武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

23 / 57
闇を払う紅(くれない)

 

「いや!離して!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「大人しく来い!」

 

 暗い牢(ろう)の中、一人が外へと連れていかれてしまった。

 

 彼女の妹らしき少女が鉄格子(てつごうし)を掴(うか)み叫(さけ)ぶ。

 

 次はきっと私(わたくし)だ。

 

 いっそ舌(した)を噛(か)んでしまおうか。

 

「お母様、お父様……」

 

「帰りたいよ……」

 

 凄惨(せいさん)で陰鬱(いんうつ)な雰囲気(ふんいき)で満ちた世界に私(わたくし)はいる。

 

 人の腕にはどうしようもない鋼鉄(こうてつ)の 檻(おり)に、魔封(まふう)じの枷(かせ)を着けられ閉じ込められている。

 

「僕をここから出せ!下劣(げれつ)な盗賊(とうぞく)どもめ!」

 

 別の檻(おり)では少年達がまとめて収容(しゅうよう)されている。

 

 私達は人質(ひとじち)だと盗賊(とうぞく)は言っていた、取引をして身代金(みのしろきん)を奪(うば)う為(ため)の餌(えさ)だと。

 

 ここに居るのは私(わたくし)含(ふく)めて皆貴族(みなきぞく)の親族(しんぞく)だろう、だから命だけは保証(ほしょう)されている。

 

 いや、それは盗賊達(とうぞくたち)の裁量(さいりょう)次第(しだい)か。

 

「さっきからうるせえなぁ!おめえらの価値は金でしかねえんだから黙(だま)ってろ!」

 

 監視(かんし)していた盗賊(とうぞく)の一人が、鉄格子(てつごうし)の合間(あいま)に太い腕を伸ばし入れ少年の襟(えり)を掴(つか)む。

 

「――あがっ!」

 

「!」

 

 そして強く引き寄せ、鉄格子(てつごうし)に顔を衝突(しょうとつ)させた。

 

「ケッ!たまたま良いとこに産まれただけのガキがよ!」

 

「いっ、いたひぃ……!」

 

 盗賊が手を離(はな)すと少年は地面に倒れ身悶(みもだ)える、怪我(けが)をしたのか彼の顔は酷(ひど)い出血(しゅっけつ)を起こしていた。

 

(もういやだ、こんな世界)

 

「おい、程々(ほどほど)にしておけよ……」

 

「あ?ムカついたんだからしょうがねえだろうがよ」

 

 盗賊は椅子にドカリと座りなおすと何かを飲み干す。

 

「お前ちゃんと治(なお)しとけよ、バレたらカシラに殺されっぞ、貴族のガキは高く売れんだからよ」

 

「ちっ――、あいつらはこれからお楽しみだってのに、何で俺が見張(みは)りなんかしねえといけねえんだよ!」

 

「まったくだな」

 

 この者達は私達を何者かに売ろうとしているのか、家族の元へ返してくれるのではないのか。

 

 周囲のすすり泣く声が大きくなる。

 

 その時、再び複数人が近づいてくる足音が聞こえて来た。

 

「おい鍵(かぎ)開けろ、女全員外出せ」

 

「はあ?いいのかよ」

 

「今カシラ達は遠出してっからやるんなら今しかねえぞ、どうせバレやしねえって、元騎士(もときし)の誇(ほこ)りだか知んねえけどあいつら手出さねえからな」

 

「後で殺されても知らねえぞ」

 

 盗賊の一人が鉄格子(てつごうし)の鍵(かぎ)を開けて扉を開く。

 

「そうだお前らも来いよ、野郎共(やろうども)はどうせ逃げらんねえんだし」

 

「へっへ、分かってんじゃねえかよ」

 

 盗賊達(とうぞくたち)が下卑(げび)た笑いを浮(う)かべながら檻(おり)の中へ入ってくる。

 

 奴らが近づいて来る程に、強烈(きょうれつ)な刺激臭(しげきしゅう)が漂(ただよ)い吐(は)きそうになる。

 

「おら、こっち来い」

 

「いや!離(はな)して!」

 

 盗賊の一人がまだ幼い少女の腕を引っ張(ぱ)り連れて行こうとする。

 

 彼女は必至(ひっし)の抵抗(ていこう)をしているが、あまりの体格差(たいかくさ)に意味を成(な)していない。

 

「離(はな)しなさい、下郎(げろう)!」

 

 余(あま)りの嫌悪感(けんおかん)で思わず盗賊(とうぞく)の腕(うで)を叩(はた)いてしまった。

 

