無源の秋 〜竜の翼は風雲に舞う〜【毎週金曜12:00&日曜19:00更新】   作:くコ:彡の本棚

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至空之陣 〜激流〜

 

 足を泥塗れにして目指す地に辿り着いた仁牙(じんが)を待っていたのは、荷駄の山だった。

 

昆夭(こんよう)》に着陣するにあたっては、些か迂遠な手を用いている。

 未だ陣触れが出ていない、出るか否かも分からない段にあって、仁牙(じんが)は行軍調練と称して東に進発した。そのまま、数日は留まっただろう。

 

 やはり、来た。《魏糧川(ぎろうがわ)》に向かい、味方と合流せよとの命が下ったのだ。

 

 その使者に対し、仁牙(じんが)は抜け抜けと言い放ったのである。自分の現在位置から進めば、まず《昆夭(こんよう)》に至る。そこに着陣し、命をお待ちする、と。

 調練で「たまさか」東に出ていたのだから、行軍効率の面からして無理からぬことだった。

 

 街道を外れた道、雪解けの泥濘に足を取られながら《昆夭(こんよう)》へ。行軍調練も、強ち方便とばかりは言えない様相である。

 

「着いた時にはくたびれ果てて、戦になんぞならんのではないかのう」

 

 義爪(ぎそう)は気を揉んでいたが、そうした心配はしていなかった。防衛線の後背にある《昆夭(こんよう)》で、直ちに戦闘となることもあるまい。

 万一そうなれば、即ち敗北ということだ。そんなことまで気に病んでは、戦などできぬ。

 

 着到し、柵と楯を並べて当座の守りを固めると、兵を一日休ませた。仁牙(じんが)も範を示すとばかりに横になったが、頭の回転だけは止めなかった。

 久々に大戦の匂いを嗅いだためか、考えるのが楽しくすらある。

 

 翌日の朝には、早速行動に移る。

 

「一手を率い、北東にて備えていろ。戦況から敵味方の動静まで、気になることがあれば直ちに回せい。なるべく敵の目には付くなよ」

 

 そう命じて兵を預け、義爪(ぎそう)を進発させた。その人柄で育んだ伝手も多い弟は、思わぬ情報を誰より早く仕入れることがあるのだ。

 

 それに、もう一つ。今現在、仁牙(じんが)は好き放題動き回れる状態にないため、機動力のある後詰を確保しておきたいのである。

 

「望む処に来られたと思えば、別の煩わしさが待っておるとはな。ままならんものよ」

 

 仁牙(じんが)が《昆夭(こんよう)》に向かうとの意を示したところ、鎮東将軍・嵩儁(すうしゅん)の名において、命が下ったのだ。

 各地より《是門城(ぜもんじょう)》に集積された荷駄を《昆夭(こんよう)》にて守り、前線に送り出す差配をせよ……。

 

 都合が良くもあり、不本意でもあった。本陣と前線を繋ぐのは言わずもがなの大任であり、それを大過無く務め上げたらば、大いに面目が立つことだろう。

 

 ただし、与えられた任は守りであり、攻めではない。前線の趨勢を見極め、機に臨んで討って出る自由な用兵は難しくなる。

 

 街道で列をなす煌車(こうしゃ)、山積みになる荷駄を見ながら、仁牙(じんが)は向後の動きについて考えを巡らし続けた。

 

「今のところ、戦況は我が方優勢と見てよいな」

 

 着到してから、一週間あまり。営舎の卓上に地図を広げて戦況を論じるのは、二日に一度程度である。

 肝心なのは全体の戦局を把握することであり、その都度細々と頭を捻ることに、大した意味は無いのだ。

 

 着到する前に起きたという緒戦は、敵に取られていた。北に回り込まんとした敵の先陣を食い止めようとし、散々に撃ち破られたのである。

 北から増援として駆けつけてきた遊撃軍が、半ば独断で戦端を開いたらしかった。

 

