夜寝るとき明日を考えないようにして
グルグル同じことをしている
そんな自分がいい加減嫌になった
宇宙統括監視機構殺人係 1
1.
ここは日本の東京。
天へと連なるビル群の中の隙間。
男はネオンや街灯の明かりを避けるように路地裏を走る。
息は上がり、度度後ろを見やる。
自身の背後には暗闇のみが広がっていた。
命だけでも拾う。
それだけを考えて風を切っていた。
追っ手は強大な組織の殺し屋で、組織は元自身のいたところ。
だからこそ、その恐ろしさはわかっていた。
男はつまるところ裏切り者で、現在の雇い主のところへ避難しようとしていた。
まずは姿を隠し、追っ手を撒く。
しかしそれは、空から降った刃に腕を切られたことで、潰える。
男は痛みに耐えるように、その場で蹲る。
身体からは熱が流れ落ちていき、もう逃げられないのか、なんて考えで頭が埋め尽くされた。
眼前には自身の血液色に似た、赤い刀身の刀が地面に刺さっている。
男は這いながらもがくが、頭上から声をかけられた。
「動くな」
それは少女の声だ。
その、前に聞いた信号会話での聞き覚えしかない声に、男は観念したように顔を伏せる。
なぜならば、彼女は組織の中でも有名な殺し屋だったからだ。
少女の殺し屋は、携帯電話(この星の通信機器。折り畳み式で画面と入力キーに分かれている)を取り出すと、それを画面を見ずに操作しながら言う。
「私の聞いたことだけ答えて。
地球時間、午前2時15分。
宇宙統括監視機構電脳調査員■〇▲。
君を反逆罪で、今より処遇を判断する」
いきなり裁判かよ、と男は事前の契約として知っていながらも思った。
「質問する。
答えなければ、このまま首を刎ねてあげる。
答えれば本部行きにしたげる」
本部行き。
それは永遠の幽閉。そして、自身の能力をただひたすら酷使されることを意味する。
「…」
「なんで裏切った?」
「待遇さ。一生末端で生きたくなかった」
理由はすんなりということが出来た。
きっとそれが本心だったから。
「残りの裏切り者とそっちの大本の居場所を言って」
「…残りは」
男はそこで自身の未来を考えた。
今楽になるか、生きて、歩く死体になるか。
答えは簡単だった。
「いや、やめだ。
言わねーよ、殺し屋」
瞬間、男の頭部に刀が突き刺さる。
男は痙攣し、眼玉をぐるぐると回すと、そのままぐったりとして動かなくなった。
「…裏切り者ごときがよく言うよ」
少女は、刀を抜く。
すると刀は瞬く間に錆びて、朽ちる。
そしてボロボロと風化するように形を失った。
次に少女は、通話状態の携帯に耳を当てると、話し出す。
「もしもし、現場は今聞いた通り。
回収チームお願いね。
あ、あとカケルにも1人始末したって、伝えといて」
そう言って通話を切ると壁に持たれて、空を見る。
空は夜の黒と都市の華々しい光が混ざって、混沌としている。
少女は、まだ根城のソファにたどり着くまで長そうだなと、ため息を吐いた。
2.
