3.
ミコトとヒイロたちが食事をしていた同時刻。
浜松町の雑居ビルの一室で、ヒイロたちの敵対組織の構成員等が机を囲う様に座っていた。
「まさか<機構>に先を越されるとはな」
「しかもヒイロだ。
まずいな、本部に連絡するか」
「大体あんなに発砲する必要はなかっただろ」
「あの子供があそこまで動けるとは思わなかった。
脅しだったんだよ」
「リーダーはなんて?」
「まだ話し合い中だ。メールはしたが」
話している内容はミコト捕獲のことだ。
先ほどの遠隔ロボットは、この部屋にいる構成員の1人が行っていた。
やられてすぐ、こうして会議をおこなっている。
机には投影デバイスが置かれ、全員にはミコトのプロフィールデータと東京周辺の地図が、空中に浮かんで見えている。
ミコトのプロフィールには別記として彼女の父親のことも書かれており、勤め先であるバイオ企業群のことも書かれていた。
彼らは当初擬態能力者を使って、日本有数の電脳大手企業内部へ上役たちをこちら側にすり替えて侵入し、交渉を行う。そこから他の競合企業たちを攻め落とすつもりだった。
それは、国家に対してのネットワークというライフラインを人質に交渉を行うつもりだった。
電脳の中心地といわれる日本において、籍をおく企業群を征服するのは、一番簡単な手と言えた。
しかし、殺人係に目をつけられたことで計画の変更を余儀なくされた。
殺人係とは、宇宙最大の組織である<機構>が集めた、彼らの邪魔者を消すために存在する殺し屋集団だ。
序列も存在し、第一位から第七位まで存在する。
もっとも今は形だけのものだが。
彼らの指示役はミコトという存在を、彼らは理由を知らないが攫うことを命令された。
それもヒイロという序列第一位の存在によって空中分解の兆しを見せる。
今話した面々が渋い顔をしていると、足を机に乗せて大仰に座った少年姿の異星人が声を上げる。
「本部への連絡はなしだ。リーダーにもそう伝える。
このままもう一度、こいつを取りに行く」
「おい、お前は雇われだろ。口を放むな!」
「こちとらこんな意味わからん場所まで来てやってんだ。
それで、こんなガキごときで仕事キャンセルなんてされてたまるかよ」
「しかし、相手はあのヒイロだぞ!」
そう言って構成員の1人が少年の肩を掴んで睨む。
「…よく俺につっかかってこれるなお前。
俺はお前に雇われてるわけじゃない」
少年はそう言って構成員を睨み返した。
瞬間、建物が、いや地面が、大きく揺れた。
これは少年の能力で起こしたものだ。
その揺れに恐怖する彼らをよそに少年は思考を巡らす。
あいつの実力は自分がよくわかっている。
宇宙人ヒイロは以前、<機構>統合のための戦い――銀河戦争時代において、同じ部隊所属だった。
彼女の光速に近い速さの刀と変幻自在の身体から繰り出される、暴風のような刃の怪物的構造体は今でも鮮明に思い出せる。
それでいくつの星々が壊滅したか。
勿論、敵も強大な能力者を出してきており、それで数えるのも莫迦らしくなるくらい何人も死んだ。
「俺には勝算がある」
「…それは?」
睨みと直後に起きた揺れにビビった構成員に代わって、別の構成員が尋ねる。
「ヒイロの得意は速さと、身体機能を使った量での面攻撃だ。
