アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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Apocryphaでしたこと【4】

 

 

トゥリファスを一望できる丘の上に建つミレニア城塞。黒の陣営であるユグドミレニアの一族が居城とするその地に、一騎、あるいは一人のサーヴァントが訪れていた。

 

裁定者、ルーラーのサーヴァント。真名『ジャンヌ・ダルク』。

 

七対七という極めて異例かつ大規模な聖杯大戦が呼び水となり大聖杯のシステムによって遣わされた、この魔術儀式の一種の安全弁とも呼べる存在だった。

 

そんな彼女がミレニア城塞に訪れた理由は、ある一騎のサーヴァントの行方を知るためである。

 

昨晩、ミレニア城塞を囲む森の中で戦闘が起こった。暴走した赤のバーサーカーと、それに相対する黒のランサーとライダー。そして赤のバーサーカーを追って来た赤のライダーとアーチャーと、それに相対する黒のセイバーとバーサーカーの戦闘が。

 

戦闘自体に特筆すべきところは何もなく、赤のバーサーカーが黒の陣営に捕縛された程度でその戦闘は幕を閉じた。そのはずだった。

 

だが、ルーラーの感知能力によると様子のおかしいサーヴァントが一騎確認できるのだ。脱落寸前の、しかしまだ現世にその神秘を残しているだろう英霊の気配が。

 

ルーラーはそのサーヴァントについて調べるために、この城塞までやってきたのだ。

 

そして黒の陣営から告げられた事実は。

 

「まさか黒のセイバーが自害し、しかもその心臓をホムンクルスに移植しただなんて……」

 

調査を終えて、事のあらましを把握したルーラーは一人呟きながら丘を下る。唯一全てを知っていた黒のライダーの願いに従い、そのホムンクルスとやらを保護するために。

 

「しかし、こうして素直に返してくれるとは。荒事になることも覚悟していたのですが……」

 

ルーラーは何故か自分を目の敵にしている赤の陣営のことを思いため息をついた。黒の陣営も同じように暴力に訴えてこないかとルーラーは危惧していたが、どうやらその懸念は不要だったようだ。

 

『良い、裁定者(ルーラー)よ。我らは英霊、エーテルの器がなければこの世に干渉できぬ存在であるが、同時にかつて人類史にその名を刻んだ誇りある存在でもある。そしてそうである以上、その誇りを曲げることなどできないのだ。裁定者たる貴様は中立を、そしてセイバーもまた何らかの譲れぬ矜持を誇って死んだのだろう。……余とて譲れぬ一線はある故、そのことを責めはせぬ』

 

そして“余が責めるとすれば、その誇りを軽んじた愚か者であろう”と言って、黒のランサーたるヴラドⅢ世はその冷たい眼を鋭く尖らせたのだ。

 

彼はルーラーの立場に理解を示してくれたのだろう。あるいは、赤の陣営と敵対している彼女ならば放逐しても十分自陣営の利になると見込んだか。

 

とにもかくにもこの聖杯戦争にはイレギュラーが多いようだ。

 

十四騎の団体戦、ルーラーを敵視する赤のマスター、サーヴァントの心臓を移植したホムンクルス、そして、エーテルの肉体ではなく生身の少女への憑依という形をとったジャンヌ・ダルクの召喚。

 

ルーラーの頭を悩ませることは山積みである。

 

「そういえば、もう一つ気になることがありましたね」

 

空腹に苛まれながら森を降りていくルーラーは、己の中のもう一つの懸念について考える。

 

『聖杯戦争の裁定者たるあなたに頼みがあります』

 

彼女が思い出すのは、そう言って深刻そうな顔でミレニア城塞を発とうとするルーラーに“待った”をかけた二人の姉弟だった。

 

彼らはルーラーに一つの依頼を託してきた。それは黒のアサシン……と思われるサーヴァントを召喚した、彼らの幼馴染の保護である。

 

『彼女は魔術師ではありませんでした。しかし、その手に令呪を宿してしまって……』

 

