私は宇宙人です。地球は魔境でした。   作:深瀬悠

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発・極夜都市東京 2

 

 

 

殺人事件の2日後。

ナギとその部下たちは、港区にあるムラクモ本社へと来ていた。

本社ビルは日本では有数の企業なだけあって、メガストラクチャーの形成に大いに貢献している。

 

そこまで大きくない会議室で、裁判の被疑者のように真ん中に立つ。

正面にはスーツ姿の如何にも上役といった男性陣と、複数の投影モニタ内に浮かぶ初老の男たちの顔。

 

後者は、どうやらムラクモの社員ではないようだ。

胸元のバッチのデザインが違う。

きっと電脳五大企業のどれかだろうなと予想する。

 

ナギは少し面倒くさそうに、言葉を投げる。

 

 

「今日はどういったご用件ですか?」

 

 

ナギのその声色を気にせず、上役たちは告げる。

 

 

「ああ、すまないね。

 忙しいときに。…殺人鬼の再来だったか?」

 

「ご存じでしたか。

 ならさっさと話してください。

 今も人が殺されているかもしれない」

 

「君らは後処理が仕事だろう?

 それに街中ではウチの製品もパトロールを行っている」

 

 

「そいつらが使えないから俺たちが仕事してんだよ」と思いつつ

彼らを少し睨む。

ムラクモたちはそれを見て、やっと本題を話し出した。

 

 

「…実は新製品の試作型のデータが盗まれてな」

 

「ほう。

 お得意のセキュリティシステムはどうしたんです?」

 

 

ナギは少しきな臭さを感じていた。

ムラクモの新製品ならなぜ他の企業の人間がここにいる?

ムラクモは技術力でも一番だ。

曰く電脳なら一世紀先を行くなんて言われている。

なのに、それを他の商売敵が知っている状態でこちらにそんな話をするか?

 

ナギは情報を他企業にも開示しなければならないほどのモノなのだろうと考えた。

 

 

「実はそれを破られた」

 

「…段々と読めてきましたよ。

 つまりその情報師を捕まえろってことですか?

 電脳課の連中からは何も言われてませんが」

 

 

情報師はお遊びを含めれば、このネット命の時代、そこまで珍しい存在ではなかった。

知識があるものは情報の閲覧や盗み、システムの機能停止することは出来る。

しかし彼らも相手は選び、大企業が管理する地帯や、今や管理AIに頼るインフラ中枢までは行わない。

それは報復、つまり逆探知やセキュリティなどで阻まれ、ネットワーク接続権限の剥奪をされる恐れがあるからだ。

 

特にムラクモは日本のネットワーク接続権の3分の1を握っている。

 

しかし、まさかムラクモに攻撃を仕掛け、成功する者がいるとはナギも少し驚いた。

 

 

「正式な報告はこちらで差し止めしているからな。

 まぁ、待て。

 話を最後まで聞いてほしい」

 

「…わかりました。それで?」

 

「逆探知は結局のところ失敗した。

 匿名通信に、ログの削除もしっかりしている。

 これはプロの腕だよ」

 

 

ナギは黙って話を聞く。

 

 

「しかし、手口を過去東京に限り遡って分析したところ、

 ある人間に当たった。

 それは、○○という情報師だ。

 君には彼を捕まえて欲しい」

 

 

投影モニタにその人物の写真が映し出される。

 

ナギはそれを聞いて内心ため息を吐きたい気持ちになった。

電脳課は電脳社会になってからの犯罪捜査において重要な位置になる。

それはムラクモ始め、他の企業からの社員の出向という形で行われている。

 

それが無理なら、ただの武装警察部隊のナギに見つけることなんて出来やしない。

ナギたちは捜査はするが、あくまで犯罪者や犯罪組織の壊滅が主だからだ。

 

 

「なるほど。

 聞けば聞くほど俺たちに向いてない仕事だってのはわかりましたよ」

 

「取られたものは対犯罪者用の試作AIだ。

 あれの弱点が解析されれば、このプロジェクトも頓挫する。

 ナギ君、これで得する人間は東京の犯罪者集団だろう?

