アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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蒼銀のフラグメンツでしたこと【蛇足】

 

「ここは……?」

 

何もない虚空を、ただ独り獣が漂っていた。彼女はその紅色の瞳を瞬かせて周囲を見渡すと、得心がいったように頷いた。

 

「ああ、そうか。余は負けたのか」

 

そう言って獣は剣に貫かれたはずの己の胸を確かめた。そこにはぽっかりと穴が空いている。まるで彼女の心の内を示すかのように。

 

人類すべての『生きたい』という総意を宿した抑止の剣に貫かれた獣は、ただ無に帰し、『 (根源)』からも見放され、こうして虚空を漂っているのだろう。

 

「ここにいれば遠からずして、余の体も意識も消えていくのであろうな。誰の記憶にも残ることなく。ふっ……獣にまで身を堕としておきながら、結局余の……私の末路は生前と変わらない、か……」

 

ビーストⅥ・S、黙示録の獣。それはキリスト教がローマ帝国に迫害された歴史そのものを表している。故に、獣は最もキリスト教を迫害したローマ皇帝の似姿を取った。

 

ネロ・クラウディウス。薔薇の帝政を築き、民を愛し民に愛された少女皇帝。だがその最後は悲惨なものだった。

 

母を、妻を、己の師すらも死に追いやった暴君は民から恐れられ、その本質を知られることなく民から、国から見捨てられることとなる。

 

「無様よな……くっ……ふふっ……」

 

そして最後には孤独の中で己の首に剣を突き立て、自害した。

 

「ぅ……ぁ……っ!」

 

獣による己への嘲笑が、少女による嗚咽へと変わった。

 

少女はただ愛を民に与え続けた結果、しかし民から見捨てられ、その生涯を終えた。獣はただ人類()の愛をこの身に収めようとして、やはり拒絶されその生涯を終えようとしている。

 

少女のその身を無が、孤独が蝕んでいく。

 

神から見捨てられその寵愛を失った退廃都市は滅び、その後に残った住民などいなかった。与えられた霊基からして、この結末は定められていたのだろう。彼女は、約束された孤独の死を苦しみながらも、しかしどうすることもできず受け入れるしかないのだった。

 

そんなとき、一つの奇跡と呼ぶにはあまりにもロマンがない出来事が、つまり偶然と呼ぶべきことが起きた。

 

「あ(いた)っ!」

 

“カツン”と宙を浮く少女の頭に何かがぶつかった。彼女は頭を擦りながら恨めしげにその原因を見つめる。

 

「これは……」

 

そこにあったのは聖杯だった。とはいえ、それは願望機とは言えない代物である。すでに力は消費され、ただの器に成り下がった装飾品でしかなかった。

 

「人の業が生み出した模造聖杯か。まったく、皮肉なものよな」

 

少女は聖杯を手に取り、皮肉げに笑う。東京に聖杯戦争を引き起こしたソレは決して万能の願望機などではない。主の奇跡、神の愛を証明する手段として人の悪意を束ね黙示録の獣を呼び出してしまうという、とんでもなく呪われた品であった。

 

神の敵を呼び出すことによる、逆説的な神の愛の証明。聖杯戦争を引き起こした黒幕たる聖堂教会の枢機卿の願いは、ある意味で叶ったと言えよう。

 

アーサー・ペンドラゴンによる獣の討伐という形で、神の愛は証明されたのだ。もっとも、世界はそれを覚えていられなかったわけだが。

 

だからこそ、少女は嗤う。本当に欲しいものを手に入れた次の瞬間には忘れてしまうなど、皮肉以外の何物でもないのだから。

 

「などと笑っているが、余も同じ穴の狢であったな。くく……はぁ……」

 

彼女は笑ったあとにすぐため息をついた。情緒不安定気味であるが、無理もあるまい。もう足先から体がどんどんと消えていっているのだから。

 

それは彼女に残された時間があとほんの僅かしかないことを意味している。

 

「しかし、何故この広い虚無の中でわざわざ余の頭にぶつかってきたのだ。このポンコツ聖杯め。嫌味か貴様、願いなど叶えられぬくせに」

 

