「――ロウ、これは一体どういうことだ」
アルマが囚われていた者達を救い出し、近隣の町へ避難をして暫くの時間が経った頃、盗賊達の拠点は重苦しい空気に支配されていた。
「剣士たった一人に忍び込まれ、捕らえていた者達を解放されただと?」
拠点の守りを任せられていた幹部の一人であるロウは、身体中から血を流し地面に倒れ、別の大男の幹部に顔を踏みつけられていた。
「これ程の数が居たというのに、情けない話だ」
暗い赤髪の男が近くにあった椅子を引き寄せて座り、倒れている男を見下ろす。
「カシラ違うんです!」
「何がちげえんだよ、ああ?」
「ぐああっ!」
反論をしようとしたロウが気に障った、大男は顔を踏む足の力を強めた。
「ラウド」
「へい」
カシラと呼ばれた赤髪の男に咎められ、ラウドは足をどかしロウの髪を掴み起き上がらせる。
「油断をしていたんだろう、そうでも無ければ誰にも悟られずに奥までの潜入を許すわけがない」
カシラは雑に伸ばされた髪を掻き上げると、部下が注いだ酒を飲み続きを促す。
「あの男が異様に強かったんです!力も剣や弓の腕も!じゃなきゃここの守りが突破されるわけねえんだ!」
幹部は必死に弁明をするが、カシラは眉根を顰めるだけで何も返さない。
その時、建物から出て来た丸く剃られた頭に刺青を入れた男が、両足から血を流した男を引き摺りロウの隣に放った。
血塗れの男は苛烈な拷問によって殆ど意識は残っておらず、ただ荒い呼吸を繰り返すだけとなっている。
「リードのカシラ、口割りました」
カシラであるリードは無言で視線を送り続きを促す。
「こいつら俺達が居ない間、商品に手を出そうとしてたようです」
「なんだと?」
カシラの掟に歯向かったという事実に、拠点内の盗賊達は騒めきだす。
「なんて、ことを……!」
ロウは歯噛みしながら、放り投げられた盗賊の男を睨みつける。
あれだけ手を出すなと言いつけていたというのに、何をしてくれるんだと。
「アクセル、当事者を全員連れて来い」
「了解、お前らも来い」
「へい」
アクセルと呼ばれた刺青の男は、部下を数人引き連れ再び建物内へ戻っていった。
リードは椅子から立つと剣を引き抜き、無言で倒れている幹部の傍に立ちそれを振り上げる。
「ま、待ってください!奴の首は俺が必ず取りますから!」
リードは話に耳を傾けること無く、ただ無情に剣を振り下ろし。
「ぐあっ……!」
ロウでは無く倒れているもう一人の男の心臓に、凶刃を突き立てた。
「……!」
リードは男を踏みつけて剣を引き抜くと、再び高く振り上げる。
「ロウ、これはお前の教育責任でもあるんだぞ」
「申し訳ありません――!」
ロウは額を地面に擦り付け、精一杯の謝罪を繰り返す。
「だったら、分かってるな?」
リードはロウを起き上がらせると、一度も視線を逸らさないまま、剣を振るって付着した血を払い鞘に納め立ち上がる。
「必ず!必ず俺が見つけ出して殺してやります!」
ロウは一度も目を逸らさず、決意を込めた言葉をぶつける。
「……こいつに治癒術をかけろ」
「はい」
リードの言葉に駆け寄ってきた数人がロウを支え、離れた場所に連れて行き治癒魔術を掛け傷を癒す。
「カシラ、連れて来ました」
アクセルが部下を引き連れて戻り、四人を前に立たせ、膝裏を蹴りつけて両膝を着かせる。
「これで全てか?」
「残りは全員殺されてました」
「そうか……」
「待ってください!俺は――」
弁明をしようとした一人の首を、リードが切り飛ばす。
「!」
「奴と戦った者はいるか」
リードは血の付着した剣を肩に担ぎ反逆者達を見下ろす。
「は、はい!」
「話せ」
「奴は赤い煙を放ってて、恐ろしいほどの怪力でした!」
いまいち要領を得ない部下の話に、リードは苛立ちを覚える
「……」
「カシラ、これを見てください」
アクセルは捩じれた金属の残骸を取り出しリードに見せる。
「これは手枷か?」
