武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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人猫一体

 

『せいぜい足を引っ張るなよ』

 

善処(ぜんしょ)しよう」

 

 侍達の中央に飛び込み刀を振り下ろし一人を切り裂き、横薙(よこな)ぎに振るい複数を(まと)めて切り裂く。

 

 侍同士の隙間(すきま)から伸びてきた一本槍を掴み、回転しながら振り回す事で周囲の侍と持ち主を吹き飛ばし(うば)い取る。

 

 後方から妖気を感じ開かれた方向に高く飛ぶと、元いた場所を青い炎の波が飲み込み、猫又が長い爪を振るい侍の軍団を(まと)めて引き裂いていった。

 

「中々やるな」

 

 落下地点で待機する一人に槍を放り投げ串刺(くしざ)しにし、自らの左手首を傷つけ出血させる。

 

「力を借りるぞ」

 

 (あふ)れ出した血液(けつえき)(するど)く伸びて固まり、一振りの刀のようになった。

 

 左手でそれを握り空中で身体を回転させ(いきお)いをつけ、大地から伸ばされる槍を斬り払い、侍達を薙《な》ぎ払う。

 

妖術(ようじゅつ)血刀(けっとう)(ちぎ)り―』」

 

 血霧童子(ちぎりどうじ)から力を受け継ぎ、修練(しゅうれん)の先に()み出した新たな武器。

 

 私の血が()きない限り、武器を失おうとも戦い続けることができる。

 

 手首の傷を(ふさ)ぎ出血を止め走り出し、立ち(ふさ)がる侍達を一人二人三人と斬り伏せていく。

 

(柳流二刀術(やなぎりゅうにとうじゅつ)風祝(ふうしゅく)(まい)』)

 

 身体の力を(わず)かに抜き自然に(かま)え、刀や槍の一撃を最小限の動きで(かわ)しては、身体を半回転させながら首や胴を斬りつけていく。

 

 血液の刃が対象(たいしょう)を傷つけ出血させるほどに、赤い刃はさらに濃く(あか)く、そして(する)さと身幅(みはば)(あつ)さを増していく。

 

 太刀程の大きさだった血刀は無数の血を()らい、背丈(せたけ)よりも長い大太刀(おおだち)となった。

 

 妖刀を一度収め、両手で血刀を構える。

 

 一度振るう度に五人もの侍が巻き込まれ、その(するど)さと長さがより増していく。

 

『おい人間あそこをみろ、侍共(さむらいども)が集まっていく』

 

 猫叉の視線の先には侍達が塊のように、中央へ我先(われさき)にと集まっていた。

 

「妖気が強まっている」

 

 侍達が目指す中心地、そこから放たれる妖気が時間の経つ程に強く(ふく)れ上がっていく。

 

不快(ふかい)な――我が焼き()くしてやる!』

 

 猫又は金の瞳で(にら)みつけ、全身から青い炎を()き放った。

 

 濁流(だくりゅう)となった青の炎は侍の軍団へ飲み込まんと(せま)る、だが侍の中心から伸びた巨大な(うで)がそれを(ふせ)いでしまった。

 

『馬鹿なっ……!』

 

 さらにもう一つの腕が伸び地面を掴むと、巨大な赤い(かぶと)が生えそして赤い大鎧が飛び出した。

 

「巨大な、侍……」

 

 全身に赤い甲冑(かっちゅう)(まと)った巨人が立ち上がると、その足元にいた侍達が一塊(ひとかまり)となり溶け合っていく。

 

 巨人がそれを掴むと重なり合っていた赤鎧が弾け飛び、長大な大太刀となった。

 

『オオオオオオオオ……』

 

 地鳴(じな)りのような太く低い(うな)りが(ひび)き渡る。

 

『おい、あの妖を知っているか』

 

「いいや……」

 

 初代当主が残した書は全て読みつくしているが、鎧を纏った侍のような妖はともかく、侍の巨人など記憶にはない。

 

『使えんやつめ』

 

「悪いな」

 