だから、戯れに少女は口にした。どうせもうすぐ死ぬのだから、叶うはずもない願いを口にしたって構わないだろうと。

 

「それとも、なんだ。貴様がポンコツでないと言うならば、あれだ。許す、“余の孤独を癒してみせよ”……なんてな」

 

残念ながら、この聖杯は無能である。少女のささやかな願いすら叶えることはできない。

 

「何とも味気ない……終幕である……な……」

 

体の崩壊が胸部を超え、首を超えようとした時に獣だった少女はそう呟いた。その頬に一筋の涙を流しながら。

 

 

 

 

『案ずることはない、向こう側まで、私も君と行く』

 

獣はそのとき、世界から消える直前に己を殺した聖剣使いが呟いた言葉を、何故か思い出していた。

 

 

 

 

「──?」

 

水が頬を伝っている。それは涙でなく、天から振り注ぐ雨の雫だった。

 

「なんだ、何が……?」

 

路地の上に倒れた体を起こす少女。体が酷く冷えたのか、彼女は身震いの後に“……くしゅん!”と可愛らしくくしゃみをした。

 

「──そんなところで濡れていたら、風邪を引いてしまうだろう」

 

そのとき、聞き覚えのある声とともに少女に雨具が差し出された。その傘が、彼女の体を打ちつけていた雨を弾く。

 

「貴様は……っ!」

 

少女は顔を上げ、自らに手を差し伸べてきた相手の顔を見て驚愕して。この男はまさに向こう側の世界で自分を殺した人間だったのだから。

 

「とりあえず、うちに来ると良い。話はそれからということにしよう」

 

「……うむ、余も何が何だか分かっておらぬ。貴様の良きに計らうがよい」

 

それがこの世界におけるネロ・ドラコー・クラウディウスと、アルトゥールス・ペンドラゴンの初めての会話だった。

 

青年に連れられて彼の家に入り込んだ少女、ネロ・ドラコーはひとまず現代の浴槽をそれはそれは長々と堪能し、青年の姉の物だと言われて用意された服に着替えて暖かいお茶をご馳走になった。たくさんのお茶菓子と一緒に。

 

「うむ、おかわりを持ってくるが良い。下僕よ」

 

「お腹空いてたのか……」

 

欲望を味わうのは彼女の本懐である。用意された山盛りの甘味をぺろりと平らげると、ようやく二人は会話に移った。

 

説明を聞いたネロはしきりに頷いて告げる。

 

「なるほどな。貴様は余を殺した英霊アーサー・ペンドラゴンのこの世界における同一人物と。そうかそうか、うむ! うむ……つまりどう言う意味だ?」

 

“がくっ”と、アルトゥールスは椅子から転げ落ちそうになるのを我慢した。分かったように頷いていたくせに、この暴君は何も分かっていなかったようである。

 

「はぁ、たとえるならばそうだな……獣になった君と英霊になった君のような関係性のことを指す」

 

“愚かなる余か”と言って、ネロ・ドラコーは顔を顰めた。暴君としての側面を持った彼女と違い、薔薇の名君としての側面を持った英霊ネロ・クラウディウス。彼女はきっと自分が周囲からどのように恐れられていたのか知らないし、知っても気にしないのだろう。ネロ・ドラコー、略してドラコーはそのことを想像して癪に障ったのか、“むぅ”と可愛らしく唸った。

 

それからアルトゥールスの説明を受けるドラコー。彼の言うことは概ね以下の通りであった。

 

「神秘の存在する向こう側で消えた我々はその記憶をこちら側の同一人物であるこの身に宿したと。つまり、今の余はソドムの獣でも人類悪でもないただの娘というわけか。となると、なぜ余はあんなところに倒れていたのだ?」

 

「少し違う、君の場合はこちら側の君に記憶が宿ったわけじゃなく、向こう側の君自身がこの世界に適応する形で転移してきたんだ。こちら側に『ネロ・クラウディウス』に対応する存在はいなかったからね。だからあの場所に倒れていたのは、まさに君がそこに転移したためであって、でも世界には君が最初から存在したという辻褄合わせが……」

 

「うむ?????」

 

宇宙の真理を垣間見た猫のような顔をしながら、ドラコーは首を傾げてハテナを浮かべる。

 