「ええ、檻の中に転がっていました」
何かをぶつけて壊したというものではなく、強い力で無理矢理捩じ切られたような形をしていた。
「余程の力があるか、魔術の精度が高いか、いや熟練の魔術師だろうと破壊できる奴はそういないはずだ」
騎士団を襲い奪った物だ、魔封じの性能に関して疑ってはいない。
「おい、枷を持って来い」
「へい」
リードは盗賊の一人に手枷を持って来させると、ラウドを呼び寄せる。
「これを捩じり切って見ろ、魔術で身体を強化しても構わん」
「は、はあ」
ラウドは手枷を両手で掴みまずは力だけで破壊しようとするが、手枷はビクともせず僅かな歪みすら生じない。
次に魔術で全身を強化し再び手枷を全力で捻じ曲げようとするが、直ぐに強化が解けてしまった。
「だっだめだ魔力が吸われる!こんなもん壊せる訳がねえ!」
「だとすれば奴はサイクロプス程の力があるか、宮廷魔導士の奴ら並の魔術操作精度があるということになる」
ラウドから歪み一つない手枷を受け取ったリードは、両膝を着く盗賊達にそれを見せつける。
「奴はどのようにしてこれを破壊した」
「すんません、気絶させられてたんで壊された瞬間は見れてないんです、けど奴は剣で檻をぶった切っててました、とにかく化け物だったんです!」
男が震えながら発した言葉で、拠点内の盗賊達が騒めきだす。
手枷に檻、どちらも人の手で簡単に破壊されるような軟な金属では作られていないというのに、魔術を使わずに破壊して見せたというのか。
現場に居合わせていなかった盗賊達にも、圧倒的な力を持った得体の知れない剣士に対しての根源的な恐怖心が伝播していく。
「国が動いたか?いや、まだその報告は無いはずだ……」
「カシラ、これからどうします」
リードが思考の海に入りかけた所で、アクセルが問いを投げかける。
「……武器の準備をしろ、直ぐに出るぞ」
「はい、こいつらは」
「斬れ、規律を乱す者は不要だ」
「まっ、待ってください!」
「挽回の機会を下さい!」
喚く規律違反者達に振り返ることなく、リードは建物の奥へと消えていった。
「そんな……!」
絶望をする盗賊達の首に刃が当てられる
「――なんだ?」
拠点内が騒がしくなっている事にアクセルが気付く、出発前のそれとは違う何かに混乱しているような声だ。
盗賊の一人が息を荒くしながら、アクセルの傍に駆け寄る。
「アクセルさん!報告が!」
「なんだ」
「拠点内に魔物が入り込みました!それもかなりの数です!」
「どういうことだ」
「それが、魔物除けの香や魔道具が破壊されていたみたいで……」
その言葉にアクセルは怒りで身体を震わせる。
「やってくれたな……、俺もすぐに向かう」
「はい!」
「ラウド、お前も来い」
アクセルは二振りの剣を鞘から引き抜き、騒ぎの大きな方へと走って行った。
「分かってるっての」
ラウドはダルそうに返事を返すと、立て掛けてあった大槌を肩に担ぎ現場の方へと歩き出そうとした。
だがある違和感を覚え、真逆の方へ走り出す。
広場に入る路地で底知れない気配に足を止め、耳を澄ませる。
「今すぐ武器を捨て抵抗をやめろ、そうすれば命を奪わないでやる」
「誰がてめえなんかに!ぐあっ!」
男の悲鳴の後、重たい物が地面に倒れ込んだ音が響いた。
全身を魔力で強化し大槌の持ち手を強く握り路地を抜けだすと、血で染まった空間が広がっていった。
中央では二本角の白仮面を身につけた剣士が、こちらを向き輝く武器を鞘に納める。
地面に倒れた血濡れた死体とは逆に、違和感がある程に返り血を一滴も浴びていない姿に気圧されそうになる。
「どこのモンだテメエ!ここがどこだか分かってんのか!」
得体の知れない者相手に湧きだしそうになる恐怖心を押しつぶす為、そして応援を呼ぶ為になるべく大きな声を上げる。
「私は白鬼、命が惜しくば今すぐ武器を捨てろ」
「シロオニだ?ふざけやがって!」
