答え合わせ。
A.そこに都合よくキャスター霊基で戦闘力皆無な英霊がおるじゃろ?
セミラミスという女は、かつてメソポタミア地域北部に位置するアッシリア帝国にて女帝として君臨していた通り、尊大で、有能で、冷酷で、そして野心的な人物である。
あまねく知識、芸術に精通し、その美貌は多くの男を魅了し、その智謀は政敵のことごとくを滅ぼした。
だが、はじめから彼女がそういう人間だったかと言われればそうではない。人は誰しもが生まれたばかりの頃は無色透明の存在であり、その後の生をもって初めて色付くものなのだから。
半人半魚の女神と人間の男の間に生まれた彼女は、すぐさま捨てられ
だが、彼女を拾い上げ、知識を与える存在がいた。セミラミスの一人目の夫──オンネスは彼女を娘のように育て、妻のように愛したのだ。
善良なる人間だった。そんな一人目の夫をセミラミスもまた、親愛だろうと敬愛だろうとどのような形であれ愛していた。
しかし二人目の夫、アッシリアの王ニノスがセミラミスの美貌に目をつけたことで、二人の関係は終焉を迎えた。ニノスはオンネスに対して自身の娘を妻として与える代わりに、セミラミスを献上するよう迫った。
善良なるオンネスは妻への愛と王命の間で板挟みになり、やがて狂気に侵され首を吊って自害してしまった。
だからセミラミスは二人目の夫を、ニノス王を同じ目に遭わせてやった。宙吊りとなって
かくして、ニノス王の妻としての立場を引き継いだ女帝セミラミスが誕生した。彼女は野心の赴くままに偉大な都市を築き上げ、領土を広げ、最後には己に叛逆した子にすべて託し鳩となって国を去った。
そしてそのありさまが英霊として座に刻まれて、もう間もなく3000年が経つであろうほどの長い時を超えて──彼に出会ったのだ。
シロウ・コトミネ、あるいは天草四郎時貞。人類救済を嘯く狂人か、あるいは理想を志す聖人か。
その願いを聞いたときは、道化としてせいぜいその足掻く様を愉しんでやろうとも思ったが。
彼は、セミラミスの知る男たちとはどこか違っていた。女としての自分を求めることもなく、ただ力だけを求めた人。傅くわけでもなく、支配するわけでもなく、対等であろうとした人。
セミラミスにはその在り方が理解できなかった。それも当然だろう。生きた国も、生きた時代も異なる相手。ほんの二週間を共に過ごしたくらいで何を理解できるだろうか。
だが、もっと理解できなかったのは。
こうして身を挺して彼を庇った、己自身であった。
自ら飛び込む必要は欠片もなかった。冷静な自分であれば、魔術で十分対処可能だっただろう。それが意味するところはつまり、彼の死が自分にとって冷静さを失わせるに足る事象ということだろうか。
「セミラミス……!?」
いつも微笑みを絶やさず、余裕綽々と万事を凪いだ水面のように受け止めてきたシロウの顔が驚愕に染まる。
それを見て、セミラミスは思った。生前死に行く男の顔ばかり見てきた彼女であったが、自分の死を誰かに看取られたことはなかったなと。
(存外悪くない。誰かに死を、惜しまれるというのは……な……)
そうやって、消えゆく己の霊基を感じながら瞳を閉じたとき。
──今の自分の心よりも、理解できないことが起きた。
「令呪をもって命ずる! 赤のアサシン、赤のキャスター──
「──はいいいいい!?!?!?」
光を放つ霊基と、赤のキャスターが放つ間抜けな悲鳴を演出に、
「……は?」
「──がふっ!」
そしてセミラミスが気が付いたときには己の霊基には傷一つなく、目の前で彼女と入れ替わった赤のキャスターが剣に貫かれていた。
「すいません、キャスター。ですが今ここで彼女を失うわけにはいかないので」
隣には申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるマスターがいて。
