武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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白鬼(しろおに)

「――ロウ、これは一体どういうことだ」

 

 アルマが囚(とら)われていた者達を救い出し、近隣(きんりん)の町へ避難(ひなん)をして暫(しばら)くの時間が経(た)った頃、盗賊達の拠点(きょてん)は重苦しい空気に支配(しはい)されていた。

 

「剣士たった一人に忍(しの)び込まれ、捕らえていた者達を解放(かいほう)されただと?」

 

 拠点(きょてん)の守りを任(まか)せられていた幹部(かんぶ)の一人であるロウは、身体中から血を流し地面に倒れ、別の大男の幹部(かんぶ)に顔を踏みつけられていた。

 

「これ程の数が居たというのに、情(なさ)けない話だ」

 

 暗い赤髪の男が近くにあった椅子(いす)を引き寄せて座り、倒れている男を見下ろす。

 

「カシラ違うんです!」

 

「何がちげえんだよ、ああ?」

 

「ぐああっ!」

 

 反論(はんろん)をしようとしたロウが気に障(さわ)った、大男は顔を踏(ふ)む足の力を強めた。

 

「ラウド」

 

「へい」

 

 カシラと呼ばれた赤髪の男に咎(とが)められ、ラウドは足をどかしロウの髪(かみ)を掴み起き上がらせる。

 

「油断をしていたんだろう、そうでも無ければ誰にも悟(さと)られずに奥までの潜入を許すわけがない」

 

 カシラは雑に伸ばされた髪を掻(か)き上げると、部下が注(つ)いだ酒を飲み続きを促(うなが)す。

 

「あの男が異様に強かったんです!力も剣や弓の腕も!じゃなきゃここの守りが突破されるわけねえんだ!」

 

 幹部は必死に弁明をするが、カシラは眉根(まゆね)を顰(ひそ)めるだけで何も返さない。

 

 その時、建物から出て来た丸く剃(そ)られた頭に刺青(いれずみ)を入れた男が、両足から血を流した男を引き摺(ず)りロウの隣に放(ほう)った。

 

 血塗(ちぬ)れの男は苛烈(かれつ)な拷問(ごうもん)によって殆(ほとん)ど意識は残っておらず、ただ荒い呼吸を繰(く)り返すだけとなっている。

 

「リードのカシラ、口割りました」

 

 カシラであるリードは無言で視線を送り続きを促す。

 

「こいつら俺達が居ない間、商品に手を出そうとしてたようです」

 

「なんだと?」

 

 カシラの掟(おきて)に歯向かったという事実に、拠点内の盗賊達は騒(ざわ)めきだす。

 

「なんて、ことを……!」

 

 ロウは歯噛(はが)みしながら、放り投げられた盗賊の男を睨(にら)みつける。

 

 あれだけ手を出すなと言いつけていたというのに、何をしてくれるんだと。

 

「アクセル、当事者(とうじしゃ)を全員連れて来い」

 

「了解、お前らも来い」

 

「へい」

 

 アクセルと呼ばれた刺青(いれずみ)の男は、部下を数人引き連れ再び建物内へ戻っていった。

 

 リードは椅子から立つと剣を引き抜き、無言で倒れている幹部の傍に立ちそれを振り上げる。

 

「ま、待ってください!奴の首は俺が必ず取りますから!」

 

 リードは話に耳を傾(かたむ)けること無く、ただ無情(むじょう)に剣を振り下ろし。

 

「ぐあっ……!」

 

 ロウでは無く倒れているもう一人の男の心臓に、凶刃(きょうじん)を突き立てた。

 

「……!」

 

 リードは男を踏(ふ)みつけて剣を引き抜くと、再び高く振り上げる。

 

「ロウ、これはお前の教育責任(きょういくせきにん)でもあるんだぞ」

 

「申し訳ありません――!」

 

 ロウは額を地面に擦(こす)り付け、精一杯の謝罪(しゃざい)を繰(く)り返す。

 