つまりあいつはブンブン刀振って、数撃ってるだけ」
「それで?」
「俺の能力は知ってるな」
「…ああ。PKとESP能力だろ?今、見せた」
「そうだ」
少年が投影デバイスを手を使わずに自身に寄せる。
そう、この一帯だけを揺らしたのも少年の念動力だ。
「だから近寄らなくても能力でどうとでもなる。
死角からの奇襲もいける。
安心しろよ。伊達にあの戦争だって生き残っちゃいない」
少年の言葉には半分ホントと嘘が混じっていた。
少年に、ヒイロを奇襲する気はない。正面から叩き潰すつもりだ。
理由は先に挙げた銀河戦争時代の個人的な怨恨。
ホントの部分は、確かにヒイロに届くだけの巨大な超能力を彼が有しているということだ。
それを聞き、目の当たりにした構成員たちは少年の言葉に、今は従うしかないと考えた。
そもそもリーダーにまだ話は通っていない。
少年の話を加味して、彼が決断を下す。
雇い主がいいえと言えば契約上、少年も無視できない。
結局は会議内容を彼に渡すだけにとどめることとなった。
*
ミコトはあれから普通に解放されて、今日もいつも通り学校へ来ていた。
ヒイロたちの説明ではひとまず様子を見るということで、ヒイロたちに心酔しているという、殺人係お抱えの電脳師に監視されながらの生活となった。
どうせ「私は囮だろう」とそんなことは、ミコトでもわかった。
だからか、授業中でも窓の外や廊下。教師や同じクラスの皆まで疑う羽目になった。
また同時にミコトのことを調べる許可も求められた。
きっと、ミコトが狙われた理由を探るためだ。
さて、今は昼休み。
ミコトはいつもの友人たちと食事をしていた。
アオイと昨日の帰りを共にした友人ーーメグルがいる。
今のところ不審な者は、ミコト自身はやはり感知できないでいる。
「ねぇ、昨日、地震来てたよね」
「うん。びっくりした」
メグルがそういえばといったように、そう言った。
確かそのときは、ミコトたちは車での移動中だった。
確か車備え付けのモニタでニュースを2人が真剣に見ていたのを思い出す。
「アオイはやっぱあのとき塾にいた?」
「うん。勉強してたよ」
「やっぱ本腰いれたんだ。私もやっぱいくべきか」
悩むメグルに、ミコトはいじるように言う。
「行きなよ。昨日からずっとじゃん。そんなに心配ならさ」
「わかってる。わかってるけどさぁ。うちらまだ高1だし、理系適正テストは来年じゃん」
そこでミコトとアオイは苦笑する。
アオイがミコトに話を振ってきた。
「あはは…。メグルはどうせ昨日帰って寝たとして、ミコトは?」
「え?あ、私も同じ、かな」
少し怪しい反応をしてしまった。
案の定、アオイは怪しい、といったような顔で見てくる。
「本当?」
「…恥ずかしいんだよ!!だからちょっとあんまり聞かないで」
そうしてしばらくアオイはミコトを見ていたが、少し視線をそらすと再び聞いてくる。
「やっぱミコトもお父さんの会社に行くの?」
「えー、何急に?」
「ほら、私親から圧力かけられてるじゃん。だからさ参考にね」
「うーん、別に考えてない、かな」
思い返せば父も成績のことは気にするが、進路のことには対して聞いてこなかったりする。
父は私にどうなって欲しいのだろう?
