アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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誤字脱字報告に感謝。

カーニバルとマンわかと謎丸をごちゃ混ぜにしたようなトンチキカルデア時空の続きにあたるものです。頭空っぽにしてね。


カルデアでしたこと【おまけⅤ】

 

 

 

前回までのカルデア。

 

神秘のない世界で一生を終えたアルトゥールス。

 

しかし気がついてみれば、何の因果か彼はアーサー・オルタという英霊として召喚されてしまった。

 

在り方を獣として召喚された彼は、『愛したモノを内側に取り込んでしまう』という逸脱の獣としての性を抱えながら周回に勤しむ。

 

そんなある日、ついに絆レベルがマックスに到達。愛のあまりマスター藤丸立香(♀)を押し倒してしまったが、最後の理性でもって繭に閉じこもった。

 

そんなアーサー・オルタに(余計な)を貸したのが英雄王。彼は宝物庫にある性転換の霊薬をアーサー・オルタに飲ませ、ひとまずはその獣欲を抑え込んでみせた。

 

だが──愉悦部はそこでは止まらない。あろうことかアーサー・オルタのメス堕ちを画策した英雄王、およびその他黒幕さんたちが特異点を形成し、アーサー・オルタを攫ってしまったのだ!

 

そして、いきり立つ妻たちと円卓の力を前に、悪の王様は倒されて──。

 

「助けに来たよ! アーサー・オルタ!」

 

「り、りつかぁ……」

 

最後の一押しはいつだって善意。白馬の王子のように颯爽と駆けつけてくれたマスターへの想いが溢れてしまったアーサー・オルタは完全にビースト化。

 

そして最終的には暴走したビーストⅡ・Aをカルデアが泣きながら調理して終了──これにて、英雄王の企ては阻止されたのである!

 

 

 

 

「自分で報告書書いてて思うけど、ひっどい事件だなぁ……」

 

立香は自室のノートPCとにらめっこしながらそう呟いた。

 

「そうですね。それに最終的にアーサー・オルタさんに飲み込まれた黒幕の人たちは何食わぬ顔で再召喚されていましたけれど……アーサー・オルタさんだけ、完全に記憶を失ってしまいましたから。はい、なんとも報われない事件です」

 

そして隣で立香のレポート作成を健気にサポートする後輩ちゃんことマシュが同意を示した。

 

『サーヴァント、アーサー・オルタだ。……いや、分かっているとも。二回目なんだろう? 今度はきっと、君に迷惑をかけないと誓うさ』

 

その苦しげな表情が、何も覚えていないはずなのに、胸を抱えるような仕草があまりにも痛々しくて……。

 

「うーん、これが愉悦! ぶっちゃけ素材は美味しかったです! イベントの復刻に期待!」

 

おっと?

 

「先輩!? も、もしやあの特異点の後遺症で聖杯の泥に侵されましたか!?」

 

さすがガーチャー。強欲の人類悪。物欲センサーによって倒されるべき獣だ。

 

「て、言うのは冗談冗談。新所長にも散々怒られたしね、ちゃんと反省するよ」

 

『藤丸貴様ァ──! お前はただでさえサーヴァントタラシなんだから、もう少し距離感考えてあげなさいよ! 仲良くなったら危険なサーヴァントの前例はあったでしょうが、ブリュンヒルデとかな! ともかく、所長命令として今後一切、アーサー・オルタに夢火を投入するのは禁止だ! 分かったかね、まったく』

 

などとプリプリ怒る我らが癒し、ゴッフ所長に対し、立香もしゅんとして反省するしかないのである。

 

「お願いしますね、先輩。先輩が闇堕ちしてしまったらカルデアは本当におしまいですから」

 

「私が闇堕ちぃ? んー、すでに手遅れかも(笑)」

 

「だ、だめです! ちゃんと原点に立ち返ってください先輩!」

 

「嘘嘘、私が闇堕ちするときはカルデアも一緒に堕ちてると思うから問題ないと思うよ」

 

「問題大ありです!」

 

人類の敵、カルデア概念。

 

いや、そもそもカルデアは異聞帯からすれば世界を滅ぼす世界の敵だったな。

 

「正義とは一体? 悪とは一体?」

 

「あの、答えのない問いを考えていてもレポートは終わりませんよ?」

 