「だったら、分かってるな?」

 

 リードはロウを起き上がらせると、一度も視線(しせん)を逸(そ)らさないまま、剣を振るって付着(ふちゃく)した血を払(はら)い鞘(さや)に納め立ち上がる。

 

「必ず!必ず俺が見つけ出して殺してやります!」

 

 ロウは一度も目を逸(そ)らさず、決意(けつい)を込めた言葉をぶつける。

 

「……こいつに治癒術(ちゆじゅつ)をかけろ」

 

「はい」

 

 リードの言葉に駆け寄ってきた数人がロウを支え、離れた場所に連れて行き治癒魔術(ちゆまじゅつ)を掛(か)け傷(きず)を癒(いや)す。

 

「カシラ、連れて来ました」

 

 アクセルが部下を引き連れて戻り、四人を前に立たせ、膝裏(ひざうら)を蹴りつけて両膝(りょうひざ)を着かせる。

 

「これで全てか?」

 

「残りは全員殺されてました」

 

「そうか……」

 

「待ってください!俺は――」

 

 弁明(べんめい)をしようとした一人の首を、リードが切り飛ばす。

 

「!」

 

「奴(やつ)と戦った者はいるか」

 

 リードは血の付着した剣を肩(かた)に担(かつ)ぎ反逆者(はんぎゃくしゃ)達を見下ろす。

 

「は、はい!」

 

「話せ」

 

「奴は赤い煙(けむり)を放ってて、恐ろしいほどの怪力(かいりき)でした!」

 

 いまいち要領(ようりょう)を得(え)ない部下の話に、リードは苛立(いらだ)ちを覚える

 

「……」

 

「カシラ、これを見てください」

 

 アクセルは(ね)捩じれた金属の残骸(ざんがい)を取り出しリードに見せる。

 

「これは手枷(てかせ)か?」

 

「ええ、檻(おり)の中に転がっていました」

 

 何かをぶつけて壊(こわ)したというものではなく、強い力で無理矢理捩(ね)じ切られたような形をしていた。

 

「余程(よほど)の力があるか、魔術の精度(せいど)が高いか、いや熟練(じゅくれん)の魔術師だろうと破壊(はかい)できる奴はそういないはずだ」

 

騎士団(きしだん)を襲(おそ)い奪(うざ)った物だ、魔封じの性能に関して疑(うたが)ってはいない。

 

「おい、枷(かせ)を持って来い」

 

「へい」

 

 リードは盗賊の一人に手枷を持って来させると、ラウドを呼び寄せる。

 

「これを捩(ね)じり切って見ろ、魔術で身体を強化しても構わん」

 

「は、はあ」

 

 ラウドは手枷(てかせ)を両手で掴みまずは力だけで破壊しようとするが、手枷(てかせ)はビクともせず僅(わず)かな歪(ゆが)みすら生じない。

 

 次に魔術で全身を強化し再び手枷を全力で捻(ね)じ曲げようとするが、直ぐに強化が解けてしまった。

 

「だっだめだ魔力が吸(す)われる!こんなもん壊(こわ)せる訳がねえ!」

 

「だとすれば奴はサイクロプス程の力があるか、宮廷魔導士(きゅうていまどうし)の奴ら並の魔術操作精度(まじゅつそうさせいど)があるということになる」

 

 ラウドから歪み一つない手枷を受け取ったリードは、両膝を着く盗賊達にそれを見せつける。

 

「奴はどのようにしてこれを破壊した」

 

「すんません、気絶させられてたんで壊された瞬間は見れてないんです、けど奴は剣で檻をぶった切っててました、とにかく化け物だったんです!」

 

 男が震(ふる)えながら発した言葉で、拠点内の盗賊達が騒(ざわ)めきだす。

 

 手枷に檻、どちらも人の手で簡単に破壊されるような軟(やわ)な金属では作られていないというのに、魔術を使わずに破壊(はかい)して見せたというのか。

 

