武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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真意

 

 

「まさかたった一人で攻め込み、この規模の盗賊拠点を制圧してしまうとは」

 

 馬車に乗せられていく盗賊達が暴れないように監視をしながら、この騎士達を(まと)めている隊長と状況を話し合う。

 

 離れた所では魔術によって大きな穴が開けられ、そこに盗賊達の亡骸が運ばれている。

 

「本来は我々騎士が対処すべき事だった、これは言い訳になってしまうが、各地で凶暴化した対応によってここまで人手が回らず、結果奴らを野放しにしてしまっていたんだ」

 

野盗征伐(やとうせいばつ)は『武士』の務めだ、気にする必要は無い」

 

 初代が故郷に居た頃は住民達を護るべく、周囲に現れた賊は徹底的に打ち取っていたようだ。

 

 そして『民とは即ち力であり、(いたずら)に数を減らせば自らも弱くなる』と、書には遺されていた。

 

「『武士』……、だが代表して礼は言わせてくれ、ありがとう」

 

 白髪の騎士が深く頭を下げ、感謝の意思を示す。

 

「ああ」

 

「我々はこのまま馬車で町へ戻る、良ければ君も乗って行ってくれ」

 

「では言葉に甘えさせてもらおう」

 

 馬車に乗り込み弓と刀を外して置き座り白の仮面を外し、少しでも身体を休ませるために目を閉じる。

 

 まだ戦えはするが、少々出血をし過ぎてしまった。

 

 傷を癒すことは出来る、だが血は何かを食べるか眠らなければ回復しない。

 

 ふと気配を感じ視線を向けると、前髪の長い女性の騎士がゆっくりと馬車に乗り込んできた。

 

「あの、お、お怪我は、ありませんか……?」

 

 どこか落ち着かないような様子をしているが、たった一人で盗賊の拠点に乗り込み壊滅させたという男は、騎士とはいえやはり恐ろしいのだろうか。

 

「いいや、怪我はしていない」

 

「あ、そうですか……」

 

 彼女は少しでも距離を取ろうとしているのか斜め前に座ると、馬車がゆっくりと走り出した。

 

「治癒魔術とは、血の量を正常にすることも出来るのか?」

 

「ち、血の量ですか?あ、はい出来ますよ」

 

「頼んでもいいか?」

 

 目の前に移動し、(そで)をまくってから手の平を差し出すと、表情が固まってしまう。

 

「あ、あっ……!」

 

「大丈夫か……?」

 

 表情が固まるどころか青くなっていく、どうみてもいい精神状態ではなさそうだ。

 

「悪かった」

 

 袖を戻し、元の位置に座り直す。

 

(少々無神経が過ぎたか)

 

 再び目を閉じて深く深呼吸をする、この状態は睡眠時と同じ効果を得ることが出来る。

 

 安全な場所以外で身体を休ませる際には、主にこういった方法を取っている。

 

 騎士の一団の中にいるという事はそれなりには安全なのだろうが、油断するべきでは無いだろう。

 

 世の中は何が起きるか分からないのだから。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 か細く繰り返される謝罪の声が流石に気になってしまい目を開けると、魔術師の女性は椅子の上で膝を抱えていた。

 

 一体どうすればいいのだろうか、このように怖がられては何をする事も出来ない。

 

 馬車から降りて町へ向かうのも手ではあるが、好意を以て馬車に乗せてくれたというのに(いささ)か薄情だろう。

 

「これに返事はしなくもていいが」

 

「……」

 

「余り気に病まないで欲しい」

 

 再び瞼を閉じて、精神を静め再び回復に努めることにした。

 

 ――――

 

 その後の道中は騎士団の人数がいる事もあってか、特に魔物や賊などに出くわすことも無く街へ帰還することが出来た。

 

「これは少ないが礼だ、是非受け取ってくれ」

 

 騎士を纏める隊長に重みのある包みを手渡される。

 

「報酬の為にやった訳では無いのだが」

 

「ここまで働いてくれた者に何の礼も渡さずに帰すなど騎士の名が(すた)る、これは我々の面目を保つ為として受け取って貰えないか?」

 

「……そうか、ではありがたく頂戴しておこう」

 

