武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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神の住む山

 城門(じょうもん)の横にある()を開き外に出て手足の(けん)()ばしていると、重厚(じゅうこう)な音を鳴らし門が上がり始め、トリニティを始めとした十数人が四足歩行の竜に(またが)り出てきた。

 

「アルマさん!後ろに乗ってください!」

 

「助かる!」

 

 トリニティが騎乗する竜の背に(またが)る。

 

「では出発します!」

 

 手綱(たづな)をしならせ首を軽く打つと、竜が地を蹴り走り出す。

 

 山まで走るつもりであったが、これならば体力の消費(しょうひ)を抑えることができる。

 

 天狗(てんぐ)と争う可能性がある以上、万全(ばんぜん)な状態で挑むに越したことはない。

 

「無関係な貴方をこのような事に巻き込んで申し訳ありません」

 

「気にするな、それよりも山ヘ着く前に伝えておきたい事がある」

 

「伝えておきたい事……?」

 

「生徒達が向かったという山、そこに恐らく『天狗』と呼ばれるモノ達がいる」

 

「天狗……」

 

(つばさ)を持った異形(いぎょう)()わば風の化身(けしん)だ、そこらの魔物では到底(とうてい)届かない力と人と同等かそれ以上の知能(ちのう)がある」

 

「風の化身、だとしたら風属性の魔術は通用しない……?」

 

(おそ)らく、火属性の魔術も気をつけてくれ、暴風(ぼうふう)によって逆に利用される可能性がある」

 

「成る程……」

 

「それともうひとつ」

 

「はい」

 

「その天狗を取り(まと)める存在がいる、私は到着(とうちゃく)次第(しだい)単独(たんどく)で突入しその者と対峙(たいじ)する」

 

 相手がそこいらの魔物であったならば背中を預けるという選択肢もあった、だが相手が天狗の勢力(せいりょく)となれば話は別だ、一瞬(いっしゅん)の乱れが一気(いっき)危機(きき)に追い詰められる()()けになる。

 

「分かりました」

 

 天狗達を取り纏める存在、『大天狗』。

 

 初代の書にはこう(のこ)されていた、その力は神に匹敵(ひってき)する(ほど)だと。

 

 今の私の力で大天狗を斬れるかなど分からない、だが人々を守るためならば何があっても斬らねばならない。

 

 (にぎ)()めた手綱(たづな)(きし)みを上げた

 

 ――

 

「見えましたあの山です!」

 

 森の中に突如(とつじょ)として山が現れたかのような、そんな違和感を覚えた。

 

 小さく見える空を舞う姿は、恐らく哨戒(しょうかい)役だろう。

 

「一度ここで止まりましょう、情報を共有します」

 

 止まった竜の背中から降りる。

 

「私は一足先に山へ入る、そちらもくれぐれも気を付けてくれ」

 

「……分かりました、ご武運(ごぶうん)を祈ります」

 

「そちらもな」

 

 両足に力を込め強く走り出し、一気に最高速(さいこうそく)まで上げていく。

 

 木々を最低限の動きで()()け、道を邪魔する枝をへし折り突き進むと、山の(すそ)辿(たど)り着いた。

 

 立ち止まり大きく息を吸い込む。

 

天狗(てんぐ)姿を現せ!お前が(のぞ)む通り山ヘ来たぞ!」

 

 声を張り上げるとすぐさま風が吹き荒れ、黒き翼の妖たちが現れた。

 

 だがどれも姿の小さい者達ばかりであり、呼び寄せた当人である烏天狗(からすてんぐ)の姿は無い。

 

『ニンゲン!ニンゲン!』

 

『ツカマエロ!』

 

『サムライダ!カタナヲモッテルゾ!』

 

 言葉を発しはするが烏天狗のような知性(ちせい)は感じ取れない、この様子からしてこの者達は下っ()だろう、こいつらをいくら潰そうと意味は(うす)いと言える。

 

『ケケー!』

 