 現場に居合わせていなかった盗賊達にも、圧倒的(あっとうてき)な力を持った得体(えたい)の知れない剣士に対しての根源的(こんげんてき)な恐怖心(きょうふしん)が伝播(でんぱん)していく。

 

「国が動いたか?いや、まだその報告(ほうこく)は無いはずだ……」

 

「カシラ、これからどうします」

 

 リードが思考(しこう)の海(うみ)に入りかけた所で、アクセルが問いを投げかける。

 

「……武器の準備をしろ、直ぐに出るぞ」

 

「はい、こいつらは」

 

「斬(き)れ、規律(きりつ)を乱(みだ)す者は不要(ふよう)だ」

 

「まっ、待ってください!」

 

「挽回(ばんかい)の機会(きかい)を下さい!」

 

 喚(わめ)く規律(きりつ)違反者(いはんしゃ)達に振(ふ)り返ることなく、リードは建物の奥へと消えていった。

 

「そんな……!」

 

 絶望(ぜつぼう)をする盗賊達の首に刃が当てられる

 

「――なんだ?」

 

 拠点内(きょてんない)が騒(さわ)がしくなっている事にアクセルが気付く、出発前のそれとは違う何かに混乱しているような声だ。

 

 盗賊の一人が息を荒くしながら、アクセルの傍(そば)に駆(か)け寄(よ)る。

 

「アクセルさん!報告が!」

 

「なんだ」

 

「拠点内に魔物が入り込みました!それもかなりの数です!」

 

「どういうことだ」

 

「それが、魔物除(まものよ)けの香(こう)や魔道具が破壊(はかい)されていたみたいで……」

 

 その言葉にアクセルは怒りで身体を震わせる。

 

「やってくれたな……、俺もすぐに向かう」

 

「はい!」

 

「ラウド、お前も来い」

 

 アクセルは二振りの剣を鞘から引き抜き、騒(さわ)ぎの大きな方へと走って行った。

 

「分かってるっての」

 

 ラウドはダルそうに返事を返すと、立て掛けてあった大槌(おおつち)を肩に担(かつ)ぎ現場の方へと歩き出そうとした。

 

 だがある違和感を覚え、真逆の方へ走り出す。

 

 広場に入る路地で底知れない気配に足を止め、耳を澄ませる。

 

「今すぐ武器を捨て抵抗をやめろ、そうすれば命を奪(うば)わないでやる」

 

「誰がてめえなんかに!ぐあっ!」

 

 男の悲鳴(ひめい)の後、重たい物が地面(じめん)に倒れ込んだ音が響いた。

 

 全身を魔力で強化し大槌(おおづち)の持ち手を強く握り路地(ろじ)を抜けだすと、血で染まった空間が広がっていった。

 

 中央では二本角の白仮面を身につけた剣士が、こちらを向き輝く武器を鞘に納める。

 

 地面に倒れた血濡(ちぬら)れた死体とは逆に、違和感(いわかん)がある程(ほど)に返り血を一滴(いってき)も浴(あ)びていない姿に気圧(けお)されそうになる。

 

「どこのモンだテメエ!ここがどこだか分かってんのか!」

 

 得体(えたい)の知れない者相手に湧(わ)きだしそうになる恐怖心を押しつぶす為、そして応援(おうえん)を呼ぶ為になるべく大きな声を上げる。

 

「私は白鬼(しろおに)、命が惜(お)しくば今すぐ武器を捨てろ」

 

「シロオニだ?ふざけやがって!」

 

 威嚇(いかく)をしながらも、頭の中で冷静(れいせい)に分析を続ける。

 

 武器は二振(ふたふ)りの剣と背中の弓、体格(たいかく)は良い方だろうが化け物じみたものでは無く、檻(おり)や手枷(てかせ)を破壊(はかい)できるような姿にはとても見えない。

