雰囲気で書いてるので悪しからず。
キャメロット城のとある一室。円卓のテーブルの前で、二人の騎士が話していた。
「貴公にしては随分と杜撰な計画であったな。アグラヴェイン卿。危うく円卓は私とランスロットの派閥で二分され、貴公もまた命を失うところだったのだぞ」
「……」
アーサーに声をかけられた男、サー・アグラヴェインはその仏頂面に刻まれた皺をさらに深くした。
「我が妻ギネヴィアとランスロット卿の関係を白日のもとに晒し、それを糾弾する。そんなことをすれば当然、ランスロット卿が反抗することは予想できただろうに。実際、円卓の騎士何人もが被害を受けたし、その後彼は火刑に処される王妃の元にも現れた」
“私が抑えなければ、サー・ガヘリスとサー・ガレスも狂乱するランスロット卿に撫で斬りにされていただろうな”とアーサーは続けて言った。
「はぁ、まぁ良い。この件を放置していた私にも責任がある。この程度の被害で収まって良かった」
「陛下」
アグラヴェインは無礼だと自覚しながらも己が主君の言葉を遮った。
「何かな」
「真に王妃と湖の騎士は死んだのですか?」
「さて……」
ギネヴィア妃とランスロットは共に火刑に処された。アーサーが立ちはだかり、妃を救えないと悟ったランスロットがそれを願ったのである。
それに対しアーサーは。
『良いだろう、ランスロット卿。そしてその覚悟に免じ私も一つ、恐れ多くも主に願い奉ろう』
そして言った。
『主よ、この者らの本質が悪であるならば火によってその業を燃やし尽くし、地獄に落として頂きたい。しかしその本質が善であるならば、どうか加護によって火を退け給え』
配下の騎士たちは“王よ、それは……”と口々に意見しようとしたが、アーサーはそれを一蹴し。
『もし二人が火刑を生き残ることができたならば、私は遺恨を水に流し、二人がこの城を出て行くのを見送ろう。ギネヴィア、ランスロット卿もそれでよろしいかな?』
“否定をすることは許さない”と言わんばかりのアーサーの笑顔に気圧され、満場一致により火刑は実行された。ただし、アーサーただ一人の監視のもとに。
したがってランスロット派もアーサー王派もランスロットとギネヴィアが死んだのか、それとも生き残ったのか分からないのである。分からないから、胸のうちにしこりを抱えながらもこの二派が不可逆的な対立に陥ることは避けられた。
一方は“生きている”と信じ、一方は“死んだ”と信じることで。
「どうかお答え頂きたい」
「断る。だいたい、そのような些事になぜこだわる? 貴公らしくもない。そのようなことは放っておけば良いだろうに」
「御身の名誉に関わる事柄であるからですッ!」
その返答を聞いてアーサーは目を丸くし、次いで失笑した。
「ぷっ、あ、あはははは──! なるほど、貴公が何故このような事件を引き起こしたのか疑問だったが……そうか、私のためか。私の名誉が辱められている現状が我慢ならなかったのだな」
“見た目によらず、存外子どもっぽいな。貴公は”とアーサーが告げると、アグラヴェインはまた深くその顔に皺を刻み込んだ。
「ふむ、似ているな」
「……は? 何がです」
「貴公と兄弟たちのことだ。ガウェイン、ガヘリス、ガレス……皆自分のことよりも他人の方が大事に見える。ガレスなどはランスロット卿のために私に直談判をしに来たからなぁ。“ランスロット様がそんな事するはずありません! きっと何か理由が──!”と」
「……あれには良く言い含めておきましょう」
「ふふ、さて。貴公らは一体誰に似たのやら。御父君のロット王かな?」
アーサーはモードレッドもまた同じような気質を持つことを思い出し、続けて言った。
「あるいは母親に似たのか」
「陛下!」
「ははは! 冗談だ! しかし、さすがの卿も妖姫に似ているなどと言われれば、声を荒げるか」
「いい加減にして頂きたい!」
「ははははは──!」
◇
古代が終わり、中世へと移り変わるブリテン島。ローマによる庇護を失い、アーサー王というブリトン人の英雄を失ったこの島はただひたすら、サクソン人をはじめとした異民族による蹂躙を受けるほかなかった。