『赤のセイバーに殺された……と、思ったんだが。霊基盤によればどうやらアサシンは生きているらしい。もしかしたらエレインも……だから頼む。彼女を見つけることができたら、あなたが保護してやってくれないか』

 

ルーラーは聖杯戦争の裁定者だ。戦争に巻き込まれただけの人間を保護するのに異論はない。もともとこのような役割は教会の役割なのだが、広い括りで見ればジャンヌ・ダルクもまた教会に属する存在である。代わりを務めて感謝されど、文句を言われることはあるまい。

 

「しかし、変ですね……」

 

ルーラーの能力として、ジャンヌは森の中にある弱々しいサーヴァントの気配に近づきつつあるのを実感しながら首を傾げた。

 

ルーラーの感知能力はトゥリファス全域をカバーできる。しかしその中に彼らの言う黒のアサシンの気配はない。

 

ならば赤の陣営が拠点とする隣街のシギショアラか? と言えばそこまで近くない。その気配の先はもっとずっと遠くの南だった。

 

「なぜ啓示はギリシャを示すのでしょうか……?」

 

具体的には国を跨いだ先、ルーマニアよりも南にあるギリシャからその気配は感じられる。ルーラーの信仰がスキルとなった啓示もまたその事実を示すようにギリシャの遺跡を示している。

 

だが、それはあり得ない。赤のセイバーと黒のアサシンの戦闘が行われたのはほんの数日前、ルーラーが赤のランサーに襲われていた頃なのだ。そんな短時間でどうやってルーマニアからギリシャまで移動するというのか。

 

疑問が解けることはないが、しかしルーラーがその件について深く思考することはなかった。彼女の視界に一人のホムンクルスが映ったからである。

 

そして少年と少女は、運命に出会ったのだ。

 

 

 

 

「オラァ! 死にやがれ父上のパチモンが──ァッ!」

 

赤雷を纏った銀の剣士の剣を、赤き双頭の竜が刻まれた外套を羽織った暗殺者が弾く。

 

風を纏ったその双つの宝剣は起源を同じくするモードレッドの剣と鍔迫り合う。そしてステータスの差からジリジリとモードレッドが敵へと押し込むが。

 

「──風よ」

 

「──チ……ッ!」

 

たった一言の詠唱で、雷を吹き飛ばす程の嵐がモードレッドを襲った。アサシンのクラスにも関わらず、このサーヴァントは随分と熟達した魔術の腕を持っているらしいとモードレッドは舌打ちする。

 

「ムカつくぜ。大将軍だかローマの守護者か知らねえが、所詮は騎士王のパチモンじゃねぇか。偽物は偽物らしく、正しき騎士王の後継たるオレの前に跪きやがれ!」

 

荒々しい太刀筋の両手剣がアサシンを襲うが、彼はそれを難なく躱し、そして反撃した。

 

パチモンだの偽物だの好き勝手言われているが、アサシンは正真正銘騎士王だった男なのだ。生前モードレッドとじゃれ合った(模擬戦)回数など計り知れない。その癖も、太刀筋もよく覚えていた。

 

「激情に任せた一撃、その手は悪手だと何度も言っただろうに」

 

「知らねぇよ、初対面だろうが!? 今聞いたのが一度目だよクソアサシン! 暗殺者風情が、騎士たるオレに剣の講釈垂れてんじゃねぇぞ!」

 

……にしては、少しモードレッドの勘が鈍い気がするが。

 

それもそうだろう、兜でその顔は隠れているが彼女は女だ。アーサー、もといアルトリウスの知るこの世界のモードレッドではない。

 

微妙なすれ違いを抱えたまま、双方の戦いはシギショアラの夜に広がり、その過激さを増していく。

 

一方は知名度補正があるとはいえ、格下クラスであるアサシンにこうもあしらわれていることへの怒りを抱えながら。

 

一方は、生前を懐古し1500年ぶりに会った最初の息子との試合を温かな気持ちで楽しみながら。

 

「あああああ!!! 埒が明かねぇ! てかマスター、手伝えよマジで! それに他のサーヴァントはどうした!? ここはオレら赤の本拠地の街だろ何やってんだよアイツら!」

