「くぅくぅ……」
眠りから覚め
背中に回された手を取り、起こさないように
(この姿ならば起きているかの
上体を起こしなるべく音を殺しながら、刀の二振りを掴んで荷台の外に出る。
(この調子ならば日が暮れる前には
振り返ると
「人間……」
まだ眠いのか
「起きたか、腹は
「……寝る」
そう言ってアキは再び布の向こうへ消えた。
(朝が弱いのは
アキが起きたならばさらに速度を上げようと考えていたが、
――
「あれがこの国と聖国の
日が沈み世界が
「そこ、止まりなさい」
「人が馬車を引いている……」
毎度このような反応をされているが、それ程までにおかしいのだろうか。
「この門より先は聖国フィアールだ、
「いや、持っていない」
「ならば通せない、出直して来る事だ」
ここを通るにはそういった物が必要になるのか、街を出る
「その通行証というものを入手するにはどうしたらいい」
「そこの分かれ道を左に向かえば街がある、その
思わぬ事で時間が取られてしまいそうだ、次からは戦闘同様に事前準備と調査を
「分かった、ありがとう」
荷馬車の向きを変え、教えられた方向に歩き出す。
「通行証の発行料と通行費も用意しておく事だ、また出直しになりたくなければな」
「気をつけておこう」
道を進みながら地図を広げると、確かに国境に一番近い街と
その後、どうにか閉門前に街の中へ入ることができた。
馬車置きに荷台を停めておき、弓と矢筒を背負い街を歩く
「街役場は既に閉まっているようだ、今日の所は食事を済ませ休もう」
「肉だ、肉を食わせろ」
アキは今朝から現在に至るまでずっと人の姿のままでいるが、この方が過ごしやすいのだろうか。
「肉は大抵の店で置いているだろうが、まずは聞いてみるのが一番いいか」
この街にも連盟はあるだろう、そこでいい
と思っていたが。
「お二人さん、何かお探し?」
「なんだ貴様は」
青い髪を雑に伸ばした
「まあまあそんな怖い顔しないでって……」
男の手が肩に触れる前に、アキの手を掴んで
「ハハハそんなそんな、取ったりしませんて」
「……街中での殺しは
「ちっ」
アキは
「私達は食事が出来る場所を探しているんだが、どこか知らないか」
「でしたらウチの店来てくださいよ、いい酒も食事も
声を掛けてきたのは最初からこれが目的だったのだろう。
「上等な肉は置いているのか?」
「それはもちろん!ささ、こっちへどうぞ」
付いて行こうと考えていたのだが、アキが動こうとしない。
「どうせ
「その時は
「さあ、中へどうぞ」
男は扉を開き、その先へ続く階段へと降りていく。
「この店はさぞ燃える事だろうな……」
「判断するにはまだ早い」
建物は木材を主要に使われており確かに燃えやすいだろう、だが
やや幅の狭い階段を降りていくと、
「……おい」
「まだだ」
「……いらっしゃませ、お二人ですか?」
従業員の男は
「ああ」
「ではそちらにどうぞ」
案内された席に座る。
思ったよりも綺麗にされているというのが第一の感想だ、
「注文が決まったら呼んでください」
「あっ、ちょっと……!」
従業員は店まで案内してくれた男を
「がっはははは!」
「そりゃいいや!」
商品名が並ぶ
金額は連盟の酒場より少し高い程度で、特別おかしなところはない。
「へっへ、良い女だな」
「脱がしやすそうで最高だ」
「ああ酒が進んじまうぜ」
声の大きさも変えず他人を評価し
「……ちっ」
アキが
従業員を呼び止め、肉と適当な料理を幾つか注文する。
「ご一緒にお酒はどうですか?」
「いいや」
「飲む、持ってこい」
「か、かしこまりました」
アキの顔を見ると、この上なく
酒に逃げる程ここが気に食わないのだろうか。
「なんだ」
「明日もある、動けなくなるほどは飲まないでくれ」
「私に
同行者の私でさえも
「お待たせしました」
従業員が酒の入った器と、料理の乗った皿を次々並べていく。
「
「はい、当店には自慢の
と、
「肉はまだか」
「えっと、中まで火を通す性質上、他よりも少し時間が掛かるのです」
「そう急かすな、来るまでに他の料理を楽しめば良いだろう」
「ふん」
アキは酒を一息で飲み干してしまった。
妖は酒好きだと
「おい、もう一杯ついでこい」
「すぐに持ってきます!」
アキが手を付けようとしない料理を消費すべく手近な物から食していく。
ずいぶんと
私は今後
「お待たせしました、こちらお酒と
鉄板に載せられた分厚い肉と酒が置かれる、鉄板は熱を保っているのか肉の焼ける音が心地よく響いている。
「
従業員が消え、アキが肉へ伸ばした手を掴んで止める。