「ご、ごもっとも! 吾輩は単なる脚本家! そして演劇とは演者が紡ぐ物語! どちらの命が重いかは語るまでもなく──!」
霊核を貫かれたはずなのに相変わらず遠くまで響くような声を上げるキャスターが。
「しかしっ、せめて……結末まで書かせて、欲しかったです、な──」
程なくして、呆気なく消滅した。
「……咄嗟のことでしたが、上手くいきましたね。
「……問題ない。もとより我はアサシンとキャスターの
すんすんと体の臭いを嗅いで、若干嫌そうに顔を歪めるアサシン。エーテルの体故に絶対に気の所為なのは間違いないが、心なしかインクの香りか、あるいは中年の加齢臭を感じないでもない。
今しがた座に帰ったキャスターがそれを聞いていれば、天を仰いで泣いたことだろう。なんて酷い。命の恩人みたいなものなのに。
「冗談を言えるくらいなら、大丈夫そうですね」
「冗談ではない。我にとっては極めて重大な問題だぞ? マスターよ。中年臭い女帝など沽券に関わる」
そう言って場違いにも笑い合う二人間を、緑の疾風が駆けた。
「テメェらふざけてる場合かッ!」
ライダーがその俊足を遺憾無く発揮し、キャスターを殺した下手人へと迫る。奇襲を許したが、その次を許すライダーではない。トロイア戦争を戦い抜いた彼にとって、このような奇襲奇策は常のことだったのだから。
「ふむ、天草四郎を潰すのが最良、次点で赤のアサシンの排除が目的だったが、まぁ一騎潰せただけでも御の字としよう」
「抜かせ。うるせぇ奴だったが、ただで死なせるほど安い命じゃねぇ。テメェの首を引き換えにさせてもらうぞ、黒のアサシン──ッ!」
だが。
「セイバー!」
「──オラァ!」
獅子劫の声と共に、呼び声に応えるように大聖杯から新たに現れた赤のセイバーが、雷を纏いて槍を弾く。
「宝具を放つ、合わせてくれ。モードレッド卿」
「オレに命令してんじゃねぇぞアサシン、テメェの方こそ合わせやがれッ!」
紅く輝く銀の大剣と、朱く煌めく銀の双剣。
「令呪をもって全てのサーヴァントに命じます!」
そして再び大聖杯から姿を現した侵入者の一人、フランス兵を導いた聖旗を靡かせたオルレアンの
「天草四郎の野望に、終止符を!」
「『
「『
二対の竜の螺旋渦巻く光が、愛憎入り混じる紅蓮の光が、裁定を告げる令呪の光が瞬いて。
やがて一つの弾丸となり、目の前の敵を穿つ。ライダーが持つ神性の鎧を貫くことはできないけれど、それはそれで問題ない。その向こう側にいる二人を射抜ければ、それで良いのだから。
「いかな手段で我が城に侵入したのかは不明だが……ふん。むしろ好都合よ、纏めて一網打尽にしてくれる。マスターは令呪を! 我はライダーめを
狙いにいち早く勘付いた赤のアサシンが声を上げる。そしてその声に応えるように、シロウはマスターの証たる令呪を掲げた。
「残る全ての令呪をもって命ずる。敵を討て、そして人類に救済を──!」
刻まれた令呪が浮かび上がり、シロウの腕から消えていく。奪い取った証ではあるものの、それは確かにサーヴァントたちを繋ぐもので。ルーラーが課した強制力を打ち消していく。
「『
そして、そこから流れ込む濁流の如き魔力を受けた彼が、大盾を構えて真名を叫んだ。
それは鍛冶神ヘファイストスが作り出した神域の盾。
光の弾と世界がぶつかり合って、その場を真っ白に塗りつぶすほどの眩い光で包まれた。
◇
走る。走る。走る。
エレインは二度目となる空中庭園の廊下を駆けていた。
彼女の役割はビザンツのアサシンのマスターとして、己のサーヴァントをバックアップすること。可能であれば敵サーヴァントを妨害すること。そして最後に、生き残ることだ。
だが、今の彼女は孤立無援だった。理由は定かではない。ルーラーとシロウの令呪のバッティングのせいか、それとも空中庭園の支配者である赤のアサシンが何かしたのか。両陣営ともがこの城の中をバラバラに転移する結果となったのだ。