今日帰ったら聞いてみようと、なんとなく思った。
「それに私、お父さんの仕事って具体的に何か知らないんだよね」
「…そっか、ま、そうだよね」
そこでアオイは話を区切る様に話題を変えた。
「ねぇ、ミコト、メグル、今日空いてる?」
「え?」
「進路相談?勉強会?しようよ。
国語教えてよ、私が数学教えるからさ」
そう言われてミコトは迷った。
学校が終わった後は<機構>の迎えで、一度彼らのアジトに行くことになっていたから。
でも、友人の誘いも無駄には出来ないし…。
ミコトは少し悩んで断ることにした。
やっぱり油断して攫われたりしたくないし。
「ごめん、今日はちょっと」
「えー、いいじゃん。ねぇメグル」
「うんうん」
「…いや、今日は珍しく、お父さん早いから。
一緒にご飯、食べる約束したん、だよね」
もっともらしい嘘を吐いた。
アオイとメグルは残念そうに「じゃあ仕方ない」と顔を見合わせて今日は予定自体をやめにしたようだ。
その後は「あんなにサボりたがりのアオイが…」とメグルが嘘泣きをして、アオイに怒られていた。
ミコトは思う。
この二人もどちらかがもしかしたら…なんて考えたくないし、それはあり得ない。
やっぱり、昨日の今日だから変に気にしすぎてるんだろうとミコトは考え、友人たちのやり取りを楽しんだ。
*
放課後、今日は1人での下校。
今日は5時間目が終わったら帰れたので、いつもより明るい。
ミコトは電車に乗って、渋谷ハチ公前に来ると携帯デバイスで通話を開始した。
相手はカケルだ。
「どうだった?」
『安心しろ、どの方法でもつけられていない』
ミコトは、行き交う人々に視線をやりながらも、ひとまず安堵の息を付いた。
「それで…」
『ああ。お前の生活環境は大体わかった。
…後15分後に迎えの車が来る。昨日とは別の奴だ。
今から仲間が暗号化して位置と一緒に送る。
見たらさっさと向かえ』
「それもだけど、私の周りに擬態能力者はいた?」
『…』
ミコトがその話を振るとカケルは黙った。
「ねぇ、カケル君?」
ミコトに少し嫌な予感が走るが、少し呆れたような声色が耳に届く。
『この話はここまでだ。長くなりそうだからな』
「え?うん」
『お前は迂闊すぎる。来るときもよく周りを見てくるんだな』
そう言って切られた。
何故?と一瞬思ったがすぐに気付いた。
話が長くなればいっちゃいけないワードを言う可能性もある。
いくらミコトの使っている通話機能が珍しい形でも、長時間の通信によって電波受信してる、なんてこともなくはないのだ。
カケルのぶつ切りは正当性を帯びていた。
「…あー、しまったな」
*
通話を切ったカケルは車の中から、遠くでバツの悪そうな顔のミコトを確認しつつ、通話をヒイロへと繋げるように部下に伝える。
隣の席の部下が情報セキュリティなり通信なりの役割をしているのだ。
数回のコールで彼女は通話に出た。
部下の端末、その投影モニタに通話画面が映る。
『もしもし』
「ヒイロ、送ってもらった報告書は確認した」
『うん。ミコトにはそれを伝える』
「全てか?」
『ああ、そのことなんだけど…』
ミコトの経歴はそこの電脳師のおかげで容易に入手することができた。
分析した結果として、ヒイロたちが注目したのは彼女の身体診断の結果表と父親の職だった。
診断表は一見問題ない数値を示している。
しかし、ログを見れば、改竄された跡があった。
異常な数値を正常な数値に書き換えたことになる。
しかも診断を担当したのが、彼女の父親の企業群に属する医療機関だ。
そして、彼女の父親はある巨大バイオ企業の重役。
この国では電脳が密接に関わっているとは書いた。
しかし、その機械の移植技術や遺伝子操作や生体部位分野側での人間機能の拡張といった目標もある。
だからこそ、彼らも彼らで大きな権力を持つ企業である。
さて、この2つから考察、裏付けした事実というのは、彼らの目的は彼女の父親のポジションと企業の作品としてのミコトを欲しがってるということだ。
つまり彼らの計画では、彼女を誘拐し、擬態能力者がミコトに成り代わり、父親に接近して父親に変装。
そこからバイオ企業に潜入し、経営役員たちに技術力の違いを見せることで傘下に入れる。
そして他の企業も同様の手口によって上役を狙い撃つことで巨大企業全体を制覇し、国家を最後に攻め落とす。
ミコトは連れ去り、構成員なり実験体なりにするというもの。
ここまでくれば、完全擬態能力者を使って彼女の近くの友人に化けているというのは、簡単にできる推理だった。
『ミコトには、父親絡みでの身代金目的とだけ伝える。
私たちは殺人係だ。それ以上の仕事はやる必要ないよ』
「わかった。それと、裏切り者のことは」
『ああ、あいつね。
昨日の今日だ。あちらもまだ手を考えているのかな。
後々重要な場面で動けなくなるのも面倒だから、言っておこう。
(それにしても、ミコトの友人の、アオイ?はあからさますぎる質問だった。
何が狙いだ?誘ってる?