 

 だが、ここを襲ったという剣士は間違いなく奴だという確信もあった。

 

「クソがっ……!」

 

 ラウドは大槌(おおづち)の構えや足の位置を少しづつ動かして白鬼の隙(すき)を探すが、武器を仕舞っている状態だというのに見つける事が出来ない。

 

「もう一度言うぞ、武器を捨て投降(とうこう)しろ」

 

「誰がてめえなんかに!」

 

「そうか――」

 

「――っ!『アースロッツ』!」

 

 ラウドは白鬼がこちらへ一歩を踏(ふ)み出した瞬間(しゅんかん)に、地面に大槌(おおづち)を叩(たた)きつけ土属性の魔術を発動させる。

 

 槌(つち)の表面に刻(きざ)まれた魔法陣が輝(かがや)き、鋭い岩の壁がラウドを中心にして何重(なんじゅう)にもなって地面から飛び出した。

 

 それは次々広がり白鬼を圧(お)し潰(つぶ)さんと迫(せま)るが、命を奪(うば)うには少々速度が遅すぎた。

 

 白鬼は岩壁の花びらを容易(たやす)く躱(かわ)してその場から高く跳(と)び上がり、空中で弓を構(かま)えラウドに向け放つ。

 

 放たれた矢は高速でラウドの元へ迫るが、額を貫こうとした寸前で突如(とつじょ)全身を覆(おお)った岩の鎧(よろい)に阻(はば)まれ砕(くだ)け散(ち)ってしまった。

 

「岩の鎧か」

 

 岩を蹴って空中で体勢を立て直し、地面に着地した白鬼はラウドを観察する。

 

 視界(しかい)を塞(ふさ)がない為に開いた目の部分以外は、繋(つな)ぎ目すらない完璧な防御(ぼうぎょ)だと言える。

 

 いくら強く矢を|射(い)ろうと、その硬い岩肌(いわはだ)を貫(つらぬ)く事は叶わないだろう。

 

「この鎧(よろい)さえあればてめえの矢も剣もなまくらよ!」

 

「であれば、これでやろうか」

 

 白鬼は弓を背中に戻すと、左手を前に出し構え右腕を引き拳(こぶし)を握(にぎ)る。

 

 そして姿勢若干低くし、左脚で一歩前に踏み出し同時に右脚を外側に向ける。

 

「魔力を練(ね)りもしねえでよ、今の俺に素手で勝てると思ってんのか――?」

 

 ラウドは僅(わず)かに怒りを滲(にじ)ませながら警告(けいこく)するが、白鬼はそれでも動かない。

 

「余り時間が無い、さっさと来い」

 

「この野郎……!『ガイアエンチャント』!テメエは挽(ひ)き潰(つぶ)す!」

 

 ラウドは土属性の魔術で大槌に岩を纏(まと)わせて強化すると、肩に担ぎ一気に白鬼との距離(きょり)を詰(つ)め全力で振(ふ)り下ろした。

 

 白鬼は振り下ろされた岩塊(がんかい)に左手の甲(こう)を打ち付けるだけで軌道(きどう)をずらす。

 

「な――にっ!?」

 

 そして右脚(みぎあし)を前に踏(ふ)み込むと同時に、右の拳を胸の中心に打ち込んだ。

 

「がっ……!」

 

 高速で放たれた拳は岩の鎧を容易(たやす)く砕き、ラウドの百キロ以上ある身体を吹き飛ばした。

 

 吹き飛ばされながらも意識が消えないようにラウドは堪(こら)え、両手を組み白鬼に向け魔術を唱(とな)える。

 

「……ク、ソ!『ガンズロック』!」

 

 組まれた両手の前に魔法陣が現れ、そこから巨大な岩が発射された。

 

 白鬼はその場から走り出し、手首を切り裂き出血させ紅い霧を噴出させる。

 

