私は宇宙人です。地球は魔境でした。   作:深瀬悠

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宇宙統括監視機構殺人係 4

5.

 

 

 

羽田宇宙港はかつて羽田空港と呼ばれ、主に地球を出ない空輸に使用されていた。

しかし、今より230年前に宇宙コロニー建設完了と宇宙旅客機が一般化すると、宇宙港として同時に生まれ変わった。

埋め立て面積を広め、滑走路を改良し、打ち上げ用の設備を設置した。

 

なお、羽田空港の方は場所を映して、成田空港跡地に建設されることになった。

 

 

ミコトたちは車を走らせ宇宙港へと到着した。

駐車場へ車を止めて、ミコトは運転手役と2人でターミナルへ向かう。

 

アイにはサポートに回るよう車の中で、サポートに回ってもらっている。

ミコトは宇宙港に来たことなどないし、構造や能力者を上の視点から見てくれる存在が必要だった。

 

差し当たってミコトには、擬態能力者が持っていた光線銃と同じものを渡された。

運転手役もとい護衛がやられたときのための保険だそうだ。

曰く、拳銃ではあたっても死なないが、光線銃なら当たれば大抵の異星人は死ぬとのこと。

ある【宇宙人】の能力を再現したものの廉価版らしい。

 

現在は20時過ぎくらい。

ターミナル内は意外と人がいた。

ここは出発の受付をするフロアで、基本構造は空港と変わらない。

ここから上の階層へ行くとレストランなどの商業施設がある。

 

もし、まだ擬態能力者が到着していなければ、地下直通の駅からこの階層の出発ターミナルへ来るはずだ。

ミコトたちへ、アイからインカムが入る。

 

 

『港内の構造はわかった。

 今はジャックしてカメラを乗っ取った

 ログ的にまだ来てないよ』

 

「電車の時間は?」

 

 

護衛役が尋ねる。

 

 

「直近であと15分で到着するやつがある』

 

 

ミコトは懐の銃を握りしめる。

 

 

「見つけたら…銃で」

 

『そうなるねー。まぁ向けるだけでも効果はあるから』

 

 

それに、とアイは付け加える。

 

 

『ヒイロ様もカケル様も、片が付いたみたいだから、一応合流はできそうだよ』

 

 

その言葉で幾分か安心した。

しかしヒイロたちでも、人間たちを気にしてここへ来るにはある程度時間を要するか。

 

 

『車を捕まえて向かうって。カケル様はエネルギー切れだから充電しながら来るって言ってる』

 

 

やっぱり2人…最悪1人で戦わないといけないかと思いつつ、ミコトは緊張を紛らわせるため端のベンチに座って辺りを見回す。

手続きのゲートや荷物検査場は基本的にただの空港と変わらない。

 

 

「そっか。まぁ、2人が無事でよかっ…」

 

 

気を紛らわせるため、返答を返す途中でミコトは次の言葉を言えなかった。

 

 

『?ミコトちゃん?どうしたの?』

 

 

アイが不思議に思って声をかけるが、ミコトも護衛も答えれない。

ミコトの視界の先にはある2つの影があった。

 

ソレは黒のモッズコートを着て、顔にはフルフェイス型のマスクをしている男。

それは怪人と呼ぶような風貌をしている。

 

もう1人は、スーツ姿のあのロボットとも違う生気を感じさせない人間の皮を被ったような男。

 

ソレらはこちらを見ていた。

 

ミコトはおかしいと思った。

コート男はともかく、あんなマスクをして歩いていれば周りの人も何かしらの反応をするはずだ。

サイボーグ技術で失った身体を補うのはあるが、フルフェイスは滅多にいないはずだ。

逃げる…はないにしても目は送っても不思議ではないはず。

しかし、それは認識されていないが如く、人ごみと乖離している。

 

 

「この星の人間もつくづく莫迦だと思わないか?」

 

 

静寂な空間の中で、ソレが話しかけてくる。

 

 

「多くのものと繋がり、現実の目すら弄ってもう1つの世界を見るようになった。

 だから自身が見ている、聴いているものすら騙される」

 

 

護衛が前に出てミコトを隠すように立つ。

 

 

「あなた、たちは?」

 

 

ミコトがかろうじてという感じで訊けば、コートの男は肩を揺らして小さく笑った。

 

 

「訊かなくてもわかるだろう?」

 

