武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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「依頼お疲れさまでした、こちらが報酬金(ほうしゅうきん)でございます」

 

 少なくない報酬を受け取り財布(さいふ)にしまう。

 

「ありがとうございます!」

 

 連盟には既に数名の連盟員達が依頼を求めて集っているが、やはりオークの狩猟報酬(しゅりょうほうしゅう)魅力(みりょく)的なのか受注をする数が多い。

 

 時折(ときおり)彼等(かれら)からの視線を感じるが、仮面達が近付くと足早(あしなや)(はな)れて行く。

 

「アンタと(から)むって前もって知ってたら仮面用意してたんだけど、悪いな」

 

「仮面なら自前の物がある」

 

 彼等の立場は分からないが無遠慮(むえんりょ)に踏み込むべきでは無いだろう、その場に置かれ苦痛(くつう)を感じているのならば話は別だが。

 

「おおかっけえな!白一色の角ありか!」

 

「上向きの角からして、オーガを参考(さんこう)にして作られたんでしょうか……」

 

 彼等の様子を見るに、特に不自由(ふじゆう)な思いをしているわけでも無いのだろう、ならばこちらが気を回す必要もない。

 

「へぇ、色んな魔術が(きざ)まれてるね、これは(ねつ)一定(いってい)(たも)(じん)とかかな?」

 

「これは(もら)い物でな、効果(こうか)はよく分からない」

 

 戻ってきた面を懐に仕舞う。

 

「そういやさっき聞けなかったんだが、アンタの剣ってどこでならったんだ?」

 

「この剣術は私の故郷(こきょう)に古くから伝わる物だ」

 

 正確に言うならば初代当主がその故郷から持ち寄った技を、この世界の技術(ぎじゅつ)を吸収しさらに高めた剣術だ。

 

「なるほど、たまにいる剣士はアンタの所の出なのか」

 

「恐らくはな」

 

 道場には出身者だけではなく村の外から剣を学びに来ている者も多く、その者達が技術を生かし活動(かつどう)しているのだろう。

 

「仕事は終わりだな、俺は帰らせてもらう」

 

「ああ、お疲れさん」

 

「あ、お疲れさまでした!」

 

 赤仮面は返事(へんじ)をすることも、()り返ることもなく連盟の外へと出ていってしまった。

 

「ボクも用事があるから失礼させてもらうね」

 

「オレも予定あるから行くわ、また仕事しようぜ」

 

「ああ、また会おう」

 

 どうやら皆多忙(たぼう)なようだ、森の調査依頼は頻繁(ひんぱん)には来ないと聞いているが、それ以外の日には他の仕事でもしているのだろう。

 

 ()わば私の提言(ていげん)で彼等を呼び寄せたという訳だが、今回は早々に片付ける事が出来て良かった。

 

「あの……」

 

「なんだ?」

 

「良ければ何ですが、一緒にご飯でも食べに行きませんか……?」

 

 何処か申し訳なさそうな、遠慮(えんりょ)したような雰囲気(ふんいき)(ただよ)わせている。

 

「その、貴方の事を色々と知りたくて……」

 

「私は(かま)わないが、何か予定があったりはしないのか」

 

「あ、僕の用事は夜からなので大丈夫です!」

 

「そうか、ならば共に行くとしよう」

 

「やった……!じゃあ連盟前(れんめいまえ)に待ち合わせでも良いですか?」

 

 了承(りょうしょう)した途端(とたん)(まと)っていた雰囲気(ふんいき)が明るいものとなった。

 

 そこまで喜ばしいものなのだろうか?

 

「ああ、待っていよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 礼を言うとすぐに連盟から飛び出し、何処かへと元気に走り去ってしまった。

 

 まだ日は十分に高く、多少時間が掛かろうとも旅に支障(ししょう)は無いだろう。

 

――

 

 壁に背を預けること(しばら)く、遠くの方から此方(こちら)へ走る小柄(こがら)姿(すがた)を見つけた。

 

 その体格(たいかく)からして先程別れた彼であろうが、腰には細剣を身に着けて居ないため確証は持てない。

 

「お待たせしました!はぁ…はぁ……」

 

 かなり(いき)(ちだ)れているが、身体強化の魔術を使う事もせずに此処まで走って来たのだろうか。

 

「これで(あせ)()くといい」

 

「あっ、ありがとうございます……!」

 

 まだ使用していない布を手渡すと、少年は遠慮(えんりろ)がちに受け取り、白髪の下に(にじ)んだ(ひたい)の汗を(ぬぐ)う事はなく鼻の辺りに持っていった。

 

「すんすん――あっ……」

 

 (にお)いを()いだ後、ハッとした表情でこちらに顔を見上げた。

 

