1.
カグヤの目の前には、あの時の超能力者の男がいる。
正確には分身を通して、だが。
四肢を足と腕の片方ずつを切断された男はそれでも能力者であるおかげなのか、すでに意識が戻っていた。
搬送された病院で退屈そうに過ごしていた男は、深夜ふと目を覚ますとベットの傍らに半透明人間がいることに気が付いた。
それはユラユラと空間を揺れて、身体の透けた向こう側の景色を歪めている。
「…なんだ、幽霊…か?」
男は問いかけるが、透明人間は答えない。
それに男は、これは超能力で作った虚像だと理解した。
「あの時のガキか。
なんだ、殺しに来たのか?
ーーーって言っても喋れないんだったな」
男は好きにしてくれと言わんばかりに何もする気がなかった。
カグヤの分身体は、男に繋がれた器具たちを取り外すと身体に背負う様に担ぐ。
「おい、どこに連れてく気だ」
男は痛みに顔を顰めながらも、疑問を口にする。
そして病室の部屋のロックが自動で外れた。
これはカグヤの能力ではない。
<機構>殺人係の情報員であるアイの仕事だ。
アイは一時的に病院のシステムをハッキングしている。
これで男を外に運び出すことができる。
かと言ってシステムは優秀であり、万が一その主導権が取り戻された場合、カグヤの姿が監視カメラに映ってしまう。
そこで透明な分身体を使った。
結果的に言えば、男を病院の外へ連れ出すことはできた。
そのまま一気に上空へ飛び上がり、男を連れ去る。
この病院は中野区にあり、カグヤが向かっているのは湾岸沿いの倉庫だ。
東京には廃倉庫も廃工場もない。
土地が足りないここでは凄まじいスピードで、都市が作り変えられていく。
そこでカグヤが貸し倉庫をこの状況のために借りたのだ。
しばし、と言っても10分くらいだが、それくらいの時間でカグヤのいる場所まで到着した。
重い扉がカグヤの能力によって難なくと開き、内部の薄暗い空間が顔を覗かせる。
中は少し広いくらい。
建物の中ではカグヤがポッケに手を突っ込んで待っていた。
そして彼の目の前には一つの椅子があり、分身体は男をそこに座らせる。
「よう、3日ぶりだな」
カグヤが見下すようにそういう。
「…ああ。で、重症患者を連れ出して何の用だ?」
「お前の一族について聞きたい。
前は聞くタイミングがなかったからな」
カグヤがそういうと男は、呆れたような顔をした。
「俺がそう簡単に答えると思ったか?
忘れてるかもしれないが、今の俺は能力は使えるぞ」
「そうか。ならこうだ」
カグヤは能力を使って、男の腕の切断面。
その包帯の巻かれた傷口に、能力で衝撃を与えた。
男がその反動でのけぞるが、カグヤの能力で身体が固定されているため、椅子から崩れ落ちることはない。
衝撃を与えられた傷口は再び血を流し始めた。
男は痛みに呻く。
「その血、流れ続ければ失血死する。
ああ、能力で止めるならいいが、その状態で俺の能力出力に勝てるかは…言わなくてもわかるだろ」
男はカグヤを睨みつける。
男の片目の緑の眼が暗闇で光る。
翻って、カグヤは鉄皮面をしているが内願っていた。
どうかこのまま話してくれと。
結局のところ情報師を見つけるのには失敗した。
仲介役を脅してみたが、どうもムラクモのセキュリティを突破する能力の見込みはある人間はいても、その代償として、セキュリティに脳死にさせられるというリスクをとれる人間はいなかった。
金ならいくらでもあるが、まぁ、冥土には六文しか持っていけないのだ。
そう思ったらただの数字でしかないそれに、命は不釣り合いと言えた。
<機構>のアイは、まだ地球の電脳の理解が薄い。
そのため、アイでも無理だったという背景もある。
もっとも、あの時身体を粒子化した男の体内の機械部品がどうなったかはわからないが。
「…なんでそこまで知りたい…?」
「俺は自分の能力を強化するため、研究をしている。
そのためにもサンプルは必要だろ。
宇宙には強いやつが多すぎてな。
それに、能力者が相手だと地球侵略も俺の雇い主がやりづらいからな、情報がいるんだよ」
「…お前らが地球に来た科学技術なり、能力の強大さは俺でもわかる。
地球の観測領域に生命体が確認できる星はない。
ってことはもっと遠くの場所から来たってことだ。
それなら、今更俺たちなんかに聞かなくてもいいだろ…?