 彼らを刺激(しげき)してはいけないというのに。

 

「舐(な)めてんじゃねえぞクソアマ!」

 

「――うっ!」

 

 瞬間(しゅんか)、世界が反転(はんてん)した。

 

 殴(なぐ)られたのだという事を理解(りかい)したのと同時に、頬(ほほ)と頭に激痛(げきうう)が走る。

 

「うぅ……」

 

 私(わたくし)の髪を引っ張り醜悪(しゅうあく)な顔を近づけてくる男。

 

『いくら時間稼(かせ)いだって誰も助けなんかこねえんだよ!』

 

 男の声が反響(はんきょう)して聞こえる。

 

 思考(しこう)が纏(まと)まらない。

 

 涙(なみだ)が溢(あふ)れ出しそうになる。

 

 どうして私(わたくし)がこんな目に合わないといけない。

 

『おい頭ぶつけて死んだらどうすんだよ……、もったいねえだろ』

 

『ケッ』

 

 漸(ようや)く髪(かみ)を解放(かいほう)される。

 

(誰(だれ)か――)

 

『オラ、さっさと立てよ』

 

 両腕(りょううで)を抱(かか)えられ無理矢理(むりやり)に立たされる、抵抗(ていこう)しようにもまた暴力(ぼうりょく)を振(ふ)るわれる事への恐怖(きょうふ)で身体(からだ)が動かせない。

 

(助けて……)

 

「気持ちよくしてやるからよ」

 

 そう言って男は私(わたくし)の胸に手を這(は)わせ強く掴み、髪(かみ)に|はな鼻を押し付けてくる。

 

(――痛い!)

 

「良い身体してんなぁ、お嬢様(じょうさま)よお」

 

(気持ち悪い!)

 

(気持ち悪い――!)

 

「そういや知ってるかぁ?お前達がここにいるっての国は知ってるらしいぜ?でも助けには来ねぇのはなんでだろうなぁ」

 

 そんなはずは無い、ある訳が無い。

 

「俺達がつええからよ、要(よう)はお前達は見捨(みす)てられたんだよ、可哀相になァ!」

 

 唐突(とうとう)な大声(おおごえ)に耳鳴(みみな)りが響(ひび)く、不快感(ふかいかん)と衝撃(しょうげき)で心が搔(か)き乱(みだ)される。

 

 心が折(お)れそうになる。

 

(お願い――!)

 

「助けて……!」

 

「ひっへっへっへっはぁー!かわいい反応(はんのう)すんなぁやっぱ」

 

「おいおい、ここで始めようとすんじゃねえよ――なんだ?」

 

「どうした、ってあいつらまた変な薬でも使ったのか?証拠(しょうこ)消すの面倒(めんどう)なんだから余計(よけい)な事すんなっての……」

 

 足元に血のようにまっかな煙(けむり)が漂(ただ)っている、その煙は通路(つうろ)から流れて来ているようで、空間内(くうかんない)を段々(だんだん)と満(み)たし始めている。

 

「……?」

 

 通路(つうろ)の奥へ視線をやると、赤い煙(けむり)の塊(かたまり)に白の面が浮(う)いたナニかが、とてつもない速度(そくど)て接近(せっきん)していた。

 

「なんだありゃ魔物か?」

 

「おいお前ら魔法の準備しろ!」

 

「――うっ!」

 

 戦闘体勢(せんとうたいせい)へ移行(いこう)した盗賊(とうぞく)に檻(おり)の中へ再(ふたた)び放(ほう)られ、体勢(たいせい)を崩(くず)し転(ころ)んでしまった。

 

 再び閉じられた檻の中で、他の子達と身を寄(よ)せ合う。

 

「神様……」

 

 あの紅(くれない)が敵ではないという砂一粒(すなひとつぶ)程の希望(きぼう)を願(ねが)い、戦いの行(ゆ)く末(すえ)を見守(みまも)る。

 

「止まりやがれ!『フレイムブレイズ』!」

 

 盗賊達は紅《くれない》の煙へ魔術を放(はな)った。

 

 五人の魔力を束(たば)ね産み出された魔術の炎は濁流(だくりゅう)のようになり、通路(つうろ)を呑(の)み込み焼き尽(つ)くしていく。

 

「これだけやりゃ死んだだろ……」

 

「馬鹿野郎魔力ゆるめんな!まだ止まってねえぞ!」

 