 飛びかがってきた天狗を掴み、投げ飛ばし、地面に叩きつける。

 

『グゲっ!』

 

『ゲギャ!』

 

『ゲギっ!』

 

 意識(いしき)のある天狗(てんぐ)の足を掴んで、引き()りながら山へと足を踏み入れる。

 

『ヤ、ヤメロ!』

 

「烏天狗の元へ案内(あんない)しろ」

 

 妖刀を引き抜きながら告げるが天狗は(やかま)しく(わめ)きながら(あば)れるのみであり、此方(こちら)を恐れたりする様子はない。

 

(猫又(ねこまた)はよりは(かく)が高い、もしくは感じ取る力すら貧弱(ひんじゃく)か)

 

「大人しくしろ、頭を潰すぞ」

 

『ハナセ!ハナセ!』

 

「……!」

 

 近場にあった太い木に強く()りを入れへし折って見せると、途端(とたん)(だま)り込み(あば)れるのをやめた。

 

『ニンゲンジャナイ……、オニダ……』

 

理解(りかい)したのなら(からす)を呼び寄せるか場所を(しめ)せ」

 

 力の差を理解したのか上側に向かって翼を指し示す、周りで見ていた天狗達も(わめ)くのを辞めその場で立ち尽くしている。

 

「お前達、この山に捕らえられた者達は何処(どこ)にいる」

 

『シラナイ!』

 

『シラナイシラナイ!』

 

「嘘を言えば羽根(はね)を引き千切(ちぎ)る」

 

『シラナイ!!』

 

『オシエテモラッテナイ!!』

 

 嘘を言っているようには思えない、力に(くっ)するようなこいつらにそのような秘密など教えたりはしないか。

 

「まあいい、お前達は山の(かげ)にでも引っ込んでいろ」

 

 天狗達は一斉(いっせい)に飛び立ち、山の何処(どこ)かへと消えていった。

 

「お前は私と来い」

 

『ギゲーーーっ!』

 

 ()き上がろうとした天狗の足を引っ張り山を()け上がる。

 

『イタイ!ハネガイタイ!』

 

「妖がその程度で(わめ)くな」

 

『ギギャーーーーー!』

 

 さらに速度を上げると、より(やかま)しく(わめ)き始めた。

 

 仕方なく足から手を離し、頭を掴んで再び走り出す。

 

『トレル!アタマトレルーー!』

 

「猫又といいお前達のような天狗といい、妖がここまで軟弱(なんじゃく)だとは、鬼とはここまで違うものなのか」

 

 血霧童子(ちぎりどうじ)であればこの程度(ていど)(きず)すら付かないだろう。

 

 天狗の(ぉう)に腕を通し脇に抱え上げ再び走り出す。

 

『イッショニスルナ!オニ!』

 

「私は人間だ」

 

『ウソツケオニ!オニサムライ!』

 

 再び(やかま)しく騒ぎ始める天狗。

 

「烏の居場所を指し続けろ、木で(くちばし)(けず)られたいのか」

 

『……』

 

 大人しくなった天狗は案内を再開した。

 

 ――

 

「天狗という魔物はいったいどのような物なのでしょうか」

 

「俺も魔物は色々見てきたが、そんな種聞いたこともねえ」

 

 走竜(そうりゅう)の背に(またが)った学術園の教師達が森を駆け抜ける。

 

「彼の言ったことは信じられるんですか?」

 

 トリニティは周囲の警戒(けいかい)をしながらも、リベットと会話をしていた時のアルマの(おだ)やかな表情や、生徒の話を聞き出した時の真剣な眼差(まなざ)しを思い出す。

 

「出会ってまだ間もないですが、状況(じょうきょう)を考えずに嘘を付く方ではないと確信しています」 

 

「まあ、トリニティ学長がそう言うのなら信じますけども……」

 

「翼を持つ風の化身か……」

 

『ふむ、『木の葉天狗』が(やかま)しいと思って来て見れば』

 

