アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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アーサー王(史実)がしたこと【7】

 

東方世界のローマ、四大文明を築いた地の一つ中華帝国。それを南北に二分する勢力のうちの北の国、北魏の都、古都洛陽にアーサーとモルガンの二人は訪れていた。

 

この国はまさに聡明な皇帝のもと改革の道を邁進しており、ここ洛陽への遷都もその改革の一環である。もとは鮮卑──遊牧民の部族が建国したこの国を漢化するために、伝統的な漢民族の都市洛陽へと政府を移したのである。それは、北魏がこの中原の地の正統なる唯一の国家として、華南をも統一しようという意志の表れであった。

 

シルクロードの端たるこの国にはアーサーやモルガンの他にも、西洋ラテン系の商人の顔ぶれが見受けられる。

 

「さて、ここに(コップ)がある」

 

休憩がてら、アーサーの提案から二人は道沿いにある酒場に入り、果実水を注文した。

 

アーサーとしてはお茶を飲んでみたかったのであるが、残念ながら今の時代にはまだ浸透していないらしい。飲み物、というよりは薬として扱われているようだった。

 

「ここに、水を注いでいこう。まずは一滴だ」

 

(テーブル)の上に置かれた壺から柄杓のようなもので果実水をすくい上げると、アーサーは一滴、自分の杯に注いだ。

 

「さて、どうなった?」

 

「どうなったとは? 言っている意味が分かりませんが」

 

「ではもう少し注いでみよう」

 

アーサーが柄杓を傾けると、雫が連なり細い流れとなってそれは杯に収まった。

 

「どうなった?」

 

モルガンは覗き込む。杯の中は半分ほど、果実水で満たされていた。口に付けるならこのくらいで十分だろうと、モルガンは杯に手を伸ばす。

 

「さて、もっと注いでみようか」

 

アーサーはそう言うと、柄杓を思いっきり傾けた。“ぴしゃん”と音を立てて、卓に果実水がぶち撒けられる。

 

「アーサー……まったく、何を考えているのだ貴様は」

 

モルガンは他人に見られていないことを確かめると、そそくさと魔術でテーブルを乾かした。せっかくの果実水が……なんて勿体ない……。

 

だが、アーサーはその様子を意に介することなく淡々と告げた。

 

「これはもののたとえなんだよ、姉上。この器は人であり、水は知識であり、その水の入った壺はこの世すべてを宿した全知全能(アカシックレコード)である」

 

“ガタン!”と、音を立ててモルガンは思わず立ち上がった。そのまま彼女は、手に持った杯を冷え切った目で眺めている弟の姿を見下ろす。

 

「全能を宿し、全能を行使できるが、しかしそうした瞬間中身が溢れてしまう破綻した存在。全能であるが無能、根源接続者(人の形をしたナニか)、それが僕──アーサー王の正体だ」

 

第三魔法、というものがある。その効果は不老不死をもたらすものだ。そしてそれは、無限のエネルギーを持った魂のままで物質界に顕現することによる副作用であるらしい。

 

魂は人の生きる物質界よりも高次元、星幽界に属するそうだ。月並みな表現で言えばそれは“天国”である。『 ()』のお膝元、すなわち、『 (根源)』の直ぐ側にある場所。だから魂とは、無限のエネルギーを持つことができるのだろう。それははじめから根源に近しいところにあるのだから。

 

だが、魂が物質界に落ちて肉の器に収められる過程で、本来根源との繋がりは、その魂が持つ無限のエネルギーは行使できなくなるのが普通である。

 

しかし、まれに例外がいる。

 

根源接続者と呼ばれる存在だ。生まれながらにして全知全能の力を持つ彼らは、しかしこの世に生を受けた時点で長く生きることのできない存在であった。

 

生命として最初から満たされている彼らは、生きるという欲望を抱かない。だから、赤子のうちに生存本能が働かず死んでいく。

 

アーサーもまた、他の根源接続者と変わらぬ末路を辿るはずであった。

 

だが、彼は生き残った。その理由は器たる肉体が作られたものであるからだ。すなわち、いずれ英霊となるほどの強固な肉体のことである。

 

杯の例でいえば、少しくらい水を注いだ程度では溢れないほど大きな容量を持つのが彼なのだ。

 

「全知は、もはや予知ともいえる極めて精度の高い直感へ。全能は、その身が持つ才能と望む事象を選択できると言っても過言ではないほどの幸運へと制限を付ける(ランクダウン)。そうして自我を保ってきたのが、僕という存在なんだ」