見たところ、能力者には既に詳しいようだし」
「ああ。
今まで俺は色んな能力者を見てきた。
だがな、【まじない】を使う能力者は他に会ったことがないからだ」
宇宙人の連中は除いてという言葉は言わない。
「【まじない】…?」
男は疑問符を浮かべる。
あの言葉はまるで天啓のように知る。
それを皆が皆決まった固有名詞で呼ぶわけではないかと納得する。
「お前のエレクトロキネシス。
ある一撃だけ一コマ遅れて放たれていた。
あの瞬間にある言葉を唱えていたはずだ。
そう、たしか【藍独】ってな」
その単語を口にした瞬間、男は驚いた顔をした。
「…その言葉をお前は発音出来るんだな」
宇宙人が始めとする、希少な能力者たちは【まじない】の言葉を発音し、理解することが出来る。
逆に言えばそうでないものは理解できないし、ましてや口に出すことも出来ない。
カグヤは、戦争で敵相手に能力の研究をしているときに、その言葉が降りてきた。
今まであった能力者たちは後者ばかりだった。
肝心の宇宙人たちも、口を閉ざすか知らないの2択だった。
ただわかっているのは宇宙人は4つの権能を行使出来る存在だということだ。
「俺も使えるからな。
どうもこの言葉は、俺たちみたいな能力者にしかわからないらしい。
【まじない】は、俺たちみたいな血族の元。
始まりの存在である宇宙人が最初に持っている権能だ。
これはこの宇宙の法則を容易く塗り替える脅威だ。
それを辿ることで、俺はその存在になる。
そしてそいつらどもを下すんだ」
男は、あの身体操作の少女も【まじない】の言葉はわからなかったなと思い出す。
しかし、自分がカグヤの言う上位能力者の末裔という実感はなかった。
故郷には守り神がいるみたいなことは言っていたが、噂しか聞かなかった。
「…俺はそれを知らない。
人目を気にして山奥にいたってだけだ、俺たちは。
その言葉だって能力がどこまで出来るかやってたら知っただけだ」
「だからお前の家族の場所を言えって言ってんだよ。
それともあの爺さんが話したか?」
「爺さん?ああ、陰陽師か。
けどあれは術だろ?」
「能力だ!
あの爺さんの話が本当ならな、今の日本の裏にいるのは能力者、いや宇宙人どもだ。
とにかく俺の目的と俺の属する組織のためにも、地球側の能力者に話を聞かないといけない。
数少ない能力者が裏側にいる奴らと無関係とは考えにくい」
血筋の元が【光の宇宙人】であることは予想はつく。
しかしバイオ企業といい、地球があの宇宙人に侵されているのは事実。
その時代まで記録を遡る。
【光の宇宙人】は元々<機構>には存在していた。
しかし、戦争前の実験中に死亡した…という報告のみが<新星観測機関>から上がっていたはずだ。
だから今の殺人係の序列二位は、【光の宇宙人】の模造品であるカケルだ。
戦争中に消えた他の<殺人係>の連中と関係しているのは想像がつく。
カケルには<機構>本部への報告を見逃してもらう代わりに、地球の裏側の情報を渡すことが条件になっている。
カグヤの宇宙人を知るという目的とは切り離せないことなのだから、セットで調べた方が速い。
戦争なりそれ以前に消えた宇宙人どもを引きずり出なければいけない。
カグヤが男を見下すように見ると、男は観念した様にため息を吐いた。
「…わかった。
話せば病院に戻してくれるか?」
「驚いたな。
てっきりこのまま逃がせとでも言うと思ったが」
「俺は勝負には負けた。
が、試合には勝ち筋を残したと言っていい。
管理AIは宇宙に送信したが、技術者は生きてる。
こりゃ、近々電脳戦争だな」
「でも、逃げればまたその技術者を殺せるかもしれないぜ?