「……まぁ、良いか。ともかくこれからのことを話そう」

 

ドラコーのその様子を見て、“難しい話はこれで終わりだ”とアルトゥールスは話題を変えた。彼は一枚の新聞を卓の上に広げる。インクの匂いが漂う紙面の片隅には小さく人探しの広告が載っていた。美しい黄金のような髪に熟れた林檎のような鮮やかな赤い瞳をした少女の写真と、ネロ・ドラコー・クラウディウスの名前が記載されている。

 

“尋ね人。心当たりのある方はこちらに連絡を”の文章とともに。

 

「これは……余は、誰かに追われているのか?」

 

ドラコーの疑問にアルトゥールスは肯定した。そして情報を付け加えるように言う。

 

「ネロ・ドラコー・クラウディウス。先日日本旅行中に行方不明になったイタリア人の娘。歳は16。そしてその正体は表社会においてはローマ皇帝の血を引くイタリアの旧貴族の末裔にして豪商、裏社会においてはイタリアンマフィアとして知られるクラウディウス家の一人娘。それがこの世界における君だ」

 

「……なぜそのような情報を知っている。余と貴様は会ったばかりであろう?」

 

「向こう側から記憶が渡ってきた時に真っ先に調べ上げた。この世界の僕は友人に恵まれていてね、この地の地主(遠坂)に昆虫学の権威にして大手製薬会社の重役(間桐)、そして元国家情報局のエージェント(衛宮)に欧州に顔が利く名家(アインツベルン)。彼らの協力を以てすれば、この地に迷い込んだ異国の娘の素性を調べるのは簡単だったさ」

 

冬木、それは地主である遠坂家がもともと隠れキリシタンであったからして、後ろ暗い背景を持つ人間が逃げ込みやすい土地であった。

 

そのため、はるか昔からこの地には貴人が亡命してくることが多く、また日本が開国してからは海外からこの地に安寧を求めて逃げてくる存在も多い。

 

例えば、間桐。その初代マキリ・ゾォルケンは第一次大戦期に帝政ロシアからドイツ貴族の娘だった妻ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンと共に亡命してきた人間だ。

 

当時のドイツ帝国とロシア帝国はまさに敵対する国家であり、そこにいては幸せを掴めないと悟ったゾォルケンとユスティーツァははるばる日本まで逃げてきたのである。

 

そして衛宮もまた似たような背景を持つ家系である。その家長衛宮切嗣は元国家情報局のエージェントであり、当時の東ドイツに潜入する任務を負っていた。しかしそこで出会った同国で解体された貴族の末裔、アイリスフィール・アインツベルンと恋に落ち、この地に駆け落ちしてきたのである。

 

そのような後ろ暗い背景を持った家系が集う地が冬木なのだから、諜報に気を使うのは当然であった。そして今日その諜報網にドラコーと、彼女を追う黒服たちの存在が引っかかったのである。

 

そのような説明を聞いたドラコーは、なんとなく向こう側の記憶を授かる前のことを思い出してきた。

 

「うむ、なんとなく分かってきた気がするぞ下僕よ。貴様の言う通り、余はそこそこの家の出の一人娘であるらしい。しかし、この身はどうにも実家の家業のこととかしがらみが嫌で、旅行と称して家出してしまったようだ。生き倒れていたのはそのためであるな!」

 

あっけらかんと言う彼女であるが、それはつまり彼女が追われる身であることを示していた。

 

「それで、君はどうしたい」

 

「どう、とは?」

 

「大人しく彼らに捕まってイタリアに連れ戻されるのか、それとも自由に生きるのか。君が選ぶのはどっちだ」

 

アルトゥールスのその白金(・・)のような瞳がドラコーを貫いた。

 

「それは……つまり、選べるというのか?」

 

「そうじゃなかったら最初から聞いていないだろう」

 

アルトゥールスが呆れたように言うが、ドラコーがそう気にするのも無理はない。選択肢があるということはつまり、ドラコーを追う存在をどうにかできると彼は言っているのである。

 

「……余が、私が自由に生きたいと言ったらどうなるのだ?」

 

「叶えよう」

 

