聖都のとある公園。
「そっち行ったぞー!」
「陣地を守れー!」
ここには活気ある子どもたちが集まり、成人男性の頭程ある球を使い足で相手の陣地へ蹴り込むという遊びが流行っていた。
「よーしくらえ!」
「あ!入っちゃった!」
「何やってんだよー」
灯りを持った大きな石像が目立つ場所に設置されたこの公園は、日没時でも昼のように遊べると子供達には人気も高く、聖都内において最も子供が集まる場所であった。
「コォレ!主神様の近くで球蹴りするなといつも言っておるじゃろ!」
耳の尖った小柄な老人が杖を天に掲げて怒鳴る。
「げっ、ゴブじじいだ……」
「なんで公園なのに遊んじゃだめなんだよー!」
子供達は理不尽だと反発の声を上げては、それぞれの遊びに戻っていく。
「主神様の護り光が消えたらどうする!儂らを護ってくれておるのじゃぞ!」
「主神様なんて本当にいるのかよー!」
「ゴブじじいは守られるんじゃなくて退治される側だろ!」
「誰がゴブリンじゃあああ!」
『護り光』、それは聖国における主教の象徴であり、闇を覆い隠す光であった。
「ギャー!ゴブじじいがキレたー!」
「今だ!隙あり!」
その時、一人の少年が蹴った球が相手の陣地を飛び越し、石像が持っていた灯りに直撃してしまった。
「あ、どこ蹴ってんだよー!」
衝撃によって灯りに刻まれてい魔法陣が歪み、公園を照らしていた光が消え去ってしまった。
「なんてことじゃ……!」
日が完全に沈み、公園内に隠されていた闇が現れた。
その闇を始点に、小さな闇がぽつりぽつりと周囲に広がっていく。
そして、闇から一匹の小さな魚が飛び出し、近くを転がっていた球に突き刺り闇の中へ消えていった。
「――っ!公園から出るんじゃあ!」
老人が杖を前方に構え皺枯れた声を張り上げたその瞬間、無数の黒い魚が闇から飛び出し子供達へと襲いかかった。
しかし突如現れた雷撃に次々と撃ち抜かれ、地面に落下しては赤と黒の光を放って消滅していく。
「走れ!走らんかア!」
老人は子供達へ逃げるように檄を飛ばしながら、雷雲を纏い飛び交う魚へ的確に雷撃を放っていく。
しかしいくら直撃させようが魚の数は増していき、逃げ惑う背中に突き刺さっては闇の中へと連れ去っていく。
「――かああああっ!」
老人は死力を尽くして体内に残る魔力を無理矢理に引きずりだし、大きな雷球を発生させ周囲を閃光で公園を照らす。
明滅する光により地面にある闇が次々と形を崩し、さらに雷球から伸びた雷が魚たちを黒焦げにしていく。
「……グウッ!」
(若い頃であればこの程度、造作もないというものを……!)
滝のような汗を流し寿命を削りながら、光量を維持するために魔力を注ぎ込んでいく。
しかし、地面を這いずり回り雷の雨を回避した一匹が跳ね上がり老人の腹部を貫いた。
「ぐああっ!?」
激痛で魔力の供給が止まったことにより、雷球が消失し公園に再び闇が戻ってしまう。
「ぐっ……!」
穴の開けられた腹部を手で抑えながら闇を睨みつける、そこから炎のように赤い光が現れる。
「ハァ……ハァ……!」
血を吐きながらも杖を地面に突き立ち上がろうとするが、不規則に揺れだした赤い光に目線を奪われてしまう。
その赤は淡い光を放ちながら、ゆっくりとその形を変えていく。
「こ、これ以上の好き勝手は――!」
老人が血が溢れ出すのも構わず地面に杖を突き立ち上がろうとすると、赤は波動のような光を周囲に放った。
そして揺らめく赤は地面にゆっくりと足を付けると、髪と耳の長い少年へと形を変えた。
「な……」
その少年はゆっくりと瞼を開き、光に満ちた瞳を真っ直ぐ老人へと向ける。
「な、なぜ――」
『おじいちゃん』
その容姿と声に目を見開き涙が溢れ出す、力の抜けた老人は杖を手放してしまう。
木製の杖が地面に転がり乾いた音を立てる。
『おじいちゃん』
足元に転がった杖を踏み折りながら歩を進めた少年は、短い言葉を繰り返し老人の目の前に立つ。
「卑劣な、魔物め……」
絶望と希望の狭間に揺れた瞳、そして震えた手を伸ばして少年の頬に触れた。
その瞬間、地面から巨大な影が飛び出し老人と少年を丸ごと飲み込んでしまった。
巨大な影の口から光を放つ少年だけが現れる、その頭には細い管のような物が繋がっていた。
影が再び闇へと潜っていくと、少年の身体がどろり溶けて炎のような光に戻りその場を揺れ周り始めた。
再び闇から飛び出した小型の魚群が光に目掛けて突撃し、それを減らすことで闇の領土を広げ始めた。