 盗賊の一人が声を荒(あら)げた瞬間(しゅんかん)、炎の魔術を二つに裂(さ)いた白面(はくめん)の剣士が現れ、盗賊達を纏(まと)めて吹き飛ばした。

 

「な、なにもんだてめえ!」

 

 運よく直撃を避(さ)けた盗賊の一人が、尻(しり)を着(つ)きながら声を荒げる。

 

「……」

 

「聞こえてんのか!――っ!」

 

 白面(はくめん)は仮面に開けられた穴から見える黒い瞳(ひとみ)で私達の方を一瞥(いちべつ)すると、美(うつく)しく透(す)き通った剣を盗賊(とうぞく)の眼前(がんぜん)に突(つ)き付ける。

 

『捕らえているのはここにいる者達が全てか』

 

 底冷(そこび)えするような声で白面(はくめん)が問(と)う、その瞳には侮蔑(ぶべつ)と嫌悪(けんお)の感情が込められていた。

 

 あの目で睨(にら)み据(す)えられたらきっと、私(わたくし)は息をすることも出来なくなってしまうだろう。

 

「だ、誰がてめえなんかに――」

 

 盗賊が反抗(はんこう)の意思(いし)を示(しめ)した瞬間(しゅんかん)、空間内(くうかんない)に物凄(ものすご)い轟音(ごうおん)が響(ひび)き|渡(わた)った。

 

 白面(はくめん)が拳(こぶし)を盗賊の股(また)の間(あいだ)に打(う)ち付けたのだ。

 

 床は固い石で作られているというのに、その拳(こぶし)はあっさりと砕(くだ)き穴を空けてしまった。

 

「ひィッ!」

 

『捕(とら)えているのはここにいる者達が全てか』

 

「――」

 

 再び同じ質問を投げかける剣士、盗賊(とうぞく)は無言(むごん)で何度(なんど)も頷(うなづ)くだけだった。

 

 その目からは涙を流し、身体を震(ふる)わせている。

 

 その無様(ぶざま)な様子を見て、いい気味(きみ)だと自分らしくない事を考えてしまった。

 

『今すぐに|檻(おり)を開ける、少し離(はな)れていてくれ』

 

 先程(さきほど)までの暗く冷たいものでは無い、穏(おだ)やかでゆっくりな喋(しゃべ)り声だ。

 

 彼の言葉に従(したが)い壁際(かべぎわ)まで下がると、白面(はくめん)は灯(あか)りを吸収(きゅうしゅう)して光り輝(かがや)く剣を鞘(さや)に納(おさ)めて姿勢(しせい)を低くする。

 

「ふぅ……」

 

 そして大きく息を吐く。

 

 そのあまりに美しい一連(いちれん)の動作(どうさ)に思わず見惚(みほ)れていると、鉄格子(てつごうし)が突如(とつじょ)崩(くず)れ落(お)ちる。

 

 視線(しせん)を戻すと。剣士は輝(かがや)く剣を鞘(さや)に納(おさ)めていた。

 

「鋼鉄(こうてつ)の檻(おり)を斬ったのかよ、すげえ……」

 

「……」

 

 隣(となり)の檻(おり)だった残骸(ざんがい)の中で、少年が感嘆(かんたん)の声を上げる。

 

 白面(はくめん)はそちらに視線を向けるとゆっくりと近づいていき、布(ぬの)を取り出すと未(いま)だに血を流している金髪の貴族の顔を優しく拭(ぬぐ)う。

 

『私が治すことが出来れば良かったのだが、少しの間これで我慢(がまん)していてくれ』

 

「――っ!」

 

 先程まで盗賊に罵声(ばせい)を浴(あ)びせていた少年も|敵(かな)わないと理解(りかい)しているのか、呆気(あっけ)に取られているのか、どこか大人(おとな)しいままだ。

 

『そちらも怪我は無いか?』

 

「だっ――俺は大丈夫です!」

 

『よし』

 

 白面(はくめん)は頷(うなづ)くと私(わたくし)の近くにゆっくりと歩いてくると、片膝(かたひざ)を付いて目線(めせん)の高さを合わせる。

 

『口が切れてしまっているな、まだ痛(いた)むか?』

 

「……いえ、大丈夫ですわ」

 

 少し警戒(けいかい)していると、白面(はくめん)は懐(ふところ)から綺麗(きれい)な布を取り出し私の口の|端(はし)を拭(ぬぐ)った。

 

「っ!」

 

