武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

28 / 49
商業都市ザーウェイ

 ザーウェイへ到着(とうちゃく)してまず連盟へ向かう前に、カルミナ達を引き渡すべく騎士団詰所(つめしょ)(おとず)れていた。

 

「アルマ様、本当にありがとうございました、このご(おん)は必ず返させていただきますわ」

 

「ありがとうございました……!」

 

 安全な所へ来たという実感が()いたのか、カルミナとノーラは目の(はし)に涙を浮かべ微笑(ほほえ)んでいる。

 

「ああ、その時を楽しみにしていよう」

 

「……礼を言うぞ、アルマ」

 

 ヒュリアスが小さく言葉を発する。

 

 どこか気恥(きは)ずかしそうな表情は少し微笑(ほほえ)ましくある。

 

「な、なにがおかしい!」

 

「はいはい……」

 

「あっ、おい!」

 

 ハイアルが顔を赤くして怒るヒュリアスの肩を掴み、横にどけてから前に出てくる。

 

「助けてくれて本当にありがとうございましたアルマさん、俺もっと強くなります、貴方みたいに」

 

「ああ、期待している」

 

 今回起きた事は出来れば無い方が良いのだろうが、苦境(くきょう)を乗り越えた人間は強くなれる。

 

 彼等はきっと真に強い人間になるだろう。

 

 その時が非常に楽しみでならない。

 

「アルマさん……」

 

「アルマさまどこかへ行っちゃうの?」

 

 不安(ふあん)げなセレナとアーティアの表情は姉妹だけあってか、やはりよく似ている。

 

「すぐに会えるさ」

 

「ほんと?」

 

「本当だ」

 

 アーティアの頭を()でながら、セレナに側へ来るように手で(まね)く。

 

「?」

 

「……使用人達の居場所(いばしょ)が分かった」

 

「――っ!」

 

「私が必ず連れ戻す、それまで少し辛抱(しんぼう)していてくれ」

 

「……はい!」

 

 直接攻め込むのが一番早いが、それでは問題があるだろう。

 

 何か(さく)を立てなければ。

 

「では、後の事はよろしく頼む」

 

「はい、お任せ下さい」

 

 全身を分厚(ぶあつ)(よろい)(おお)った騎士が胸に手を当て礼をする。

 

 ――

 

 馬車を騎士団に引き(わた)してから、先にコラルを行かせた連盟へ向かう。

 

「ザーウェイか、エイノスとはまた違う(にぎ)わいだ」

 

 エイノスも人通りが多い都市であったが、こちらは大きな荷物を背負った商人らしき者達が多い。

 

 逆にエイノスは武装(ぶそう)をした冒険者の数が多かった、故郷(こきょう)で街によって人の景色が変わる友人が言っていたがどうやら本当らしい。

 

「ここか」

 

 連盟支店と看板に描かれた建物の扉を開き中へ入ると、懐かしさを感じる喧噪(けんそう)(たか)え入れられた。

 

「リアム殿」

 

「コラル、待たせたな」

 

 受付の側に立つコラルの下へ歩いていくと、連盟職員達の視線が此方(こちら)へ集まるのを感じた。

 

「いいえ、それよりも彼等はお送りになられましたか?」

 

「ああ」

 

「それは何よりです、では依頼の達成報告をしましょう」

 

 コラルが依頼書や連盟証を台へ乗せると、受付がそれを確認し依頼書へ印を押す。

 

「確認しました、冒険者認可証の提示をお願いします」

 

 言われるままに連盟具を取り出し、台に置く。

 

「ありがとうございます、ではこちら、報酬金でございます」

 

 受付は厚みのある用紙の包みを取り出し、台の上をゆっくりと滑らせる。

 

 表情は至って冷静そのものだが、その手は(わず)かに(ふる)えていた。

 

「ああ」

 