「その答えは愛だ! マシュ、ベッドに行こう!」

 

「先輩!?」

 

 

 

 

お昼時。なすびちゃんを撫で回して英気を養った立香はレポート作成を終えて、一人カルデア食堂に向かっていた。

 

すると廊下の向こう側から、何やら怪しい集団が現れる。

 

「やぁ、マスター。調子はどうかな」

 

「あ、アーサー・オルタ! そっちこそ調子は……って、あんまり良くなさそうだね。やっぱり病み上がり?」

 

集団の中心にいたのはアーサー・オルタだった。彼はげんなりした表情で立香に向かって頷いた。

 

「まぁ、それもあるんだけれど。……彼女たちが四六時中へばりついて離れないんだ」

 

“もうセイバーを離さないわ。私が、私が目を離しちゃったばっかりに……”とアーサー・オルタの左側を陣取るキャスター・ギネヴィアこと沙条愛歌。

 

“英雄王はいますか? いませんね? よろしい。万が一顔を見せれば今度こそ『去勢』してやる……ッ”と殺気立つアルターエゴ・ヴィヴィアン。

 

“やはり獣としてのドライグを受け入れられるのは同じ獣である余の定めであるな!”と背中にべったり張り付くビースト・ドラコー。

 

その三人が、肌身離れずまるで騎馬戦でもしているかのように塊を成していた。

 

「再召喚されてからずっとこの調子でね。マスターからも言ってくれ、僕はもう大丈夫だって」

 

「自分で大丈夫って言う人の大丈夫は信用ならないって相場が決まってるので、そのままアーサー・オルタをいっぱい癒してあげてねみんな」

 

「「「当然」」」

 

「ちょ、マスター!?」

 

ノータイムの裏切りに仰天するアーサー・オルタは、そのまま妻たちに引きずられて食堂へと向かった。

 

『はぁ、分かったよ。分かったからせめて食堂では離れていてくれ、食事を取りづらいだろう? ……あぁ、今日は粥定食で頼む。病み上がりで食欲が……あの、パーシヴァル卿? 貴公が配膳係なんだね、うん。それは分かったけれどその山盛りの粥は何かな? 粥って胃に優しいから食べるもので、そんなに山盛りにするものじゃないというか、そもそも僕は病み上がりなんだけど。……聞いてる? あ、これ聞いてないな。……おいパーシヴァル卿を配膳係にしたのはどこのどいつだッ!?』

 

そして食堂から響くアーサー・オルタの声。その調子で、どうか精神リハビリテーションを頑張って欲しい。

 

「さて、私もご飯食べるとするかな」

 

そして立香も昼食を選ぼうと、壁に貼られた『本日のメニュー』一覧を前に思考を巡らせているとき。

 

「ん?」

 

とんとんと、肩が叩かれた。振り返ってみれば、そこにいるのはアーサー・オルタにべったり張り付いていたはずのヴィヴィアンの姿。

 

「どうしたのヴィヴィアン。私に何か用事?」

 

「はい。食事を終えた後でよろしいので、時間を貰います。立香。会議室に来なさい」

 

「……? ……まぁ空いてるから良いけど」

 

そして首を傾げて疑問を浮かべながら、藤丸立香はその日の昼食を終えた。

 

 

 

 

「──湖の乙女、同じ存在でありながら、異なる側面を持って現界した並行世界の『私』たち。よくぞ集ってくれました」

 

会議室の真ん中で、異聞帯の女王。妖精妃モルガン・ル・フェがその始まりを告げた。

 

「大忘年お楽しみ会……それは本来、我が妻立香の一年の活躍を労う催しのはず。しかし──!」

 

“ドン!”と、モルガンが机を叩いた。

 

「それを占有し、自らの権勢を示すだけに恣意的に使う者たちがいる! その者たちの名は──アルトリア連合ッ!」

 

アルトリア連合。なぜかカルデアにたくさんいるアルトリアたちが、お楽しみ会に出場するときだけに集う組織。

 

もちろん、アルトリアたちがお楽しみ会を乗っ取っているなんて事実はない。あくまでモルガンの評価である。

 

「やつらの権勢は増すばかり、これではかつてブリテン島が円卓のものとなったように、カルデアがやつらの手に落ち……また、また! ……っ、私たちが追い出されるのは時間の問題です!」