 そして私(わたくし)の手に布を乗せると、後ろに隠(かく)れている二人に目を向ける。

 

「二人も怪我(けが)は無いか?」

 

「はっ、はい」

 

 一人は返事を返したが、まだ幼い橙色(だいだいいろ)の髪の少女は白い面が怖いのか、顔をずっと下に向けてしまっている。

 

 彼もそれを察(さっ)したのか、白面(はくめん)に手を当て、後頭部(こうとうぶ)に通された 細長(ほそなが)い布をほどいていく。

 

 そしてゆっくりと外されていく仮面(かめん)の奥(おく)から、息を飲むような端正(たんさい)な顔立(かおだ)ちが現れた。

 

 彼は白の仮面を視線を下ろしたままの少女に見えるように床に置き、彼女の視線(しせん)を上に誘導(ゆうどう)する。

 

「私は皆(みな)の味方(みかた)だ、どうか安心して欲しい」

 

 そして漸(ようや)く顔を上げて少し目を見開(みひら)いた少女に、安心(あんしん)させるように微笑(ほほえ)んだ。

 

 私に向けられたものでは無いというのに、慈愛(じあい)に満ちたその表情を見て、ずっと堪(こら)えていた涙(なみだ)が溢(あふ)れ出してしまう。

 

 それは彼女達も同様の様で先程(さきほど)までの恐怖(きょうふ)による涙では無く、しばらくは安堵(あんど)と歓喜(かんき)の涙を流した。

 

「立てるか?」

 

「はい……」

 

 彼に手を引かれゆっくりと立ち上がる。

 

 泣き顔を見られた気恥(きは)ずかしさから、その真(ま)っ直(す)ぐな眼差(まなざ)しに目を合わせる事が出来ない。

 

 私達が無事(ぶじ)に立ち上がった事を見届(みとど)けた剣士は、再(ふたた)び少年達の方へ歩いて行く。

 

 彼らは私達と違(ちが)い緊張(きんちょう)しているのか、剣士が近づくと自ら立ち上がり表情(ひょうじょう)を固(かた)くさせる。

 

「ご、ご苦労(くろう)だった、お前には後で褒美(ほうび)をやるから名前を教えろ――」

 

「ばっか!助けてもらったのに怒(おこ)らせるような態度(たいど)取るなって!」

 

 先程(さきほど)まで痛(いた)みに悶(もだ)えていた少年は調子(ちょうし)を取り戻したのか、傲慢(ごうまん)な態度(たいど)で接(せっ)しているが、鼻血(はなぢ)の痕(あと)で顔を汚したままでは少し可笑(おか)しくなってしまう。

 

 剣士も同じ感情だったのか、安心させるためなのか、嫌味(いやみ)も言わずに微笑(ほほえ)んで見せる。

 

「私の名はアルマ=リュウガンジだ、好きに呼ぶといい」

 

 自己紹介をしながらアルマ様は少年の頭を撫(な)でる。

 

「なっ――!僕を子供扱(こどもあつか)いするのはやめろ!」

 

 少年は手を払(はら)いのけ怒り出した。

 

 照(て)れているのか顔が若干赤くなっていて、それを隠(かく)そうとしてるのかそっぽを向いてしまった。

 

「そんな事よりこの枷(かせ)を取ってくれないか?これがあるせいで魔術が使えないんだ」

 

 もう一人の少年が両手に着けられた枷(かせ)をアルマ様に見せる。

 

「魔封じの枷か、おい枷を外す鍵はどこにある」

 

 アルマ様は通路の外へ逃れようとしていた男の襟(えり)を掴み、腕の力だけで持ち上げると壁に押し付けた。

 

 その口調はまた冷たい物へと戻っていて、身体が竦(すく)みそうになってしまう。

 

「か、鍵はカシラが持ってる!ここにはねえ!」

 

「……」

 

 嘘は許さないと無言で睨みつけ、先程床に穴を空けた手で男の頭を掴む。

 

「本当だ!信じてくれ!」

 

「枷(かせ)を壊(こわ)された際(さい)に発動する魔術は仕込んでいるのか」

 

 言葉に嘘(うそ)は無いと判断(はんだん)したのか、アルマ様は続けて質問を投げかける。

 

 その間もずっと手の平は頭を掴(つか)んでおり、視線(しせん)は真実(しんじつ)を見極(みきわ)めるべく男を貫(つらぬ)き続けている。

 

「な、なんも仕掛(しか)けてねえ!そもそも人の手で壊せたり魔術が仕掛(しか)けられる代物(しろもの)じゃねえんだ!」

 

