五条と夏油に舞い込んだ、星漿体の少女の護衛任務。そして___その中には抹消も含まれている。
呪術界において欠かせない人物で、日本国内の結界を支える不死の術式を有する天元。
しかし約500年という年月の中で己の術式によって「進化」し、彼女は人よりも更に上の___人ならざる上位の存在へとなる。それには、彼女の自我や意思を消滅させ、ひいては人類の敵となる恐れがあるのだ。
その前に星漿体と同化することで肉体の老化を初期化する。
今、その同化の時期がやってきているのだ。
カービィは今、夏油の肩に乗っかって夜蛾の説明を聞いていた。
呪術会の転覆を目論む呪詛師集団「Q」と天元を信仰崇拝する盤星教「時の器の会」
この両方の組織に、星漿体の少女・天内理子は狙われているのだという。彼女を護衛し天元の元へ送り届ける。___それが今回の任務。
とりあえずそのこをまもればいいのか。がんばるぞお。
「カービィは留守番だね」
「ぽよっ!?」
そう意気込んでいたが、カービィのやる気は夏油の一言によって叩き落とされた。
ぽんぽんと夏油に軽く撫でられるが、それでもだるーんと俯いていると五条がこちらを向いて、
「いや、連れてこうぜ?」
と言うので夏油とそれに夜蛾も少し考えた。
今のところカービィが害意を表すことはなかった。能力も申し分ない、戦力としては心強すぎるばかりだ。色々なハプニングはあったものの授業を共にして信頼もある。特段同行を咎めるような判断材料はなかった。
「…許可しよう。だが、しっかり監察は怠らぬように」
「はーい」
「ぽよよい!」
やったーというようにぴょんと跳ね上がり、両手を挙げる。万歳のポーズだ。そんな様子のカービィを見て、三人は自然と口角を上げた。
##########
五条、夏油、そしてカービィの三人は星漿体が居るという建物の付近に来ていた。
人気のない通りで五条は周囲を一瞥する。
すっかり定位置となった夏油の肩で、カービィも辺りをキョロキョロと見渡した。
ここに…ええと。せい…。りこ…?どっちだっけ。とりあえずおんなのこがいるのかな?
「ぽよい?」
という意味で夏油に問いかけると、意味を汲み取ったようで夏油は小さく頷いた。
「そう、あそこだ」
「じゃ、俺こっちね」
五条は単独、夏油はカービィと組み二手に分かれて行動を開始した。
さっそく建物内に入り、エレベーターの中へと入っていく。五条と夏油は携帯で通話を続けている傍らでカービィはなにかコピー出来そうなものを探している。
エレベーターの扉は閉まり、夏油の話す声と規則正しい機械音が狭い箱の中で響く。
上昇感が無くなり、エレベーターが静止すると軽快な機械音が鳴り、扉が開いた。
夏油はそのまま星漿体がいるという部屋へ向かい、その扉の横についたドアベルを押すと女性の声がした___
起爆音。
突如として爆発が巻き起こる。
しかしながら夏油は、調伏した呪霊を取り込み使役する呪霊操術により、呪霊を己とカービィを守るように球状に囲わせる。爆発によるダメージは無い。
夏油は爆発によって吹っ飛ばされた少女___星漿体・天内理子を発見し、即座に窓を突き破りエイのような呪霊に乗り落下する彼女を救い出した。
一方カービィは物陰に隠れて、突然現れた不審者を観察する。
不審者はメイド服を着た女性の襟を掴み引き摺りながら崩壊し外から丸見えになった部屋から、外を見ていた。
「悪く思うなよ。恨むなら天元を恨み…ガッ!?」
よくわからないけど、とりあえず爆発を起こしたのはこいつっぽい、とカービィの出した判決は___有罪である。
悪そうなヤツなので、そこらじゅうに散らばった瓦礫をすいこんで、星型弾をそいつに向けてお見舞いした。
完全に不意をつかれた白の服に赤のマントというおかしな格好をした不審者___もとい『Q』戦闘員・コークンは、いくつもの瓦礫で生成された巨大な星型弾の正の質量にぶっ飛ばされ壁に叩きつけられる。
「でかした、カービィ!」
「ぽよぅっ!!」
しかしながら完全に倒し切っておらず、コークンは震えながらも立ち上がった。
「な、なんだ…!?貴様、呪骸…いや、一体…!?」
息も絶え絶えだが、何か恐ろしいものを見るような目でコークンはカービィを捉えた。だが、彼は倒れることになる。
空を飛んでいた夏油は、カービィの元へと戻り手を前に翳した。そこからはカービィよりもくすんだ桃色で異形の呪霊が現れ、コークンに絡みついた。これでもう彼は身動きが出来なくなった。
夏油は意識を失っている天内をソファーの上に寝かせると、こちらに寄った。
「メイドの人は大丈夫かい?」
「うい!」
メイド服の女性は見たところ爆発による砂埃がついているものの怪我は無さそうで、ひとまず安心だ。
メイド服の女性もソファーの上に座らせ、二人が同じクッションによりかかるような状態にした。