 

「お、お前が真に全知全能だと言うのならば、願いを叶えることに聖杯など必要ないはずだッ!」

 

“ダンッ!”と、モルガンが卓に手を叩きつける。その音は大きく響いたが、周囲の客が気に留めることはなかった。アーサーが音を遮断したのだ。

 

「世界を変えるには、器を溢れさせるほどの力が必要だ。だが、器が溢れた時点でその器の意志は漂白される。だから聖杯が必要なんだ。意志の漂白という過程をスキップして、力を世界に行使するために」

 

アーサーの願い。それは抑止力のない世界。抑止力に邪魔をされ続けた彼が抱くにはもっともな願いである。

 

モルガンは目眩がして、ふらりと椅子に力なく座り込んだ。心には様々な感情が渦巻いている。第一に抱いたのは驚愕だった。だが、その次に浮かんだのは──。

 

「今まで黙っていて申し訳ない、姉上。だが、恥を忍んでお願いしたい。世界を変えるために、僕に力を貸してほしい」

 

絶望、悲しみ、あるいは執着であった。

 

モルガンには三つの人格がある。アーサー王を助け、その旅路を見守り、最後にはアヴァロン島へと導く湖の乙女としての人格。アーサーを憎み、その王道の邪魔をして、国に滅びをもたらす魔女としての人格。そして最後に、アーサーに対してそこまで繋がりはなく、単にブリテン島の北の辺境でアーサーの甥となるオークニー兄弟を生んだというだけの姉としての人格が。

 

湖の乙女が言う。“アーサーに手を貸せ”と。

 

魔女が言う。“アーサーの邪魔をしろ”と。

 

そして最後に姉たる人格が言った。“せっかく仲良くなれた可愛い弟が、世界を変える人身御供となって死んでしまうなんて嫌だ”と。

 

そして、モルガンは口を開いて。

 

「……別に、私などいてもいなくても変わらないではないか。最初からこの旅は、お前一人でも成し遂げられることばかりだった。なぜ、今さら私に協力を仰ぐと言うのだ」

 

などと言ってしまう。“なんだそれは、面倒くさい乙女か、あるいは拗ねた子供か!”と、自分で言っていて、モルガンはそう思った。

 

「そんなことはない。これからは抑止力との戦いになる。姉上の力がなくてはたぶん僕は死んでしまうし、何より、その……」

 

「なんです?」

 

言い淀むアーサーの次の言葉をモルガンは促す。

 

「ここまで来て、喧嘩別れというのもなんだか嫌だな、と思って」

 

モルガンは目を丸くして、アーサーの顔を見た。彼もまたらしくないことを言ったと自覚したのか頬を赤らめ、すぐに訂正の二の句を紡いだ。

 

「すまない、やっぱり今のは大嘘だ! もう少しまともな理由を考える!」

 

「……ふ、ふふっ、ははは──! き、貴様、妖精眼を持つ私に、大嘘だと、くく……っ!」

 

「あ、姉上ぇ!」

 

モルガンは笑った。小難しい悩みなどすっ飛ばすように。彼が助けを乞うているのだから、細かいことはまたあとで考えよう。今はそれで良かった。

 

「……っ。そ、それで、これからどうするというのですか? 今まではシルクロードという文明の中を通ることができましたがここからは……はっきり言って未開の地ですよ?」

 

「……あぁ、付いてきてくれるのか」

 

「お前の死を見届けるのは私の役目と言ったはずです。ふふ、良かったですね、私と喧嘩別れせずに済んで」

 

「それはもう良いから」

 

モルガンとアーサーの目指す先は、この国の人間から東夷(東の蛮地)と呼ばれる地域である。シルクロードほどの交易路などありはしない。その上、地中海とは比べものにならないほど荒れる日本海を渡らないといけないわけで。

 

「島国だから、きっとブリテンと同じくまだ神秘が色濃くのこっているのだろうね。下手したらまだ神代なのかもしれない」

 

「そんなまさか」

 

残念ながら、この時代の日本列島はワカタケル大王(雄略天皇)の治世からそれほど時間が経っていない。まだまだ神話(古墳時代)の生きる土地であった。

 

そもそも、日本と西洋では中世の定義が違いすぎる。西では西ローマ帝国の滅びた5世紀末から中世が始まっているのに対し、日本の中世が始まるのはそこからさらに500年以上経った11世紀末、平安時代の終わりからである。

