えた所に小さめの薪を三つ程乗せておく。

 

「日の出までは持つだろう」

 

 日課の素振りをするために二振りの刀を差し、馬車の傍を離れる。

 

 『白』をゆっくりっと引き抜くと、透き通った刀身が淡く光を放った。

 

「まだ少し調整が必要か……」

 

 鞘から引き抜いた際に僅かに傷付いたのだろう。

 

 光を失った刀を上段から下段、突きから下段そして上段へ振るい、何度も基本の動きを繰り返す。

 

 軸である基本の動きが身についていなければ、そこから派生させる技が中途半端な出来になってしまい、敵に付け入られる隙が生まれてしまう。

 

 ゆっくりと鞘へ戻し、姿勢を下げ抜刀斬りの形を作る。

 

「ふぅ……」

 

 大きく深呼吸し、一気に多量の空気を取り込み息を止める。

 

 そして右脚を大きく踏み出し、左の親指で僅かに(つば)を押し上げ、右手で柄を強く握り一息に引き抜き振り払う。

 

 露出した刃は空気を切り裂き、高い音を発生させた。

 

「一日にしてならずか……」

 

 刀身は淡く光を放ちながら、その傷を修復していく。

 

 一先ず動きの調整は出来た、今回の所はここまでで良いだろう。

 

 依頼中に別の事で体力を使い果たしてしまっては元も子もない。

 

 刀を鞘に納めて野営地へ戻ると、目を覚ましたコラルが焚火に当たっていた。

 

「おはよう」

 

「おはようございますアルマ殿、いつもこの時間帯に目覚めているのですか?」

 

「昔からの日課でな」

 

 今では鍛練を欠かすとどうにも落ち着かない性分になってしまったが、こうなったのは寧ろ強くなるために必要な事だったと捉えている。

 

「いやはや流石です……」

 

「出発はいつ頃に」

 

「そうですね、まだ少し暗いですが、もう出ましょうか」

 

 コラルは立ち上がると周囲の片付けを始める。

 

「分かった」

 

 荷物を馬車へ積み込み、焚火を叩き火を消して置く。

 

 石積みを崩さないのは他の旅人に、この場所は安全だったと教えるためだ。

 

 木に結んでいた二体の走竜の縄を解き馬車に結び付ける、この場合だと竜車と呼んだ方が良いのかもしれないが。

 

「良い子だ」

 

 竜の首に手を当て撫でてやると、顔を押し当ててくる。

 

 もっと撫でろと言う意思表示だろうか。

 

「その二頭がすぐに懐く所なんて初めて見ました、私なんて慣れさせるまでにそれなりの時間が掛かったのですが」

 

「そうなのか」

 

 大人しく人懐こそうに見えたのだが、思った程では無いのだろうか。

 

「生物、いや竜としての感でしょうかね、この者には敵わないという」

 

「そういえば他の魔物に比べて竜は相当に賢いと聞いた事がある」

 

 二頭の傍を離れ屋根の上に登り座る。

 

 それを合図にコラルが綱を引き走竜を操り、道へ戻し走らせた。

 

「ええ、基本的に人の言葉は理解をしているらしいですな、この世のどこかには人語を操り人の魔術を行使できる竜も居るのだとか、これは噂程度の話ですがね」

 

「いつか出会ってみたいものだ」

 

「私もです」

 

 そこから走る事しばらく、日も高く昇り旅人の姿をよく見かけるようになってきた。

 

 人里が近いのだろう、幾つもの煙が遠くの方で確認できる。

 

「あの村へ入ります」

 

 コラルが地図を確認しながら問いかけてくる。

 

「ああ」

 

 ――

 

 馬車を停めて村へ入る。

 

「なにやら荒れているな」

 

 村の建物のあちこちが傷つき、人々の顔にも生気を感じられない。

 

 何かに怯えているような、そんな表情だ。

 

「経年劣化(れっか)といった様子では無さそうだ」

 

 木造の建物の傷を観察すると、それは刃物やで傷つけられた物だと分かった。

 

「よもやここまでの被害が来ていたとは……」

 

 村人に話を聞いていたコラルが戻って来た、その表情は暗い。

 

「やはりこれも盗賊の仕業なのか?」

 

「ええ、騎士達が駆けつけられない状況ですから、大層暴れていったそうです」

 

「そうか……」

 

「さらには村から略奪をしない代わりにと、定期的にこの村へ来ては金や食料を巻き上げているようです」

 

 思っていたよりもかなり深刻な状態だ、今が依頼中でさえなければすぐにでも征伐(せいばつ)をするべく森へ向かっていたんだが。

 

