武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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闇を払う(くれない)

 

「いや!離して!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「大人しく来い!」

 

 暗い牢の中、一人が外へ連れていかれてしまった。

 

 彼女の妹らしき少女が鉄格子を掴み叫ぶ。

 

 次はきっと私だ。

 

 いっそ舌を噛んでしまおうか。

 

「お母様、お父様……」

 

「帰りたいよ……」

 

 凄惨(せいさん)陰鬱(いんうつ)な雰囲気で満ちた世界に(わたくし)はいる。

 

 人の腕にはどうしようもない鋼鉄の檻に、魔封じの(かせ)を着けられ閉じ込められている。

 

「僕をここから出せ!下劣な盗賊どもめ!」

 

 別の檻で少年達がまとめて収容されている。

 

 私達は人質だと盗賊は言っていた、取引をして身代金を奪う為の餌だと。

 

 ここに居るのは私含めて皆貴族の親族だろう、だから命だけは保証されている。

 

 いや、それは盗賊達の裁量(さいりょう)次第か。

 

「さっきからうるせえなぁ!おめえらの価値は金でしかねえんだから黙ってろ!」

 

 檻を監視していた盗賊の一人が、太い腕を伸ばし入れ少年の襟を掴む。

 

「あがっ!」

 

「!」

 

 そして強く引き寄せ、鋼鉄の檻に顔を衝突させた。

 

「ケッ!たまたま良いとこに産まれただけのガキがよ……!」

 

「いっ、いたひぃ……!」

 

 盗賊が手を離すと少年は地面に倒れ身悶(みもだ)える、怪我をしたのか彼の顔は酷い出血を起こしていた。

 

(もういやだ、こんな世界……)

 

「おい、程々にしておけよ……」

 

「あ?ムカついたんだからしょうがねえだろうがよ」

 

 盗賊は椅子にドカリと座りなおすと何かを飲み干す。

 

「お前ちゃんと治しとけよ、バレたらカシラに殺されっぞ……、貴族のガキは高く売れんだからよ」

 

「ちっ……、あいつらこれからお楽しみだってのに、何で俺が見張りなんかしねえといけねえんだよ!」

 

「まったくだな」

 

 この者達は私達を何者かに売ろうとしているのか、家族の元へ返してくれるのではないのか。

 

 周囲のすすり泣く声が大きくなる。

 

 その時、再び複数人が近づいてくる足音が聞こえて来た。

 

「おい鍵開けろ、女全員外出せ」

 

「はあ?いいのかよ」

 

「今カシラ達は遠出してっからやるんなら今しかねえぞ、どうせバレやしねえって、元騎士の誇りか知んねえけどあいつら手出さねえからな」

 

「後で殺されても知らねえぞ……」

 

 盗賊の一人が鉄格子の鍵を開けて扉を開く。

 

「そうだお前らも来いよ、野郎共はどうせ逃げらんねえんだし」

 

「へっへ、分かってんじゃねえかよ」

 

 盗賊達が下卑(げび)た笑いを浮かべながら檻の中へ入ってくる。

 

 奴らが近づいて来る程に、強烈(きょうれつ)な刺激臭が漂い吐きそうになる。

 

「おら、こっち来い」

 

「嫌!離して!」

 

 盗賊の一人がまだ幼い少女の腕を引っ張り連れて行こうとする。

 

 彼女は必至の抵抗をしているが、あまりの体格差に意味を成していない。

 

「離しなさい、下郎(げろう)!」

 

 余りの嫌悪感で思わず盗賊の腕をはたいてしまった。

 

 彼らを余り刺激してはいけないというのに。

 

「舐めてんじゃねえぞクソアマ!」

 

「!」

 

 瞬間、世界が反転した。

 

 殴られたのだという事を理解したのと同時に、頬と頭に激痛が走る。

 

「うぅ……っ」

 

 私の髪を引っ張り醜悪(しゅうあく)な顔を近づけてくる男。

 

『いくら時間稼いだって誰も助けなんかこねえんだよ!』

 

 男の声が反響して聞こえる。

 

 思考が(まと)まらない。

 

