武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

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入団試験

 聖騎士団所属採用担当者(せいきしだんしょぞくさいようたんとうかん)の男は悩んでいた。

 

「いくらなんでも無茶じゃねえか……?」

 

 先程部下(さきほどぶか)から(わた)された紹介状(しょうかいじょう)の内容に対してだ。

 

「でも考えもなしに動く人じゃないしな」

 

「どうしますか?」

 

 部下の聖騎士が()いかけると、少し悩んだ後に男は考えを放棄(ほうき)した。

 

「訓練場に案内してくれ、入団試験に追加する」

 

「了解しました」

 

 執務室(しつむしつ)から足早に出ていく部下を見送ってから椅子に深く身体を(あず)け考える、これはあくまで聖人様が決めた事ではあって何があっても自分の責任ではないと。

 

「はあ、仕事するか……」

 

 男は採用担当者としての帽子(ぼうし)を被り、入団を目指した者達が(つど)う場へと向かった。

 

 採用担当者が聖騎士団支部内の訓練場(くんれんじょう)設置(せっち)された台に(のぼ)ると、戦意に(あふ)れた入団希望者の視線(しせん)一斉(いっせい)に集まる。

 

 意識が向いたことを確認し、拡声(かくせい)の魔術を起動(きどう)し訓練場全体に聞こえるようにする。

 

「これより入団試験を()(おこな)う、まずは魔力検査(まりょくけんさ)だ、あれを持ってきてくれ」

 

 台から指示を飛ばすと訓練場内に青い結晶が運び込まれ、入団希望者の中心に設置される。

 

(なお)、魔力量が直接採用に(つな)がる訳では無いと、前もって伝えておく」

 

 その言葉に魔力量の自信が無かった希望者達(きぼうしゃたち)の一部が、安堵(あんど)溜息(ためいき)を着き表情が(わず)かに明るくなる。

 

(長剣二振りを腰に差した長弓使い、あいつか)

 

 腕を組み変わらぬ表情(ひょうじょう)で真っすぐ見つめてくる(ひとみ)に、思わず視線を()らしてしまう。

 

(俺とは合わなそうだな……)

 

「誰からでもいい、全員の測定(そくてい)を終えたら次へ進む」

 

 我先(われさき)にと測定用の石に()れられ、自然(しぜん)(れつ)が出来始めた所で男は台から()りた。

 

「せんぱーい、入団候補者達はどんなかんじすかー?」

 

 気の抜けた女の声に苛立(いらだ)ちを覚えながら視線を向けると、鎧を改造(かいぞう)した女騎士がダルそうに歩いてきていた。

 

「おい遅刻(ちこく)だぞ」

 

「はは、さーせん、道が混んでて」

 

 軽い口調をした女騎士は悪びれた様子もなく言い訳を並べる。

 

(なんでこいつが聖騎士になれてんだよ、ったく)

 

 溜息(ためいき)を吐きながら石の方を見ると、丁度紹介状の男が石に触れている所だった。

 

(書いてあった通り魔力無しか――、国外から来たらしいし体力はあるんだろうが)

 

 困惑(こんわく)してこっちを見ている騎士に(うな)づいて次の測定(そくてい)に移らせる。

 

「そういえば飛び入り参加が来たって聞きましたけどどれっすか?」

 

 仕事に来るのは遅れる(くせ)に情報を知るのは早い事に(あき)れながら、集団から離れて行く男を指さす。

 

「あいつだよ」

 

「なんだ魔力なしかー、がっかりっすね」

 

 女騎士は一瞬(いっしゅん)興味(きょうみ)を失ったように歩き出そうとするが、男が振り返り壁に背中を預けた所で立ち止まる。

 

「あれ?顔結構好みかも」

 

(こいつほんとなんなんだ)

 

 担当者(たんとうしゃ)(あきら)めにも似た感情で放って置くことに決め、石の方を見ると最後列の一人が検査を丁度終えていた。

 

「これで全員か」

 

「はい、次へ移りますか?」

 

「そうだな、石を片付けて訓練用武器を持ってきてくれ」

 

「分かりました」

 

 真面目な騎士らしい騎士に(いや)しすら感じながら、担当者は台に再び(のぼ)拡声(かくせい)の魔術を起動する。

 

「次に戦闘の審査(しんさ)を行う、訓練用の装備に変えた後、現役の聖騎士と一対一の模擬戦(もぎせん)を行う」

 

 魔力測定用の石が退()かされ、その位置に訓練用(くんれんよう)の木製武器や盾が大量に置かれた箱が設置された。

 

「こちらも先程同様に結果が直接採用に(つな)がる訳では無い、それを良く考えるように」

 

 訓練用の装備に切り替えた騎士達がそれぞれの持ち場に着くのを見てから台を降りる。

 

「先輩!あの人の相手はウチがやっていいっすか!いいっすよね!」

 