 資金のある集団ならこれほどの腕の情報師を頼るのも容易い。

 だから殺人鬼とは別で、こうしてお願いしているのだ」

 

「…なるほどね。

 つまり、犯罪者集団を潰せばその逆。

 情報師との繋がりも見えてくるってわけだ」

 

 

ナギは今回の殺人鬼は過去の人物とは別人とわかっていたが、ここへ来て犯罪者集団の仕業であるという、事件の繋がりも考え始めていた。

模倣犯か犯罪集団のモノか。

どちらにせよ、本物の殺人鬼を誘っているというもの。

目的がなにかは知らないが、彼らは殺人鬼に用があるみたいだ。

 

ナギは帰ったら新宿の現在確認されている犯罪集団リストを確認することを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は巻き戻り、ハズキの死体が見つかって数時間後の今。

現在は夜の21時半過ぎ。

 

ヒイロとシグレは、彼女の用意したカグヤのアジトへ向かうため、中野に来ていた。

いつもの待ち合せ場所である駅の北口を出て未だ残る商店街を通り抜ける。

そして出た目の前にある巨大商業施設の入り口へ向かう。

 

時間的には夜だが、多くの人が行き交っており、東京はやっぱりどこでも賑やかだなとヒイロは思った。

 

 

「なぁ、探偵さんってどんな人なんだ?」

 

 

シグレが聞いてくる。

 

 

「能力は高いけど、まぁ、莫迦だね」

 

「いい意味で?」

 

「ある意味で」

 

 

そうして歩いていると施設の入り口で、ヒイロはカグヤの姿を認めることが出来た。

カグヤは灰色の髪が目立つ少年だ。

ジャージにサンダルとラフな格好をしているが、右腕が無いようで右袖が力なく垂れているのが目につく。

 

 

「よ、カグヤ」

 

 

ヒイロが声をかけるとカグヤはダルそうな顔をした。

 

 

「急に呼び出しってなんだよ。

 わりぃけど謝礼は…」

 

「わかってるわかってる。

 とにかく適当にどっか入ろう」

 

 

カグヤは面白くなさそうに不満そうな顔をするが、ヒイロの後ろのシグレを見てキョトンとした顔を一瞬した。

 

 

「こいつは?」

 

 

カグヤの態度見ていてシグレは「ヤンキーだ…」なんて思っていたが、いよいよ眼をつけられて、少しこわばった表情をした。

ヒイロが助け船を出す。

 

 

「彼は私の友達。

 今回のことに関係ある」

 

「ふぅん」

 

 

カグヤはシグレを睨むように見るが、すぐに興味を失ったように先を促した。

 

 

「行きつけのbarがあるんだよ。そこ行こうぜ」

 

「ちょっと、私たちは未成年でしょ」

 

「大丈夫だって。

 店員は全部わかってるし、常連しか来ない店だ」

 

 

カグヤはニヤリと悪い笑みをして、背中を押す。

 

言われるがままヒイロとシグレはカグヤに連れられて商業施設から歩いて、飲み屋街にあるバー内へ入った。

 

バーはある程度広く、暗めの静かな雰囲気だ。

カウンター席の他に、いくつか卓がある。

カグヤが早速店員に話しかけた。

行きつけと言っていた分、仲良さげに話あれよあれよと店角のテーブル席へ案内される。

 

そして皆で席に着くと、ヒイロが早速話し出した。

 

 

「カグヤ、すごいじゃん。

 お酒とか飲んでるの?」

 

「ん?ああ。まぁな。

 そもそも俺はこの星換算で18だぜ?

 コレクライダレデモヤッテルってな」

 

「はいはい。それで話したい件なんだけどさ」

 

 

そうしてヒイロは今までの事件のあらましをカグヤに伝えた。

カグヤは聞き終えると、眉間を左手で抑え、店員を呼ぶとウイスキーを注文した。

さらっとシグレも注文し、ヒイロはなんだか少し居心地が悪くなった。

 

ヒイロは酒という未知すぎる飲み物が怖かった。

 

 

「…で、やってくれるの?」

 

「やるのはいいよ、契約上な。

 だが、特定の容疑者がいない以上は、あまり期待しない方がいい。

 千里眼能力の修練度はそこまで高くないんだよ、俺。

 それにそいつがもう殺人はやらないって言ったら、能力は使い物にならない」

 

 

要は1人1人の監視は精度が下がるということだ。

殺人をやめる可能性は、警察捜査中でも犯行をしたところを見るに、今のところ考えづらいから、それは杞憂として。ヒイロは犯人像をもう一度考えてみようと思って、そこでシグレが口を開いた。