 涙が溢れ出しそうになる。

 

 どうして私がこんな目に合わないといけない。

 

『おい頭ぶつけて死んだらどうすんだよ……、もったいねえだろ』

 

『ケッ』

 

 漸く髪を解放される。

 

(誰か……)

 

 『オラ、さっさと立てよ』

 

 両腕を抱えられ無理矢理に立たされる、抵抗しようにもまた暴力を振るわれる事への恐怖で身体が動かせない。

 

(助けて……)

 

「気持ちよくしてやるからよ……」

 

 そう言って男は私の胸に手を()わせ強く掴み、髪に鼻を押し付けてくる。

 

(痛い……!)

 

「良い身体してんなぁ、お嬢様よお……」

 

(気持ち悪い!)

 

(気持ち悪い……!)

 

「そういや知ってるかぁ?お前達がここにいるっての国は知ってるらしいぜ?でも助けには来ねぇのはなんでだろうなぁ」

 

 そんなはずは無い、ある訳が無い。

 

「俺達がつええからよ、要はお前達は見捨てられたんだよ、可哀相になァ!」

 

 唐突な大声に耳鳴りが響く、不快感と衝撃で心が搔き乱される。

 

 心が折れそうになる。

 

(お願い……!)

 

「助けて……!」

 

「ひっへっへっへっはぁー!かわいい反応すんなぁやっぱ」

 

「おいおい、ここで始めようとすんじゃねえよ……、なんだ?」

 

「どうした、ってあいつらまた変な薬でも使ったのか?証拠消すの面倒なんだから余計な事すんなっての……」

 

 足元に血のようにまっかな煙が漂っている、その煙は通路から流れて来ているようで、空間内を段々と満たし始めている。

 

「……?」

 

 通路の奥へ視線をやると、赤い煙の塊に白の面が浮いたナニかが、とてつもない速度て接近していた。

 

「なんだありゃ……、魔物か?」

 

「おいお前ら魔法の準備しろ!」

 

「うっ!」

 

 戦闘体勢へ移行した盗賊に檻の中へ再び放られ、体勢を崩し転んでしまった。

 

 再び閉じられた檻の中で、他の子達と身を寄せ合う。

 

「神様……」

 

 あの紅が敵ではないという砂一粒程の希望を願い、戦いの行く末を見守る。

 

「止まりやがれ!『フレイムブレイズ』!」

 

 盗賊達は赤の煙へ向かい魔術を放った。

 

 五人の魔力を束ね産み出された魔術の炎は濁流(だくりゅう)のようになり、通路を呑み込み焼き尽くしていく。

 

「これだけやりゃ死んだだろ……」

 

「馬鹿野郎魔力ゆるめんな!まだ止まってねえぞ!」

 

 盗賊の一人が声を荒げた瞬間、炎の魔術を二つに裂いた白面(はくめん)の剣士が現れ、盗賊達を纏めて吹き飛ばした。

 

「な、なにもんだてめえ!」

 

 運よく直撃を避けた盗賊の一人が、尻を着きながら声を荒げる。

 

「……」

 

「聞こえてんのか!……っ!」

 

 白面は仮面に開けられた穴から見える黒い瞳で私達の方を一瞥すると、美しく透き通った剣を盗賊の眼前に突き付ける。

 

『捕らえているのはここにいる者達が全てか』

 

 底冷えするような声で白面が問う、その瞳には侮蔑(ぶべつ)嫌悪(けんお)の感情が込められていた。

 

 あの目で睨み据えられたらきっと、私は息をすることも出来なくなってしまうだろう。

 

「だ、誰がてめえなんかに」

 

 盗賊が反抗の意思を示した瞬間、空間内に物凄い轟音が響き渡った。

 

 白面が拳を盗賊の股の間に打ち付けたのだ。

 

 床は固い石で作られているというのに、その拳はあっさりと砕き穴を空けてしまった。

 

「ひィッ!」

 

『捕らえているのはここにいる者達が全てか』

 

「……」

 

 再び同じ質問を投げかける剣士、盗賊は無言で何度も頷くだけだった。

 