「本当ですわ、最初に魔封(まふう)じの術式(じゅつしき)を刻(きざ)まれた時点から他の魔術(まじゅつ)は一切(いっさい)通りません」

 

 同情(どうじょう)した訳では無い、これ以上あの男の声を耳に入れたくなかっただけだ。

 

「ぐえっ――」

 

 アルマ様は男の顎(あご)を殴(なぐ)って気絶(きぜう)させてから、こちらへ向き歩いて近づく。

 

「では直ぐに外そう、手を出してくれ」

 

 両腕を差し出すと、アルマ様は私に嵌(は)められた枷(かせ)を掴(つか)み感触(かんしょく)を確(たし)かめる。

 

 その際(さい)に偶然(くうぜん)触(ふ)れた彼の指に、思わず身体を震(ふる)わせてしまった。

 

「――っ!も、申し訳ありません……」

 

「怖(こわ)いだろうが、少し我慢(がまん)していてくれ」

 

「はい……」

 

 この人は安全な人だと分かっているのに、奥底(おくそこ)の防衛本能(ぼうえいほんのう)が危険(きけん)だと叫(さけ)んでいる。

 

「よし、始めるぞ」

 

 彼が息を少し吸(す)い込むと次第に手枷(てかせ)が歪(ゆが)み始め、手首を捕(と、)らえていた輪(わ)が一人でに開き床に落下(らっか)し重い金属音(きんぞくおん)を立てた。

 

「――マジかよ、これって金属だろ?」

 

「これなら問題なさそうだ」

 

 アルマ様は次々と枷を破壊し、私達を魔封(まふう)じから解放(かいほう)した。

 

「これで漸(ようや)くこいつらに復讐(ふくしゅう)できる……!よくも僕の顔に傷(きず)を付けてくれたな!」

 

 少年が先程傷を負わせた男の顔を踏みつける、既に意識は途切れており反応は帰ってこない。

 

「そのような事をしている場合では無い、早い所この森を出るぞ」

 

 アルマ様はそれを咎(とが)め少年の襟(えり)を掴(つか)んで片手で持ち上げると、通路(つうろ)へと連れていく。

 

「離(はな)せ!こいつらはここで殺してやる――!」

 

 腕の中で必死(ひっし)に暴(あば)れているが彼はまったく苦(く)にした様子も無く通路を進んでいく、私達(わたくしたち)も彼とはぐれないように後へ続いた。

 

「この間に盗賊(とうぞく)の本隊が戻ってくる可能性(かのうせい)もある、そうなれば護(まも)る事が難(むずか)しくなる」

 

「……」

 

 少年は彼の正論(せいろん)に黙(だま)ってしまう、幾(いく)ら魔術が使えるようになったとしても私達(わたくしたち)は足手(あしで)まといなのだ。

 

「決して刃(やいば)を届(とど)かせるつもりはないがな」

 

 暗くなった表情(ひょうじょう)を和(なご)ませようとしたのか、アルマ様が少年の金の髪(かみ)を撫(な)でる。

 

「だから子供扱いをするなと言っているだろう!」

 

 少年はその手をどかして怒ると、拗(す)ねた表情になってしまった。

 

「あの!アルマ、様!」

 

 夕日(ゆうひ)のような橙(だいだい)の髪を腰まで伸ばした少女が彼に一歩近づく。

 

「どうした?」

 

「セレナお姉ちゃんは大丈夫なの、ですか?」

 

「……彼女の名前か、今は内側(うちがわ)から鍵(かぎ)を閉められる場所に隠(かく)れていてもらっている、まずはそこへ向かおう」

 

「――うん!」

 

 (良かった、彼女も助けて貰(もら)えたんだ)

 

 その後は不安を紛(まぎ)らわすように、自己紹介(じこしょうかい)を交(か)わしながら通路を歩いていると奥から光が見えて来た。

 

 通路を抜け広間か(ひろま)へ出ると盗賊達が血に濡(ぬ)れ、赤い水溜(みずたま)りに倒(たお)れ伏(ふ)していた。

 

「――っ!」

 

 後から広間へ出て来たアーティアがその光景(こうけい)に言葉を失(うしな)い、その場で立ち尽くしてしまう。

 

「怖いなら目を瞑(つむ)っていい、私が連れていく」

 

 アルマ様はアーティアの視界を隠すように前に立ち手を差し出す。

 

「う、うん……」

 

「では歩き出すぞ」

 