「な……ぜ? 信用できぬし、理解できん。貴様は何故余の為にそこまでする? 余は人類悪で、世界を滅ぼそうとした獣だ。貴様はそんな余に立ち向かった希望の人。どうしてわざわざ余に手を差し伸べるというのだ」

 

ドラコーはその答えを知りたがった。故に、アルトゥールスは異なる世界における自分の可能性を口にする。

 

「僕は、私は君と同じだ。同じだった」

 

「同じ……?」

 

「黙示録の獣にして黙示録の竜、世界を飲み込む人類悪。ビーストⅡ・A。『逸脱』の理を持った獣。それが私の持つ可能性の一つだ」

 

「な……っ!?」

 

ドラコーはその事実を知り驚愕する。自身を倒したまさに理想の騎士とも呼べる目の前の男が、異なる世界とはいえ獣に堕ちる可能性を持っていたなど想像できるはずもない。

 

「君と私の違いはたった一つ。共に死んでくれる人がいたか、いなかったかだけ」

 

「共に、死んでくれる人……」

 

それはきっと、()の孤独を癒せる人なのだろうとドラコーは想像する。

 

「私は異なる自分の可能性である沙条愛歌を人にしてあげたかったし、だからそうした。ならば君にも同じようにしないのは不公平だし、何より私が嫌だ」

 

“道に迷う自分がいたなら、手を差し伸べたくなって当たり前だろう”とアルトゥールスは言う。

 

「だから私の、僕のために、君の望みを叶える手助けをさせてくれ。ネロ・ドラコー・クラウディウス。君の望みは何だ」

 

「余は──」

 

そして、少女は素直ではない口ぶりでその手を取り、自らの望みを告げる。

 

「そ、そこまで言うのならば貴様に余の願いを叶えさせてやらんでもないぞ? うむ、では、余の孤独を癒してみるが良い。できるものならばな?」

 

 

 

 

そこからは、まさにトントン拍子で事が進んだ。

 

アインツベルン本家を継ぐべく、高校卒業後にドイツへ渡っていたイリヤスフィールが言う。

 

「お父様もお母様も冬木の人たちに助けられたもの。今度は私の番よね。だから安心なさい、ネロ。冬木はちゃんと、第二の故郷としてあなたを受け入れてくれるわ」

 

アルトゥールスの頼みを聞いて実家を動かした間桐慎二が言う。

 

「は? 僕? 僕は別にイリヤスフィールみたいに“僕の番だから”なんて思っちゃいないけど? 先祖のこととか別にどうでも良いし。けどまぁ、余裕のある僕にとっては他人のささやかな願いをちょちょいと叶えちゃうなんて余裕なわけ。いちいちこの程度感謝されるまでもない。僕は間桐としての高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)に従って当然のことをしただけだから、お前はただありがたがっておけば良いんだよ。ふん……おい何笑ってんだそこの衛宮!」

 

旧華族としての人脈を動かした冬木の管理人の娘、遠坂凛が言う。

 

「よろしくね、ネロ・ドラコー・クラウディウス……ネロさんで良いかしら。冬木の地はあなたのことを歓迎するわ。実家のことは……まぁ、おいおい考えましょうか。少なくともうちの高校を卒業するまではここにいて良いって御三家から圧をかけて……ごほん! お願いして許可を貰ったわけだし。だから安心なさい。あぁ、そうそう。困ったことがあればあなたと同年代のうちの妹に聞いてちょうだいね。……これは内緒なんだけど、実のところあの子友達少ないから、良ければあなたにはあの子の友達になってあげてほしいのよ」

 

それら三人へと縁を繋ぎ、自身もまた実家のカンブリア王家の人脈を動かしたアルトゥールス・ペンドラゴンが言う。

 

「これで君は晴れて自由の身だ。時限的とは言え、この得られた時間の中で孤独を癒やす方法もきっと見つけられるだろう。……それじゃあ僕はこれで」

 

まるで魔法のランプの魔人のように全てを解決してしまったアルトゥールスをその場から逃さないように、ドラコーは彼の服の裾を掴んだ。

 

「ネロ……?」

 

「うむ……余はネロの名はあまり好かぬ。だ、だからな? と、特別に貴様には余をドラコーと呼ぶことを許す!」

 

