無源の秋 〜竜の翼は風雲に舞う〜【第二章鋭意執筆中】 作:くコ:彡の本棚
その砦に辿り着いた頃、陽の大半は西の縁に隠れていた。
《
集結地点とされた《
皇都の南東に蟠踞する反抗勢力……在地の土豪や派遣された役人などであるが、それらの抑えとしてだ。
昔より叛服常ならぬ地域であったが、近頃は皇都に対し明確な敵意を向けている。各勢力が緊密な連携を取っている訳ではないだけに、かえって一挙撃滅は難しいのだろう。
《
しかし、砦の搦手(裏門)に踏み入った時、
兵に自信をつけさせる徹底した調練が、そもそも不足しているのではなかろうか。
門外漢に過ぎぬ自分が、聞いたような口で忠告する筋ではないが──。
「この砦は、漂っている気からしてよろしくない。そうは思いませんか、"破仙"殿?」
内心の声を聞き取ったような言葉の方を見ると、薬草の籠を持つ痩身の男がいた。
法衣に錫杖という出立ち。俗世を離れた求道者にも見えるが、薄緑の双眸には俗塵の中で生き抜いてきた強かな光がある。
「
"一族"において特に医の道に長じる
「俺と組むのは、あんたか」
「今一人、"影鰐"さんも着到していますよ。差し当たり、身軽な者が集められたというところですか」
「そうだ。着到早々に頼むことでもありませんが、如何です?兵達につける薬を共に煎じませんか」
「請け負った務めはあくまで亡命の護衛だ。やれと言われればやるが」
《
在るべき処に、在るべきものが無い。そうした居心地の悪さだった。
「何なのだ、この砦は?亡命の集結地点が前線の砦というのも、そもそもおかしな話だ」
「それは──」
その音が聞こえた刹那、
「あちらも手の込んだ歓迎をしてくれるものです。この国では珍しい小道具まで持ち出して」
唐突な攻勢は、南からだった。元よりこの砦の敵と想定されている、反攻勢力のものであろうことは、威勢は良いが統一されていない鬨で分かる。
鋭く乾いた音が幾つも谺し、黄昏の空を揺るがす。紛れもなく
敵襲を告げる上擦った叫びは、そうした喧騒に掻き消されがちだ。
直後に湧き起こった喚声を聞く限り、砦に迫る軍勢は五千を下るまい。整然と陣を組む気配は無く、勢い任せに群がり来ている印象が強かった。腰が定まらない部隊には、実相以上の脅威として映るかもしれぬ。
「ここは小生に任せ、東の渡しへ向かってください。停泊している船を焼かれると、後々面倒でしょうしね」
疾走する中、幾十人もの兵とすれ違った。右往左往という表現に尽きる有様で、日中から夜に切り替わる警戒の隙を突かれたことがありありと分かる。
しかし、一部ながらきちんと固まって構えを取り、南を向いて警戒を強める者達もいる。守将の旗本であろう。大手は彼らに任せていればよい。
渡しに辿り着いた
砦に押し寄せる有象無象はめいめいに集った土豪の手勢だろうが、その者どもはじっと物陰に潜み、こちらが隙を晒す時を狙い澄ましているのだ。奇兵たるの心得を、髄まで叩き込まれた敵と言ってよい。
銃口、木々の隙間からこちらを狙っている。気づきながらも
発砲するかしないかの瞬間、撃ち手に向かい駆け出す。飛来する弾丸。僅かな動きで身を捻り、具足の表面で弾き逸らした。
眼前に捉えた。その顔。叫ぶのを堪えるような顔で向けてきた銃口を左手で持ち上げ、右手で波動を叩き込んだ。
昏倒する撃ち手から武器と玉薬を剥ぎ取り、戦場を見渡す。先手を取り損ねたと悟った敵が、潜伏を解いて現れる。十二、三人。得物は剣と、急戦向きの短弓。
互いの位置は既に割れている。船を焼くにしても、こちらを討ち取ってからと考えた筈だ。
「下手糞め」
突如降りかかった声と共に、光の塊が戦場の真中に突き刺さる。
それは片手持ちの鉄鞭であるが、打撃部が爛々と輝いているために、輪郭を捉えることも容易ではない。既に太陽の去った空の下、目を盲さんばかりの閃光が、敵味方の黒々とした影を描き出す。
その直後、一人の敵から伸びる影に二つの紫光が走った。
そして、湧き出す。影から何かが。あるいは、影そのものが。
いずれの表現も正鵠を射ている。現れたのは、影という水面を断ち割って躍り出る、やはり影の鱗を纏った大鮫の如き異形なのだ。
