アーサー王(史実)がしたこと   作:妄想壁の崩壊

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感想評価ありがとうございます。連投するとリアルタイムで反応見れるの、良いですね。

【注意事項】

慎二が■■士郎を呼ぶ時にエミヤとルビ振ってますが、エミヤではないです。どうしても慎二が下の名前で彼を呼ぶイメージが湧かなかったので、暫定的にエミヤとしています。■■だけだとキャラボイスの脳内再生ができないので……。




冬木でしたこと【9】

 

 

「令呪をもって命ずる、アサシンよ。小娘の心臓を奪うが良い」

 

一度目の爆発の後にイリヤスフィールが聞いたのは、死に損なった老人の嗄れた声だった。

 

「……っ! そりゃ爆発程度じゃ死なないか。良いわ、それなら何度でも切り刻んで──」

 

それからイリヤスフィールは言葉を続けようとして、“かふっ”と。体内から溢れる血に咳き込んだ。

 

「宝具──『妄想心音(ザバーニーヤ)』」

 

それから、臓硯の側に一つの影が舞い降りる。

 

(心臓を取られた? 嘘、ちゃんと胸の辺りは髪の毛(エンゲルリート)で保護したはず……)

 

それはアサシンの宝具。魔神(シャイタン)の腕を移植した呪腕によって、その手に触れた相手の心臓の鏡像を作り出し握り潰し殺害するという呪術である。

 

そしてそれが呪術である以上、アサシンの宝具はイリヤスフィール本体に触れずとも成立しうる。なにせ、これまで放った大量の使い魔──髪の毛という、呪術に欠かせない触媒が存在するのだから。

 

イリヤスフィールの防御は単純攻撃であれば防げたのだろうが、呪術という概念攻撃にはある種逆効果であった。

 

それに加えて令呪まで使用されたのであれば、こうして対象の心臓を手元に盗み出す程度、この暗殺者の英霊にはできて当然のことだった。

 

「潰してはならぬし、喰ってもならぬぞアサシン。分かっているな、それは桜に埋め込むモノだ。桜を完全なマキリの聖杯にするためには、その心臓には生きてもらわねば」

 

また呵呵、と。老人の声が響いた。

 

イリヤスフィールの心臓は、小聖杯の核として機能している。

 

この聖杯戦争は人為的な魔術儀式であり、決して聖杯を降臨させるための神事などではない。彼ら御三家の参加者にとって聖杯とは作り出すものであり、その材料として呼び出されるのがサーヴァントなのだ。

 

そして彼女の心臓は、脱落したサーヴァントの魂を溜める器である。それは彼女の肉体──魔術回路に接続していて初めて機能するが、もしそれをほかの魔術師に移植したとすれば……それは移植された者が、新たな小聖杯の器となることを意味していた。

 

そして間桐臓硯はその悲願、不老不死の実現のために、遠坂から迎え入れた養女の桜を自分だけの聖杯に作り替えようとしていた。

 

そのために、十年前の聖杯戦争の参加者であり、先代の小聖杯(アイリスフィール)の肉片を墓から盗み出し、桜に馴染ませてきたのだ。

 

今、さらにこの手にある心臓、先代以上の完成度を誇るこの魔術炉心を埋め込めば、間桐桜はさらに完成された小聖杯として生まれ変わるだろう。

 

それは不老不死を目指すこの老人にとって、この上ない喜びに他ならなかった。仮にもそれが孫娘を人柱とする行為であるというのに、だ。

 

マキリ・ゾォルケンという男にかつて存在した人間性は、とっくの昔に擦り切れているのである。それこそ、敵にして同志でもあったユスティーツァを大聖杯の生贄と捧げたあの時に。

 

「ではな、アインツベルンの小娘よ。なかなかやるようではあったが……所詮は作り物の人形。やはり知恵が足らんな。人の身でサーヴァントと渡り合おうとした己の不明さを呪うが良い」

 

心臓を失い、ぶらりと覚束ない足で揺れるイリヤスフィール。そんな彼女に向かってギチギチと音を立てながら、蟲どもが一歩、また一歩と這い寄って来る。

 

「あぁ、だが安心せい。貴様はおよそ神代の幻想種に匹敵する最高の素材だ。その髪は礼装に、その肉は蟲の餌に、その胎は蟲どもの苗床にして……」

 

「……n……en……hen……」

 

「む──?」

 

瞳から光が失われ、口からは絶え間なく血が滴り落ちている。そんな既に死に体となったイリヤスフィールが、何かぶつぶつと呟いていた。

 

その様子がどこかおかしいと、臓硯は訝しげに眉を吊り上げる。

 

