色々短編集(エグめ)   作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています

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狂化の刻印

 この世界は法を上手く扱う人間が勝つことが出来る。裏を掻くことが出来る人間が勝つことが出来る。誰よりも善を上手く使うことが出来る人間が勝つことが出来る。

 そういう意味で私の能力は最高の能力を手にしていると言ってもいい。狂器“狂化の刻印(オーバーロード)”は身体能力、五感、感情などを強化することが出来る。それも自分でも、他人でもだ。

 一人の人間に一つまでしか強化出来ない制限はあるが、その制限を強化することで最大二つまで強化することが出来る汎用性の高い能力だ。それを使えば、人を操ることなんて簡単であり、そこ世界のシステムも容易に利用できるのだ。

 

 

 

 ある日の事。前から決めていた計画の最終仕上げのために人を呼んでいた。その男は最初は面白いくらいに優しく、そして甘い人間であった。私が上手いこと言いくるめると、クルクルとその場を面白いまで踊り狂うため、ついつい人格をほぼほぼ改造してしまったのだ。

 その男には彼女が居るようで、それを利用して小金稼ぎをしていたわけだが、最近になって金が尽きてきたのか、小金稼ぎ兼玩具という役割を果たせなくなってきた。故にその関係を壊してしまおう。というわけだ。

 

「な~んてな。お前なんてカス以外の何物でもないだろ!!」

「……え?」

「じゃあな。」

 

 あはは。予想通りに男の言葉に女は項垂れて、地面に蹲ってしまう。あまりにも可哀そうな様子に思わず声をかけてしまう。そう、可哀そうだから慰めてやろうとね。

 それに、私に利用されれば単純に嬉しいだろ?救ってやるんだから、ちゃんと役に立ってもらわないとな。

 

「何かあったのですか?私、警察ですが。困ったことがあれば助けますよ。」

「けい、さつ。」

「はい。市民の味方です。暴行を加えられたのですか。つらかったですよね。」

 

 警察の登場に驚いているようだった。大きな目をぱっちりと開いており、確かにそばかすが目立つものの普通に可愛いじゃないか。まぁ、顔の良し悪しなどどうでもよくて、単純にこの女は世渡りが下手なんだろう。

 暴行を加えさせたのが私だという事実に、この女は一生気がつくことはないだろう。気が付けるわけがないのだ。男ももう役に立たないし、用済みだからな。適当に手柄を欲しているやつに投げておくさ。

 

「信じる心を強く持ってください。人は協力しないと、生きてはいけませんから。」

「信じる心を強く……」

「とはいえ、この年にもなって、警察内の政治事を上手くできなくて、現場で駆けずりまわっているのですが。」

 

 どうやら、警察であるという事実も疑う心を無くすことが出来ないようだ。なら、私の狂器の出番だ。信じたいという感情を、信じる心を強化する。

 すると、面白いように女の目から疑惑という感情が消えていく。そうすれば後は簡単だ。信じたい人間の言葉を人は聞きたいと思うものだし、それに疑いたくはないのだ。

 優しい風な言葉を投げ掛けながら、私は微笑んでやればいい。適当にゆったりと頷いてやれば、この類の人間は自分の見たいものを見たいように見る。だから、簡単に騙されてくれる。

 あぁ、信じるってことは素晴らしいことだ。

 

「それは、大変でしたね。」

「はい。私はただ愛されたいだけなのに。」

「ええ、愛されたいですよね。その気持ちはもっと強く持った方がいいです。愛されたいと強く思う。それが、幸福な人生への一歩です。」

 

 適当に話を聞き流していたけど、女は愛された生き物らしい。なら、その気持ちを肯定してやろう。それに、狂器はその人間の根源、生物の本能、人間の特性に合ったものを狂わせることで高確率で発現するのだ。

 おそらく、愛というキーワードとあとは、女にとっての都合のいい愛、信じたい愛を言葉にしてやれば、おのずと開花するだろう。

 

「どうしたら、愛されることが出来ますか?」

「信じ、愛して、受け入れる。どうでしょうか?」

「なるほど。私が信じて、愛して、受け入れることで、初めて人に愛されるのですか。」

 

