武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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商業都市ザーウェイ

 

 ザーウェイへ到着してまず連盟へ向かう前に、騎士にカルミナ達を引き渡すべく騎士団詰所へ来ていた。

 

「アルマ様……、本当にありがとうございました、この恩は必ず返させていただきますわ」

 

「ありがとうございました……!」

 

 安全な所へ来たという実感が湧いたのか、カルミナとノーラは目の端に涙を浮かべ肩を震わせている。

 

「ああ、その時を楽しみにしていよう」

 

「……礼を言うぞ、アルマ」

 

 ヒュリアスが小さく言葉を発する。

 

 どこか気恥ずかしそうな表情は少し微笑ましくある。

 

「な、なにがおかしい!」

 

「はいはい……」

 

「あっ、おい!」

 

 ハイアルが顔を赤くして怒るヒュリアスの肩を掴み、横にどけてから前に出てくる。

 

「助けてくれて本当にありがとうございましたアルマさん、俺もっと強くなります、貴方みたいに」

 

「ああ、期待している」

 

 今回起きた事は出来れば無い方が良いのだろうが、苦境を乗り越えた人間は強くなれる。

 

 彼等はきっと真に強い人間になるだろう。

 

 その時が非常に楽しみでならない。

 

「アルマさん……」

 

「アルマさまどこかへ行っちゃうの?」

 

 不安げなセレナとアーティアの表情は姉妹だけあってか、やはりよく似ている。

 

「すぐに会えるさ」

 

「ほんと?」

 

「本当だ」

 

 アーティアの頭を撫でながら、セレナに側へ来るように手で招く。

 

「?」

 

「……使用人達の居場所が分かった」

 

「……!」

 

「私が必ず連れ戻す、それまで少し辛抱していてくれ」

 

「はい……!」

 

 直接攻め込むのが一番早いが、それでは問題があるだろう。

 

 何か策を立てなければ。

 

「では、後の事はよろしく頼む」

 

「はい、お任せ下さい」

 

 全身を分厚い鎧で覆った騎士が胸に手を当て礼をする。

 

 ――

 

 馬車を街の宿屋と提携しているという宿屋に渡し、先にコラルを行かせた連盟へ向かう。

 

「ザーウェイか、エイノスとはまた違う賑わいだ」

 

 エイノスも人通りが多い都市であったが、こちらは大きな荷物を背負った商人らしき者達が多い。

 

 逆にエイノスは武装をした冒険者の数が多かった、故郷で街によって人の景色が変わる友人が言っていたがどうやら本当らしい。

 

「ここか」

 

 連盟支店と看板に描かれた建物の扉を開き中へ入ると、懐かしさを感じる喧噪(けんそう)に迎え入れられた。

 

「リアム殿」

 

「コラル、待たせたな」

 

 受付の側に立つコラルの下へ歩いていくと、連盟職員達の視線が此方へ集まるのを感じた。

 

「いいえ、それよりも彼等は?」

 

「騎士の下へ送り届けた」

 

「それは何よりです、では依頼の達成報告をしましょう」

 

「ああ」

 

 コラルが依頼書や連盟証を台へ乗せると、受付がそれを確認し依頼書へ印を押す。

 

「確認しました、冒険者認可証の提示をお願いします」

 

 言われるままに連盟具を取り出し、台に置く。

 

「ありがとうございます、ではこちら、報酬金でございます」

 

 受付は厚みのある用紙の包みを取り出し、台の上をゆっくりと滑らせる。

 

 表情は至って冷静そのものだが、その手は僅かに震えていた。

 

「ああ」

 

 その心境をさぐる為に包みを受け取りながら目を見ると、瞳が一瞬揺れた後、取り繕ったような笑顔が表れた。

 

 刺激をしないように扱われていると感じ、受付から離れて併設されている酒場へと足を向ける。

 

 空いていた一席に腰を降ろすと、その正面の席にコラルが続いて座った。

 

「私は彼等に恐れられるような事をしたのだろうか」

 

「アルマ殿が成した事は讃えられて然るべきものですよ、ただ未知とは人が最も恐れる事の一つですからね、貴方の人柄を知ればきっと」

 