 その心境(しんきょう)をさぐる為に包みを受け取りながら目を見ると、(ひとみ)一瞬(いっしゅん)()れた後、取り(つくろ)ったような笑顔が表れた。

 

 刺激(しげき)をしないように(あつか)われていると感じ、受付から(はな)れて併設(へいせつ)されている酒場(さかば)へと足を向ける。

 

 空いていた一席に腰を()ろすと、その正面の席にコラルが続いて座った。

 

「私は彼等に恐れられるような事をしたのだろうか」

 

「アルマ殿が成した事は(たた)えられて(しか)るべきですよ、ただ未知とは人が最も恐れる事の一つですからね、貴方の人柄(ひとがら)を知ればきっと」

 

 傷ついた訳では無い、ただ実感しただけだ。

 

「そうだな」

 

 反応としては恐れられる事の方が正しいのだろう。

 

 恐怖に慣れは無い、それは単純に麻痺(まひ)を起こしているだけなのだ。

 

 (むし)ろ慣れるべきなのは、私の方だ。

 

「コラル、あの者達を捕らえた報酬(ほうしゅう)は渡されると思うか?」

 

「そうですな、あの地はエイノスとの流通において必ず通らなければならない道ですから、その脅威を排除したアルマ殿には領主様からかなりの報酬を約束されているでしょう」

 

「そうか、例えば人を呼び寄せる事も出来るだろうか」

 

遠方(えんぽう)に居られる方ですと(むずか)しいでしょうが、なるべく要望(ようぼう)には(こた)えて(いただ)けるのではないかと」

 

 奴はこの近辺(きんぺん)の地を収めていた(はず)だ、距離に関しては問題にならないだろう。

 

「この地を収める領主(りょうゅ)は何という名だ?」

 

「シーラン=ケンド侯爵(こうしゃく)です」

 

「そのシーランという者の人間性は分かるか?外聞(がいぶん)でも構わない」

 

「そうですな、慎重(しんちょう)とはよく言われています、自らがが選んだ相手しか居城内(きょじょうない)へ入らせないそうで」

 

「ふむ」

 

 慎重、悪く言えば臆病(おくびょう)

 

 話から(さっ)するに近付くことは難しいが、信頼(しんらい)を勝ち取れば有効(ゆうこう)(あつか)えそうだ。

 

「……一体何をなさるおつもりで?」

 

 とはいえ、位の高い貴族を大人しく(おおやけ)の場に引っ張り出せるとは思わない。

 

 さらに盗賊団が捕まった直後であり、そしてそれが取引相手であったならば最大限の警戒(けいかい)をするだろう。

 

大規模(だいきぼ)の盗賊を一人で壊滅(かいめつ)させた者は貴族にとってどう映るのか、それを確かめる」

 

 力無き者達に恐れられるのは今迄(いままで)で十分理解している。

 

 それが力を持った相手ならば一体どうなるのか。

 

 個では無く、集の力を持っている者とどれだけ渡り合えるのかを探るいい機会だ。

 

随分(ずいぶん)物騒(ぶっそう)な話をしているじゃないか」

 

 受付の方から深い青の髪を腰まで伸ばした女性が歩いて来た。

 

「リアメイン殿……」

 

 どうやらコラルは彼女の事を知っているらしいが、連盟の関係者だろうか。

 

「アンタに聞きたい事がある、少し顔貸しな」

 

 真っすぐと見据(みす)えてくるその青い瞳は、こちらの事を見極(みきわ)めようとしているかのようだ。

 

「良いだろう、また仕事をしようコラル」

 

「はい、ありがとうございましたアルマ殿」

 

 コラルと別れと約束の握手(あくしゅ)を交わし、すでに先を歩いているリアメインの後に続く。

 

 ――

 

 受付を通り廊下を歩く、そうして(みちび)かれたのはそれなりの広さがある一室だった。

 