 見知らぬ声が聞こえたトリニティは長杖(ちょうづえ)を召喚し、その方向を(にら)みつける。

 

「何もんだてめえ!」

 

 仲間が声を荒げるが、黒き翼はただ腕を組み空中で此方(こちら)を見下ろしている。

 

「本当に人の言葉を……」

 

「天狗……!」

 

 黒い(くちばし)に大きな黒い翼、右手に金の(かざ)りが先端に着いた黒い長物(ながもの)をもつ異形(いぎょう)

 

「子供達を何処へやったのですか!」

 

 トリニティは怒声(どせい)を上げる。

 

『お前達は小童(こわっぱ)共の身内か、用が終わるまで待っていろ』

 

「一体なにをしている!」

 

『ただこの地の術を撃たせ続けているだけだ、安心せよ』

 

「術を撃たせ続ける…?」

 

「術は無限に撃てるものじゃない!止めさせろ!」

 

 天狗は怒る人間達を(なが)め、なにか妙案(みょうあん)が思いついたかのように目を見開く。

 

『お前達、(われ)稽古(けいこ)を付けてやろう』

 

「何を言って――」

 

近頃(ちかごろ)山伏(やまぶし)も少なくてな、これでは我等の術の腕も(にぶ)ってしまう』

 

 天狗は懐から何枚もの木の葉を取り出すと、風を操って周囲にばら()いていく。

 

 それらが地面に着くと、木の葉のしたから甲冑(かっちゅう)(まと)った人間が生えるように現れた。

 

 その手には刀や槍、弓などの武器が握られている。

 

『まずは小手調(こてしら)べだ』

 

「これは一体……、使い魔――いや召喚術か?」

 

「皆様なるべく距離を離さないようにしてください!」

 

 トリニティが長杖を召喚し構え、魔術を発動する。

 

 地面から岩の棘が無数に飛び出し、甲冑達の胴体(どうたい)を次々と貫いていく。

 

『ほう、人型では物の数にすらならんか、……む?』

 

 (いく)つもの太い雷針や鋭い岩が次々と天狗に(おそ)いかかるが、その全てが身体に到達する寸前(すんぜん)(はじ)かれてしまう。

 

『やはり陰陽師共(おんみょうじども)の術とは性質(せいしつ)が違うな』

 

「中級が届きすりゃしねえ……、上級の準備しろ!」

 

『では次だ』

 

 天狗が手の平を天に向けると、周囲の風が落ち葉を運びながらそこへと集まっていく。

 

『受け切ってみせよ』

 

「――!集まってください障壁を張ります!」

 

 走竜から飛び降りたトリニティが長杖を地面に突き立てると、地面に大きな魔法陣が展開され、その中に教師達は()け込んでいく。

 

『風の(いなな)きを受けてみよ』

 

 天狗が腕を振り下ろすと、球状(きゅうじょう)となった暴風(ぼうふう)の塊がゆっくりと降下(こうか)していく、その中では集められた木の葉が切り(きざ)まれ粉へと姿を変えていた。

 

「『ホーリー・フィールド』!」

 

 トリニティを中心とした魔法陣から(まばゆ)い光が(あふ)れ出し、円柱状(えんちゅうじょう)の白き結界となり世界を(へだ)てた。

 

 それと同時に風の塊が結界にぶつかり、閉じ込められた暴風(ぼうふう)()き放たれ周囲に圧を()き散らしていく。

 

『ぐううっ!』

 

 トリニティは途轍(とてつ)も無い消費(しょうひ)に襲われ、突き抜ける圧力に身を打たれながらも、絶えず魔力を(そそ)ぎ込んでいく。

 

 結界に弾かれた風は周囲を切り刻み、押し潰していく。

 

 (ようや)く風が晴れトリニティが結界を解除すると、半径百米(ひゃくメートル)木々(きぎ)が根こそぎ吹き飛ばされていた。

 

『耐えたか、見事だ』

 

「はあ……はあ……」

 

「トリニティ学長大丈夫ですか!」

 