 ここまで言われては、突き返すのも忍びない。

 

 包みを荷物に入れ、収容所へ並んで歩いて行く盗賊達に視線を戻す。

 

「長い間ここで騎士を務めているがよ、こんなに大人しく収監される盗賊は初めてだ、一体何をしたんだ?」

 

「力を見せつけだけだ」

 

 盗賊達はたまに周囲を見渡しているが、私を見つけた途端に血相(けっそう)を変え顔を下を向く。

 

「はは、まったく恐ろしいな」

 

 その様子は騎士にも見えているのだろう、苦笑いをしながら肩を叩かれた。

 

「隊長、賊の収監完了しました」

 

「分かった直ぐ向かう、……また改めて礼をさせてくれ」

 

「気持ちだけ受け取っておこう」

 

「ははは、ではまた会おう」

 

「ああ」

 

 騎士達と別れ、宿へ戻り受付から鍵を受け取り階段を上ると、部屋へ戻る様子のヒュリアスとハイアルとに出くわした。

 

「アルマ……!まさかもう終わらせたのか……」

 

「ああ、少々手こずりはしたが」

 

「まじすか、あんだけの数が居たのに……」

 

 割り当てられた部屋の鍵を解き扉を開ける。

 

「明日も早い、今日は早々に休むといい」

 

「分かっている、(むし)ろお前の方が休むべきだろう」

 

「ふっ、そうだな」

 

 扉を閉めて服を脱ぎ、部屋に備え付けられた水場で冷水を浴びて汗を流す。

 

「少し血を流し過ぎたか……、食事を早々に済ませ直ぐに眠るべきだな」

 

 僅かなふらつきと気怠さを精神力で押し殺し、掛けられている布で身体に纏わりついた水分を拭い宿屋の物らしい衣服を身に着ける。

 

「少々生地は薄いが、着心地は悪くない」

 

 ふと、何者かがこの部屋に気配が近づいている事に気づき視線を向けると、扉を叩く音が聞こえてきた。

 

『お客様、料理をお持ちしましたが、いかがいたしますか?』

 

 どうやら店主が料理を運んできてくれたようだ。

 

「入ってくれ」

 

『かしこまりました、失礼いたします』

 

 扉が開かれ、店主が台車を押しながら入室し机に料理を並べていく。

 

「良い匂いだ」

 

「ありがとうございます、庭で栽培している香草を使ったものでして、魔鳥(まちょう)(くせ)の強い匂いを上質な香りへと昇華(しょうか)してくれるんですよ」

 

 椅子に座り濡れ布巾を受け取って手を拭き、畳んでから横に置く。

 

「お酒もございますが、どうなさいますか?」

 

「やめておこう、まだ仕事の途中なのでな」

 

 盗賊の征伐は一先ず終えたが、彼等を無事に街まで送り届けるまでは気を抜く訳にはいかない。

 

 それに酒に酔ってしまうと力加減が難しくなってしまう。

 もし宿備品を破壊するようなことがあれば、店主に申し訳が立たない。

 

「そうですか、でしたらこちらの果実水はいかがでしょう」

 

 代わりと言って店主が台車から取り出したのは大きめの水瓶だった、その中には様々な果物が輪切りの状態で漬けられている。

 

「綺麗だな、頂こうか」

 

「かしこまりました」

 

 硝子(がらす)の器に水が注がれ目の前に置かれる、どうやら果物が零れ落ちないように注ぎ口は細い柵が作られているようだ。

 

 器を手に取り、果実水を口に含み喉を潤す。

 

「見た目ほど甘くは無いのだな」

 

 最初に感じたのは柔らかな甘み、だがそれが現れたのはほんの僅かな間であり。

 

 後を引かない優しい酸味が口内をさっぱりとさせてくれる。

 

「ええ、食事の邪魔をしない中で最大限の味わいを作り出すために、果実の切り方や大きさや数に拘っています」

 

「ああ、いい味だ」

 

「ありがとうございます」

 

 食事の際に呑む水や茶、それに加えてこの飲み物があるならば食卓は一層と華やかになることだろう。

 

 これだけで売っているならば、是非とも土産として買っていきたいと思える程の味わいだ。

 