それは長年生きてきた魔術師としての勘か、それとも、異形の存在となってまで生きたいと願った彼の生存本能だったか。

 

どちらにせよ何かを察した彼がもう遠くなって久しい耳を澄ました結果──それは、彼女が零すか細い声を臓硯の脳に伝えた。

 

開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)開通(ゲーエン)──」

 

「いかん! 心臓を離せ(・・)、アサシン!」

 

もはや手遅れだという、絶望と共に。

 

「──は?」

 

アサシンは先ほどとは真逆の主人の命令の意味が理解できず、一瞬呆けてしまう。それが彼らの生死を分けた。令呪による強制力を持った命令であれば、間に合っていたのかもしれない。

 

開通(ゲーエン)

 

いや、どっちにしろもう間に合わなかったことだろう。その命令に『令呪をもって命ずる』と一節付け加える間に。

 

溶解、終了(セット)

 

彼女はその全ての工程を終えてしまえるのだから。

 

さて、錬金術(アルケミー)の話をしよう。

 

錬金術、それは化学の前身となった学問であり、とりわけ卑金属から貴金属を生み出そうという試みから始まったものであった。

 

はるかな昔、近代になって原子という物質として存在可能な最小単位が発見される以前より、人々は知っていたのだ。物質とは幾らかの要素が組み合わさったものであり、それ故にそれは分解できるのだと。

 

それは現代魔術で言うところの四大元素──火、水、地、風である。これらを最小単位とし、その構成や配分を変化させることで、人々は万物を錬成できると考えたのだ。

 

それが、錬金術の始まりである。そうであるが故に、錬金術は道具作成に特化した魔術系統であって、間違っても近接戦闘なんてするような魔術ではない。

 

だがそれでも、その長い歴史のなかで錬金術師が直接戦うことは少なからずあったのだろう。いくらか、その戦い方は存在していた。

 

一つ──錬金術によって手元に武器を形成し、それをぶつける方法。

 

二つ──錬金術の基本。理解、分解、再構築の途中過程である分解で工程を終え、敵を物理的に破壊する方法。

 

そして最後となる三つ目が、イリヤスフィールの取った手段であった。

 

この世の絶対の法則。科学においては、かの偉大なる物理学者アインシュタインが発見した理論であり、魔術世界においては、この世すべての始まりたる『 (根源)』が証明する事実。

 

すなわち、E=mc²。物質とエネルギーは本質的に等価交換が可能という絶対原則。

 

彼女は自らの心臓を含めた肉体全てを分解し、再構築することなくその神秘(エネルギー)をそのまま。

 

発散(ブレッヘン)──『是、壊レタ幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

アサシンと間桐臓硯に、ぶつけたのだった。

 

イリヤスフィールの心臓は小聖杯の核である。ここにあるのは本体ではないただの端末であるとはいえ、そこに宿した神秘の自爆は──直撃すれば、対魔力を持たぬアサシンなど軽く消し飛ばしてしまう程度の威力を誇っていた。

 

 

 

 

「──おはよう、セラ、リズ」

 

冬の少女は、不死鳥の如く棺から蘇る。

 

「これが一回目で間違いない?」

 

何度も何度も繰り返してきたその光景に、もはや疑問を抱くことはなく。

 

「そ、良かった。なら行ってくるわ。今のでアサシンは消滅したし……あ、ライダーもセイバーが殺したみたい。じゃああとは、あの家にいるもう一人……いや、二人の魔術師を殺すだけね」

 

その胸中にあるのは“魔術師は殺す”という自分を縛り付けるかのような信念と、“また死ねなかった”と嘆くような希死念慮と、“ロザリオを取り戻さなければ”という強迫観念であった。

 

 

 

 

間桐慎二は、選ばれた側の人間である。

 

五百年と続く魔導の家系──マキリ。その家に生まれた、唯一の子。

 

魔術の継承は一子相伝であるから、たとえ間桐慎二に魔術回路がなくとも、それは必ず受け継がれるはずであった。

 

今から十年前、御三家の一つである遠坂家から養子を取り、彼に妹ができたのだとしても、それは変わることのない事実である。

 

『なんだよ、これ』

 

その、はずだった。

 

『なんで(おまえ)が』

 

そんな常識が──間桐慎二が見ていた世界が壊れたのは、三年前のことだ。

 

『蟲に喰われてるんだ』

 

ある日偶然、慎二は間桐邸の隠された地下室、神秘の修練場たる蟲蔵を見つけた。見つけてしまった。

 

そして、見た。

 

自分の妹だったはずの桜が、ゴミみたいに蟲に犯されているところを。

 