 ただし、何らの収穫も無かった訳ではない。懸案だった、敵徒士(歩兵)の動向を掴むことができたのだ。

 飛竜で目を引き付けておいて、地を這う徒士で奇襲をかけるような戦法は、封じたと言ってよい。

 

砕骨坊(さいこつぼう)将軍はそれを大功であるとして、独断の罪をお許しになったとか」

「戦歴が長いお人だからの。似たようなことは幾らでもあったろうよ」

 

 砕骨坊(さいこつぼう)の戦ぶりには、尋常ならざる勢いがあるようだ。

 

 北での緒戦を経て、戦は防衛線の内奥にもつれ込んでいた。野戦の大将直々に率いる精鋭は、陣中を縦横に駆け回り、火線の網を突き抜けてきた敵を叩き落としているという。

 

 義爪(ぎそう)からの報せには、あの老人がどれだけの敵を潰したか、それが毎回付け加えられているのだった。兜首も、五つは挙げているらしい。

 

 翻って敵は、緒戦の勢いが霧消したかのように、攻勢の機を掴み損ねている印象がある。

 

 東と北。二つの攻め口から、敵はこちらを窺っていた。狙いを定めてきたのは、大型の雷火(らいか)が備わる南北二つの砦。

 北を取り囲んで動きを封じつつ、南を攻め陥とす目論見であったようだが、砕骨坊(さいこつぼう)の動きは迅速をきわめた。

 

 狭い範囲を不規則に動き回る動きを見せつけておいて、一気に直進し、北の囲みを撃砕したのだ。そのまま、急行してきた敵の精鋭と激戦を繰り広げ、撤退に追い込んでいる。

 

 もっとも、神懸りの武勇ばかりがこの結果を齎した訳ではない。

 

「東の敵はどうも半端者ばかりよの」

 

 包囲を受け持っていたのは東から寄せてきた敵であったが、端から見ても指揮が統一されておらず、脆弱な有様であったらしい。

 

 そう聞くだけで、想像はつく。ある隊は攻勢をかける戦況に気が緩み、またある隊は過度の緊張で柔軟性を失う。指揮が統一されない軍は、そんなものである。

 

 前線にいた砕骨坊(さいこつぼう)には尚のこと、その隙がありありと見えたことだろう。

 北の包囲が破られたことで、南を攻める筈だった敵も、思い切った動きを取れないでいるらしい。

 

「存念を申し上げてよろしゅうござるか」

 

 共に地図を眺め、語らう相手に選んだ去炎(きょえん)が言った。

 昨年陥とされた東岸の砦に詰めていた生き残りで、義爪(ぎそう)不在の折に相談役として側に置いている。

 

「よかろう、言ってみろ」

「何故、敵は二方向から攻める迂遠な戦を選んだのでしょう。せっかく押さえた北を足掛かりに、一息に攻め込むが良いと思われますのに」

「数と勢いに任せ、雪崩れ込むか」

 

 それは、自分が敵将であればと想定した場合、こう動くと仁牙(じんが)が考えたものとほぼ同じだった。

 

 大軍で弾丸の群れを吸い込みつつ、陣中に踏み込む。如何にも乱暴な戦術ではあるが、ひたすら前に進んで斬りまくるという簡潔な命は、それだけに誤謬の恐れが無い。

 

 火力の壁を破って乱戦に持ち込めば、それから内側で互角以上の戦ができる。

 

「敵の先陣が北に回り込んだと聞いた時、それをこそ狙っていると思うたものですが。作戦なり、本陣の方針なりに変化が生じたのでありましょうかな」

 

 それを聞き、唐突に考えついたことがある。

 

 自分達が敵の先陣だと認識している一軍はその実、他とは一線を画する独立勢力ではないのか。

 緒戦の鋭さと現状の鈍さ、不整合を説明する理屈として、うってつけであるように思う。

 

 その推測を基とした思索の中で、事実を手繰り寄せようとした時、思い浮かぶ名があった。

 おいそれと、口に出すつもりは無い。

 

「ところで話は変わるが、例の風聞をどう思う」

 

