目覚めは部屋に近づく者の足音によって
その主は扉前で立ち止まるが叩く音は鳴らさず、代わりに軽い物が滑るような音が近づいた。
そして足音はまた遠ざかっていってしまった。
窓からは未だに人工的な光が差し込んではいるが、遠く見える空は
布団の中では未だ一定
起こさないようゆっくりとアキを身体から下ろして寝台から抜け出すと、扉の直ぐ側に紙が一枚落ちているのが見えた。
拾い上げ裏返すと、そこには昨夜の任務参加への感謝、そして鎧の受け渡しの場所と時刻について記されていた。
素振りに向かう為に防具を身に着け刀二振りを腰に差し、扉に手をかけようとした所で振り返る。
アキを起こし連れて行くべきか、しかし今のところは特に悪夢に
「位置を知らせておけば問題はないだろう」
抑えていた妖気を
これならば離れていようともアキはこちらを見つける事が出来るだろう。
いずれ彼女自身で乗り越えなければならない事だが、私と共にある間は寄りかからせるのも良いか。
「長く生きようと忘れる事は叶わずか……」
歩きながら改めて建物の中を観察していると、闇を作らないよう明かりの位置が工夫されていることが分かる。
それでも影というものはどうしても発生してしまうが、奴等が現れるにはある程度の規模が必要なのだろう。
到着した訓練場の中では、数人の聖騎士達が剣や魔術など様々な
彼らとは離れた場所へ歩き、刀を引き抜いて型の確認を行った後に素振りを始める。
「ふっ……!」
上から下へ、左から右へ、上下左右様々な方向からでも速度が
そして刀をゆっくりと収め、前に踏み込んで一気に抜き放つ。
「ふう……」
息を吐きながら刀身を見つめ、そして刀を鞘を収める。
『白』を手にしてから
今ではそれも無くなり、折れた愛刀同然に扱えるようになった。
両刃の刀であるという点はあまり活かせてはいないが、いずれそれが活用できるような場面が来ることだろう。
訓練場の端にある木製武器が並んだ場所に向かい槍を手に取り戻ると、フィーアが訓練場の中へ入ってくる様子が見えた。
その様子からして何かを探しているようだが、彼女はこちらを見つけると笑顔を浮かべ駆け寄ってくる。
「アルマくんおはよ―!」
「おはよう」
朝から
「そちらも朝の
「違うけど?アルマくん探しに来ただけだよ」
「そうか、何か用でもあるのか」
フィーアが探しに来る理由といえば昨夜の任務が思い浮かぶ、その後の編成や日時が決まったのだろうか
。
可能ならば今日の夜また出たいところだが、それでは他の聖騎士達の負担が大き過ぎるか。
「もう、分かってる癖にい――」
飛び込んで来るフィーアを身体を横にずらす事で
「なんで
「私はまだ鍛錬の途中だ、くっつかれては動き辛くなる」
「えー……、そういえばアルマくんって槍も使えるの?」
「ああ」
「剣も槍も弓も使えるなんて凄いね、万能戦士じゃん」
「まだ理想とは程遠いがな」
持ち運びの観点から今は刀と弓に絞っているが、故郷では槍や他の武器種の鍛錬も行なっていた。
初代当主が書に残した『総ての武を成してこその武士』という言葉。
武士を
「夜間任務についての話は聞いているか」
「なんにも、まだ夜明けだし任務が
「そうか……」
組織という形式上仕方ないが、こういった空白の時間はもどかしく感じてしまう。
「木々などが密集した場所はこの辺りには無いのか?」
「元々あったみたいだけど、アイツらが出始めた頃に
やはり中級妖とは思えない程の影響力だ。
「木材が必要となる際はどうしているんだ?」
「そこら辺は他国に輸入かなー。森を切り開いた所は
「ふむ」
「魔物避けに設置した
妖から身を守るための手段が国の助けにもなっているということか。