 傷ついた訳では無い、ただ実感しただけだ。

 

「そうだな」

 

 反応としては恐れられる事の方が正しいのだろう。

 

 恐怖に慣れは無い、それは単純に麻痺を起こしているだけなのだ。

 

 寧ろ慣れるべきなのは、私の方だ。

 

「コラル、あの者達を捕らえた報酬は渡されると思うか?」

 

「そうですな、あの地はエイノスとの流通において必ず通らなければならない道ですから、その脅威を排除したアルマ殿には領主様からかなりの報酬を約束されているでしょう」

 

「そうか、例えば人を呼び寄せる事も出来るだろうか」

 

「遠方に居る方ですと難しいでしょうが、なるべく要望には応えて貰えるんじゃないでしょうか」

 

 奴はこの近辺の地を収めていた筈だ、距離に関しては問題にならないだろう。

 

「この地を収める領主の名は何という名だ?」

 

「シーラン=ケンド侯爵(こうしゃく)です」

 

「そのシーランという者の人間性は分かるか?外聞(がいぶん)でも構わない」

 

「そうですな、慎重とはよく言われています、自らがが選んだ相手しか居城内へ入らせないそうで」

 

「ふむ」

 

 慎重、悪く言えば臆病。

 

 話から察するに近付くことは難しいが、信頼を勝ち取れば有効に扱えそうだ。

 

「……一体何をなさるおつもりで?」

 

 とはいえ、位の高い貴族を大人しく公の場に引っ張り出せるとは思わない。

 

 さらに盗賊団が捕まった直後であり、そしてそれが取引相手であったならば最大限の警戒をするだろう。

 

「大規模の盗賊を一人で壊滅させた者は貴族にとってどう映るのか、それを確かめる」

 

 力無き者達に恐れられるのは今迄で十分理解している。

 

 それが力を持った相手ならば一体どうなるのか。

 

 個では無く、集の力を持っている者とどれだけ渡り合えるのかを探るいい機会だ。

 

「随分と物騒な話をしているじゃないか」

 

 受付の方から深い深い青の髪を腰まで伸ばした女性が歩いて来た。

 

「リアメイン殿……」

 

 どうやらコラルは彼女の事を知っているらしいが、連盟の関係者だろうか。

 

「アンタに聞きたい事がある、少し顔貸しな」

 

 真っすぐと見据えてくるその青い瞳は、こちらの事を見極めようとしているようだ。

 

「良いだろう、また仕事をしよう、コラル」

 

「はい、ありがとうございましたアルマ殿」

 

 コラルと別れと約束の握手を交わし、すでに先を歩いているリアメインの後に続く。

 

 ――

 

 受付を通り廊下を歩く、そうして導かれたのはそれなりの広さがある一室だった。

 

 壁に立て掛けられた大槍は彼女の武器だろうか、髪の色と同じ柄に黒く輝く穂先、なのある名工が作り上げた一品だろう。

 

「適当に掛けてくれ」

 

 刀と弓を立て掛け、置かれた椅子に腰を下ろす。

 

「森の盗賊達を潰してくれたそうじゃないか、それもたった一人で」

 

「ああ」

 

 リアメインはこちらへ振り返ると、机の上に腰を乗せ腕を組む。

 

「アンタには感謝しているよ、連盟も騎士も動けない状態だったからね」

 

「……それだけの為にここまで連れて来た訳では無いだろう、目的はなんだ?」

 

 感謝を告げるだけならば態々(わざわざ)ここまで連れてくる意味は無い、あの場でも良かっただろう。

 

「ある物を届けて欲しいんだ」

 

「ある物……?」

 

 リアメインは黒い小さな木箱を棚から取り出すと、私の目の前にそれを置き近くの席に腰を下ろす。

 

錬金術師(れんきんじゅつし)に作らせた魔核石(まかくせき)だ、これを魔導学術園へ運んで欲しい」

 

 リアメインが木箱を開くとそこには黒い宝石が入っていた、昏い黒の中には金色の粒子が渦巻くようして浮いている。

 