 仁牙(じんが)がいきなり話題を変えるのは、主に二つの理由による。

 語るのも面倒になったためか、あるいは自分で噛み砕いて考え直したいため。此度は後者の典型であった。

 

 新たな話の種とされた風聞というのは、北に陣取る敵が前線を放置し、後背の《是門城(ぜもんじょう)》を急襲せんとしている、という情報である。いわゆる、中入り策というやつだ。

 

 真偽定かならぬその情報が、近頃将兵の口の端に上っているらしい。

 

「有り得ますまい。これだけ噂が流れているとなると、敵が故意にそうしたと考えるべきにて」

「後背が脅かされていると前線に思わせ、揺さぶりをかける魂胆だと?」

砕骨坊(さいこつぼう)殿以下、前線の将兵も然様に認識し、動揺の兆しも見られないとか」

 

 よしんば敵がそうしたとしても、すぐさま転進して背中から突き崩してやればよい。砕骨坊(さいこつぼう)はそのように豪語し、前線の士気は依然として高いままだと聞いた。

 

 小さな勝ちを積み重ねてきた味方は戦場に留まり、敵に無念の撤退を強いるまで戦い続けるに相違ない。

 

 果たして、そうした理の当然が分からぬ敵なのか。風聞の内容からして、流言は北の敵の主導によるものであろう。

 もしも、である。こちらが前線を維持し続ける現在の戦況が、敵の思惑通りであったとしたら。

 

 つまり、砕骨坊(さいこつぼう)麾下の主力を、何としても前線に留め置くことが、敵の狙いであったとすれば……。

 

 俄かに、外から慌ただしい気配が伝わってくる。敵襲や味方同士の諍いではないようだ。

 何事かと営舎の外に出た仁牙(じんが)の顔に、水滴が群れをなしてぶつかってきた。

 

 驟雨である。兵達が頭を押さえて物陰に駆け込み、あるいは荷駄を布で覆い、濡れるのを防ぐ姿が散見された。

 

「前線にも及んでいるでありましょうな、この雨は」

 

 降り注ぐ水の矢群が突き刺さる地面を見ながら、去炎(きょえん)は憂いを声に湛える。

 東岸の砦が陥とされた、あの戦。風向きが西に変わったのを契機として、趨勢が決した側面もあると聞いた。それを思い出しているのか。

 

 春の天気が変わりやすいことなど、当たり前だった。降水量は多いが、長い間ではあるまい。戦場に与える影響はごくごく限定的なものとなろう。

 

 ただ、それだけのことだ。頭では割り切っているというのに、心がそれを肯じていなかった。

 

 ────────

 

 煩わしい雨は止んだが、抜き差しならぬ戦況が変わる訳ではない。

 剃り上げた頭を撫でて、巌徹(がんてつ)は溜息を吐いた。

 

「お」

 

 頭にべたりと付いた血を忘れていたために、節ばった手は真っ赤に染まっている。

 全て返り血だ。大斧を振るって敵の勇士を討ち、赤い霧を潜って翔け抜けるのは痛快に他ならぬが、血の匂いをもってしても心外の念は消えぬ。

 

 主家にかけられた疑惑、肚の底からそれを否定できないことが、まず苦しかった。思い当たることが幾らでもあるのだ。

 当主として氏族を見守る務めすら疎かにして、涼模(りょうも)は何処の者とも知れぬ連中を歓待し、密かに何事かを話している。

 

 今、側に置いている小者(従者)もそうだ。確か蛙遊(へびなし)とかいったか。他の近臣のように讒言を弄ぶことはないが、慎ましい態度の裏に豪胆なまでの抜け目無さを感じる、剣呑な男だ。

 

 ともかく、これよりは《久々鱗(くくり)》きっての名族として、竜の民の本懐を遂げるために働くべきではないか。

 

 しかし主は手勢を率い前線に立つことも、余剰の荷駄を味方に融通することもなく、北と東の二方向から攻めるというつまらぬ策を提案したに留まった。

 

