あれからほんの少し日が経って、春。五条・夏油・家入は二年生になり、新たに一年生がこの呪術高専に加わった。
「おっはよーございます!」
「おはようございます」
教室内に元気な声と冷静な声が響いた。黒髪の元気いっぱい青年の方が灰原雄、金髪の海外の血が流れてそうな方が七海建人。そう、彼らが一年生である。
「ぽよ?」
二人の意識は可愛らしい声を発した机の上にちょこんと乗るピンク玉に向いた。
まん丸の輪郭に純粋な青い瞳、ピンクに染まった全身にちょこんと生えた手足。まさしく可愛い。可愛いで構成されたと言っても過言ではないその生命体___名はカービィ。
多くの侵略者はこんな可愛い能天気若者があの星のカービィだなんて思わないため、いい感じにポップスターを侵略したところでこのピンクの悪魔がボコボコにしてくるのが日常である。
「あの、これは…」
七海は後ろで椅子にもたれかかってその無駄に長い足を組みニヤケ顔の五条に話しかける。
七海はその時点で、嫌な予感をビシッと感じた。
「すこーし日がズレたけど、お前らと同じ新入生だよ」
「そーなんですか!?」
「な訳ないでしょう」
灰原は目を輝かせて五条に詰め寄るが七海はからかいだと溜息をつく。
実はというとカービィはみんなからご飯を与えられた後、担任・夜蛾正道に発見されることになり、カービィの処遇について話し合ったのだ。
正体不明、未知の生命体をどう扱うか___夏油は任務帰りにこのピンク玉、カービィを発見した。残穢から推測されるに少なくとも一級相当の呪霊を祓っていたのだ。つまり最低でも一級を祓えるほどの実力のある戦力…。
だがそれは野放しにしておくにはもったいない、なにより何が起こるかわからない。
何よりカービィには呪力がない。にもかかわらず呪霊を祓った。前代未聞、特例中の特例。
反転術式とは似ているようで異なる、純粋な正エネルギー。それを彼は扱うのだ。
そして幸いにも、彼は友好的だ。
ということもあり要監察対象なのである。
カービィは特殊呪骸として建前で登録されることになり、高専で監察を行うことになった。
「___てな感じで、授業中も一緒にいるから」
「マジですか」
「大マジ」
「ぽよいっ」
なので、実質新入生と言っても差し支えないだろう。
「僕、灰原雄!よろしく!」
「ゆー!」
「…七海建人です」
「けんと!」
灰原はカービィのそのまろい手を取り握手をする。カービィもにっこりと笑い灰原の元気な声、しぶしぶといった七海の声に嬉しそうに名前を呼んだ。
「うわーめっちゃふにふにですね!」
「抱き抱えながら撫でるとすごくいい感じだよ」
「ぽ〜よ〜」
「おお!なんだか、こう…柔らかくて癒されます!」
「七海もやってみなよ」
「いや、私はいいです」
灰原は早速家入のアドバイス通りにカービィを撫でくりまわすと毒気を抜かれたのか、ふわふわとした笑顔を見せる。
カービィも悪くない、それどころかもっとやってくれというように目を閉じて灰原の手を堪能している。
「こんなんだけど、結構強いよ。そいつ」
「こんなに可愛いのに!?」
五条はカービィの内なる無限のチカラ、そして異常性をその眼で知っている。
また、夏油とカービィが模擬戦を行ったことがあるが___カービィは夏油の繰り出した呪霊の悉くをすいこんで、それを星型弾…カービィと同じような性質を持ったエネルギーに変換して放出した。それは木と衝突することにより消滅した。
呪霊を呪霊でなくしてしまう特異性。祓うというより、取り込んで己の力としてしまう。
そして更に___。
「あ、そうだ。傑、なんか…ない?」
「んー…そうだねぇ。ああ、フライパンなんてどう?」
「いいね」
夏油は厨房へと行って、フライパンを持ってきた。
「なんでフライパンを…?」
「まあまあ、見てなよって。カービィ、これすいこんで」
「ぽよっ!」
七海は怪訝そうに五条に問う。
カービィは五条に言われるがまま、その一般的なフライパンをぎゅおおっとすいこんでいく。
すると、カービィは白く星の飾りのついたコック帽を被った姿に変身した。
「おーこれもコピー出来るんだ」
「コック帽…?料理する能力かな」
突如カービィはその両手ににおたまとフライパンを出現させ、カンカンカン!と三度ぶつけ金属音を響かせる。
その傍らには金色の大鍋が出現し、火のついた木の上でぐつぐつとその中の液体を沸騰させている。
突如その場にいた五条・夏油・家入・七海・灰原の五名は大鍋の中に吸い込まれる。皆なすすべもなく鍋の中でダシにされていく___。
おりょうりのじかんがやってまいりました!
きょうは、ともだちときょうりょくしておりょうりをしたいとおもいます!
いっかいぽっきりのこのチャンス、ぞんぶんにおたのしみください!
グツグツ、グツグツ。いいかんじ。
グツグツ、グツグツ。いいにおい。
グツグツ、グツグツ。そろそろだ。
スパイス、まぜまぜ。できあがり!
そしてポン、と皆一斉に鍋から出てきて、同時にパフェ、生姜焼き、コーヒー、オムライス、アヒージョと、共通性のない料理や飲み物、デザートも出てきたのである。
カービィは料理とは言い難い工程を行うとそのコック帽や料理道具を消滅させ、大鍋も消えていく。
「俺たちもしかして料理のダシにされた?」
「のようだね」
「なにされたかわかんなかったんだけど」
「鍋ってパフェとか作れるんでしたっけ!?」
「無茶苦茶だ…」
「めしあがれっ!」
皆の困惑を意に介さず、出てきた料理達を差し出した。
「これは初見だけど…カービィは取り込んだものの能力をコピーする能力があるんだよ」
「“能力”?術式ではなく?」
「呪術によるものじゃないからな。本来のその身に宿った力。だから能力」
「七海!これ美味しいよ!カービィって料理上手なんだ!」
灰原はすでにオムライスの皿を手に取って、ぱくりと一口食べていた。
美味しいどころか、全身に元気が湧いてくるような感覚が駆け巡っている。
そう、実際に回復しているのだから、その感覚は当たり前である。
___カービィのコピー能力「コック」。
一回こっきりの能力で、発動後能力を失う。敵や味方などエネルギー源になるものを出現させた大鍋の中に「にこむ」と、摂食すると回復ができる食べ物や飲料を生み出すことが可能。
ちなみに先程披露した技は「クッキンポッド」。
「ホントだうまっ、大鍋から出てきたとは信じられないわー」
「熱してるのに冷たいものが出るのはおかしな話だけど…物体を鍋で煮込む工程が発動条件なのか?条件付き構築術式のような…」
「生まれて初めて鍋で煮込まれた」
「この他にもコピーがあるってことですよね!」
「いやもういいです、十分カービィの力は分かりましたから…」
すると、突然ガラガラと教室の引き戸が開かれ夜蛾が入ってくる。夜蛾は教室内の状況を見るとその表情を固くさせた。
「…何をしている」
「カービィの監察ですよセンセー」
「その料理はなんだ」
「カービィが作ったんですよ。先生も食べます?」
「食わん」
「ぽよ…」
かくしてカービィは呪術高専の一員として馴染んでいくのであった。
設定矛盾ないかちらちら確認していたらめちゃくちゃ時間がかかってしまいました…。そしてまた短くて申し訳ありません…。