「あっ、いやこれは――、職業病(しょくぎょうびょう)と言いますか……!」

 

 真っ白な肌を一瞬(いっしゅん)にして赤く()め、(あわ)ただしく手を動かし始めた。

 

「そのっ!魔物から何かを採取(さいしゅ)した時は必ず匂いを()ぐんです!だからその(くせ)が出ちゃったんです……!」

 

「私は魔物と同じということか」

 

「ち、違うんです!好奇心(こうきしん)が出ちゃっただけなんです―!」

 

 好奇心から人から受け取った物を(かお)るのは、あまり()められる事では無いと思うが。

 

「それで、嫌な匂いはしなかったか?」

 

「いえ!とてもいい(にお)いでした!」

 

「そうか……」

 

 人にこうして真っ直ぐ(かお)りを()められるというのは、このような複雑(ふくざう)な気持ちになると分かっただけ良かったのかもしれない。

 

 不快(ふかい)に思われるよりはずっといいのかもしれないが、今後人と話す時はこの話題は()けよう。

 

「では食事へ向かおうか」

 

「はい!」

 

 この街の事は知らない(ため)、彼がよく通うという店に入り、案内(あんない)された席に座る。

 

「あの、(となり)に座ってもいいですか?」

 

(かま)わない」

 

「ありがとうございます」

 

 話をするのならば向かいの席に座る方が良いと思えるが、隣が良いのならばそれも良いだろう。

 

「いらっしゃいませー!こちら注文表でーす!」

 

「ありがとう」

 

 従業員(じゅうぎょういん)から二つ折りの紙本(しほん)を受け取り、開いて机の上に置く。

 

「進めるならばこれだという品はあるか?」

 

「えっと、僕はいつもこの二種類を交互に(たの)んでますよ」

 

 ()されたのは『穀物(こくもつ)、肉、野菜』を一皿に(まと)めたものと、『焼いた生地、魚、野菜』を同じく纏めたものだ。

 

「僕は今回魚ですね」

 

「ならば私は肉の方にしよう」

 

 従業員を呼びよせ、注文を伝えて紙本を返す。

 

「待っている間に自己紹介をしよう、私の名はアルマだ」

 

「あっそうでした、僕はルクリアって言います、よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「あの、早速(さっそく)質問してもいいですか……!」

 

 ルクリアは気持ちが(おさ)えられないといった様子で座る距離を()めてくるが、それ(ほど)に私は興味深(きょうみぶか)存在(そんざい)なのだろうか。

 

「答えられるものならば答えよう」

 

「ありがとうございます……!じゃあまずはオークキングの骨をどうやってあんなにも綺麗(きれい)切断(せつだん)したのかを教えてください……!」

 

「どのようにか――、奴の頭上を飛び()えると共に首を切り落とした」

 

 当時の行動をそのまま伝えると、ルクリアは緑の瞳を店内の明かりで(かが)かせた。

 

「もっと細かく教えてもらっても良いですか、使った魔術とかも知りたいです……!」

 

「魔術は使っていない」

 

「え!つまりは魔術を使わずに剣だけであの太い骨を両断(りょうだん)したってことですか……!」

 

 魔術を使わないのではなく使えないのだが、まあ良いだろう。

 

「そうだ」

 

「アルマさん凄いです!」

 

「人間より多少頑丈(たしょうがんじょう)であろうが所詮(しょせん)は骨だ、大したことはない」

 

「その、剣を見せてもらっても良いですか」

 

 店の中で抜き身にする事は(はばか)れるが、(わず)かに刀身を露出(ろしゅつ)させる程度(ていど)であれば問題は無いだろうか。

 

「良いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 『(はく)』をルクリアに手渡(てわた)す。

 

「わ、重いですね……」

 

 (つか)(つば)(さや)などを触りながら、拡大鏡(かくだいきょう)などを(もち)いて観察(かんさつ)を始めるルクリア。

 

「じゃあ中を失礼します」

 

「抜き放つなよ」

 

勿論(もちろん)です」

 

 ルクリアは『白』の鞘と柄を握り、刀身をゆっくりと露出(ろしゅつ)させる。

 

綺麗(きれい)ですね」

 

「そうだな」

 

 透き通る『白』の刀身は、明かりを反射(はんしゃ)し輝きを増幅(ぞうふく)させる。

 

「これにはどのような魔術が込められているんですか?」

 

「魔術と呼べるかは分からないが、刀身には自己修復(じこしゅうふく)機能(きのう)があると店の主は言っていた」

 

「……それだけですか?」

 

「ああ」

 

 ルクリアは刃を(おさ)めると、此方(こちら)に差し出す。

 