「宇宙人…」

 

「その言葉は適切ではないが、まぁこの際いい。

 ミコト、貴様を本部へ連れていく」

 

 

この言葉でミコトは自分がまだ狙われていることを悟った。

思えばインカムからアイの言葉も聞こえないのもおかしい。

それに、周りの人の反応。

これは皆情報を見ているときの不気味な眼だ。

「そういえば、裏切った電脳調査員はもう1人いたんだっけ」と今更ながら思い出した。

 

つまり、コートの男の連れが能力でアイの技術を上回った。

そしてここ一帯をジャックし直し、周りの人間の網膜にウイルスウェアを流し込むようにバグらせたということだろうか。

 

護衛は駆けだして銃を撃ちながら彼等へと向かうが、電脳調査員の1人がそれに応戦して、同じように銃で撃つと護衛は腕と足を撃ち抜かれ、地面に倒れる。

 

 

「衰えたな。

 銀河戦争で戦線離脱して、今は裏方しかやってこなかったお前が俺に勝てるとでも?

 こちとら現地生命体とも今まで何度も戦ってんだ」

 

 

調査員はどうも護衛と知り合いなようで、侮蔑の言葉を投げかけた。

 

ミコトも無駄だと今わかっていても銃を向けた。

しかし、男たちは動じない。

 

 

「お前に撃てるのか?人型の生物を殺した経験は?」

 

「やるしか、ないでしょ…」

 

「手が震えているぞ」

 

 

そう言われて、ミコトはもっと力をこめて銃を握る。

しかし、小刻みに震えるそれは彼女の恐怖を現していた。

男はその様に愉快そうに話す。

 

 

「お前の友人は今は無事だ」

 

 

突然、知りたかった情報を言われてミコトは不可解な顔をする。

 

 

「取引をしないか?」

 

「は?」

 

「我々がここにいる時点でヒイロたちがここに来たとして、手は出せない。

 つまりは勝ちだ。

 それはシャトルに乗り込んだ時点でより確定的なものになる」

 

 

この周りの人間すべてが人質ということだろうか。

 

 

「なら」

 

「だが、任務としては失敗もいいところだ。

 完全擬態能力者は手に入れたが、この星とお前はまだだ。

 できればお前は無傷で手に入れたい」

 

「…私が得する意味が分からない」

 

「俺たちを殺す、あるいは誘いを断れば、お前の友人を部下が殺す」

 

 

考えが甘かった。

友人の命と引き換えにミコト自身の命を差し出せってことか。

 

友人は大切だ。

しかし、捕まり痛いことをされる自分も想像して嫌だった。

 

ミコトはどちらを選べばいいか、わからなくなってしまった。

 

ミコトの脳裏にはアオイとの思い出が浮かぶ。

しかし、それでも銃を降ろすことが、引き金を引き切ることが出来ないでいた。

 

 

「やはり怖いか?

 友だちのためなどと綺麗ごとを並べても所詮はそんなものだ。

 しかし恥じることはない。それが生物だ」

 

 

男が近づいてくる。

そして銃口が男の体に触れた。

ミコトはそれでも撃てない。

男はすぐに銃を掴むと上に向けさせる。

 

 

「…子供の持つものじゃないな」

 

 

その言葉とともに男に殴られて、ミコトは気を失った。

地べたに倒れたミコトを首謀者の男が電脳調査員に指示し、担がせるよう言った。

 

 

「ああ、待て。その前に薬も打っておけ。奴が起きると面倒だ」

 

 

調査員の男が懐から注射器を取り出し、薬品を器具内に注入する。

これは麻酔だ。

 

ミコトの腕に針を刺す。

ゆっくりと薬液がミコトの中に入っていった。

男は少し様子を見て、ミコトに変化がないことを確認するといよいよ担がせることにした。

 

そして、調査員がミコトに触れようとしたとき、寝ているはずのミコトの手が動き、彼の腕を掴んだ。

 

 

「!?」

 

 

それは一瞬だった。

ミコトの姿がその場から消え、彼らが横を向けば幽霊のように立つ、目を開いたミコトが立っていた。

事態を察した首謀者の男が叫ぶ。

 

 

「待て!!【光の宇宙人】!我々は…!!」

 

 

しかしそう言った瞬間にはミコトの蹴りによって男の上半身と下半身が別れた。

 