「盗賊達はあの森から毎回来ているのか?」

 

 ここから森まではそれなりの距離がある、馬車に乗って向かうにしても往復で相当な時間が掛かるだろう。

 騎士が見ていないからこそ出来る芸当ではあるのだろうが。

 

「いえ、この付近に盗賊達の仮拠点があるらしいです」

 

「仮拠点?」

 

 コラルは地図を広げ村の位置を指差す。

 

「ここから東へ行った辺りにあるだろうと村の人が言っていました、そこには廃村(はいそん)がありますから建物を補修すれば保管庫にはなるだろうと」

 

「ふむ……」

 

 全力で走ればあっという間に着くだろう距離だ、とはいえ依頼主を置いていく訳にはいかない。

 

「コラル、次の出発までどれくらいの時間がある?」

 

「村の商会への荷下ろしと市場の調査、村の役人たちとの会談で……、丸一日はいる事になりますね」

 

「では時間はあるのだな?」

 

 それだけの時間があれば十分だ、仮拠点や森をどうにか出来るだろう。

 

「……まさか向かう気ですか?」

 

「安心してくれ、今日中に終わらせる」

 

「いえそうでは無く、いくらアルマ殿でもたった一人で向かうなど無謀では」

 

「大丈夫だ」

 

 籠手(こて)膝当(ひざあ)脛当(すねあ)てをしっかり縛り付け、矢の本数を確かめる。

 

「ちょっとあんた、まさか盗賊の拠点に攻め込むつもりか」

 

 複数の声に振り返ると、村の住人が鍬や鉈を持って近づいてきていた。

 

「見た所あんた連盟の人だろう?盗賊達を攻めるってんなら俺達も力を貸すぜ!」

 

「あいつらには日頃うんざりしてるんだ!」

 

 男達は各々の武器を掲げ自らを鼓舞(こぶ)している、確かに農業によって身体は鍛えられているが実戦の経験は無いだろう。

 

 それに、離れた所では彼らの家族らしき人々がこちらを心配そうに見ている。

 

「では、私が先行して盗賊の仮拠点に攻め入る、その後の制圧は任せてもいいか?」

 

「おう!」

 

「任せてくれ!」

 

 直接戦わせるわけにはいかないが、その後の後始末は任せても良いだろう。

 

「くれぐれも気を付けてください、アルマ殿」

 

「ああ、では行ってくる」

 

 男達に荷台を運んでくるように指示を出し村の外へ出る。

 

「村の外には魔物も出る、くれぐれも気を付けてついてきて欲しい」

 

「わ、分かった」

 

 男達の意思を確認し盗賊の仮拠点への道を歩き出す。

 

 そこから程なくして、かつての廃村である盗賊の住処が見つかった。

 

 人数はそこまでいないようだ、これならば制圧にそう時間は掛からないだろう。

 

 だが高台が設置されている為、ここから集団で行動するのは危険だ。

 

「合図を出したら入って来てくれ……」

 

「おう……!」

 

 茂みの中をかき分けて進み、外壁に背中を張り付け高台の様子を見ると二人の盗賊が弓を持ち何かを話している。

 

 騎士が動けない事で危機感が薄れているのか、あまり周囲を警戒している様子は無い。

 

 小石を拾ってから音と気配を殺し梯子(はしご)を上り、その途中で見張り台の骨組みに移り腕の力だけで登っていく。

 

 そして小石を骨組みの隙間(すきま)から投げ、木の枝に当て音を出させる。

 

「なんの音だ?魔物か?」

 

「あ?なんもいねえじゃねえか……」

 

 足音がで二人の意識が()れた事を確認し、壁を乗り越え二人の首を掴んて床に押し付ける。

 

「……うっ!」

 

「……グっ!」

 

 間違っても大声を出せないように首を絞めつけ、空気の通り道を(ふさ)いで意識を(うば)う。

 

 気絶したことを確認し二人の口を開けさせ布を噛ませ、縄で縛り付けて置く。

 

「次」

 

 見張り台から廃村の中を確認すると、歩き回る盗賊がいくつか見えた。

 

 それと賑やかな建物が一つ、あそこだけ建物がしっかりと修繕されている。

 恐らくはあれが仮住まいだろう。

 

 村の構造と賊の配置を確認して見張り台から飛び降り、一気に駆ける。

 

「なんで俺が見張りなんか、……っ!」

 

 手で口を塞ぎ首に腕を回して圧し折らないように締め付ける。

 

「まず一人」

 