…私の存在だけでは抑止力にはならなかったか)』
「大丈夫か?ここで変な心変わりでもされても困るが」
カケルがそう言うとヒイロはきょとんとした顔をした後、笑った。
『ロボットが心を説くの?成長したね』
「別に。今までのデータの分析だ」
カケルは無表情で答える。
ヒイロはその顔は見えないが、その声色に「ちょっと怒ってる?」なんて思いつつ返した。
『いつかは知ることだよ。なら初めから覚悟させた方がいい。
一番最悪はミコトが連れ去られることだから』
*
「嘘、だよね」
ミコトの反応は、ヒイロたちの予想したままだった。
ヒイロは内心慎重に行かないとな、などと思いつつ言葉をかける。
「認めたくないのはわかるよ。
けど、彼らの計画的に一番都合がいいのは外部からの監視ではなく、内部のほうがいいってのはわかるでしょ?」
調べてみたところ、この国の監視社会は比較的優秀だと言えた。
基本、カメラや伝達媒体がある。
そこに電脳情報員のような能力者やこの国の同位存在がおり、データのジャックや閲覧、流出が可能であるという点を見れば、一々セキュリティや同類に邪魔される心配は初めから無いほうがいい。
一番遠い場所より、一番近い場所で一番タイミングの良い場所と時間で狙うのが理想だ。
それを可能にするのが、擬態能力者だった。
「でも、アオイはそんな変な…」
「だから完全擬態能力者なんだって。
見た目じゃわかんないし、化けてミコトたちと普段話が出来るくらいだよ。
それだけ準備してるか、能力精度が高いか。
どっちにしたって、それが事実である可能性が高いよ」
「…じゃあ、アオイはどこかで監禁とかされてるってこと?」
すでに死んでいるとは、ミコトは言いたくなかった。
勿論、話を聞いた感じではその可能性が高いのはわかってはいた。
ヒイロもそれを察してか、それをわざわざ言うことはない。
「うん。
だからその子を見つけて、そして敵組織の尻尾を掴むのも継続してやらないといけない」
「…」
ミコトは黙って俯く。
ヒイロはミコトの出方を見る。
自身や父親の安全と友人の行方。
引きこもりを決めるか、友人のために作戦を続行するか。
もっとも、リスクをとれば全てが解決できるというのは、皆、頭ではわかっていることだ。
そこの気持をどうするか、ヒイロは見ていた。
「(引きこもるなら、それはそれでいい。
囮継続は壊滅のための最短ルートというだけの話だ。
どうせ向こうも私の姿を見ている時点で、こっちの作戦には気づいているはず。
その上で偽物で挑発してきた。
向こうも私たちに対抗できる何かがあるのは予想できる)」
どの道、向こうのジャガーノートがある限り、衝突は避けられない。
<機構>の法を犯しかねないが、そこの始末は上司に丸投げしようとヒイロは、いつものクマの酷い上司の顔を思い浮かべた。
ミコトはギュッとスカートを握り、依然俯いて悩んでいる。
しかし、それも数刻。彼女は顔を上げるとヒイロたちを見て言った。
「私、アオイも助けたい」
ヒイロは黙って、ミコトの目を見る。
「正直、このまま乗せられたままで大丈夫かとか考えた。
でも、ここまで助けてもらってるし、そもそも、もう逃げれないとこまで来てるんでしょ。
だから、私が囮になって全部解決するなら、いいよ。
私を使って。
私にもお父さんにも、友達にも何かあってほしくないから
それに、その、2人が守ってくれるんでしょ?」
それを聞いてヒイロは「そうだね。ありがとう」と簡素に伝える。
