アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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前半と後半で別の話になってます。

【食堂での騒動】

【アーサー・オルタ、第三再臨へ】

かな?

※TS要素有りです、苦手な人はブラウザバック!



カルデアでしたこと【おまけⅡ】

 

 

「今日の日替わり定食の内容は一体なんでしょうか。楽しみですね、先輩」

 

「昨日は中華だったから今日は洋食か和食が良いなー、私」

 

カルデアの廊下を歩く二人の少女。彼女たちはこれから心と胃袋を満たすだろう食事を想像し、笑顔を浮かべながら食堂へと向かっていた。

 

百を超える英霊たちに加えて数十人の職員たちが暮らすカルデアの食堂は、お昼時になるとそれはそれは混む。なので、いつも二人は少し早めに食堂を利用するのだった。

 

“カルデア食堂は大変人気です。昼時は大変混み合いますので、ぜひ時間をずらしてお越しください”というわけだ。

 

「「……?」」

 

そんな彼女たちが今日も良い匂いを漂わせている食堂の入り口に辿り着いた。が、なんとその日は先客がいたらしい。

 

何やら珍しいメンバーが、ひしめき合って食堂の中を覗き込んでいる。

 

「どうしたのみんなー? まだ食堂は準備中だからあと五分待って──」

 

立香が親切心からそう声をかけたその瞬間、食堂を覗き込むメンバーのうちの一人が手を掲げて告げた。

 

「『はや辿り着けぬ(ロードレス)──」

 

すなわち、バーサーカーモルガンによる宝具の真名解放である。

 

「モルガン! 落ち着いてくださいモルガン! あれは私たちではありません!」

 

「聖剣を抜いてくれアルトリア! 私と君でモルガンの宝具を相殺する!」

 

「何をしておる──!? ええい、マスター! 今すぐ令呪を発動せよ! 余と男女の青セイバーがもろとも死んでしまうではないか!」

 

「あわわわわ! せ、先輩!」

 

「令呪を以てお願いします、落ち着いてモルガン陛下──!」

 

間一髪のところで令呪が間に合い、なんとか食堂が爆発する事態は避けられた。

 

「もう! 何やってんの君たち四人組は! 食堂が壊れたらどれだけのサーヴァントが暴れ出すか……特にみんな王様だったんだから、兵站の重要性は分かってるはずだよね! ねぇ!?」

 

「すいません、マスター」

 

「すまない、マスター」

 

「……軽率でした、我が妻」

 

「余は悪くないぞマスター!?」

 

順にアルトリア、アーサー、モルガン、そしてネロが、立香によって廊下に正座させられた状態で言った。

 

「それで、モルガンさんは一体どうして食堂に宝具を放とうとしたのですか?」

 

怒れる立香に代わり、マシュがモルガンにそう質問した。

 

「それは中を見ていただければ分かります」

 

「「中……?」」

 

立香とマシュが“準備中”と札の張られた扉から食堂の中を覗き込む。

 

するとそこには──。

 

「士郎、スープは準備万端だ。僕は冷蔵庫から小鉢を取ってくるよ」

 

「衛宮、食器の用意はこれで十分ですか? ……ではよろしい。アル、私も手伝います」

 

「清掃終わったわ衛宮君。機材のメンテナンスも終了、電気ポットのお湯の量も大丈夫」

 

「ブーディカよ、これでは少々味が薄いぞ、もうちと塩を足して……うむ、完璧だな! さすがはこの世すべての欲を味わう余の舌。些細な調味のズレも見逃さぬというわけだ」

 

アーサー・オルタ、ヴィヴィアン、愛歌、ドラコーの四人が仲睦まじく厨房の手伝いをしていた。

 

「助かったよネロ・オルタ。暴君かと思って警戒したけど……案外元のネロと変わらないんだね」

 

「ああ、君たちのおかげでとても助かったぞ。助かったが、私をその名で呼ぶのはやめてほしい……」

 

厨房の二大ボス、ブーディカとエミヤはそんな四人にぎこちなく礼を述べた。

 

「さて、手伝ってくれたからには賄いを出すのが当食堂のルールだからな。君たちは何が食べたい?」

 