威嚇をしながらも、頭の中で冷静に分析を続ける。
武器は二振りの剣と背中の弓、体格は良い方だろうが化け物じみたものでは無く、檻や手枷を破壊できるような姿にはとても見えない。
だが、ここを襲ったという剣士は間違いなく奴だという確信もあった。
「クソがっ……!」
ラウドは大槌の構えや足の位置を少しづつ動かして白鬼の隙を探すが、武器を仕舞っている状態だというのに見つける事が出来ない。
「もう一度言うぞ、武器を捨て投降しろ」
「誰がてめえなんかに!」
「そうか――」
「――っ!『アースロッツ』!」
ラウドは白鬼がこちらへ一歩を踏み出した瞬間に、地面に大槌を叩きつけ土属性の魔術を発動させる。
槌の表面に刻まれた魔法陣が輝き、鋭い岩の壁がラウドを中心にして何重にもなって地面から飛び出した。
それは次々広がり白鬼を圧し潰さんと迫るが、命を奪うには少々速度が遅すぎた。
白鬼は岩壁の花びらを容易く躱してその場から高く跳び上がり、空中で弓を構えラウドに向け放つ。
放たれた矢は高速でラウドの元へ迫るが、額を貫こうとした寸前で突如全身を覆った岩の鎧に阻まれ砕け散ってしまった。
「岩の鎧か」
岩を蹴って空中で体勢を立て直し、地面に着地した白鬼はラウドを観察する。
視界を塞がない為に開いた目の部分以外は、繋ぎ目すらない完璧な防御だと言える。
いくら強く矢を|射ろうと、その硬い岩肌を貫く事は叶わないだろう。
「この鎧さえあればてめえの矢も剣もなまくらよ!」
「であれば、これでやろうか」
白鬼は弓を背中に戻すと、左手を前に出し構え右腕を引き拳を握る。
そして姿勢若干低くし、左脚で一歩前に踏み出し同時に右脚を外側に向ける。
「魔力を練りもしねえでよ、今の俺に素手で勝てると思ってんのか――?」
ラウドは僅かに怒りを滲ませながら警告するが、白鬼はそれでも動かない。
「余り時間が無い、さっさと来い」
「この野郎……!『ガイアエンチャント』!テメエは挽き潰す!」
ラウドは土属性の魔術で大槌に岩を纏わせて強化すると、肩に担ぎ一気に白鬼との距離を詰め全力で振り下ろした。
白鬼は振り下ろされた岩塊に左手の甲を打ち付けるだけで軌道をずらす。
「な――にっ!?」
そして右脚を前に踏み込むと同時に、右の拳を胸の中心に打ち込んだ。
「がっ……!」
高速で放たれた拳は岩の鎧を容易く砕き、ラウドの百キロ以上ある身体を吹き飛ばした。
吹き飛ばされながらも意識が消えないようにラウドは堪え、両手を組み白鬼に向け魔術を唱える。
「……ク、ソ!『ガンズロック』!」
組まれた両手の前に魔法陣が現れ、そこから巨大な岩が発射された。
白鬼はその場から走り出し、手首を切り裂き出血させ紅い霧を噴出させる。
その霧は右腕に集まり固まると一回り大きな紅い腕となり、白鬼は正面から岩を殴りつけ打ち砕いた。
そして一気にラウドの元へ辿り着き、地面に着かんとしていたラウドの露出した地肌を血霧を消した拳で救い上げるように殴りつけさらに吹き飛ばした。
「がはっ――!」
土壁をいくつも突き抜け、大木に衝突してようやく停止したラウド。
ラウドの首に指を当て脈を計ると、白鬼はそれをうつ伏せにさせて魔封じの手枷を両腕に嵌め両足を縄で縛る。
「生きているか、元騎士だけあって魔術の腕は中々のようだ」
白鬼は傷を塞ぐポーションをラウドに掛けると、片手で持ち上げ馬車の荷台に乗せる。
「反対側の魔物達は対処されたか、首領も直に動き出すだろう」
白鬼は残りの盗賊達へ向かって走り出した。
————
「コイツで最後だな、手間取らせやがって」
両足の腱を断たれ倒れ込んだオークの背中に立ち、アクセルは首筋に刃を突き立て命を刈り取る。
「被害状況の確認をしろ、魔物除けの再設置も急げ」
「はい!」
部下に指示を飛ばしながら、二振りの刃に付着した血と脂を拭き取る。
今回の相手は随分と頭の切れる奴らしい。