 緒戦で北を制したと聞いた時、北から一息に敵陣を穿てるものだと、膝を打つ思いであった。あの檄文の主…… 無源(むげん)を始めとする前線の将も、それを進言している。

 

 だが、涼綺(りょうき)を始めとする有力氏族らが、否を突きつけた。

 正面から堂々と進み、天下に恥じぬ戦をどうとか言っていたらしいが、要するに北からの速攻に加わって、自前の戦力を失うのが嫌なのだろう。

 

 早期の決着こそが損耗を減らすという単純な勘定が、何故できないのか。自分などより、余程頭が良い連中だと思っていたのに。

 

 乾いた音が連なった。

 

 雷火(らいか)の発砲音。この戦場ではうんざりする程に聞かされたものだ。

 味方の騎竜隊が遊弋する敵の一隊に捕捉され、一方的に撃ちかけられている。それも、見飽きた光景だった。

 

 陣に踏み込んだ先に待っていたのは、徒士と火線が折り重なる執拗な守り。起伏の向こうから現れた敵の一隊が撃ちかけてくるのを追撃すれば、砦の眼前に誘い込まれて圧し潰される。あるいは機先を制され、ずらりと並んだ長槍の穂先にかけられる。

 

 気がつけば、四方に敵が湧き出しているのだ。敵は徒士の利を巧みに活かし、起伏に身を隠してこちらの隙を突く。さらに自走する輜重車などに乗り込んで、思い武具を持ち運ぶ労も無く、素早い展開を可能としていた。

 そして、劣勢となれば砦に逃げ込めばよい。忌々しい程、巧妙な備えであった。

 

 頭を抑えられているがために、同じ土俵で戦うことを強いられている。大型の雷火(らいか)を備えた砦は健在で、高度を取ればたちまち致命の狙撃を食らうのだ。

 北から雪崩れ込めば、一切合財を勢いのままに突き崩せたかもしれぬのに。それでもせめて、狙撃を封じるために砦を陥とす作戦もあったのだ。

 

「あの老い耄れめが……」

 

 翔け続けて疲労が滲む飛竜を替え、窮地の味方を救う支度をしながら、巌徹(がんてつ)は憎々しげに呟く。敵将の武勇に対する脅威と僅かな称賛も、そこには含まれていた。

 

 以前討ち取った竜の民の髑髏を、陣羽織に縫い付けるという常軌を逸した出で立ちの老将は、前線での野戦を統括する立場にあるらしい。

 《久々鱗(くくり)》武者との戦い方を知悉しているのだろう、全ての敵将兵がその威令に服し、一つの生き物のように一丸となって動いている。

 

 何より、老将自身の武勇も、率いる精鋭の破壊力も凄まじい。砦の狙撃を封じるために、こちらの軍勢が包囲の態勢にあると見るや、微塵の躊躇も無しに突っ込んだのである。

 

 水平の雪崩が起きたかの如き光景だった。包囲の一角に楔が食い込んだと思いきや、その楔が弾けるように包囲の陣を食い破り、ずたずたに寸断してしまったのである。

 

 ただならぬ脅威を覚えたのであろう、流石の宗家も旗本を繰り出してぶつけた。沓毅(くつのき)率いる将兵はよく食らいついたが、やがて断ち割られるように部隊は瓦解し、手負いの沓毅(くつのき)も人事不省に陥っている。

 

 考えてみれば、単純な戦かもしれぬ。あの老将を討たばすなわち勝ち、さもなくば負ける。その妙案が浮かばぬ、己が知恵の不足が無念でならない。

 

 ともかく、今は目の前の味方を救ってやることだ。支度を終えた巌徹(がんてつ)が離陸しようとした時、青灰色の影に率いられた一隊が、眼前を横切った。

 

 鮮やかな翔け方だ。素直に、感嘆する。その鮮やかさは、恐れを知らぬ果敢さと、無駄を削ぎ落した鋭さに裏付けされたものに他ならない。そして、自分はこんな翔け方をする男を知っていた。

 