食堂を担当するサーヴァントは増えないのに、食堂を利用するサーヴァントは増えるばかり。そんな理由から導入されたのがこの賄い制度だった。調理を手伝ってくれた英霊には豪華な食事が提供される。……正直、厨房の重労働と見合う対価と言えるどうかは微妙なところであるが。

 

「ん? 士郎のご飯なら何でも良いよ僕は。簡単に出せるのだと……日替わり定食かな。アンナたちもそれで良いかい?」

 

「ええ、はい。しかし悔しいですが、結局ついぞ衛宮には料理の腕で勝てませんでしたね……」

 

「衛宮君に負けを認めるのに、半世紀以上かかったのよね……」

 

「まったく、桜は幸せ者であったな」

 

“うんうん”と頷く四人組一同。その反応にエミヤは冷や汗を流した。

 

「なぜそこであの子の名前が? い、いや、深くは聞かないが、しかし君たちはほんとに何者なんだまったく……」

 

……と、以上が食堂で繰り広げられていた光景であった。

 

「アルトリアとアーサーを足して二で割ったような性格のアーサー・オルタ。そんな彼とあだ名で呼び合うモルガンもといヴィヴィアン。そしてアーサー曰く激ヤバモンスターなはずの愛歌さんに黙示録の獣となったネロ・オルタさんが仲睦まじく厨房に立っている……と」

 

立香は呟いた。“なにこれ”と。

 

「わ、見てください先輩。あーんしてますよ、あーん」

 

「イチャイチャしてるなぁ……ラブラブカップルは何組も見てきたけど、ラブラブハーレムはなかなか見たことが──」

 

「我 が 妻 ?」

 

「あっはい」

 

立香の前に能面のように表情を失ったモルガンが現れる。

 

「あれを見て私がじっとしていられると思いますか? 本当に、本当に鳥肌が立って仕方がない。まるで毛虫でも見ているかのような気分だ。私と、アルトリア、もといアーサーがあんな“ラブラブラブラブ”、“ちゅっちゅちゅっちゅ”と本当に気色悪い。……だいたい私だって我が妻とそこまでしていないのに!」

 

“ああ、キレるとこソコって言うか、ソコもなんだ”と立香は思った。今日は彼女と一緒にランチをするのも良いかもしれない。

 

「それは私たちのセリフだモルガン。アーサーを見てください、彼なんてほら! 座に帰りかけてるではないですか!」

 

「──」

 

白目を剥いたアーサーを揺さぶるアルトリア。それほどまでにアーサーの意識は限界だった。

 

“なんでだ!? なんで私が人生三大宿敵とも言える邪悪──モルガンと愛歌とビーストⅥと仲良くしてるんだい? ほんっとにどうしてだ!? う、嘘だと言ってくれマーリン……”と口から溢れ、彼の魂が大いなる父のもとへと還ろうとしたそのとき。

 

「ふん!」

 

「ごは……っ!」

 

ネロの拳がアーサーの腹を殴打した。

 

「それはこちらのセリフだ青セイバーたちよ! なーんで余がビーストなんかに堕ちて、しかも男でオルタなあやつにあんなデレデレしておるのか! 説明を、説明を求む! うううー! しかもなぜかあやつのことを曽祖父(ひいおじい)様とか呼びそうになってしまったではないか!」

 

“余におじいちゃんなどいなーい!”と、薔薇の皇帝は叫んだ。

 

なんか、もう、阿鼻叫喚である。

 

「どうしましょうか、先輩」

 

「まぁ別側面が召喚されてオリジナルが暴れるのはいつものことでしょ。慣れた慣れた」

 

立香は乾いた笑みを浮かべながら、“ははは、嫌な慣れだね”と言った。たいていのオルタ鯖はオリジナルにとっては直視したくない自分の黒い部分だったりするので、彼らが対面してしまうとオリジナルの方が地面にのたうち回り、オルタが“ゴミめ……”というふうな視線を向けるのが恒例になっている。

 

逆にオリジナルがお姉ちゃん面してオルタ側がドン引きするという稀有な例(ジャンヌたち)もあるにはあるが。

 

「はいはーい、それじゃあカルデア食堂開店します。みんなお待たせ、入って良いよ」

 

