読んで字の如く、蛇足です。割りかし綺麗なエンディングだったこの物語に泥を塗るかもしれません。それでも良い人はどうぞ見ていってね。
「それでは皆さん、突然ですが転校生を紹介します!」
2004年、二月。穂群原学園の二年C組の教室にて、その担任である藤村大河が声をあげた。
季節外れの転校生、というかもう学年末の転校生だ。そんな事を聞かされた生徒達はにわかに騒ぎ出す。誰なのか、どこから来たのか、男か女か、美人なのか、あるいはイケメンなのか。所詮は10代、未だ噂話に花を咲かせたい年頃なのだろう。
だが、そんな彼らもその例の転校生とやらを目にした途端に静まり返ってしまった。
転校生は二人いるらしい。そのうちの一人が彼女。白銀の髪に青い瞳を持った冷たい氷のような美しい女性。名をアンナ・ル・フェイ。カンブリア貴族の血を引く、由緒正しき名門のお嬢様である。
彼女は教室を見渡したあと、友人である遠坂凛の姿がないことに少し落胆し、しかしその様子は毛ほども見せず、やはり見た目通り冷たい声と口調で告げた。
「アンナ・ル・フェイ。親の仕事の都合でブリテンから来ました。仲良くしてくれなくて結構です」
あんまりにもつっけんどんな言い様に皆が冷や汗を流す中。
「あ、ありがとうル・フェイさん。それじゃあ次の子も、どうぞ入ってきてー!」
藤村先生の一言に“はい”と、凛とした声で返事が返った。そして、教室に一人の男子生徒が入ってくる。それはアンナと対をなすような姿をした男だった。
「こんにちは」
ニコリと彼が微笑むと、女子生徒どころか男子生徒まで顔を赤らめる始末。まるで違う星からやってきた王子様のような彼は、次のように自己紹介をした。
「私の名前はアルトゥールス・ペンドラゴン。アンナのいとこで、彼女同じくブリテンから来ました。彼女共々、どうか仲良くして頂きたい」
その顔を彼が学校に来る前から知っていた柳洞一成は“やはりこうなったか”と、頭を抱え。
初対面ながら“なんだか面白そうな奴が来たじゃん”と上から見下す間桐慎二。
そして、穂群原のブラウニーこと衛宮士郎は恐れ慄いた。“とんでもない奴がやってきたぞ”と。
◇
ことの次第は、ごく単純なことであった。あの地に残った聖杯は一つ分の願いを残していたのである。
その理屈を説明しよう。まず、アーサーとモルガンの二人は自分の願いの成就を聖杯に求めたのではない。互いに相手の願いの成就を求めたのだ。アーサーは、モルガンの願いの成就を。モルガンは、アーサーの願いの成就を。
このとき、アーサーの願いである神秘のない世界の成立はすぐさま叶えられ、現実が改変された。一方、モルガンの願いはすぐには叶えられなかった。彼女の心のうちは複雑な願いが絡み合っていて、それを一つに絞ることができなかったのである。
だから、モルガンはそれを逆手に取った。神秘のない世界で自分の魂を保護し、未来へ送る神業を、聖杯のサポートなしに自力でやってのけたのだ。
かくして、アンナ・ル・フェイへと転生したモルガンはほとんど記憶をなくしたまま、無意識に弟を求めて冬木の地にやってきた。そして、この世界最後の神秘が消費される。
モルガンの願いを叶えよ、という願いを成就して。
聖杯はアルトゥールス・ペンドラゴンを、世界に書き加えたのだ。彼ははじめからアンナと仲の良い
「あら、アンナさんにアルトゥールスさん。先に来てたのね」
小空洞を出ようとして凛とばったり出会ったとき、アンナはどう言い訳しようか迷ったものだが、彼女の方から勝手にそのように語ってくれたのだから、アンナはそれに従うことにした。
……ちなみに、凛が来たので再び小洞窟の奥を調べる流れになったのだが、そこには何もなくなっていた。錆びついた『
それらすべて、神秘を宿すものとして『
日本には使い続けたモノには意思が宿るという付喪神信仰がある。その考えに則るならばきっと、彼らは善き持ち主のために最後に踏ん張ってくれたのだ。この神秘の枯れ果てた世界に張り付いて。
さて、そんな経緯で運命の再会を果たしたアルトゥールスとアンナ、アーサーとモルガンだったが、彼らの日常はその次の日から当たり前のようにやってくる。これからどう生きるか、それを二人はよく話し合った。
そこでひとまずこの冬木の地で暮らすことに決めた。ブリテン島を離れ、ここを第二の故郷と定めたのである。理由は単純、この土地が気に入ったから。
もともと霊脈入り乱れる土地だったのだ。神秘がなくなろうとも、そこが自然豊かな土地であることには違いない。
何より、ブリテンには帰りたくなかった。だってその……ご飯が、ね?