 

そのことから考えるに、まだまだ神代が現役であると考えたほうが良いのかもしれない。

 

「これまで以上に厳しい旅になりそうですね。その倭国とやらには船で向かうのですか?」

 

「……いや、三韓を通過してギリギリまで陸路で向かおう。海の上にいたらたぶん、海魔に襲われて終わる気がする。海は星の抑止力の独壇場だ」

 

海。未来においても空の向こう側、宇宙よりも謎が多き世界。地上に比べれば、神秘の渦巻くそこはまさしく星の抑止力にとってのホームグラウンドである。

 

なにせ彼らの本拠地は星の内()と言うくらいなのだから。

 

「それと警戒すべきなのはガイアだけではないみたいだ」

 

アーサーは深くフードを被り、モルガンにもそれを促した。次の瞬間、酒場の喧騒をきり裂くような張り詰めた声が入り口から飛んでくる。

 

「──諸君! 帝の勅命である! 阿瑟(アーサー)末顔(モルガン)なる大秦からの旅人を捕らえよとのことだ! 人相は以下のとおり、黄金の如き頭髪に翡翠の如き瞳の男と、白銀の如き頭髪に瑠璃の如き瞳の女だ! ……なぁ、これ本当に手配書なのか? ちょっと褒め過ぎでは」

 

「さぁ? よほど美しいか、予言した方士(占い師)の趣味にでもハマったんじゃないのか。とにかく! “その者らを捕まえた功労者には、一生を遊んで暮らしても尽きることがない財を与える”と、恐れ多くも帝より御言葉を賜った!」

 

瞬く間に酒場は大混乱に見舞われた。我こそはという荒くれ者どもがアーサーとモルガンを探して暴れ出す。

 

そしてまさに彼らが追い求める金と銀の二人は、姿隠しの魔術を使ってそそくさとその場をあとにした。

 

霊長の抑止力、アラヤもまた二人の旅路を邪魔するべく、その土地の権力者を通じて干渉を始めたのであろう。

 

ブリテンを出てから、すでに二年半も経過している。旅も大詰め、二人の旅は、いよいよ決着を迎えようとしていた。

 

 

 

 

洛陽を飛び出し、二人は大河を下って朝鮮半島へと向かった。

 

高句麗、新羅、百済、そしてヤマト王権。三韓と、東から来た外来勢力による陰謀渦巻くその半島は、度重なる戦乱に見舞われていた。

 

そして例に漏れず、アーサーとモルガンはその戦乱に巻き込まれる。

 

高句麗の領土を通ろうとすると、ことごとくその土地の領主から追手を差し向けられた。あるときはアーサーの持つ武力が、あるときはモルガンの持つ美貌がその目的にされたが、どっちにしてもやることは変わらない。

 

二人は互いを助け合い、難なく高句麗の領土を抜け出し、そして百済の領地に逃げ込んだのである。

 

百済は倭国とは同盟関係にある。よって倭国へは戦に巻き込まれることもなく移動できそう──などと思っていたのは先日までのことだった。

 

「いたぞ! あれが高句麗から来たという間者の二人か! 者共、殺せぇ!」

 

「完全に誤解だ!」

 

「アーサー! 言葉を交わしても意味はない、それらは狂化を受けている。アラヤに何か吹き込まれているのだろう」

 

「仕方がないな、峰打ちで!」

 

「魔術に峰打ちなどあるものか……っ!」

 

アーサーは鞘を嵌めたままの聖剣で敵を殴った。傷ついた瞬間から再生するソレはさながら拷問器具のようである。

 

一方、モルガンは足元の大地に泥濘を生み出すことで襲い来る兵の足を止めた。峰打ちなどないと言っておきながら、非殺傷手段を使っていることにアーサーは気がついたが、あえてそれを指摘するような無粋な真似は辞めておいた。

 

かくして二人は朝鮮半島を横断し、小船(ヨット)へと姿を変えた『全て遠き理想郷(アヴァロン)』に乗り込み九州──筑紫の国へと渡るのだった。

 

「モルガン、もっと早く進めないのか! すぐ後ろまで巨人(海坊主)が迫ってきてる! クソ、なんだってまた巨人なんだ!」

 

「無茶を言うなアーサー! 帆船が風よりも速く行くことなどできるものか! 貴様こそさっさとアレを早く殺せ!」

 

「もう、なんとでもなれッ! 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』──ッ!」

 