 壁に立て掛けられた大槍(おおやり)は彼女の武器だろうか、髪の色と同じ()に黒く(かがや)穂先(ほさき)、なのある名工(めいこう)が作り上げた一品だろう。

 

「適当に()けてくれ」

 

 刀と弓を立て掛け、置かれた椅子に腰を下ろす。

 

「森の盗賊達を潰してくれたそうじゃないか、それもたった一人で」

 

「ああ」

 

 リアメインはこちらへ振り返ると、机の上に腰を乗せ腕を組む。

 

「アンタには感謝しているよ、連盟も騎士も動けない状態だったからね」

 

「それだけの為にここまで連れて来た訳では無いだろう、目的はなんだ?」

 

 感謝を告げるだけならば態々(わざわざ)ここまで連れてくる意味は無い、あの場でも良かっただろう。

 

「ある物を届けて欲しいんだ」

 

「ある物……?」

 

 リアメインは黒い小さな木箱を棚から取り出すと、私の目の前にそれを置き近くの席に腰を下ろす。

 

錬金術師(れんきんじゅつし)に作らせた魔核石(まかくせき)だ、これを魔導学術園へ運んで欲しい」

 

 リアメインが木箱を開くとそこには黒い宝石が入っていた、(くら)い黒の中には金色の粒子(りゅうし)渦巻(うずま)くように()いている。

 

「美しいな、これは何に使われる物だ?」

 

「街には魔物侵入を(ふせ)ぐ結界が()られているだろう?これはその核だよ、といっても都市程の規模ではないけどね」

 

「結界?」

 

「何だ知らないのかい」

 

「最近故郷を出たばかりでな、あまり外の世界には(くわ)しくないんだ」

 

「成る程ね……、街の中央に高い(とう)が建てられているだろう?それには魔物の侵入(しんにゅう)(ふせ)ぐ結界を張る機能があるのさ」

 

 つまりはあれさえあれば人々は魔物の脅威(きょうい)(さら)される事は無くなり、騎士は盗賊の警戒(けいかい)だけをしていれば良くなるという訳か。

 

「世の中には便利な物があるのだな」

 

 故郷(こきょう)にはそういった物は設置(さぅち)されていなかった、最も危険性の高い魔物は居ないため問題は無かったが。

 

「ああ、だけどその便利な結界もそこに無ければ意味が無い、そこで小型の魔核石作りを小規模な村に設置するのさ」

 

「そういった事は騎士の領分(りょうぶん)では無いのか?」

 

 街の管理や警備、道の舗装(ほそう)といった事は国の事業であり民間でやるような事では無かったはずだが。

 

「どこも人手が足りないのさ、活発化した魔物の対応だけじゃなく隣国への警戒(けいかい)も|疎(おろそ)かに出来ないからね」

 

「ふむ、そこで連盟に協力要請が出たということか」

 

「そういうことさ、教育機関でもある学園にも声が掛かってる、あそこは知恵(ちえ)と力の集まる場所だからね」

 

 国全体がここまでの状況になっていたとは、故郷にいたままではきっと分からなかっただろう。

 

 父上がこの事を(だま)っていたのは私達を思ってのことか。

 

 もし私がこの事を知ったならば、すぐにでも村を飛び出していた。

 

 そして妖刀を持たずして鬼へ(いど)み、命を落としていたかもしれない。

 

「それで、依頼を引き受けてくれるかい?勿論報酬は弾むよ」

 

無論(むろん)、引き受けよう」

 

 人々の為ならば、武士として引き受けない訳にはいかない。

 

「助かるよ、未加工の状態のそれは魔物を遠ざけるどころか引き寄せる、結界の外では注意してくれ」

 

 リアメインは木箱を閉じるとこちらに滑らせる。

 

 つまりは結界の設置されていない村などにはあまり近づくなということか。

 

「これはまだここに置いておく」

 

 木箱を抑えリアメインの方へ(わず)かにずらす。

 

「……?」

 

「私にはまだやるべき事があるのでな、運ぶのはそれからだ」

 