その時、ブーディカの掛け声とともに食堂の入り口が開かれた。

 

「「「「ん?」」」」

 

アーサー・オルタ、ヴィヴィアン、愛歌、ドラコーの視線が。

 

「「「「あ」」」」

 

アーサー、アルトリア、モルガン、ネロの視線とぶつかった。

 

「こ、これは一体どうなってしまうのか……次回、カルデア死す! レイシフトスタンバイ!」

 

「何を言ってるんですか先輩! 令呪を、とにかく何があっても対処できるように令呪を!」

 

危機を感知したマシュが霊衣を纏い、大盾を構える。

 

そして──。

 

「ん……ちゅっ……ふふ、アル。他の私に目移りなんて許しませんよ?」

 

「大丈夫よ、安心してセイバー。私はあなたにしか興味ないわ。だからそんなに高ぶらないで、私の王子様……♡」

 

「余のドライグよ、丁度良い。愚かなる余に見せつけてやろうではないか。余と貴様の嬌声で奏でる二重唱(デュエット)をな……?」

 

ヴィヴィアンがアーサー・オルタの唇を奪い、愛歌が彼の指にペロリと舌を這わせ、ドラコーが彼の首にかぷりと甘噛みし“ちゅ……ちゅ……”と吸い始めた。

 

「先輩、私の後ろに──!」

 

「あ、まずい! エミヤ! カモン!」

 

人類最後のマスターとしての直感を発揮し、立香が手の甲に刻まれた令呪を掲げた。

 

「──聖剣、解放」

 

「──十三拘束解放(シール・サーティーン)円卓議決開始(デシジョン・スタート)

 

「──暗き湖よ、来たれ」

 

「──我が才を見よ、万雷の喝采を聞け」

 

立香は叫んだ。“令呪を以ってエミヤに命ずる──!”と。

 

「任せろマスター──『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』ッ!」

 

そして、食堂に美しき紫の花弁が花開いた。トロイア戦争において絶対防御を誇ったその宝具が、光の奔流からマスターを守る。

 

立香はその偉業の再現を前に拳を握りしめ──カッコつけるように笑う、赤い外套を着たアホの分厚い背中をぶん殴った。

 

「そっちじゃなくて固有結界(無限の剣製)の方だよバカぁ!!! これじゃあ食堂が滅茶苦茶になるじゃんかぁ!!!」

 

「──あ」

 

次の瞬間、カルデアの一室から爆音とともに煙が上がった。

 

「神代魔術師たちによる全力の修復によって難を逃れたけど、次はないからね?」

 

ダ・ヴィンチちゃんの指摘に下手人たちは“はい……”と力なく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはアーサー・オルタが召喚され、彼が周回組として連れ回されることになってからしばらくが経った頃の話である。

 

「ひゃっ……ど、どうしたの? アーサー・オルタ?」

 

その日、いつものように微小特異点を攻略していた藤丸立香。彼女は特異点の消失を確認し聖杯を入手した後、レイシフトを終えてカルデアに帰還するまでの僅かな暇にアーサー・オルタのマテリアルを確認していた。

 

そんな彼女が文字化けした文章にうんうんと唸りながら悪戦苦闘していると、突如として連れてきたサーヴァント、アーサー・オルタが彼女を押し倒したのだ。

 

草原に押し倒された立香は、仰向けに青空と“ふーっ……ふーっ……!”と苦しそうに呻くアーサー・オルタの瞳を見た。彼の目は血走り、その瞳から光が失われ、瞳孔が別の生き物になったかのように揺れている。

 

「どうしたの? 大丈夫? もしかして星見のお茶(絆アップアイテム)の飲みすぎて体調悪く──」

 

そこまで言って立香は“あ……”と、自分にされた忠告を思い出した。そう、たしか、ヴィヴィアンと愛歌とドラコーは口を揃えてこう言っていたのである。“アーサー・オルタとの絆の深め過ぎには注意しろ”……と。

 

彼女はすかさずアーサー・オルタの状態を確認する。するとそこにはデカデカと『絆レベルUP!』の文字があった。彼を連れ回しているうちに、いつのまにか最大まで絆が深まってしまっていたらしい。

 