 

 

 

「けほっ、けほっ……生きているかい、モルガン」

 

「もう……二度と海など渡るものか」

 

海岸に打ち上げられた二人は五体を砂浜に投げ出し、夜空を見あげた。

 

ここは東の果ての国、ブリテンと対をなす神秘の島。

 

その名は日本。未だその名はついていないが、遥か東方、日の昇る国としていずれ呼ばれる、旅の終着地点である。

 

 

 

 

冬木、未来において聖杯戦争と呼ばれる魔術儀式が執り行われる、霊脈の入り乱れる世界有数の霊地。

 

もっとも、この時代においてはその名前は未だなく、海に繋がる川を囲んで小さな漁村が存在するのみである。

 

そしてその土地を一望できる山、この先の時代で仏教がこの地に伝来した暁には、さぞ立派な寺院が建つことは間違いないであろう、今は自然崇拝的(アニミズム)信仰の象徴として小さな祠があるだけの山、霊脈の集うその要衝に何の因果か、西方世界に謳われる一つの奇跡が降り立った。

 

聖杯、あらゆる願いを叶える願望器。未来に作られる偽物とは違った本物のソレは、この嵐の中、ずっと遠くの漁村からでもはっきりと見えるほどの眩い光を放っていた。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)』の船に乗ってこの地にやってきたアーサーはその山を睨む。

 

「こんな嵐の中を帆船で進ませるとは……まったく、私をなんだと思っているのですか。確かに私は小船の扱いに多少自信がありますが、それは湖の中での話であって──」

 

「伏せろ、姉上ッ!」

 

キラリと、山の中で何かが光った。すぐさまそれがこちらに放たれた剣の如き矢だと気付いたアーサーは風をまとった聖剣を振り上げる。

 

「……っ敵か?」

 

「敵だ、それもとびっきりの。抑止力もいよいよ本気らしい。山の中から気配を感じる。それも七騎(・・)。あれは人間じゃない。抑止力の守護者──英霊そのものだ」

 

抑止力は世界の変革を望まない。それが良い変化であれ悪い変化であれ、だ。だから彼らのように、全てを破壊することでそれを阻止しようとする存在を派遣する。

 

抑止力の守護者(カウンターガーディアン)。かつて人であり英霊だった、今は自我を持たないただの世界の部品である。

 

「七騎か、数の上では不利ですね」

 

「それだけじゃないみたいだ。あれは霊長の抑止力の走狗だよ姉上。つまりまだ、星の抑止力の手が残って……ッ!?」

 

不意に、大地が揺れた。山とは反対側の海から、何かがせり上がってくる。

 

「……っ。流石に手加減はなしか!」

 

地母神の眷属(ゴルゴーン)だと!?」

 

そこにいたのは女神か、あるいは巨大な大蛇であった。だが、そこに神話に謳われる美しさはない。頭髪は蛇のようにうねり、皮膚は屍人のようにただれている。

 

「この国のメドゥーサ(ヤマタノオロチ)、その死骸を再利用し、星の触覚として再形成しているのか。命名するなら疑似神霊イザナミといったところだろう。ははは」

 

「何を笑っているのだ、つまり地母神そのものということだろう!?」

 

「それが何だ、姉上。世界を変えるのだから、このくらいの敵は予想できて当然だろう。それとも、姉上は逃げ出すかい」

 

「……戯言を。私を誰だと思っているのですか」

 

「我が最大の敵にして頼りになる姉上だよ。背中は任せた。僕はあの蛇を相手取ろう。怪物退治は英雄の役割だ」

 

「では英雄を殺すのは魔女の役割です」

 

それ以上の言葉は要らずとばかりに、アーサーは駆け出す。およそ三年も共に旅をした二人の間に、もはや言葉は必要なかった。

 

「さて……マーリン。見ているのでしょう。手伝いなさい」

 

「──いやぁ、鋭い。モルガンにも千里眼があったなんて知らなかったな」

 

モルガンがひと言告げると、どこからともなく返事が返ってきた。気がついたときには、そこに軽薄そうな作り物の笑みを浮かべた優男が立っている。

 

「貴様の行動など、千里眼がなくても手に取るように分かる。それから、私では英霊七騎を相手取るのは手間だ。力を貸せ」

 

「君、アーサーに啖呵切っておいてそれかい……」

 

「魔女が真面目に戦うと思うのか、貴様は」

 