 血刀がある程度育っているのは幸運(こううん)と言えるだろうか、通常の刀よりも攻撃範囲が増え、踏み込む位置をより安全な場所に置くことができる。

 

『……』

 

「まずは相手の出方を見る、そちらも無理をするな」

 

『き、貴様には言われるまでも無いわ!』

 

「ならばいい」

 

 走り出し巨人の周囲を回ることで、行動範囲(こうどうはんい)射程距離(しゃていきょり)、妖の性質(せいしつ)を探る。

 

(闇の(もや)(すで)に消え、侍がこれ以上増える様子もない)

 

 人程の侍は大太刀の一塊(ひとかたまり)となって全て消え、残されたのは巨人ただ一人だ。

 

 動きはそこまで速くは無さそうではあるが、あの巨体から放たれる一撃は直撃した時点で終わりだと言える。

 

『オオオオオオオ……』

 

 巨人は(うな)り声を上げるだけであり、いまだ動く様子はない。

 

 地を()り巨人までの距離を()める、だが巨人は動かない。

 

 (つか)(にぎ)る手に力を入れ強く足を踏み込んだ瞬間、巨人の顔が此方(こちら)を向き兜の口部分が大きく開かれた。

 

(くる――!)

 

 巨人の大口に紫の光が集まり、巨大な光弾(こうだん)となって放たれた。

 

 足に入れた力の方向を変え右側へ大きく飛ぶ事で、直線から外れる。

 

 だが光弾はその軌道(きどう)を大きく曲げると、此方に目掛けてさらなる加速を始める。

 

 地を蹴る力を上げ走る速度を上げても尚、光弾は軌道を更に曲げさらに加速していく。

 

(ならば)

 

 走る足を止め、息をゆっくりと吸いながら光弾を待ち構える。

 

 そして、光弾が目の前に迫った瞬間に後方へ高く飛ぶ。

 

 しかし、光弾は地面に直撃してなお消失(しょうしう)する事なく、むしろ大地を(えぐ)り取りながら角度を変えさらに(せま)る。

 

『ヒヒヒヒヒっ!』

 

「――っ!」

 

 その光弾の中には、見知らぬ人間の顔が(いく)つも浮かび上がっていた。

 

 瞬間(しゅんかん)、青い炎が光弾を飲み込み、跡形(あとかた)も無く焼き()くした。

 

(かわ)すのではなく妖術を使わぬか莫迦者(ばかもの)が!』

 

 猫又の怒鳴(どな)り声で我に返る。

 

 地面に着地し声の方を見ると、猫又がこちらを(にら)みつけていた。

 

(冷静(れいせい)さを失っていた)

 

 血刀を構え直し呼吸(こきゅう)(ととの)え、精神が落ち着く様に(つと)める。

 

 猫又がいなければ恐らく重傷(じゅうしょう)を受けていた、未だ道半(みちなか)ばだと言うのにだ。

 

「ありがとう、助かった」

 

『……ふん、次は無いぞ』

 

「気をつけよう」

 

 巨人に向き直り血刀を構える。

 

 巨人は未だ動かないままであり、光弾を吐き出した大口も今は閉じられている。

 

「少し確かめたいことがある」

 

『確かめたいことだと?』

 

 馬車の元へ走り矢筒(やづつ)と弓を背負い、被害を受けないようなるべく離れた場所に移しておく。

 

『おい、確かめたい事とはなんだ』

 

「今やってみせる」

 

 血刀(けっとう)を構え限りなく心を無にして上段に構える、すると巨人の顔が此方を向き再び光弾を吐き出した。

 

「やはりか……」

 

 血刀を地面に突き立て背中の弓を外し構え、矢を一本引き抜き矢尻を血の刀身に(すべ)らせる。

 

 すると血刀から紅い霧が放たれ、それが矢を包みこみ鋭く大きな(あか)矢尻(やじり)となった。

 

妖術(ようじゅつ)(ちぎり)りの血一矢(ちびとや)』」

 

 光弾を(ねら)い矢を解き放つ。

 