さて、この戦いの前に、アーサー・オルタはなんと言っていたであろうか? 立香は微小特異点を攻略することに夢中になっていた数時間前の記憶を掘り起こす。

 

『マスター、何度も言うが、あまり僕と関わり過ぎないでくれ。今の僕は向こう側と違って獣のソレだ。僕の心に君が深く刻まれてしまえば、自分を制御できるか──』

 

『あー、はいはい。ブリュンヒルデと似たようなこと言うんだね。大丈夫、カルデアにはフレンドリーファイアのシステムとかないから! 万が一のときは令呪もあるし!』

 

『いや、最悪私が契約自体を『 ()』って、君を攫ってしまうかもしれないんだって。……分かったよ、今から自発的に絆レベルを下げてくるからそれまで待って──』

 

『そんなおとぎ話のドラゴンじゃないんだし!』

 

“あーはっはっは!”と真剣なアーサー・オルタの前で彼の提言を笑い飛ばした愚かな己を思い出し、立香は頭に手を当てた。

 

「あっちゃぁ……わ、私もしかしてやらかした? あ、アーサー・オルタ、私の声聞こえてる? か、カルデアー? おーい! オペレーターのマシュさーん?」

 

アーサー・オルタとカルデアの両方と交信を試みたが、どちらからも返事がない。前者は獣に飲まれていく心を保つため、脂汗を浮かべながら必死に耐えていた。後者は特異点が崩れ始めたので通信を切り、管制室でただ立香の帰りを待っている。

 

つまりそれは、今この瞬間は藤丸立香が無防備であり、故にアーサー・オルタが彼女を攫うには絶好のチャンスであるということを示していた。

 

「体が……熱い……立香……」

 

「れ、令呪を以て……むぅ──ッ!」

 

身の危険を感じた立香が令呪を発動しようとすると、その柔らかな頬を竜の腕が掴んだ。その親指が彼女の口腔に侵入し舌を抑え、言葉を紡ぐことを禁じてしまう。

 

「僕は……俺は……立香……貴様を──」

 

捕食者の目が立香を睨み、彼女は身を強張らせる。そして無意識のうちに本能で悟った。“わ、私、もしかして彼に……されちゃうの……?”と。

 

「くっ……う……ぁ。あ、『遥か彼方の幻想世界(アヴァロン)』……俺の体を拘束し、マスターを……まも……れ……っ!」

 

だが、そうはならなかった。アーサー・オルタは目の前の純真無垢な少女の心を傷つけないために、自らを鞘の内に閉じ込める。さながらそれは彼が真性の竜(第三再臨)に至るための繭、あるいは竜の卵のようなものだった。

 

「あ、アーサー・オルタ!」

 

黒く大きな竜卵となった鞘の内側へ立香が語りかける。

 

『ます……た……。三人を……頼ってくれ……彼女たちなら……俺の……対処を……』

 

「三人? ヴィヴィアンと愛歌とネロ・オルタのこと?」

 

『……』

 

「アーサー・オルタ?」

 

卵の殻を叩いて立香が訴えるが、帰ってきたのは“ごぽり”と(あぶく)の立つ音だけだった。

 

『──』

 

竜は外界からの音を遮った。女の声を耳にして、自分が外に出たがらないように。獣としての側面を強めた彼は、きっと愛したモノすべてを己の内側に入れようとしてしまうだろうから。

 

彼が羽化しその真の姿を晒してしまったら、限界まで絆を深めた相手など絶対に逃がしはしないだろう。

 

「先輩、微小特異点の攻略お疲れ様でした。あの……この大きな卵のようなものは?」

 

立香の耳に心配そうな後輩の声が届く。気がついたときには、彼女はカルデアに戻ってきていた。無事レイシフトを終えて回収されたらしい。

 

「……あ、ま、マシュ。私人呼んでくるから、ここでこの卵見張ってて」

 

「あ、はい。分かりました先輩。あの……大丈夫ですか? 顔真っ赤ですけど」

 

「だ、大丈夫大丈夫! ちょっとその、びっくりしちゃっただけだから……」

 

火照った顔を手で煽りながら彼女は廊下に出て、目的の三人を探し始める。アーサー・オルタの色気を剥き出しにした視線は、彼女には刺激が強すぎたらしい。

 