 

“寝てるとか言ったらぶっ殺すからなぁ!”と怒号をあげるモードレッドに対し、そのマスターである獅子劫は安全圏からその戦いを眺めながら言った。

 

「いや、お前さんらの戦いに俺が交じっても即死だろうよ……」

 

『あったりめぇだ馬鹿! 誰がサーヴァント同士の戦いにマスターを巻き込むかよ、マスターはマスター同士だろうが!』

 

“そうは言ってもなぁ”と、獅子劫はタバコを吹かしながら街を見渡す。人影、ゼロ。魔力反応、ゼロ。人っ子一人いやしなかった。

 

「敵のマスターが見つからねぇんだからどうしようもないだろ」

 

『そーんーなーわーけー、あるかぁあ!』

 

先日決意したとおりに道路を粉々に砕きながら、モードレッドは吠えた。これほどの力、俊敏性、そして潤沢な魔力を持つアサシンならば近くにマスターがいて魔力を供給していなければおかしいのだ。おかしいのだ。大事なことなので二度言うほどに。

 

モードレッドの中にどんどんとフラストレーションが溜まっていく。どこか手加減をしているようなアサシン、何をするでもなく“頑張ってくれや”とひらひらと手を振る己のマスター。

 

「どいつもこいつも、ちったぁ真面目に戦え……ッ!」

 

その感情は例えるならばそう。アレに近い。“ちょっと男子、ちゃんと掃除してよ!”のアレだ。

 

「ん……?」

 

『どうした、いたか!? 敵のマスターを見つけたのか!?』

 

そのとき、獅子劫はふと顔を上げて周囲を見渡した。タバコの煙が漂う先、風下から“けほっ、けほっ……”と誰かが咳き込むような声が聞こえたような気がしたからだ。

 

だが、生憎とそこには誰もいない。相変わらず魔術の反応もない。念のため散弾銃に込めたガンドを一発ぶち込んでみたが……しかし誰もいなかった。

 

仮にこれほどの隠蔽が可能であるならばそれは宝具しかあり得ないだろう。そしてそれが可能そうなアサシンはセイバーと戦闘している。つまり。

 

「すまんセイバー、勘違いだった」

 

『殺すぞマスター!?』

 

獅子劫は念話で平謝りをしながら、不味い煙草をもう一本取り出し火を付ける。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

一方、ガンドによって大きく凹んだ頭上の壁を見て顔を青くする少女が一人いた。アサシンのマスターたるエレインその人である。

 

彼女はいざという時の切り札となる魔力石を右手に握り締めながら、首に巻いた黒いマフラーのような宝具をさらにきつく締め付けた。

 

それはギリシャ神話における冥府の神の宝具、ハデスの『隠れ兜』である。視覚的、魔術的に装備者を隠蔽する宝具であり、なぜそんなものを彼女が持っているかといえば、彼女がアカデメイアの継承者であるからだと言えよう。あまねくギリシア世界の聖遺物はそこに収まっていたのだ。現存する宝具の一つや二つ、あってもおかしくはない。

 

本来の歴史であればユスティニアヌスによって処分されていたのだろうが、この世界ではそれは正しく保管され、継承され、こうして少女の役に立っていた。

 

そして少女は待つ、目の前の男、自分を殺そうとした赤のセイバーのマスターを倒すために。

 

『──宝具だ、宝具を使わせろマスター!』

 

「お前なぁ、町中だぞ? 民草の生活はどうした……」

 

『敵を倒した先にあるのが民草の安寧だろうが。人避けの結界も張ってるし、どうせガス会社のせいになるんだろ? 撃つぜマスター、良いよな? ああもう我慢ならねぇ──!』

 

獅子劫の視界の先で、赤い光の柱が現れた。それは天まで伸びる魔力の奔流、モードレッドの持つ父殺しの剣。奇しくもアーサーもといアルトリウスに対する絶大なる特攻を誇る宝具。

 

叛逆によって変質した王剣、『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』である。

 