かくして、アンナとアルトゥールスの二人は穂群原学園へと転校してきたのだ。
それでおしまい。それ以降、何か特別なことがあるわけでもない。あとは単に、平凡な日常が続いているだけである。
アーサーが求めた、平凡な世界での日常が。モルガンが求めた、愛する弟との日常が。
これはそんな蛇足に過ぎない物語。
◇
「結局アルトゥールスとアンナって、どんな関係なわけ?」
慎二がそのクセのある前髪をかき分けながら、相変わらずの上から目線で問いかけた。
「急にどうしたんだよ慎二」
「衛宮もさぁ、気になるだろう? 穂群原のインベーダーこと、異国から来た美男美女。その二人の秘された関係ってやつをさ」
「あんまり他人の関係を根掘り葉掘り聞くのは良くないだろ。……まぁ、気にならないわけではないけど」
マメなことに、自分で毎日持参している弁当を食べながら、士郎はそんなことを言った。
「衛宮、間桐に乗せられるな。だいたい間桐、お前の言う関係は秘されたも何もないだろう。男女のいとこ、ただ親が兄弟であっただけ。
一成がそう言って慎二をたしなめる。彼の言った竜頭、とはペンドラゴンをそのまま漢字に当てはめたものだ。つまり、あだ名のようなものだった。
「でもさぁ、やっぱり気になるだろう? 絶対何かあるって。だいたいその竜頭ってあだ名ができた経緯がアレ、だしさぁ。あーあ、良いよなお前は、あんな美人ないとこの姉ちゃんに愛されてて」
竜頭というあだ名が定着したきっかけ、それは彼とアンナが学校に来たばかりの頃に遡る。
“アンナは呼びやすいけど、アルトゥールスは呼びにくい。だからあだ名をつけよう”
誰が言ったか、そんなことがきっかけでアルトゥールスのあだ名決定大会が始まった。しかも、なんとクラス投票で。なんと労力の無駄遣いだろうか。
そんなクラス投票の結果、『竜頭』というあだ名が
だが、いとこのアンナが一位のあだ名に異を唱えたのだ。
『それは、私以外の人に呼んでほしくない』
あだ名投票第一位。ごくごく単純に略しただけの名称──『アル』。
『私以外の人間が、アルをアルと呼ぶのは、嫌だ』
そんなアンナの一声で、一位のあだ名は棄却されたのである。
その時の照れるような、恥ずかしがるような、しかし決意したようなアンナの表情からその場の誰もが悟った。
“ああ、こいつらできてやがんな”……と。
「で、そこんとこどうなってるわけ。竜頭くーん?」
慎二がからかうように、話題の中心であるアルトゥールスの顔を見た。肝心のアルトゥールスはと言うと──。
「もぐもぐもぐ、はむ、ごくん。うん、士郎、おかわりをくれないだろうか」
「ん、そういうと思って重箱もう一つ分米炊いてきたぞ。いっぱい食えよ、竜頭」
「ありがとう、もぐ、やっぱり士郎のご飯は、ほむ、美味しい、んぐ、いったいなぜこんなに箸が止まらないんだろう、ごくり、か?」
まるで異なる世界線と繋がったアルトゥールスの魂が叫んでるかのようだ。士郎の料理はとても美味です、私の分ももっと食べておいてください、と。