このままいけばお前は一生牢屋か死ぬかだ」
「…いや、【藍独】を自身に使った時点で体内デバイスは壊れた。
デバイスは、脳の能力使用部位に繋がってたぽくてな。
どうも出力が弱くなってる。
俺にもう、前のような力はない。
本懐は遂げたからな、後は静かに死ぬだけだ」
その言葉で今更だが、男の【まじない】のカラクリに気づいた。
言葉を口からではなく信号として発信していた。
【まじない】は仕様資格のある者が、心で思い世界に示せば発動できるということなのだろう。
だから口で唱えなくても発動できた。
「そうか。
まぁ、俺たちの邪魔しなきゃいい。
それで場所はどこだ?」
「四国のーーーだよ。
家を出るときだいぶ暴れたからな。
今もいるかはわからん」
どうもそこはこことは違って田舎のところらしい。
現代において、人口のほとんどは各都市へと集中し、郊外は人があまり住まなくなった。
いや、都市に吸収されたと言った方が正しいか。
森林は数百年前は減少傾向だったが、人口減少と自然保護のおかげで徐々にだが緑が戻りつつある。
予想でしかないが、能力者という特異性を隠すためにそう言ったひと気のない場所で生きているのだろう。
その一族は特に。
「いい話が聞けたよ。
もう帰っていいぞ」
カグヤはそう言って自身が傷つけた傷口を能力で止血する。
「…なんだ、本当に返してくれるんだな」
「ああ。もうお前には興味はないからな。
別に恨みもない。
ヒイロもな。
お前が今後どうなろうが知ったことじゃない」
そう言われて、男も自身のことを思わず振り返ってしまった。
能力者一族に生まれ、周囲に馴染めず、一番自分の能力が生かせた生き方を選んだ。
能力をなぜ嫌な眼で見られなければいけないのか?
肉体改造で身体機能を拡張するのと自前で持っているのでは何が違うのか?
いや、もうそんなことはいい。
家族の田舎の奥に追いやられた惨めな生活、それに納得しているアイツらのようにだけはなりたくなかっただけだ。
「なぁ、ガキ」
男はカグヤに最後に話しかけた。
「なんだ?」
「家族には………いや、なんでもない」
*
数日後。
カグヤは新幹線や電車を乗り継いで、男の言っていた場所へと来ていた。
到着するまでには、数々の工場と再生された緑たちの景色だけが見えていた。
本州から瀬戸内海を渡って、その場所へ。
この時代の新幹線は新機構が出来たとかで数世紀前とは比べ物にならない程早く目的地に着く。
ここまで来ると、流石に自動化された工場はなくなっていた。
辺りは山や森林、そして民家たちばかりだ。
都市部しか知らないカグヤにとって、<殺人係>で訪れた植物ばかりの星を思い出した。
さて、とカグヤは目を閉じる。
今から行うのはあの男を見つけた時と同じ手法だ。
カグヤのESPでここ一帯を覗く。
これによって相手方のESP感知能力が高ければ向こうも反応があるはずというものだ。
男がESP能力が高いなら、その家族の中にもそう言った者がいる可能性は高い。
カグヤは眼を開く。
能力を使用した。
千里眼を地上にのみに絞って、草や木々の一本一本に渡るまでその能力効果を染み渡らせていく。
結果は果たして、すぐに引っかかった。
これは逆にカグヤを探ろうとする眼。
それと目が合った。
カグヤは能力を切る。
それと同時に、彼方の方から何かが迫ってきてるのを感じた。
しかし姿は見えない。
きっと向こう側の森林の影からカグヤを見ているのだろう。
「(ちょっと遠いな。
とりあえず気配に向かって歩いてみるか)」
まぁいきなり外部から能力者が現れれば警戒はするものだ。
この辺りの住人達も、能力者ではないみたいだし。
現地能力者の潜む方角へ近づけば、少しずつその人間も後退していく。
様子を伺っているが、能力者一族の家に着くまでには姿を現すだろう。
隠居しているのにふさわしくまさに家は山の奥にあるのだろう。
カグヤの足は緑の深いところへと進む。
結論から言えば、襲撃は山道のところだった。
眼前に男が現れた。
仮面を被って、顔を隠している。
背丈は大きく、中年ぐらいの体つきをしていた。
能力を使わなくてもわかる、その敵意が仮面の裏から漏れ出ていた。
前にやったホラーゲームのキャラにこんなのがいたなと考える。
「…こんちは。
俺は敵じゃないぜ」
カグヤは左手を上にあげて敵意無しを伝える。
能力も今は完全に使っていない。
それに、サイコメトリー持ちだと仮定して、心の声と口に出す言葉を一致させる。
男は動かない。
まぁ能力者なら動く必要もないが。
「…あんたの一族の能力者に随分と迷惑させられてな。
ニュース知ってるか?