 

 

「超能力…ってのは詳しくはわかんないんですけど、一番は犯人像が絞り込りこめればいいってことですよね?」

 

「ああ。例えば男か女か。後は年齢層に、背丈…そこは普通の捜査と同じ

 だ」

 

「なるほど。んーでも、犯人像は現状わかりません。

 けど、他の要素ならわかります。

 僕の推理を話しますから、そこから使えそうな要素を教えて欲しいです。

 

 過去の事件記事を見ていて犯行時間は夕方から深夜にかけて。

 場所はビル上、路地裏と定番だが、ひと気のない場所。

 そして、首の切断が確実にその場で行われているということ。

 

 ここがねらい目だと思いました。

 

 一度殺した後にそこから切るまで犯人はその場を動かない。

 その間の時間で、ひと気のない場所…正確には監視カメラのない場所を範囲として見つけ出すってのはどうですか?」

 

 

シグレの案を聞いて、カグヤは考える。

 

 

「(首の切断がその場で…?

 ああ、そうか。移動でのカメラ避けか。

 確かに人一人を街中で抱えるなんてカメラじゃなくても目立つ。

 で、勿論それはひと気のない、それこそカメラのない場所を視る、か。

 確かにそれなら精度は監視カメラレベルまで引き上げられる)

 

 ああ、それならいけそうだな」

 

 

カグヤは笑う。

翻ってヒイロは少し不満げに口を尖らせていた。

 

 

「なんだよ、ヒイロ」

 

「なんでもない」

 

 

役に立てなくてしょげてるんだろうなとカグヤは思った。

まぁ、ヒイロの仕事は上からこの生物を殺せという命令に従う、要するに兵器扱いだ。

捜査ってのは基本やることはないのだ、無理もないだろう。

 

 

「まぁ、とにかくだ。

 その条件で視てみるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日がオレンジになり始める頃。

カグヤは次の日から早速メガストラクチャー連続帯の、カメラの無い場所の監視を始めた。

場所はカグヤのアジトであり、ヒイロの姿もある。

シグレは流石に大学のゼミに行っている。

そもそも彼にアジトの場所も明かすことは出来ない。

 

ヒイロは、部屋の真ん中で胡坐をかいて座るカグヤを眺めている。

カグヤは目を開いてはいるが、まさに遠くを見ているような様子だ。

 

ヒイロはそれを見ながら数か月前のことを思い出していた。

あの時、ヒイロはカグヤを殺す気で刀を振った。

そのはずが、軌道はズレて彼の右腕を消し去るに留まった。

挙句、カケルにも秘密にして彼を助けた。

 

なぜ殺したくない…なんて考えたのだろう?

それが仕事で、生活していくための大事なことなのに。

久しぶりに人型の生物を殺したから、銀河戦争の記憶がフラッシュバックでもしたんだろうか?

 

ヒイロは携帯電話をいじって時間を潰すことにした。

すぐそこのソファに寝そべる様に座る。

 

数時間経った。

夕日はすでに沈み、街も夜の活気が出ている。

ふと外を見れば、すっかり見慣れた高層ビル群の作り出す夜景とネオンがキラキラと輝いている。

 

カグヤが突然、ヒイロに声をかけた。

 

 

「おい、見つけたぞ!」

 

 

ヒイロは携帯をしまうと彼に近寄る。

 

 

「場所は?犯人の特徴は?」

 

「場所は、六本木んとこだ…けど、これは…」

 

「どういうこと?」

 

「突然首が落ちて、心臓から血が流れた。

 こいつは、超能力使いの仕業だぜ」

 

 

確かに地球人で超能力者が生まれないとは限らない。

この宇宙単位ではカグヤの種族も、殺人係第五位のアイツも潜在能力、突然変異体として存在している。

 

 

「じゃあ遠隔の殺人ってことか。

 一帯で能力を使った生物は特定出来る?」

 

「俺もだけど、頭で考えて発動するんだ。

 動きなんていらねーからな、能力者同士の力場感知とかもねーし、わからん」

 

 