自分より劣っていたはずの桜が、自分が引き継ぐべきはずの魔導の真の継承者であった事実を。

 

『ははっ、なんだよそれ』

 

乾いた声が地下室に響いた。それに気付いたのか、虚ろな目で桜が慎二を見上げてぼそりと、ひと言呟いた。

 

『──は?』

 

“ごめんなさい”と、桜は言った。黙っていて申し訳ないと、兄さんのモノを奪ってしまって申し訳ないと、彼女は言ったのだ。

 

体中を蟲に集られていてなお、少女は兄に謝罪をした。

 

慎二には分からなかった。だって、そうだろう。

 

あんなことをされながら、どうしてあいつは泣き叫ばずにいられるんだ。どうしてあいつは、慎二に謝れるんだ。

 

分からない。解らない。判らないわからないワカラナイ──!

 

だから慎二は、妹だった(ソレ)を化け物なんだと思うことにした。

 

どんなに嬲られても、痛めつけられても、苦しめても、うんともすんとも言わない人形。そんなものは、人間ではない。

 

人間ならきっと、言わずにはいられないはずなのだ──もう嫌だと。

 

人間ならきっと、手を伸ばさずにはいられないはずなのだ──助けて欲しいと。

 

だから、それをしない(アレ)はきっと、人間じゃない化け物なんだ。化け物だから、どんな目に遭ったところであんな風に平然と、兄である自分に謝罪できるのだと。

 

慎二は、そう思い込むことにした。でないと、頭のなかで整合性が取れなかったから。

 

それから慎二は妹だったソレを蟲蔵に放置したまま、自室に戻って死んだように眠った。目が覚めた時には、今見た景色が全て夢になっていますようにと願いながら。

 

けれど、それは夢ではなく現実だった。

 

翌日から、慎二は間桐家の中で空気になった。祖父も父も、彼をいないものとして扱うようになり、露骨に桜の方を贔屓するようになった。

 

『ごめんなさい』

 

間桐に必要なのは、あの化け物の方だと言わんばかりに。

 

『ごめんなさい、兄さん』

 

間桐家に真に不必要なのは、自分だと言わんばかりに。

 

(だから、なんだってお前が謝るんだよ)

 

やめろ。やめてくれ。

 

妹だった、出来損ないだった。間桐の魔導を引き継ぐのは自分であり、彼女は所詮この家にいらないものでしかなかった。

 

だからこそ、間桐慎二にとって間桐桜は、蔑むべき(守るべき)モノだったのだ。

 

それなのに。今や立場は逆転してしまっていた。

 

(そんなお前に謝られたら、それこそ僕は惨めじゃないか……ッ!)

 

いっそ、無視してくれれば良かったのだ。祖父や父と同じく、いないものとして扱ってくれれば良かったのだ。

 

なのに、なのにどうしてお前は──!

 

 

 

 

『おい、待てよ慎二!』

 

『……うるさいな、さっきから。僕に構うなって言ってるのが聞こえないのかよ──■■(エミヤ)

 

慎二は心底苛立った様子で、自分の名前を呼ぶ男の方へと振り返った。

 

■■士郎。他人に頼まれたことは何だって引き受けてしまう、お人好し(バカ)がそこにはいた。

 

彼と慎二の出会いは、中学に入ってからだ。上級生から仕事を押し付けられ、放課後に一人黙々と作業する士郎を見つけた慎二は、馬鹿と言って彼を罵ってやったのである。

 

『出来もしないことを安請け合いするのは親切なんかじゃない。無責任な馬鹿って言うんだぜ……おい、聞いてんのかよお前』

 

背後でぶつくさ文句を言う慎二を無視し、士郎は黙々と作業を進める。なんだかそれが悔しくて、慎二は無視されている間もずっと文句を言いながら、夜通し彼の無意味な徒労を、誰に感謝されるでもない作業を、ただただ眺め続けた。

 

『お前、馬鹿だけど良い仕事するじゃん』

 

だから、結局こいつが全部終わらせてしまったとき、悔し紛れに慎二はそう言ってやった。

 

黙々と、淡々と。そこにやりがいを感じるでもなく、そこに楽しさを見いだすでもなく、ただ自分がやらなければ別の誰かがその役割を押し付けられるかもしれないからと、士郎はそれをただ一人でこなしてしまったのだ。

 

だからせめて一人くらいは、こいつのやったことを褒めてやらねば不公平だと、慎二は思った。

 

そうして間桐慎二と■■士郎は多分、はっきりと明言したわけではないが、そのときから腐れ縁になったのだと思う。

 

『失せろ、どっかに消えろよ』

 

『慎二──!』

 