「喋りながら食べるなんて行儀が悪いぞ竜頭、ほら、お茶だ」
「んぐっ……んぐっ……ぷはぁ。あぁ、満腹だ、ありがとう士郎。君に出会えた僕は幸福者だな」
「こっちこそ、そんなに美味そうに食ってくれるなんて料理人冥利に尽きる」
“ははは”と互いが和やかに笑い合う。そこはまるで固有結界が展開されたようだった。そう、なんというか、薔薇が咲き乱れている。
「で、僕と姉上がなんだって? 慎二」
「はぁ、間桐。当人はこの様子だ。お前の勘繰るようなことは何もないと、俺は忠告しておくが」
「ん? 本当に何がだい?」
“ずずず……”と、一成が茶を啜り、慎二が呆れたように“この飯ボケ野郎”と言い、士郎が“良いじゃないか、竜頭は食べ盛りなんだから”と謎にオカンのような擁護をして、アルトゥールスは何食わぬ顔でデザートへとその食指を伸ばす。
大体昼休みになると、いつもこの四人が揃うことになっている。人呼んで残念美男子フォースである。
一番、衛宮士郎。誰にでも優しいクソボケ。こいつに恋した少女は皆“私だけじゃなかったんですね……ッ!”と言って去っていく。今のところ残ってるのは鋼メンタルの遠坂妹オンリー。
二番、間桐慎二。性格が割とクズ。士郎曰くそれが味であるらしい。
三番、柳洞一成。とんでもなく堅物。あと寺に入るからといって色恋に全く手を出さない。
四番、アルトゥールス・ペンドラゴン。見た目だけのプリンス、シスコン、養ってあげたいけど経済的に無理などと言われる。
全員顔が良いのに何かしら欠陥を抱えた、不良物件であった。
なお、慎二はアンナとアルトゥールスの秘された関係がどうとか言っていたが、実際にはこの四人の間に秘された関係があるのではと専らの噂である。腐女子、大歓喜であった。
だが、そんな薔薇の園を破壊する少女の姿が二人。
「先輩、昼食はお済みですか? もしよろしければ、これから弓道部の昼練に行くんですけど、ご一緒します?」
「ん、そうだな。このあとは予定もないし、そうするか。じゃあまたあとでな、慎二、一成、竜頭」
衛宮士郎を虎視眈々と狙い、着々とその外堀を埋めている遠坂桜である。最近、士郎の義母であるアイリスフィールから直々に“義息子を頼んだわ”と言われ、嬉しさのあまり公道のど真ん中でガッツポーズをしてたのを実の姉に観測されている。その生態は論文に一筆する価値があるとか、ないとか。
士郎の義姉は“こんな腹黒女が義理の妹なんて嫌なんだけど! リンに返品よヘ・ン・ピ・ン!”といって、よく遠坂家に乗り込むらしい。定期的に彼女たちによる喧嘩が行われるので、周囲の住民たちはそれを時報と呼んでいる。桜が勝つと春の訪れを感じ、イリヤスフィールが勝つと冬の訪れを感じるのだとか。なんなんだろう。
なお、桜が一番のライバルとして目の敵にしているのがアルトゥールスである。なんで? 別に男装の麗人じゃないよその人。純度100%の男だよ?