高校1年生のミコトは、友人と2人で下校中だった。
彼女たちは百貨店からの帰りで、新宿駅へと戻るため西口方面から来ている。
「アオイも来れればよかったのにね」
「なんか、今日も塾がーって言ってたよ」
友人が相槌を打つ。
アオイとはいつも一緒にいるもう1人の友人だ。
それこそ最近まで大体帰りも3人で喋って、買い食いして帰っていた。
ミコトは彼女が見せてくれたテストの結果を思い出してみる。
…うん、確かそこまで悪くなかったはずだ。
「急に?そんな成績悪かったっけ?」
「さぁ。親じゃない?もうそろそろ夏休みだし。夏期講習とか」
そう言って友人は思いを馳せるように、駅の広くない駅の天井を見上げる。
この国は今や、巨大なネットワーク社会となり、現実とネット社会が密接につながっている。
人々は日々ネット世界と現実を見て、AIと話をすることで一般的な暮らしをしている。
皆、生きていくために最低限の肉体改造ーーマイクロチップの埋め込みや網膜改造などを行う。
とは言っても、基本的に情報を得るためや電子決済などのサービスを享受するくらいで、そこまで大きく改造手術を行う人間はいない。
いたとしても事故や病気で手足を失った人間用だったりする。
それを利用して武装を積んだ義手や義足をつける人間もいるがそれは特殊な例。
話がそれたが、それでも利便さを求めて多くのソフトウェアが開発されており、装着式補助端末が日に日に進化している。
そういった情報社会、ハード系の技術の発展もあり、将来の職としては理系職が理想的な職種の一例になっている。
それ故、親も子供の学力には口うるさい。
「私も数学落ちてたしなぁ。塾、考えてみようかな」
「別にミコトは大丈夫でしょ?前はほら…」
「…一夜漬けだったしね。でもどうだろう」
ミコトは、この前の模試結果を見た父の顔を思い出して、苦笑いをした。
そんな話をしていると、中央線と書かれたいつもの看板を見つける。
ここで友人とはお別れだ。
「じゃあ、私はこれで」
「うん、またね」
そう互いに言い交して、友人は改札口を抜けて人ごみに消えていった。
ミコトは、ごちゃついた駅の案内板を見ながら、いつも通り自身の乗る山手線の改札へ向かう。
ポケットからイヤホンを取り出すと耳を塞いだ。
「(…今日は金曜日か)」
いつもよりも多い人を見ながらミコトは考えた。
彼女はあまり人ごみは得意ではない。なので少し嫌そうな顔をしながらも、少し強引に前に進む。
入れ替わり立ち代わり、多くの人が前、横、後ろを通り過ぎていく。
心の中で、その人波に苦しんでいると、途中あることに気づいた。
「(…あれ?端末がない?)」
人が少ないスペースへ移動しふと、自身の腕についているはずの端末が気になって意識を向けてみればそれは消えていた。
端末は電話やネットから電子決済まで可能な生活にはなくてはならないものだ。
え!?と思って振り返ってみれば、ある男と目が合う。
男は、スーツを身にまとっていた。
顔や身なりはどこにでもいるサラリーマン。
しかし不気味な無表情で、人形のような空虚な瞳に、ミコトはゾッとする。
男の手元を見れば、そこにはミコトの端末が握られていることに気づく。
「(あ、え。スリ?)」
思考停止は一瞬だった。
ミコトは、かの男に対して走り出していた。
先ほどの恐怖は、ちょっとした怒りでどうでもよくなっている。
「ちょっと、それ私の…!」
この人の多さなら、最悪殺されるなんてこともないし、周りも味方してくれるだろうと考えたためだ。
男は表情を変えずそのまま走りだす。
ミコトとは対照的に、正確な最小の動作で人々を避けて逃げ出す。
「(噓でしょ、速すぎ)もうっ!!」
ミコトも男の真似をして、上手く人を避けながら、男を追う。
男の目が少し驚愕したように見開かれた。
あれは父に買ってもらったものだ。スリもむかつくが、それをみすみす無駄にしたくなかった。
さて、現在の新宿は地下開発が進み、地下には巨大なもう一つの都市が存在している。
駅の多くの地下通路が様々な施設へと直通で繋がっている。
ミコトは、男がだんだんと地下駐車場へと向かって行っているのを予測した。
車に乗って逃げるかどうか知らないが、絶対捕まえる。
度度すれ違う人に奇妙な顔をされながらも、ミコトは男の姿を視界から消さないように尽力した。
そうして、ミコトと男はついに地下駐車場へと侵入する。
男は中央で立ち止まる。
視界の左右には様々な車種の車が整列しており、なんともいえない雰囲気を感じた。