殺人鬼=超能力者。

だがヒイロには違和感があった。

能力があれば、いくらでもいつでも殺人ができるはずだ。

実際に犯人は直接近づくことなく、人間を殺している。

しかし、時間帯と場所にこだわっている。

殺人趣向といえばそうかもしれないが、過去の事件との空白期間がそれを否定しているように思えた。

 

どうにも過去と今の犯人が同一人物だと考えるには違和感があった。

 

 

「(元々能力者なら空白期間なんていらず、自由にいつでもどこでも殺人が出来る。

 空白期間中に能力者になったとしても、その今に時間や場所にこだわる意味がない)

 

 …模倣犯かもね」

 

「え?」

 

「これって、多分殺人鬼じゃないよ。

 別人が殺人鬼の真似して殺してるんだと思う」

 

「なんでそう思う?」

 

「明確な根拠はないけど、夕方から夜にかけて、絶対に首を切って殺す理由を考えた。

 普通の人間なら生活上の縛りがあるから時間や場所に囚われるけど、

 超能力者なら話は別。

 

 つまり、殺人鬼を真似て殺すことが目的の1つ。

 その先は…わかんないけど、とにかくそんな気がした」

 

「…なるほどな。

 で、次はどうする?」

 

 

現状犯人像が輪郭を帯びてきたが、証拠もない犯行の特定は現状不可能に近い。

まだ情報を集めなければならない。

 

 

「現場に行って、今回の事件担当に会う。

 そこで情報を得るんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナギは血まみれの現場で転がる生首を見つめていた。

相変わらず汚い切断面に不釣り合いな綺麗な死に顔がそこにはある。

そして案の定、心臓の辺りからは血が流れている。

 

ここは大通りから外れたところ。

住宅なりマンションなりが並ぶ。

全く人通りがないわけでもないが、カメラがあるわけでもない。

そんな場所でこの死体は発見された。

 

まさか、ムラクモの技術開発社員が殺されるなんて。

 

 

「(今回盗まれたデータの開発もコイツのチームが担当していた。

 そうか。

 本命に殺したいのはコイツで、今までの殺人は本命を隠すための偽装。

 しかも殺人鬼に罪を被せてきたと来た)」

 

 

ムラクモの連中は最後まで試作AIの詳細を話さなかったが、開発者も殺しているところを考えるに、それが起動すると相当困るらしい。

 

これでただの一般人による殺人鬼の真似事という線は消えた。

ここへ来る前に、巨大犯罪集団の情報は頭に入れた。

やはり情報師と集団はグルだ。

 

巨大犯罪集団はいくつかあるが、それを特定するためには現状虱潰しに集団を襲撃するしかない。

まずは新宿一帯を一掃してやる。

いや、開発はチームだ。

生き残ってる連中を見張ればおのずと敵は釣れるか?と考えていると背後が騒がしいのが気になった。

 

振り返ってみれば、あの時の赤髪の少女と初見の隻腕の少年が部下たちと揉めていた。

ナギは面倒そうにそれに近寄って声をかける。

 

 

「君はあの時の子だな。今日は別の友達を連れてきたのか?」

 

 

そう言いながら彼らを見る。

少女…ヒイロは相変わらず無表情の薄気味悪いガキだ。

翻って少年は右腕こそないが、目つきはナギと同じ、殺しをやったことのある側面が見えて少し困惑する。

「ども」なんて言って少年は、不器用な会釈した。

 

 

「刑事さん、彼は友達のアマチュア情報師だよ」

 

「…そうか。それでここを知って探偵ごっこしに来たわけだ。

 この前も言ったが、君たちに話すことはな…」

 

 

ナギが追い払う様に文言を言おうとしてヒイロに遮られる。

 

 

「私たちはあなたたちに話すことがあって来た」

 

「…それは?」

 

「それを言うには死体を見せてもらわないといけない」

 

「なら要らない。

 それに乗るほど困っちゃいないからな。

 お前らを連れて行って、これ以上上司に怒られて頭痛の種を増やしたくない」

 

「なら犯人はある程度絞り込めてるってこと?」

 

 

ヒイロの、長めの前髪に隠れぎみな翠色の瞳の奥が、光明を見つけたと言わんばかりに一瞬輝く。

そのヒイロの言葉にナギは目に見えてイラついた顔をした。

 

 