「美しいな……、これは何に使われる物だ?」

 

「街には魔物侵入を防ぐ結界が張られているだろう?これはその核だよ、といっても都市程の規模ではないけどね」

 

「結界?」

 

「何だ知らないのかい」

 

「最近故郷を出たばかりでな、あまり外の世界には詳しくないんだ」

 

「成る程ね……、街の中央に高い塔が建てられているだろう?それには魔物の侵入を防ぐ結界を張る機能があるのさ」

 

 つまりはあれさえあれば人々は魔物の脅威に晒される事は無くなり、騎士は盗賊の警戒だけをしていれば良くなるという訳か。

 

「世の中には便利な物があるのだな」

 

 故郷にはそういった物は設置されていなかった、最も危険性の高い魔物は居ないため問題は無かったが。

 

「ああ、だけどその便利な結界もそこに無ければ意味が無い、そこで小型の魔核石作りを小規模な村に設置するのさ」

 

「そういった事は騎士の領分では無いのか?」

 

 街の管理や警備、道の舗装(ほそう)といった事は国の事業であり民間でやるような事では無かったはずだが。

 

「どこも人手が足りないのさ、活発化した魔物の対応だけじゃなく隣国への警戒も(おろそ)かに出来ないからね」

 

「ふむ、そこで連盟に協力要請が出たということか」

 

「そういうことさ、教育機関でもある学園にも声が掛かってる、あそこは知恵と力の集まる場所だからね」

 

 国全体がここまでの状況になっていたとは、故郷にいたままではきっと分からなかっただろう。

 

 父上がこの事を黙っていたのは私達を思ってのことか。

 

 もし私がこの事を知ったならば、すぐにでも村を飛び出していた。

 

 そして妖刀を持たずして鬼へ挑み、命を落としていたかもしれない。

 

「それで、依頼を引き受けてくれるかい?勿論報酬は弾むよ」

 

「無論、引き受けよう」

 

 人々の為ならば、武士として引き受けない訳にはいかない。

 

「助かるよ、未加工の状態のそれは魔物を遠ざけるどころか引き寄せる、結界の外では注意してくれ」

 

 リアメインは木箱を閉じるとこちらに滑らせる。

 

 つまりは結界の設置されていない村などにはあまり近づくなということか。

 

「これはまだここに置いておく」

 

 木箱を抑えリアメインの方へ僅かにずらす。

 

「……?」

 

「私にはまだやるべき事があるのでな、運ぶのはそれからだ」

 

 これを持っていては街の外を録に歩けない、それだと彼女達を助け出せなくなってしまう。

 

「良いだろう、だが早めに頼むよ」

 

 リアメインは理解のある人物のようだ。

 

「ああ」

 

「同行者はいくら増やしても構わないよ、要望があるならこちらで選出する」

 

 重大な仕事だ、確かに人手は幾らあっても良いだろう。

 

「いや、私一人で十分だ」

 

 だが魔物を引き寄せるという危険性の高い状況では、信頼の置ける相手でなければ背中を任せることは出来ない。

 

「そうかい、では頼んだよ」

 

「ああ、必ず送り届けよう」

 

 刀と弓を身に着け部屋を後にした。

 

 ————

 

「この地と魔導学術園はそれ程離れてはいないのだな……」

 

 連盟で購入した地図を酒場で開き、この場所からの位置関係を確認する。

 

 この距離であれば休まず走って二日といった所だろう。

 

 とはいえ魔物や盗賊との戦闘で消費する体力を考えれば、一度も休まないというのはあまり現実的で無い。

 

 さらに天候や地形などを考慮すると、到着は早くて三日と言った所だろうか。

 

「となれば雨具(あまぐ)や臨時住居、結界も必要になるか」

 

 魔法の使えない私でも使える物に限られてしまうが、商業都市と呼ばれるこの街ならば(そろ)えることはあまり難しく無いだろう。

 

 連盟からの借りた地形や環境、生息する魔物の生態などの本を開き地図に情報を書き込んでいく。

 