無論彼らとて無抵抗に土地を、財産を、生まれ故郷を侵略者たちに明け渡したわけではない。まさしく命をかけた必死の抵抗を繰り返したが、対するサクソン人たちもまた故郷を追われ、安住の地を求めて必死の覚悟でこの島へとやってきたのだ。
覚悟の度合いは同じ。そして神秘が急速に死んでいき、物理法則に支配された
「騎士殿! 右翼は限界だ! これ以上はもう耐えられない!」
そして今もこのときも、島の中で抗うべく歴史に残らない無名の騎士たちが戦いを繰り広げていた。
「そうか! では貴公らは西へ撤退すると良い! それと──」
“騎士殿”と呼ばれた男は飛んできた矢を掴み取ると投げ返し、それによって下手人が死んだ。彼はそれに意を返すことなく言葉を続ける。
「ふぅ……さて、コーンウォールにある港に行けば船が用意されている。海を渡ってヒベルニアや
「お、おう。今とんでもない光景を見たような気がするが。しかしなるほど……」
アルモリカにはかつてアーサー王が築いた円卓、その最優たる騎士ランスロット卿の領地がある。ブリトン人の避難先に適した場所だ。何より、“ただのランス”を自称する騎士によってその国は異民族による一切の侵略を跳ね返しているらしい。
一方、ヒベルニアはブリテン島より物理的に西にあるので異民族からの侵略を受けることはない。少なくとも今後1000年間は。
だが彼らはブリトン人ではなくゲール人であり、ローマ人は一括りにケルト人と言うが同族とは言い難い。難民となったブリトン人がどのような扱いを受けるかは……まぁ、あまり良いものではないだろう。
「だが私は
彼の言う通り、今もその地では口の悪いアーサー王の義兄がぶつくさ文句を言い、隻腕の騎士が片腕ながら知恵を働かせ、顔を顰めた知将が部下に指示を出しながらレンガを積み立てているのだろう。
カンブリアもまたブリトン人たちが逃げ込む国の一つだ。この国もいずれ
「アーサー王が!? しかしかの王はカムランの戦の折に死んだはずだと……」
「自らの死後を予見し指示を出すことなどあの王には容易い。あそこは平地が少なく街を発展させるには不便だが、サクソン人に対抗するにはうってつけの地だ。貴公らがまだ抵抗を続けると言うのならば、ぜひ彼らに手を貸してやって欲しいものだが──ふんッ!」
騎士は話の途中に襲ってきたサクソン人の兵士を袈裟斬りにした。片手斧を振り上げた上半身がそのまま地面へと落ちる。
「そうか、アーサー王はやはりいないか。かの王が生きていればな……よし、分かった。陣に戻りそのように話してみよう。しかし貴公はどうするのだ?」
「私はまだ戦える兵を率い殿を務める。右翼の抜けも心配御無用だ、当てがある」
「分かった、武運を祈ろう」
ボロボロの鎧を鳴らしながらもう一人の騎士が去っていく。それと同時に、またサクソン人たちの軍勢が攻めてきた。死に物狂いの彼らの表情を見るにこれが最後の戦いだろう。
「ああそうだ、最後に騎士殿。貴公の名前を聞かせてくれ!」
「アルトリウス、ただのアルトリウスだ!」
「そうか、良い名だ!」
名を明かした男、アルトリウスはボロボロの鎧を着たもう一人の騎士が離れたのを見届けると一息つく。
「さて、歴史に名を残さないまま戦うというのも存外難しいものだな。貴公らもそうは思わないか──?」
アルトリウスはその辺で拾った量産品の剣を投げ捨て、自らが持っていた黒く輝く剣を鞘から引き抜き振るい。
「『
そして竜の息吹の如き熱線がサクソン人たちを薙ぎ払った。後に残ったのは焼け跡の残る大地のみ。
「目撃者ゼロだな、良し」
その時“ふらり”と騎士の背後の空間が歪み。
「全く持って良くないが、アーサー。貴様、私を小間使いか何かだと思っているのではあるまいな」
「いきなり背後に現れるのはやめてくれ姉上。心臓に悪い」
アルトリウス──と、名前を偽るアーサーの背後にはいつの間にか女が立っていた。つい数ヶ月前、まさにブリテンを滅ぼす原因を作った女、アーサーの異父姉、妖姫モルガンである。
『心臓』の一言を聞いて彼女は額に青筋を浮かべる。今しがた右翼側の敵の掃討から帰ってきた彼女はどうやらご立腹のようだった。
さて、後世に謳われる伝説の中で相容れない敵同士である彼らが、伝説が終わった歴史の中で共闘しているのは理由がある。