状況を作ったのはヒイロたちだが、友人を理由にしてくるところにヒイロは個人的に疑問を感じた。
自身や身内の安全を取るのは生物なら当然の理だ。
しかし、彼女とその友人の関係度合いがどれくらいかは知らないが、たかだが時間を一緒に過ごした程度で、危険な道を行くというのはヒイロには理解しがたい行動原理だった。
しかしまぁ、乗り気でいてくれるなら、それを利用しよう。
「次の接触で、ミコトから誘う、あるいは誘いに乗って二人きりになって。
私もカケルも近くにいる。
そこで、擬態能力者を捕まえる」
どうせそこで向こうの秘策も出してくるはずだ。
擬態能力者が要なら守る役が必ずいるはずだし、元裏切り者を完全には敵組織も信用していないのは自明の理なのだから。
最低限。裏切り者の2人を捕らえるか殺し、秘策をぶち壊せばミコトへ完全に手出し出来ないようにすることが出来なくなるはずだ。
ヒイロを倒すかミコトだけを攫うかはわからないが、どちらも達成させなければいいだけの話だ。
<機構>の脅威となる、敵の戦力増強だけは避けなければいけなかった。
*
少年の異星人は、いつものアジトにて雇い主と相対していた。
雇い主とはこれが初めての顔合わせとなる。
今までは声のみのやり取りだったが、ここへ来て会うこととなった。
雇い主は地球の環境では普通に生きることが出来ないのか、フルフェイス型のマスクをつけている。
そして体には宇宙服のような防護服を着て、その上にロングジャケットを身に着けていた。
その姿は地球の昔のSF小説に出てくるような、サイバーパンクの住人のようだ。
「過密スケジュールの中、ありがとうな、わざわざ会ってもらって」
「いや、これは大事なことだ」
少年は一拍置いて尋ねる。
「…それで、本部とはどうだ?」
「企業の乗っ取りは依然中止だ」
「…そうか、まぁ弱小組織はそんなもんだよな」
「だが、やはりあの娘は欲しいそうでな
そこは果たそうと思う」
マスクの男が言う。
少年ーーカグヤはそれに、窓の外から見えるネオンの光と巨大ビル群を見ながら答える。
「あのガキに俺は何も感じないがな、何がある?」
「知っての通りあの娘は、この国の企業が作った人造人間だ。
しかし、ただの人形じゃない」
「…能力者ってことか?だが」
「わかってる。ただの能力者ではない。
宇宙人の力が宿っている可能性がある」
その言葉を聞いてカグヤの眼の色が変わった。
この宇宙には知的生命体が数多くいる。
それを<機構>では人と総称する。
そして、その人の中でも特異な性質ーー超能力を持つものを能力者と呼ぶ。
そのさらに上の規模の力を持つ、種族…数すら希少、生まれた場所もどう生まれたかも不明の超能力者を、宇宙から生まれた人として、【宇宙人】と呼称している。
「なるほど、仮にそれが覚醒したとして、それを俺に止めて欲しいってわけだ」
「ああ。だがヒイロという不安要素もある。
このままぶつけるのは2人の宇宙人を相手取ることになる」
それにカグヤは目を細めた。
「不安ね」
「戦い慣れてないあの娘はともかくとしても、だ。
お前と【鋼鉄の宇宙人】には明確な壁がある。
それは生命体として、そして戦闘経験の明確な違いだ。
その上で、お前の策を聞きたい」
【鋼鉄の宇宙人】とはヒイロのことだ。
確かに戦果は戦争時代でも彼女の方が上げていた。
しかし、カグヤもあれから無為に生きていたわけではない。
「俺の種族は昔から宇宙人に近い人だと言われている。
祖先が宇宙人だったとか説はあるがな」
「それで?」
「知ってるか?