上半身は吹き飛んだあと蒸発するように消える。

下半身はコントローラーを失いその場に倒れた。

断面からは身体が紫の液体として流れ出ている。

 

ミコト(?)は液体で濡れた保護服を踏みつけたまま、這いつくばる調査員に話しかける。

それは普段の彼女とは違う、男の口調だ。

 

 

「おい、お前」

 

「…あ…」

 

「最悪の目覚めだ。

 ミコトは気ぃ失ってるしよ、身体は動かしづれーし。

 なんかしたか?」

 

 

ミコト(?)は踏みつけた残骸を気にせず地面かのように歩いて、調査員に近づく。

【宇宙人】に恐怖した男はそれを見ていることしかできない。

ミコト(?)は男の首を掴むと持ち上げる。

 

 

「答えろよ」

 

 

そう言いながら周りの人間に目を向ける。

 

 

「こいつらがなんにも反応しないのもお前だな?」

 

 

調査員は全力で頷いた。

 

 

「なるほど。で、お前を殺すとこれが元に戻って、オレたちの姿が認知されると。

 そうなると…」

 

 

男を持ち上げながらも、ミコト(?)は何でもないように反対の手を顎にあてて考える素振りをする。

 

 

「ひと気のない場所だな」

 

 

そう呟くと同時に、男の視界が画面が切り替わる様に変化した。

それはまるで瞬間移動したかのように。

 

そこはミコトの学校の屋上だった。

 

 

「(あの距離を本当に一瞬で移動したのか…!?いや、宇宙人なら可能、なのか…?)」

 

 

男は悟っていた。

すぐにでも自分も殺されるということに。

 

 

「お前らには感謝してるぜ。

 16年間の退屈から、こうして解放してくれたんだ」

 

 

ギリッという音ともに首が締まる。

 

 

「じゃあな」

 

 

そして、ミコトの腕から光に包まれ、調査員の首から上が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミコトはマンションの自室で目覚めた。

カーテンの隙間からは日の光が部屋の中に入り込んでいる。

彼女はスッと起き上がった。

 

眠る前のことを思い出したからだ。

なぜ自分は自室にいるんだ?

自分は男に殴られて気を失ったはずだ。

ヒイロたちが間に合ったのか?

 

ミコトはカーテンを開ける。

窓の外はいつもの巨大ビルの森だった。

時間を見ればいつも起きる時間だ。

 

自室を出る。

リビングに行くと父が朝食後のコーヒーを飲んでいた。

 

 

「おはよう…お父さん」

 

 

ミコトの父はその言葉に、彼女に目を向ける。

 

 

「ああ、おはよう」

 

 

その一言だけだった。

父はすぐに手元のデバイス画面に視線を移す。

きっと出勤前から仕事をしているのだろう。

 

ミコトは自分の分の朝食を食器に盛り付けると、父の前の席に座る。

箸をとり、食事を始めた。

食器の音が響く。

それだけ。

それがいつもの朝だった。

 

しかし、今日ミコトは父に話しかけてみることにした。

 

 

「ねぇ、お父さん」

 

「どうした?」

 

 

話す内容は、昨日…おそらく昨日の顛末の手がかりだった。

 

 

「何も言わないの?門限過ぎてたこと」

 

 

確か空港に居た時点で、20時くらいだったはず。

19時が門限のミコトの家ではしっかり約束を破っていることになる。

父が20時に帰ってくるから、家にいないことはその時点でバレる。

 

ミコトが父の様子を伺いながら訊くと、普段厳しい父は意外にも表情を変えずに答えてくれた。

 

 

「そうだったのか?」

 

「え?」

 

「昨日、残業が珍しく発生してな。お前より帰ったのは遅かったよ」

 

 

しまったと思った。

まさか、自分で罪を白状してしまうなんて。

しかし同時に、普段定時退社をしてくる父の残業という言葉に違和感があった。

だがミコトは学生だし、父の仕事をよく知らないのだ。

そう言ったこともたまにはあるかと納得した。

それより今はどう言い訳するか、だ。

 

 

「えと…ごめんなさい。

 友達とのゲーセンが楽しくて、電車の時間、気にしてなかったです…」

 

 

ミコトの言葉に、父は少し黙って彼女を見ていたがやがて返答をした。

それはやはり平坦だった。

 

 

「いや、いい。

 今回だけは大目に見る」

 

「…あ、だって…いつもなら」

 

 

別に怒られたいわけではないが、父の変化が不気味なのが勝った。

 

 

「ルールは大事だ。

 一昨日の話とは少し別だが、子供に対してなんでもかんでも制限するのは違うと、部下に言われてな。

 たまにはそういうのもいいだろう」

 

 

これは棚から牡丹餅という奴か?