 その霧は右腕に集まり固まると一回り大きな紅い腕となり、白鬼は正面から岩を殴りつけ打ち砕いた。

 

 そして一気にラウドの元へ辿(たど)り着き、地面に着かんとしていたラウドの露出(ろしゅつ)した地肌(じはだ)を血霧(ちぎり)を消した拳(こぶし)で救(すくい)い上げるように殴りつけさらに吹き飛ばした。

 

「がはっ――!」

 

 土壁(つちかべ)をいくつも突(つ)き抜け、大木(たいぼく)に衝突(しょうとう)してようやく停止(ていし)したラウド。

 

 ラウドの首に指を当て脈(みゃく)を計ると、白鬼はそれをうつ伏(ぶ)せにさせて魔封じの手枷(てかせ)を両腕に嵌(は)め両足を縄(なわ)で縛(しば)る。

 

「生きているか、元騎士だけあって魔術の腕(うで)は中々のようだ」

 

 白鬼は傷を塞ぐポーションをラウドに掛けると、片手で持ち上げ馬車の荷台に乗せる。

 

「反対側の魔物達は対処(たいしょ)されたか、首領(しゅりょう)も直に動き出すだろう」

 

 白鬼は残(のこ)りの盗賊達へ向かって走り出した。

 

 

 ————

 

「コイツで最後だな、手間取らせやがって」

 

 両足の腱(けん)を断(た)たれ倒(たお)れ込(こ)んだオークの背中に立ち、アクセルは首筋に刃(やいば)を突き立て命を刈(か)り取る。

 

「被害状況(ひがいじょうきょう)の確認をしろ、魔物除(まものよ)けの再設置(さいせっち)も急げ」

 

「はい!」

 

 部下に指示を飛ばしながら、二振(ふたふ)りの刃に付着(ふちゃく)した血と脂(あぶら)を拭(ふ)き取る。

 

 今回の相手は随分(ずいぶん)と頭の切れる奴らしい。

 

「厄介だな……」

 

 恐らく魔物に乗じて既(すで)に|拠点内へ入り込んでいるだろう。

 

 そいつが商品を解き放った奴と同じかは分からない、それでも今迄(いままで)の騎士や賞金稼ぎ達と同じと思わない方が利口(りこう)だ。

 

「漸(ようや)く騎士共が来なくなってきたってのに、面倒くせえ」

 

 魔物の凶暴化以降、騎士団の人員はそちらの討伐へ割かれる事が多くなり、森へ拠点を移した事もあってか襲撃を受ける事も減っていた。

 

「おい」

 

「何でしょうか」

 

 オークの背中から降(お)り、通り掛かった部下を呼び止めた。

 

「ラウドはどこにいる」

 

「見ていませんが」

 

「……お前ら死骸(しがい)片しとけ」

 

「分かりました」

 

 鞘(さや)に剣を収めて走り出す。

 

「まさかやられてねえよな……」

 

 ラウドは面倒臭(めんどうくさ)がりで仕事をサボるような奴ではあるが、その実力は確かで信頼できる物がある。

 

「あれは……」

 

 ラウドの大槌が地面にめり込んでいるのを見つけたアクセルは、思わず思考を奪われてしまう。

 

「そこか――」

 

 アクセルが気配(けはい)を察知し、振り返りながら素早く腰の二振(ふたふ)りに手を掛ける。

 

「遅い」

 

 だが白鬼はそれをも上回る速度で柄(つか)の尾(お)を抑(おさ)えると、そのまま顎(あご)に掌底(しょうてい)を放ち意識を刈(か)り取った。

 

 アクセルの両腕を背中側に回させ魔封じの手枷(てかせ)を着け、白鬼はそれを片手で担(かつ)ぎ上げラウドと同じく馬車の荷台(にだい)に乗せる。

 

「――っ!」

 