影の大鮫が放物線を描き、唖然として立ち尽くす敵の群れに飛び込んでゆく。開かれる、びっしりと牙の並ぶ大口。一人の上半身を飲み込んだ瞬間、異様な音を立てて閉じられた。
その敵は、未だ立っている。残された下半身だけで、噛み口から血を噴き出しながら。
それを尻目に、大鮫は影の水面に消えた。
しかし他の敵の目は、無惨な骸ではなく、唐突に現れた人影に集中している。大の男のそれではない、華奢な少女の輪郭。何奴、と浴びせられた怒号に、ふてぶてしい笑みで返答していた。
「知りたきゃ、死ねよ」
大鮫。再び跳び上がった。敵の影から影へと「泳ぐ」ことを繰り返すその背に、少女は飛び乗る。敵の頭上に降りかかる黒い飛沫。
その光景を睥睨して哄笑する少女は剣を抜き放つと、切先を敵の一人に向け、大鮫をけしかけた。
一人を丸呑みにした勢いのまま、少女ごと大鮫は消える。足元を見て慌てふためく敵。
大鮫の鼻面が影から出た時、その元である敵は得物を突き刺そうとして、少女が振るう剣に腕を斬り飛ばされた。苦悶の裡に足に食い付かれ、影に引きずり込まれてゆく。
この場は任せてよいと判断した
南はどうか。守将の旗本が中心となって、大手に寄せる敵を引き剥がしたらしい。
自分の影が湧いていることに、
「こっちの始末はついた。そっちは一人の敵も無しかよ、楽で良かったな」
背中だけを浮上させた大鮫の背中から、語りかけてきた。左手に持った首級からは、血が滴っている。
戦場となっていた方向は、見なかった。見なくても分かる。垂れ込める血煙に覆われた、さぞ凄惨な光景が広がっていることだろう。
「そうだな」
「できれば大手の方に行きたかった。せっかく"影鰐"のお
「そうか」
気のない返事に興が醒めたものか、
────────
傷口を水で清め、薬を塗り、仕上げに仙気を照射して塞ぐ。
しかし真に驚くべきは、身に食い込んだ弾丸を取り除く際の手法だった。
薄緑の瞳を輝かせ、
横たわる兵が痛みすら忘れ、目を剥いて驚愕していた。
一度見せてもらったが、器の中の海水から塩を取り出し、真水に変えるという芸当までやってのけていた。飲み水の確保に重宝するらしい。
「おっさんも余計な気を回すよな」
手当の光景をぼんやりと眺めている
「生き延びたら生き延びたで、またろくでもない戦に駆り出される。お勤めの身は不憫なもんだ」
《
刃のような目つきと、この世の全てに対し斜に構える振舞いが、子供らしい無邪気さを何処かへ追いやっている。
「まして、こんな掃溜めみてえな任地じゃあな」
「ここも一応は最前線だろう?」
「その最前線とやらに送り込まれるのは、調練で弾かれた落ちこぼればかりさ。術士隊なんてご大層なもんはいないし、搬入される荷駄の一部も中抜きされてるんだと」
術士なら先の戦でいたではないか、と言おうとしてやめる。何処で仕入れた噂か知らぬが、ここを訪れて以来の違和感を打ち消す説得力はあった。決して愉快な納得感ではない。
「腐っているな、深い処が。その皺寄せが前線に及んでいるのか」
「そんな隙があるから、地方の跳ねっ返りどもも幅を利かせられるんだろうよ。あの裏切者の阿婆擦れにしたって──」
「痛てえな。殴るために持ってんのかよ、その杖」
「汚い言葉を口にすれば己が魂まで穢れる。常々言っているでしょう」
他者と一線を引きたがっているが、年少の同胞を何かと気にかける男だった。その矛盾も、らしいといえばらしい。
「それはともかく、二人とも同行願えますか。我らと話をしたいという方が、本丸にて」
「本丸だと?」
「ええ。察しの通り、この砦の守将殿です」
言われるままに足を運んだ《
営舎の外には焚火、傍らに人影が一つ。立ち上がり、右手を挙げてこちらを呼んでいる。
「
先に名乗らせてしまったが、三人で頭を下げる。
ただ、積み重ねているのはそれだけではないような気もした。敢えて言えば疲れを蓄えていて、それも体でなく心にだ。
皮肉なことだが、今の《
「御苦労をお察しします。着任早々に大規模な敵襲とは」
「せめて一週間、それだけの時があれば備えも整え得ただろうが。まあ、繰り言はよそう」