 これを持っていては街の外を(ろく)に歩けない、それだと彼女達を助け出せなくなってしまう。

 

「良いだろう、だが早めに頼むよ」

 

 リアメインは理解のある人物のようだ。

 

「ああ」

 

「同行者はいくら増やしても構わないよ、要望(ようぼう)があるならこちらで選出する」

 

 重大な仕事だ、確かに人手は幾らあっても良いだろう。

 

「いや、私一人で十分だ」

 

 だが魔物を引き寄せるという危険性の高い状況では、信頼の置ける相手でなければ背中を任せることは出来ない。

 

「そうかい、では頼んだよ」

 

「ああ、必ず送り届けよう」

 

 刀と弓を身に着け部屋を後にした。

 

 ————

 

「この地とはそれ程離れてはいないのだな……」

 

 連盟にて購入(こうにゅう)した地図を酒場(さかば)で開き、この場所から魔導学術園との位置関係を確認(かくにん)する。

 

 この距離であれば休まず走って二日といった所だろう。

 

 とはいえ魔物や盗賊との戦闘で消費する体力を考えれば、一度も休まないというのはあまり現実的で無い。

 

 さらに天候や地形などを考慮(こうりょ)すると、到着は早くて三日と言った所だろうか。

 

 となれば雨具(あまぐ)臨時住居(りんじゅじゆ)、結界も必要になるだろう。

 

 魔法の使えない私でも使える物に(かぎ)られてしまうが、商業都市と呼ばれるこの街ならば(そろ)えることは(むずか)しくは無いだろう。

 

 連盟からの借りた地形(ちけい)環境(かんきょう)生息(せいそく)する魔物のなどの本を開き地図に情報を書き込んでいく。

 

 魔物を引き寄せてしまう以上、結界の無い村などは()けて進まなくてはならない。

 

 となれば食料などの物資(ぶっし)途中(とちゅう)補給(ほきゅう)する事は(むずか)しいだろう、つまりはここで最大限買い込む必要がある訳だが、動きが制限されるのはあまり好ましくない。

 

「馬車、いやウマが危険(きけん)か……」

 

 人気の無い道を通る以上は地形も相応(そうおう)の物になるだろう、(いく)ら引く(しゅ)頑丈(がんじょう)であるとは言えど、馬車を引かせる事で動きが制限(せいげん)されていれば悪路(あくろ)によって傷を負う危険性が高くなる。

 

「……」

 

 ふと、金属同士の(こす)れ合う音が聞こえ連盟入り口の方を見ると、数人の騎士が扉を開き中へ入ってきた。

 

「なんだって騎士がこんなとこに……」

 

「さあな、誰か喧嘩(けんか)でも売ったんじゃねえか?」

 

 周囲(しゅうい)の連盟員達が騎士を観察(かんさつ)しながら、興味(きょうみ)なさげに酒を(あお)ぐ。

 

「あの、どうされたのですか……?」

 

 先程会話をした受付嬢が状況(じょうきょう)困惑(こんわく)しながらも問いかけると、先頭を立っている背の高い騎士が一歩前に出る。

 

「ここにアルマ=リュウガンジ殿は居られるか?」

 

「え……?」

 

 想定(そうてい)よりも早い呼び出しだ、余程(よほど)あの盗賊達(とうぞくたちに)難儀(なんぎ)していたのだろう。

 

 地図を(たた)んで(ふところ)にしまい、本を重ねて運び元の位置へ収納(しゅうのう)し、そのまま騎士達の下へ歩いていく。

 

「私に何か用事か」

 

 受付嬢との間に立つように騎士と顔を合わせる。

 

 背丈(せたけ)は私より頭二つ分は高い、背負う長く幅広い剣を持てば槍と変わらない範囲(はんい)攻撃(こうげき)できるだろう。

 

貴公(きこう)がそうか、領主様がお呼びだ、同 行願(どうこうねが)う」

 