 

苦虫を噛み潰したような顔で、かつて辛酸を舐めた記憶を思い出す。二度も奴らに敗北するなど、絶対にゴメンであった。

 

「し、しないと思うけどなぁ。少なくとも私はモルガンが退去とか、嫌だよ?」

 

そんなモルガンの様子を見て、立香が冷や汗を流す。別にアルトリアたちはモルガンを排斥するために徒党を組んでいるわけではないはずなのだが。

 

「ふっ──ありがとうございます我が妻。ですが今は演説の途中ですので、イチャイチャはあとに取っておきましょう。私にも女王として威厳がありますから」

 

“言わずともわかっています”と、何も分かっていないモルガンが立香の唇に人差し指を添えた。もう言うまでもないが、女王としての威厳は台無しである。

 

「話を戻しましょう。……さて、私はアルトリア連合の専制を食い止めるため、ここに至って一つの構想を得ました。やつらはアルトリアという一つの存在が組織として集ったもの。であるならば私も反アルトリアレジスタンス組織──大モルガン連合を作るしかないのだと!」

 

“そして今ここに、その組織の設立を宣言します!”と、モルガンは高らかに言い放った。

 

「ひゅー! どんどん! ぱふぱふ!」

 

「えっと、さ、流石ですモルガンさん!」

 

パチパチと立香がスタンディングオベーションをキメた。そしてマシュもまたそれに倣う。

 

「賑やかしをありがとうございます、我が妻、我が騎士。では、二人とも私の隣に座りなさい。あぁ、我が妻は膝の上でも構いませんよ」

 

だから女王としての威厳はどうした。

 

「普段私のことを色ボケだのなんだと罵ってくれるクセに、異聞帯の私(きさま)も大概だな……」

 

そんなモルガンの様子を共にテーブルを囲む大モルガン連合構成員……の予定、の一人。ヴィヴィアンがカップを手に持ち紅茶を口に含みながら言った。

 

「何か言いましたか、並行世界の私?」

 

「……何も」

 

ヴィヴィアンはモルガンから目を逸らし、その反対側に座る彼女。モルガンの若き姿……キャスターのトネリコを見た。

 

今でこそ若き日のモルガンの姿を保っているが……こいつもこいつで夏やバレンタインになるとモルガンと悪魔合体し、頭トロトロの甘々水妃になってしまうらしい。ヴィヴィアンはまだその姿を見てはいない故、いつそれが来るかと戦々恐々としている。

 

「へ? なんで私を見るんですか?」

 

などと言いながら、もぐもぐとロールケーキを頬張っているのを見て、ヴィヴィアンはため息をつきながら彼女の口元についていたクリームをティッシュで拭ってあげた。

 

“こんな調子でアルトリアどもに勝てるのか……?”と、ヴィヴィアンは疑問に思う。

 

彼女が大モルガン連合に参加した理由……それはアルトリアに対する憎しみや恨みからではない。夫であるアーサー・オルタのためだ。

 

やつら、あろうことか女体化したアーサー・オルタをアルトリア連合に引き込もうとしたのだ。一度あることは二度あるもの。もしまた次アーサー・オルタがアルトリア連合に勧誘されるなんてことがあれば……それを断じて許すことはできない。

 

芽は早くに摘んでおくに限るのである。

 

「そう言えばモルガン、妖精騎士たちは良いの?」

 

「暇を出しました。今回は芸を観る側に回ってもらいます。たまには余暇を楽しむのも良いでしょう。ふっ、私の威容に驚く我が騎士たちの顔が目に浮かぶようだ」

 

“さすが私、福利厚生も完璧です”と、自画自賛するようにモルガンが頷く。ちなみにこれによってある一つの問題が現在進行形で進んでいるのだが──。

 

「あのぉ……ところで私、なんでここにいるんですか?」

 

そんな中、同じくテーブルを囲む大モルガン連合構成員の一人たるアーチャー、エレインがおずおずと手を上げた。

 

「私、モルガンさんじゃないんですけど。ここに居ても良いんでしょうか」

 

「黙りなさい、色違い」

 

そんな彼女の疑問を妖精女王が一蹴する。

 

「色違い!?」

 

