アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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蒼銀のフラグメンツでしたこと【8】

 

「「「乾杯──!」」」

 

聖杯戦争五日目の夜。沙条邸にて、普段ならばその家にあるはずのない賑やかな宴会が繰り広げられていた。

 

机に並ぶのは主に日本とドイツの郷土料理である。

 

「さぁ、たーんと召し上がれー!」

 

本宴会の料理長、エルザ・西条はそう言って皆に食事を振る舞った。今は亡き息子のために身につけた、その家庭料理の技術をフル活用して。

 

「綾香ちゃんと愛歌ちゃんもいっぱい食べてね!」

 

子どもが好きなエルザは特にこの家の姉妹、綾香と愛歌を気にかける。

 

「うん!」

 

「この私を子ども扱いするだなんて。でも、悔しい。今の私よりも遥かに料理が上手だわ……ぅぅ……」

 

愛歌はかつて己が持っていたスキルの喪失を嘆いた。

 

「愛歌ちゃんならすぐに料理上手になるわよ。手伝ってくれたところを見た感じ筋は良いし、あなたはきっと良いお嫁さんになるわね」

 

「ほ、ほんと? まぁ、それほどでも……?」

 

子どもを失った母親たるエルザと、すべてを失った赤子のような愛歌。相性はそこまで悪くなかったのだろう、エルザがグイグイと距離を詰める形で、二人はこのホームパーティーの中で会話を弾ませていた。

 

「うっま! アサシン、このポトフ目茶苦茶うまいぞ!」

 

「ええ、そうですね。巽」

 

一方、アサシンと巽のチームも料理に舌鼓を打ち、それなりにこの催しを楽しんでいた。アサシンは“今ロザリオを外したら全員殺せるチャンスなのだけれど……”と思いながらも、無邪気に料理を頬張る巽を見てその考えを放棄する。

 

「よっしゃあ! 飲め飲めセイバー! 飲んだらお前が俺の故郷を旅した話を詳しく聞かせてくれよ!」

 

「貴公、生前のエピソードを明かす行為は自分から真名を明かすも同然だと分かって言っているのか?」

 

そしてこちらではセイバー(アーサー)とアーチャーが冷えた缶ビール片手に盛り上がっていた。

 

「良いじゃねぇか、俺の方だけ真名がバレてるなんて不公平だろ?」

 

「……まぁ、良いか。話したところで私の名前が分かるとも思えないし。そうだな、あれは私が東ローマから──」

 

そして、肩を組んでいる男二人を少し離れたところにいるランサーが熱っぽい目で見つめている。“セイバーも良いですが、アーチャーもやはり良いですね。ああ、愛しい相手が二人もだなんて、私、困ります……”と。

 

さて、本来敵同士である彼らが沙条邸に集った理由を語ると、フードコートでの邂逅まで遡る。

 

『あ、あなたたちは……アサシンと、それからセイバーにランサー!?』

 

アーチャーと共に驚愕するエルザ・西条。

 

『え、エルザさん!? それに昨日のセイバーとランサーまで!』

 

警戒したアサシンに庇われる來野巽。

 

『セ、セイバー。昼間に敵と会ったときはどうしたら良いのかしら?』

 

困惑するように二組の間で視線を揺らす沙条愛歌。

 

“やっぱりこうなったか……”と、アーサーは天を仰いだ。ばったり出会ってしまったとはいえ、流石に人目のあるショッピングモールの中でいきなり戦闘とは行くまい。

 

とりあえずその場で全員に停戦協定として日が沈むまでの不戦を誓わせ、その後解散しようという話になったのだが、その瞬間來野巽がぶっ飛んだことを言い出したのだ。曰く、今晩夕食でもどうかと。

 

『ははは、面白いじゃねぇか。俺は賛成だぜ』

 

そしてアーチャーがそれに賛意を示した。三組中二組が賛同したため、自動的にアーサーも同意したのである。あそこで拒否して二組だけが食事に向かい、その結果対沙条組同盟を組まれるのを避けたかったからだ。

 

すると、次に話題になったのは場所をどうするかという話である。來野巽は自分の拠点の情報を開示し、玲瓏館の屋敷を指定した。しかし他二組が全力でそれを拒否する。誰がキャスターの居城に行くものか、と。

 

アーチャーのみならず、アーサーもまた巽とアサシンがキャスターの手の者であると確信していた。なぜならアサシンの胸に、おそらくは(・・・・・)キャスターの作ったレプリカ(・・・・)であろう非常に見覚えのあるロザリオがあったから。その時点でアーサーはアサシン組が十中八九モルガンの差し金であると直感していた。

 