それはカムランの戦いのすぐ後のことだ。あの丘でモルガンを待ち伏せし、その胸を貫き『
『こと……わる……ッ!』
『そうか、なら仕方ない。頷いてくれるまでこのままにしよう』
よって、アーサーは仕方がないので一ヶ月ほど地下牢にモルガンを閉じ込めたのである。宝剣を胸にぶっ刺したまま。
『は、え?』
『では姉上、一ヶ月ほどしたら様子を見に来るのでそれまでに考えを改めておくように』
『ちょ、ま──!』
かくしてモルガンは魔術的な拘束の施された地下牢に取り残された。その身に宿した聖剣の鞘をアーサーによって起動された後に。つまり、モルガンは心臓を貫かれたまま即座に再生するので死ぬことがなく苦しみ続けることとなる。
ならば、剣を引き抜き、この牢に掛けられた魔術を解いて逃げてやろう。モルガンはすぐにそう考えた──が、ダメ。
宝剣に残ったモードレッドの怨念がそれを許さなかったのだ。だってそうであろう。モードレッドはアーサーに嫡子とは認められなかったものの、内々に息子扱いしてもらっていたのだ。たまに一緒に城を抜け出して魔獣狩りもしたし、盗賊狩りもしたし、蛮族狩りもした。モードレッド自身、欲しいものが王位ではなく父親だったことに気づくのにそう時間は掛からなかった。アーサーと過ごす時間は、ホムンクルス故に余命少ない彼にとってのささやかな幸せだった。
それを自分に狂気を吹き込むことで全部ぶっ壊した魔女にして母親がモルガンなのだ。許すはずもなし。そうして残った怨念が、『
結果は自業自得、自分の生み出した因によってモルガンは一ヶ月間地下牢で苦しみ続けた。身を清めることもできず、死ぬこともできず、心臓を貫かれる痛みと血に溺れ続けた。
なお、魔術的に言えば
かくして心臓という
ここまでやっても全面降伏に至らなかったモルガンはさすが長年アーサーと敵対し続けた魔女と言えよう。直感または啓示(EX?)を持つアーサーによって前触れなく寝所を
「この戦いもいつまで続けるのだ。まさかブリテンの民全員を救うつもりでもあるまい。キリがないぞ」
「もうこれで終わりだ。ログレスの民のほとんどは西に逃げたのだから」
ブリテンの滅びは避けられなかった。それは定められたチェックポイントである。だが、その後はどうとでもなるのだ。歴史に遊びがあると言い換えても良い。
ブリテンの民が相当数生き残ろうが、アーサー王が実は名前を変えて落ち延びていようが、人理にとっては許容範囲なのである。その後の歴史を変えない限りは。
「さて、私たちもコーンウォールに向かおう。そこで支度を整え、船を手配し大陸に渡る。もう二度とブリテンの地を踏むことはないだろう」
「ではついに?」
「ああ──第二次聖杯探索の始まりだ」
アーサーとモルガンが交わした契約は以下の通りである。鞘の返却、両者ともが相手に危害を加えることの禁止。
そしてアーサーによる聖杯探索にモルガンが協力する代わりに、彼女の願いの成就に協力すること。
今ここで、アーサーとモルガンという
「ところで敢えて聞いていなかったが、肝心の聖杯の居場所は分かっているのか? まさか分かりませんでは話にならんぞ」
「もちろん識っているとも。聖杯はここよりもずっと東にある」
「東……ゲルマニアか?」
「もっと東だ」
「とすると、
「違う、もっと東だ」
「も、もっと東だと……?」
モルガンは嫌な予感がして冷や汗を浮かべた。国の影から邪魔をしていた頃は分からなかったが、アーサーには何をしでかすか分からない怖さというか、常軌を逸した部分がある。
「
「もっと」
「ペルシア!?」
「もっと」
「アーサー貴様、これ以上東となるとインディアか
「大正解だ姉上。正しくは
アーサーは憤慨するモルガンに笑顔で告げた。
「その国のとある町に聖杯が降臨する。その町の名は“冬木”。もっとも、今はまだそう呼ばれていないかもしれないが」
モルガンは自分の妖精眼を疑い、そして絶望した。アーサーはひと言も嘘を言っていなかったのだから。
後の世の人間も、まさかアーサー王がアヴァロンではなく日本に向かうなどとは思うまい。
モ「なぜ神の血を受けた聖杯がそんな異国の地に……?」
ア「
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