聞けば
築かれて三月でその現状とは、人事の秩序と節度が崩れている証左ではないか。
詳しい事情は知りようもないが、
大鍋が運ばれ、焚火にかけられた。野菜と肉が入った雑炊で、兵達と同じものらしい。
椀によそわれて一口啜ると、肉の出汁によるものか、濃厚な旨味が口一杯に広がった。
日頃から医食同源を説く
「戦の後には沁みますな、これは。初めて口にする味です」
「実はな、これは《
《
「うん、驚くのも無理はない。兵糧の足しにせんと市場を回っていれば、目についてな」
それから、
誰とも分かちようがない気まずさに耐え、
自分が捨てていった弟も、彼の地で同じものを食べているのだろうか。肉の歯応えが、ひどく重かった。
「……腹も満たされたところで、本題に移ろう。貴殿らと、亡命の手筈を諮っておきたい」
顔を引き締めて
「決行は」
「明日、正午」
「陽が昇りきってから、ですか?」
土豪の手勢ならまだしも、先だって一戦交えた者達……反抗勢力の背後にいると思しき
とはいえ、敢えて日中を選ぶ理由としては弱い。
「貴殿らが守り通してくれた渡し、大小の船が泊まっているだろう」
「あれらに皆様方を分乗させ、対岸に渡すものと思っておりましたが」
「敵も当然そう考える。そこに、一つ目の仕掛け処がある」
ほんの一瞬だが、
船はその多くが老朽化しており、航行はともかく水戦に投入するには心許ない代物だという。いらぬ警戒をされないよう集められるのは、それぐらいだったということだろう。
「まず、船は渡りを発つ。というより、何も乗せずに流すだけでよい。我らは船影をこそ欲しているのだ」
「そういうことですか」
「入江での護送は頼みましたよ。君の影鰐でね」
「あ!?」
焚火を挟んでやり取りをしていたのは、
「あたいに荷運びをやれってか、術を使って?」
「船の影から影へ伝って、対岸に渡る。それ程の困難もありますまい」
「何卒、お願いする。貴殿らの御頭領に聞いてより、これあるのみと思い定めておったのだ」
面倒な任だと渋い顔をしていた
「……口の中に入れてやるけど、それでいいな?狭くはないだろうよ」
決して恵まれた生まれでない
「して、
「うむ。先の戦で敵を追い散らした際、一つ分かったことがある。すなわち敵の集結地点だが──」
更けてゆく夜の中、四人の武者は焚火の揺らめきを受け、話を重ねていった。
────────
払暁の空気は、清冽なものだった。風には微かな潮の匂いが混じっている。
潮の匂い。昨日は血の臭気が一帯を覆っていたために、気づかなかった。今日も、そうなるだろう。
罪深いことだ、などと悟り澄まして言うつもりは無い。
「皆の支度が整った。決行は定刻通り、そのつもりでいてくれ」
天下とは存外狭いものだ、と思わずにいられない。亡命を企図する一団というのは、先日仙遺物を奪還した際に民を守っていた、あの術士の親族だったのである。
術士……
「承知した」
「しかし、
二つ目の仕掛けというのが、それだった。昨日の戦で判明した、反抗勢力の前線拠点。そこに攻勢をかけ、敵の妨害を根から断ってしまおうという訳である。
悪くはない、と思う。昨日の攻勢が不首尾に終わって敵が浮足立つ中、畳みかけるのは妙手と言えよう。不意を突く、という一点においても敵の優位に立てる。
ただそれとは別に、
「皇都の人間からすれば、将軍の展望に活路を見るものなのか?」
「まず、私にとっては。これから先、将来を悲観して国を脱しようと望む者は、次々現れるだろう。望みながら、その伝手や手段を持たぬ民もだ」
此度の戦いは、そのために危険を除く思いがけない好機だということだ。
「私は堅物だとよく言われる。正直自覚は無かったが、以前の私であれば将軍を糾弾しただろうな。武士はあくまで皇都の秩序に従うべきだと」
「今は違うか」
「敢えて命に背く忠義、そういうものもあるのではと思うようになった。一つの使命として、私の中で芽生えつつあるのだ」
使命。目には見えぬもの、形も分からぬもの。
「あんたは残ると聞いた、家族を逃がして」
「ああ。父も母もしっかりしているし、《
「弟か。何故、一人で《