 紅き尾を引きながら空を()ける一矢(ひとや)は光弾を突き(やぶ)り消し去り、巨人の元へ辿(たど)り着くが赤い鎧に阻まれ砕け散った。

 

「奴は一分(いちぶ)殺意(さつい)を感じ取り、それによって反撃(はんげき)していると見て間違い無いだろう」

 

 なぜそれを感じ取れるのかは分からない。

 

 私が光弾を前にして反撃(はんげき)意思(いし)を一時的に失った状況(じょうきょう)、それを思うに奴は精神(せいしん)作用(さよう)する性質(せいしつ)を持った(あやかし)可能性(かのうせい)が高い。

 

殺意(さつい)ぐらいならば(われ)でも感じ取れるぞ』

 

「私もだ、それを(はる)かに上回る性質を持っていると考えてくれ」

 

 ()(おさ)めたもの、死線(しせん)(くぐ)っていたものであれば殺意(さつい)という物は感じ取れるものだ。

 

 恐らく巨人は、どれだけ相手が心を(しず)めようとも、髪の一本ほどでも敵意があればその全てに反応するだろう。

 

『ふん、ならば反応をさせる前に殺し尽くせばいいだけだろう』

 

「ああ、そうしよう」

 

 (わず)かな殺意に反応し反撃(はんげき)をするというのならば、奴の動きを上回り切り捨ててしまえばいい。

 

 瞬間、巨人の顔が振り向き光弾を二つ吐き出した。

 

 再び紅の矢を放ち光弾を破壊し、血刀を引き抜き巨人の元へ走り出す。

 

 さらに光弾が放たれるが、構わず()け抜ける。

 

 その追尾性(ついびせい)は厄介ではあるが、(さいわい)い速度はそこ(まで)では無い。

 

(私の最大速度ならば、光弾が来る前に辿(たど)り着ける)

 

 周囲の増え続ける妖気で光弾がさらに数を増し続けている事は目視せずとも分かる、だがその気配も速度を上げる程に離れていく。

 

 巨人の足元で強く一歩を踏み込み、下段から上段へ右足首を斬り払う。

 

((もろ)い、だがこれは――)

 

 巨人の傷口(きずぐち)から(むらさき)の光が(あふれ)れ出すが、すぐに傷が再生してしまった。

 

 血刀を切り返しさらに(けん)の部分に突き刺し、ある(ほどこ)しをしてから地を蹴って足を飛び込え、もう一つの足の上を飛びながら(すね)の辺りをやや短くなった血刀で切りつけ再び走り出す。

 

 振り返れば紫の光球が巨人の身体をすり抜け、こちらへと迫っていた。

 

(自らを傷つけることは無い)

 

 地面を滑りながら振り返り、血刀を振るい血の(きり)をばら()障壁(しょうへき)を作り出す。

 

 拡散した血の霧は光弾を触れた側から消滅させるが、血を消費した血刀はさらに短くなってしまった。

 

妖術(ようじゅつ)隆々残血(りゅうりゅうざんけつ)』」

 

 手を(かざ)し巨人の足に残した血液(けつえき)硬質化(こうしつか)させ、数百もの(はり)にして内側から貫かせる。

 

 巨人の傷口から紫の光が飛び出し、何処かへと消えていく。

 

『オオオオ……』

 

 巨人は(うな)り声を上げるが苦しむ様子はない、だが巨人の足が何処か小さくなったようにも見える。

 

『オオオオオオオ!!!』

 

「――っ!」

 

 突如(とつじょ)巨人が地が響くほどの叫びを上げ、太刀を振り下ろし地面を()(くだ)いた。

 

 ひび割れた大地から顔が浮かぶ紫の光線が放たれ天を貫き、光の雨となり現れた。

 

 頭上に振り注ぐ光を走る速度を上げ走ることでどうにか(かわ)していく。

 

 振り向くと、後方では地面に着弾した閃光が小規模(しょうきぼ)な爆発を起こしていた。

 

 血刀を脇に構え巨人の元へ走ると、巨人は太刀を地面から離し横薙(よこな)ぎに振るってきた。

 

(上、いや下だ……!)