アーチャー組が指定したのは一般的な居酒屋である。そこであれば誰にとっても平等で憂いなく。罠の心配だってする必要がない、と。

 

だが、アーサーはそこで言ってのけたのだ。

 

『沙条邸──私たちの拠点でホームパーティーでもしようか』

 

と。

 

綾香は、純粋にお客様の来訪で家が賑やかになると喜んだ。

 

愛歌は、訝しみながらもセイバーの言うことならばと反対はしなかった。

 

ランサーは、あとで真意を聞かせてほしいと言って黙認した。

 

かくして、この宴会の開催に至ったのである。

 

「ふぅ……」

 

宴会も佳境を迎えたあと、火照った体を冷やすためにアーサーはベランダに立った。先ほど彼がした酒を口に含み火を吐く芸は大反響だったと言えよう。あれはもともと円卓の仲間と行った忘年会(神の子の誕生祭)のときにやった一芸が元ネタである。

 

『見よ、我こそブリテンの赤き竜の化身である──!』

 

などと言って、彼らの前で同じことをやった日が懐かしい。普段は堅物な円卓の騎士達をしても大爆笑ものだったからな。と、アーサーは生前に思いを馳せる。

 

なお、彼らが面白がったのは芸そのものではなく『普段は堅物の王様が酔った勢いで変な芸をした』という状況そのものだったのだが、アーサーはそのことには気づいていなかった。

 

「どうも。えっと、セイバー……だったよな」

 

ベランダで涼んでいたアーサーのもとに、この宴会の提案者(言い出しっぺ)である來野巽がやってきた。

 

「ありがとな、俺たちをここに誘ってくれて。でも、聞いても良いか。なんで俺たちに拠点を教えたんだ? 敵に拠点を教えるなんて危ないだろ?」

 

「そうだな、君の言うことは正しい。私はマスターを危険に晒した。……でも、そうでもしなければ君とアサシンはキャスターに殺されていただろう?」

 

「……な、なんで分かるんだ!?」

 

巽は自身の背景をピタリと当てられて驚愕する。その様子を見て、アーサーは微笑んだ。

 

「キャスターは、姉上は息災かな?」

 

「姉上……ってことは、セイバーはあのキャスターの弟なのか!? え、えぇ……全然似ても似つかない……」

 

巽は目の前の騎士を上から下へと見つめて、あの魔女との共通点が全く思い浮かばないとばかりに言った。

 

「異父姉弟だからね。姉上は母親似、私は父親似だ。そりゃ似てないだろう」

 

「そうなのか、でも、姉弟同士で争ってるんだな。なんか、そういうの悲しくないのか? 家族で争うなんて……」

 

巽には一人妹がいて、仲は良い方だ。だからもし仮に自分と妹が聖杯戦争に参加したとしても、聖杯を求めて殺し合うだなんて想像もできない。

 

「この国でも、かつては兄弟親子で争うことが普通だったはずだ。歴史を学べば、その事例はごまんとある。私と姉上もその例に漏れなかっただけだよ」

 

「そう、なのか。……えっと、それで話を戻すんだけどさ。セイバーが俺たちに拠点を教えてくれたのは、俺とアサシンのため、なのか?」

 

「正しくは君たちのためだけ(・・)ではないのだが、まぁその通りだ。間違ってはいない」

 

「マジか。俺とアサシンはお前の敵なのに、どうして助けるような真似を?」

 

「くっ……ははは! それを君が言うのかい? なら答えるが、君とそれほど理由は変わらないさ。助けられるなら、助けた方が気持ちが良い。だろう?」

 

アーサーは識っている。巽がどうして聖杯戦争に参加したのか、なぜ彼が半ば屍人と化したのか、その理由を。故に、彼の巽への好感度は最初から高かった。

 

「けど、それでお前のマスターのあの子が危険に……」

 

巽がベランダから部屋の中を、妹とそう年頃の変わらないセイバーのマスターの姿を見る。

 

「俺が言うのも変だけどさ、一応忠告しとく。キャスターはお前のマスターを──」

 

巽はアーサーが自分を気遣ってくれたように、自分も彼のために助言しようと口を開いた。だが、彼の言葉は“言われなくても、姉上のしそうなことは分かっている”と遮られた。

 

「……愛歌には試練が必要だ。それに、世界には時間がない。もう間もなくアレが目覚めてしまう。獣には『単独顕現』があるから、過去が改変されようとも獣が現れる運命(Fate)は変わらない。なるべく早く、七騎の同盟(・・・・・)を組まなければ。そのためにも姉上を利用してライダーとの決着を──」

 