コークンはくすみピンクの、やたらとチューを要求する呪霊に絡みつかれなんとか抵抗しているようだった。なんとも哀れな姿である。しかし夏油とカービィを相手にしたのが運の尽きだ。そんな彼を意にも介さず夏油は紅茶の準備をしていた。陶器の触れ合う音が響く。
「カービィもいるかい?」
「ぽゆい!」
元気な返事を聞き届けると、夏油は自分とカービィの分の紅茶を淹れ、持ってくるとそのまま二人を寝かせたソファーと向かいにあるソファーに座った。カービィにはい、と紅茶を渡す。
受け取るとカービィは目を輝かせてさっそく、ずずずぞ…と紅茶を飲み始めた。白桃の風味が感じられて美味しい。
カービィは紅茶に夢中になって外界の会話が頭に入ってこなかったが、携帯に入った連絡によると五条がコークンの所属する「Q」の最高戦力であるバイエルを倒していたため、結果的に「Q」は組織瓦解することになった。
カービィが丸い手で軽く肩を触ると、メイド服の女性は目を開けた。特徴的な三白眼はほんの少し虚ろであった。無理もない、爆発にあったのだから。
彼女が起きて最初に目にしたのは、もちろんピンク玉。
「はぁい!」
「え、ええと」
カービィの透き通った青色の目と目が合うと、困惑したように数回瞬きをする女性。一方カービィは笑顔を浮かべ片手をあげて挨拶をした。
「大丈夫ですか?私は天内理子さんの護衛任務に来た、呪術高専の夏油傑です。そっちは呪骸のカービィ。あなたは「Q」が部屋に仕掛けた爆弾で気絶していたんです」
「ああ…あなたが…申し訳ありません、少し混乱していて…私は理子様のお世話係をしている黒井と申します」
黒井は少しばかり呆けていたが、直ちに姿勢を直してお辞儀をする。
大体その身なりからは予想はついていたが、黒井は天内の従者…世話係であった。
「おーい傑ぅー、カービィー。どーなってるー?」
間延びした声が横からやってくる。五条が自らの術式を使って壁がなくなったところからふらっと来たのだ。
「みんな無事だよ」
「さとる!」
皆、無傷で敵の襲撃を返り討ちにできたようだ。五条はソファーの上で眠る天内に近づいてその蒼い瞳で見下ろした。
「んで、こいつが星漿体のガキンチョ?隣の人は世話係の人ってことでいいの?」
「うん。この人は黒井さんだ」
ひとまず、倒壊した部屋に居座って天内が目を覚ますのを待つのもアレなので、ロビーへと移動することにした。
##########
「一応医者見せる?」
「硝子みたいに反転術式を使えたらよかったんだけどねえ」
「いや無理でしょ。あいつも何言ってるかサッパリだしな」
「ぽよ!」
「どうしたカービィ?」
天内が目を覚ますまでの間、五条と夏油は会話をしていた。そこでカービィは任せろと言わんばかりに胸を叩く動作をする。
カービィが取り出したのは天内と黒井がいた部屋にあった、きず薬である。それをすいこむと、カービィは青色のメガネをつけ、頭には医者の着ける額帯鏡、そしてカービィ用の白衣を身につけた姿に変身した。
「医者のコピーか?フライパンすいこんでコックはまぁ理解できるけど、薬すいこんで医者は割と無理あるでしょ」
「でもなっているんだし…結構判定が緩いのか…」
カービィのコピー先へのイメージによって決まるところも多いため、コピー能力は結構ガバガバである。
今回だって薬といえば医薬品、医薬品といえば医療、医療といえば医者という連想によって薬からドクターをコピーしている。そしてカービィは医者と科学者を混同しているため、ドクターには科学者の側面がある。
コピー能力「ドクター」
豊富な知識でクスリや科学を操るコピー能力だ。フラスコから炎や氷、電気を発生させたり、時には薬をぶん投げたり、カルテを巨大化させて突進するなど、なかなかにアグレッシブなドクターである。
そしてカービィの成長により、ヒールドクターの技も、ドクターの状態で使えるようになったのだ。そうつまり、このドクターというコピー能力は回復技も得意ということ___。
カービィはさっそくたくさんの実験器具を広げて、謎の物質を混ぜたりして液体を生成していく。すると、水色の液体がフラスコを満たした。
フラスコを上に掲げると、中から液体が天内を抱える五条目掛けて飛び出して床に「ヒーリングエリア」を作り出したのだ。
ヒーリングエリアは、その上にいる者を癒す効果があるのだ。
ヒーリングエリアの上にいる五条はその効果を実感することになる。
「うわ、これ回復してる?身体が楽な感じがするわ。すご」
「ぽよ!」
五条の言葉に得意げにカービィはその青いメガネをくいと持ち上げる。
二人の様子から夏油は興味本位で、ヒーリングエリアの縁にしゃがみ込んで指先で触れてみる。すると夏油は身体が暖かなエネルギーに包まれ感覚がして、癒される。やはりこの世の力ではない、未知なるエネルギー。
その時、五条の腕の中で天内が小さく動いた。そしてその目を開いた。
「お、起きた」
五条が天内の顔を覗き込むと___。
「おらあ〜!」
綺麗なビンタが炸裂した。