そしてその日は、単に苛ついているだけだった。だから帰り道、自分に纏わりついてくる目の前の男にムカついて、気づけば慎二は士郎を殴っていた。

 

『クソが、クソッ! クソ……ッ! クソ……ッ!』

 

それは喧嘩ではなかった。一方的に慎二が無抵抗な士郎を殴って、倒れた彼を蹴り続けるだけの暴力だった。

 

なのに士郎は決して、慎二に反撃はしなかった。

 

『……気は済んだかよ慎二。落ち着いたんなら、話せよな』

 

『なんなんだよ、お前は! お前はどんな権利があって、僕の心に踏み込むって言うんだよ。なぁ──■■(エミヤ)ッ!』

 

蹴って蹴って、蹴りまくる。

 

様子のおかしい慎二を気にかけてか、士郎は学校で何度も声をかけてきた。放課後になってもこうして、深山町まで自分を追いかけて来た。こいつの家は、新都にあるクセに。

 

訳がわからない。慎二にとって■■士郎は、出会ったときからわけのわからない生き物だった。決して理解できない存在だった。

 

そりゃそうだ。だって、間桐慎二は才能がなかろうと魔術師で、■■士郎はどこにでもいる普通の人間なのだ。この二人が分かりあえる未来など、本来ありえないことなのだ。

 

なのに。

 

『どんな権利か、だって? うるせぇ、お前の方こそ、他人ぶってんじゃねぇ。俺はお前の──友達だろうがッ!!!』

 

ただ殴られているだけの人形(サンドバッグ)が立ち上がり、唐突に拳を振り被って反撃した。予想していなかったその一撃を顔面に受け、“ほげ……っ!”と情けない声を上げながら慎二は吹き飛ばされる。

 

『困ってんなら、力になってやりたいと思う。それが友達ってもんだろ。だから、話せよ慎二。お前が何に怒ってるのかを』

 

『……っ、僕は怒ってなんか』

 

『いいや、お前は怒ってる。初めて会ったときもそうだった。お前は怒ってくれてた。理不尽に仕事を押しつけられた俺を見て、お前は怒ってくれてたんだ』

 

違う。お前は勘違いしている。間桐慎二は、そんな高尚な人間なんかじゃない。

 

ただ自分が一番大事なだけの、出来損ないの魔術師(クズ)に過ぎない。

 

『慎二は、誰かのために怒ることができる良いやつだ。だから俺は、そんなお前が困ってるんなら、助けてやりたい。お前が俺にそうしてくれたように』

 

『──────』

 

“良い仕事をすると”言ってやった。ただそれだけだった。別に、あいつの仕事を助けてやったわけじゃない。ただあいつのしたことを見て、単に心に抱いた感想を呟いただけだった。

 

それなのにこいつは、それが『助け』だったなんて言いやがる。

 

本当に──。

 

『本当に、なんなんだよ。お前は』

 

呆然としたように、慎二は顔を見上げると、そこにはボコボコに腫れた顔に笑みを浮かべた、間桐慎二の友人(・・)が立っていた。

 

それから慎二は、もうどうにでもなれというやけっぱちな気持ちで、馬鹿と化け物を引き合わせた。

 

何かが変わることを期待していたわけじゃなかった。ただ、いつまでもこのアホに付き纏われるのがウザかったから、どうせなら桜の方に押し付けてやろうと、そう思っただけだった。

 

なのに。

 

『私を先輩に会わせてくれて、ありがとうございます』

 

あいつはこうも簡単に、化け物を人間に変えちまった。

 

人には決して届かない神秘の頂。不可能を可能にする、おとぎ話の存在──魔法使い。

 

もし、そんなものがいるとしたら……それはきっと、あいつのことを言うのだろう。

 

『兄さんは、優しいんですね』

 

そして人間になった妹は、自分なんかに笑顔で感謝の言葉を送ってきた。

 

慎二はただ、あの馬鹿に話をしてやっただけだ。馬鹿で愚図な妹がいるって話をしてやっただけだ。それだけで、他に何かしてやったわけではない。

 

なのにそいつは、まるで救われたかのように、慎二に向けて礼なんて言いやがった。

 

(クソ、クソ、クソ──ッ!)

