武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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護衛依頼2日目③

「居たぞ!(つか)まえろ!」

 

邪魔(じゃま)だ……!」

 

 立ち(ふさ)がる盗賊(とうぞく)から振り下ろされた剣の横を裏拳(うらこぶし)(なぐ)りつけ(はじ)き飛ばし、胸を殴りつけ後ろに(ひか)えていた者達諸共(もろとも)吹き飛ばす。

 

 付いて来ている者達を置いて行かないように、最大限気を使いながら先陣(せんじん)()ける。

 

 短い時間だが彼らと居て分かった事がある、それは血や人の死に()れていないという事だ。

 

 つまりなるべく斬らず、肉体を損壊(そんかい)させることなく終わらせなければならない。

 

 私も人を()る事に()れ切った訳では無いが、最初に妖刀(ようとう)を手に入れた時から覚悟(かくご)は決めている。

 

「もうじき盗賊(とうぞく)野営地(やえいち)を抜けるぞ!」

 

「行かせるかよ!てめえはここで死ぬ!」

 

 金棒(かなぼう)を担いだ大男が立ち(ふさ)がる。

 

 速度を(ゆる)めることなく突き進むと、奴は金棒(かなぼう)を両手で大きく振り上げる。

 

 人としては頑丈(がんじょう)だがオークなどの魔物よりは(もろ)い人間は、この状況で戦う相手としては面倒だ。

 

 威力が弱すぎては意識を(うば)えず、加減(かげん)間違(まちがえる)えると身体を(くず)してしまう。

 

「ウッドバインド!」

 

「ライトニングフルーレ!」

 

「ぐああっ!」

 

 地面から伸びた木の根が金棒に絡まり、細く鋭い雷鳴(らいめい)の剣が大男の腹に突き刺さる。

 

「良くやった」

 

 強く地面を蹴って飛び上がり、大男の側頭部(そくとうぶ)に回し()りを(はな)ち地面に叩きつける。

 

 着地して即座に前方へ駆け出し、盗賊が放つ魔術を刀で切り裂き、飛来(ひらい)した複数の矢を断ち切る。

 

 遅れて飛んで来た一本を掴み、背中から弓を外し数人の盗賊を壁に矢で()い付ける。

 

「セレナ、アーティア先に向かえ!カルミナとノーラは援護(えんご)をしながらそれに続け!」

 

「分かりましたわ!」

 

「ヒュリアス!ハイアル!彼女達に盗賊共を近づけるな!」

 

淑女(しゅくじょ)(まも)るのは貴族として当然だ!」

 

「了解!」

 

 それぞれに指示を飛ばし戦わずに離脱(りだつ)する事を優先させながら、盗賊が道を(ふさ)がないよう弓で牽制(けんせい)する。

 

 そのおかげもあってか剣や槍を扱う盗賊は近づいて来なくなった、だがその間にも魔術や弓矢による攻撃は()えず()(そそ)いでくる。

 

 幸い弓の精度は低く一部だけ防いでいれば決して当たることは無い、練度(れんど)の高い魔術師(まじゅつし)の数はそこまででもなく一人で対処(たいしょ)できる程度(ていど)だ。

 

「あうぅ……!」

 

「ノーラさん!」

 

 ノーラが何かに(つまづ)(ころ)んでしまい、カルミナが足を止めて助け起こそうとする。

 

「あの女二人を集中攻撃しろ!」

 

 大量の矢と魔術の雨が二人を狙い放たれる。

 

「――っ!」

 

 一気に加速(かそく)してノーラとカルミアの前に立ち盾となり、降り注ぐ魔術を切り裂き矢を圧し折っていく。

 

 すり抜けた矢が、身体へ突き刺さる

 

「アルマ様!」

 

「問題ない、ノーラ立てるか!」

 

「足を(くじ)いてしまって、ごめんなさい……!」

 

 カルミナもどうにか助け落とそうとしているが、中々それを出来ずにいる。

 

「僕が!」

 

「ヒュリアス!お前達は先へ向かえ!二人は私が連れていく!」

 

 身体に突き刺さった矢を掴み、わざと荒く引き抜き激しく出血させる。

 

「アルマ様、何を――!?」

 

 飛び散った血液は空中で霧へと形を変え、周囲を(くれない)で満たし視界(しかい)(うば)っていく。

 

 紅い霧は空中で(とど)まり大きな壁となり矢を受け止め、魔術とぶつかり対消滅(ついしょうめう)()こし始める。

 

「悪いが(かか)えさせてもらう!」

 

 二人腰に腕を回して(かか)え上げる。

 

「きゃっ!」

 

「あぅっ!」

 

 そのまま走り出し、二人に負担(ふたん)()からない限界(げんかい)まで速度(そくど)を上げていく。

 