曰く“ぽっと出のくせに先輩の懐に入るのが早すぎる”、“このままではヒロインの座が奪われる”のだとか。何を言っているんだろうね。
「アル、またあの男から餌付けを受けていたのか」
「姉上、餌付けとは何だ餌付けとは。僕はただ士郎がご飯をくれるというから……」
「黙りなさい、言い訳は結構。早くこちらに」
そして桜とはまた別方向に飛び抜けた腹黒さを持つ少女がいた。アンナ・ル・フェイ。弟につく虫を女だろうが男だろうが目の敵にする。束縛系ヤンデレお姉ちゃんである。数少ない友達は遠坂凛と、なんか波長が合うらしい氷室鐘の二人だけ。とは言っても、口が悪いだけでなんだかんだ面倒見は良いらしい。
弟が絡まなければ。
……この世界の二人は姉弟ではなく単にいとこなのだが、なぜか公然の事実として姉弟関係が確定してしまっている。
「あぁ、姉上引っ張らないでくれ。生地が伸びる。じゃあ一成、慎二、また午後の授業で──」
ああいう、アンナにされるがままの姿がよく目撃されるから、その上下関係も周知されているのだろう。
ヒラヒラと手を振るアルトゥールスを見送る一成と慎二。
「ときに間桐よ、俺はお前が女好きだと記憶していたが、遠坂桜とあの魔女にはあまり興味がなさそうに見える。その理由は?」
「バカかお前、僕が好きなのは女の子だ。誰が好き好んでバケモンなんかに近づくかよ」
◇
「ん……ちゅ……はむ……ぷはっ! アル……もっと……ん……」
人気のない校舎裏に水音が響く、そこで二人の男女が──アルトゥールスとアンナが熱烈なディープキスをしていた。
「ん……はぁ、はい、これで満足かい姉上」
「や、です。まだ、足りない」
「いや、昼休みがもうすぐ終わってしまうんだって……」
“どうしてこうなった”と、アルトゥールスは天を仰ぐ。きっかけはそう。あの小空洞の運命的な再会からアンナの魂の枷が少しずつ外れていってしまったことが原因だろう。
姉としての立場で満足しきっていたはずの彼女は、1500年間の離別と弟ロスによって、もはや一線を越えることを厭わないレベルでスキンシップを取ってくるようになってしまった。
こうして何かと理由をつけてキスを迫ってくるのも、その一環である。今回は“衛宮士郎に口腔を犯されたのだから、それを上書きする”という理由らしい。意味が分からない。と、アルトゥールスは再び口を塞ごうと迫ってくる姉を必死に押さえつけた。
一方、アンナ側としてはこれは極めて当然のことである。
まず、別の人間に生まれ変わったことで前世のしがらみから解放された。
次に、アンナという少女になってアーサー──アルトゥールスに相応しい清い身体になれた。……モルガンはちょっと魂的にも肉体的にも汚れすぎていたから、一線を引いていたのである。彼女もまた夫を転々とするケルトビッチの一柱だった。
さらに、今世ではアンナとアルトゥールスはいとこ同士である。そう、法律が、憲法が二人の婚姻の自由を保障してくれているのだった。1500年後の未来、万歳。
そして次に、彼女が自分の魂を未来に飛ばすために、イザナミの霊基をちょろっと借りたのがマズかったのかもしれない。彼女は実の兄とまぐわい日本の島々を作った女神なのだ。つまり彼女が行き過ぎたブラコンを発動するのは当然の結末である。
そして最後に、あれはそう。あの日の出来事が彼女の理性を完全に吹っ飛ばしたといえる。
思い出すこと、およそ一ヶ月前。アルトゥールスがこの世界に帰ってきた直後のことである。
◇
「私は子供が欲しいのです」
アーサー、否、アルトゥールスがこの世界にやってきたため、急遽拠点として用意したアパートの一室。暖房の効いた部屋の中で、アルトゥールスがビーズクッションのうえに寝転がり漫画を読んでいると、その彼のお腹のうえに頭を乗せたアンナがそんなことを言い始めた。
「そうか、頑張ってくれ姉上。応援している」
「……む」
“パラリ……”と、漫画のページを捲りながらアルトゥールスは適当に返事をした。しかしそれが不満だったのだろう、お腹の上にのったアンナは頬を膨らませ見るからに不満です! の表情をアルトゥールスに向けてくる。
『 』との繋がりがなくなろうとも、ある程度の直感を持ったアルトゥールスは嫌な予感がして冷や汗をかいた。