東京は、異常気象の神鳴が発生したって。
あの男には大分苦労させられたよ。殺したがな」
カグヤが挑発の意味を込めてそういえば、男は念動力を向けてきた。
大きな力ではなく、カグヤを吹き飛ばすくらいのものだ。
カグヤは同じように念動力のバリアでそれを受け流す。
逸れた力は、周りの木々を抉り倒した。
これで一先ず男がサイコメトリー能力を持っていないことは確定したか。
「話だとアイツは家をめちゃくちゃにしたって聞いたけど。
なんだ、意外と愛されてるんだな」
「…」
「なぁ、いい加減話くらいしてくれてもいいんじゃないか?
殺した、は冗談だ。
今の話、殺し殺されの中なら知れる話でもないだろ?
それに反撃もしてないんだ。別にこのままでもいいから話を訊いてくれ。
ああ、ちなみに仲良くはないぜ。
逆に迷惑を起こしたアイツを止めた側だ」
そういえば、仮面の男はやっと曇った声を聞かせてきた。
「何が目的だ?」
「あんたらの家族の中で一番古い人間と話がしたい。
俺も見ての通り能力者でね。
仲間探しと自分探しってとこかな」
「お前とウチの家系に何の関係がある?」
そこからはあの男にした内容とほぼ同じだ。
【まじない】と、始まりの能力者の血族について。
そして日本の裏にいる能力者についてだ。
あの男の家族なら知らないはずがない。
ただし、自分たちが異星人であることと陰陽師の老人のことは一応伏せてだが。
仮面の男はそれを聞くと、最後に2つ質問してきた。
「俺たちに利があるのか?」
「いいや無いな。
ただ、俺は別にあんたらの生活を壊したいわけじゃない。
あんたらは裏とは無関係ぽいしな」
「…お前は何者なんだ?」
裏という言葉に男の敵意の勢いが戻る。
そう言われでカグヤは少し困った。
異星人とは明かせない。
かと言って現代でのこんなことをする能力者の子供は、不気味でしかない。
カグヤは悩んだ末、こう話した。
「俺は、同胞を探している。
家族は死んだし、自分のこの特異性をなんとかしたいだけ。
社会に馴染めないなら馴染めないなりに生き方を探そうと思っただけだ。
あんたたちみたいにな」
その言葉がよかったのか、男は背を向けるとついてこいという仕草をした。
カグヤは無言で男の背を追った。
山道を抜け、更に奥へ進むと大きめの古民家が出現した。
家の周りは綺麗に整備されており、家を中心にある程度は開けたような場所になっている。
ぽっかり空いた穴の上には青空が広がっている。
そして家の前には、壮年の男とその妻と思われる女。
更には眼前の男のーーこちらも妻だろうーー女がカグヤたちを迎えた。
どれも古来の和風の装いではなく、現代的な格好だ。
世俗とは隔絶しているわけでもないんだなとカグヤは思った。
男は仮面を外すと、カグヤを庭中へ誘導する。
仮面の男の顔は中年だった。
「どうも。
…事情はわかってるみたいなようで」
「ようこそ。
まずは中に入って話をしよう」
壮年の男ーー彼が一番古い人間だろうか?ーーが言う。
「ご丁寧に、ありがとうございます」
そう言ってカグヤは笑顔を見せるが、向こう側もいつでも能力を使える準備をしていることを感じ取っていた。
特に中年の男は、こちらを鋭く見ている。
カグヤは応接室に通された。
高級そうな樹木の机に、これまた高そうな椅子が向かい合う様に四つある。
そして、インテリアとしての水槽が設置されている。
横目を見れば、緑たちがそよ風に揺れていた。
カグヤの向かいには、壮年の男。中年の男が隣同士で座った。
「まずは家の者が迷惑をかけたことを詫びようか」
彼らがそう言って頭を下げるのをカグヤは止めた。
「その必要はない。
俺は直接被害を被ってないからな。
ただ、同じ能力者として犯罪してるアイツに腹が立っただけだ」
カグヤが嘘も混ぜて話せば、彼らは難しい顔をした。
親族がそんなことをすれば身内は、まぁそういう顔をするしかないだろう。
男たちは咳をすると、改めて話を切りだした。
「色々と事情は聞いている。
私たちの先祖について、だったかな」
通信でのやり取りか、テレパシーだろうなとカグヤはあたりをつける。
「ああ。
あの男は、物質変換能力を使った。
あれはただの能力者には余る代物だ。
血族の祖、始まりの能力者の力で間違いない。
俺にもそれが使える。