 能力を使い血痕(けっこん)辿(たど)られないように、(きず)(ふさ)ぎ血が流れないようにする。

 

 それから程なくして先を行っていたヒュリアス達と合流し、一先ず近隣の村を目指して走る。

 

「森の外まで来れば一先ずは大丈夫だろう、奴らもここまで追っては来ないだろう」

 

「あの……」

 

 気恥(きは)かしそうにカルミナが発する声で、そういえば(かつ)いだままであったと思い出す。

 

()まない、今下ろす」

 

「いえ、ありがとうございました」

 

 ノーラとカルミナの二人をゆっくり下ろし、地図を取り出して現在地と村の位置を確認する。

 

 一番近い村は駄目(だめ)だ、(やつ)らが()()せる可能性(かのうせい)も高く、そこの住人(じゅうにん)迷惑(めぃく)()けてしまうだろう。

 

「アルマさん、怪我(けが)は大丈夫なのですか……?」

 

「問題ない、傷口(きずぐち)(すで)(ふさ)いだ」

 

 (えり)をずらし血で(よご)れていた部分の真下(ました)を見せる。

 

「すごい、あんな短時間に!」

 

「見事な医療術(いりょうじゅつ)ですわね、いずれ学ばせて(いただ)きたいです」

 

 学んで出来る物では無いのだが、今説明せずとも良いだろう。

 

「これから町を目指す、ノーラ歩けるか?」

 

「だ、大丈夫です……!」

 

 魔術で治したのだろう、ノーラはつま先で地面を()って足の状態を確認し(うなづ)いた。

 

「そうか、無理をするなよ、セレナとアーティアは走り続けて疲れていないか?」

 

「私は大丈夫です、ですがアーティアが……」

 

「……」

 

 まだ幼いアーティアにはこの距離を走り続けるのは(きび)しかったのか、呼吸(こきゅう)も荒く顔色(かおいろ)が悪い。

 

「ではアーティアは私が背負(せお)っていこう、ヒュリアスとハイアルは身体に異常(いじょう)は無いか?」

 

「貴族である僕がこの程度で疲れるものか」

 

 そう言っているヒュリアスの息は少し(みだ)れているが、機嫌(きげん)をそこなわないよう指摘(してき)はしないでおく。

 

「俺は日頃(ひごろ)このくらい走ってるんで、まだまだ大丈夫です」

 

 そう言ったハイラルは呼吸の乱れも無く、汗も全く流していない。

 

 顔色も良く、彼の言う通り普段から身体を動かしているのだろう。

 

「誰か弓を預かっていてくれないか?」

 

(わたくし)が運びます」

 

「ありがとう」

 

「いいえ」

 

 背中から弓を外しカルミナに手渡し(あず)かっていて(もら)う、矢筒(やづつ)はアーティアの背丈(せたけ)であればいい椅子(いす)()わりになるだろう。

 

「では出発するぞ、アーティアは私の背に乗ってくれ」

 

「うん……」

 

 背に身体を乗せ、肩に手を乗せた所でアーティアの足を持って立ち上がる。

 

「わ、高い!」

 

「落ちないように気を付けるんだぞ」

 

「ありがとうございます、アルマ様」

 

 背中ではしゃぐアーティアの頭をセレナが()でる

 

「ああ」

 

 町を目指して歩き出す。

 

 これだけの人数が居れば基本的に魔物が襲って来ることはない、気を付けるべきは盗賊が追って来ていないかどうかだけだ。

 

 ――

 

「ここだ」

 

 その後は無事、町へ辿(たど)り着くことが出来た。

 

「失礼、ここに()まれる場所はあるだろうか」

 

「あら旅人(たびびと)さん?宿はあっちにあるわよ」

 

「ありがとう」

 

 町人が指差した方に歩いて行くと、大きな宿がそこにはあった。

 

 これならば全員が泊まれるだけの部屋が取れるだろう。

 

「ふう、流石の僕でも少し疲れたな……」

 

「俺もだ、ていうか汗流したい」

 

 扉を開けて建物(たてもの)の中へ入り受付に向かうと、従業員(じゅうぎょういん)らしき男が開かれた本を目隠(めかく)しにして椅子(いす)(ねむ)っていた。

 

 盗賊が森を占拠(せんきょ)している影響(えいきょう)客足(きゃくあし)途絶(とだえ)てしまったのだろう。

 

「寝ているのですか?」

 

「ああ、悪いが起きてもらおう」

 

 手を飛ばして顔に乗せてある本をどけ肩を()らす。

 

「んん……?何だよ爺さん――ってどちら様?」

 

 ()ぼけ(まなこ)の男と目が合う、どうやらまだ思考(しこう)(はたら)いていないようだ。

 

