無源の秋 〜竜の翼は風雲に舞う〜【毎週金曜12:00&日曜19:00更新】 作:くコ:彡の本棚
自分で決めた。だから、ここにいる。
振り返ってみても、あれ程までに逡巡していた感覚を思い出すことはない。何を迷っていたのか、と他人事のように思う。一歩踏み出してみれば、そこには己のあるべき姿がある。
実の処、その一歩を踏み出す勇気が、十年で擦り切れていただけだったのだろう。手にかけてなお敬慕する叔父の死まで、自分は言い訳にしていた。
己を乗せて羽ばたく
東へ、東へと向かう
鞍の上で風を浴びながら、己が選択が誤りではなかったと、
賊が動き出したとの報が、齎されていた。聞けば海沿いの拠点から《
賊軍としては先んじて到達し陣を構え、城を陥とした直後を狙いたいところだろう。それにしては鈍重な足取りに見えるが、万が一にも城より先に討たれることを警戒し、用心を重ねているのだ。
そこまでの脅威を、
「よくまあ、海沿いにこんな数を隠してたもんだ」
《
そして、眼下には拠点を発して東に進路を取る敵勢の姿がある。一万五千を優に超しているだろう軍が動く様は、地を這う大蛇を連想させた。
陣触れに応じた義勇兵や陣借りは、徒士が四千五百にまで達している。
彼らは《
位置関係からして、川を渡って東進する
「いや、違うか。海路で新しく運んできたんだね」
「分かるのか」
「先頭と一番後ろにいる部隊、具足と得物の光り方が違う。賊のはあんなに手入れされてないよ」
数にして、七千あまり。二つに分かれ、賊で構成される雑多な部隊を挟み込んでいる。督戦のためだということは、すぐに分かった。
いざ戦となれば、賊の人垣で勢いを殺した相手を、主力で突くという戦をするつもりか。
そして、黒幕の立場を考えれば、術士も当然軍の一角を占めている筈だ。
騎竜隊を擁しながら、
何か、もう一手を仕掛けられないか。一度戦に身を投じたからには、出血を少なくするための手を、講じずにはいられなかった。
「
微妙な視線を
「何をするつもり?」
「敵陣に潜って術士を討つ。でなくとも、皆が戦場に出る時には、術の発動を封じておきたい」
「矢玉避けがあると
「そういうことだ」
潜入して標的の首を頂戴する。まるで忍び働きだと
一対一万五千の、無謀な戦を仕掛けるつもりはない。術士を率いる幾人かを斬れば、敵は大規模な術を展開できなくなる。仕損じたとしても、位置を割り出せばその後の戦に明確な指針ができるだろう。
「いずれにしても、戻るのに時はかからぬと思う。その間相棒を預かってほしい。いいな、
初めて同乗した時から薄々思っていたが、
「いいよ、行っといで。味方の本隊とは七日もしたら合流できるだろうけど、話通しておく」
「助かる。手間をかけさせて、すまない」
「ま、許したげるよ。あたし、今すこぶる機嫌が良いからね」
これまでの短いやり取りの中で、何かあっただろうか。その疑問を率直にぶつけてみると、
「名前」
「ん?」
「あたしの名前、初めて呼んでくれた。気づいてなかったのかい」
────────
徒士と騎竜武者の軍装は、まるで違う。当たり前の知識ではあったが、着てみれば本当の意味でそれが分かる。
重さ、質感、可動域。それらの差異に
徒士の潜伏から注意を逸らすため、騎竜武者の陣借りは物見を大々的に行っている。敵からは、
呼びかけた側、応じた側。双方にとって利のある状況という訳だ。
それに混じり、
愛用の槍は
鏢と佩剣。当座の得物はそれで、必要に迫られれば敵から頂戴すればいい。
そして、今身につけている徒士の装いは、自分が潜入すると聞いた味方が貸与してくれたものだ。賊に住処を追われたという、具足職人である。
術士が身を置くであろう本陣の付近に近づくには、それなりに身綺麗でなければという気遣いだった。小さからぬ期待を、寄せてくれているらしい。