 魔物を引き寄せてしまう以上、結界の無い村などは避けて進まなくてはならない。

 

 その都合上、食料などの物資を途中で補給する事は難しいだろう、つまりはここで最大限買い込む必要がある訳だが、動きが制限されるのはあまり好ましくない。

 

「馬車、いやウマが危険か……」

 

 人気の無い道を通る以上は地形も相応の物になるだろう、幾ら引く馬が頑丈な種であるとは言え。

 物を引かせ動きが制限されていれば、悪路によって傷を負う危険性が高くなる。

 

「……、?」

 

 ふと、金属同士の擦れ合う音が聞こえ連盟入り口の方を見ると、数人の騎士が扉を開き中へ入ってきた。

 

「なんだって騎士がこんなとこに……」

 

「さあな、誰が喧嘩でも売ったんじゃねえか?」

 

 周囲の連盟員達が騎士を観察しながら、興味なさげに酒を煽ぐ。

 

「あの、どうされたのですか……?」

 

 先程会話をした受付嬢が状況に困惑しながらも問いかけると、先頭を立っている背の高い騎士が一歩前に出る。

 

「ここにアルマ=リュウガンジ殿は居られるか?」

 

「え……?」

 

 想定よりも早い呼び出しだ、余程あの盗賊達に難儀(なんぎ)していたのだろう。

 

 地図を畳んで懐にしまい、本を重ねて運び元の位置へ収納し、そのまま騎士達の下へ歩いていく。

 

「私に何か用事か」

 

 受付嬢との間に立つように騎士と顔を合わせる。

 

 背丈は私より頭二つ分は高い、背負う長く幅広い剣を持てば槍と変わらない範囲を攻撃できるだろう。

 

「貴公がそうか、領主様がお呼びだ、同行願う」

 

「分かった、直ぐに向かおう」

 

 騎士に連れられ街の中を歩く。

 

 この状態はやはり目立つのか、四方から視線を感じる。

 

 街の中央へと近づいていく程に建物の色が変わっていく、さらには住民達の衣類も上等な物へとなり、装飾品を飾り付けた者達も多く見えてきた。

 

 巡回(じゅんかい)する騎士の数も増え、周囲に目を光らせている。

 

「これが貴族街か」

 

 知識にはあるが、実際に目にしたのはこれが初めてだ。

 

 地位は違えど人としての本質はやはり変わらないのか、此方を興味深そうに眺めては何かを話している。

 

「彼等は貴族では無い、商人だ」

 

 隣に立つ背の高い騎士が答える、私語を弁えているのかと思えばそうでは無いようだ。

 

「この地は商人の為に領主様が特別に貸し与えている、選ばれた僅かな者達だけだがな」

 

 ()わば豪商(ごうしょう)

 

 武では無く商の力で成り上がった彼等の瞳に、私の価値はどのように映っているのだろう。

 

「あの目は値踏みか、面白い」

 

「おもしろい……?」

 

「彼等が私の武にどれ程の値を付けるのか、興味深くはならないか?」

 

 誰かの下に付くつもりは無い、だが自身の武による価値には興味がある。

 

「商を極め登ってきた者達だ、人を観る目もあるだろう」

 

 商いも戦いの一つだ、騙し、出し抜く、時には命の危険もあるだろう。

 

 その修羅場を乗り越えた者達は、剣を持たずともただならぬ雰囲気を持ち合わせている。

 

「面白い考え方だ」

 

 愉快そうに笑う騎士。

 

 堅物(かたぶつ)だと思っていたが、存外(ぞんがい)話せる人間のようだ。

 

「直に領主様の居住地へ着く」

 

「分かった」

 

 僅かに緩めていた気を引き締める。

 

 商業都市ザーウェイを(おさ)める人物、果たして如何程(いかほど)の者かなのか。

 

 その者の思想によっては、立ち回りを考えなければならない。

 

「ここが領主殿の居住地か、中々に堅牢(けんろう)そうな作りをしている」

 

 高く(そび)え立つ外壁の上には槍の穂先(ほさき)の様な金具が並び、付近には常に数人の騎士が巡回している。

 