 

 前方に(せま)る巨大な刃の下に身体を(すべ)り込ませ回避(かいひ)し、大太刀を持つ手の方へ走り出す。

 

「ふっ!」

 

 道を塞ぐように迫る幾つもの光球を切り裂き、空から振り注ぐ光雨を細かく左右に飛ぶことで回避(かいひ)し突き進む。

 

『オオオオオオオ!』

 

 巨人が振り下ろした拳を横に大きく飛び躱すと、直撃した地面に大穴(おおあな)が空き(うで)の動きが止まる。

 

(好機(こうき)!)

 

 巨腕(きょわん)に飛び移り血刀の切っ先を押し当て、籠手(これ)ごと腕を切り裂き血を残しながら()け上がる。

 

 上腕(じょうわん)を越え肩に辿り着いた先で幾つもの光球が周囲を(かこ)う、だが青の炎が周囲を通過し全てを焼き尽くした。

 

 だが燃やされたのは巨人の腕と光球だけであり、私には(すす)の一つすら付きはしていない。

 

「流石だな」

 

 首を狙い強く足を踏み込むと、巨人の顔が此方を向き大きな口を開ける。

 

(この距離であれば私の方が早い――)

 

 瞬間(しゅんかん)、身体に(するど)寒気(さむけ)が走り、行動を切り替えてその場から飛び上がることを選択(せんたく)する。

 

 その直後、巨人の口から太い光線(こうせん)が放たれ、私が元いた肩を抉ると地面に直撃し極大の爆発を引き起こした。

 

(自らをも(けず)(ほど)威力(いりょく)、だが……!)

 

 血刀を上段に構え、縦に一回転する。

 

(柳流剣術奥義(やなぎりゅうけんじゅつおうぎ)光芒烈日(こうぼうれつじつ)』)

 

 その勢いのまま振り下ろした刃は兜を切り裂き、頭部へ食い込ませ一気に顎までを断ち切った。

 

 左右に真っ二つとなった顔から紫光が溢れ出し、巨人がさらに小さくなっていく。

 

『オオオオオオオ!』

 

 雄叫(おたけ)びを上げる巨人は何を思ったのか、自らの頭部(とうぶ)を引き抜いた。

 

 しかし首から離れた左右の頭部は巨人の手から浮き上ると、紫の閃光をばら()き周囲を飛び回る。

 

面妖(めんよう)な……」

 

 巨人の首から前へ飛び降り人間の心臓辺りに血刀を深くまで突き刺し、大量の血を流し込み胸を()って(はな)れる。

 

 血刀の刀身は短刀(たんとう)の長さにまで(ちぢ)んでいる。

 

(血を残せるのは後一度)

 

 頭部を失った巨人は暴れ剣を振り回し、作られた地面の(ひび)から閃光が放たれる。

 

 雨のような閃光を(かわ)しながら走ると、目の前に頭部の片割れが現れ口から光線を打ち出す。

 

 その場から直角に曲がることで光線を回避し、さらに速度を上げ頭部から距離を取り、もう一方の頭部に追われた猫又の元へ向かう。

 

 猫又もどうにか光線を(かわ)し続けているが、頭部との距離は段々(だんだん)(せば)まってきている。

 

(この距離では私の足でも救援(きゅうえん)には間に合わない、ならばっ――!)

 

 頭部の移動距離(いどうきょり)を計算し、思い切り地面を踏み込み。

 

「ふっ!」

 

 全力で血刀を投げつける。

 

 血刀は頭部のこめかみ付近(ふきん)に突き刺さり、地面へと墜落(ついらく)させた。

 

妖術(ようじゅつ)隆々残血(りゅうりゅうざんけつ)』!」

 

 再び浮かび上がろうとした顔の内側から、血の剣山(けんざん)が突き(やぶ)り、紫の光を(あふ)れさせ消滅(しょうめつ)させた。

 

『助けなど頼んでないぞ!』

 

「私がそうしたいと考えただけだ」

 