サーヴァントと逸れたマスターではとても聖杯戦争は生き残れない。なるべく早く、アサシンと合流する必要がある。
「最後の令呪を使っちゃったの、不味かったかなぁ……!」
エレインは魔石を放ち、破裂させる。爆ぜた魔力が追い風となってエレインに人ならざる速度での疾走を可能とした。
エレインに残された最後の令呪、それはこの戦いにおいてアサシンの勝利を確実のものにするべく使用してしまっている。そのおかげか、それとも令呪がなくとも成功したのか、キャスターの排除には成功したが……おかげでエレインがピンチに陥っていることを考えれば、ちょっと使い方としてはマズかったかもしれない。
次があるならば、もっと慎重に令呪を使おうと心に誓うエレイン。もっとも、次があるかどうかは分からないが。
「──
呪文を唱え、イメージする。そして渾身の力を込めてエレインは、敵に向けてその弾丸を放った。
だが。
「俺に効くかよ、こんな豆鉄砲」
それは容易く弾き飛ばされた。常人ならば魔術回路に過負荷がかかって爆死してしまうだろう魔力の嵐の中を平然とした様子で通り抜け、偉丈夫は槍を担ぐ。
「なんでよりにもよってアキレウスなんですか!」
廊下を抜け、開けた大部屋に転がり込みながら彼女は叫ぶ。
アキレウス。現代教育を受けたことがある人間ならば誰もが知っているだろうギリシャの英雄。天草四郎が率いる赤の陣営の中でも一二を争う実力の、人類史全てを見渡しても上から数えたほうが圧倒的に早い強さを持った英霊と、エレインはただ一人対峙していた。
「それはこっちの台詞だ。あわよくば先生、次点で黒のアサシンか赤のセイバーとやり合いたかったが……よりにもよって投石兵とはな」
“つまらん”と言わんばかりに、ライダーは肩を落とす。彼は強者との手に汗握る闘争を求めてこの聖杯大戦に臨んでいるのだ。弱兵を蹂躙するのは生前何度もやった、もう十分だ、それを求めてはいない。
「しかも女ときた……」
女。ライダーは生前ペンテシレイアを貫いたこの槍で、二度と女は殺さぬと誓っている。
弱兵で、女。およそライダーが求める勇士とは程遠い。現に見てみろ、目の前の彼女はまるで小動物のように震え、瞳に涙を浮かべているではないか。
抵抗のつもりか、健気にも繰り出された
こんな雑魚でもマスターだ。令呪だけ切り落として放逐しよう。
ライダーがそう心の内で決めたそのとき。
「一人でダメなら、二人なら──!」
唐突に、エレインが胸の前で十字を切って叫んだ。そして次の瞬間部屋に満ちる魔力と、異質な気配に気を取られてライダーの足が止まる。
「あなたを招きます!」
それは人々の幻想が生み出した怪物ゆえ、絶対的法則に縛られる存在。
吸血鬼は、招かれなければ家屋に侵入することができない。
「カウレスくん!」
ならば逆説的にそれが招く声であるならば、どこに居ようと彼女の声を聞き届けるのだろう。
赤い霧が、部屋中に満ちた。
四方八方から飛び出す血刃がライダーを襲う。それはさながら牢獄のよう。決して神性を帯びた攻撃ではないけれど、彼の退屈そうな表情に警戒の色を浮かばせるには十分なものであった。
「チッ、この気配、いつぞやの吸血鬼と同じものか……!」
ライダーはその気配に黒のランサーの面影を感じ取りながら、警戒を強めた。彼は神父の警告をよく覚えていた。黒のセイバーがそうであったように、黒のランサーもまた誰かに力を継承した可能性があることを。
そしてもし、何かの間違いでこの血の霧がライダーの中に侵入してしまえば、彼とて吸血鬼に成り果てる可能性がある。そうなれば神性の鎧も意味がないと、彼は霧から逃れるように大きく跳んで距離を取った。
そして。
「『