あんたらも知ってると思うが、その能力は能力の中でも別格。
その分扱える人間は少ない。
ここまで言えばわかるか?」
さて、ここでコイツの口から【光の宇宙人】のことが出るか、あるいは別の宇宙人か。
カグヤは指を組んで彼らを見る。
話したのはやはりというべきか、壮年の男だ。
「…我々は400年の歴史がある。
それだけ古ければ、過去の資料など無いに等しい。
君の一族もそうだろう?」
「じゃあ、何も知らないと?」
「そうは言っていない。
我々は昔からここに住んでいる。
それでも能力者が表に出ない理由は何だと思う?」
「この国は裏に能力者がいる。
ってことは国絡みで能力者を保護していると考える」
「正確には見逃されているとうべきか。
今の日本を作ったのはその過去の能力者たちだ。
しかし、だ。
我々は別に国に貢献しているわけではない。
能力者というだけで保護する理由に足りるかと言えば否だ」
この家族も日本の裏にいる能力者のことは認知しているだなと思った。
「…別のその過去の上位能力者の誰かが、あんたらを保護しているってことか。
そいつはどこにいる?」
きっとそれは宇宙人だ。
その確信があった。
「そうだ。
ここから東の山の中にその方はいらっしゃる。
彼女が、この一帯を能力で見守っておられるのだ」
「一帯?」
「ああ。
分家も含めて、微弱な力の家と血筋の関係ない家もある。
君の千里眼のおかげでさっきは電話がたくさん来た」
「…それは悪かったな」
「いや。
彼女ならばいろいろ知っているはずだ。
なんせここでは神として扱われているから」
「そいつはどんな能力だ?」
「わからない。
姿も遥か昔にしか見たことがないからな」
要は昔のことはそいつに聞けということか。
能力者という特殊な家系なら、歴代の写真の一枚くらいは飾ってあったっていいとも思ったが、ないならしょうがない。
「それはわかった。
俺は俺なりにあんたら一族について知りたい。
何の能力が使えるんだ?」
「ESPとPK。
ただしウチはESP能力の特化に近い。
愚息が持っているサイコメトリー以外のテレパシー、念写、千里眼は我々も出来る。
PKは念動力しかできないがな」
中年の男がそういう。
愚息という言葉のようにあの男の父親がやはりこいつか。
予想していたことだが、あの男は家系の中でも先祖返りに近い状態だったのだろう。
「あんたらの他に、そう嫁さんたちは?」
「彼女らは持ってはいないよ。
我々と息子の娘だけだね、今は」
つまり、この2人の男と、中年の娘というわけだ。
「娘さん…そいつも同じESP能力者か?」
「そう思ってくれて構わない。
まだ小さくてな、能力も我々とそうは変わらない」
「そうか。
まぁ、ある程度はわかったよ。
ありがとうございました」
これ以上は特に得られそうはないなと席を立つ。
部屋の外へ出て、長い廊下を歩いて玄関へ。
その最中能力でも大六感でもなく、視線を感じてなんとなくその方向を向いた。
背後を歩いていた中年男の後ろ。
その長い長い暗い廊下の奥に小学生くらいの少女がこちらを見ていることに気づいた。
白く腰まで届くほどの髪に黒と緑の虹彩が暗闇に浮いて見える。
表情は無表情ながら少し恐怖の感情が見え隠れしている。
少女の片方の緑の眼と、カグヤの前髪で隠し気味の緑の眼が合った。
その眼を見て、カグヤは【まじない】を知る能力者の特徴だとすぐにわかった。
「(この子が、話してた娘か。意外と早く見えたな)」
この子は能力を家族に隠している。
カグヤが振り返ったのを見て、男たちも背後を見る。
中年の男が声をかけた。
「ナギサ!どうした?」
しかし、男の、いや父親の言葉に反応することなく少女は、奥の廊下道に消えていった。
「あれがもう一人の能力者か?」
「ああ。娘だ。
だが、どうも人見知りでな。
俺たちや下の近所の人ともあまり話さない」
あの眼はこちらを品定めでもするかのように見ていた。
自分と同じ【まじない】使いであることは向こうも気づいたはずだ。
今は宇宙人に話を聞かなければと、彼らの家を出ることにした。
後でお礼を兼ねて尋ねたときに、話しかけてみてもいいかもしれない。
*
カグヤは上空から山々を見下ろしていた。
確かここ一帯の監視を能力で常にしていると言っていた。
ということは千里眼…目に特化した宇宙人か?