「き、絆レベルがカンストしたからっていきなり押し倒すなんて。他の鯖だってそんなことしないのに……」

 

 

 

 

「あぁ……お前はなんというか、もう少しサーヴァントとの距離感を考えないとそのうち刺されますよ?」

 

「忠告してあげたのにやっちゃったのね、マスター」

 

「なんと愚かな。獣を御せると思い上がったのか愚か者め。ばーかばーか」

 

三人に詰められて“うう……”と反省したように俯く立香。

 

「でもしょうがないじゃん……アーサー・オルタは強いし、優しいし、周回も早いし、何より一緒にいて疲れないんだよ? その、自分を飾らなくて良いのが楽だったって言うか……」

 

「言い訳などどうでも良いです。結論から言いましょうか。お前が執拗に彼を連れ回した結果、アルは人としての輪郭を失いつつあります」

 

使われていないカルデアの一室に置かれた巨大な竜の卵をヴィヴィアンがコンコンと叩いた。しかし中からの返事はない。

 

「これは再召喚した方が早いでしょうね」

 

「え!? も、戻せないの?」

 

てっきりなんとかなるとばかりに思っていた立香が“ばっ”と顔を上げて問う。その様子に三人は難しそうな表情で“うーん”と顔を見合わせて言った。

 

「できなくはありませんが、私たちだけだと現状維持で精一杯です。彼の心に溜まった(獣欲)を……その……抜いてあげれば良いのですが……」

 

「向こう側と同じ感覚で言うなら、たぶん私たちの方が先に限界が来ちゃうって言うか……」

 

「端的に言えば余たちでも喰らい切れぬほどのモノである、というわけだな。さすが『逸脱』の獣」

 

「えっと???」

 

要領を掴めずにいる立香に対しヴィヴィアンは“おほん、あなたは気にしなくてもよろしい”と頬を赤らめながら言った。

 

「とにかく彼をもとに戻すには私たちだけでは難しいのです」

 

「な、なら他のサーヴァントたちにも協力してもらうから! 必要なモノは何でも言って、お願い!」

 

立香がそう頼み込み、三人はまた顔を見合わせる。彼女らとしては()抜きに第三者を交えるなどありえない、というか絶対嫌だった。

 

だってソレ端的に言えばセッ──。

 

「んん! ……はぁ、仕方ありません。ならば泥を受け止めるための聖杯をいくつか、それから、うーん、他に何があれば良いでしょうか」

 

「セイバーから無限に湧き出る泥を抜き取る方法、ね。……逆に泥が湧き出ないようにしたら良いのではないかしら?」

 

「肉体を変化させる霊薬の類か。うーむ、うーむ……ローマ系にそういうものを持った者ははたしていただろうか」

 

「マーリンは論外。異聞帯の私……は手を貸してくれないでしょう。彼女はアーサー王という存在が嫌いですし。他の神代の魔術師たちの手を借りるのも、対価を要求されてしまえば……」

 

ああでもないこうでもないと彼女らが悩んでいると、その様子を脇で見ていた立香が妙案を思いついたとばかりに声を上げる。

 

「王様に頼んでみるのはどうかな! 確か前に“(オレ)にとって聖杯の泥なぞ出来の悪い酒とそう変わらぬ。なにせ前に飲み干してやったことがあるのだからな!”って自慢してたし!」

 

「ええ……本気ですか? 人類最古の王に借りを作るなどと」

 

「ウルクの王様なら確かに何でも持ってるんでしょうけど」

 

「アレが殊勝にも手を貸すなどするものか。余も暴君だがアレも相当であろう。ぜーったい面倒くさいことになるのが目に見えてるではないか」

 

立香の言う王様とは人類最古の王にして英雄王、この世全ての財を納めた宝物庫を持つアーチャー・ギルガメッシュのことだ。

 

彼ならば確かにアーサー・オルタの窮地……というか人間関係の距離感をミスった立香の失敗を帳消しにできるだろう。

 

もっとも、かのジャイアニズムの化身が手を貸してくれればの話であるが。

 

もしも彼が手を貸すとすれば、それは──。

 