その剣を振るう代償に、モードレッドの顔を隠していた兜が解放された。『不貞隠しの兜』、かつてモルガンがモードレッドに与えた、その父親そっくりの顔を隠すための宝具である。

 

当然、モルガンと地続きの存在であるアサシンはその宝具のことも知っていた。故にソレについては何の疑問も、驚きも、発見もない。だがその上で彼と彼女は驚愕した。

 

何故ならそこにあったセイバーの顔は女性のものだったのだから。

 

女の子なのか(女だと)……!?」

 

思わず、アサシンの口からそう一言零れ落ちる。そしてそれが叛逆の騎士の逆鱗に触れた。

 

「……ぶち殺す。『我が麗しき(クラレント)──」

 

彼女は本気で対城宝具を町中でぶっ放すらしい。それを知った獅子劫は魔力の大量消費に備え覚悟し、その魔術回路をフル稼働させる。

 

それが、彼の致命的な隙だった。

 

「今──Comanda(セット)!」

 

エレインはマフラーを解き、呪文を唱え、右手に宿した暴発寸前の魔力爆弾を大きく振り被った。

 

そして突如現れた少女の姿に獅子劫は驚愕し、察する。あのフォームはどう見ても、こちらに何かを投げるときのそれだと。だが防御、回避、先制攻撃、どれも間に合わない。

 

Explozie de eter(エーテルよ、破裂せよ)!」

 

そしてその美しき投球フォームから放たれた豪速ストレートは見事に獅子劫の背中を穿ち、そして破裂した。

 

砕かれた結晶の破片が散弾の如く彼を襲う。魔術による防御はできなかった。そこに生まれた暴力的な魔力嵐が術式をかき消したからだ。

 

そして、獅子劫の魔術回路は一時的に窒息した。人は濃い神秘に当てられると酔ってしまうことがある。それと似た現象が彼に起きたのだ。

 

先祖返りした竜の心臓によって生み出され、宝石に無理やり詰め込まれていた魔力が彼の魔術回路を蝕む。その感覚は例えるならばそう、嵐の中で船が横転し、大海に投げ出され溺れるような気分に違いない。

 

気道(魔術回路)が空気を求めて水面を仰ぐが、しかし魔力の荒波が再び彼の体を覆い尽くす。潮水で涙も咳も止まらないような、そんな感覚である。

 

「──ッ! マスター!」

 

そしてマスターの危機に気づいたセイバーがいち早く彼に駆け寄った。結晶の破片によって負った傷は魔獣の皮でできたジャケットに阻まれたため浅い。だが、彼自身は極めて重傷だった。

 

「おぇ……背中痛いし気分が悪い……時計塔のお偉いさんと朝までパブで飲み明かしたときみたいな気分だ。なぁ、セイバー。紙袋持ってないか……?」

 

「言ってる場合かよ!?」

 

……意外と無事なようだ。

 

無論偶然ではなく、殺傷を好まないエレインがアサシンに頼んでこのように調整してもらったためである。より殺意を込めていたならば、それこそ血液が逆流して血管を破壊するように、魔術回路を無理やり犯して爆発四散させることも可能なのだ。

 

「え、えっと。令呪を差し出して投降してください! 赤のバーサーカーのマスターさん!」

 

今度は三つ、その右手に魔力石──というより爆弾と言うのが相応しいモノを構えたエレインが獅子劫に告げる。断れば追撃も辞さないという覚悟をその瞳に宿して。

 

「誰がバーサーカーだ、この陰キャメガネ! 殺すぞ!」

 

「ひっ、あ、アサシンさぁん……!」

 

だが、その覚悟は簡単に瓦解してしまった。セイバーに凄まれたエレインは小動物のように怯えきってしまい、アサシンの背中にさっと姿を隠す。

 

「私のマスターをあまり虐めないで欲しいな。サー・モードレッド」

 

「てめ……オレの……!」

 

真名を言い当てられた彼女は剣を構え、その顕になった顔に怒りを浮かべながらアサシンを睨んだ。顔、そして宝具の真名、この二つがあれば真名がバレてしまうのも道理だろう。