「はあ……、大丈夫です」

 

 トリニティは額の汗を拭うと、地面から杖を引き抜き構える。

 

『術の威力(いりょく)耐久性(たいきゅうせい)に関してはこちろの人間の方が高いようだが、消耗(しょうもう)はその分大きいようだな』

 

 天狗はゆっくりと地面に()り立ち、(こし)の刀に手を掛ける。

 

『さて剣の腕の方はどうだ……』

 

 教師達は警戒心(けいかいしん)を最大限に上げ迎え撃てるように構えるが、不意(ふい)に天狗の動きが止まる。

 

『……』

 

 天狗は刀から手を離すと、翼を広げ飛び上がった。

 

山伏(やまぶし)達よ、中々興味(なかなかきょうみ)深かったぞ』

 

 天狗はその身を(ひるがえ)し、山へと飛び去っていった。

 

「逃げた、のか?」

 

「というよりは見逃してもらった、という方が近いんじゃないですかね……」

 

 教師達は困惑(こんわく)と、どこか安堵(あんど)したような心境だった。

 

 ただ一人、トリニティを(のぞ)いては。

 

「このまま山ヘ向かいましょう」

 

「それは勿論ですが、また『天狗』とやらに遭遇(そうぐう)する可能性が……」

 

「確かに力の差は歴然(れきぜん)だと言えます、ですが生徒達を放って置くという選択肢はありません」

 

 トリニティは走竜の背に(またが)り再び走らせる。

 

 教師達も後に続き山へと突入した。

 

 

『予想よりも早い到着(とうちゃく)だな、人間』

 

(とら)らえた者達は何処(どこ)にいる」

 

 空に立つ烏天狗と、地に立つアルマが向かい合う。

 

『安心せよ、そのもの達は生きている』

 

「――なぜこの様な真似(まね)をした、()らうためか」

 

 心の内で()き上がる安堵(あんど)と怒りを(しず)めながら問いかける、だが烏天狗(からすてんぐ)は馬鹿馬鹿しいと眉間(みけん)(しわ)を寄せる。

 

我等(われら)(ほこ)り高き天狗(てんぐ)ぞ、人など()らわぬわ』

 

 当然の事だと烏天狗は言い切る。

 

『ついてこい』

 

 烏天狗はアルマに背を向けると、山の頂上(ちょうじょう)へ向けて翼を羽ばたかせる。

 

「どういうつもりだ!」

 

 アルマは意味が分からないながらも、離れていく天狗の背を追いかけ山を()け上がる。

 

『アノ……』

 

 アルマの脇に(ちぢ)こまっていた木の葉天狗が小さく手を上げる。

 

「なんだ!」

 

「ヒエッ!アンナイハモウイラナイデスヨネ……?」

 

「……」

 

 アルマはどうでもいい事だと無視して、烏天狗を追う速度をさらに上げる。

 

『人間とは思えん速度だ』

 

 前を飛ぶ烏天狗(からすてんぐ)(わず)かに振り返り後ろで追いかけてくる人間の姿を見る。

 

 人には(てき)さない山の傾斜(けいしゃ)、それを()の葉天狗を抱えながら人間が苦もなく走っている。

 

 それどころか、その速度は段々(だんだん)と増していっている。

 

奇妙(きみょう)な奴だ』

 

 人間でありながらこれだけの速度を出し、妖刀(ようとう)を持ちながらも正気を失わず、それに加え鬼を斬ったと言う。

 

 普通の人間ではない、だが普通では無いからこそ、この人間であれば大天狗様は気に入るだろうと、烏天狗は最早確信していた。

 

「あの(きり)は……」

 

 烏天狗の背が白く広がる霧の中へ消えていく、だが迷っている(ひま)など無いだろう。

 

 烏天狗の背を追い霧へ飛び込むアルマ、そこには広い空間が広がり、中央には一本の太い木とその横に並ぶ白い天狗達がいた。

 