「姉上、まさかとは思うが僕に手伝えと言っているのかい。その……子作りを」
「……そうです、アル」
『アル』と、アンナは愛称をつけてアルトゥールスのことを呼ぶ。それはどうやら親しみの証らしい。
「絶対にごめんだ。なんだってそんなことをしなければならないんだ、僕らは姉と弟だろう」
「今世ではいとこ同士です。それに、姉と弟だとしても、私たちにはモードレッドがいたではありませんか」
「あの子は姉上が勝手に作った子だろう、僕が協力した覚えはない。おおかた、鞘を盗んだ日に寝ている僕から種も盗んだんじゃないのか」
そう言うと、アンナは悲しげに目を閉じた。今の彼女には、モルガンとして持っていた憎しみや妄執はない。だからこそ過去を振り返り、その行いを悔いることができる。その顔を見るに、彼女はモードレッドに関して自分のした行いを後悔しているのだろう。
「そうでしたね、ですがそれでも私は、あなたが良い。他の知らない誰かに抱かれるくらいなら」
アルトゥールスは漫画を見ながら、その声に耳を傾けた。アンナはアルトゥールスの上にぴったり重なりながら、ポツポツと話し始める。
「いま、カンブリアでは王位継承問題が起きています。先王が亡くなり、未だ次代が決まっていないのです」
「……この世界のカンブリアには王室があるのか」
「はい、その初代王はかのアーサー王の義兄と言われています」
“何してるんだ義兄上!”と、アルトゥールスは思わず漫画で顔を覆い叫んだ。王なんてなりたくないだのなんだの宣ってたくせに、結局あの人は王になったのか。
「仕方のないことだったのです。混乱状態だったカンブリアを纏めるには、神輿が必要だった」
「苦虫を潰したような顔で玉座に座る義兄上の姿が思い浮かぶよ」
“死ね、死ね、アーサー。お前、あの世で待ってろ。絶対ぶん殴ってやるからなマジで”……なんて言ってそうだ。もっとも、アーサーの本体は『 』を囲う天の鞘として生き続けるので、あの世で待っては居られないのだが。
「それで、その王位継承者なのですが……皆老齢で、即位したとしても長くは持たないと」
「ああ、分かった、姉上。もう言わなくて良い」
つまり、若い女王か、あるいは王が必要なのだろう。アンナは古いブリトン人の貴族ル・フェイ家の娘。つまり、モルガンの血筋を引く人間から紡がれた家系である。おそらく、その王位継承権はそれなりに高位に位置するのだろう。
だから王の器として、アンナは求められている。
「今は現代だろう。そんなもの、無視してしまえば良いのでは」
「そうも行くまい、ブリテンの社会は貴族制を色濃く残している。それに抗おうとすれば、路頭に迷うものも出よう」
“こんな私にも率いる者がいるのだ”と、アンナは苦々しい表情をしながら呟いた。
「だから、姉上は自分の身を犠牲にしようとしていると?」
こくんと、俯いたままアンナは小さく頷く。アルトゥールスからはその表情は見えない。
「だからアル。どうか私のために力を──」
「そんなことは絶対に受け入れられない」
アルトゥールスがはっきりと断ると、アンナの体が固まった。
「どうしても、ダメ、なのか」
「ダメだな」
「それは私が、モルガンだからか……?」
「……」
「ああ、やはりそうなのか、それは、まぁ、そうだろうな。はは……」
アルトゥールスの沈黙を肯定と受け取ったのか、アンナは諦めたように自白を、懺悔を始めた。
「私はお前の敵だったし、それに何より、汚い人生を送っていた。モルガンは自分の女としての部分を、道具として使える存在だった。だから、必要であれば汚れることを厭わなかったんだ」
モルガンという女は、ロット王の妻でありながらアーサー王と不義姦通を行い、またロット王次の夫ウリエンス王の妻だったときにも愛人がいた。
その後、彼女が円卓に追われたあとも、きっとパトロンを転々としたのだろう。でなければ当時の円卓がモルガンを見つけられないはずもない。
「当時はそれが正解だと思っていた。だけど、今はその選択が、苦しいよ」
アンナの顔がアルトゥールスの胸に沈み、そこから湿った温かさが生まれる。
「無理を言って……ごめんね……アルトゥールス……っ……!」