心持ち身構えたのを悟られぬよう、
「昨年のことだ。空読み見習いである弟は賊に拐かされて船に乗り、降りた先でとある軍閥に救われた。そのまま、弟はそこに仕えている」
そう言うと
弟による、共に来ないかとの誘いだったという。自分にその資格が無いような気がして、
「誘いは拒んだのだな」
「以前と今では理由が少し違うが、結果としては話を蹴ってよかった」
「故国がより良い形に変わっていくのを、弟にも見せてやりたい。帰る故郷がありながら、帰らないという覚悟を決められるか。それを乗り越えれば、あいつは本物になる」
「佳い兄貴だよ、あんたは」
「よさないか」
照れてはにかんだ
無聊をかこつのは好きではなかった。取り留めのない、答えの出しようもない思案ばかりが浮かび上がってくるためだ。
それでも、敢えて思案の淵に飛び込んでみようと
齢五つの頃。母の死によって両親を喪った
それらに背を向け、弔問に来ていた
今にして思えば、実に幼稚な情動の結果である。弟を産んですぐに母が亡くなったこともあり、種違いの弟に母の命を持ち去られた、などと思い込んでいた。悲しみと寂寥を紛らわすために。
しかし、それは弟とて同じことではないか。共に《
あの日以来ずっと心の奥に居座る悔いを忘れようと、《
仙術の素養こそ皆無だったが、他の武術体術で負けたことが無かった。同輩の中でも頭一つ抜けた存在となり、頭領直々の命を受ける立場にまでなっている。
それでも、内なる呵責が消えることはなかった。諱が分からないなどという奇妙な症状も、きっとそのためなのだろう。それが罰なのか、あるいは逃避なのかは分かりようもない。
いずれにしても、自分には大きな穴が空いている。ということだった。
刻限が来る。
東に舳先を向けた船影が、渡しを発ってゆっくりと動き出す。中天に達した陽を受け、長い影を水面に描きながら。それは、新たな天地を目指す者達が進む架橋だった。
働きどころは目前、
獲物をみつけた獣の群れが叢から飛び出すように、船隊が入江を北上してきた。渡り始めたこちらの船を、沈めるか拿捕するために接近してきているのは明白である。
そうなるという確証が、あった訳ではない。敵の目的は砦を陥とすことであり、亡命のことを知っているかも判然としてはいないのだ。
見過ごすというならそれでもよかったが、敵は船を追うことを選んだ。風の術で押されるまま進むだけの、がらんどうの船を相手に、戦力を分散させた形と言える。
そのために敵の拠点が手薄になっていることは、木々や地面の起伏に身を潜め、にじり寄る
油断を誘う見せかけではない。敵陣を指呼の間に望む位置に到っても、警戒の気がこちらを刺してこないのだ。高櫓や土塁の上に詰める物見が、所在無さげに遠くを見ているのみである。
足下の死角を縫うように進む。陣の備えを検めた。櫓と土塁の他は、二重の柵と逆茂木。土塁の外縁は、平地に偽装した空堀だろう。
火をかければ、崩せる。延焼を防ぐ火避けの術がかけられていれば、具足の力で引き剥がすつもりだったが、それも不要だろう。
携えてきた装備。"一族"が常用する、先端を擦って火を点ける発火筒。それから、
敵味方の船は、その距離を見る間に詰めている。風向きは南。追い風を受ける敵の船足は速いのだ。それだけに転進も、自陣の救援に向かうことも難しい。
機は熟していた。
発火筒を左の籠手で擦った。掌に収まる小さな火種が灯った筒を、
畳みかけるように、仙術の種を飛ばした。二つの軌跡が、敵陣の真上で交錯する。
光と熱が、激烈な過流となって膨れ上がった。何事かと目を向けていた敵の物見が、熱風に吹き飛ばされている。渦巻く勢いのままに飛び散る炎が柵に燃え移り、燃え盛る壁が陣を囲繞した。
敵兵の群れが、転げるようにしてこちらに飛び出してくる。風向きのために、南には逃げようがないのだ。我先にと外を目指すあまり、同士討ちさえ起きているらしい。
谺する悲鳴を覆い隠すように、空を揺るがす鯨波が上がる。炎から逃げ出す敵に止めを刺すため、砦を出て待ち伏せしていた味方の攻撃が始まった。
それも、漫然と四方を囲むような甘いものではない。