だが未来視も含め、自分の千里眼の能力は<機構>には宇宙人の力とは認められていない。
それに自分も奴も確かに生物、母親から生まれたという記憶がある。
どちらにせよ会えばわかる。
こうして支配領域を人間が浮いていれば、管理者としては敵襲だとでも思うだろう。
結局こうするしか会えない不便さに頭を悩ませつつ、どこから来るかを考えた。
千里眼をもう一度使ってもよかったが、正体不明の宇宙人ともなれば、あの男みたいに能力領域を略算して眼に攻撃でもされたら堪らない。
さて、どうなる?と考えていた瞬間だ。
カグヤは上空からの衝撃、天体でも落ちてきたような衝撃に耐えきれず地に落ちる。
彼の全力の念動力でも抗えないその力に、カグヤはなすすべなく地に激突するしかない。
落ちたのは、滝のある岩や崖のあるところ。
この程度の落下エネルギー如きでは普通死なないが、この重さと地に挟まれたら、潰れて死ぬ。
「(まずい、まずい。殺意高すぎだろ、ここの能力者ども!
【映浮】で耐えきれるか?)」
カグヤが【まじない】を唱えようとしたとき。
重圧は木々の高さにまでなったことで解除された。
急な解放に、カグヤは自分の反発力によって空中でバランスを崩しながら地面に降り立つ。
滝底の水たまりの淵に着地したみたいだ。
カグヤは能力者の気配を探ろうと辺りを警戒するが、ガサッとした木々や草の揺れる音ともに長い黒髪の着物の少女が姿を現した。
「(こいつが宇宙人か…)」
それはカグヤが初めて見る宇宙人だった。
<機構>の過去の宇宙人の記録は全て頭に入れてある。
しかし、こんな女は知らない。
「お前がこそこそ嗅ぎまわってる能力者か」
「…どうも。
会いたかったぜ、宇宙人」
その一言で少女はハテナという顔をした。
「(なんだ?この違和感)」
宇宙人という言葉は、地球文明にも存在しているのは知っている。
宇宙人が空のどこかで生まれ、ここへ来て長いならこの女もその言葉を知っていてもおかしくないはず。
それで宇宙人という言葉自体に疑問符を浮かべるのはおかしい。
「(いや、待てよ。もしかして、この星で生まれた宇宙人なら今の反応に理屈が付く)」
「…どうした?急に黙って」
カグヤはハッとすれば、自分より背の低い彼女が胡乱な目で自分を覗き込んでいた。
両目の緑の瞳に、カグヤは少しドキリとした。
それと同時に宇宙人で間違いないと確信もした。
「いや、なんでもない…ってか」
「不用心ではない。
お前を地面へ落とした時点で私の方が強いのはわかってるから」
少し得意げに笑えば、彼女は背を向けて滝底の簡易的な池に向かう。
しゃがんで水面を覗き込む。
白く長い指で冷たい水を撫でる。
「…それで?なんの用で私を尋ねに来た?