「ねぇ刑事さん。

 あなたたちが街の風俗事情なり犯罪や暴力集団に詳しいように、私たちは別側面からある重要な情報を掴んだ。

 これで今まで考えてきた常識がひっくり返るくらいの」

 

 

その警察に挑戦するような物言いにナギは少し興味が湧いた。

こんなガキの言うことを信じるのか?という自身の声が無いわけじゃないが、それでも今までの刑事としての勘がなんとなく信じてみようなんて言っている。

 

それに開発陣が皆殺しになれば終わりだ。

正直、情報が得れるなら欲しいのが本音ではある。

 

黙ったままヒイロを見るナギに、その場にいた部下たちは慄きながら彼女らを見る。

 

ナギの所属する<武装隊>は東京という狂暴化する犯罪者たちに対抗するための存在だ。

刑事事件に各1人は捜査員を率いて、捜査を行う。

彼らは自身の好みの武器で犯罪者の鎮圧を行う。

相手取るのは主に、違法改造された機械人間なり、ハイテクノロジーの武器を使う人間だ。

 

ナギは今まで多くの犯罪者を取り締まり、時には裁くように切り殺してきた。

勿論一般人に手を出すはずもないが、それでもその纏う雰囲気というものは恐ろしい。

 

ナギはやがて重々しく口を開く。

 

 

「こいつらを通す。

 死体だけ見せて、後は帰ってもらう。

 お前たちはこのことは黙っていろ」

 

 

その言葉にマジかという顔で部下たちはナギを見るが、怖い上司の言葉に従うことにした。

 

ヒイロたちはKEEPOUTの投影ウインドウを抜けて、進む。

そしてまだそのままの死体を囲んで見下ろす形になる。

 

ヒイロはしゃがんで死体の、頭部を指さす。

 

 

「死体を見るとおかしな部分がある。

 死因は見たところ刃物で心臓を突き刺したもの。

 でも、今までと違うのは死体の表情が綺麗すぎる。

 

 今までの死体…2件目も3件目も死因は刺突だけど表情が痛みで歪んでたり、何かしらの表情はしていた。

 それはそうだ、胸を刺されてリアクションをしない人間はいない」

 

 

ヒイロは犯人=超能力者に繋げるための論拠を並べていく。

 

 

「何が言いたい?」

 

「これは首を落としてから、胸に穴を開けた。

 順番が逆なんだよ」

 

「なら、それこそ死体の顔は歪んでないとおかしい。

 それに首を切るためには被害者の身動きも封じる必要がある。

 見ろ。

 この死体には胸以外の外傷や服の乱れがない。

 話が飛躍しすぎだ」

 

 

ヒイロはナギを見上げながら少し笑みを作って言った。

 

 

「透明な刃で一瞬にして切断されたとしたら?

 この死骸はなにが起きたかわからないまま死んだ。

 そしてそれを隠すために、死因を心臓の破壊にした」

 

 

ナギはヒイロの言っていることの意味が分からなかった。

透明な刃で瞬間的な殺人?

そんなの探偵小説の機械仕掛けトリックでしか見たことない。

しかしこんなトリックも、仕掛けようがない場所では不可能だ。

それに彼女の言葉通りなら死体状況に一応の筋は通る。

 

 

「なら今回の犯人は殺人鬼ではないと?

 それに、なんだ。透明な刃は超能力でも使ったと言いたいのか?」

 

「今回だけじゃなく、ここ最近の殺人は全部殺人鬼じゃない。

 そして透明な刃は、刑事さんの言うように超能力だよ」

 

 

ナギは目を見開く。

今回の犯行が別人なのは首の切断面の汚さでわかっていた。

しかし、ヒイロもそこまで考えていたのかということに驚いた。

そしてそれを可能にする超能力の存在にもだ。

 

地球上において過去超能力者というのは存在したらしいが、どれも眉唾、噂だ。

いるにはいても、勘がよかったり予知が、と言ったように弱い。

それが今殺人を行えるほどの力を持った奴が東京に潜伏している。

 

 

「…どうやってそれを看破した?」

 

 

ヒイロはカグヤを指さす。

 

 

「彼の力…ホントは彼も超能力者だから」

 

「あ、おい!」

 

 

少年はヒイロを怒鳴った。

反応的に演技は感じられない。

 

ナギは顎に手を当てて考える。

 