 敵を追い散らし、味方を救って戻ろうとする一騎に、両手を振る。目の前で着陸したその男に声をかけ、巌徹(がんてつ)は口許を綻ばせた。

 

「息災らしいな」

「ああ。もう、一年か」

「そうらしい。相変わらず、相棒の翔けっぷりも見事なもんだ」

 

 鱗を青く輝かせた飛竜が、誇らしげに鼻を鳴らす。鞍を下りた男も、微かに唇の両端を吊り上げた。二人で岩陰に座り込む。

 

 双竜之丞(ふたつのじょう)。互いに陣借りだった頃、《鳴蒙川(めいもうがわ)》で沓を並べて戦った男。

 あれから一年。今なお飛竜の瑞王(ずいおう)と共に、戦場を翔けているようだ。

 

 先程、少しばかり戦ったのを見ただけで、よく分かる。その翔け方、技の冴え、一年前より遥かに磨きがかかっている。あの時は自分と互角の武者さえ珍しいと思い上がっていたものだが、今ではこちらが打ち負かされるのを覚悟しなければならないかもしれぬ。

 

「風の噂は真であったらしいの。あの無源(むげん)殿の臣下となって活躍しているというのは」

「契約だ、あくまでは。まあ、どう見られても構いはせん」

 

 何より、どこか明朗だった。戦場で会ってから《臣廼湖(おみのこ)》で別れるまで、捨て鉢というか、世を儚んでいる印象すらあったものだ。

 それが、蓑衣のように纏わっていた暗さを脱ぎ捨て、生来の明るさを取り戻したと見える。

 

 微かな羨ましさと共に己の境遇を思い出しそうになって、巌徹(がんてつ)は軽く頭を振った。

 

「それにしても、ここまで身動き取れん戦場もそうはあるまい。あの爺に出し抜かれてばかりよ」

「その目を盗み、深入りした味方を救い出して回る。今やっているのは、それだろう?」

「お前もか。互いに面倒事を抱えとるな」

 

 実のところ、巌徹(がんてつ)が郎党を引き連れて北にいるのは、体の良い厄介払いだ。涼綺(りょうき)の手勢が前線で戦っている、という事実を作るためだけの。

 付き合わされる郎党には申し訳ないが、自分一人の感情を言えば、決して悪いものではない。前線で刃を振るい、味方を生かすために戦う。武士として誉れ高い務めではないか。

 

「では、埒を開けに行くか」

「何?」

 

 ゆったりと立ち上がった双竜之丞(ふたつのじょう)からは、気圧される程濃密な武の気が立ち昇っている。

 

「あの敵将の首を取る」

 

 何かくぐもった音がしたかと思いきや、それは自分が唾を飲み下した音だった。

 

「言うまでもないと思うが、奴は敵の奮戦を支える物心の柱だ。ぼきりと折ってやれば、たちまち敵は瓦解する」

「確かにそいつは道理だろう。しかし、本当にやるのか?勝算は」

「勝算の話を、まずしようか。砦の囲みを破った時、奴の如何なる動きでそれを成し遂げた」

 

 一丸となって一角を突破し、そこからは一転兵を四方に散らして、食い破るように陣を引き裂いている。

 つまり、中核である敵将の周囲から、兵が消えているのだ。

 

「遮る敵がいない時を狙えば、奴に刃が届く」

「容易く分断される敵ではあるまいが、より大掛かりな手も仕込んである。断じて逃がしはせん」

 

 双竜之丞(ふたつのじょう)は小手を翳し、未だに小揺るぎもしない敵陣を遠望している。

 

「そして、もう一つ。本当にやるのか、と問うたな」

 

 瑞王(ずいおう)が上げる、低い唸り声。相棒の闘志と呼応したかのような。

 

「やるぞ。私は」

 

 雷火(らいか)の銃声が谺する戦場で、その声は一本の槍となって耳を貫いてきた。

 

 お前は、どうする?

 

 問われるのを、待とうとは思わない。

 

 肚の底から湧き上がる熱いものの正体も分からぬまま、巌徹(がんてつ)は立ち上がっていた。

 




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