「分かった、直ぐに向かおう」

 

 騎士に連れられ街の中を歩く。

 

 この状態(じょうきょう)はやはり目立つのか、四方から視線を感じる。

 

 街の中央へと近づいていく程に建物の色が変わっていく、さらには住民達の衣類(いるい)上等(じょうとう)な物へ代わり装飾品(そうしょくひん)を身に付けた者達も多く見えてきた。

 

 巡回(じゅんかい)する騎士の数も増え、周囲に目を光らせている。

 

「これが貴族街(きぞくがい)か」

 

 知識(ちしき)にはあるが、実際(じっさい)に目にしたのはこれが初めてだ。

 

 地位は違えど人としての本質はやはり変わらないのか、此方(こちら)を興味深そうに眺めては何かを話している。

 

「彼等は貴族では無い、商人だ」

 

 隣に立つ背の高い騎士が答える、私語(しご)(わきま)えているのかと思えばそうでは無いようだ。

 

「この地は選ばれた商人の為に、領主様が特別に貸し与えられている」

 

 ()わば豪商(ごうしょう)

 

 武では無く商の力で成り上がった彼等の瞳に、私の価値はどのように映っているのだろう。

 

「あの目は値踏(ねぶ)みか、面白い」

 

「おもしろい……?」

 

「彼等が()にどれ程の()を付けるのか、興味深くはならないか?」

 

 誰かの下に付くつもりは無い、だが自身の武による価値には興味がある。

 

「商を(きわ)め登ってきた者達だ、人を()る目もあるだろう」

 

 商いも戦いの一つだ、騙し、出し抜く、時には命の危険もあるだろう。

 

 その修羅場(しゅらば)を乗り越えた者達は、剣を持たずともただならぬ雰囲気(ふんいき)を持ち合わせている。

 

「面白い考え方だ」

 

 愉快(ゆかい)そうに笑う騎士。

 

 堅物(かたぶつ)だと思っていたが、存外(ぞんがい)話せる人間らしい。

 

「直に領主様の居住地へ着く」

 

「分かった」

 

 (わず)かに(ゆる)めていた気を引き()める。

 

 商業都市ザーウェイを(おさ)める人物、果たして如何程(いかほど)の者かなのか。

 

 その者の思想(しそう)によっては、立ち回りを考えなければならない。

 

「ここが領主殿の居住地か、中々に堅牢(けんろう)そうな作りをしている」

 

 高く(そび)え立つ外壁の上には槍の穂先(ほさき)の様な金具が並び、付近には常に数人の騎士が巡回(じゅんかい)している。

 

 さらに城壁の角部分にあたる場所には見張り場が設置(せっち)され、外敵(がいてき)侵入(しんにゅう)しないよう周囲に目を光らせている。

 

「止まれ」

 

 城門へ辿(たど)り着き、門番(もんばん)呼び止められ足を止める騎士達に合わせ立ち止まる。

 

要人(ようじん)をお連れした」

 

 先頭を立つ騎士が門兵達と話を始める。

 

移送(いそう)苦労(くろう)

 

 門番は全身を黒く重厚(じゅうこう)な鎧で固め、穂先(ほさき)が長く分厚(ぶあつ)大槍(おおやり)を装備している。

 

「お前はアルマ=リュウガンジで間違いないか?」

 

 門兵が騎士達を()き分け目の前で立ち止まる。

 

「ああ、間違いない」

 

 大槍と隙間(すきま)の少ない大鎧(おおよろい)の組み合わせは、並の人間では立ち合いで苦戦(くせん)(まぬが)れない頑強(がんきょう)さだ。

 

「門を開け!」

 

 門兵が大きな声を上げると城門が開き、奥から黒で(そろ)えられた(ふく)を着た白髪の老人が現れた。

 

「よくお()しくださいました、リュウガンジ様」

 