そこでミコトは気づく。
今まで無我夢中で見失わないように追っていたため遅れたが、これは誘われていたのだと。
罠だ。
しかし、それを今思ったところで遅いというのは明白だった。
男が耳元に手を当て、一言何かを呟くと動作音とともに駐車場出入口が封鎖された。
「(シャッター…が閉まった?遠隔?)」
次に男はジャケットに手を突っ込むと、そこから45口径の拳銃を取り出し、ミコトに発砲した。
乾いた破裂音とともに、ミコトの足元に弾丸が通過する。
ミコトはすぐさま近くの車に身を隠そうと駆けだす。
その間にも2発撃たれたが、足元に着弾し、当たることはなかった。
「(銃…。もしかして、ムラクモの社員?)」
銃の所持は、ハードウェアやIT企業のさらに上澄みの企業社員のみ許可が与えられている。
これは、技術部の人攫いや、暗殺の阻止などの自衛目的がある。
勿論、これら銃を複製し流通等を行えば、いくらその階級にいようとも捕まるが。
「(でも、バッチが見えなかった。なら反社会集団の変装?)」
ミコトが、自分を狙って何かいいことがあるか振り返ってみれば、お金だろうかと考えた。
ミコトの父はバイオ研究企業の重役だ。
彼女自身いい暮らしをさせてもらってる自覚はある。
身代金を要求するには、まぁ、わからなくはない。
「ねぇ!貴方何が目的!?」
ミコトはとりあえず聞いてみることにした。
さっきのあちらの無線のやり取りからみても、会話の出来ない相手ではないのはわかったからだ。
会話が出来れば、そこから何かわかるかもしれない。
しかし男は答えず、代わりにもう一度弾丸の発射される。
車に跳弾した。
そのまま男は近づきながら、発砲して来る。
ミコトは車の間を縫うように移動する。
「(他に人いたらどうするんだよ。いや、あの無線の相手がそれも操作してるのか…)しくじったかな」
ホントにまんまと罠にハマった自分に、苦笑してみる。
それにしても、どうやってこれを切り抜けるか考えなければいけない。
答えは簡単で、男を倒すか拳銃を奪うしかない。
銃に弾数があり、リロードが必要なのはミコトでも知っていた。
ならば、弾切れの瞬間に飛び出して銃を奪うしかない。
ただ、それには念を押して、何か物を投げつけるなりして警戒をそらす必要がある。
それは、手持ちのものでいこう。
ミコトが気をうかがっていると急に銃声が止む。
「(リロード?でもまだ。正確に弾数を数えてない。次だ)」
ミコトが様子を伺っていると、突如として少し遠くの方から大きな音がした。
それは閉められたシャッターが破壊され、地面に激突する音。
いや、シャッターが吹き飛んだ音ってなんだ?
そう思っていると、革靴の音が響いてくる。
誰か来たのか?
そう思い、車と車の間から向こうを見る。
それは自身より小柄な少女だった。
染めてるのか赤いボブカットの髪に、学生の制服、そしてその上に黒のジャケットを着ている。
この少女がシャッターを破ってきたのか?とミコトは疑問を覚えるが、それはすぐに祓われる。
男は少女を見て後退するよう下がるが、それでも銃口を少女に向け発砲する。
次の瞬間、少女は左手でそれを掴んだ。
そして、手のひらを広げた状態で向ける。
一発の弾丸が地面に落ちた。
そして、少女の手、正確には指が変形し、巨大な五本の刃になって男へ向かった。
刃は周りの車や天井、地表を削りながら、男へうねりながら向かう。
男は人間離れした動きで、壁端へ走りながら避けようとするが、やはり面攻撃からは避けきれず腕と足を一本ずつ切り離された。
男は諦めず少女へ向かって発砲するが、彼女は変形していない右腕で銃弾を弾いた。
男が地面に落ちる。
少女は、展開した刃の構造物を一瞬にしてひっこめると左手を一対の刀に再変形させ、男に向かって走り出した。
走りだしたといっても、それは高速移動の類で、ミコトには見えていない。
男は苦し紛れに最後の一発を撃つが、それよりも少女の刀の方が速く、銃口を向けたポーズのまま胴体を切り裂かれた。
その背後を、やっと見えるようになった少女が着地する。
彼女は振り返ると男の死体を見やる。
男は勿論動かない。
ミコトはまさに映画に出てくるようなミュータントの戦いに、驚いて動けないでいた。
少女は腕を完全に人間に戻すと、ミコトへ歩いてくる。
ミコトはどうするか一瞬悩んだが、どうせ逃げても殺されるだけだと思い、
せめて何者かだけでも確かめてから死のうと少女の前に出た。