確かに、見た目だけで言えば彼女と湖の乙女たちとの違いはその瞳の色くらいしかない。吸血鬼の証である真っ赤な瞳だけが、この場所ではエレインの唯一のアイデンティティだった。

 

「貴様の霊基は湖の乙女の血を引き、そしてそれはオリジナルに限りなく近いものとなっている。つまり(モルガン)顔で(モルガン)声なので、お前は(モルガン)です。分かったか4Pカラー」

 

なんだかヒロインXみたいな判定の広さであるが、女王陛下は絶対なので問題ない。

 

「4Pカラー!? 2Pカラーですらないなんて!」

 

「2Pカラーはそこの若き日の私です」

 

「んぶふ……っ!」

 

トネリコが飲んでいた紅茶を吹き出し、ゴホゴホと咳込んだ。酷い、どちらかと言えば彼女の方がモルガンのオリジナルなのに。

 

「つまりは私が3Pカラーなのか……」

 

その事実を噛み締めながら、ヴィヴィアンは咳き込むトネリコの背中を擦ってやった。残念ながらカルデアにやってきた順らしい。

 

「とほほ……とんでもないことに巻き込まれてる気がします」

 

「どうか元気を出してください、エレインさん」

 

「ごめんね、うちのモルガンが」

 

「我が騎士と妻が謝る必要はありません」

 

これから巻き込まれるだろう波乱に思いを馳せながら、エレインはアイスティーに刺さったストローを吸った。

 

「ところでエレインさん、今日は前髪を伸ばしていらっしゃらないのですね」

 

「あ、もう前髪を伸ばすのはやめました。でも目隠れはやめてませんよ? 今日はフード目隠れ……メディアさんを参考にさせて頂きました」

 

“包帯目隠れ、バイザー目隠れ、眼帯目隠れ、グラサン目隠れ……今の時代は前髪だけじゃない。多様性ですよロバーツ先生!”と、拳を握りしめて彼女は宣言する。メカクレの伝道師の情熱は正しく引き継がれたようだ。

 

いや引き継ぐなそんなもん。『メカクレ道の先達として、どうか私にそのフードの極意を教えてください!』と意味の分からないことを言いながら、突然押しかけられたメディアの気持ちを考えろ。

 

……それはさておき。

 

「じゃあ、まず何の出し物をするのか考えれば良いのかな。誰か、案ある人──?」

 

油性ペンを持ってホワイトボードの前に立香が立つ。

 

「待ちなさい我が妻。それはしばし早計と言うもの。我々には出し物の内容を考える前に、解決せねばならないある一つの問題がある」

 

“それは一体……?”と、その場全員の視線がモルガンに向いた。

 

「ずばり……連合を名乗るからには最低五人の構成員が必要だと言うことだ! 一方我々は今四人! 大モルガン連合のためにあと一人(モルガン)が必要なのです!」

 

「はぁ!? そもそも組織の立ち上げすらできていないではないか! あまりに行き当たりばったりが過ぎる!」

 

ヴィヴィアンが指摘する通りだ。もうちょっと計画性を持って……持っていれば、アーサー王には負けなかったよね。送った間者全員にも裏切られたし。うん。

 

「私も救世主として旅を始めたときはそんな感じだったなぁ、懐かしい」

 

「私も聖杯大戦に参加したときは行き当たりばったりでした。アサシンさんにおんぶにだっこで……」

 

思わぬ共通点に、少しだけ彼女たちの間に連帯感が生まれた。別に狙ってないのに。

 

「そもそもうちにそんな規定あったんだ。なんだろ、部活と同好会の違いみたいな? 付く予算が違うのかな」

 

と立香が言う。

 

「いえ、単純に連合を名乗れないだけで予算は変わりません。ですがこれは死活問題です、向こうが連合なのにこちらが四人組(カルテット)では格落ちですから」

 

つまり、面子の問題だった。女王とは舐められたら終わりなのだ。

 

「つきましてはまず『どの私』を喚ぶかを考えます、筆を持て、並行世界の私」

 

「なぜ私が……まぁ、構いませんが」

 

立香から油性ペンを受け取って、今度はヴィヴィアンがホワイトボードの前に立った。

 

「あの、そもそも追加召喚は許可されるのでしょうか……?」

 