『息の(みだ)れも無いとはな、今まで(きた)えてきた人間のどれにもその(いき)に達した者はいないぞ』

 

 烏天狗が木の前に降り立ち、アルマの全身を(なが)める。

 

 空間に(おだ)やかな風が流れ、木の枝が()れる。

 

 すると、並ぶ白天狗と烏天狗が地に片膝(かたひざ)を着けた。

 

「この途轍(とてつ)も無い妖気は――」

 

『ふむ、確かに混ざっているな』

 

 一本木の裏から(あやかし)が現れた。

 

 羽根(はね)の付いた団扇(だんせん)、赤く染まった顔に長い鼻、黒に金の混じった大きな翼、白く上質な服。

 

「お前が大天狗(だいてんぐ)か」

 

 アルマは邪魔にならないよう、抱えていた木の葉天狗を解放(かいほう)し、妖刀(ようとう)(さや)を左手で持つ。

 

 (ようや)く解放された木の葉天狗だが、逃げ出すことはせずそのまま地に頭を着けた。

 

如何(いか)にも、お(ぬし)は鬼を斬ったそうだな』

 

 羽団扇を振るうと、地面から木の根が伸び(から)み合い椅子(いす)の形となった。

 

 大天狗はそこに腰を掛け脚を組む。

 

『その鬼の名は』

 

「『血霧童子(ちぎりどうじ)』」

 

『ふむ、西(にし)朱殷(しゅあん)(まね)かれたと言うことか……』

 

 大天狗は考えるように(あご)に手を当てる。

 

()らえた者達を解放しろ」

 

『そう(あせ)るな』

 

 大天狗が片手を上げると、(ひか)えていた白の天狗達が一斉(いっせい)に飛び立った。

 

「……お前達の目的は何だ、どうやってこの世界に来た」

 

『ワシ等もそれを探っている所よ、お前は知らぬのか?同郷(どうきょう)子孫(しそん)よ』

 

「……!」

 

 なぜ私の先祖(せんぞ)が異なる世界から来たのかがわかるのかと、アルマは(おどろ)(わず)かに目を見開いた。

 

(だい)(かさ)ねて血は(うす)まろうが、その魂はワシもよく見ていたモノだ』

 

「魂」

 

 アルマは自身の胸に手を当てる、だが分かるのは一定の動きをし続ける心臓(しんぞう)があるということだけだった。

 

 ふと羽ばたきの音が聞こえ視線を空にやると、複数の烏天狗が飛んできていた。

 

 その中の一体は片翼を失い、仲間に支えられどうにか飛行(ひこう)維持(いじ)している。

 

随分(ずいぶん)派手(はで)にやられたようだな』

 

 烏天狗は大天狗の前に着陸し、(ひざまず)く。

 

『申し訳ありません……』

 

女狐(めぎつね)(すで)(かげ)から人を支配(しはい)しています、帰還(きかん)の協力をするつもりも無いようです』

 

此方(こちら)に来てもやる事は変わらぬか、奴の術ならばと思っていたが仕方(しかた)あるまい』

 

 大天狗が羽団扇(はねだんせん)()るうと、烏天狗の失われた片翼(かたよく)が再生した。

 

『有難うございます!』

 

 大天狗は椅子から立ち上がり手を前に突き出す、すると風が落ち葉を(さら)いながら手中に集まっていく。

 

 それを見た烏天狗は一斉(いっせい)に飛び立ち木の(そば)へ整列した。

 

 大天狗が風を(にぎ)りしめると、風と共に木の葉が飛び散り、赤い(つか)の美しい両刃の剣が現れた。

 

 アルマは背中の弓と矢筒(やづつ)を外し、木の葉天狗の服を掴んで立ち上がらせる。

 

『ナニヲスル――!ヤ、ヤメロ!』

 

 小さく暴れ出す木の葉天狗に弓と矢筒を(かか)えさせる。

 

「それを預かっていてくれ、くれぐれも落とすなよ」

 

『ナ!ナンダト!』

 