それを信用してみるとして。

しかし依然として、その超能力者と情報師と犯人のいる犯罪集団の居場所はわからないままだ。

護衛による囮は殺害方法的に無理だ。

であれば、やはり虱潰ししかないが、それまでに開発チームが全滅すれば任務失敗だ。

 

ナギは少年に目線を送る。

彼の能力が本物なら、犯罪集団の居場所も見つけられるかもしれない。

 

正確には情報師を見つけてからの集団を見つける順番になる。

 

そのためには犯罪集団と企業のいざこざ関係を開示しなければいけないが、まぁ、最悪の事態よりはマシだ。

 

 

「おい、少年」

 

「?うす。なんすか?」

 

 

ヒイロと言い合いしていたカグヤたちがこちらを向く。

 

ナギはムラクモから試作データが盗まれたことと、

今回のそこの社員の殺害によって、殺人鬼模倣犯と窃盗をした情報師、犯罪集団が繋がっている事件だということを告げた。

 

それを聞いたカグヤはどうするという顔をしてヒイロを見る。

ヒイロはそれに頷いた。

 

 

「あーわかりました。やってみます。

 情報師の写真はあるっすか?」

 

「ああ、これだ」

 

 

そう言って、ナギはデバイス画面に男の写真を見せる。

これはムラクモで見せられた男の写真と同じものだ。

 

それを確認するとカグヤはすぐに雰囲気を変化させた。

きっと能力を発動しているのだろう。

彼の左眼。少し長い前髪から覗けるヒイロと同じ翠眼の虹彩模様が渦を巻くように回転する。

そしてカグヤはすぐにそれを見つけた。

 

 

「いたぜ。あそこは…!!」

 

 

突然カグヤは目を抑えてふらついた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

ヒイロが支える。

カグヤは手を振って大丈夫だとジェスチャーする。

しかし、左眼は充血して痛々しい。

 

 

「千里眼が邪魔された。

 けど、ある程度の場所はわかったぜ。

 秋葉原だ」

 

 

秋葉原は主にハード系の商品が集中する地区だ。

いくら高度なプログラミングなりが出来ようとも現実の機械性能が追い付かなければそれは電脳上では発揮出来ない。

そのため合法、違法問わず拡張デバイスが商品として並び、そこには色んな情報師が集まる。

 

件の男がそこにいるというのはベタだが、上記のようにアマチュアも数多くそこの辺りをうろつくのだ。

不思議ではない。

しかし、だ。

秋葉原は犯罪集団においては違法商売上拠点を置いて得は少ないし、数多くの情報師に狙われる可能性もあるのだ。

そこに集団はいないだろう。

 

 

「秋葉原ね。早速行こう」

 

 

ヒイロの言葉にカグヤは頷くがナギは待ったをかける。

 

 

「秋葉原は上にも地下にも構造物が伸びた1つの迷路要塞になっている。

 案内役がいないと詰むぞ」

 

 

あそこは、ほぼほぼ独自の進化を遂げた都市だ。

住人が好き勝手に改造を加えて、国もなかなか手を出せない。

行ってしまえば無法地帯。よく言えば別の国だ。

 

殺人、窃盗こそ起きないものの、電脳に繋がった日本人たちは電脳犯罪の危機にはさらされることになる危険地帯だ。

ナギですらあそこへは行ったことは少ない。

行っても観光地帯の小さな部分だけだ。

 

警察内でも、知り合いでも地理に詳しいやつはいたかとナギが考えているとと、ヒイロは携帯電話を取り出して電話をかける。

 

 

「もしもし。シグレ?」

 

『どうした?何かわかったか?』

 

「うん。

 詳しくは後で話すけど、犯人に繋がる場所は秋葉原だってのはわかったよ」

 

『…!そうか!しかし、アキバね。

 またすごいとこにあるもんだ。

 で、つまり案内役が欲しいんだろ?』

 

「うん。前に言ってたよね?

 詳しいって」

 

『ああ。

 あそこは研究で何度も行って、アマチュアどもとも知り合えたからな』

 

「よし。

 なら、駅前で集合しよう」

 

 

そう言い終わって通話を切るとナギを見る。

 

 

「前の大学生だな。

 そいつが案内役か?」

 

「うん。

 麻雀のときに言ってたのを思い出して。

 じゃあ行こう。時間がないんでしょ?」

 

 

 

 

 

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