「知らないけど、楽しそうだし良いんじゃない?」

 

などと立香とマシュが内緒話をしながらも、会議は進んで行く。

 

 

 

 

「では早速、何かアイデアはありますか私たち?」

 

「はいはい! 異聞帯と並行世界のモルガンがいるんだし、となれば一択──汎人類史のモルガンでしょ!」

 

「「「却下です」」」

 

モルガン、トネリコ、ヴィヴィアンがピシャリとそのアイデアを一蹴した。

 

「え? だめ?」

 

「そもそも汎人類史の私はカルデアに呼ばれるようなタマではない」

 

「汎人類史の私は怖い魔女ですから……あんまりここには馴染めないかも……」

 

「呼んだところでまともに会話できるかも怪しいですからね。三重人格ですよ三重人格。あまりここにいる我々を参考にしないように」

 

立香は同じ存在なのに総スカンを食らう汎人類史のモルガンを憐れんだ。かわいそう。

 

「そもそも三重人格ってどゆこと?」

 

そんな当然のような立香の疑問に、普段からアーカイブで知識を蒐集しているマシュが答えた。

 

「文学史においてモルガンさんは、長い時間をかけてアーサー王伝説が編纂される中、複数の人物が最終的に習合されたものとされています。例としてモルガン、モルゴース、エレイン、アンナ、ヴィヴィアン……その名は多岐に渡り、別の人物、あるいは姉妹として生まれるはずの彼女たちが最終的に一緒くたにされた結果、支離滅裂な行動を取る魔女になってしまったのかと。……あくまで、文学史における話ですが」

 

「実態は最初から異形の精神を持っていた、というオチですけれど。私は旧きケルトの神性の流れを汲む存在ですから、ケルトの聖数である『三』が生まれながらに染み付いていたのでしょう」

 

紅茶を口に含みながら、ヴィヴィアンはそうつまらなさそうに言った。そして同意するように、モルガンも口を開く。

 

「一方ではアルトリアを憎みながら、一方では彼女を男にして叛逆の騎士を生み出した汎人類史の私……やはり、全くもって理解できませんね。そもそもアルトリアを男体化するのがナンセンス、逆に私の方が男となってアルトリアを汚すと言うならば分からないでもないですが」

 

女として組み伏せられる無様な怨敵の姿を想像して、魔女がくつくつと嗤う。

 

「いや待て、そうなるとモードレッドを生み出せないぞ。よしんば孕んだとしてもアルトリアは鞘の……いや、聖剣のだったか? ともかく不老、成長しない。子を産むことは不可能。そもそもやつが子を産むとは思えない」

 

「む……ならばアルトリアの腹を裂き、(らん)を取り出してしまえば──」

 

「なるほど、そうなると後は人工子宮の中で──」

 

魔女と魔女が、その顔に影を浮かべて互いに嗤っている。その様子を──周囲の彼女たちがドン引きしながら見守っていた。

 

「「うっわぁ……」」

 

トネリコとエレインの声がこぼれ。

 

「これが、ブリテンの魔女の本性……」

 

マシュが恐れ慄き。

 

「ごめん、ドン引きだよモルガン」

 

立香がはっきり“ノー”と告げた。

 

「……すいません、つい癖で。決して、そう決して実行しませんから。ですからどうか怯えないで、我が妻」

 

「……度が過ぎた発言だったことを謝罪しましょう。まぁ、私たちはこういう存在ですので、汎人類史の私を呼ぶのはリスキーだと理解してください」

 

「うん、はっきりと理解したよ」

 

結論、汎人類史のモルガンはダメ。絶対。

 

「となると別クラスの私たちを喚び出すことになりますが……異聞帯の私は存在そのものが本来ありえないもの。別クラスを喚び出すとなると難しいでしょうし、であれば()の別霊基になるか──」

 

ヴィヴィアンは油性ペンのキャップを外し、キュッキュッとホワイトボードにリストを記入する。

 

書かれた文字は上から順にライダー、キャスター、バーサーカー、ルーラー、アヴェンジャー、アルターエゴ、ムーンキャンサー、フォーリナーだった。

 

そのうちキャスターとバーサーカーは異聞帯の自分と被る、アルターエゴは既に現界している、などと理由をつけて横線を引いていく。

 