 ぐったりと力が抜けた賊を縛り付け、口に布を噛ませ空いた建物に放っておく。

 

「残り三人」

 

 再び走りだし、近くにいた一人の顎を拳で打ち抜いて意識を奪い、通り掛かったもう一人の首に手刀を打ち込んで気絶させる。

 

 同様に建物に放り込んで置き、最後の一人の場所まで駆ける。

 

「上玉だってのに、あれも森に連れてかなきゃなんねえのかよォ」

 

 男の口に手を当て、引き倒し気絶しない程度に首を絞めつける。

 

「死にたくなければ答えろ、次にここへ本隊が来るのはいつだ」

 

「誰がてめえなんかにムグッ!-----ッ!」

 

 賊が叫び声を上げないように口に手を押し当てながら、手首を掴んで握りしめる。

 

 骨に(ひび)が入っただろう、これで自分の力を意識させる。

 

「大きな声を出すな」

 

 手首を解放し今度は男の頭を掴みゆっくりと力を入れていく。

 

「もう一度聞く、次に本隊がここへ来るのはいつだ」

 

「あがっ!あっ明日だ……」

 

「本当だな?」

 

「う、嘘じゃない……!あたまが……っ、割れ……っ!」

 

 男の頭から手を離し顎を殴って気絶させる。

 

「明日の朝……、時間は十分にあるな」

 

 縛って空き家に入れて置き、騒がしい家へ走り壁に耳を当て中の様子を探る。

 

 中からは複数の男の声と、何かで口を塞がれたような息の()れる音が聞こえる。

 

「おい、そっち抑えてろ!」

 

「大丈夫かよ、親方にバレたら殺されるぞ」

 

「ちょっとだけならバレねえよ、おらさっさと脱がせろ!」

 

「----っ!」

 

 人数は声からして四人から五人といった所だろう、刀をゆっくりと引き抜き手首に傷を付ける

 

「……」

 

 傷口から(あふ)れだした血液は、血の霧へと状態を変え建物の中を侵入していく。

 

「へっ、やっぱいい身体してんじゃねえか……なんだこの赤い霧?」

 

「知らねぇ、なんかの魔物じゃねえか?」

 

「なんだよ見張りは何してんだ、お前ちょっと見てこい」

 

「は?嫌だよお前が行けよ」

 

 血霧(ちぎり)を更に噴出させ家の中を霧で満たしていく。

 

「なんだ!?何も見えねえぞ!」

 

「やべえんじゃねえか?一旦外出るぞ!」

 

 建物内が慌ただしくなった所で血霧の噴出を止めて傷を塞ぎ、出入口の傍へ移動し待ち構える。

 

 そして出てきた一人目の顎を裏拳で捉え吹き飛ばす、二人目を頬に張り手をかまして弾き飛ばし、同時に出て来た二人の首掴んで持ち上げ地面に叩きつけた。

 

 少し待って出てこない事を確認し、血霧はそのままに建物の中へ侵入していく。

 不思議な事に中がはっきりと見えている、これならば相手だけの視界を奪い、有利に戦う事が出来るだろう。

 

 大部屋に入ると服を破かれ、両手と口を縛られた女性が部屋の隅で(うずくま)っている。

 

 他に盗賊が居ないことを確認し、大きめの布を拾ってから血霧を振り払う。

 

「怪我は無いか」

 

「!?、---!!」

 

 女性は涙の溜まった目でこちらを見ると、両足で自らの身体を精一杯隠そうとする。

 

「私は盗賊の一味では無い、安心してくれ」

 

 布で女性の身体を(おお)ってから、口に噛ませられた縄を解いてやる。

 

 頬に(あと)が付いてしまっているが、この程度ならばすぐに消えるだろう。

 

「あ、あり……がと」

 

 余程叫んでいたのだろう、声が少し枯れてしまっている。

 

「無理して喋らなくてもいい、縄を斬る、後ろを向いて貰えるか……?」

 

 なるべく刺激を与えないよう、ゆっくりと声を掛ける。

 

 無言で頷き後ろを向いた間に、短刀で速やかに縄を斬り両腕を解放する。

 

 弓と矢筒を一度外し、外套(がいとう)外套を脱いで傍に置く。

 

「今はこれを羽織っていてくれ」

 

「……」

 

「着替えが終わったら戸を叩いて知らせてほしい、あと水を置いていく、良ければ飲むといい」

 

 なるべく見ないよう配慮をしながら、部屋を後にする。

 

 村の男達を呼ぶにしても、彼女が落ち着くまでは待つべきだろう。

 

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