「えっと、分かったよドラコー。それで、服が伸びるから離してほしいんだが」

 

「……やだ」

 

彼女には時間なんて必要なかった。だってもう見つけてしまったのだから。自分の孤独を癒やしてくれる、唯一にして無二の同類を。

 

「余は貴様と一緒に暮らす。部屋を用意するが良い!」

 

「──は!?」

 

かくして、ドラコーは春休みの間にアルトゥールスの姉のアンナが肝いりで選んだ新居へと転がり込んだ。そこには彼女が“将来、そう将来を考えてのことです”と言って余分な個部屋(子供部屋の予定)を二室用意していたため、その一室へと。

 

「ど、どうしてこうなった……? 僕はただ自分が辿るはずだったIFである彼女に親切にしてあげただけだというのに」

 

アルトゥールスはそう言って頭を抱えた。それが一番の原因だろうに。

 

「うむ、ではよろしく頼むぞ。余の……私のドライグ……?」

 

かくして獣は少女となり、“ぺろり”と舌を舐めずりながら妖しく笑った。その心のうちに芽生えた感情の名前を、人類悪だった彼女はまだ知らない。

 

だが、周囲の人間からソレを受け続けることで、やがて自覚するであろう。

 

それは人類悪と対を成す思い、すなわち愛であると。

 

 

 

 

春休み中、大学のオープンキャンパスのため一時イギリスへと帰郷していたアンナ。そして彼女は帰ってきたその日、本来は彼女と彼女の愛しのアルトゥールスの愛の巣であるべきそこに、卑劣な泥棒猫もとい泥棒竜が住み着いていたことを知り絶叫した。

 

「──出ていけえええ!!!」

 

「断る!!! ここはもはや余と余のドライグの城である! 邪魔者は貴様だ義姉上(あねうえ)よ!」

 

「貴様の姉になった覚えはない! だいたい誰なのだお前は……アル、説明してください、アル!」

 

「向こう側の僕がかくかくしかじかで……」

 

「お前はアルに押しかけて迷惑をかけているだけではないか!? さっさと出ていけ!」

 

「うぅ……ドライグ、義姉上が酷いことを言うのだ。助けて」

 

「姉上、今回ばかりは認めてあげてくれ」

 

「な、なぜですか!?」

 

「彼女はもしもの姿の僕だ。放ってはおけない。それにね、向こうの姉上に僕は襲われたんだ。今の姉上と二人で暮らすのは、ちょっと怖いかな……」

 

「何をやってるんですか向こう側の私は──!!! おのれモルガン! 汚い! 弟を襲うとかさすが魔女汚い! しかも私の足を引っ張るとか巫山戯るなでも羨ましいいい──ッ!!!」

 

なお、アンナは知らない。もう一つ残された部屋には、東京から穂群原学園に転学してくる少女が住まうことになることを。

 

「どらいぐぅ……もっと余を撫でるが良い……むふふ……」

 

「……まぁ、妹ができたと思えば良いかな」

 

アルトゥールスは己に向く熱の籠もった視線を全て無視した。それは彼が愛を受け取ることに苦手意識を持っていることから来る無意識的な逃避行動である。

 

自分は女性から愛されないし、愛を受け取ってしまえば裏切られるという自己暗示。そうすることでしか守ることのできない弱い心の持ち主が、実際のアルトゥールスなのであった。

 

アンナによるアルトゥールスの意識改革計画はまだ始まったばかり。だというのに、早くも次の波乱が巻き起ころうとしている。

 

 

 

 

「というわけでお父さん、綾香。私は冬木に行きます!」

 

「もう高校三年生なのに転学するのか!?」

 

「お姉ちゃんバカなの!?」

 

沙条愛歌が襲来する春休みの終了まで、残りあと数日──。

 

 

 

 

「ところでアル、もしかしてイメチェンしましたか? なんというか、全体的に色素が薄くなったというか、瞳の色も変わって……」

 

「分からない……もしかしたら、向こう側からの影響を受けすぎているのかもしれないな」

 

アルトゥールスはその瞳を竜のように尖らせながら、そう言った。

 

続かないけど一応。読者の皆様はApocryphaを

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