「なんか色々と予想してなかったクラスがあるんだけど……まず、ライダー? ヴィヴィアンってライダーの適性あったんだ」

 

「ええ、はい。……待て、お前今頭のなかに女王メイヴを思い浮かべたな!? 違いますから! あんな“男に跨るからライダー”とかほざく輩と同じ扱いは甚だ遺憾ですよ!?」

 

ライダー、女王メイヴ。元祖ケルトビッチにして数多の戦士を文字通り股にかけた女。そんな存在と比較されるとは、ヴィヴィアンとしては名誉のために抗議の声を上げざるを得なかった。

 

「あ、ごめん。ヴィヴィアンには妖精眼があったんだっけ。でもそれ以外に理由が思いつかなくて……」

 

「……まぁ、良いです。私はモルガンじゃないので、自認アルターエゴなので。好きなだけあの魔女を嘲笑しなさい」

 

アルターエゴのサーヴァントとは、本体とは異なる自分を自認しているか否かを指す。彼女は同じモルガンであるが、自分はモルガンではないという建前があるのだ。

 

「おい、なぜそこで私を見る並行世界の私。その目は貴様自身か汎人類史の私に向けろ」

 

その目の先を向けられた異聞帯のモルガンもまた、謂れなき視線に抗議の声を上げた。

 

「ですが、心の中だけで思い留めておくように。もし、もし我が夫(アル)の前でそのような台詞を口にした暁には──」

 

「あ、暁には? 一体どうなっちゃうの?」

 

立香は想像する。怒り狂って暴れ回るヴィヴィアンの姿を。あるいは聖杯を盗み出し、カルデアに懲罰を加える意味で特異点を形成する、そんな物騒な未来を。

 

だが。

 

「泣きます。悔しくて、悲しくて、惨めで、うぅ……」

 

彼女の抵抗は思いの外幼稚だった。

 

「絶対に言いません」

 

そしてそれは暴れるよりもよっぽど藤丸立香に対する有効打である。自分のサーヴァントを泣かせるなんて、マスター失格だ。

 

「さて、話を戻しますが私にライダーの適性があるのは『小舟に乗ってアーサー王を楽園の島に送り届けた』、という逸話があるからです。よって宝具はおそらく船としての『全て遠き理想郷(アヴァロン)』になるでしょう。もっとも、その真価を引き出すことはできないので非常に弱いことは確定していますが」

 

“ライダーの私なんて雑魚です、雑魚。ティアD未満の雑魚サーヴァントです”と言って嘲笑する。自分のことをこうも蔑めるのは、やはり多重人格だからなのだろうか。

 

「そっか、ならルーラーは女王様としての側面、アヴェンジャーはアーサー王の敵対者としての側面なのかな。……ここまでは想像つくんだけど、ムーンキャンサーとフォーリナーはなんで?」

 

「ムーンキャンサーなのは、(アンナ)がこことは全く異なる世界線において月面都市を設計した科学者だから。それからフォーリナーの適性があるのは、今言ったその別宇宙から来た存在だから、ですね」

 

ヴィヴィアンはその人格の大元が『 』から流れる神秘を隔てた天の鞘の向こう側、神秘のない世界で死んだアンナなのだ。本来ならばアンナの存在は座に刻まれるはずがない情報なのだが……まぁ、神秘も科学も目指す先は同じ『 (場所)』。はるかな未来、気の遠くなるような時間をかけて、向こう側の人類が天の鞘を越えて『 』に接触したと仮定するしかない。

 

座に時間の前後は存在しないので、未来にその情報が刻まれるのだとしても現界は可能なのだ。

 

「わけがわからないよ。ヴィヴィアンはサーヴァントユニヴァース出身なの?」

 

宇宙を支配する大女帝。コスモ・モルガーナ。立香はそんな存在を幻視する。

 

「違います。違いますが、詳しく説明すると世界の法則(神秘)が乱れるので説明できません」

 

「本当にどういうことなの……」

 

考えるんじゃなくて、感じるんだよ。

 

「さて、ともかくこの中から選ぶとすれば、消去法でルーラーですか。他はちょっと、性格的に難がありそうですから」

 

「「異議なし」」

 