泣いている。自分の敵だった魔女が。共に旅をした友が。最後には、自分の願いを信じてくれた姉が。だからああ、アルトゥールスは、アーサーはやはり。
「だから、私は言ったんだアンナ。いやモルガン。そんなことは決して受け入れられないと。姉上が自分を殺し、器として生きるなど」
「……あ……る……?」
「前世で姉上は、十分なほどその役割を演じきった。ならば、姉上は今世こそ自由に生きる権利がある。いいや、生きねばならない義務がある」
「でも」
「王が必要と言ったな?」
アーサー王は未来に生き、いずれ再び立ち上がる運命にある。
「──ならば、私が王になる。これまでこの世界には私がいなかったからな。私は姉上のいとこだ。であるならば、王位継承権も相当な位置にあると見て良い。それこそ姉上、女であるあなたを押しのけられるくらいには」
だから、あとは私に任せて、あなたは自由に生きろ。
アルトゥールスは確かにそのとき、目の前の彼女にそう言った。
◇
そして、場所は校舎裏に戻る。
「あの日、お前が私をその気にしてしまったのです。責任を、取って、ね……?」
「嫌だ! 僕が王になるだけで良いだろう!?」
「お前が王になって、私が王妃になるのです。ふふふ……」
「ぐ……わ、分かった、白状しよう。僕は女性不信だ!」
「──え?」
アルトゥールスはアーサーが生涯隠していた秘密を自らの貞操のためにペラペラと喋った。
きっかけは、養父エクターと過ごしていた時代。自分の母親ではないか? と思っていた女性版マーリンが、精臭を漂わせながら
次に、初夜を過ごしたギネヴィアが二回目までの間にランスロットに恋し、その二回目を拒否してきたこと。あれほど男として惨めな夜を過ごしたことはない。
最後に、モードレッドの存在からアーサーが不貞を行ったのだろうと勝手に勘違いしたギネヴィアが公然とランスロットを連れ添うようになったこと。
ガリアにいた時についたあの嘘を白状しよう。アーサーはギネヴィアが死ぬほど嫌いだった。理屈は分かる、政略結婚の相手を好きになれず、その部下を好きになってしまう。人の心は人にだって操ることのできない神秘だ。
だから、アーサーが唾棄するのは、ランスロットに恋情を持ちながら、ギネヴィアが王妃としての立場を維持したことにある。即座に婚姻関係を解消したならば、まだ理解も同情もしよう。だが、厚かましくもその地位に座るあの女の姿をみて、アーサーは──決定的な女性不信に陥ったのだ。
「……以上が僕の秘密だ。公人として接する上では問題ない。だが、それが私人となり、なおかつ女性を
「そんな……つ、つまりアル、あなたは同性愛者だったのですか? だから衛宮士郎とあんなに!?」
「違うわバカ! 女性よりも男性といた方が落ち着くのは確かだが、僕は確かに異性愛者だ、いや、だったなのか? とにかく厳しいんだ、女性を愛するなどと考えると、また、あの女が浮かんできて……ッ!」
アルトゥールスは頭を壁に叩きつけた。その姿は余りにも痛々しい。モルガンもその原因の一端を担っているというのだから、アンナは彼に、どうにかして償いたいと思った。
「だ、だったら私が、それを忘れさせてみせると言ったらどうですか?」
「──は?」
「一年、一年のチャンスをください。私は一年かけてお前の心を変えてみせます。もし一年の間に不可能だったならば……そのときは潔く身を引き、衛宮士郎に場を譲りましょう」
アルトゥールスは頬の筋肉を限界まで引きつらせた。だから士郎は関係ないって言ってんだろうが。
「……良いさ、やってみろ。私だって、あの女のことは忘れたいんだ。アンナが私をその気にさせてみせると言うなら否やはない」
「では、決まりです」
かくして、今後の二人の関係性は定まった。……と同時に、学校のチャイムが鳴る。二人は急いではだけた衣服を直し、教室へと向かうのだった。
なお、アンナは知らない。平行世界から、目茶苦茶強力なライバルが現れる可能性があるということを。
「ふふふ、待っててね。セイバー!」
・アーサーはランスロットのためにギネヴィアを生かしました。ランスロットの嘆願がなけりゃ殺してます。
感想評価もらえると嬉しいです。