 さらに城壁の角部分にあたる場所には見張り場が設置され、外敵が侵入せぬように周囲に目を光らせている。

 

「そこ、止まれ」

 

 城門へ辿り着き、門兵に呼び止められ足を止める騎士達に合わせ立ち止まる。

 

「要人をお連れした」

 

 先頭を立つ騎士が門兵達と話を始める。

 

「移送ご苦労」

 

 門兵は全身を黒く重厚な鎧で固め、穂先が長く分厚い大槍を装備している。

 

「お前はアルマ=リュウガンジで間違いないか?」

 

 門兵が騎士達を掻き分け目の前で立ち止まる。

 

「ああ、間違いない」

 

 大槍と隙間の少ない大鎧の組み合わせは、並の人間が相手にすれば正面からの立ち合いでは苦戦を免れない頑強さだ。

 

「門を開け!」

 

 門兵が大きな声を上げると城門が開き、奥から黒く後丈の長い服を着た白髪の老人が現れた。

 

「よくお越しくださいました、リュウガンジ様」

 

 綺麗に一礼をする白髪の老人。

 

 顔と首に刻まれた(しわ)から察して、歳は六十から七十程だろうか。

 

「奥にてシーラン様がお待ちです、こちらへどうぞ」

 

「ああ」

 

 先へ進む背中を追い、見事に整えられた庭園の中を進む。

 

 歪みのない綺麗な姿勢、隙の少ない振る舞い、随分と鍛えているようだ。

 

「名前を聞いても良いか?」

 

「もちろんでございます、ワタクシの名前はシルヴァリオ=ルードリッヒ、どうぞシルヴァとお呼びください」

 

「私の事もアルマで構わない、リュウガンジという名は呼びにくいだろう」

 

滅相(めっそう)もありません」

 

「そうか、所でこの見事な庭園はシルヴァ殿が?」

 

「いいえ、使用人達が丹精込めて管理をしている物ですよ」

 

「ふむ、私も雇いたくなる程の美しさだ」

 

「ありがとうございます、彼女達も喜ぶでしょう」

 

「領主殿は私の事を恐れてはいなかったか?」

 

「いいえ、寧ろ懇意(こんい)にしたいと仰っていましたよ」

 

「そうか」

 

 行動のクセが見えない、いや、全ての行動を平均化し消しているのだろうか。

 

 筋肉の偏りの無さからして、使用している武器は短剣、もしくは剣の二刀流か。

 

 それとも魔術を軸として戦闘を行うのか。

 

「この扉の奥に領主様が居られます」

 

「分かった、武器はこのままで良いのか?」

 

 妖刀を預ける訳には行かないが、臆病な人間の前に持って行くことは少し憚れる。

 

「ええ、貴方は安全な方だと分かりましたから」

 

「そうか」

 

 相手を測っていたのはお互い様だったようだ。

 

「シーラン様、アルマ様をお連れしました」

 

「入ってくれ」

 

「失礼致します、さあこちらへ」

 

 シルヴァに促され部屋の中へ入ると、痩せ型の男に出迎えられた。

 

「おお、其方(そなた)がアルマ殿か……!」

 

 頬は痩せこけ、白く長い袖から伸びる手指は細く頼りない。

 

「以下にも、このような場所に呼んで頂き感謝する」

 

「アルマ殿はこの地にとっての大恩人、一度顔を合わせて感謝を伝えなければ領主の名が(すた)るというもの」

 

 聞き及んでいた話とやせ細った見た目とは違い、本人の性格は思ったよりも領主然(りょうしゅぜん)としている。

 

「まずは礼を言わせて欲しい、あの者達には流通の妨害をされ大変な被害を被っていた」

 

 シーランは深く頭を下げると、部屋の中央の椅子に座る。

 

「まずはそこに座ってくれ、早速だが報酬の話をしよう」

 

 刀と弓を外し、領主の対面の席へ座る。

 

「望む物を言ってくれ、金でも地位でも望む物を与えよう」

 

 想定していたよりも早い展開だが、こちらとしては好都合だ。

 