油性ペン片手にホワイトボードを指すヴィヴィアン、そんな彼女にモルガンとトネリコが同意の声を上げた。

 

だって、ねぇ? カルデアに呼ぶのなら戦力になるサーヴァントが望ましく、必然的に弱いライダーは除外される。アヴェンジャーは復讐に身を焦がしているため会話が可能か不明。

 

ムーンキャンサーとフォーリナーは……どうだろうか。BBっぽい小悪魔後輩系モルガンと宇宙の真理を見て気が触れた触手使いのモルガンが出てくるのだろうか。ちょっと想像できない。

 

したがって、ルーラーを選ぶのが丸い回答だった。

 

「エレイン、あなたはどうですか?」

 

「すいません、その前にちょっと席を空けても良いですか? カウレスくんから念話が入ってて……」

 

“すいません、すいません”と頭を下げながら、エレインは会議室を出た。エレインはカウレスに魂の半分を渡しているため、こうしてどこにいようとその声を聞くことができる。

 

そして先程からその夫が何度も念話を要求してくるのだが、何か問題でもあったのかもしれない。

 

「はい、もしもしカウレスくん?」

 

そう思い、会議室の前の廊下でエレインは念話のパスを繋いだ。

 

『あー、エレイン。今モルガンさんと一緒にいるよな?』

 

「はい、それがどうかしましたか?」

 

『モルガンさんの娘さんいるだろ、赤い髪の子。確か……妖精騎士トリスタン? だっけ』

 

「バーヴァン・シーちゃんですね。その娘がどうかしましたか?」

 

バーヴァン・シー。どこか向こう側に置いてきたエレインの娘に似た雰囲気を持つ子。その特徴から、カウレスとエレインは何かと彼女のことが一方的に気になっていた。のだが。

 

『いや、たまたま廊下歩いてたらこの子を見つけてさ──泣いてたんだ、この子、誰も通らない廊下の隅で、声も出さずにさ』

 

「──!?」

 

どうやら、何か問題があったらしい。

 

『ほっとけないだろ? だから、なんだ。話を聞いてみたら、“お母様に嫌われた”って言ってるからさ』

 

「それは……ちょっと、確かめてみますね」

 

『頼んだ』

 

夫からのSOS、それも気にかけている娘の非常事態なのだ。エレインは急ぎ会議室に戻って、モルガンに向かって問いかけた。

 

「む、戻りましたか。では決を取って」

 

「その前に良いですかモルガンさん。あなた、バーヴァン・シーちゃんに、何か言いましたね」

 

少しトゲのある口調になっていることを自覚しつつも、エレインは切り出した。

 

「……なぜ、そこであれの名前が出るのです」

 

一方のモルガンは不思議に思う。エレインと彼女の娘に接点はない。だと言うのに、なぜ今ここでその名を出したのか。

 

その答えは。

 

「彼女、泣いてたみたいです。“お母様に嫌われた”って」

 

「──ぇ?」

 

また、何かやらかしてしまったか。

 

「ば、かな……」

 

愕然とした様子で、モルガンがそう呟いた。心当たりはない。決して、決して娘である彼女を嫌ったなんてことはない。だとすれば何故? そんな疑問が彼女に浮かんだその時。

 

「暇を出した、と言ったな異聞帯の私。貴様、もしやそのまま伝えたのか(・・・・・・・・・)?」

 

心の内を見抜いたヴィヴィアンが真実の一端を悟り、モルガンにそれを告げた。

 

「……はい」

 

「それは文脈によっては解雇通知だぞ」

 

暇を出す。とは二通りの意味がある。休暇を与えることと、解雇することだ。

 

『暇を出します、お前は働き詰めでしたから、どうかしばらく休んでいなさい』

 

という具合なら、“あぁ、休暇だな”と問題なく伝わることだろう。

 

だが。

 

『暇を出します、次のお楽しみ会にお前たち妖精騎士の出番はありません』

 

のような言い方であれば、それを聞いた者はどう思うだろうか?

