まだ日の
「……」
身体は弱く無かったそうだが、ある日を
当然医師を呼んで
その翌日、母上は布団の中で息を引き取った。
ある日、次兄のジリアンが私に言った。
『母が死んだのはお前のせいだ』と、『お前を産んだせいで母は身体を壊した』のだと。
幼い
周囲に母が体調を崩した日の事を聞いて周り分かった事は一つ、それは私を
それを確証付ける何があるわけでは無い、ただそれを否定するような材料も無かった。
分かる事は、私は他の者達とは違う何かがあると言うことだ。
普通の人間よりも圧倒的に身体が強く、そして魔力が無かった。
「行って参ります」
墓場を後にして屋敷に戻ると、アルスが部屋の前で控えていた。
「アルマ様、馬車が用意できました」
「そうか」
部屋に入り荷物を背負ってからアルスの後に続くと、馬車を背にして立つ長兄のガイウスが見えた。
「兄上、どうしてここに」
「父上に話を聞いた」
「!」
「
兄上はあまり表情が変わらない為、知らない者からよく
「必ず成し
「ではな」
「はい、行って参ります!」
屋敷の方へ帰って行く兄上の背に頭を下げ、別れの挨拶をする。
荷物を席に積み、二振りの刀を外して立て
「アニスはまだ寝ているのか?」
辺りを見回すが
「いえ、起きているはずですが……」
アルスも行方は分からないようだ、
「少しの間ここを
「かしこまりました、ですがその前に」
アルスは一瞬の
「それは?」
「はい、その……」
こういったアルスは珍しい、いつもは思った事を真顔で言うような性格なのだが。
「良ければこれを、旅のお
木箱が開かれるとそこには、銀に輝く指輪が収められていた。
「美しいな」
「旅の
不安そうな表情を浮かべるアルスだが、その思いを
「ありがたく受け取らせてもらおう――どうした?」
指輪を取ろうと手を伸ばした所で、箱を引っ込められてしまう。
「私が、私が着けさせていただきます……!」
「そうか」
アルスは緊張の面持ちで左手を取ると、その指輪を人差し指に嵌めてくれた。
「良く大きさが分かったな」
「使用人として当然の事です」
使用人とは指の太さまで知らなければと
「出来ればなにかを返せたら良かったのだが……」
「いえそんな、ご無事で帰って来ていただけることが一番のお返しでございます」
「そうか」
帰ってくるだけで良いとアルスは言ってくれているが、本当に何も返さないのは
「では、行ってくる」
「はい、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
馬車に乗り込むとアルスが扉を閉める、そして馬車がゆっくりと走り出していく。
「待たせて済まない」
どれほど待っていたかは分からないが謝罪をしておく。
「いいえ、
「あれは……」
最後に
「待ってくださあああああああい!」
アニスが
「……
「ええ、いくらでも待ちましょう」
「済まないな」
申し訳なく思いながら、停止した馬車から降りる。
「アルマさまああああ――きゃあっ!わぷっ!」
勢いが余って止まれなかったのか、足を
「大丈夫か」
「あっ、あっ……」
大丈夫そうではあるのだがどうしてか、どうしてかアニスは胸に顔を埋めたまま動かない。
「……」
一時的であれ人との別れは寂しくなるのかもしれない、とはいえ人を待たせているのだからそろそろ離れて欲しい所だが。
「アニス?」
「あ!ごめんなさいごめんなさい!」
追いついたアルスに引き離されていくアニス、その顔は真っ赤に染まっていた。
「まったく、貴女一体どこ行ってたのよ…」
「ごめんって!これ作るのに手間取っちゃって……、てっ、アレ?無い!」
焦って何かを探しているアニスだが、アレというのはもしや先程放り投げていた物のことだろうか。
「これのことか?」
「それです!ありがとうございます!」
アニスは包みを受け取ると大事そうに抱え込む。
「それほどに大事なものなら、次からは落とさぬようにな」
「はい、すみません……」
結局なにかよく分からないままだったが、暗く別れるよりは良いのかもしれない。
「……ちょっとアニス」
「?」
「あー!そうだった!」
「まったく……」
アルスは溜め息を吐いたかと思えば、アルスの背を押しこちらに近づける。
「これ!受け取ってください!」
戻ってきたアルスに渡した包みを手渡される。
「これは」
「握り飯です!頑張って作りました!」
握り飯は初代当主が好んで食していた物だ、彼の
つまりはこれを作っていた為に遅れてしまったということらしい。
「ありがとう、道中で食べさせてもらう」
「はい!」
満面の笑みを浮かべるアニスだが、その眼にはうっすらと涙が見える。
「アルマ様はこれから使命を果たしに行くんですよね」
「ああ」
「アルマ様のお力になれないことは悔しいですけど、私達信じて待ってますから!」
彼女達に妖刀の事については話していない、ただその場に居た門下生達から
屋敷に仕えているだけあり彼女達も魔術や刀を扱う事は出来る、だがこの旅に連れて行くことは出来ない。
「私達二人、旅の
アルスがアニスの隣に並ぶ。
「ああ、行ってくる」
「「行ってらっしゃいませ」!」
二人に見送られながら馬車に乗り込む。
「待たせたな、出してくれ」
ゆっくりと動き出していた馬車に揺られながら旅立つ村に別れを告げる。
恐らく長い旅になるだろう、だが決して折れはしないと心に誓った。
――
「行っちゃったね」
「そうね」
旅立つ主を見送る二人の
「寂しくなるね」
「そうね」
「大丈夫だよね?」
「あの方ならばきっと」
いつかはこのような日が来るのではないかと考え、仕える主から直接刀の
けれど彼の背は未だに遠く、この旅について行こうにも足手まといになることは明らかだった。
「帰るわよ」
「うん」
どちらからともなく手を握り合い、使えるべき主の居ない屋敷への帰路に着く二人。
どこか切ないその背中を、昇る朝日が照らし見守っていた。