 ほうら、自分から愛されるために必要なものは何か。そんなことを聞きだした。

 そして、私の言葉を聞き、女は自分の根源を理解して、狂器に目覚めたぞ。これでまた狂器を使える手札が一枚増えた。これなら、男を始末することなく、この女の能力の実験体にしてしまえばいいだろう。

 さて、この女の狂器は何だろうな。

 

 

 

 また、他の日。最近のお気に入りの演目があるため、朝早くから気分よく現場に向かっていた。

 資産家の息子という恵まれた立場、それに対価を払うことで、契約を強制できるという強力な能力を生まれながらに持つ男。

 どこまでも恵まれた男の喜劇を一緒に演じに行こう。

 

「それで、バレてないよな?」

「はい。バレていません。」

「くくく、くはははは。」

 

 この男は自分を絶対に信じている。自分以外を信じていないとは違うが、究極的には自分以外の言葉を斬り捨てて、自分の言葉を信じている類の人間だ。

 それはこの世界を生きる上ではかなり有用な素質であり、共謀者に慣れる素質もあるかと思ったが、如何せん愚かなのだ。権力欲が強く、この世を真に楽しむということをわかっていないのだ。

 

「そう言えばですが、最近の計画はどうですか?」

「ん?あぁ、ここの街の有力者は順次支配出来ている。」

「それはよかったですね。このまま、その道を進むように意識を強く持つといいですよ。」

 

 未だに有力者の支配などということをこそこそ、ちまちまとやっているようだった。もっとど派手に核ミサイルでも抑えて、首脳陣を抑えろって話だ。

 まぁ、首脳陣の狂器使い達は化け物ぞろいのため、そんなことしようものなら、すぐに消されてしまうのがオチだけどな。それをこいつは本気でちまちまやっていけば出来ると思っているのが、最高の喜劇だ。

 それもこれも、私がその性質を強く引き出したから何だが。支配計画の道を進むのが正しいという認識を強化する。これで最強の思考誘導の完結だ。

 

「それと、警察も優秀です。人を疑う心を強く持たなくてはなりません。契約しているとはいえ、どこから話が漏れるかは分かりませんから。」

「くくく、それをお前が言うのか。」

「あっ、そうですね。あはは、聞かなかったことにしてください。」

 

 お前に言うとも。だって、一番最初に信じる心を強化して、定着させたからな。お前はもう私を疑うことはできない。根源レベルで私を妄信的に信じているのだから。

 とぼけた失言を装った演劇も、中々スリリングで楽しいだろう?決まった台本を話すのは退屈だが、この男がクルクルと踊っているのを見るのは中々楽しいものだ。

 

「では、また私は仕事に戻ります。」

「ああ、今日のことはちゃんと記憶からなくしておけよ。」

「はい。記憶から消去しますね。」

 

 えぇ、記憶からは消去する。相手の契約にさからう術は私にもありませんが、契約を歪めて認識することは容易い。それに相手もそうやって契約しているからな。

 記録。スマホでも、盗撮カメラでも。何でもいいから記録だけ取っておけば、それでおしまいだ。それに気が付いていないガバガバさも、この男との演目が喜劇である査証なのだ。

 くくく、くははははは!!男がクルクルと踊っている。私も一緒に踊ってやろう。楽しかろう?

 

 

 

 そして、この日に私のお遊びが爆発した。それは事故に遭った老夫婦の話を聞いたためだった。

 あまりにも面白い状況に、そして狂器の発現の確立の高さに私はうきうきと若者の家へと向かった。

 

「すみませーん。」

「あっ、はい。」

「は、はい。何でしょうか」

「私、警察ですが。よろしいでしょうか?」

「けい、さつ?」

 

 善良そうな男。あまりに普通な様子に一瞬がっかりするが、老夫婦の話を聞く限り、この男の根源は確かに分かりやすいものだ。というより、本人が根源を認識しているタイプだ。

 後は、その根源を聞き出して、そして利用すればそれで済む話だ。

 

「安心してください。何も犯罪をしているから来たという話ではありません。」

「は、はぁ~」

「実は職場の社長さんが事故に遭われまして、それでその奥さんがあなたのことを心配しているものですから、様子を見に来たというわけです。」

 

 まずは事実で牽制を打つ。このタイプは肝が小さく、そして国家権力に弱い。一般的な小市民だ。

 それにこの男に過失があると認めさせれれば、藁にもすがる思いでその場の言葉を咀嚼して、どうにか自分を保とうと必死になる。その時の言葉はまさしく、神の啓示のようなものなのだ。