 綺麗に一礼(いちれい)をする白髪の老人。

 

 顔と首に(きざ)まれた(しわ)からして、歳は六十から七十程だろうか。

 

「奥にてシーラン様がお待ちです、こちらへどうぞ」

 

「ああ」

 

 先へ進む背中を追い、見事に(ととの)えられた庭園の中を進む。

 

 (ゆが)みのない綺麗な姿勢(しせい)(すき)の少ない()()い、かなり(きた)えていると見える。

 

「名前を聞いても良いか?」

 

「もちろんでございます、ワタクシの名前はシルヴァリオ=ルードリッヒ、どうぞシルヴァとお呼びください」

 

「私の事もアルマで構わない、リュウガンジという名は呼びにくいだろう」

 

滅相(めっそう)もありません」

 

「そうか、所でこの見事な庭園(ていえん)はシルヴァ殿(どの)が?」

 

「いいえ、使用人達が丹精(たんせい)込めて管理をしている物ですよ」

 

「ふむ、私も(やと)いたくなる程の美しさだ」

 

 まだ自分の城を持ってはいないが、いずれ手にした時には専門(せんもん)(やと)うのも良いだろう。

 

「ありがとうございます、彼女達も喜ぶでしょう」

 

「領主殿は私の事を恐れてはいなかったか?」

 

「いいえ、(むし)懇意(こんい)にしたいと(おっしゃ)っておりました」

 

「そうか」

 

 行動のクセが見えない、いや、全ての行動を平均化(へいきんか)し消しているのだろうか。

 

 筋肉の(かたよ)りの無さからして、使用している武器は短剣(たんけん)、もしくは剣の二刀流か。

 

 それとも魔術を(じく)として戦闘を行うのか。

 

「この扉の奥に領主様が居られます」

 

「分かった、武器はこのままで良いのか?」

 

 妖刀(ようとう)(あず)ける訳には行かないが、臆病(おくびょう)な人間の前に持って行くことは少し(はばから)れる。

 

「ええ、貴方は安全な方だと分かりましたから」

 

「そうか」

 

 相手を(はか)っていたのはお互い様だったらしい。

 

「シーラン様、アルマ様をお連れしました」

 

「入ってくれ」

 

「失礼(いた)します、さあこちらへ」

 

 シルヴァに(うなが)され部屋の中へ入ると、 痩()せ型の男に出迎(でむか)えられた。

 

「おお、其方(そなた)がアルマ殿か……!」

 

 (ほほ)()せこけ、白く長い(そで)から伸びる手指は細く頼りない。

 

「以下にも、このような場所に呼んで(いだた)感謝(かんしゃ)する」

 

「アルマ殿はこの地にとっての大恩人(だいおんじん)、一度顔を合わせて感謝を伝えなければ領主(りょうしゅ)の名が(すた)るというもの」

 

 聞き(およ)んでいた話とやせ細った見た目とは違い、本人の性格は思ったよりも領主然(りょうしゅぜん)としている。

 

「まずは礼を言わせて欲しい、あの者達には流通の妨害(ぼうがい)をされ大変な被害(ひがい)(こうむ)っていた」

 

 シーランは深く頭を下げると、部屋の中央の椅子に座る。

 

「まずはそこに座ってくれ、早速(さっそく)だが報酬(ほうしゅう)の話をしよう」

 

 刀と弓を外し、領主の対面(たいめん)の席へ座る。

 

(のぞ)む物を言ってくれ、金でも地位でも望む物を与えよう」

 

 想定(そうてい)していたよりも早い展開だが、こちらとしては好都合(こうつごう)だ。

 

「人に会いたいと言えば、(かな)えては(もら)えてもらえるのだろうか」

 

「人――?余程(よほど)の相手でさえ無ければだが、手を回そう」

 

「ガルマ=リゾールと話をしたい」

 

「リゾール子爵(ししゃく)と……?」

 