「おい、何をする貴様」
「手が汚れるだろう、食器を使え」
「いちいちうるさい奴だ」
実際に使えないという訳では無いのか、アキは食器を手に取ると肉を綺麗に切り分ける口に運び始めた。
この分ではすぐにでも食べ尽くしてしまいそうだ。
アキに合わせ食べる速度を上げ、皿を空にしていく。
全体の八割ほど食べ終えた所で、アキの動かす食器音が止まった。
「どうした――」
アキは食器を持ったまま
「
「結構だ、すぐに食べ終わる」
空になった皿を端に置き、鉄板を引き寄せ残った肉を切り分け口に運ぶと、かなり濃い味付けがされている事が分かった。
「いやしかし、ほかのお客さんの目もありますから――」
「私は必要ないと言った、終わるまで下がっていろ」
「うっ……」
軽く
「おいおい兄ちゃんそらねえって、あいつも気を利かしてくれたんだからよ」
「せっかくの
話を聞いていたのか客の男達が席から立ち、取り囲う用に近づいてきた。
「そうだな、だが
食器を置いて席から立ち上がると、男の一人が私の肩に手を置いた。
「まだ酒が残ってるぜ」
アキが注文した酒の匂いを
「これで
「……嘘だろ」
男達を押しのけ、アキの
「――っ!」
「なんだ今の力……」
不自然な
すると先程の従業員では無く、店まで案内をした男が汗をかきながら走ってきた。
「会計ですか?少し待っててくださいね」
「この店の味付けはいつもあれだけ濃いのか」
「――は、はいそれは勿論」
出会った時とはまるで違う、どこか
「先程注文した酒、未開封の物を持ってきてくれ」
「えっと、どうしてでしょうか……?」
「私はあの味を気に入った、金なら払おう」
「あ、あれは
どうしてか酒を持ってこようとしない。
「持ってこないのなら、お前も
「
つまりは酒や食事に何かを
「……ちっ」
そして他の客達も店と
「持ってきました!これです!」
先程よりも多く汗を流した男から
香りは特に変わらないがその中に
蓋を閉じて瓶を軽く振り再度味を確かめてみるが、やはり味が見つからない、
「何を入れた」
「……えっと、自分はよく分かんないんですけど、
男は言い訳を並べながら
受け取り中を確認すると、小さな白い
「手を出せ」
「へ?」
男の腕を掴み引き寄せ、手の平に薬を一粒落とす。
「い、痛いです――!」
手を離し瓶の蓋を閉める。
「飲め」
「いや、それは」
「さもなくば斬り捨てる」
「飲みます!」
刀に手を掛けると男は薬を口に入れ、飲み込んだ。
「ぐうう……」
すると、男は受け身も取れず顔から床に倒れ、深い寝息を立て始めた。
「新規二名様ご案内でーす、あれ……?」
階段の上から別の客引きらしき男が、二人組の男女を連れて降りてきた。
「な、何この状況……!」
こうして客引きを使い連れてこさせ、睡眠薬を飲ませているという事なのだろう。
「あの、お客さん……?これは一体どういう」
「説明が必要か?」
男に薬入りの小瓶を見せつけると、表情が
「なにここ、ちょっと怖い……」
「うん、別の店にしよっか」
男女が店を後にしようとするのを呼び止める。
「えっと、僕たちに何か……?」
「ここに騎士を呼んでもらえないか」
「騎士?」
「私の
アキは深い眠りについたまま、目覚める気配は一向に無い。
「そんな、
「分かりました!僕達騎士を連れてきます!」
「頼む」
怒りを
「クソっ!」
階段へ走る男達の服を掴み、床へ投げつける。
「ぐわっ!」
「ぐはっ!」
「な、なんて馬鹿力だよ、魔力は封じた
「それよりあの酒飲んでなんで眠らねえんだ……!」
「お前達の悪行もここまでだ、騎士が来るまで大人しくしていろ」
「くっ、お前をここで殺せばバレねえ!」
腰の剣を掴んだ男の
男は机や椅子を巻き込みながら吹き飛び、壁に
「ひ、
周囲から放たれる炎や雷の弾丸を刀で切り裂き、飛来する鋭い岩の
「ば、バケモンが……」
「お前達の様な者よりはマシだ」
刀を収めていると扉の閉会音と共に、多くの階段を下る足音が聞こえてきた。
「全員武器を捨て手を上げろ!」
「こ、これは……」
騎士の方へ歩いて行くと、剣を突き付けられた。
「止まりなさい!」
一応足を止め手を挙げ、
「騎士を呼ぶように頼んだのは私だ」
「……おい」
先頭の騎士は小声で近くにいる女騎士に話を
「……腰の二本差し、背中の大弓、
「そうか、話を聞かせてもらえるかな」
私を
「ああ」
騎士達に店で起きた事、そして薬の事を話す。
「そうですか、それでその薬というのは」
薬入りの小瓶を手渡すと、騎士は蓋を開け手で