 

まず、間違いなく“それは、我々は不要ということか?”と疑問を抱くことになろう。そこに確かな信頼関係があれば、わざわざその後に訂正せずとも“いや、あくまで休みということか”と納得してくれるかもしれない。

 

だが、心の何処かで、自分はいつ見捨てられてもおかしくはないと思っていたとしたら。

 

「──ち、違……! 私は……!」

 

その勘違いに、気づけないのかも。

 

「──黙れ!」

 

狼狽えるモルガンをヴィヴィアンが一喝した。

 

「否定するべきは私にではない! さっさと行け! 娘なのだろう! ……行って、声をかけて、安心させてやれ。トネリコ、この阿呆だけでは誤解を招く。お前も同行してやれ」

 

「はい、私もバーヴァン・シーちゃんのことは心配ですから……」

 

「だが、この機会を逃せば次の会議はいつになるか……」

 

ここまで言っても、まだその席にしがみつこうとする彼女にヴィヴィアンは苛立って。

 

「お前が今いるべきなのは、ここではないのだ!」

 

そして叱りつけるような大声に、モルガンがビクリと体を震わせる。

 

「……後は私に任せろ。心配せずとも、次までには連合の形を整えておいてやる」

 

「……っ。感謝します」

 

モルガンはそう短く礼を告げると、トネリコと共に娘のいる場所へ走り出した。そんな二人の後ろ姿を見送ったヴィヴィアンは“ふん”と、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「……ヴィヴィアン、もしかしてモルガンと仲良くなった?」

 

「仲良く? 私が? 異聞帯の私と? ……まぁ、初対面で即ミニアドされてた頃と比べれば幾分か関係が改善したとも言えますが」

 

「でも、なんだかんだサポートしてるよね? 戦闘中とか、カルデアとかでも」

 

「……別に、私は、私はただ」

 

ヴィヴィアンは短く言葉を紡ぐと、今しがた出ていったモルガンの姿を思い浮かべる。

 

異なる世界の私、異なる人格の私、異なる側面を持った私、あるいは……本来姉妹として生まれるはずだった私。そんな彼女のことを思って。

 

「……あれは、言葉が足りなさすぎるでしょう。その在り方は誤解を招く。それが、私には見ていられない。それだけなのです」

 

そう、思いを言葉にした。

 

「……なんです、立香、マシュ、それからエレイン。全員して気色の悪い笑みをニヤニヤと。笑ってる場合ではありませんよ。人員は二人減りましたが、やるべきことは変わりません。さぁ、別の霊基の私を喚びに──」

 

「その話、少し待ってくれませんか」

 

会議室を出て、召喚室へと向かおうとするヴィヴィアンをエレインが呼び止めた。そして彼女は口を開いて言う。

 

「一人、心当たりがあるんです。その人を喚んでみても良いでしょうか」

 

 

 

 

「サーヴァント、アサシン。アルトリウス・ドラコニオスだ。エレインの縁で喚ばれたみたいだね、よろしくマスター。……え? 用があるのは私ではなく彼女? はぁ、なるほど。……ならとりあえず霊基再臨の為に──種火、貰えるかな」

 

「サーヴァント、アサシン。モーガン・ドラコニオスです。一体我々に何用で……は? 大モルガン連合? お前は何を言っているのだエレイン。反アルトリアレジスタンスとして異聞帯モルガンが組織したチーム? ……並行世界の私は馬鹿しかいないのか?」

 

『うーん、大聖杯の中で余生を終えるだけかと思ったら、これはまた愉快な世界に来たなぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずるい、ずるい、ずるい。

 

そんな思いが胸に吹き荒れる。

 

彼女は見てしまった、彼女は知ってしまった。そこに、自分が求めていた可能性があることに。

 

「並行世界の私に、それが許されたのなら」

 

私だって、願ってしまう。

 

──契約を、契約を。

 

──機会を与える。その代わり。

 

彼女は抑止力の声に耳を傾ける。

 

「そこに、アーサーはいるのか」

 

──その地にアーサー王(・・・・・)は来る。

 

「ならば、良いだろう。契約だ」

 

そして、彼女は再び、座より現代に舞い戻る。

 

彼と歩んだ旅の終わりにして、身を焦がす熱を自覚した始まりの場所。

 

極東の地──冬木へと。

 

 

 






【あとがき】

ゼロ、ステイナイト編を書く気になったらまた戻ってきます。ここまで読んでくれてありがとうございました。ひとまず完結です。最後に感想評価貰えると励みになります。

ではまた。

皆様はゼロとステイナイトを

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