 残念な所は、これが時間を掛けて持ち帰れる程に日持ちがしないだろうという事だが。

 

「他の者達は既に食事を終えたのか?」

 

「はい、貴族の方達でしたので満足して頂けるか少々不安でしたが、喜んで頂けたようでこちらも安心しております」

 

「そうか、良かった」

 

 彼等を庇護する為に宿屋を借りた訳だが、一先ずここを選んだのは正解だったようだ。

 

「お食事がお済になられましたら、この鈴を鳴らしてお呼びください」

 

「ああ」

 

「では失礼いたします」

 

 店主は一度頭を下げると台車を押しながら、部屋の外へ出て行った。

 

 焼かれた魔鳥を食べやすい大きさに切り取り一口食べると、しっかりと焼き目を付けた魔鳥の香ばしさを香草の焼かれた(さわ)やかな香りが昇華し、口内を満たし鼻腔(びくう)をくすぐってくる。

 

 程よくしっとりとした脂と、しっかり目に味付けされた塩気と香辛料が一戦を終えた後の身体にはありがたい。

 

 ――――

 ――

 

 食事を終え店主に食器をかたしてもらった後、日課である精神統一を行っていると、扉の前で立ち止まる気配を感じた。

 

 扉を叩くと思い待っていたが、一向にその気配が無い。

 

 いつまでもそこに居られては集中も出来ない為、扉を開くと驚いたまま固まった表情のセレナと目があった。

 

「あ、アルマさんっ……!」

 

 セレナは夕刻に買った服では無く、宿屋に備えられている衣服に袖を通している。

 

「セレナ、一体どうした」

 

「あの、お部屋にお邪魔しても、いいですか?」

 

「それは構わないが」

 

 セレナを室内に招き入れ扉を閉じると、彼女はベッドへと座った。

 

 その表情はどこか緊張をしているような一方、重い覚悟を決めているような様子も見える。

 

「アルマ様、私は貴方に、お礼をしたいです」

 

 途切れながらも発せられるその言葉は僅かに震え、どこか不安定な雰囲気も(にじ)ませている。

 

「お礼か」

 

「渡せるものは何もありません、ですが……」

 

 セレナは一瞬の躊躇(ためら)いを見せた後、自らの衣服を縛る布を掴み解き始める。

 

「……!何をしている」

 

 力を入れないように腕を掴みその行為を止めさせる。

 

「私がそのような事を求めていると思っているのか?」

 

 一体何を思い、その行動に至ったのかは分からない。

 

「アルマ様……!」

 

 セレナは胸に飛び込んでくると、背中に腕を回し自身の身体を強く押し付けてくる。

 

「お願いします、私を貰って下さい……!」

 

 会ったばかりの男に自身を抱けと頼むなど、余程の覚悟がない限り選ばない選択肢だ。

 

 だが今の彼女は冷静な判断を下せるような精神状態にはとても見えない。

 

 きっと何かがあるはずだ。

 

 彼女をここまで追い立てるような何かが。

 

「一体どうしたというのだ……」

 

「……!」 

 

 セレナの背中に手を触れると、彼女は大きく身体を震わせた。

 

「……怖いのだろう、身体が震えている」

 

 落ち着いて貰えるようなるべくゆっくりと語りかけながら、背中に手を当てゆっくりと撫でる。

 

 ぐずる幼子へする対応と殆ど変わらないが、彼女にはそれが一番良いと感じた。

 

「セレナ、顔を上げてくれ」

 

 顔を上げたセレナの目には大粒の涙が溜まり、今にも零れ落ちそうになっていた。

 

「まずは事情を話しては貰えないか?きっと力になれるはずだ」

 

 なるべく優しく顔に触れ涙を指で拭い去り、そのまま髪を()くように撫でる。

 

「うぅっ……、アルマ様ぁ……!」

 

 セレナは決壊したように涙を溢し、嗚咽を漏らす。

 

 今迄堪えて来た物もあるのだろう、妹の手前だと耐えていた物もあったのかもしれない。

 

 その後、セレナはしばらく胸の中で涙を流し続けた。

 

 ――

 

「落ち着いたか」

 

「はい、ごめんなさいアルマ様……」

 

「謝る必要はない」

 