私を宇宙人と言ったな。
たしかに普通の生まれではないが、私は地球生まれの地球育ちだよ」
カグヤはまずはカケルたちとした契約の仕事を果たそうと思った。
これで3度目の説明をする。
今回は自分が異星人であり、移住先の先人たちの虎の尾を知っておくためと説明した。
「なるほど、宇宙人とはお前たちの言葉の意味か。
…んー、そうだな。
昔、スーツの男が尋ねてきたことがある。
そいつとは戦ったことがあるが、そうか、あれがお前がさっき言った奴なんだな」
謎に強敵だったなと彼女は呟く。
「どんな能力だった?」
「空間…?を操ってくるみたいな。
瞬間移動とかしてきたか。よくわからん奴だった。
追っ払ったけど。
確かその時、お前と同じことを訊いてきたよ」
ソイツも仲間を集めてたってことか。
空間操作で最初に思い浮かんだのはあの老人だ。
しかし、宇宙人は歳を重ねないことを知っているカグヤとしてはどうにも腑に落ちない。
もしかして別の存在である、昔の【空間の宇宙人】かとも思う。
「俺をそいつの手先とは思わなかったのか?」
「私自身も知ることは少ないから問題ない。
それにお前はあの子たちを攻撃しなかったし、変な勧誘もしなかった。
それだけでお前が自分自身の進化という目的のみにしか興味ないのは伝わった。
もっとも、その理由は知らないがな」
この土地を脅かさなければいいってスタンスか。
これは、侵略者たちのバイトをしてると言わなくてよかったなとカグヤは、胸を撫でおろす。
カグヤは次に本命を尋ねる。
「…あんたの能力は?」
そう聞けば、少女はムッとした表情をすると立ち上がり、カグヤに詰め寄る。
「さっきからあんたあんたって。
名前くらい聞きなさいよ、もう。
ほら、まずはそっちから名乗って」
「え、ああ、すまない。
カグヤだ」
「メイだ。よろしく」
「で、だ…」
「能力ね。
能力は、原子操作とでもいえばいいか。
私には一定領域内なら、原子を見て動かすことが出来る」
「【まじない】とやらを使えばその限りではないけど」とはつけ加える。
やはり知らない宇宙人だ。
命名すれば【原子の宇宙人】とでも名付けれるか。
「なるほどね、それでこの土地の人間を保護していると」
「ええ。
能力者自体はもっと昔からいた。
君が行った家の子たちは私が血を混ぜたものの末裔。
私も自分が何者かはわからなかったんだ。
けど、他の能力者よりは力があった。
神託があった。
だからそうしたに過ぎない」
「神託?血を混ぜた?まずは神託について聞かせろ」
「あれ?知らない?」
「いや、どういうことだ、わからん」
「私の目、時々未来っていうのかな。使命が見えるんだ」
「使命?」
「こうしろって、未来映像だったり、その行動をしてみたくなったり…?」
宇宙人は共通して緑の眼を持つことをカグヤは知っている。
ただそれが身体的特徴ではなく、その眼にそんなものが見えるとは知らなかった。
カグヤの左眼は昔は右眼のように赤かったが、【まじない】に目覚めてからは緑に変化した。
まだ、宇宙人になるには先があるというのか。
ヒイロもその兄ーーイツキもそんなことは言わなかった。
ヒイロに関しては自分の力に悩んでいる時点でその使命の神託はないのだろう。
だが、メイは紛れもなく宇宙人であるのだから、なんの違いがあるのか改めて考えなければいけなくなった。
「…なるほどな。
それは定期的にか?常にか?」
「不意に、ね。
これは能力ではない。
これこそが特殊な生まれとの関連だろう。
宇宙からの使命を聞く人で【宇宙人】とはよく言ったものだ」
「…そうか。
で、血を混ぜたってのは?
あんたも、その、なんだ、恋とかすんのか?」
そう言うとメイは少し意地悪な顔をした。
「エロガキ、思春期か?」
「ちげーよ。
なんでそんなことをした?」
「…他にも私とは関係ない能力者がいるのは知ってるな。
そいつらを見て、私も自分の可能性をしるためにやった。
作ったものの責任として見ているだけだ」
そこから使命を知ったわけか。
宇宙人というのはどうも、厄介な存在だなとカグヤは辟易した。
「…わかったよ、ありがとう」
そう言ってカグヤは空中にゆっくり浮かびあがる。
「もう帰るのか?」
「とりあえずいい情報が手に入ったからな。
邪魔したな、悪かった」
カケルたちとの契約は果たせたし、宇宙人になるための条件も掴めてきた。
緑の眼を手に入れたということは、宇宙人に成れる可能性もあるということだ。
さて、とまずは新幹線の場所まで飛ぶかと考えた時、カグヤは第六感で上空を見た。
空はいつもの青だが、木々が不気味にざわつく。
そして嫌な風が流れる。
まるで空に不気味な存在が覆いかぶさったかのような感覚。
ドロリと気配が水滴のように落ちてくる。
そして、空間が揺れた。