「愉悦のため。であれば手を貸すこともあるやもしれんぞ、雑種ども」

 

「あー、確かに王様って愉悦部の……ぎ、ぎぎぎギルガメッシュ王!? いつからここに!?」

 

背後から聞こえた声に立香が飛び上がった。そこにいたのは黄金の鎧に身を纏いし暴君、彼女らが話題にしていたその人だったからである。

 

「たわけ! (オレ)の名を口にしたからには全て我の耳に入っておるわ! しかし雑種と羽虫と動く腐乱死体とトカゲが何やら集まっているかと思えば、なかなか愉快なことになっておるではないか。ん?」

 

“羽虫……? も、もしかして妖精である私のことか……?”とヴィヴィアンが訝しんだ。

 

“ねぇウルクの王様、腐乱死体って私のことよね? 違うわよ? 私は異なる私と違ってセイバーに後ろから刺されてないの。だから死体じゃないし腐乱してないしファブリーズもいらないから”と愛歌が全否定した。

 

“またトカゲ! いい加減皆して黙示録の竜である余をトカゲ扱いするのはやめよ! そういうのはあの赤ランサーもとい愚かなる余のドル友のことを言うのだ! 金ピカァ!”とドラコーが吠えた。

 

「よく吠える。が、我は牙を折られた貴様らなどに興味はない。我が気にするのはあの異なる騎士王のことよ」

 

「えっと、アーサー・オルタはアルトリアシリーズと違って男だよ?」

 

「分かっておる、雑種! それとセイバーをアルトリアシリーズと一括りにするでないわ! その呼称は玉石混合に過ぎる!」

 

“我は蔵に財を収めに来た、ただそれだけのことよ”と、一人彼は呟いた。そう、彼の願いはただ一つ。アーサー・オルタという存在そのもの。

 

いかなギルガメッシュとて、その蔵に『 ()』そのもの、すなわち天の鞘などというモノは収めてはいない。故にソレを回収しに来たのだ。

 

「天の楔は我自身、天の鎖は我の友として我のモノとなっている。であるのに天の鞘だけ収まっていないだと……くくく──たわけ!!!」

 

英雄王は“くわっ!”と目を開いて言った。

 

「シリーズを収めてこそのコレクターではないか! 我は『天の〇〇』シリーズを全て手に入れねば気が済まぬぞ!」

 

「「「「えぇ……」」」」

 

そんなフィギュアを集めるようなノリで良いのか、英雄王。

 

「と、言うわけで、あやつは我のモノ、我の財にする」

 

「誰が貴様にアルを渡すものか」

 

「ふん、せいぜい囀るが良い羽虫よ。だが我の裁定が一度下った以上、決して覆ることはないと知れ。故に……ほれ」

 

英雄王の腕が黄金の波の中に沈み、彼はそこから取り出した霊薬を立香に投げ渡した。

 

「それを使えばあやつめの不調も戻るであろう。せいぜい、我の財の調整に務めるが良い。ではな雑種ども」

 

まるで整備士に己の車の整備を任せるかのごとく、彼は霊体化してその場を去った。

 

「えっと、手助けしてくれた……ってことで良いのかな?」

 

「アルを財などと宣っていたことは不穏ですが、確かにそれはアルを助けるのに役に立つみたいですね。私の眼には嘘を言っているとは映りませんでしたし」

 

「なら、あとはどうやってその霊薬を彼に飲ませるかよね。となると……」

 

「繭から羽化したドライグから泥を抜き、落ち着いたところで霊薬を飲ませるしかないだろうな。うむ、では余は霊衣(勝負服)の用意をしてくるとしよう」

 

かくして、『アーサー・オルタの進化を全力でBボタンプッシュ(キャンセル)しよう作戦』が開始された。

 

「では、この部屋を三日ほど貸し切らせて貰います。決して、そう決して開けないように。よろしいですね、従僕?」

 

「あっ、はい」

 

立香が見守る中、ヴィヴィアンによって“使用中、開放厳禁”と書かれた札が張られた扉が固く閉じられた。

 

彼が生まれ変わって(第三再臨になって)出てくるまで、残り三日──。

 

 

 

 

「あれ、メディア? こんなところで何してるの?」

 