 その目からは涙を流し、身体を震わせている。

 

 その無様な様子を見て、いい気味だと自分らしくない事を考えてしまった。

 

『今直ぐに檻を開ける、少し離れていてくれ』

 

 先程までの暗く冷たいものでは無い、穏やかでゆっくりな喋り声だ。

 

 彼の言葉に従い壁際まで下がると、白面は灯りを吸収して光り輝く剣を鞘に納めて姿勢を低くする。

 

「……ふぅ」

 

 そして大きく息を吐く。

 

 そのあまりに美しい一連の動作に思わず見惚れていると、鉄格子が突如崩れ落ちる。

 

 視線を戻すと。剣士は輝く剣を鞘に納めていた。

 

「鋼鉄の檻を斬ったのかよ、すげえ……」

 

「……」

 

 隣の檻だった物の中にいる、少年が感嘆(かんたん)の声を上げる。

 

 白面はそちらに視線を向けるとゆっくりと近づいていき、布を取り出すと未だに血を流している金髪の貴族の顔を優しく拭う。

 

『私が治すことが出来れば良かったのだが、少しの間これで我慢していてくれ』

 

「……っ!」

 

 先程まで盗賊に罵声(ばせい)を浴びせていた少年も敵わないと思っているのか、呆気に取られているのか、どこか大人しいままだ。

 

『そちらも怪我は無いか?』

 

「だっ……、俺は大丈夫です!」

 

『よし』

 

 白面は頷くと私の近くにゆっくりと歩いてくると、片膝を付いて目線の高さを合わせてくる。

 

『口が切れてしまっているな、まだ痛むか?』

 

「……いえ、大丈夫ですわ」

 

 少し警戒していると、白面は懐から綺麗な布を取り出し私の口元を拭った。

 

「……!」

 

 そして私の手に布を乗せると、後ろに隠れている二人に目を向ける。

 

「二人も怪我は無いか?」

 

「はっ、はい」

 

 一人は返事を返したが、まだ幼い橙色の髪の少女は白い面が怖いのか、顔をずっと下に向けてしまっている。

 

 彼もそれを察したのか、白の面に手を当て、後頭部に通された細長い布をほどいていく。

 

 そしてゆっくりと外されていく仮面の奥から、息を飲むような端正な顔立ちが現れた。

 

 彼は白の仮面を視線を下ろしたままの少女に見えるように床に置き、彼女の視線を上に誘導する。

 

「私は皆の味方だ、安心して欲しい」

 

 そして漸く顔を上げて少し目を見開いた少女に、安心させるように微笑んだ。

 

 私に向けられたものでは無いというのに、慈愛に溢れたその表情を見て、ずっと堪えていた涙が溢れ出してしまう。

 

 それは彼女達も同様の様で、先程までの恐怖による涙では無く、しばらくは安堵(あんど)と歓喜の涙を流していた。

 

「立てるか?」

 

「はい……」

 

 彼に手を引かれゆっくりと立ち上がる。

 

 泣き顔を見られた気恥ずかしさから、その真っ直ぐな眼差しに目を合わせる事が出来ない。

 

 私達が無事に立ち上がった事を見届けた剣士は、再び少年達の方へ歩いて行く。

 

 彼らは私達と違い緊張しているのか、剣士が近づくと自ら立ち上がり表情を固くさせる。

 

「ご、ご苦労だった、お前には後で褒美をやるから名前を教えろ!」

 

「……ばっか!助けてくれたのに怒らせるような態度取るなって!」

 

 先程まで痛みに悶えていた少年は調子を取り戻したのか勝気な態度で接しているが、鼻血の痕で顔を汚したままでは少し可笑しくなってしまう。

 

 剣士も同じ感情だったのか、安心させるためなのか、嫌味も言わずに微笑んで見せる。

 

「私の名はアルマ=リュウガンジ、好きに呼ぶといい」

 

 自己紹介をしながらアルマ様は少年の頭を撫でる。

 

「なっ!僕を子供扱いするのはやめろ!」

 

 少年は手を払いのけると怒り出した。

 

 照れているのか顔が若干赤くなっていて、それを隠そうとしてるのかそっぽを向いてしまった。

 