鮮血の鎧を纏いし吸血鬼が姿を現した。胸に掲げるは環十字、祈りを受けた癒しの宝具。そして背後に守るべき者があるならば、彼が狂気に溺れることはない。
「ごめん、遅れた」
「ううん、大丈夫です。むしろタイミングバッチリでした」
禍々しい鎧の内から聞き慣れた男の子の声が聞こえたおかげか、エレインは張り詰めていた精神を振りほどいて微笑んで見せた。
「って、あれ赤のライダーだよな。うっそだろ……赤のライダーの相手はアーチャーがするはずじゃ」
「ランダムエンカウントだから仕方ないです。カウレスくん、アーチャーが来るまで、私たちで足止めしますよ」
魔力と血風吹きすさぶ嵐の中を平然と歩き抜け、二人の目の前には俊足の英雄が立っていた。
カウレスは吸血鬼となったとはいえ、数日前は一般的な魔術師だった。実力は下から数えた方が早いくらいで、とてもじゃないが人類史に刻まれた英霊と戦える実力なんてない。目の前のライダーには逆立ちしたって勝てっこないだろう。たとえこの場に今は亡きバーサーカーがいたとしても、それは変わらない。
ましてや吸血鬼カウレスはこれが初陣なのだ。かつて同じ場所で、複数の英霊相手に大立ち回りをしてみせた黒のランサーほどの実力は発揮できないだろう。
カウレスは“ごくり……”と思わず生唾を飲み込み、体の震えを自覚する。
「大丈夫です、私も手伝いますから。一緒にいきましょう」
だが、その場には震える手をそっと握りしめてくれる人がいた。それは黒のランサーとは大きな違いだった。
「あぁ……そうだな」
拳を握り、己を奮い立たせるカウレス。いかな強敵が相手だろうと、せめて己が慕う
「はっ、言ったなガキども!」
そして、真紅の霧が槍の穂先で切り裂かれる。
『
「当世の人間がこのアキレウス相手にどこまでやれるか、先生を相手する前の
女は殺さぬと誓った、だが男であれば問題あるまい。戦車を出すなんて大人げない真似はしない。槍一本、己の身一つでライダーは弾丸の如く飛び出した。
◇
砕かれる大空に浮かんだ大地。風を切る二つの人影。槍と剣の打ち合う音が二合、三合と夜空に響いて、飛び散る火花が星の瞬きの如く消えていく。
相対するは二騎の赤。
太陽の御子たるランサーが放つ、大気すらも焼き焦がす絶対の赤熱。叛逆の騎士たるセイバーが纏う、大岩さえ容易く引き裂く苛烈な赤雷。
二つの極大の魔力が、空中要塞の甲板を舞台に真っ向から衝突していた。
「『
「『
互いに出し惜しみはしない。今宵これが己の最後の戦いと定め、全力の一撃を撃ち放ち、相殺させる。
「ふむ、ときにセイバー」
「あぁ!?」
そんな互いの命を賭けた、薄氷の上を歩むようなギリギリの殺し合いの最中。不意に赤のランサーが口を開いた。セイバーは兜を閉じ、剣も下ろさず、足も止めないままその真意を問う。
ランサーは毅然とした態度で言った。
「俺は黒のセイバーと再戦の約束をしている。つまりは先約がある故、本来であればそちらを優先したいのだが……」
「今更何言ってんだテメェ!? 今どう見てもオレと死合う流れだっただろうが!?」
ランサーからは兜で見えないが、見えていれば明らかに額に青筋を浮かべていたであろう声色で声を上げるセイバー。
「戦士と戦士が会えばやることは一つ。先約だろうがなんだろうが知るかよ!」
そして数度の打ち合いの末、吹き飛ばされて体勢を崩した彼女は言葉を吐きながら、剣を支えに立ち上がる。
「ごほっ……はぁ、そもそも黒のセイバーはとっくに退去しただろうが。それともアレか、お前が探してんのはあの命知らずのサーヴァント擬きか?」
「そうだ。あのホムンクルスは黒のセイバーの心臓を継承し、その力も受け継いだと聞いている。だとすれば俺との約束も自動的に引き継がれたと見るべきだろう」
「はっ、理屈なんざ知るか。だがあえて言わせてもらおうかランサー!」
ピシリ、と荒々しく指を突き立てて、微動だにせず佇む黄金の英雄を睨みつける。