『な、なんなんだ今日の貴様は!』

 

 元気に毛を逆立(さかだ)てている様子からして、特に疲れも傷も無いようだ。

 

『オオオオオオオ!』

 

 目を血走らせた顔の片割(かたわ)れが、紫の閃光を()()らしながら接近して来る。

 

『アレは我がやる!』

 

 猫又は青い炎を燃え上がらせるとそれを(あやつ)り飲み込ませる、だがそれで勢いが止まることなく炎から片割(かたわ)れが顔を(のぞ)かせた。

 

 猫又は爪を鋭く伸ばしさらに炎を(まと)わせ、片割れに飛びかかりその両爪で切り()いた。

 

『どうだ!このくらい我でも(ほふ)れるわ!』

 

「流石だと言いたいが――」

 

 猫又の体の下に(もぐ)り込み、下から持ち上げてその場から飛び退()く。

 

 すると猫又の元いた場所に太刀が振り下ろされ、地面から閃光が飛び出した。

 

 猫又を下ろし妖刀(ようとう)(さや)(つば)(まと)めて(つか)む。

 

「敵は頭部(とうぶ)だけではないぞ」

 

気安(きやす)く我に()れおって……!』

 

光雨(こうう)が来るぞ、走れ!」

 

 その場から駆け出した瞬間に、光雨が振り注ぎ地面に大穴を空けた。

 

「残すは奴だけ、だが油断はするな」

 

『言われるまでもないわ』

 

 妖刀に手を掛け走り出す、顔を失った巨人の首から絶えず発生し迫る光球を抜刀斬りで斬り裂くと、赤と黒の妖力が刃に吸い込まれていく。

 

(妖術で破壊(はかい)出来るならば、妖刀に出来ない道理(どうり)はないか)

 

 積極的(せっきょくてき)(むか)え撃つ事を方針(ほうしん)に決め、行く手を(はば)光球達(こうきゅう)を次々に両断(りょうだん)していく。

 

 切り()くほどに刃が(まと)う妖力は増し、赤と黒の奔流(ほんりゅう)が強くなる。

 

 息を大きく吸い込み、刀を顔の横に構える。

 

柳流剣術奥義(やなぎりゅうけんじゅつおうぎ)流転滅尽(るてんめつじん)」』

 

 走る速度(そくど)をさらに上げ、一度も立ち止まる事なく光球達を切り裂き更に突き進む。

 

 縦に横に刃を振るい突き薙ぎ払い、飛び越えながら切り裂き、下を潜りながら両断する。

 

『オオオオオオオ!』

 

「『隆々残血(りゅうりゅうざんけつ)』!」

 

 先程残しておいた血を操ると、巨人の左腕全体から紅い剣山伸び大量の傷を付ける。

 

「猫又!奴の左腕を燃やしてくれ!」

 

我に|指図(さしず)するな!』

 

 などと言いながらも猫又は青の炎を放ち巨人の左腕を炎で包む。

 

 ()かれた腕から大量の光が放たれ空へと昇っていく。

 

 巨人はさらに小さくなり、初めに見た時の半分程度の大きさになっていた。

 

(妖刀によって強化された今の状態ならば、この位置からでも届く)

 

妖術(ようじゅつ)(まと)(ぎり)

 

 手首を傷つけ大量の血霧を放出させ全身に纏う。

 

 しゃがみ込んで脚の力を貯め、一気に解放して巨人の心臓へ向けて跳躍(ちょうやく)する。

 

 巨人が放つ光球、光雨を紅い霧で弾く事で速度を落とすことなく突き進む。

 

 通用しないと理解したのか攻撃が止む、その直後、巨人の妖力が急激に膨れ上がり胸の位置に光が集まり始めた。

 

「『隆々残血(りゅうりゅうざんけつ)』」

 

 巨人の胸から無数の針が飛び出し鎧が砕け散ると、奴の本体らしき巨大な光の顔が現れた。

 

(柳流剣術奥義(やなぎりゅうけんじゅつおうぎ)輪廻(りんね)(まと)()り』)

 