しかしミコトの考えとは違って、少女は警戒を解かすように、やさしそうに笑うと言った。
「怯えなくていい。君に危害は加えない」
「…」
ミコトは少し険しい表情のまま少女を見ている。
「って言っても信じれないか。
まぁ、いいよ。これ見て」
そう言って少女は今殺した男を指さす。
どういうつもりだと思うが、断れる立場にないので見ることにした。
ミコトが男に近寄ると、近くにいた少女はスッと距離をとってくれた。
言葉は嘘ではないんだなと思いつつ、彼女の言いたいことがわかった。
男の胴から下は、血や臓物ではなく機械部品が覗いている。
それが意味するところは…
「…ロボット」
「そう。こいつは人間じゃない。遠隔操作のカラクリだ」
だからあんな、本当に人形のような目をしていたのか。
この国ではサイボーグ技術も発達したが、人間に近いロボットというのは倫理的問題で禁止の段階だった。
つまりこれは、ありえないはずのものが、あるということ。
ミコトはそこでやっと少女に質問をした。
「…あなたは、何者、なの?」
少女はやはりというべきか。
この男とは違った、人間離れした綺麗な虹彩でこちらを見ながら告げる。
「私は宇宙人。
同類を殺すためにここに来た」
*
少女に連れられてやってきたのは渋谷にある商業ビル内の一角だ。
エレベーターに乗って、上の階層へ移動する。
ガラス張りのエレベーターからは、巨大施設の部屋の明かりや巨大ホログラム広告が輝いているのが見える。
下は若者や仕事終わりのサラリーマンで溢れていた。
広告端のデジタル時計を見れば、19時過ぎ。夜はこれからだ。
あの後、あそこでは場所が悪いということで、彼女の仲間の紹介も兼ねてここへ来た。
ちなみにあの戦闘跡は、少女が処理係に連絡を取ったので大丈夫だとのことだった。
ミコトは、慣れない場所と光景に少し肩身の狭い思いをしながら少女の後についていく。
彼女たちはしばらく歩くと、あるカフェの前に来た。
「ここは根城の1つだから、誰かに会話を聞かれることはないよ」
少女はそう言って、中に入った。
カフェは広く、多くのテーブルと席がある。
客数は少なく1人しかいない。
少女は、窓際に近いテーブル席にいる、その1人の金髪の少年に声をかけた。
「カケル、連れてきたよ」
カケルと呼ばれた少年は閉じていた目を開けると、少女とミコトを交互に見た。
少年は見たところ天然の金髪で、赤い瞳を持つ。
ミコト自身も金髪なので、少し親近感が湧いた。
ミコトが固まっていると少年が口を開く。
「そいつが?」
「うん」
少女はミコトに合図すると少年の隣に座る。
ミコトは少女らの対面に座った。
「何か食べる?」
「いや、あのえっと」
「食べながら話そう。カケル、マルゲリータとメロンソーダ。
君、飲み物は?」
「……えっと、じゃあ、私も、同じので」
カケルが通信での注文を済ませた合図をすると、少女が話し出す。
「改めて、私はヒイロ。
宇宙統括監視機構殺人係 ヒイロ。
で、こっちが、同僚のカケル。
想像通り、宇宙人です」
宇宙人。
さっきの戦闘を思い出せば、ミコトは多少は納得できた。
あんな攻撃方法、どんなサイボーグ技術でも現時点では不可能だ。
とは言っても「宇宙人でもあんなこと出来るのか?」という、グレイ型のレトロな印象しかないミコトには少し疑問ではあったが。
もはやあれは生物としての格が違う様に感じたが、それは今どうでもいいか。
ミコトは肩書の物騒さにおずおずしながら、彼女らを見る。
ヒイロはどちらかというと優し気で、話しかけやすい。
対してカケルはあの男に似て、無表情で寡黙。
如何にも、殺し屋といった感じだった。
「(でも二人とも見た感じ同い年なんだよなぁ…)」
ミコトは自身もおずおずと自己紹介を返す。
「ミコト…です。高校1年です」
「よろしくね。
…私たちは確かに殺し屋だけど、ある、えーっと、宇宙的組織?のだからミコトをどうこうだとか、関係ない生物を殺すことはないよ。
あくまで上から言われた対象を消すだけ」
そう言われても怖いものは怖いが、さっき助けてくれたのは事実だしなと自身を納得させる。
「ごめん。説明が前後した。
私たちの組織――<機構>は名前の通り、宇宙開拓とその管理を行うのが目的なんだ。
それで、今回調査対象にこの星が選ばれた」
つまり彼女たちは侵略の下見に来たということだろうか。
ミコトは嫌な予感がしたが、今は黙って聞くことにした。
「それでこの国にも複数の能力者の調査員を派遣した。