「オレはそのホムンクルスを一度ぶっ殺している! 本来ならあいつは二度と目を覚ますはずがなかった! ならばその約束を次に引き継いだのはオレだろ!」
そうだ。大聖杯が天草四郎に簒奪される前の戦場で、セイバーは一度ジークを殺している。しかし何の因果か、彼は黒のバーサーカーの宝具『
「どうだ、ちったぁやる気が出やがったかクソ真面目野郎!」
竜の心臓を持った父、アーサー王には及ばずとも。それに迫るべく魔女モルガンによって造られた彼女のホムンクルスとしての肉体がいきり立つ。
全身の魔力回路が限界を超えて励起し、それは行き場のない破壊の赤雷となって全身から噴出した。
彼女はそのまま、音すらも置き去りにしてランサーの懐へと斬りかかった。
「──なるほど、ならば俺と貴様がここで死合うは道理というわけか」
「──そう言う、こったッ!」
上段から容赦なく振り下ろされた魔剣が、下段から流れるように振り上げられた神殺しの槍と激突する。技量において、辛うじて渡り合えている。だが──
「マスター、歯ぁ食いしばれ! テメェの魔力、根こそぎ全部持ってくぞ!」
『少しは加減してくれよ……セイバー!』
脳内に響く、どこか呆れたような、けれど頼もしい相棒の声。
「冗談!」
浮かぶ瓦礫を足場にし、セイバーは宙へと舞い上がった。再び兜が剥がれ、野性的な笑みを浮かべた彼女の顔が顕になる。それは、彼女が宝具を解放しようとする前兆だった。
眼下にある無敵の敵と、空中を征く虚栄の城を見る。こうして空から見下ろすには、なかなか悪くない絶景だった。
死線の最中、そんな場違いな感傷を抱きながらも、彼女は大剣を振り抜く。
「『
本日三度目となる宝具の開帳。溢れ出す赤き魔力の渦が、極大の光条となってランサーを真っ直ぐに穿つ。敵も、この忌々しい要塞も、何もかも全てをぶち壊してやろうと言わんばかりの、文字通りの『叛逆』の一撃。
「チッ、やっぱりダメか……」
だが、土煙が晴れるとそこには何食わぬ顔で平然と仁王立ちをかますランサーの姿があった。その後ろにある要塞も甲板が陥没し、何本か柱が砕けた程度。王剣の一撃は彼の身一つで防がれたのだ。
『
あの絶対の守護を貫けるものがあるとするならば。
「……オレも、このクソったれな戦局も、剣を抜かなきゃ前に進めないってことか」
同じ神造兵器をおいて他になし。
それを悟ったセイバーは、大人しく銀の王剣を手放した。そして入れ替わるように握られたのは朽ちた剣。未だ己に応えぬ聖剣を掲げ、彼女は太陽の化身へと再び挑む。
「そのようななまくらな剣で、この俺を倒せると思うか?」
「はっ、これがなまくらに見えるか? だとしたらテメェの目は大層な節穴だな……ッ!」
口から強がり吐き捨て、槍の猛攻を受ける。確かに今はなまくらだろう。ならば、かつて一度されたように改めて打ち直すまで。
ランサー、貴様は太陽の化身なのだろう。ならば貴様のその大熱すら奪い取って、オレはこの
『マスター』
モードレッドは心の中で唱えた。今もどこかでこの戦いを観ているだろう、共に戦場に駆けてきた彼に向かって。
『タイミングも、
念話はそれっきり。だが伝えたいことは全て伝わったという確信はある。円卓の欠片という、複数の縁が集まる聖遺物で選ばれた二人なのだ。もうそこにそれ以上の言葉は要らなかった。
セイバーはただ、眼前の不落の太陽を見据え、ただ己の限界の先を目指して剣を振るう。その手に宿した剣が、己に応えてくれるその時まで。
「……おう、任せとけ。セイバー」
陽光と赤雷の激突。神話の再現が如き戦いと、命を燃やす我がサーヴァントの背中をその目に焼き付けながら。
吹き飛ぶ瓦礫の死角で、魔術師・獅子劫界離は、残された二画の令呪が刻まれた拳を、血が滲むほど強く握り締めた。
我が遅筆は牛歩の歩みにて候……。