 ベッドから立ち上がり果実水を注ぎ、セレナへ手渡してから椅子を引き寄せ彼女と顔を合わせるように座る。

 

「ありがとうございます……」

 

 セレナは果実水に口を付けると深呼吸をする。

 

「私、私達は売られたんです」

 

 予想にもしなかった言葉に、思わず耳を疑ってしまう。

 

「売られた……?」

 

 人の親とは思えぬ所業(しょぎょう)だ。

 

「私のお父様は、東の地にある小さな農耕地域(のうこうちいき)を任された領主でした」

 

 セレナはゆっくりと、自らが置かれていた状況について語り始める。

 

 曰く、近年凶暴化していた魔物により領地に被害が出ていたセレナの父親は、周辺の領主に戦力と資金の援助を申し出た。

 

 父親はそれを借り受け魔物の討伐へ乗り出し、見事それを達成し喜びを噛み締めていたそ(つか)の間、領主の一人が戦力と資金の返還をすぐに求めたという。

 

「ですが近年悪天候が続いていた事もあって(ろく)に支払う事も出来ず、代わりと言って領主が要求したのが私とアーティアでした……」

 

「……そうか」

 

「最初にお父様から聞かされた時、それも貴族の娘である私の役目と受け入れるつもりでいました、でもまだ幼い妹にそのような思いをさせたくなかったんです」

 

 小さな貴族間では連携を強める為や、大領主の庇護下(ひごか)に入れてもらう事を目的とし、三十以上も歳の離れた相手と政略(せいりゃく)結婚をする事がよくあるのだと聞いたことがある。

 

 まだ十と幼い娘が、四十や五十の貴族に充てがわれることも決して起こり得ない話では無いのだろう。

 

「どうやってこの地に?」

 

「|出発日が迫った夜更けに、三人の使用人達が私達二人を領地の外へ連れ出してくれました」

 

 (つか)える主を裏切る様な行為、だが何故その様な事をしたのかは理解できる。

 

「その者達は……」

 

「あの盗賊達に囚われてからは、分かりません」

 

 もしかすれば、まだ生きているかもしれない。

 

「そうか、ここまで良く耐えたな」

 

 とはいえ可能性は限りなく低い、セレナに生半可な希望を与えるような発言をする訳にはいかないが。

 

 調べてみる価値はある。

 

「は、い……、うぅ、ううう!」

 

 声を出して涙を流すセレナの隣に座り、ゆっくりと背中を撫で続けた。

 

 —————

 

「お恥ずかしい所をお見せしてしまいました……」

 

 目と頬を赤くしたセレナが(ようやく)く、ぎこちないながらも笑顔を見せてくれた。

 

 先程までの重苦しさに満ちた雰囲気は軽減され、彼女本来の性質と思われる柔らかさも表れ始めている。

 

「気にすることは無い、また辛くなればいつでも来ると良い、出来ることは少ないが受け止めることは出来る」

 

 金や地位や名誉のどれもが、人一人救うにはまだ足りていない。

 

 だが、私自身に出来ることであれば、力を尽くしてみせる。

 

「アルマ様……、はい!」

 

「良い返事だ、明日も早い、今日の所はゆっくり休むといい」

 

「おやすみなさいアルマ様……!」

 

「ああ、おやすみ」

 

 セレナは華の様な笑顔を見せると、アーティアとの部屋へ戻っていった。

 

「まだ奴と会えるだろうか……」

 

 衣服を着替え、刀の二振りを差し部屋を出る。

 

「カルミナ、そこにいるのだろう」

 

「……!申し訳ありません……!セレナさんがアルマ様の部屋に入っていくのが見えて、心配で」

 

 部屋からそれほど離れていない物置の影から、罰が悪そうなカルミナが現れた。

 

「……全て聞いていたのか?」

 

「申し訳ありません」

 

 少し圧が強まってしまったのを抑えつつ、彼女の方へ歩いていく。

 

 ゆっくり近づくと、彼女は少し緊張の面持ちになる。

 

「そうか、ではカルミナの方でも彼女に気をかけていて貰えないか?」

 

「え?あの……、ですがわたくしは……」

 

「同性であった方が何かと悩みを打ち明け安いこともあるだろう、頼めるだろうか」

 