 突如(とつじょ)として飛来(ひらい)した雷鳴(らいめい)の槍を白鬼は腕の一薙(ひとなぎ)弾き飛ばす、そして攻撃の始点(してん)へ視線を向けるとすぐさま弓を構え盗賊の一人を撃(う)ち抜いた。

 

「ぐあっ!」

 

 それを合図(あいず)にしたかのように四方(しほう)から矢の雨が降(ふ)り注(そそ)ぐ、それに対し白鬼は分厚(ぶあつ)い木版(もくばん)を荷台(にだい)に被(かぶ)せると透(す)き通る刀を抜き素早く振(ふ)るう。

 

 刀の一振りで数十の矢を切り落とし、腕のひと薙(な)ぎで矢を弾き飛ばし、白鬼の身体へ到達することを許さない。

 

「バケモンが……!すぐに魔術の準備(じゅんび)をしろ!」

 

 ロウは部下に指示を飛ばしながら、矢を吹(ふ)き飛ばしながら前進を続ける白鬼を注意深(ちゅういぶか)く観察(かんさつ)し、自らも魔術を発動させて発射の待機をさせる。

 

「いくらあいつでも、これだけの魔術量は防げない筈(はず)だ」

 

 魔術部隊の準備が完了したことを確認し、ロウは腕を振り上げる。

 

「撃(う)て!」

 

 掛(か)け声と共に腕を振(ふ)り下ろし雷の槍を放つ、それと同時に大小様々な魔術が白鬼に目掛(めがけ)けて降(ふ)り注ぎ爆炎(ばくえん)を巻《ま》き起こした。

 

「――!」

 

 油断(ゆだん)などしない、奴の力は計(はか)り知れないのだ。

 

 魔術によって地形(ちけい)が変わろうとも止める指示を出さず、絶(た)えず魔術を放たせ続ける。

 

 そして暫くの時間の後、魔術を放つのを止める。

 

「撃ち方やめ!魔力を補給しすぐに次弾(じだん)を構(かま)えろ!」

 

 部下に指示を飛ばしながらも、巻き上がる土煙から一瞬たりとも視線を外さない。

 

(奴に魔術を使う様子は無かった、そしてこの魔術量だ、いくら力が強くても剣一本で防げるはずがないっ!)

 

 瞬間、未だに舞う土煙を血のように紅(あか)い霧(きり)が内側(うちがわ)から呑(の)み込んだ。

 

「なんだアレ……」

 

 盗賊の一人が声を漏(も)らした瞬間、球状(きゅうじょう)となった紅(あか)い霧(きり)から鋭い針が伸びその者の胴体(どうたい)を貫(つらぬ)いた。

 

「ぐあああ!」

 

「紅(あか)い霧(きり)から伸びてるぞ!ぐあっ――!」

 

「逃げ――っ!」

 

 次々と貫かれる部下達に撤退(てったい)の指示(しじ)をする為にロウは声を発しようとし、ある可能性を考え寸前(すんぜん)の所で口を手で押さえる。

 

『大きな声を出さない様に伝(つた)えろ!』

 

 近くの部下を引き寄(よ)せ、なるべく小声で伝令(でんれい)を指示(しじ)する。

 

 無言で頷(うなづ)いた部下は走り出し、他の者達へ指示を伝えていく。

 

 すると辺りが段々と静寂(せいじゃく)で包まれ始め、紅(あか)い霧(きり)から飛び出す棘(とげ)が減(へ)っていき、そして完全には停止(ていし)した。

 

(やはり音に反応しているっ!ならば無音(つおん)で戦うしかない!)

 

 ロウは口に手を当てながら、もう一方の腕と目線で魔術部隊に指示を出す。

 

(奴の紅が霧であるならば風と光と水は駄目だっ!つまりここで選ぶべきは地属性!)

 

 魔法陣を空中に描き魔力を送り大きくさせる、意図(いと)を理解した部下もそれに続く。

 

(幾人(いくにん)もの魔術師による上級魔術!これだけやれば奴は形も残らないっ!)