 

何なんだ、お前たちは。

 

僕は、お前たちが思うような人間じゃないんだよ。魔術師(クズ)なんだ、魔術回路のない出来損ないの、魔術師(クズ)に過ぎないんだ。

 

『慎二は、誰かのために怒ることができる良いやつだ』

 

あぁ、クソ。その言葉を聞いてさえいなければ。

 

『兄さんは、優しいんですね』

 

その笑顔を見てさえいなければ。

 

僕は本当に、ただの出来損ないの魔術師(クズ)のままでいられたっていうのに。

 

「間桐の魔術師は僕だ。僕なんだ。だから桜──お前なんか、この家から消えちまえよ」

 

そうして、今から二年前に間桐慎二は。

 

誰かを傷つけるような魔術師(クズ)をやめて、誰かを助けたいと願う魔術師(バカ)になったのである。

 

 

 

 

ライダーが砕かれて死んだ。石化の魔眼を反射され、自らの力で石になった彼女はそのままセイバーによって破壊されたのだ。

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)』、セイバーが身に宿す本来は失われたはずの宝具、伝説の鞘。

 

その権能はおよそ四つ。

 

絶対防御、不老不死、空間接続──そして反射。

 

アーサー王が傷を癒した理想郷の島アヴァロンは湖に浮かぶ島であり、そうであるが故に水面、鏡、反射の権能を持つ。

 

直接攻撃の類は、その真名を解放しなければ反射することができない。だがとりわけ鏡という概念に弱いモノ──呪詛や魔眼の類であれば、それは真名を解放するまでもなく反射が可能であった。

 

そしてライダー──メドゥーサの弱点は伝説にある通り、言うまでもなく鏡なのである。

 

「……やはり、手加減ではなく単にマスターからの補給が不十分であっただけか」

 

警戒して損したと言わんばかりにセイバーはそう呟くと、先ほどまで物陰に隠れていた間桐慎二に向けて剣を向けた。

 

そしてぽかんと間抜け面を晒す彼の首に、その剣が振るわれようとして──その剣先は空を切った。

 

「助けてください」

 

間桐慎二が唐突に、頭を地面に擦り付けたせいで、首を狙った攻撃が当たらなかったのだ。

 

「妹がいるんです」

 

「……」

 

ここに至って命乞いかと、内心軽蔑していたセイバーの動きが止まる。それからブルブルと震えながらも、ライダーのマスターだった目の前の慎二(おとこ)は言葉を続けた。

 

「こんな僕を兄と言って慕ってくれる、良い奴なんです。蟲に喰われても耐えられる、凄い奴なんです。こんな家には相応しくない、優しい奴なんです」

 

“だから……っ!”と言って、慎二が顔を上げ、セイバーの足に縋り付いた。

 

「助けてやってほしい……! あの愚図にはきっと、馬鹿の隣がお似合いなんだ。対価が必要だって言うんなら、僕の命でも何でも持っていけば良い……!」

 

「君は──」

 

「だって、そうだろう。世界の誰も、あいつを救わないって言うんだったら、兄貴である僕くらいはそれを願ってやらないと。あまりにも、あまりにも不公平じゃないか……ッ!!!」

 

間桐慎二は、選ばれた側の人間である。少なくとも、自分自身をそうだと思い込んでいる。

 

だから、そうである以上は、選ばれなかった者に対する責務があるのだ。たとえ、自分が本当は選ばれなかった側なのだとしても、彼自身がそう思う限り。

 

その言葉を聞いて不意に、セイバーの脳裏には二人の少女の顔が浮かんだ。

 

自分の姉、アーサー王伝説という物語(れきし)において、悪役としての役割を与えられてしまった、ただの少女でいられなくなった人と。

 

自分の主人(マスター)、聖杯戦争において、小聖杯としての役割を与えられてしまった、ただの少女でいられなくなった人が。

 

「あいつは押し付けられてるだけなんだよ!」

 

そうだな。

 

「ほんとはやりたくないことを、やるしかないからやってるだけなんだよ!」

 

その通りだ。

 

「なぁ、頼むよセイバー。お前が真っ当な英雄だって言うんならさ、たった一人の女の子くらい、救って見せ──」

 

()ならば、()を助けたいと思うのは当然のことだ。従者(サーヴァント)ならば、(マスター)を助けたいと思うのは当然のことだ。

 

だから、セイバーは縋り付く彼の手をごく自然に取ろうとして。

 

「ただいま、セイバー。ライダーの討伐ご苦労さま」

 

ぼとりと音を立てて間桐慎二の首が落ち、凍てつくような冷たい声が聞こえた。

 

「じゃあ、殺しに行こっか。この屋敷にいる、もう一人の魔術師──間桐臓硯の本体を」

 

 






この世界の■■士郎に脳を焼かれた人一覧。

エントリーナンバー1.遠坂凛!
→無能力者のくせに自分の努力に気づいてくれた上に、妹に笑顔くれた魔法使いだと思っている。

エントリーナンバー2.間桐慎二!
→自分と妹を変えてしまった魔法使いだと思っている。
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