 やけに強気になった木の葉天狗がそれを投げ捨てようするが、ふと大天狗の視線に気づき動きが固まり、汗が滝のように流れ出す。

 

『お主、なぜそこの者を殺さなかった』

 

「その意味は無いと判断した」

 

『クックック……、そうか』

 

 大天狗は愉快(ゆかい)そうに笑う。

 

『そこの、弓矢を持って下がっていろ』

 

『ハ、ハイーーー!』

 

 木の葉天狗は弓矢を抱え、逃げるように木の陰へと隠れた。

 

『お主の名は何だ』

 

 大天狗は両刃(りょうじん)剣をアルマに突きつけると、名を問う。 

 

「私の名はアルマ=リュウガンジ、異世界より来訪(らいほう)せし武士(ぶし)子孫(しそん)だ」

 

 アルマは姿勢を僅かに低くし、妖刀では無く『(はく)』の(さや)(つか)(つか)に手を()える。

 

「お前の名は」

 

『人が呼ぶは神の山の鳥海丸(ちょうかいまる)

 

 大天狗は手元(てもと)で両刃剣を回転させ、地面に突き立てる。

 

『ワシの名は天津(あまつ)、鬼を斬ったというその武芸(ぶげい)見定(みさだ)めてやろう』

 

 大天狗が金色に光る翼を羽ばたかせると、一瞬で空高く飛び上がった。

 

 羽団扇を高く掲げ、大きく振り下ろす。

 

「……っ!」

 

 何かを感じ取ったアルマは一息で白を振り抜き、空を切り払う。

 

 その瞬間、金属が(けず)り取られる様な音が()ると同時に、アルマを避ける様に地面に深い(みぞ)が描かれた。

 

『やはり防いだか、そうでなくてはな……!』

 

 大天狗が愉快(ゆかい)そうに、高らかに笑い出すのを見てアルマは刃を(さや)にしまう。

 

 大天狗が地面へと舞い降りると、突き刺した剣を引き抜き構える。

 

『ならばこちらはどうだ?』

 

 瞬間(しゅんかん)、その場から消えた大天狗がアルマの背後から現れ、刃を振り下ろす。

 

「フっ!」

 

 アルマは身体を半身にして剣の軌道(きどう)から(のが)れ、振り返りながら刀を抜き放つ。

 

 だが大天狗はその場からアルマを飛び越えることで刃を回避(かいひ)し、首を狙い横薙(よこな)ぎを放つが、アルマは勢いのまま刀を(なな)めに()えて刃を(すべ)らせ軌道(きどう)を上に(はじ)く。

 

『ほう!』

 

 そして、振り返りながら回し()りを落下(らっか)する頭に目掛(めが)けて()り出すが、大天狗が強く羽ばたいた事で(はな)(くう)を切る。

 

「はあ!」

 

 だがアルマは軸足(じくあし)で地面を強く蹴ることで再び距離(きょり)()めながら、さらに(いきお)いを付け大天狗の腹を目掛けて足刀蹴(とくとうげ)りを放った。

 

 大天狗は両翼(りょうよく)前面(ぜんめん)(おおう)うことで一撃(いちがき)(ふせ)ぐ、だが勢いを殺し切ることは出来ずそのまま吹き飛ばされた。

 

『ふっふっふ、()いな……』

 

 アルマは刀を(おさ)め走り出し、大天狗との距離を一気に()める。

 

『その力、その技、その反応速度』

 

 大天狗は吹き飛びながらもアルマの一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を観察する、そして身体を回転させ地面に向けて強く羽ばたき再び空へと舞い上がった。

 

剣豪(けんごう)(ひし)めくあの地でさえ、お主のような者は居なかった』

 

 アルマは地面を強く()跳躍(ちょうやく)を始める、それを見た大天狗は羽団扇(はねだんせん)()るい風の刃を(いく)つも発生させ向かわせるが、その(ことごと)くが切り裂かれていく。

 