 

「だ、大丈夫なんでしょうか。それに事故って、なぜ?」

「それはですね。……。……あなたの様子を見に行くと出かけたらしく、その途中で車と衝突してしまったというわけです。」

「え?……え?」

 

 思考に空白が生まれる。この時にこの男はその空白を埋めようと、こちらの言葉を必要以上に理解しようと、普段の数倍頭を回転させる。

 ま、簡単なことだ。こんなものは私の狂器を使うまでもなく、ただの事実を羅列すれば完結する。

 

「気を強く持ってください!!事実は事実として受け入れなければなりません。」

「う、あ……。」

「あなたのせいではありません。ただ、少しかみ合わせが悪かったのです。」

 

 正気に戻るように理性を強化する。きっと、男には頭が急激に覚めたような感覚を覚えていることだろう。事実を事実として認識できてしまうのだ。

 そうすると、男は罪悪感を刺激される。そこに私がフォローするように言葉を重ねれば、それを信じたいけど、でも事実としては自分が悪いと矛盾した思考と共に許されたという願いが発生する。

 

「少し落ち着きましょう。なぜ、あなたはこの仕事を始めたのですか。私に聞かせてもらえませんか?」

「はい。ありがとうございます。」

 

 そうなったときに、男は思考を止める。そして、私の言葉に従って行動し始めるのだ。手はじめに根源を探ろうか。

 

 

 

 僕は思い出す。仕事で手いっぱいで、いつしか薄れてしまっていた記憶を、子供の頃の情景を。

 人形劇、朗読会、宙を舞う人形、人形を動かす指、それに人形と手を繋ぐ指。すべての糸が繋がったように、僕の記憶は一つの想いを形作る。

 憧憬。最初はされだった。ただ、憧れ、自分でも作りたかった。それだけだった。なのに、いつしか上手くならないといけないと蝕まれて、他人の腕前と比較している。どうして、人形劇のことを忘れてしまっていたのだろうか。

 

「素敵ですね。」

「はい。どうして、忘れていたのだろう。」

「そう言うこともあります。でも、次が肝心です。今思い出したことを強く意識して、忘れてはなりません。」

 

 滔々と語られた言葉はやはり、根源たる情報をしっかりとつかんでいた。人形劇か。これは面白い狂器に開花する可能性が高い。汎用性が高く、世界の法則さえも捻じ曲げてしまえそうな。そんな狂器。

 狂器を発現するには根源の情報が絶対に必要だ。それを忘れさせてはならない。それが残り続ける限り、その狂器は洗練されていくのだ。

 

「ありがとうございます。」

「えぇ、強く意識するんですよ。人形と指を繋ぐ細い糸。糸で操られて躍動する人形。口から語られる言葉。それがあなたを繋ぐものですから。」

「糸、人形、言葉……。」

 

 人形、つまり人間を糸で操り、言葉で支配する。糸で操る性質か、言葉で支配する性質か。どちらでも構わない。糸で操る性質の方が確率的には出やすいだろうが、さてどうなるだろうか。

 で、私的には言葉の支配は喜劇の演目があるから、糸の方が都合がいいな。

 

「ありがとうございます。」

「いえ、糸を繋げば誰とでも繋がれます。きっと、社長さんも分かってくれるでしょう。」

「はい!!」

 

 これで、きっとこの男は狂器に目覚めただろう。そして、社長に狂器を使って、自分の能力に自覚的になる。

 また一つ、手札が増えた。

 

 

 

 今日も今日で、新しい手駒増やしに精を出している。

 前に順従にした部下たちがせっせと一般市民を追い立てる。私はそれを救って、そしてちょいと言葉を紡ぐだけでいい。感情を強化すればいい。

 感情という不合理なものが一番人間を縛るには簡単だから。それに不合理な感情というものが一番面白いしな。

 

「ありがとうございます。」

「いえ、私は市民の味方ですので。」

 

 どこか怯えたように視線をさ迷わせる男に私は出来るだけ柔らかく、微笑みを浮かべる。男は緊張に顔が引きつっているけれど、事態が済めばきっといつもの雰囲気に戻るのだろう。

 私という人間を信じることになるのだから。

 

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