 恐らくシーランは人身売買(じんしんばいばい)仔細(しさい)をまだ聞いていないのか、容量(ようりょう)()ないといった表情をしている。

 

「目的は一体……?」

 

「取引した者達を解放させる」

 

「それはどういう――いや、まさかリゾール子爵(ししゃく)が、そんな馬鹿(ばか)な……!」

 

 シーランが立ち上がり大きな声を上げる、その表情は段々と赤く染まっていく。

 

「盗賊団を捕らえた際に取引の帳簿(ちょうぼ)を見た、(すで)にザーウェイへ移送されているはずだ」

 

「……なんという事だ、(ほこ)り高き貴族がそのような真似をするなど」

 

 シーランは片手で顔を(おお)うと背凭(せもた)れに身体を預ける、この反応から見るに相当信頼していた相手だったのだろう。

 

「……シルヴァ、盗賊(とうぞく)帳簿(ちょうぼ)をここに持ってこい」

 

「かしこまりました」

 

 シルヴァが部屋を去り、シーランと二人だけとなった。

 

 素性も(ろく)に分からない私と二人きりに出来るのは、やはり今回の事でかなりの信頼を勝ち取れているということだろう。

 

「奴をここへ呼ぶ事が難しいのならば、私に居城(きょじょう)を攻め落とす許可を与えて欲しい」

 

「まあ待て、物事には順序(じゅんじょ)という物があるのだ」

 

 シーランは席から立つと、窓辺まで歩き日除けを開くと窓の外を見下ろす。

 

「リゾール子爵は、先の魔獣侵攻(まじゅうしんこう)にて多大な戦果(せんか)を挙げた勇猛(ゆうもう)な者であった、彼のような男が人を買うなど……」

 

「その者だけでは無い、この国には人を食う(やから)大勢(おおぜい)いる」

 

 表に出ていないだけで、被害(ひがい)を受けている者達も多くいるのだろう。

 

「……」

 

 扉が二回叩かれた。

 

「シーラン様、帳簿(ちょうぼ)をお持ちしました」

 

「入れ」

 

「失礼いたします、こちらが帳簿(ちょうぼ)でございます」

 

 シルヴァは部屋に入室すると、シーランに盗賊団が所持していた帳簿を手渡し、再び扉の近くに(ひか)える。

 

「ご苦労」

 

 帳簿を開き中を確認したシーランは、時折視線を止めながらも紙を(めく)り続け、最後に記入された所を見て帳簿を置いた。

 

「……そうか」

 

 シーランは目頭を押さえた後、彼専用であろう椅子が(きし)む勢いで座り、机に両肘を乗せ頭を抱えた。

 

「アルマ殿、これは本物で間違い無いのだな?」

 

 恐らくあの帳簿の中には、知っている名が複数あったのだろう。

 

「ガルマ=リゾールについては盗賊団の首領(しゅりょう)から直に聞き出した、間違いない」

 

「……分かった」

 

 シーランは頭から手を離すと、紙を(まと)めて取り出し文章を記していく。

 

「シルヴァ、帳簿内の名を領地毎に(まと)めよ」

 

「かしこまりました」

 

「アルマ殿には一時的に騎士を貸そう」

 

「ありがたい」

 

「人員の選出は任せよう、シルヴァよ、アルマ殿を案内せよ」

 

「かしこまりました、では失礼(いた)します」

 

 シルヴァの後を続き部屋から出ようとすると、シーランに声を掛けられ足を止める。

 

「リゾールは生かしたまま捕えてくれ、彼には国へ()くしてもらう」

 

 恐らくは公開処刑による、人を買う者達への見せしめか。

 

「それ以外の者達は」

 

「アルマ殿の判断で決めて欲しい」

 

「分かった」

 

 リゾールの家族や、部下や使用人を私がどう扱うのか。

 

 これによって今後どのように接していくのか、立ち回りを考えるといった腹積(はらづ)もりだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。