武士の子孫、異世界を制す   作:fumiy

54 / 55
疑似餌

「新手だ!注意しろ!」

 

 部隊長が声を荒げると、共鳴(きょうめい)するように赤が()らめき、(あわ)い光と共に暗い妖気を放った。

 

「魔術の用意をしろ!一斉に攻撃するぞ!」

 

 今までよりもずっと濃い妖気に警戒(けいかい)を強めながら、アルマは刀の(つか)をしっかりと握りしめる。

 

「お、親父……!」

 

「よせ!近づくな!」

 

 一人の聖騎士が炎のような赤い光にゆっくりと歩き始めるが、周囲の騎士に抑えられその足を止める。

 

 しかし光はゆっくりと揺れているだけであり、とても人の姿には見えない。

 

 再び淡い光を放った(かたまり)は、ゆっくりとだが形を変え始める。

 

「アルマくん……?」

 

 フィーアの声も届かず、姿を変ていくその様子からアルマは目を離せずにいた。

 

 瞳の中で光の塊はゆっくりと形を変え、それはやがて長い髪の女性の姿になった。

 

 アルマは目を見開く、それと共に手に握る血液の刀が(ゆが)み、周囲の空気が震えていく。

 

「母上……」

 

 肩を揺らしながら、ゆっくりと光の方へ近づいていく。

 

「アルマくん近づいちゃダメ――」

 

 フィーアは止めようと()け寄ろうとするが、近付こうとする程に暗い何かに身体が震え、足が動かなくなってしまう。

 

「なに――これ」

 

 誰も近づくことが出来ない間に、アルマが赤い光に()れる。

 

 その直後、地面から巨大な影が出現し、女性ごとアルマを飲み込んでしまった。

 

「アルマくん!」

 

 フィーアの悲痛(ひつう)(さけ)びが響き渡る。

 

 巨大な影は()らったことをまるで誇示(こじ)するかのように、その場で(とど)まる。

 

「なんてことだ……」

 

 そして、圧倒的な武力による安心感を失った事により、絶望的(ぜつぼうてき)な空気が周囲を支配(しはい)し始める。

 

(ひる)むな!魔力を()り上げ続けろ!」

 

 部隊長は鼓舞(こぶ)するように声を張り上げる。

 

 巨大な影からさらに闇が点々と広がっていき、そこから魚群(ぎょぐん)現れ騎士達に襲い掛かり始める。

 

「今だ!魔術を放て!」

 

「この――!『ブレイズスフィア』!」

 

 部隊長の号令により放たれた雨のような魔術、そして灼熱(しゃくねつ)炎球(えんきゅう)魚群(ぎょぐん)を飲み込み、敵の数を減らしていく。

 

 しかし、炎のような塊がさらにいくつも現れ、(ことごと)くが(あわ)い光の波動(はどう)を放った。

 

「あ――」

 

「か、母さん……」

 

 光を浴びた者は皆その足を止め、魔術を解き、剣を落としてしまった。

 

「正気に戻れお前達!」

 

 部隊長の声も届かず()れる光に(みちび)かれていく聖騎士達、そしてそれを狙いまたたく間に数を増やした黒い魚群(ぎょぐん)が飛び掛かる。

 

「クソ!」

 

 しかし、その鋭い魚群が彼らに到達(とうたつ)することは無かった。

 

 血の球体や巨大な影から飛び出した幾千(いくせん)もの鋭い赤が、魚群の|総(すべ)てを刺し貫き消滅させた。

 

「な、なんだ、この(とげ)は……!」

 

 明確に人間だけを避けて伸びた赤い棘がゆっくりと(くず)れ始め、先の方から(きり)のように消えていく。

 

 そして、元は黒い影であった赤い塊までもが霧のように消えると、血刀(けっとう)を失った代わりに炎のような光を抱えるアルマが現れた。

 

「アルマくん!」

 

「待たせて済まない」

 

 無表情のアルマは抱えていた光を上に放り投げると、その場から()き消える。

 

 そして、周りを囲む赤い光の全てが(またた)く間に両断され、地面へと落下していく光が微塵(みじん)に切り裂かれた。

 

 再び姿を現したアルマが手に(にぎ)る妖刀に、辺りを(ただ)う妖力が集まり吸い込まれていく。

 

「妖気が消えた、退()いたか――」

 

 力強く刀を振るい空気を切り裂くと、心を(しず)めるようにゆっくりと(さや)へと収める。

 

「だ、大丈夫……?」

 

 フィーアが恐る恐る肩に触れると、ゆっくりとアルマが振り返った。

 

「心配をかけたな」

 

 先程までの冷たい眼差(まなざ)しは消え、いつもの無表情には見えるがどこか柔らかなものへ戻っていた。

 

「ホントだよまったく、私を守るって約束なのに君が食べられちゃってどうするの」

 

 小言をぶつけながらも、どこか柔らかい表情で見るフィーア。

 

 光に囚われていた聖騎士達は次第に正常な意識を取り戻すと、その場に立ち尽くしたり座り込んだりとそれぞれの反応を見せ始める。

 

「皆そのままで聞いてくれ」

 

 部隊長は聖騎士達を気遣(きづか)うような声を掛けてから、次の行動を伝えていく。

 

休憩(きゅうけい)の後に次の地点へと向かう予定だが、帰還したいものは挙手(きょしゅ)してくれ」

 

 光によって(まど)わされていた者の全てが手を挙げ、帰還を望んでいた。

 

「そうか……」

 

 手を上げなかったものはアルマとフィーア、そして部隊長と数人の聖騎士達だけであり、(およ)そ任務続行は不可能な状態となっている。

 

「一度支部へと帰還し部隊の再編成を行う、手を挙げた者は宿舎にて待機、挙げなかったものは後ほど集まってくれ」

 

 騎士団支部へ歩き出した聖騎士達を一瞥(いちべつ)してから、アルマは刀の(つか)に腕を乗せ最後尾を歩き出した。

 

「皆折れちゃったか」

 

「彼等も私と同じなにかを見たのだろう、仕方のないことだ」

 

「同じ?」

 

 アルマは思い返すように(まぶた)を閉じると、拳を握り締める。

 

「光を浴びた時、私はあの塊に死に別れた母を見た」

 

「――!」

 

「恐らくあの光は浴びた者の精神に作用し、塊を特定の相手に見せかける性質がある、正に獲物を(おび)き寄せ喰らう為の疑似餌(ぎじえ)だったのだろう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。