「厄介だな……」
恐らく魔物に乗じて既に|拠点内へ入り込んでいるだろう。
そいつが商品を解き放った奴と同じかは分からない、それでも今迄の騎士や賞金稼ぎ達と同じと思わない方が利口だ。
「漸く騎士共が来なくなってきたってのに、面倒くせえ」
魔物の凶暴化以降、騎士団の人員はそちらの討伐へ割かれる事が多くなり、森へ拠点を移した事もあってか襲撃を受ける事も減っていた。
「おい」
「何でしょうか」
オークの背中から降り、通り掛かった部下を呼び止めた。
「ラウドはどこにいる」
「見ていませんが」
「……お前ら死骸片しとけ」
「分かりました」
鞘に剣を収めて走り出す。
「まさかやられてねえよな……」
ラウドは面倒臭がりで仕事をサボるような奴ではあるが、その実力は確かで信頼できる物がある。
「あれは……」
ラウドの大槌が地面にめり込んでいるのを見つけたアクセルは、思わず思考を奪われてしまう。
「そこか――」
アクセルが気配を察知し、振り返りながら素早く腰の二振りに手を掛ける。
「遅い」
だが白鬼はそれをも上回る速度で柄の尾を抑えると、そのまま顎に掌底を放ち意識を刈り取った。
アクセルの両腕を背中側に回させ魔封じの手枷を着け、白鬼はそれを片手で担ぎ上げラウドと同じく馬車の荷台に乗せる。
「――っ!」
突如として飛来した雷鳴の槍を白鬼は腕の一薙弾き飛ばす、そして攻撃の始点へ視線を向けるとすぐさま弓を構え盗賊の一人を撃ち抜いた。
「ぐあっ!」
それを合図にしたかのように四方から矢の雨が降り注ぐ、それに対し白鬼は分厚い木版を荷台に被せると透き通る刀を抜き素早く振るう。
刀の一振りで数十の矢を切り落とし、腕のひと薙ぎで矢を弾き飛ばし、白鬼の身体へ到達することを許さない。
「バケモンが……!すぐに魔術の準備をしろ!」
ロウは部下に指示を飛ばしながら、矢を吹き飛ばしながら前進を続ける白鬼を注意深く観察し、自らも魔術を発動させて発射の待機をさせる。
「いくらあいつでも、これだけの魔術量は防げない筈だ」
魔術部隊の準備が完了したことを確認し、ロウは腕を振り上げる。
「撃て!」
掛け声と共に腕を振り下ろし雷の槍を放つ、それと同時に大小様々な魔術が白鬼に目掛けて降り注ぎ爆炎を巻《ま》き起こした。
「――!」
油断などしない、奴の力は計り知れないのだ。
魔術によって地形が変わろうとも止める指示を出さず、絶えず魔術を放たせ続ける。
そして暫くの時間の後、魔術を放つのを止める。
「撃ち方やめ!魔力を補給しすぐに次弾を構えろ!」
部下に指示を飛ばしながらも、巻き上がる土煙から一瞬たりとも視線を外さない。
(奴に魔術を使う様子は無かった、そしてこの魔術量だ、いくら力が強くても剣一本で防げるはずがないっ!)
瞬間、未だに舞う土煙を血のように紅い霧が内側から呑み込んだ。
「なんだアレ……」
盗賊の一人が声を漏らした瞬間、球状となった紅い霧から鋭い針が伸びその者の胴体を貫いた。
「ぐあああ!」
「紅い霧から伸びてるぞ!ぐあっ――!」
「逃げ――っ!」
次々と貫かれる部下達に撤退の指示をする為にロウは声を発しようとし、ある可能性を考え寸前の所で口を手で押さえる。
『大きな声を出さない様に伝えろ!』
近くの部下を引き寄せ、なるべく小声で伝令を指示する。
無言で頷いた部下は走り出し、他の者達へ指示を伝えていく。
すると辺りが段々と静寂で包まれ始め、紅い霧から飛び出す棘が減っていき、そして完全には停止した。
(やはり音に反応しているっ!ならば無音で戦うしかない!)
ロウは口に手を当てながら、もう一方の腕と目線で魔術部隊に指示を出す。
(奴の紅が霧であるならば風と光と水は駄目だっ!つまりここで選ぶべきは地属性!)
魔法陣を空中に描き魔力を送り大きくさせる、意図を理解した部下もそれに続く。
(幾人もの魔術師による上級魔術!これだけやれば奴は形も残らないっ!)