「部屋を利用したい、用意してもらえるか」

 

「――あっ、お客様ですか!ちょっと待っててください!」

 

 男は髪型(かみがた)衣服(いふく)をその場で(ととの)えると、走って階段を上がって行ってしまった。

 

「この状況(じょうきょう)だ、安い宿でも文句(もんく)を言うつもりは無いがここで大丈夫なのか?」

 

 ヒュリアスは(あき)れたように男が登っていった階段を見つめている。

 

内装(ないそう)を見ても特に不備(ふび)見受(みう)けられませんし、そこまで質が悪い宿では無さそうですわよ」

 

「これって名工(めいこう)ビリガンの(つぼ)ですよね?すごい、ここで見られるなんて」

 

「あらノーラさん(くわ)しいのね、ここの経営主(けいえいぬし)は良いご趣味(しゅみ)をお持ちの様ですわね」

 

 カルミナとノーラはなにやら緑の(がら)が描かれた陶器(とうき)(つぼ)について語り合っている、貴族であればそういった方面(ほうめん)にも(くわ)しくなるのだろうか。

 

 すっかり寝てしまっている背中のアーティアを下ろし椅子に寝かせ、カルミナから弓を受け取って背中に付ける。

 

「あの……」

 

「どうしたセレナ」

 

「私達は、宿の代金を支払う事が出来ないのですが……」

 

 その心配か、元より(とら)われていた彼女らに支払(しはら)わせるつもりなど無い。

 

代金(だいきん)については問題ない、私が全て払う」

 

「そんな、ただでさえ助けて(いただ)いたのにさらにそこまでしていただくだなんて……」

 

「気にしなくていい、当然の事だ」

 

「でも……」

 

 彼女は少し真面目過ぎるようだ、今回の事に関しても責任感(せきにんかん)を感じているのだろうか。

 

「だとしてどこに()まるというのだ?」

 

 ヒュリアスは(らち)が明かないと判断(はんだん)したのか、セレナに(きび)しい視線を向ける。

 

「それは……」

 

「貴様がどこで寝ようとどうでも良いが、まだ幼い妹を外で寝かす事を良しとするのか?それに金など後で(いく)らでも払えるだろう」

 

「……」

 

 ()えて(きび)しい言葉をぶつけているのは、彼の不器用(ぶきよう)な優しさだろう。

 

一先()ずは宿の代金を支払(しはら)わせてくれないか?これはお願いだ」

 

「アルマ様――!分かりました……」

 

 彼女であれば恩人(おんじん)の頼みごとを断ることは(むずか)しいだろうと、少し(ずる)い手を使う。

 

 それでも(わず)かな葛藤(かっとう)があったようだが、宿を使ってくれるというならば問題はない。

 

「お部屋の準備ができました!」

 

 従業員(じゅうぎょういん)若干(じゃっかん)(あせ)をかきながら()け下りて来た。

 

「では二人部屋を三つと、一人部屋を一つ」

 

「かしこまりました、こちらが鍵でございます、ごゆっくりどうぞ」

 

 受け取った鍵をそれぞれ二人組に手渡す。

 

「それと、衣服を扱っている店はどこにあるか知っているか?」

 

「ここを出て右に少し歩いた場所に、服が並んでいる所がそうですね」

 

 セレナが現在着用している衣服は知らない誰かの物であり、長時間着ていられるような作りには見えない。

 

「ありがとう」  

 

「僕は先に部屋へ行っているぞ」

 

「俺も汗流してきます、そういえばここって服を洗ってくれるんですか?」

 

「ええ、各部屋にあります浴室(よくしつ)(かご)に入れて頂ければ、明日までに洗わせて頂きますよ」

 

「こちらには女性の給仕(きゅうじ)も働いているのですか?」

 

「はい、勿論です」

 

「それは安心しました」

 

 どうやら(みな)(のこ)るようだ、衣服はそのままなようだが今の状態(じょうたい)はかなり不快(ふかい)なのだろう。

 

「セレナとアーティアは私に付いて来てくれ、その服では動き辛いだろう」

 

「え……?」

 

 セレナがまた何かを言おうとしていたが、アーティアの手を引き連れて行くことで強引にでも付いて来てもらう。

 

 こちらにも予定という物があるのだ。

 

 宿を出て服屋へ向かっている最中、数人の騎士を見かけた。

 

 盗賊がこの村に手を出していないのは、恐らく彼らが居るからなのだろう。

 

 数が少ないとはいえ彼らも訓練(くんれん)()んている。

 

 奴らの根城(ねじろ)で戦うならまだしも、ここで戦闘を起こすと被害(ひがい)が大きくなると盗賊達は理解しているはずだ。

 

「彼らに協力を頼んだ方が良いかもしれないな……」

 