思わぬ自由範囲が広がったのは、嬉しい。

 

 

「ただ、門限はお前の身を守る目的でもある。

 常習化なり悪知恵なり働かせるなら、説教だ」

 

 

ミコトはその言葉に、父から目をそらした。

「昨日までめちゃくちゃ危ないことしてました」なんて口が裂けても言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから家を出て、通学中。

いつものように電車に乗りついで学校へ向かう。

 

夏真っ只中の7月中旬。

あと少しで夏休みだったことを思い出した。

 

蒸し暑い日の光の中、暑い雰囲気に当てられながら歩を進める。

別に汗が出てくるとか、日の光で肌が痛いとかのどが渇くとかはないのだが。

なんとなく夏だから心理的に暑く感じるのだ。

 

そういえば、教室の窓が割れてるからなんとかというメールが来てた気がする。

カケル君の攻撃で壊れたもんなと思い出し、最悪冷房は無しか…と思いつつ。

 

なんでもいいから校内で涼しいとこに行こうと少し早歩きをしようとしたとき、目の前の道にヒイロが立っているのが見えた。

 

 

「あ」

 

「よ」

 

 

言葉を失ったミコトに、なんでもないように挨拶をするヒイロ。

それから2人で道横へ寄って、柵に身体を預ける。

 

 

「ヒイロ、あれからどう、なったの?

 護衛の人は?アオイは?」

 

 

ミコトは早速気になったことを質問した。

ヒイロはミコトの顔をしばし見た後口を開く。

 

 

「裏切り者は全員殺した。

 敵組織の現地リーダーもね。

 今は残りの構成員を追ってる。

 

 運転手はまぁ義足になったけど、生きてる。

 

 成り代わられた子は、無事に見つけたよ」

 

「よかった…」

 

 

ミコトは安堵の言葉を漏らす。

 

 

「それでも、あの子は栄養失調気味だったから、今日は学校には来ないだろうけどね」

 

「…そっか」

 

 

一転してミコトが少し暗い気持ちになっていると、ヒイロは「それを伝えに来ただけだ」なんていって、「じゃあね」と言って立ち去ろうとする。

 

ミコトはすかさず彼女を引き留めた。

 

 

「待って」

 

「なに?」

 

「ヒイロは、その、組織を倒したら帰るの?」

 

 

ヒイロはそれに、目だけは左上を向けた後答えた。

 

 

「どうかな。今は何も言われてないけど。

 もしかしたら地球との話し合いが行われて、決着するまではいるかもね」

 

 

地球との話し合い。その言葉を聞いてミコトは最初に会ったときに抱いた不安を思い出した。

それは言い方を変えた侵略ではないか、と。

 

 

「…地球を、<機構>はどうするの?」

 

 

ミコトの震えた声とは反対に、日常会話の調子でヒイロは答える。

 

 

「んー、まだ検討中だからね。事件もあったし。

 地球と正式に関わるか否かがそもそも決まってないから。

 ごめん、やっぱりわかんないや」

 

 

ヒイロはそう言って笑う。

 

ミコトとヒイロはその後すぐに別れた。

ヒイロはどうも、顛末だけは優しさから教えてくれたみたいだった。

 

ミコトは残りの道を歩く。

学校はもうすぐだ。

ヒイロの<機構>のことを考える。

 

いつかこの景色すら異質なものになってしまうのだろうかなんて考えてしまう。

しかし今それを考えたところでどうにもならないし、ミコト1人の力でどうこう出来るわけでもない。

 

とにかく今を大事にしよう。

 

ミコトはそんな考えはやめて、地球人たちの波に戻ように残りの道を駆けだした。

 

 

 

 

 

 




社会に出てから数年。
やりたくもないことをやってる。
自分を変えれば世界が変わるなんて文句はその通りだと思う。
けど、宇宙人でも、いや何か空から降ってきて欲しいなんて今日も願ってる。

そんな願いから書いた話です。

これから、ヒイロの地球での生活を書いていきます。

第二話の【発・極夜都市東京】も読んでください。
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