「あ、おい!」

 

 返事も聞かずに飛び出した後輩に舌打(したう)ちしながら、各地で始まった騎士と入団希望者の戦闘に目を向けた。

 

 ————

 

鞘付(さやつ)きの木刀、この国に来た先人(せんじん)が訓練用に用意したのか」

 

 アルマは鞘付き木刀を掴むと、壁際(かべぎわ)に二振りの刀と弓矢を立て()けておく。

 

「私の刀より少し短いか」

 

 木刀を(さや)からゆっくりと引き抜き、腕を伸ばし切っ先(きっさき)が届く限界を確かめていいたが、近づいて来ている足音に動きを止めた。

 

「ねえきみきみ!」

 

 アルマが声の方へ視線だけを向けると、手を後ろに組む女騎士が(わず)かに身を屈ませ下から(のぞ)き込んでいた。

 

「戦闘の審査(しんさ)ウチが相手してあげよっか!」

 

審査員(しんさいん)はあそこにいる五人ではないのか?」

 

「でもきみ魔力無いんでしょ?ウチが良い感じに立ち回ってあげるよ」

 

 見下(みくだ)すような視線に、聖騎士の中にもそのような者もいるのかと考えながら、木刀を(さや)(おさ)める。

 

「その代わり合格したらウチの付き人ね」

 

「……人を思いやっての言葉だと受け取ろう、だが手加減(てかげん)などは不要(ふよう)だ」

 

 木刀を腰に差しアルマは歩き出す。

 

 そして近くに人の居ないことを確認して女騎士へ()り返り、(さや)を掴む。

 

「私の目的の為にも全力で来てほしい」

 

「ふーん、怪我(けが)しても責任(せきにん)取らないよ」

 

 それを挑発(ちょうはつ)と受け取ったのか、笑顔(えがお)を固めたままやや(ひく)くなった声音(こわね)忠告(ちゅうこく)をする。

 

「構わない」

 

「いい度胸(どきょう)してるじゃん」

 

 女騎士は細めの木剣を掴むとアルマの向かいに立ち、青く(かがや)く石を取り出す。

 

「これが地面に着いたら始まりでいい?」

 

「ああ」

 

 石を下から放り投げると、日光(にっこう)反射(はんしゃ)(かがや)きながら地面に着地した。

 

(速攻(そっこう)降伏(こうふく)させる!)

 

 女騎士は複数の魔法陣を展開(てんかい)し炎の弾丸(だんがん)()()らし、さらには自身に全力の身体強化を(ほどこ)す。

 

 その場から駆け出し一瞬で最高速に達した女騎士が、炎の雨と(ほとん)ど同時にアルマの目前へ到達(とうたつ)する。

 

 そしてアルマの胸を目掛け木剣を突き出そうと構えた瞬間(しゅんかん)、いつの間にか木刀の切っ先が女騎士の眼前(がんぜん)に置かれていた。

 

「――ぐっ!」

 

 女騎士は地面を()みつけ無理矢理停止して直撃(ちょくげき)を回避し、炎の雨に隙を埋める事を(まか)せ後方に跳んで距離を取る。

 

 アルマは木刀を十字に振るうことで雨の第一陣(だいいちじん)を打ち消し、その場から高く飛び上がり第二陣(だいにじん)回避(かいひ)する。

 

 そして着地すると、木刀を再び(さや)(おさ)めた。

 

(なに今の、魔力ない(くせ)に早すぎ!)

 

 女騎士は歯噛(はが)みしながら、(すず)やかに見据(みすえ)てくるアルマを(にら)みつける。

 

(言うだけあってこの程度(ていど)はやはり()けられるか、ならばこそ)

 

 アルマは(わず)かに息の(あら)くなった女騎士に呼吸(こきゅう)に、自身の呼吸を合わせていく。

 

(ここで彼女を打ち倒す事で、入団における評価が上がるはずだ)

 

 そして、息を吸い込み始めた瞬間に足に力を入れ(わず)かに体勢(たいせい)を下げる。

 

(来る……!)

 

 女騎士は(そな)えていた魔術を複数発動させるが、アルマは飛び出す事なく更に深くしゃがみ込み、一呼吸(ひとこきゅう)遅らせて走り出した。

 

 魔法陣から放たれた炎はアルマに直撃することなく、その全てが(そば)を通り過ぎていく。

 

(なんで当たらないの!)

 

 女騎士騎士は(ひど)く混乱しながらも新たに魔術を起動しようとするが、思う様に魔力を(あやつ)る事が出来ず(あせ)り出す。

 

(――息が!)