「人に会いたいと言えば、叶えては貰えてもらえるのか?」

 

「人……?余程の相手でさえ無ければだが、手を回そう」

 

「ガルマ=リゾールと話をしたい」

 

「リゾール子爵と……?」

 

 恐らくシーランは人身売買の仔細(しさい)をまだ聞いていないのか、容量を得ないといった表情をしている。

 

「目的は一体……?」

 

「取引した者達を解放させる」

 

「それはどういう……、いや、まさかリゾール子爵が、そんな馬鹿な……!」

 

 シーランが立ち上がり大きな声を上げる、その表情は段々と赤く染まっていく。

 

 その感情は事実に対しての怒りか、信じられないという激情か。

 

「盗賊団を捕らえた際に取引の帳簿(ちょうぼ)を見た、既にザーウェイへ移送されているはずだ」

 

「……なんという事だ、誇り高き貴族がそのような真似をするなど」

 

 シーランは片手で顔を覆うと背凭(せもた)れに身体を預ける、この反応から見るに相当信頼していた相手だったのだろう。

 

「……シルヴァ」

 

「はい」

 

「盗賊の帳簿をここに持ってこい」

 

「かしこまりました」

 

 シルヴァが部屋を去り、シーランと二人だけとなった。

 

 素性も禄に分からない私と二人きりに出来るのは、やはり今回の事でかなりの信頼を勝ち取れているということだろう。

 

「奴をここへ呼ぶ事が難しいのならば、私に居城を攻め落とす許可を与えて欲しい」

 

「まあ待て……、物事には順序という物があるのだ」

 

 シーランは席から立つと、窓辺まで歩き日除けを開くと窓の外を見下ろす。

 

「リゾール子爵は、先の魔獣侵攻にて多大な戦果を挙げた勇猛(ゆうもう)な者であった、彼のような男が人を買うなど……」

 

「その者だけでは無い、この国には人を食う(やから)が大勢いる」

 

 表に出ていないだけであって、被害を受けている者達も多くいるのだろう。

 

「……」

 

 扉が二回叩かれた。

 

「シーラン様、帳簿をお持ちしました」

 

 ここから騎士団詰所(つめしょ)(まで)はそれなりの距離があった筈だが、もう戻ってきたというのか。

 

 やはり只者では無いらしい。

 

「入れ」

 

「失礼いたします、こちらが帳簿でございます」

 

 シルヴァは部屋に入室すると、シーランに盗賊団が所持していた帳簿を手渡し、再び扉の近くに控える。

 

「ご苦労」

 

 帳簿を開き中を確認したシーランは、時折視線を止めながらも紙を捲り続け時、最後に記入された所で帳簿を置いた。

 

「……そうか」

 

 シーランは目頭を押さえた後、彼専用であろう椅子が(きし)む勢いで座り、机に両肘を乗せ頭を抱えた。

 

「アルマ殿、これは本物で間違い無いのだな?」

 

 恐らくあの帳簿の中には、知っている名が複数あったのだろう。

 

「ガルマ=リゾールについては盗賊団の首領から直に聞き出した、間違いない」

 

「……分かった」

 

 シーランは頭から手を離すと、紙を纏めて取り出し文章を記していく。

 

「シルヴァ、帳簿内の名を領地毎に纏めよ」

 

「かしこまりました」

 

「アルマ殿には一時的に騎士を貸そう」

 

「ありがたい」

 

「人員の選出は任せよう、シルヴァよ、アルマ殿を案内せよ」

 

「かしこまりました、では失礼致します」

 

 シルヴァの後を続き部屋から出ようとすると、シーランに声を掛けられ足を止める。

 

「リゾールは生かしたまま捕えてくれ、彼には国へ尽くしてもらう」

 

 恐らくは公開処刑による、人を買う者達への見せしめか。

 

「それ意外の者達は」

 

「アルマ殿の判断で決めて欲しい」

 

「分かった」

 

 リゾールの家族や、部下や使用人を私がどう扱うのか。

 

 これによって今後どのように接していくのか、立ち回りを考えるといった腹積もりだろう

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