 アーティアの手を引き再び歩き出す彼の背からなるべく目を離さないようにして追う、私もあまりこういった光景(こうけい)は目にしたくない。

 

 程(ほど)なくして広間を抜け、再び細い通路を歩いているとふと背中が止まった。

 

「ここだ――鍵(かぎ)を開けてくれ」

 

 アルマ様が扉(とびら)の向こうへ声を投げかけると、ガチャリと鍵(かぎ)の開く音と同時に遠ざかっていく足音(あしおと)が聞こえた。

 

「開けるぞ」

 

 扉を開くとアーティアの姉であるセレナが、部屋に幾(いく)つも備(そな)えられた大きな鎧(よろい)の後ろに隠れていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「アーティア――?アーティア!ああ、無事(ぶじ)でよかった……!」

 

 駆(か)け寄(よ)った姉妹同士が部屋の中央で抱きしめ合い、生きている事確かめる。

 

「ヒュリアス、ハイアル、剣は扱(あつか)えるか?」

 

「当然だ、剣は貴族の嗜(たしな)みだぞ」

 

「一応使えますけど、人を斬ったこと無いですよ?」

 

 二人は剣を受け取ると、革製(かわせい)の腰帯(こしおび)を巻きそこに剣を差して固定する。

 

「人の相手は私が請(う)け負(お)う、その剣は魔物(まもの)に対しての自衛(じえい)に使ってくれ」

 

 怖いけれど、私(わたくし)も何かをやらなければ。

 

「アルマ様、ワタクシにも何かできる事はありませんか?」

 

 地図を確認している彼の傍(そば)に行くと、深緑(しんりょく)の長髪(ちょうはつ)を揺(ゆ)らしてノーラが隣(となり)に並(なら)んだ。

 

「わ、私も手伝います!」

 

「カルミナ、ノーラ、二人には魔術による支援(しえん)を頼みたい」

 

 困(こま)らせてしまっただろうか、だけどこれで少し恩(おん)を返すことが出来る。

 

「分かりました」

 

「魔術支援(まじゅうしえん)……!が、頑張(がんば)ります!」

 

「頼(たよ)りにしている、靴(くつ)に関しては此処(ここ)にあるものを選んでくれ」

 

 装飾(そうしょく)の凝(こ)った様々(さまざま)な靴(くつ)の山から自分の物を取り、履(は)き心地(ここち)を確かめる、特におかしなことはされていないようだ。

 

「カルミナさんどうぞ、杖(つえ)です」

 

「ありがとうノーラさん」

 

 杖を受け取り魔力の渦(うず)を作り出す、いつも使っている物と感覚(かんかく)は違うが問題は無い。

 

「セレナは一先ずこれを着ていてくれ、私達は先に出ている」

 

「はい……」

 

 アルマ様は美しいドレスを手渡すと、男性陣を連れて部屋の外へ出ていった。

 

「着替えるのを手伝いますわ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 セレナは外套(がいとう)を脱いでいく。

 

「貴女……!」

 

 その下に着ていた服は中央から裂(さか)かれ、下着(したぎ)は既(すで)に剥(は)ぎ取られた後だった。

 

 理不尽(りふじん)な事に対する怒りで、頭の中が沸騰(ふっとう)しそうになる。

 

「だっ、大丈夫です――!すんでのところであの方に助け出して頂(いただ)きましたから」

 

「そう、良かった……」

 

 だからといってこの怒りが消えるわけではない、とはいえセレナが無事だと分かって少し冷静になる事ができた。

 

 着替えを済ませて部屋の外へ出ると、窓(まど)の外を眺(なが)めていたアルマ様がこちらへ振り向いた。

 

「皆準備はいいか?」

 

「当然だ」

 

「大丈夫っす」

 

「い、いけます」

 

「問題ありませんわ」

 

「よし、セレナとアーティアは逸(はぐ)れないよう着いてきれくれ」

 

「あの、これ……」

 

 セレナが恐る恐る彼に近づき、外套(がいとう)を差し出す。

 

 彼女もまだ男性が怖いだろうに、その行動を起こせる事に思わず敬意(けいい)の念(ねん)を抱(いだ)いてしまう。

 

 アルマ様はなるべく手が触れ合わないようにゆっくり受け取ると、荷物を一度降ろし外套(がいとう)を羽織(はお)る。

 

「では行くぞ」

 

「はい」

 

 先頭の背中を追いかけて、ここから脱出(だっしゅつ)するべく走り出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。