セイバーが静かに、巽に聞かせるわけでもなくそう呟く。

 

「え? 悪い、セイバー。ちょっと聞こえなかったんだが」

 

「──なんでもない。さぁ、そろそろお開きの時間だ。あぁ、最後に巽くん。彼女(ガールフレンド)は大切にしなさい。良いね?」

 

それは心底心の籠った、アーサーからの少年へのアドバイスだった。彼としては純粋で善良な巽に自分みたいになってほしくないようだ。ノー純愛、ノーライフ。寝取られは悪い文明、滅ぶべしである。

 

それを聞いて巽の顔は。

 

「い、いや! アサシンは俺の彼女なんかじゃなくて──!」

 

月明かりの下でもはっきりと分かるほど、真っ赤に染まった。

 

 

 

 

そして聖杯戦争五日目の夜が過ぎ、六日目。沙条邸にいるセイバーの下に、一通の手紙を持ったカラスがやってきた。

 

手紙の内容は、簡単に言えばセイバーとランサーの釣り出しであった。そして、出てこなければ東京を火の海にするとも書いてある。姉上らしい脅し文句だと、アーサーは笑った。脅し文句ではあるが、アーサーたちが行かなければ彼女は本気でその蛮行をやるのだろう。

 

「では行ってくるよ、愛歌。……それと、今夜は十分に注意すること。拠点を把握したキャスターが何か仕掛けてくると思ったほうが良い」

 

「一応、私のルーンで防御を張りましたが、キャスターのサーヴァントに解呪されない保証はありません。なるべくこの家の一番安全な場所に隠れておいてください、マスター」

 

「ええ、そこまで心配してくれなくても大丈夫よ。セイバー、ランサー」

 

深夜、綾香が寝静まった頃、戦場へと向かう二騎を愛歌は見送った。その心には不安はなく……いや、多少、ほんのちょっとはあるが、それ以上の信頼があった。セイバーもランサーもどちらも一廉の英雄。キャスターとアサシンに負けるはずもないと。

 

だから、油断していたのだろう。あるいは、すべて失った彼女に少しずつ感覚が戻ってきたことで、かつてのように振る舞えると勘違いしてしまったのか。

 

『愛歌、すまない、忘れ物をしてしまった。扉を開けてもらえるかい?』

 

「セイバー? もう、おっちょこちょいなのね。少し待ってね──」

 

扉越しに聞こえる愛しの彼の声に、彼女は応えてしまったのである。

 

そして。

 

「──『ありがとう、愛歌』……くく、貴様がアーサーを誑かした泥棒猫だな?」

 

アサシン(・・・・)バーサーカー(・・・・・・)との煮え切らない戦闘を終えてアーサーとランサーが帰宅した頃には、そこに愛歌の姿はなく。机の上にある一枚の置き手紙だけが、彼女の行方を示唆していた。

 

『明日、七日目の夜にここより西の奥多摩山中で待ち受ける』

 

「──喜べ、王の中の王たる余が貴様に裁定をくれてやろう! 騎士王よ!」

 

地下の工房にて、顕現した太陽の化身が宣言する。それは魔女(キャスター)太陽王(ライダー)からの、一枚の招待状だった。

 

 

 

 

「ではランサー、手はず通りに頼む」

 

「はい、ご武運を。セイバー」

 

 

 

 

「もっと飛ばせないのか、エルザ!」

 

「これでも精一杯よ、アーチャー!」

 

東京都の西側、奥多摩の山々の間を縫うように塗装された県道の上を、一台の自動車が法定速度オーバーで駆け抜けていく。

 

「ちっ、もう始まっちまってるか!」

 

アーチャーは夜の山中に顕現した、燦然と輝くエジプトの太陽神殿(ピラミッド)を見て舌打ちした。あれほど強力な宝具、固有結界ともいえるソレはおそらくはライダーのモノだろうとアーチャーは当たりをつけると、助手席から身を乗り出して車体の上に躍り出る。

 

エルザとアーチャーがこの場所に来たのは、キャスターからの一枚の招待状が理由だった。

 

『七日目の夜、奥多摩山中にて此度の聖杯戦争の決着がつく。傍観者でいたくなければ、来るが良い』

 

既に聖杯戦争も始まって一週間だ。確かに魔女の言う通り、この戦争がいつ終わってもおかしくない。だが、こうも確信したような内容に二人は首を傾げた。まだ一騎も脱落していないのに、そう豪語するのは何故か……? と。

 

そして結論を出した。今宵、この戦場で聖杯戦争の趨勢が確定するほど重大なことが起こるのだ。ならば手をこまねいてはいられまいと、二人はこの地にやってきたのである。

 