 だが、風の刃によって(いきお)いは(ころ)され、失速(しっそく)したアルマはそのまま地面に着地し刀を(さや)(おさ)めた。

 

『いや、例外があった、(あやかし)となった人間だ』

 

「……私は人間だ」

 

『カッカ、そうだな、お主はまだ人間だ』

 

 大天狗は不敵(ふてき)に笑い、空中で脚を組み何かへ座った。

 

『だが、確実に近づいている』

 

「なんだと――?」

 

 アルマは聞き捨てならないと戦う(かま)えを()き、大天狗を(するど)い目で(にら)みつける。

 

『お主が持つ妖刀(ようとう)厄介(やっかい)なモノが(ひそ)んでいるぞ?』

 

 アルマは腰の刀に目を落とす、その妖刀は何かを求めているかの様に震えている。

 

『妖刀を振るい、鬼を斬り、ワシと戦ったお主は相当な妖気(ようき)に触れている』

 

 大天狗はゆっくりと地上に降りると、剣を消し去り椅子に座った。

 

『もう(すで)に肉体の変化は起きているかもしれんな』

 

 大天狗はまるで不安を(あお)るかのように笑ってみせる。

 

「……だからこそ妖刀の邪気(じゃき)(はら)うべく旅をしている」

 

(あやかし)(せい)()いものだぞ?』

 

「私は人の道を()く」

 

『カッカ!精々(せいぜい)(はげ)むといいぞ人の子よ』

 

 大天狗が立ち上がり羽団扇を振るうと周囲の霧が消え去り、天の雲が移動し日が現れた。

 

(とら)らえた者達は解放してやろう、下の人間共に届けてさせる』

 

「お前達は一体何がしたい……」

 

『なに、探し物よ』

 

 アルマは木の葉天狗に視線を向け呼び寄せると、弓と矢筒を受け取り身に付ける。

 

『モウイイカ!』

 

「ああ」

 

 木の葉天狗は大天狗に頭を下げてから、役目(やくめ)は果たしたと全速力でその場から逃げ出した。

 

『アルマよ、妖になった(あかつき)には(ふたた)びワシの元へ来い、生き方というものを教えてやる』

 

「そのような日が来ることはない」

 

『待っているぞ』

 

 最悪な末路(まつろ)を願う大天狗に嫌気(いやけ)が差したアルマは、返事をすること無く山道を下って行った。

 

『面白い人の子よ……』

 

 大天狗は満足そうに笑うが、すぐにその表情を消し去る。

 

『各地に(やしろ)を建てよ、信徒(しんと)を増やす』

 

『は!』

 

 大天狗の号令(ごうれい)に烏天狗達は一斉に飛び立った。

 

女狐(めぎつね)を斬らせるのはまだ尚早(しょうそう)、奴が事を起こせば信仰(しんこう)も増えやすかろう』

 

 大天狗は不敵(ふてき)な笑みを浮かべ、自らを羽団扇で(あお)ぐ。

 

 その表情は神と呼ばれしそれでは無く、大妖(たいよう)の物であった。

 

 ――

 

『妖になった暁には再びワシの元へ来い』

 

 (嫌なことを言う……)

 

 山を下りる最中のアルマは、先程大天狗に言われた言葉を思い返していた。

 

 人の妖化(あやかしか)、確かに(のこ)された書の中にもその記述(きじゅつ)はあった。

 

 だがその条件は限定的であり、()の感情に包まれながら命を落とすか、妖に強い(のろ)いを受けるというものだ。

 

(のろ)いか……」

 

 左手で握り拳を作り体内の熱を集めるよう意識すると、赤い薄切(うすぎり)がゆっくりと立ち始める。

 

 間違いなく悪鬼(あっき)と呼ばれる存在であっただろう、だが最後に見たあの表情に(うら)みや怒りは見えなかった。

 

「私も(ほだ)されたか……」

 

 (てつ)(にお)いがするそれを()き消し、山を下りる(あし)を速めた。

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