「そんな事よりこの枷を取ってくれないか?これがあるせいで魔術が使えないんだ」

 

 もう一人の少年が両手に着けられた枷をアルマ様に見せる。

 

「魔封じの枷か……、おい枷を外す鍵はどこにある」

 

 アルマ様は通路の外へ逃れようとしていた男の襟を掴み、腕の力だけで持ち上げると壁に押し付けた。

 

 その口調はまた冷たい物へと戻っていて、身体が(すく)みそうになってしまう。

 

「か、鍵はカシラが持ってる!ここにはねえ!」

 

「……」

 

 嘘は許さないと無言で睨みつけ、先程床に穴を空けた手で男の頭を掴む。

 

「本当だ!信じてくれ!」

 

「枷を壊された際に発動する魔術は仕込んでいるのか」

 

 言葉に嘘は無いと判断したのか、アルマ様は続けて質問を投げかける。

 

 その間もずっと手の平は頭を掴んでおり、視線は真実を見極めるべく男を貫き続けている。

 

「な、なんも仕掛けてねえよ!そもそも人の手に壊せる代物でも魔術が仕掛けられるものでもねえんだ!」

 

「本当ですわ、最初に魔封じの術式を刻まれた時点から他の魔術は一切通りません」

 

 同情した訳では無い、これ以上あの男の声を耳に入れたくなかっただけだ。

 

「うげっ」

 

 アルマ様は男の顎を殴って気絶させてから、こちらへ向き歩いて近づく。

 

「では直ぐに外そう、手を出してくれ」

 

 両腕を差し出すと、アルマ様は私に嵌められた枷を掴み感触を確かめる。

 

 その際に偶然触れた彼の指に思わず身体を震わせてしまった。

 

「……っ!も、申し訳ありません……」

 

「怖いだろうが、少し我慢していてくれ」

 

「はい……」

 

 この人は安全な人だと分かっているのに、奥底の防衛本能が危険だと叫んでいる。

 

「よし、始めるぞ」

 

 彼が息を少し吸い込むと次第に手枷が歪み始め、手首を捕らえていた輪が一人でに開き、床に思い金属音を立て転がった。

 

「マジかよ……、これって金属だろ?」

 

「これなら問題なさそうだ」

 

 アルマ様は次々と枷を破壊し、私達を魔封じから解放した。

 

「これで漸くこいつらに復讐できる……!よく僕の顔に傷を付けてくれたな!」

 

 少年が先程傷を負わせた男の顔を踏みつける、既に意識は途切れており反応は帰ってこない。

 

「そのような事をしている場合では無い、早い所この森を出るぞ」

 

 アルマ様はそれを(とが)めると通路へと連れていく。

 

「離せ!こいつらはここで殺してやる!」

 

 腕の中で必死に暴れているが彼はまったく苦にした様子も無く通路を進んでいく、私達も彼とはぐれないように後へ続いた。

 

「この間に盗賊の本隊が戻ってくる可能性もある、そうなれば護る事が難しくなる」

 

「……」

 

 少年は彼の正論に黙ってしまう、幾ら魔術が使えるようになったとしても私達は足手まといなのだ。

 

「決して刃を届かせるつもりはないがな」

 

 暗くなった表情を和ませようとしたのかアルマ様が金の髪を撫でる。

 

「だから子供扱いをするなと言っているだろう!」

 

 少年はその手をどかして怒ると、拗ねた表情になってしまった。

 

「あの!アルマ様……!」

 

 夕日のような(だいだい)の髪を腰まで伸ばした少女が彼に一歩近づく。

 

「どうした?」

 

「セレナお姉ちゃんは大丈夫なの、ですか……?」

 

「……彼女の名前か、今は内側から鍵を閉められる場所に隠れていてもらっている、まずはそこへ向かおう」

 

「うん……!」

 

 (よかった、彼女も助けて貰えたんだ……)

 

 その後は不安を(まぎ)らわすように、自己紹介を交わしながら通路を歩いていると奥から光が見えて来た。

 