ただやられているだけで終わらない、人の強さというものを感じる。
「ねえ後で一緒にご飯食べ――」
「騎士レースアーヴィイイイア!」
訓練場の出入り口から、歌うように名前を叫ぶ男が現れた。
「――はあ、朝からしんど……」
心底嫌そうな表情をしたフィーアが、ため息を吐きながら私の背中側へ隠れる。
「レースアーヴィイイイア、というのはフィーアの家名か」
「レスアヴィラね、真顔で真似しないでくれない?」
男はこちらに視線を向けると、金色の長髪を
「親しいのか?」
男は髪の位置が気に入らないのか何度も前髪をかき上げ、後ろ髪を両手で
その度に
「いや親しくないし、一回部隊で一緒になってからなんか
フィーアの声は彼が近づく程に小さくなっていく。
「おはようレスアヴィーラ君、朝からこうして出会えるなんて運命を感じちゃうね」
その立ち振る舞いや
「おはようございますゴルドニック隊長、いやー運命とかよく分かんないっすね」
私と話している時とは
「良ければ朝食を一緒にどうかな、僕が運命についてじっくりと教えてあげるよ」
「いえ大丈夫っす、今あんまりお腹空いてないんで」
先程は私の事を食事に
「ふっ、相変わらずつれないね」
ゴルドニックは肩をすくめて笑う。
「でもそんな君だからこそ僕は
「それは知らないっすけど……」
なぜかフィーアがこちらの顔を見つめてる、するとゴルドニックは
「見たことのない顔だね、君の名前は」
「アルマ=リュンガンジ」
「君がそうか。話には聞いているよ、何でもアヴァンス王国からわざわざ来たそうじゃないか」
ゴルドニックの瞳がこちらを値踏みするかのように移動する。
「それで、レスアヴィラ君とはどういう関係なんだい?」
「関係?彼女とは知り合いだが」
「ふーん、知り合いねえ。僕は一緒に任務へ行ったし二人で食事もしたけどね!」
任務ならば私も昨日向かっているが、食事を共にする仲ならばなぜこうも居心地が悪そうなのだろうか。
感情を確かめようとフィーアの顔を見ると、慌てたように手を振り首を横に振る。
「いや二人っきりじゃないっすよね!?部隊の親交を深める為って他の人も居たじゃないっすか!」
「……他の顔なんて忘れてしまったよ僕は」
「いや
フィーアは手を掴みながら
「アルマくん……だと?」
ゴルドニックが
「どういう事だ……?どうして君は親しそうに名前を呼ばれている?僕は!家名呼びだと言うのに!」
「上の立場だからだろう」
「うるさい!そもそもどうして君は手を握られている!入団したばかりの君が!」
「私に多少なりとも気を許しているからだろう」
「上官である僕が気を許されていないって言うのか!ゴルドニック家次期当主であり隊長である僕が!」
「信頼とは
名家を
「いや、積み重ねた時間はどう考えても僕の方が長いだろう……?そうだろう?ふぃ、フィーアくん」
「勝手に呼ばないでください、あと話した時間は
ゴルドニックを見るフィーアの視線は冷たく、表情も消え去っていた。
「なん……だって……?」
数日前に入団したばかりの私と比べてすら短いとは、
「あと、私達婚約してるんでもう食事とか誘ってこないで欲しいっす」
「フィーア?なにを――」
「――こ、こ、こここ婚約!?名家の生まれである僕ではなくここに入って数日の男と!?」
彼の表情は正に絶望そのものと言うべきか、顔色を青白くさせてしまった。
「い、
「愛に時間なんて関係ないっす」
「僕ならば君の生活を楽にする事が出来る、国外から来た何処の何者かも知らない者よりも確実にね!」
「ごめんなさい、無理っす」
「……そうか」
ゴルドニックは深いため息を吐くと、空間から刺突に特化した太い槍を出現させる。
そしてこちらを真っ直ぐ
「アルマ=リュウガンジ、君に模擬戦を申し込む」