 

 呼吸を忘れていた事に気付き反射的に空気を取り込もうとするが、いつの間にか目の前に(せま)っていたアルマに身体を(つか)まれてしまう。

 

 そして抵抗(ていこう)する間も無いまま、地面に投げ倒されてしまった。

 

 背中に衝撃(しょうげき)が走り、(はい)空気(くうき)が押し出された。

 

「かはっ!」

 

 起き上がろうにも、どうしてか指の一本すら動かすことが出来ない。

 

「ここまでだ」

 

「げほっ!ごほっ!」

 

 アルマは倒れた女騎士の(そば)片膝(かあひざ)を付くと、首の下に腕を回し上体を起こさせる。

 

「ゆっくりと呼吸をしろ」

 

「すぅ……はあ……」

 

 何度か呼吸を()り返し女騎士の顔色が良くなり始めた所で、アルマは肩に()れていた手を(はな)し転がっている木剣を拾い上げ、木刀と一緒に訓練用装備の置かれた箱に入れる。

 

訓練(くんれん)されている相手だからといって少しやり過ぎたか)

 

 未だ座ったままの女騎士の前まで歩いて行き、手を伸ばす。

 

「立てるか?」

 

「――くっ!」

 

 女騎士は助けを拒否(きょひ)(しめ)そうと腕を振るうが、アルマはそれをあっさりと(つか)み、引っ張って立ち上がらせる。

 

「っ!」

 

「私はこの方面にあまり(くわ)しくは無いが、複数の魔術を(あつか)い逃げ道を(ふさ)ぐような戦術は見事だった」

 

 それだけを言い残しその場から離れて行ったアルマの背中を、逃げ場の感情に支配(しはい)された女騎士は見つめていた。

 

「なんなんだよそれ……」

 

 ———

 

「なんだありゃ、魔力持った人間より早えじゃねえか」

 

 一瞬とも言える戦いを遠目(とおめ)から(なが)めていた採用担当官は衝撃(しょうげき)を受けていた。

 

 調子に乗っていた後輩(こうはい)が痛い目を見てちょっとすっきりした半面(はんめん)、実力だけは(たし)かだった奴が大人と子供なんて言葉すら甘い差を見せつけられている様子は、一種の恐怖(きょうふ)を覚えてしまう程だった。

 

(間違いなくここじゃ持て余す実力だ、さっさと聖都に配置(はいち)されそうだな……)

 

 一方派手に負かされた後輩と言えば、なんとも言えないような表情でアルマを見つめ続けていた。

 

(ありゃ折れたかな、まあいい薬か)

 

 その他の戦闘審査(せんとうしんさ)も順調に終わり、次の試験を行う為に人数分の机と椅子が用意された室内に場所を移動する。

 

「次は筆記審査(ひっきしんさ)を行う」

 

 部屋中から嫌がるような声とため息が聞こえてくる。

 

「安心しろ、計算(けいさん)をしろって言ってるんじゃない」

 

 他の騎士に様々な問題が書かれた紙を配らせる。

 

「全員に行き渡ったな、今配られた紙には様々な状況が載っている、それを解決出来るような(さく)を記入していけ」

 

 状況対応能力を見極(みきわ)める為の審査だが、もちろん完璧な回答を求めている訳では無く、現場で配置する場合の参考にする程度の物だ。

 

(あれは間違いなく前線(ぜんせん)(あば)れさせた方が良いが、現場で(さく)()れる人材(じんざい)なら最高だ)

 

 先程見た後輩に対しての立ち()()いや戦い方からして、間違いなく一定以上の教育を受けている側の人間だろう。

 

「制限時間は砂時計が落ちきるまでだ、言っておくが思い()かばないからって空白なら容赦(ようしゃ)なく落とすぞ」

 

 採用担当官は白い砂が入っている大型の砂時計を(つか)み、ひっくり返した。

 

「開始」

 

 ———

 

「採用結果は明日に外の看板へ張り出す、外へ案内しろ」

 

「了解」

 

 入団希望者達が部下に連れて行かれ外へ出ていく。

 

(さて、どんな作戦が書いてある)

 

 別で分けていた男の用紙を手に取り内容に目を通すと、担当官は思わず目を見開いた。

 

「おいまじかよ……」

 

 用紙の解答欄(かいとうらん)には問題への策がびっしりと書き()()まれていた。

 

 内容は大きな被害を出してでも短期間で解決する策、味方の被害を最小限に(おさ)えるが予算が(ふく)れ上がるような策、時間は()かるが敵味方の双方(そうほう)一滴(いってき)の血を流さない為の策だ。

 

 無論(むろん)穴が無い訳では無いが、短時間でこれだけの数の策を立案(りつあん)できる人間はそれだけでも十分な価値がある。

 

「剣だけじゃなく軍略(ぐんりゃく)も学んでんのか?でもそんなこと(まで)すんのは向こうじゃ貴族だけだったよな確か……」

 

 取り()えずは上官に報告するとして、他の入団希望者の回答に目を通し始めるのだった。

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