「……、分かりましたわ、なるべく支えてみます」

 

「ありがとう、カルミナも何かあればいつでも話を聞こう」

 

「お心遣い感謝いたします」

 

「私は少し出てくるが……、何か欲しいものはあるか?」

 

 この宿にはそれなりの物が置かれてはいるが、何かが不足していれば今のうちに集めておきたい。

 

「いいえそんな……、すでに満ち足りてるぐらいですから、お気になさらないでくださいまし」

 

「そうか、では行ってくる」

 

「道中お気を付けて」

 

「ああ」

 

 カルミナと別れ、受付に部屋の鍵を渡してから宿屋を出る。

 

 しばらく歩くと、盗賊達が集められている収容所に辿り着いた。

 

「失礼、ここに囚われた盗賊の頭と話をしたいのだが」

 

「駄目だ、面会時間はすでに過ぎている、また明日にしろ」

 

「あまり時間に余裕がないのだ、とうにかしてもらえないだろうか」

 

「明日にしろと言っているだろう!これは規則で決められている!異例は認めん!」

 

「そうか……」

 

 さて、どうしたものか……。

 

 彼が何も悪い事をしていない以上、力ずくで押し通る訳にもいかない。

 

 重要な情報が手に入ると思っていたのだが、ここは諦めるべきか。

 

「やかましいぞ、一体どうした」

 

 分厚い鋼鉄の門に設置された小窓から、同じ様な(かぶと)兜が顔を覗かせた。

 

「この者が盗賊の頭と面会をしたいと」

 

「面会?こんな時間にか」

 

 小窓から(のぞ)く瞳と視線がぶつかると、僅かにその目を開かせる。

 

「少し待っていろ」

 

 小窓が閉じられ、足跡が遠ざかっていく音が聞こえた。

 

 そこから暫くして、分厚い鋼鉄の門が開くと、先程あった騎士隊長が現れた。

 

「案内しよう、来てくれ」

 

「助かる」

 

 兜で顔を隠した騎士隊長の後に続き収容所の中を歩く、檻へ目線をやるとこちらを睨む物や気にせず寝具を被る者と様々な反応が見えた。

 

「あまり目を合わせるな、顔を覚えられると面倒だぞ」

 

「気を付けよう」

 

 視線を前に戻し、施設の観察をしていると囚人同士の話し声が聞こえてくる。

 

「なんだあいつ」

 

「おいアンタこっちこいよ!」

 

「すかしやがってよ!」

 

「……、さて着いたぞ」

 

 騎士隊長はある檻の前で立ち止まると、大きな錠前を外し扉を開く。

 

「リード、面会だ」

 

「あ?俺にか?」

 

 リードはのそりと立ち上がり、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。

 

 彼は特別な扱いなのか、この檻には一人しか入れられていないらしい。

 

「一体誰が……、あんたか?」

 

 白仮面を被っていないせいか、彼はこちらの正体に気付いていないらしい。

 

「出ろ、場所を移す」

 

「ちっ」

 

 悪態を付きながら大人しく従うのは、騎士時代の名残なのだろうか。

 

 三人で個室に入り椅子へ座らされたリードと向かい合うように椅子に腰を下ろす。

 

「聞きたい事がある、嘘は付かないで欲しい」

 

「何だってんだいきなり、こちとら眠る直前だったんだぜ」

 

 どうやら軽口を言えるだけの余裕はあるらしい。

 

「お前達は通り掛かる者を捕らえそれを売り物にしていたと聞いたが、その相手との記録や名簿を残した物はあるか」

 

「知らねえ……」

 

 素直に答えない事は想定していた。

 

 懐から白の角突き仮面を取り出し、顔に被せて見せる。

 

「あ、アンタは……」

 

 余裕のあったリードの表情が途端に驚愕の物へと変わり、大量の汗を流し始める。

 

 盗賊団を潰した者が再び会いに来るとは思っていなかったようだ。

 

「再度問おうか」

 

「あ、ある!青の表紙の本だ!今迄(いままで)取引してきた奴は全員書き残してある!」

 

 リードは震えた声で答える。

 

「捕らえていた者達は、取引をする際には態々連れまわしていたのか?」

 