「これは……、これより店内の調査を行う、二人はこの者達の拘束を」
「はっ!」
「行くぞ!」
店の事は騎士達に任せ、アキを抱え頭をぶつけないように階段を登り外へ出る。
かなりの
「だ、大丈夫ですか?」
先程の二人組が
「私は大丈夫だ、この者も今は深い眠りに落ちているが、怪我などはしていない」
「良かった……、こんな店があるなんて私達初めて知りました」
「我々も今日ここに来たばかりでな、もう少し
長椅子にアキを寝かせようと考えたが、
店の騎士を待ちながら二人組と話していると、アキの瞼がゆっくりと開かれた。
「ここは……」
「目が覚めたか、身体に違和感はあるか?」
「頭が、痛い……」
「頭か」
頭に手を乗せてやると、アキは両手で私の手を
普段であればこの場から
騎士の一団が縄で繋がれた男達と、沢山の小瓶が入った木箱を持ち外へ出てきた。
「
「はい」
「ありがとうございました」
長椅子から立ち上がり、アキを再び抱え上げる。
「騎士を呼んでくれて助かった」
「いえ、当然の事をしたまでですよ」
「彼女さんをゆっくり休ませて上げてくださいね」
「ああ、二人も今日は出店で食事を
「あはは、そうします……」
二人と分かれた後、宿で二人部屋を取りアキを
「どう説明したものか……」
今日の事を教えればアキは確実に殺しに行くだろう、
たとえ外であったとしても
睡眠に入って
アキは足元の布団をめくると、中へ
「
「どこで寝ようが私の自由だ」
確かに何処で寝るかなど制限するつもりは無いが、寝る場所が限られた馬車旅ならまだしも、室温が一定に
「あの店で肉を食べてからの記憶が無い、何があったのか説明しろ」
はっきりと伝えるべきか、
ここはしっかりと伝え、
「あの店で提供された食事には薬が
「…………」
「それは
アキの体温が
「
「……
「一人残らず
「生きているのか――?」
アキは目を見開きなぜ殺さなかったという視線をぶつけてくる。
「
「…………」
アキは無言で私の背中に腕を回し身体を寄せて来る。
「貴様はなぜ
「昔からの体質でな、どういうわけかああいった
それも
知ったから何が変わるという訳では無いが。
「やはり貴様は人間ではないな」
「何を言う、私は人間だ」
「いいや、お前は他の人間とは違う……」
アキは腕の力を強め、
「今だってこうして押し
「なぜ潰そうとする」
「ふっ、我を
アキはかつて人と共に暮らしていた、こうして共に眠ろうとするのは私に彼女を重ねたからなのか、人の
理由は分からない、
「……なんで髪を
「そうしたくなった」
――
翌朝、許可証を貰うべく
『
「役場は人が
『ふん、無駄な時間だ』
小さな
『我は寝るぞ』
「そうか」
――
「リュウガンジ様、三番受付にどうぞ」
眠ったアキを抱え、名前を呼ばれた真ん中の受付に向かい椅子に座る。
「おはようございます、本日はどういったご
「聖国への通行証が欲しい」
「通行証ですね、何か
「これならば持っているが……」
腰から連盟具を外し机の上に置く。
「冒険者認可証ですね、お
受付は連盟具を持ち裏側へと下がっていく。
「確認ができました、こちらお返しします」
「ではこちらの
「分かった」
街で連盟に加入しておいて正解だったようだ、ミーアには感謝しなければ。
紙への記入を終え、発行料を支払い、
役場を後にし荷台の元へ向かっている途中、悪意の込められた視線が幾つも向けられ始めた。
昨日の今日だ、潰した店の関係者だろう。
『
「ああ」
まだ残っている勢力がいるのならば、いっそここで潰してしまうのが街の為か。
路地へ入り人目の届かない
「分かっていると思うが」
『殺さなければ良いのだろう』
複数の足音が聞こえ、振り返ると武器を持った男達が現れ小道を
「お前等、よくもウチの店を潰してくれやがったな」
「ならばどうする」
「決まってんだろ、お前らには
後ろにいる男達が取り
「おい女、俺の
「
「気が変わった、てめえは家無し共の
動きは遅く訓練もされていない、素手で十分だ。
――
街を出て再び国を隔てる門の元までやってきた。
「よし、通っていいぞ」
「分かっていると思うがくれぐれも問題を起こさないように」
「ああ」
門の下を通り国境の線を越えると、
「通行証を」
全身を確かめる様に見てくる白鎧に通行証を手渡す。
「……馬は居ないのか」
「居ない、引くのは私だ」
「ここから
声音は
「問題ない」
「そうか、ならば先は進め」
持ち手を掴み直し、門へぶつけないようゆっくりと走り出す。
「彼の果てに
『ふん、我ら
「私を妖に含めるな」