「あら、マスター。いえ、この部屋からどうにも獣の鳴き声が聞こえてきて……ケルベロスでも飼ってるのかしら?」

 

「ああ、その部屋ならヴィヴィアンと愛歌とネロ・オルタがアーサー・オルタの泥抜きに使ってる部屋だよ? 獣なんて住んでないと思うけど……」

 

「──泥……抜き……? まさか、いえでも……」

 

「メディア?」

 

「い、いえ。何でもないわマスター。それよりも防音の術が解けているみたいだから、張り直してあげましょう」

 

メディアが顔を赤らめ“若いわね……”と言いながらせっせと術式を編んでいく。その様子を立香は首を傾げながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハメを……外しすぎたな……」

 

三日間締め切られた部屋から、今しがた身を清めたばかりなのか、長い白金の髪を滴らせた美しい()が出てきた。

 

「マスターに迷惑をかけてしまった。いや……もとはといえば、彼女がオレに構いすぎるのがいけないのだ。ふん、一言言ってやらねば気がすまぬ」

 

女は腹を空かせて食堂を目指す。三日間で別の飢えは満たされたが、しかし腹の方はどうにもならなかった。サーヴァントとはいえ、三日間も食事を取らねば精神的には腹が減るものである。

 

「しかしまさか、英雄王がこのような手段でオレの問題を解決するとは。……懐かしい体だが、やはり男と比べると動きづらい……か?」

 

などとブツブツ言いながら女が歩いていると、一人の英霊が彼女を呼び止めた。

 

「ああ! ようやく見つけましたよ、ランサーでオルタの私」

 

「アルトリア……?」

 

女を呼び止めたのは汎人類史におけるアーサー王、アルトリア・ペンドラゴンである。

 

「何を呆けているのですが、全く。もうすぐアルトリア連合による次回のおたのしみ会の出し物を決める会議が始まるのですよ? ほら、急いで」

 

「いや、待……っ。ほんとに待て、アルトリア連合とはなんだ???」

 

アルトリア連合とは、騎士王の系譜であるサーヴァントたちのみで作られた謎の組織である。

 

「前回は合唱をしましたが、今回は何をするか……もちろん、あなたも案を考えてきたのでしょうね?」

 

「アルトリア、貴様は何か勘違いをしている。オレは──」

 

“問答無用”とばかりに女を引っ張るアルトリア。そして彼女は勢い良く会議室の扉を開いた。

 

「あ、やっと来た。もう遅いよアルトリア。会議の時間過ぎちゃってるよ?」

 

ホワイトボードの前に立つ立香が遅れてきたアルトリアを咎める。

 

「すいません、マスター。それから皆も、申し訳ない。ランサーでオルタの私を探すのに遅れました。では──」

 

衣装、色合い、外見年齢は違えど同じ顔、同じ存在である『アルトリア』たちの視線が、入り口に立つアルトリアの方を向いた。

 

そして。

 

「何を言っているのだ、私ならばここにいるぞ。遅刻したのは貴様だけだ、セイバーの私」

 

円卓に座ったランサーのアルトリア・ペンドラゴン・オルタがそう言った。

 

「……えっと???」

 

「……だからオレは違うと言っただろう」

 

謎の女とランサーでオルタのアルトリア、そんな二人の間でアルトリアは視線を泳がせる。なんだかアルトリアという単語がゲシュタルト崩壊しそうになるが、そんな中で謎の女は己の正体をはっきりと告げた。

 

「オレはアーサー・ペンドラゴン・オルタだ。貴様らと同じアルトリアではない」

 

「……」

 

その衝撃に円卓を囲んでいたアルトリア一同が目を剥き、そして立香が持っていたマーカーペンを床に落として叫んだ。

 

「──なんで第三再臨で女体化するのぉぉぉ!?!?!?」

 

 

 

 

「女にしてしまえば男の獣欲など消え去る。ふん、当然のことよなぁ? くっ……ふ……ふははははは──ッ!」

 

一方、愉悦部部長はこれからの騒動を思って高笑いしていた。

 

 





タグ追加しました。ごめんね、女体化は作者の性癖なの。完結してるし好きにすることをどうか許して。

読者の皆様は蒼銀のフラグメンツを

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