「……商品の情報を記した物を見せていた、赤い表紙の物だ」

 

 抵抗をしてはいけないと分かっているのか、リードは言い淀みながらも答える。

 

「騎士隊長殿、拠点に置かれていた物は回収されているのか?」

 

「あ、ああ、直ぐに持って来させよう」

 

 僅かに面食らった様子の騎士隊長は、扉を開き部屋の外へ出て行った。

 

 白の仮面を外し、懐に戻す。

 

 ――

 

「青と赤の表紙、これで間違いないな?」

 

 騎士隊長と部下の騎士が幾つもの本を並べていく。

 

 この数だけ人々が囚われ誰かに売られていたのかと思うと、思わず拳を握る力が強くなる。

 

「……ああ」

 

 リードに確認を取った騎士隊長から最も新しい本を受け取り、適当な所を開くと取引日や相手の名前や所在地までもが事細かく記されていた。

 

 商人や貴族、他国の一般階級と様々な相手と取引をしていたようだ。

 

「これを管理していたのは誰だ」

 

「俺だ、あいつらには任せて置けねえから」

 

 この細かさは騎士であったからこそか。

 

 商品説明書と表紙に掛かれた本を取り、日付の近い後ろの方を開き確認する。

 

 中には人の名前や値段、そして捕らえた日時などが事細かく記されている。

 

「こいつは……、人の好さそうな顔をしてよくも……」

 

 中身を確認していた騎士隊長が苦々しそうに(うな)る、良く知る人間の名前が記されていたのだろうか。

 

 名前を指でなぞりながら一人づつ確認していくと、知っている名前が並んでいた。

 

 今宿屋にいる彼ら彼女ら以外の名前に、恐らくセレナの使用人がいるだろう。

 

 本を開いたままリードの目の前に置き、目を合わせる。

 

「この日時に間違いは無いな?」

 

「あ、ああ!商……、いや捕まえた奴はその日の内に価値を決めているんだ!」

 

 今更商品などと呼んだくらいでは怒りはしない、不快には感じるが。

 

「名前の上に刻まれた魔術陣はなんだ」

 

「これは映写機で刻んだもんだ、取引相手に魔力を流させて姿を確認させるために使ってたんだ」

 

「……騎士隊長殿、魔力を流してもらえるか?」

 

「それは構わないが、罠を仕掛けて居ないだろうな」

 

「仕掛けてねえよ、んな事したら信用が落ちちまう」

 

「……」

 

 騎士隊長は魔術陣に指先で触れ魔力を流し込む。

 

 すると白と黒を基調にした丈の長い衣服を纏った女性の姿が、魔術陣から浮かび上がった。

 

 その表情は絶望に満ちており、思わず拳に力が入る。

 

 彼女はあの場には居なかった、つまりは誰かが買ったということだ。

 

「後はこの三人を頼む」

 

 セレナと同じ日付が記された名前を示す。

 

「ああ」

 

 三人の内の二人は先程の女性と同じ服装をしている、恐らくは彼女達がセレナの従者なのだろう。

 

「彼女達を買った者の名前は」

 

「そ、それは……」

 

 この状況でまだ他人を庇おうとするとは状況を理解していないのか、それとも商売をしていた者としての意地か。

 

 リードの胸倉を掴み持ちあげる。

 

「ま、待ってぐれ!」

 

 引っ張られた衣服により首元が締まっているのか、リードの声が僅かに潰れ顔が苦痛で歪む。

 

「おい!死んでしまうぞ!」

 

 騎士隊長と部下が引き剥がしに来るが、そんな事は分かっている。

 

「わがっだ!わがっだがらはなじでぐれぇっ……!」

 

「駄目だ、問いに答えろ」

 

「ガルマ=リゾールど!アズガル=マーノだ!」

 

 手を離してリードを椅子に座らせ、顧客名簿を開き名前を探す。

 

「ゲホッゴホッ……!畜生……!」

 

「こいつは明日ザーウェイに移送するんだ、アンタの気持ちは分かるが抑えてくれ……」

 

「気を付けよう」

 

「まったく……、おいしっかりしろ」

 