「ありがとうございました」

 

 『白』を受け取り、妖刀(ようとう)の隣に戻す。

 

「あの、アルマさん」

 

「どうした」

 

 ルクリアはどこかぎこちのない様子を見せた後、意を決したように此方の目を見つめてくる。

 

「次は、貴方を(さわ)らせて貰っても良いですか……!」

 

 (いき)いよく、要領(ようりょう)()ない事を口にし始めた。

 

「……(うで)で良いか?」

 

 別に(かま)いはしないのだが、それで何かが分かるとでも言うのだろうか。

 

「腕でも大丈夫です……!」

 

 (みょう)熱量(ねつりょう)を感じるが、研究者(けんきゅうしゃ)ならばこれくらいの勢いを持たなければ(つと)まらないのだろう。

 

 右腕の籠手(こて)を外し机に()き、(そで)をめくり上げていく。

 

「かなり重そうな音がしましたけど……」

 

頑丈(がんじょう)装備(そうび)を求めた結果こうなった、これでいいか?」

 

「大丈夫です、じゃ、じゃあ失礼しますね……!」

 

 ルクリアはまず手のひらに触れ、手の甲、そして指をなぞってから拡大鏡(かくだいきょう)観察(かんさつ)を始める。

 

「綺麗ですね……、小さな傷痕(きずあと)一つ残ってないです」

 

「幼少期から傷の治りは早かったそうだ」

 

 浅い切り傷などは寝て起きる頃には完全に(ふさ)がり、(あざ)も気づいた頃には無くなっている。

 

「なるほど」

 

 聞いているのか判断(はんだん)のしづらい言葉を発すると、そのまま前腕の観察が始まった。

 

「私の身体は魔物近いか?」

 

「いえそれが、人間そのものなんですよね、不思議な事に」

 

「不思議な事に?」

 

「あっ、いや、違うんです……!」

 

「お待たせいたしましたー、こちらご注文の品になりまーす」

 

 ルクリアの弁明(べんめい)は、料理を運んできた従業員(じゅうぎょういん)によって中断(ちゅうだん)された。

 

「仲がよろしいんですね、ごゆっくりどうぞ!」

 

「違うんです……!」

 

 従業員は再度(さいど)の弁明の(すき)すらも与えず、笑顔のまま裏側へと戻っていった。

 

「続きは後にしよう、料理が()めてしまう」

 

 未だ赤く染まっているルクリアの顔を横目に、食器に手に取った。

 

――

 

「中々の味だった、いい店を知っているな」

 

「そう言ってもらえると、何だか僕も嬉しいです」

 

 流石に良く通っていると言うだけのこともあり、満足できる味と量であった。

 

 値段(ねだん)も良心的であり、()け出しで金に余裕(よゆう)のない者にも有り(がた)い店のようだ。

 

「それで、他には何か調べたい事はあるか?」

 

「はい、えーっと……、次はこれをお願いします」

 

 ルクリアが取り出したのは、白く輝く光が中に閉じ込められた手の平ほどの鉱石(こうせき)だった。

 

 受け取り手の上で(もてあそ)んでみるが、これといった変化はない。

 

「これはなんだ?」

 

握力計(あくりょくけい)です、(にぎ)る強さに応じて中の光の色が変わるんですよ」

 

「そういう物があるのだな」

 

 早速力(さっそくちから)()めようとした所で、咄嗟(とっさ)に手を開く。

 

「この石の耐久力(たいきゅうりょく)はどれほどだ?」

 

「多少の力じゃ(くだ)けませんから、安心してください」

 

「そうか」

 

 とは言うが、もしもの事を考え、ゆっくりと込める力を上げていく事にする。

 

「では握るぞ」

 

「お願いします……!」

 

 手に力を入れていくと、まず白が(うす)い青へと変色した。

 

「ほう」

 

 さらに薄い青から、()い青へ。

 

 そこから薄い緑になり、濃い緑へと変わっていく。

 

「例えば私ぐらいの背丈(せたけ)の人間が全力で(にぎ)ったとして、この石はどのような色になる?」

 

「そうですね、黄色が一番多かったです」

 

「そうか、まずはそこを目指してみよう」

 

 さらに力を入れていくと緑から、薄い黄色を経て濃い黄色へと変わった。

 

「これが普通程度の力か」

 

「まだ(すず)しい顔してるのに黄色が出ちゃうんですね、(うらや)ましいです」

 

 羨ましい、あまり言われたことの無い単語だ。

 

 それこそ私から他人に思うことはあったが。

 

「最も強く握られた時はどのような色をしていたんだ?」

 

「連盟内で一番力が強いって人を募集(ぼしゅう)したときに出たんですけど、濃い(むらさき)色でした」

 