 

 漸(ようや)く完成した巨大魔法陣、いざ発動させようとした瞬間。

 

 紅(あか)い霧(きり)から夥(おびただ)しいほどの棘が飛び出し、一部を除(のぞ)いた全てを貫(つらぬ)いた。

 

「ば――け、もの――」

 

 身体の至(いた)る所を貫かれたロウが消えゆく意識(いしき)の中で最後に見た光景。

 

 それは崩(くずれて)れていく赤い霧から現れた、血の一滴(いってき)も流していない白いの悪魔(あくま)の姿だった。

 

 ――

 

「カシラ!|敵襲(てきしゅう)です!」

 

「分かっている!直ぐに総員(そういん)集めろ!」

 

 盗賊団のカシラであるリードは焦(あせ)っていた。

 

「クソっ、漸くここまで来たってのに……!」

 

 謎の剣士による商品の解放、そして拠点への襲撃。

 

 その者は途轍(とてつ)もない剛力(ごうりき)であり、王都騎士団の遙(はる)か上を往(い)く剣の使い手だという証拠(しょうこ)が残されていた。

 

「どうするべきだ、正面切ってやり合えばまず勝ち目は無い……」

 

 資金(しきん)の横領(おうりょう)がバレ騎士団を追(お)われたリードは、没落(ぼつらく)し生活が困窮(こんきゅう)した元貴族や篩(ふるい)に掛(か)けられ先の無くなった騎士の訓練生(くんれんせい)を集め盗賊を襲撃(しゅうげき)、カシラの座を奪(うば)い取り自らの(ぐん)軍とした。

 

 それを繰(く)り返し拡大(かくだい)した盗賊団は、生半可(なまはんか)な冒険者や賞金稼(しょうきんかせ)ぎを寄せ付けない程の規模(きぼ)になっていた。

 

 さらに森を押さえる事で天然(てんねん)の要塞(ようさい)を手に入れ、守りを盤石(ばんしゃく)にする事も出来た。

 

 それだけでなく、近年活発化している魔物の影響(えいきょう)により国の騎士の戦力がこちらに割(さ)かれることも減り、さらなる追い風も吹いていた。

 

 裏商人と繋がり地盤(じばん)を固め、戦力を更に拡大(かくだい)させていく。

 

 まさにこれからだったというのに、自慢(じまん)の盗賊団はたった一人に壊滅(かいめつ)させられようとしている。

 

「カシラ!報告(ほうこく)が!」

 

「なんだ!」

 

「ラウド隊ロウ隊が壊滅(かいめつ)!アクセルさんの行方も分かりません!」

 

「クソっ!」

 

 ラウドは拳(こぶし)で机を叩き割り、周囲に木片(もくへん)が散らばった。

 

 ラウド隊やロウ隊も自らが鍛(きた)えてきた精鋭(せいえい)達だった、そしてアクセルは団内二番手の実力者だ。

 

 それがこの短時間でやられた。

 

 戦って死ぬか、逃げて生き延(の)びるか。

 

 答えは一つしかない。

 

「拠点(きょてん)を捨てる、すぐに伝令(でんれい)を出せ!」

 

「その必要は無い」

 

「――っ!」

 

 見知らぬ男の声が聞こえ魔術を発動しながら振り返る。

 

 だが放たれた火球(かきゅう)は壁(かべ)を燃(も)やすだけに終わり、燃やすはずだった相手もそこにはいなかった。

 

「残っているのはお前達二人だけだ」

 

 男は部屋の中央に立つと、仮面(かめん)の隙間(すきま)から覗(のぞ)く瞳(ひとみ)でリードを真っ直ぐ見据(みす)える。

 

「馬鹿なっ――!」

 

 盗賊団は三百人をゆうに超える正に大部隊といえる規模だった。

 

 だというのに、この男はたった一人で制圧(せいあつ)したというのか。

 