 ガルマ=リゾールとアズガル=マーノの名前を探し出し、地図を広げザーウェイと二人の所在地を調べる。

 

 ガルマはザーウェイからそれ程距離の離れていない地に居を構え、アズガルは隣国にいるようだ。

 

 従者の三人はガルマが纏めて買い上げ、残りの一人はアズガルの下へ行ったようだ。

 

「ガルマ=リゾールか、厄介だな」

 

「知っているのか」

 

「ああ、国内で有数の大貴族だ、まさか彼程の男が人を買っていたとはな」

 

 大貴族、ならばかなりの戦力を有しているだろう。

 

 そして国内での地位が高いとあれば、何か大きな被害を受けたとしたら騒ぎが大きくなりすぎるかもしれないな。

 

「無茶な事は考えるな、いくら盗賊団を一人で壊滅させたとはいえリゾール家の戦力は相当な物だ」

 

「正面から潰せば面倒な事になるだろう事は分かっている、だがそれ以上の力を利用すれば問題は無い」

 

 流通の妨げとなっていた盗賊達の征伐をしたとなれば、街を仕切る領主と会う事が出来るかもしれない。

 

「まるで戦えば負けないといった感じだな、まったく恐ろしい話だ」

 

 知りたい事を知る事が出来た。

 

 本を閉じて席を立つ。

 

「この本達はどうなる」

 

「盗賊達と共に明日ザーウェイへと移送されるだろう」

 

「ここに記された者達の捜索はされるのか?」

 

「当たり前だろう、国境を超えた者達も時間は掛かるだろうが必ず見つけ出すさ、取引をした者も例え貴族であろうと捕まえて見せる」

 

「ならばいい」

 

 もし地位によって捜索が打ち切られるような事になれば、私が直接取り返しに向かうつもりだ。

 

「安心してくれ、この国はそこまで腐ってはいないさ、説得力は余り無いがな」

 

「分かった、期待しよう」

 

 懐から白の仮面を取り出して被り、刀の柄に手を当てリードと目線を合わせる。

 

「もし逃げる事があれば、もし再び事を繰り返すのならば」

 

 刀を抜き放ち、リードの眼前に突き付ける。

 

「どこに行こうが見つけ出し、必ず貴様の首を獲る」

 

 ゆっくりと刃を鞘に納め、扉まで歩き取っ手を掴み振り返る。

 

「覚えておけ」

 

 部屋を出て扉を閉じる。

 

『剣を抜く瞬間が見えなかった……』

 

 知らない声が中から聞こえる、恐らく部下の騎士の物だろう。

 

 どうでも良い事を考えながら、来た道を戻り出口へ向かっていると。

 

 檻の一つから太い腕が伸び、袖を掴まれ引き寄せられた。

 

「なあアンタ、俺をこっから出してくれねえか?」

 

 その行動を切っ掛けに収容所内が騒めきだす。

 

「なにやってんだか……」

 

「ははっ!いいぞやっちまえ!」

 

 煽る者呆れる物と様々な声が聞こえる。

 

 盗賊達と思わしき者達は何事かと前の方へ近づいてきたが、私の事を見るなり目を見開いて下がって行った。

 

「力比べがお望みか?」

 

「あ?何言って……」

 

 檻の中へ手を伸ばし、大男の袖を掴んで引き寄せる。

 

「アガっ!」

 

 顔面が檻に衝突し大男が短い悲鳴を上げる。

 

「お前の方からも引っ張ってみろ」

 

 金属の柵が男の皮膚へ食い込み、触れた部分が赤くなっていく。

 

「がっ!ぎぃい!」

 

 このような輩は一度力を見せてやらないと舐めて掛かってくる、今後他の者に被害が出ないように教え込んでやるのも私の役目だろう。

 

「……」

 

 大男が白目を向いた所で手を袖を解放すると、後ろに倒れ込み動かなくなった。

 

 殺してはいない、これはただの脅しだ。

 

「次はだれだ?気の済むまで付き合おう」

 

「……」

 

 収容所内が静まり返った所で再び出口へ向けて歩き出す。

 

 これで同じ目に合いたくないと感じ、更生を目指してくれたらいいが。

 

 その後は宿へと戻り、血と体力の回復へ専念するべく床に着いた

 

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