燃え盛る陣を背に、敵が薙ぎ倒されてゆく。味方は散り散りとなった敵を各処で囲み、追い詰め、斬り伏せていた。
渾然とした戦場を突っ切る殺気を悟り、
昨日相対した刺客と同じ気配、それが五つ。ただ一点、
陣が炎に巻かれ、混迷そのものの乱戦となっている現状は、かえって好都合だと見たのだろう。不甲斐ない味方が其処彼処で制圧されるのを問題にもせず、最大の獲物に肉薄せんとしていた。
まず一人。捉えた。落ちていた槍をひっ掴み、ひた駆ける敵の背を狙い投擲する。
槍の突き立った影が崩れ落ちるのを見る暇とてなく、もう一人が現れ剣の切先を向けてきた。身を捻って避け、ようとして、咄嗟に間合いを詰めた。
さらにもう一人が、
肉と具足の楯が、寸前に迫っていた弾丸を止める。
離脱せんとした撃ち手に、奪った剣を投げつけて仕留めると、改めて
派手に跳躍して得物を振り上げ、頭蓋から両断しようと迫る刺客の姿。
あれは、陽動だ。本命は。
「将軍、下だ」
叫んでいた。両手は
現れた、予想通り。奇襲に備える兵の壁をすり抜け、剣を抜き放つ最後の一人。
天地両面から迫る刺客に、
勢いのまま鞘から飛び出す白刃。高らかな音と共に放たれる弾丸。奔る光が交錯した。
得物を振るわんとして、体を上下に両断される。空で撃ち抜かれて体勢を崩し、槍衾に突き落とされる。
二人の刺客はほとんど同時に、そのような最期を遂げたのだった。
それを見た敵勢全てに、恐怖と敗北感が漣の如く広がるのがはっきりと分かった。
────────
"一族"の三人で、血の匂いが染みついた戦場を後にした。
千に届こうという敵の骸が見渡す限り散らばっていたのも昨日までのことで、既に埋葬は済んでいる。
「あーあ、つまらん務めだったな。御守りをしてたせいで戦もできなかった」
不平を述べながら唇を尖らす
影から影を伝って対岸に至った後も、万が一の襲撃が無いか八方に気を配り、《
そうした事情を知悉している
「今後も《
「どうでしょうね。あくまで、仙遺物に関わりあるが故の特別な事例、という体裁ですから」
「だけど、お偉いさんが大好きな前例ってのはできた訳だ」
皇都とは付かず離れず。
此度の務めが、そうした建前に沿うものであったと断言し難いのは、否めなかった。
終わってみれば、微妙な均衡が崩れかねないような出来事ではあった。
ふと、近づいてくる気配に気づき、
「何だよ、敵か?」
「構わず行ってくれ」
訝しむ
「先に行っています。合流は所定通りの場所で」
「すまん」
歩き去る二人の後ろ姿が視界から消えてから、十数えた。振り返る。手を振りながら駆け寄ってくる麒影は、やはり
「立て込んでいたために、ちゃんと礼を言いそびれた。間に合ったな」
「そうか」
「既に聞いていると思うが、皆無事に湖へ向かったぞ」
「ああ、お前達には感謝の言葉も無い。活路を見出させてくれた、と思っている」
「大仰な」
それだけ言葉を交わし、別れようと思っていた。その筈なのだが、
「どうするのだ、これから。砦入りして将軍に加勢するか」
「それも考えたが、私を側に置いているという事実が、将軍に禍をなさぬとも限らん。頼るべきもう一つの存在について、真剣に考え始めたところだ」
「誰だ、それは?」
以前、一度だけ沓を並べて戦った軍勢だという。知己とすら言い難いと
頷きつつも、
たとえば、使命についてであるとか。
昨日、敵陣に火をかける前に聞いた使命という言葉は、確かに自分の奥底で根を張っていた。
それが憚られたのは多分、何故それを聞きたいのかすらも分からなかったためだろう。
使命とやらを、自分も見出せるか否かを知りたかったのか。それとも、やはり自分には縁の無いものだと改めて認識するためか。
気がつけば、
「また、道が交わることがあれば」
南へと駆け去ってゆく姿を、
別の方へと、歩き出す。それでも、遠からず道が交わる日が来るという、朧げな予感があった。
その時こそ、聞くことができるだろうか。
いつも応援してくださる読者の方々に、改めてお礼を申し上げます。
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