“それもそうか”と、マーリンはこれまた作り物の笑みを浮かべた。コレの表情に意味なんてない。その場の流れで浮かべているものに過ぎないからだ。

 

「良いから手伝え。相手が七騎の英霊を呼んだのならば、こちらも七騎呼ぶだけだ」

 

「まさか、英霊召喚をする気なのかい? 抑止力相手にそれは……」

 

「できるはずだ、世界五本の指に入る魔術師、そのうち二人の力があれば」

 

それはモルガンとマーリンの二人のことを指していた。

 

「……変わったね、モルガン。島にいた頃の君ならば、決して私の力を借りようとしなかっただろうに」

 

「御託は良い。やるのか、やらないのか?」

 

「くくっ、もちろんやるとも! だって、ここでアーサーが死んだらその後の歴史は汎人類史(原作)と何も変わらない! 結末が同じならこの世界(二次小説)を眺める意味なんてないだろう!? さあやろう! 今すぐやろう! で、誰を呼ぶって言うんだい?」

 

「息子たちを呼びます」

 

「えっ……正気かい?」

 

聖杯大戦。異なる世界の聖杯戦争において、七騎全てが一つの陣営に固まった際に起こる、戦争を継続するためのシステム。それをモルガンは、擬似的に再現してしようとしていた。

 

モルガンとマーリンは未来の英霊となった自分を憑依させることで擬似的に英霊としての力を獲得する。そして残り5騎、彼女は己の血を触媒に英霊を召喚した。

 

モードレッド、ガウェイン、ガヘリス、ガレス。

 

呼び出された彼らに、モルガンは言う。

 

「私のために戦えとは言わない。ただアーサーのために、お前たちは剣を取れ。それだけの恩義が、貴様らにはあるだろう」

 

かくして、モルガンとその息子たちによる怨讐を飲み込んだ一時的な共闘関係がここに成立した。

 

そしてそれを、余った一つの枠で召喚されたトリスタン卿が微妙な目で眺めている。

 

「……場違いにも召喚されてしまったようですね。私は悲しい」

 

「ははは、出来ればランスロット(一番強いやつ)を呼びたかったみたいだが、流石に生きてる人間は呼べないからねぇ。よっと!」

 

「彼は生きているのですか、悲恋の果てに死ぬだろうと思っていたのですが、そうですか。なら友が生きていると聞けただけでも、ここ来た甲斐が──ある!」

 

母と子の輪から逃れるように自然と同じ戦線を担うことになったマーリンとトリスタンが、軽口を叩きながら応戦する。

 

「モードレッド、貴様は先行しすぎだ! もっと足並みを合わせろ!」

 

「うるせぇぞクソババア! テメェが合わせやがれ! ったく、なぁーんで父上じゃなくてこいつとセットなんだよコンチクショウが!」

 

思春期でグレてしまった息子とそれに手を焼く母親のような関係の二人が応戦する。

 

「ははは! 二人とも、この兄の背中についてきなさい! 『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!」

 

「流石です兄様!」

 

「兄上! 今は嵐の中なんですよ! 聖者の数字は機能していないのだからもっと慎重に……ああ、ガレス! お前は余所見するんじゃない!」

 

オークニー三人兄弟が生前と変わらない賑やかさで応戦する。

 

なお、実際にはアグラヴェインを合わせて四兄弟なのだが、当の本人はカンブリアで忙殺されそうになっていた。頑張れアグラヴェイン、ウェールズが七王国に征服されるかされないかは君の手にかかっているぞ。

 

「……こちらは大丈夫そうですね」

 

モルガンは戦場全体を見通して思う。円卓の騎士の戦闘能力は抑止力の守護者に勝っている。平押しでも勝てるだろう。だから問題は、ここではなくもう一つの戦場なのだ。

 

「……勝ちなさい、アーサー。私以外の者に負けるなど許しませんよ」

 

モルガンは山の中腹から、神話のごとき戦いが繰り広げられている海辺へと思いを馳せた。

 





マーリン「へぇ? ふぅん? 聞いちゃった、聞いちゃっ──(消滅)」

モルガン「あーしまったー、此方の戦力が一騎削れてしまいましたー(棒)」

モードレッド「ババアサボってねぇで援護を寄越……な、こ、こいつ弓兵のくせに選定の剣を持ってやがるぞ!? それは父上のもんだぞ、返しやがれぇッ!」



誤字脱字報告ありがとうございます。次で終わりです。

読者の皆様は蒼銀のフラグメンツを

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