「エルザ、一騎見つけた。俺は先に出るぞ!」

 

「ちょっとアーチャー!?」

 

車体から飛び降り、車道のガードレールの向こう側の崖へと落ちるアーチャー。彼の『千里眼』は、この夜の暗く、鬱蒼とした山の中にあっても正しく機能し、銀の戦乙女を見つけるに至った。

 

「──初撃はもらったぜ、ランサーッ!」

 

「──アーチャーッ!? くっ……」

 

先手必勝とばかりに射られた矢とともに、アーチャーがランサーへと襲いかかる。ランサーはそれを大槍で防ぎ彼と向き合った。

 

「なぜここにあなたが……!」

 

「キャスターに言われてノコノコやって来たところだ。お前こそ、向こうでドンパチやってるのにここで何して……ん? そういえばセイバーはどうした?」

 

アーチャーはランサーの側に、同盟を組んでいただろうセイバーの姿がないことに気づく。

 

「……セイバーなら、あの神殿の内側にいます。誘拐された私たちのマスター、愛歌を救うために」

 

「あの中か!? しかも、マスターを誘拐? 殺害じゃなくてか?」

 

アーチャーが疑問に思うのも無理はない。基本的にマスターを誘拐する意味はない、聖杯戦争の勝利のためを考えるならば、殺してしまうのが一番である。

 

無論、キャスターもそうしようとしたが……ちょっと我の強い王様が横から口を出してきたので、断念したという裏話がある。

 

『此奴を殺してしまえば、騎士王めの裁定にならぬ。控えろ、キャスター』

 

『……分かりましたが、その代わりに必ずセイバーを下すように。ライダー』

 

(くど)い! 余を誰と心得る!』

 

などと、この戦いの前には会話があったようだ。今この場にいるランサーとアーチャーには知る由もないが。

 

「聞いてください、アーチャー。おそらくキャスターの狙いは、セイバーとライダー、私とあなたをぶつけることによる共倒れです」

 

「なるほど。自分の手を汚すことなく勝利を掴む、陰謀詭計に優れたキャスターらしい策だな」

 

「一時共闘、とまでは言いませんが、停戦に応じてくれはしないでしょうか。キャスターとアサシン、そしてバーサーカーの三騎同盟を下すまで」

 

「……だとよ、マスター。どうする?」

 

ランサーの提案を聞いたアーチャーがそう問いかけると、車を停めて峠を降りてきたばかりのエルザが姿を現した。

 

「停戦を受け入れるわ、ランサー。愛歌ちゃんを助けてあげて」

 

「優しい人……アーチャーと、そしてマスターであるあなたに感謝を」

 

“伝え忘れていましたが、先日の料理はとても美味でした”と言って、ランサーは山の中へと消えていった。

 

「こんな時にそんなことを言うなんて、変な人ね。ランサーって。それに、私はちっとも優しくないのに」

 

エルザは自分を卑下するようにそう言った。本当に優しいのならば、最初から聖杯戦争を降りている。

 

大を救うために、小を殺すことを覚悟していた。だが、巽に問いかけられたときから彼女の中の疑念は膨らみ続けている。そして、彼女の頭の中に思い浮かぶのは一昨日の晩の光景、笑い合う姉妹の姿。

 

聖杯戦争が続けば、場合によっては、彼女たちを手に掛けることもあるのだろう。今まさにキャスターがやっているように、人質にするかもしれない。セイバーは強いサーヴァントだから。

 

「だけど、私には、子どもを殺すなんてできない」

 

思い浮かぶのは紛争地帯で、東欧で、アフリカで、東南アジアで、中南米で見てきた光景。当局によって殺された子どもたち。親が体制に反対したから、知識人だから、異民族だからと殺され、野晒しにされたその小さい体躯の骸を思い出す。

 

「アーチャー、私、間違ってたわ」

 

大義のために誰かを犠牲にするなんてことは、エルザが唾棄してきた存在たちと同じ行為だったのだと、彼女は今さらながらに気づいた。

 

「だから改めてだけど、私のために協力してくれるかしら?」

 

「おうよ、覚悟が決まったようだな。それでこそ俺のマスターだ」

 

エルザは秘蔵の礼装を構え、アーチャーは弓を構えた。今まさにランサーの背中を追わんとする、アサシンとバーサーカーを止める為に。

 





蒼銀のフラグメンツ、ボイスドラマが無料公開されてるのでぜひ未履修の人は聞いてみてください。小説とは違って時系列順なのでむしろ小説より分かりやすいかも。

……この二次創作見て原作見た人は來野巽の扱いの差で風邪引くかもですね。
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