 通路を抜け広間へ出ると盗賊達が血に濡れ、赤い水溜りに倒れ伏していた。

 

「……っ!」

 

 後から広間へ出て来たアーティアがその光景に言葉を失い、その場で立ち尽くしてしまう。

 

「……怖いなら目を瞑っていい、私が連れていく」

 

 アルマ様はアーティアの視界を隠すように前に立ち手を差し出す。

 

「お願いします……」

 

「では歩き出すぞ」

 

 アーティアの手を引き再び歩き出す彼の背からなるべく目を離さないようにして追う、私もあまりこういった光景は目にしたくない。

 

 程なくして広間を抜け、再び細い通路を歩いているとふと背中が止まった。

 

「ここだ、鍵を開けてくれ」

 

 扉の向こうへ声を投げかけると、ガチャリと鍵の開く音と同時に遠ざかっていく足音が聞こえた。

 

「開けるぞ」

 

 扉を開くとアーティアの姉であるセレナが、部屋に幾つも備えられた大きな鎧の後ろに隠れていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「アーティア……?アーティア!ああ良かった無事で……!」

 

 駆け寄った姉妹同士が部屋の中央で抱きしめ合い、生きている事確かめる。

 

「ヒュリアス、ハイアル、剣は扱えるか?」

 

「当然だ、剣は貴族の嗜みだぞ」

 

「一応使えますけど、人を斬ったこと無いですよ?」

 

 二人は剣を受け取ると、革製の腰帯を巻きそこに剣を差して固定する。

 

「人の相手は私が請け負う、その剣は魔物に対しての自衛の為に使ってくれ」

 

 怖いけれど、私も何かをやらなければ。

 

「アルマ様、ワタクシにも何かできる事はありませんか?」

 

 地図を確認している彼の傍に行くと、深緑の長髪を揺らしてノーラが隣に並んだ。

 

「わ、私も手伝います!」

 

「カルミナ、ノーラ、二人には魔術による支援を頼みたい」

 

 困らせてしまっただろうか、だけどこれで少し恩を返すことが出来る。

 

「分かりました」

 

「魔術支援……、が、頑張ります!」

 

「頼りにしている、靴に関しては此処にあったものを選んでくれ」

 

 装飾の凝った様々ある靴の山から自分の物を取り履き感触を確かめる、特におかしなことはされていない。

 

「カルミナさんどうぞ、杖です」

 

「ありがとうノーラさん」

 

 杖を受け取り魔力の渦を作り出す、いつも使っている物と感覚は違うが問題は無い。

 

「セレナは一先ずこれを着ていてくれ、私達は先に出ている」

 

「……はい」

 

 アルマ様は豪華なドレスを手渡すと、男性陣を連れて部屋の外へ出ていった。

 

「着替えるのを手伝いますわ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 セレナは外套を脱いでいく。

 

「貴女……!」

 

 その下に着ていた服は中央から裂かれ、下着は既に剥ぎ取られた後だった。

 

 理不尽な事に対する怒りで、頭の中が沸騰(ふっとう)しそうになる。

 

「だっ、大丈夫です……!すんでのところであの方に助け出して頂きましたから」

 

「そう、良かった……」

 

 だからといってこの怒りが消えるわけではない、とはいえセレナが無事だと分かって少し冷静になる事ができた。

 

 着替えを済ませて部屋の外へ出ると、窓の外を眺めていたアルマ様がこちらへ振り向いた。

 

「皆準備はいいか?」

 

「当然だ」

 

「大丈夫っす」

 

「い、いけます」

 

「問題ありませんわ」

 

「よし、セレナとアーティアは逸れないよう着いてきれくれ」

 

「あの、この外套……」

 

 セレナが恐る恐る彼に近づき、外套を差し出す。

 

 彼女もまだ男性が怖いだろうに、その行動を起こせる事に思わず敬意の念を抱いてしまう。

 

 アルマ様はなるべく手が触れ合わないようにゆっくり受け取ると、荷物を一度降ろし外套を羽織る。

 

「では行くぞ」

 

「はい」

 

 先頭を走り出る彼の背中を追いかけて、ここから脱出するべく走り出した。

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