「お前達には二つの選択肢(せんたくし)がある」

 

 角が生えた白面の男は、腰(こし)の剣に手を添(そ)え自然体で構え始める。

 

「武器を捨て投降(とうこう)するか、戦い命を落とすかだ」

 

 面に空いた穴から覗(のぞ)き込む瞳(ひとみ)は冷たく、僅(わず)かな慈悲(じひ)すら残っていない。

 

 今迄(いままで)打ち倒して来た騎士や賞金稼ぎは、僅(わず)かな迷いを見せていたというのに、この者からは常に冷徹(れいてつ)な意思(いし)が痛(いた)い程(ほど)に伝(つた)わってくる。

 

「……っ!舐(な)めやがって!」

 

「よせっ――!」

 

 重圧(じゅうあつ)に耐(た)えきれなくなった部下が剣を抜き放ち斬(き)りかかるが、その刃(やいば)が白面に到達することは無かった。

 

 白面は僅(わず)かに身体をずらしただけで一撃(いちげき)を躱(かわ)すと、部下が突然床に倒れ、のた打(う)ち回り始めた。

 

「あ゛ああ゛ああ゛!」

 

 叫(さけ)び声を上げると同時に剣が床に転がる、その柄には握(にぎ)った状態(じょうたい)の手が張(は)り付いていた。

 

(剣を抜いた瞬間が見えなかった……!)

 

 奴はいつ剣を抜いた、奴はいつ剣を収めた。

 

「再度問う、戦うか、それとも死ぬか」

 

 白面の男は魔封じの腕輪を取り出し、手に吊(つ)り下げる。

 

 勝てるわけが無い。

 

 この者にだけは抗(あらが)ってはならない。

 

 選択肢など、無い。

 

「リード、さん……!」

 

 リードは両膝(りょうひざ)を着くと、白面に合わせた合わせた両腕(りょううで)を差し出した。

 

 白面はリードに手枷(てかせ)を嵌(は)めると引っ張(ぱ)って立たせ、建物の外まで歩かせる。

 

 外には抵抗(ていこう)したのか血溜(ちだ)まりに沈(しず)んだ者、リードと同じように大人しく手枷(てかせ)を着けられた者に別れていた。

 

「別動隊はいるか」

 

「いねえ、これが俺の全てだ……」

 

 騎士を志(こころざ)し、唆(そそのか)されて悪事に手を染(そ)めて、全てを失った。

 

 再起(さいき)を誓(ちか)い同胞(どうほう)を集め、盗賊を手中(しゅちゅう)に収め数の力を手に入れた。

 

 金を集めて武器(ぶき)を揃(そろ)え、人を増やして土地を奪(うば)った。

 

 人を浚(さら)い金にして、豪商(ごうしょう)と繋(つな)がり、広大な土地が手に入るまであと少しだった。

 

「来たか」

 

 リードは白面が傍(そば)を離(はな)れた事で重圧(じゅうあつ)から解放(かいほう)され、地面に倒れ込んだ。

 

 その瞳に既(すで)に生気(せいき)は無く、仲間達を捕らえていく騎士と白面(はくめん)の姿が空虚(くうきょ)に反射(はんしゃ)されていた。

 

「俺はどこで間違えた――、最初からか」

 

 こうして、白の鬼と盗賊団の戦いは終結(しゅうけつ)した。

 




リード
300を超える盗賊団のカシラであり、元騎士
嘗(かつ)ての仲間に横領を誘われ乗ったが、悪事がばれ騎士団を追放された
その後は、同じく騎士を追われた者達を集め、盗賊を襲撃し従えた。
森の中を根城とし、人を物資を奪い資金に変えていたが。
護衛依頼を受けていたアルマを襲撃した為に、存在を気付かれ一夜にして壊滅させられた。

ラウド、ロウ、アクセル
三人共元騎士であったが、リードに誘われ盗賊へと身を墜とした
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