けど、数週間前から東京担当の彼らのうち、数名と連絡が取れなくなった。
地球人に彼らをどうこうする力はないのは知ってる。
だから裏切りを疑い、調べたらその通りだった。
…裏切りの背後には、別の組織が絡んでいることがわかった」
引き抜きという奴だろうか。
しかしまぁ、<機構>的には何も話さずいなくなるのは、裏切り扱いというのは当然の話だった。
「つまり私たちは、裏切り者の抹殺とそれを先導した組織の壊滅が仕事ってわけ」
そこまで聞いてミコトは一度整理してみる。
裏切り者とその組織の壊滅。
ならば、あの男はそのどちらか。
だとしたらあの、存在しないはずのアンドロイドの身体も、宇宙的技術で作られたものと理屈づけられる。
それを壊したヒイロの行動も。
その<機構>と敵対する組織の目的も、優秀な人材を求めているから<機構>側から引き抜いたとすると、彼らも地球を狙っている可能性は高い。
つまり、<機構>もその敵対組織も地球を狙ってるということ。
そこまで考えて、ミコトは悩む。
今ここで一見友好的な宇宙人に対して、「あなたたちも地球侵略する可能性があるから」と反抗するとする。
ミコトは自身が死ぬ運命がなんとなく見えた。
だったら、まずは下手に<機構>に立てつくのはやめた方がいい。
まだ侵略するかなんてわからないし、イチ殺し屋の2人に聞いたとしてもわかるわけないだろう。
そもそも何光年と離れた地球へやってきているのだ。
科学力は地球を遥かに超えると言える。
ミコトはそこで単純な疑問である、地球侵略と自分の誘拐がどう結びつくかをヒイロに聞いてみることにした。
「…それはわかった。けど、ならなんで私は狙われたんだろう?」
あの男は確実に自分を攫うのが目的だったように思う。
ひと気のないーーおそらく仕組まれたものーー場所への誘導からの地下への閉じ込め。
本気でこちらを狙っていない銃口。
あの男がその組織側なら、今のヒイロの説明を聞いて自分が狙われる理由がわからなくなった。
資金目的なら自分じゃなくて親である父を狙えばいい話だし、そもそもの話、父より稼いでいる人間なんていくらでもいる。
「さぁ。
けど、ミコトが狙われる理由に、あいつらの得する部分があるのは事実。
(事前の調査で、擬態能力者が学校に潜入しているという情報はあったからまさかとは思ったけど、この地球人の何がそうまで?)」
ヒイロはミコトを見ながら、ミコトの身辺調査をしなければいけないと考える。
と、そこで注文した品物が来た。
ヒイロがピザを切り分けて、食べようと物を口に運んだときにカケルがミコトに質問をする。
「一応訊いておくが、お前の周りで変なことはなかったか?」
突然話しかけたカケルにミコトは少しびっくりした。
今までのことをすぐに思い出す。
「…いや、ない…けど」
「変な音や電気信号を感じた、とかも」
ヒイロがソーダを一口飲んで聞いた。
変な音や信号…。
現代では珍しく、身体になんの機械的改造を施していないミコトには縁のない話だった。
しかし、それをここで言っても混乱させるだけだ。
「うーん。ない、ね」
無難に答えた。
確か友人たちは、変な素振りは見せていなかったと思い返す。
それに、技術力の上な宇宙人なら、この星の人間より隠ぺいは得意だろう。
いくらネットワークの形跡があろうが、一学生に気づけるものでもない。
カケルは話を続ける。
「消えた調査員の1人が完全擬態能力者。残り、電脳能力者が2人だ。
だからお前を近くで監視している可能性も、勿論遠目から見ている可能性だってある」
「電脳能力者の1人はつい最近消したんだけどね、そいつ最後まで口を割らなかった」
そこでミコトは仲のよい人々の顔が思い出される。
この中の誰かが偽物と入れ替わっている可能性。
だとしたら本物は?とまだ可能性の話であっても、その想像にミコトは複雑な気持ちになった。
「お前はこの件が片付くまで保護する。
食事が終わり次第、本拠点に向かうぞ。ヒイロ」
「うん」
そのやり取りを見ていて、というか2人を見ていて、ミコトはさっき駐車場で感じた疑問が再浮上した。
「あ、そういえば」
「?」
「2人はなんでうちの制服着てるの?」
するとヒイロが答えた。
「変装だよ。
私たちがスーツとか着てたりしたら変でしょ?」
「まぁ、確かに?」
「そうそう。年齢もこの星の人間ではミコトと同じくらいだしね」
そう言ってヒイロはピザを齧った。
彼らは十数分後には迎えとしてきた<機構>の車に乗り込み、彼らの拠点へと移動する。
向かう先は新橋だ。