「紫か」

 

 今よりもさらに力を込めていくと、何色も色が変わっていき濃い紫へと色が変わった。

 

「あの、今って全力出してますか?まったく表情(ひょうじょう)がかわりませんけど……」

 

「いいや」

 

 まだ全力の半分も出してはいない。

 

 さらに力を入れていくと、色が次々とと変わっていく。

 

 だが突然(とつぜん)石に(ひび)が入り光が消えてしまった。

 

「む……」

 

 力を抜き石を机に置く。

 

「へ……?」

 

「すまない、どうやら壊してしまったらしい」

 

「……アルマさんって実はサイクロプスだったりしますか?」

 

「私は人間だ、目も二つあるだろう」

 

「あの、アルマさんの身体の一部って(もら)っちゃダメですよね?」

 

「当たり前だ」

 

「ですよねー……」

 

 その後も(いく)つかの器具(きぐ)破壊(はかい)してしまった後、退店(たいてん)し馬車置き場に向かって歩き出す。

 

「本当に弁償(べんしょう)しなくてもいいのか?」

 

「はい、あまり高いのもないので、それに良い研究対象(けんきゅうたいしょう)も見つけましたから」

 

「ルクリアの専門(せんもん)は魔物ではないのか」

 

「そうなんですけど、アルマさんは個人的に気になりますので」

 

 魔物扱いをされている訳でないのならば、別に構いはしないのだが。

 

「本当なら全身を調べたいんですけど、今は器具(きぐ)が足りませんし残念(ざんねん)です」

 

 ルクリアの視線(しせん)先程(さきほとま)までとは違う、どこか寒気のする何かを(はら)んでいた。

 

「そこ(まで)(ゆる)した(おぼ)えは無い」

 

「えー!なんでですかー!」

 

 さらにはこうして時折(ときおり)()()いてきては、どさくさに(まぎ)れ身体を(さわ)ってきている。

 

 ルクリアあの服を(つか)んで引き()がし、出来るだけ距離(きょり)を作って持ち上げる。

 

「わー……!やっぱり桁違(けたちが)いの怪力(かいりき)ですね!」

 

 最初は(おさな)(ゆえ)の年上に対する甘えかと思っていたが、研究対象への執着(しゅうちゃく)でしか無いらしい。

 

 出会ったことのない人間の特性に、思わず溜息(ためいき)をついてしまう。

 

「やっぱり気持ち悪いですか?僕……」

 

 かと思えば急に幼い子供のようになり、弱者性(じゃくしゃせい)強調(きょうちょう)してくるのだった。

 

 ルクリアを地面に()ろす。

 

「気持ち悪いとは思わないが、強引(ごういん)な手は(ひか)える事だ」

 

 一応の忠告(ちゅうこく)はしておく、聞いてくれるかは(さだ)かではないが。

 

「分かりました、次から良い交換条件(こうかんじょうけん)を用意しておきます」

 

 無理矢理(むりやり)よりはまだマシだろうか。

 

――

 

 馬車の持ち手を掴み、引っ張り出す。

 

「やっぱり魔物なんじゃないですか?」

 

「違うと言っているだろう」

 

冗談(じょうだん)ですよ、また一緒にご飯いきましょうね!」

 

「ああ、また会おう」

 

 手を振るルクリアに手を上げて返してから、街の外へ向かい走り出す。

 

「あの加速力(かそくりょく)、やっぱり魔物だよね?」

 

――

 

 後ろから近付く気配(けはい)を感じ、走る速度を落とす。

 

 すると荷台に小さな着地音が鳴り、布が(こす)れる音が続いた。

 

「お前とは(まち)で別れたと思っていたが」

 

『ふん、貴様(きさま)には関係ない』

 

 ()り返ると猫又(ねこまた)(たた)んであった布の中から顔だけを出して、乗せてもらった立場でありながら(えら)そうな口を叩いている。

 

首領(しゅりょう)でも探していたか?その様子では何も見つからなかったと見える」

 

(だま)れ』

 

 不機嫌(ふきげん)そうに()き捨てると布の中へ(もぐ)ってしまった。

 

 どうやら図星(ずぼし)のようだ。

 

「長く生きようが性根(しょうね)(おさな)いままの(あやかし)もいるのだな」

 

『それはどういう意味(いみ)貴様(きさま)(われ)は貴様の数倍は生きておるのだぞ!』

 

「そういう所だ」

 

『シャーーーー!』




『握力石』
握った力によって中に閉じ込められた光の色が変わる。
濃い青=20kg 濃い緑=40kg 濃い黄色=60kg
紫は凡そ180kg程
石が耐えられる限界は凡そ500kgほど
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