 戦力としてでは無く、牢獄(ろうごく)に盗賊達を入れてもらう為だが。

 

「服屋とはあそこのことか」

 

「わーいっぱいあるー!」

 

 店の中へ入っていくと、様々な衣服や装飾品などに出迎えられた。

 

「アルマ様!私これがいい!」

 

 アーティアは赤い染色(せんしょく)に青い石が装飾(そうしょく)された(くつ)を持ち()()ってきた。

 

「アーティアっ……!」

 

 衣服を買いに来ていたのだが、消耗(しょうもう)した精神を(いや)せるならばそれも良いだろう。

 

「一度()いて大きさを確認しておいた方がいい」

 

「はーい」

 

 アーティアは近くの椅子に座り(くつ)()()えてみるが、彼女にはすこし大きかったようだ。

 

「うーん、ちょっと大きいかも……」

 

「店主よ、これの少し小さめの物はないか?」

 

「悪いな、うちの商品は全部ここで作ってるから一点物ばかりでよ」

 

「そうか」

 

「子供用の靴ならこっちに(まと)めて置いてるから、そっちもみてくれよ」

 

「分かった、アーティア、あっちにも(くつ)があるみたいだ」

 

「そうなの?じゃあ見てみる!」

 

 アーティアは名残(なご)()しそうに赤い靴を戻すと、子供用靴と書かれた看板(かんばん)がある方へと歩いて行った。

 

「これー!」

 

 アーティアが持ってきたのは、赤の染色に(かざ)()いをした緑のリボンを()り付け、黄色の石を乗せた靴だ。

 

「私は……」

 

 (みずか)らの状態(じょうきょう)理解(りかい)してなお、いまだに遠慮(えんりょ)しているセレナ。

 

仕方(しかた)がない)

 

 アーティアの頭に手を置く。

 

「?」

 

「セレナに服と靴を選んでやってくれないか?」

 

「え、いいの?じゃあねー」

 

「ア、アルマ様……!」

 

 アーティアの提案(ていあん)ならば、彼女はきっと受け入れてしまうだろう。

 

「どーれーがーいーいーかーなー」

 

 アーティアが笑顔で服を選ぶ中、セレナは未だに複雑(ふくざつ)そうな顔をしていた。

 

「私が見返りを求める事はないと約束(やくそく)する、ただ今は受け入れてもらえないか」

 

「……」

 

「おねえちゃんこれとかどう?」

 

 アーティアが指差したのは青を基調(きちょう)とした美しいドレスだった。

 

「セレナによく似合いそうだ、だが外で着るには少し動き辛いだろう」

 

「そっかー、じゃあこれは?」

 

 次に選ばれたのは彼女達の髪の色と同じ染色(せんしょく)をした、膝丈(ひざたけ)で広がったドレス。

 

 肩には白く()き通ったストールが()けられ、腰には白の布が巻き付けられている。

 

 これであれば長く着ようとも道中に苦労(くろう)することも無さそうだ。

 

「ああ、良く似合いそうだ」

 

「おねえちゃんどう?」

 

「……うん、これにしようかな」

 

「これを貰おう」

 

「まいどあり」

 

 ――

 

 宿の室内で森へ向かう準備(じゅんび)をしていると、扉を叩く音が聞こえて来た。

 

「入って来てくれ」

 

「失礼いたします」

 

 扉を開き中へ入って来たのは、新たな(よそお)いになったセレナであった。

 

 身体を流した後なのだろうか、(わず)かに湯(ゆげ)(まと)い髪は湿(しめ)り気を()びている。

 

 だがその表情は固く、どこか緊張(きんちょう)(ただよ)わせている。

 

「似合っているな」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 セレナは(わず)かに(ほほ)(しゅ)に染めて顔を()らす。

 

 その様子に一安心しながら刀の二振りを腰に差し、青の外套(がいとう)羽織(はお)り弓矢を背負う。

 

「どこかに行かれるのですか……?」

 

「森へ戻る、お前達は宿から出ないようにしてくれ」

 

「わ、分かりました、皆さんには伝えておきます」

 

「用があっただろうに済まないな、話は戻ってからにしてくれ」

 

 もうじき日が沈み、危険性の高い夜行性の魔物達が動き出す。

 

 そうすれば盗賊達も迂闊(うかつ)に動くことが出来なくなり、森へ戻り(まと)まろうとするだろう。

 

 (まと)めて打倒(だとう)するには絶好(ぜっこう)機会(きかい)だ。

 

「はい、無事に帰って来て下さることを(いの)っています、貴方にはお返ししたいことがありますから……」

 

「ああ、必ず戻る」

 

 宿を出て二本の角が付いた白仮面(しろかめん)(かぶ)り、再び森へ向かい走り出した。

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