 

……もっともモードレッドのその考えとは裏腹に、実の両親であるアサシンには最初の夜に戦闘したときからその真名がバレていたのだが。

 

「さて、大人しく降伏してもらおうか。赤のセイバーのマスターたる魔術師(メイガス)よ。この間合いならば風で貴公の首を切り飛ばすことなど容易い。我がマスターの前に血を見せたくないないのだが……」

 

「はっ、舐めやがって。テメェの方こそ、その寝ションベンしてそうなビビリなマスター抱えてオレと戦えると思ってんのか?」

 

「んな!? ……お、おねしょなんてしないですよ!」

 

「挑発に乗らないでくれ、マスター」

 

乙女に対しあんまりな言い草だったので、エレインが抗議の声を上げる。それに対しモードレッドが“ああん?”と凄むと、やっぱり彼女はアサシンの背中に再び潜り込んでしまった。聖杯戦争初夜のトラウマは深いらしい。

 

対しモードレッドも強気に振る舞っているものの、その内心は冷や汗で滲んでいた。異常をきたした獅子劫の魔術回路からは酷く細い魔力供給しか来ていなかったからだ。これではアサシンとの一騎打ちで負けてしまうだろう。騎士たるモードレッドがアサシン風情に一騎打ちで負けるなど業腹以外の何物でもない。

 

だが、純然たる事実としてアサシンは彼女よりも強かった。それは圧倒的な知名度補正のなせる技か、それとも実力か。

 

モードレッドも、何故かこのブリテンから離れたここルーマニアで少なくない知名度補正(・・・・・)を受けているというのに。そこには埋められない確かな差があった。

 

『マスター、令呪は行けそうか』

 

『──おぇ……』

 

モードレッドの問いには胃酸がこみ上げてくるような嗚咽が返事に変わって返ってきた。今この場を第三者が見れば、地面に横たわる酔っぱらいのおっさんとコスプレした二人と一般女子高生の謎のグループに見えていたことだろう。

 

「手詰まりなのだろう。早く決断してくれ。夜は短いんだ」

 

“十……九……八……”と急かすようにカウントダウンを始めたアサシンに、モードレッドはなんとか打開策を探ろうとする。だが、心の隅に“万事休すか……?”という思いが浮き上がってきた。

 

敗因は、アサシンとそのマスターを侮ったことか。一度目の戦闘と真名を把握したことでその戦力に先入観を持ってしまったせいで、アサシンのマスターを侮りその奇襲を許してしまった。

 

「いや、オレがさっさとコイツを斃していれば……」

 

“三……二……”と淡々と数を数えるアサシンの姿にモードレッドは歯噛みする。そして一か八か、もう一度宝具を解放しようか彼女は迷った。

 

魔力供給の少ない状態で宝具を放てば、最悪の場合魔力不足で彼女は消失する。だが、このままいっても死ぬだけだ。ならば──。

 

そして、彼女はその両手をきつく握り締め剣を振り被ろうとしたそのとき。

 

二者の間に槍と弓が刺さった。

 

「──おっと、そこまでだ。ここからの勝負は俺に預けさせて貰うぜ」

 

「──ライダー、この場を任されたのは私と汝の二人であることを忘れたか? このアサシンは危険に過ぎる。数の差で押し潰すべきだ」

 

現れたのは快活そうな美丈夫と、獣のような野性味を感じさせる美女。赤のライダー、ギリシア最速の英霊たるアキレウスと赤のアーチャー、同じく俊足を誇った月の女神より弓を賜りし女狩人アタランテである。

 

「釣れないこと言うなよ、な? 姐さん。ここはいっちょ俺に任せて姐さんは優雅に鑑賞でもしていてくれ。このアサシン、暗殺者にしてはどうもやるみたいじゃねぇか、俄然やる気が湧いてきたぜ」

 

「戯けたことを……貴様の趣味嗜好を優先するなよライダー。我らの目的はセイバーの救出、そしてこのアサシンの撃破なのだ。二人の同時の方が都合が──」

 