能力は伸ばすことが出来るってな」
ここで男は、カグヤが言わんとすることがわかった。
「つまり、昔より強いと。
しかしそれはヒイロも同じではないか?」
「前の銀河戦争で、俺はあいつの兄貴と一緒に戦った。挑戦もした。
ヒイロの進化系があいつの兄だ。
つまりだ、俺はあいつらの機能を大体知ってる。見て、研究してきたからな。
だからあいつらの手札も弱点も知った上で、前より強化された俺の能力は、ヒイロに届く。そう思った」
カグヤが話し終えると、男は背もたれに身体を預ける。
「不安要素がぬぐい切れないな」
「戦闘なんて何が起こるかわかんねーよ。
勝ち目がある。そんだけで十分だと思うけどな」
「私には、本音が【鋼鉄】と再び戦いたい。
そういった本音があるように思えるがな」
カグヤはバレたかみたいな反応をした。
はっきり言ってしまえば、別にカグヤはこちらとの契約を破棄してヒイロと戦ったって良い。
しかし、それには戦う状況を自身で整える必要があるし、万が一こちらの不利益になればこちらとも戦う必要がある。
理想的に戦いたいなら、こちらの計画に乗った方が楽なのはそうだ。
偶然の再会とはよく言ったもので、この広大な宇宙空間において、個人で彼らと会うのは難しい。
「…念を押すが、私たちの最終目的は地球と人間を手に入れることだ。
別にヒイロを倒すことじゃない。奴は邪魔者、というだけだ」
「それこそそちらの仕事だろ?
俺の仕事は敵を倒して金をもらう、だ」
「安心しろ、戦わせてはやる。しかし、こちらが求めるのはあくまで時間稼ぎだ」
「なんの?」
「計画変更の話だ。
今回はあの娘だけを連れて地球を離れる。
序列五位までの殺し屋なら、安心してもよかったが、<機構>はどうもこの星が欲しいらしい。
ヒイロが出てくるならそれは現時点では不可能だ。
裏切り者どもの死の偽装も見破られ、更にはすでにあの娘にヒイロが接触している。
行ってしまえば八方塞がりに近い」
本部の本来下した命令は、多くの拠点を作ることだ。
そして、優秀な能力者を集めることだった。
<機構>に対抗する組織を作る。
それを彼らは目的としていた。
地球人は、素体として能力者の進化が見込めると組織は考えた。
そしてその作例はあの娘だ。
場所と生命体、この二つを手に入れれば、組織の規模拡大は一気に出来る。
しかし、場所は現時点では見込めない。
よって、作例のみを研究のために手に入れる。
そのためには、ヒイロを相手取る必要があるが、無理に倒す必要はない。
今は一度、取れるものだけは取って、引いて後から星を取りに行く。
これが男が考えた計画だった。
「なるほどね。
ある程度対抗できればいいってわけか。
なら、それこそなんも問題ないだろ」
「私はお前が熱くなりすぎて、殺されないかが心配だ。
お前がいなくなれば、俺たちの首も危うい。
もっとも成果物ゼロなら違う意味のクビだ。
ヒイロに切られるか、本部に切られるかの違いでしかないがな」
カグヤは席を立つと部屋の扉へ向かう。
「わかってるさ。
ただ俺も戦うには、冷静に勝ちにいくぜ」
カグヤはそう言って部屋を後にする。
男は考える。
よしんばヒイロを倒せたとしてだ。
殺人係は主に銀河戦争生き残りの能力者で構成されていると聞く。
しかも序列は殺しの有用性だ。
仲間が殺されれば確実な報復に来るはずだ。
カグヤの能力の高さは否定しないが、それでも相性はある。現状このままの作戦続行は厳しい。
やはり今は逃げるしかない。
後になってカグヤや部下たちに送られてきたメールには、擬態能力者を使って、ミコトを誘い出し攫うという旨が書かれていた。
ヒイロたちの邪魔はカグヤがひきつけ、誘拐組と別組が日にちをわけて羽田宇宙港からの便で、ラグランジュポイント4のコロニー内に一度逃げ込み、そこから本部へ逃げるというものだった。
それには潜伏している完全擬態能力者である、現アオイも受け取っている。
彼女、もとい彼はアオイの部屋にて上司からの指示内容を眺める。
詳しい方法も別途送信されていた。
「(これが成功すれば俺たちは救われる)」
彼はミコトの顔を思い浮かべてなんともいえない気持ちになる。
自身の息子と同じくらいの娘を攫うための計画というのは、やりきれない気持ちでいる。
しかし、もう裏切ってしまった。
それに母星の皆も待ってる。
彼は再び決意をし直す。
本番は1日後の月曜日だ。