漸く完成した巨大魔法陣、いざ発動させようとした瞬間。
紅い霧から夥しいほどの棘が飛び出し、一部を除いた全てを貫いた。
「ば――け、もの――」
身体の至る所を貫かれたロウが消えゆく意識の中で最後に見た光景。
それは崩れていく赤い霧から現れた、血の一滴も流していない白いの悪魔の姿だった。
――
「カシラ!|敵襲です!」
「分かっている!直ぐに総員集めろ!」
盗賊団のカシラであるリードは焦っていた。
「クソっ、漸くここまで来たってのに……!」
謎の剣士による商品の解放、そして拠点への襲撃。
その者は途轍もない剛力であり、王都騎士団の遙か上を往く剣の使い手だという証拠が残されていた。
「どうするべきだ、正面切ってやり合えばまず勝ち目は無い……」
資金の横領がバレ騎士団を追われたリードは、没落し生活が困窮した元貴族や篩に掛けられ先の無くなった騎士の訓練生を集め盗賊を襲撃、カシラの座を奪い取り自らの軍とした。
それを繰り返し拡大した盗賊団は、生半可な冒険者や賞金稼ぎを寄せ付けない程の規模になっていた。
さらに森を押さえる事で天然の要塞を手に入れ、守りを盤石にする事も出来た。
それだけでなく、近年活発化している魔物の影響により国の騎士の戦力がこちらに割かれることも減り、さらなる追い風も吹いていた。
裏商人と繋がり地盤を固め、戦力を更に拡大させていく。
まさにこれからだったというのに、自慢の盗賊団はたった一人に壊滅させられようとしている。
「カシラ!報告が!」
「なんだ!」
「ラウド隊ロウ隊が壊滅!アクセルさんの行方も分かりません!」
「クソっ!」
ラウドは拳で机を叩き割り、周囲に木片が散らばった。
ラウド隊やロウ隊も自らが鍛えてきた精鋭達だった、そしてアクセルは団内二番手の実力者だ。
それがこの短時間でやられた。
戦って死ぬか、逃げて生き延びるか。
答えは一つしかない。
「拠点を捨てる、すぐに伝令を出せ!」
「その必要は無い」
「――っ!」
見知らぬ男の声が聞こえ魔術を発動しながら振り返る。
だが放たれた火球は壁を燃やすだけに終わり、燃やすはずだった相手もそこにはいなかった。
「残っているのはお前達二人だけだ」
男は部屋の中央に立つと、仮面の隙間から覗く瞳でリードを真っ直ぐ見据える。
「馬鹿なっ――!」
盗賊団は三百人をゆうに超える正に大部隊といえる規模だった。
だというのに、この男はたった一人で制圧したというのか。
「お前達には二つの選択肢がある」
角が生えた白面の男は、腰の剣に手を添え自然体で構え始める。
「武器を捨て投降するか、戦い命を落とすかだ」
面に空いた穴から覗き込む瞳は冷たく、僅かな慈悲すら残っていない。
今迄打ち倒して来た騎士や賞金稼ぎは、僅かな迷いを見せていたというのに、この者からは常に冷徹な意思が痛い程に伝わってくる。
「……っ!舐めやがって!」
「よせっ――!」
重圧に耐えきれなくなった部下が剣を抜き放ち斬りかかるが、その刃が白面に到達することは無かった。
白面は僅かに身体をずらしただけで一撃を躱すと、部下が突然床に倒れ、のた打ち回り始めた。
「あ゛ああ゛ああ゛!」
叫び声を上げると同時に剣が床に転がる、その柄には握った状態の手が張り付いていた。
(剣を抜いた瞬間が見えなかった……!)
奴はいつ剣を抜いた、奴はいつ剣を収めた。
「再度問う、戦うか、それとも死ぬか」
白面の男は魔封じの腕輪を取り出し、手に吊り下げる。
勝てるわけが無い。
この者にだけは抗ってはならない。
選択肢など、無い。
「リード、さん……!」
リードは両膝を着くと、白面に合わせた合わせた両腕を差し出した。
白面はリードに手枷を嵌めると引っ張って立たせ、建物の外まで歩かせる。
外には抵抗したのか血溜まりに沈んだ者、リードと同じように大人しく手枷を着けられた者に別れていた。
「別動隊はいるか」
「いねえ、これが俺の全てだ……」
騎士を志し、唆されて悪事に手を染めて、全てを失った。
再起を誓い同胞を集め、盗賊を手中に収め数の力を手に入れた。
金を集めて武器を揃え、人を増やして土地を奪った。
人を浚い金にして、豪商と繋がり、広大な土地が手に入るまであと少しだった。
「来たか」
リードは白面が傍を離れた事で重圧から解放され、地面に倒れ込んだ。
その瞳に既に生気は無く、仲間達を捕らえていく騎士と白面の姿が空虚に反射されていた。
「俺はどこで間違えた――、最初からか」
こうして、白の鬼と盗賊団の戦いは終結した。