 妖刀を回転させ刀身に血霧(ちぎり)(まと)わせる、黒と赤の妖力の奔流(ほんりゅう)(くれない)の霧が合わさり勢いがさらに増していく。

 

 そして、身体を回転させ光の顔を何度も斬り続けていく。

 

『オオオオオオオ!』

 

 その度に巨人は(うめ)き声を上げ、光が飛び散っていく。

 

 刃は斬りつける度に妖力を喰らい、さらに鋭さと輝きを増す。

 

「これで終わりだ、故郷(こきょう)先達(せんだつ)よ」

 

 妖刀を高く振り上げ、侍の魂に黒と赤の奔流(ほんりゅう)と鋭い(くれない)を叩きつけた。

 

 巨人の中心から紫の粒子状(りゅうしじょう)(くず)れだし、解き放たれた魂達が空へと消えていく。

 

 頭から地上へと落下しながら、奔流の消えた妖刀をゆっくりと収め、着地に備え体勢を整えようとして考える。

 

(この高さなら軽傷で済むだろうが、受けの技を試す良い機会(きかい)か)

 

 目を閉じて精神を集中する。

 

 いざ能力を使おうと目を開くと、地上からここまで跳んできた猫又に外套(がいとう)を噛まれ、落下を防がれてしまった。

 

『礼を言え』

 

「ふっ……」

 

『おい!我が助けてやっと言うのに何を笑っている!』

 

 高圧的(こうあつてき)態度(たいど)を取りながらも人を助けようとする様子に思わず笑いが(こぼ)れてしまった。

 

「いや、ありがとう、助かった」

 

 だが好意で助けてくれた猫又に少し失礼だった、反省(はんせい)しよう。

 

 猫又はゆっくりと着地するが、どうしてか口を離してくれない。

 

『我をアキ様と呼べば降ろしてやる』

 

 交換条件としては可愛らしいものだが、ここから降りるだけとなれば別に飲む必要も無い(あん)だ。

 

 アキの鼻を優しく()でてやると、宙に放り投げられた。

 

 体勢を直して地面に着地し、遠ざけた馬車の方向に歩き出す。

 

『貴様あああああああ!』

 

 アキが毛を逆立てながらシャーシャーと(わめ)いているが、食事でも与えれば落ち着く事だろう。

 

 ――

 

 軽い食事を済ませ身体を濡らした布で拭ってから、刀と弓矢を外し荷台の上で横になる。

 

(少々血を使いすぎたか、慣れるよう訓練を(かさ)ねなければ)

 

 血の不足によるふらつきが訓練で改善(かいざん)するのかは分からないが、妖術ならばどうにかなるだろう。

 

「おい、横を空けろ」

 

 人の姿になっていたアキが荷台に上がってくる、寝る場所を(うば)い取ろうなどとは考えていないらしい。

 

 獣の姿に戻れば良いだろうにと考えつつ、意見を尊重(そんちょう)して一人分の空きを作り、こちらを向いて横になったのを見てから(まぶた)を閉じる

 

「おい」

 

「どうした」

 

「……」

 

 (まぶた)を開けるとアキが黙ったまま此方(こちら)を見つめていた、話しかけたのはそちらだと言うのに段々(だんだん)不機嫌(ふきげん)そうな表情に変わっていく。

 

「私は体力の回復に(つと)めたいんだ」

 

 いつまた(もら)が現れるかは分からない、だから可能な限り万全の状態に(たも)ちたいのだが。

 

「お前は何をして欲しいんだ」

 

「貴様が考えろ」

 

 人の眠りを妨害(ぼうがい)した者の発言とは思えないが、アキが妖だと考えれば一応の納得は出来る。

 

(今と似たような状況(じょうきょう)で私は……)

 

「――アキ、来い」

 

「っ!命令するな」

 

「お前というやつは……」

 

 これ以上の問答は時間の無駄だと切り替え、アキの背中に腕を回し胸に抱き寄せる。

 

 妖刀を持ち出そうとするよりも、この方が面倒が無くて良いと考えるとしよう。

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