敵前にも関わらず自然体に会話を交わす二人。だが油断も隙もない。手を出そうものなら瞬く間に二騎同時の反撃を受けるだろう。そのような常在戦場の雰囲気が二人からは感じ取れた。

 

「なら分かった。俺がアサシンを斃す、姐さんはセイバーのマスターをあの胡散臭え神父のもとに届ける。これで良いじゃねぇか」

 

強敵との戦いにウキウキと肩を鳴らすライダーに呆れたアーチャーは“何も良くはないだろう……”と言おうとした。

 

「──あの!」

 

が、そのとき。アサシンの背中にいたエレインが声を上げる。そして言った。

 

「あなたたちが話してる間に逃げちゃったんですけど!」

 

彼女の言う通り、二人が振り返るとそこに獅子劫とモードレッドの姿はなく。

 

「助かったぜ、んじゃあとよろしくな──!」

 

と、街の奥に遠ざかっていく叛逆の騎士の声だけが反響して響いていた。

 

「……助けられた恩とか感じねぇのか、あのセイバーは」

 

「セイバーのマスターを連れ帰らなければ、またあの女帝(アサシン)が煩いぞ……」

 

「どうする、追うか?」

 

「さて──」

 

会話しながらも赤のアーチャーが弓を引く、そして放たれたその矢は『隠れ兜』を纏い逃げようとしていたエレインの足元に突き刺さった。

 

アタランテは狩人だ、鼻が利く。たとえ姿形が見えなくとも、生物である以上その香りを消すことできないのだから、彼女にとっては見えているも同然だった。

 

ギリシア最優の女狩人は、二度も獲物を逃しはしない。

 

「マスター、決して動いてくれるな」

 

アサシンのその言葉に、その場にへたり込んだエレインがこくこくと何度も頷く。

 

「東の国には『二兎追うものは一兎も得ず』という言葉があるそうだぞ、ライダー──!」

 

「へぇ。ま、俺は二兎追い求めてこその英雄だと思うが──な!」

 

そして二つの視線が彼に突き刺さり旋風と共に体が動き出すと同時に、双頭の竜はその剣を風の鞘から抜いた。

 

本来は両手剣でありながら、しかしサーヴァントになったことでその伝承が昇華され、二刀流用の片手剣へと変質した兄弟剣。

 

アルトリウスが生前その双剣を振るったことはない。兄弟剣が揃ったのは彼の孫、大ルーマニアの初代王メドラウドⅡ世の代になってからだった。

 

だが、彼はドラコニオス家の家祖。後世その二振りの剣がその家の家宝として伝わったのならば、熟練した達人の如くそれを振るってみせよう。

 

「──双頭の竜よ、我らが帝都の威光を示せ」

 

右手に握られるは銀と赤、己の息子モードレッドの扱う両手剣と同質のもの。すなわち、彼が故郷より持ち寄った『燦然と輝く王剣(クラレント)』。

 

そして左手に握られるは金と赤、かつて彼の宿敵だったローマ皇帝ルキウスが扱った兄弟剣。後に東ゴート王国よりローマの宝物庫から発見された、すなわち、『燦然と輝く帝剣(フロレント)』。

 

両の剣が交差する。其が体現するは千年栄えし世界都市、双頭の竜が守護せりし我等が第二の故郷。

 

中世の始まり、乱世において西洋世界唯一の平和を誇った楽園にして理想郷である。

 

「『帝都抱きし(クロスカリバー)──」

 

其はコンスタンティノープル。あるいはその旧き名は、より神秘を宿した真名はこう呼ばれるのだろう。

 

「──双頭の竜(ビザンティーン)』……ッ!!!」

 

ビザンツ帝国帝都、ビザンティノポリスと。

 

 









獅子劫さん、間一髪で傀儡ルートを回避。

アサシン視点だとジークフリートとモードレッドは自分への特攻を持ってて対面不利。ジークフリートとアキレウスとカルナはダメージカット鎧持ってて対面不利っていう。ほんとにApocryphaって面子やばすぎませんか。まぁすまないさんはもういないんですが。

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