有り難くそれを受けたことが幸いし、現時点では怪しまれることなく陣中を動き回っている。
それに加え、一万を超える軍勢である。砂粒の如き一人が混じったところで、そう気付かれるものではない。一度停止すれば営舎の群れが地の一角を埋め、あたかも集落のようですらある。
一日目は、敵を覆う雰囲気を読むことに専心した。一帯に蔓延る賊と、黒幕が送り込んだ指揮部隊の混成。その関係性の把握から、事を進めんと考えたのだ。
賊の群れの前後を指揮部隊で挟み、督戦している。それは、空から見た通りだった。
共に進軍しつつも、両者が交わることは殆ど無い。朝に一度、一日分の兵糧を積んだ輜重車が、賊の下に来るぐらいだ。
指揮部隊は、まるで軒下の鼠を見るような目を賊に向けている。小さからぬ支援を続けているというのに、近頃負け続きの賊を、無駄飯食いと侮蔑しているのだろう。聞こえぬようにだが、実際そう呟いた者もいた。
賊の方もおざなりな礼を述べながら、敵に対した時と変わらない目でこちらを見ていた。食いはぐれないために従っているだけ。態度でそれを雄弁に語っている。
この寒々しい光景には、二つの重要な示唆があった。
まず、賊を完全な制御下に置く形で各隊を再編し、一つの軍として動かしている訳ではないということ。所詮現地での数合わせと割り切り、指揮部隊のみで動いた方が効率的と見たのだろう。
そして、指揮部隊は賊を完全な隔離下に置いているということだ。拒絶していると言ってもいい。触れてはならぬもののように遠ざけ、接触も最低限のものだった。
術士がいるのは、先頭か最後尾のどちらかに違いなかった。
五日間。陣中の人の動きに、ひたすら注意を向け続けている。
馬鹿正直に、営舎を一つ一つ検めるようなことはしない。そのような振る舞いで露見する恐れを高めるより、ずっと要領の良い手段があるのだ。
人の、動きを見る。意識の行方を見る。部隊や荷駄が移動する時、当然、定められた方向へと導かれるものだ。それを辿れば、一定以上の地位を持つ者しか立ち入れない営舎が、自ずと分かってくる。
振り返れば、《
万が一にも、術士の位置が漏れないようにしていたのだ。一軍の将たる者として、譲れぬ線引きということだろう。
今一つは、仙気の流れを感じ取ることだ。空間に満ちる仙気を操って術を発動するということは、明確な流れとも言うべきものが生まれることを意味する。
これも《
地竜が掻き回した土から、飛竜は仙気を吸い上げているのだと、叔父に聞いたことがあった。
何故、叔父はそのような知識を有していたのか。今となっては知る由も無いが、ともかく飛竜は仙気の流れに敏感だということだ。
飛竜と心を重ねた恩恵として、乗り手に齎される能力なのだろう。
二つの手掛かりを重ね、既に候補は片手で数えられる程になっている。もう一押し。そういう時こそ足踏みを厭わず、慎重を是とせねばならない。
そう考えながら、陣に立ち昇る幾つもの炊煙を見る。それらが空の果てに達する前に、断ち切られるように消えていた。
これも、術だろう。炊煙から軍の位置、様子を悟られないようにするのが、習慣づいているということか。
急報が飛び込んできた。
「敵が《
「徒士も含めて、全軍だと。丘では既に始まってるらしい」
「馬鹿を申せ、我らより一日早く出ただけだろう。達するまで、あと五日はかかる筈だ」
動揺のざわめきが全軍に波及するのに、然程時を要することはなかった。
並外れた迅速さには違いないが、
あの日、初めて会った時の戦。
それと同じことを、此度もしたに違いない。《
それを進軍路に沿って各処に集積しておけば、軍は輸送の負担から解き放たれる。陣の設営にも無駄がなくなる。それらが積み重なり、大幅な日程の短縮を実現しているのだろう。
「まさかこのまま城まで抜かれたりしないよな?どう急いでもあと二日はかかるんだぞ」
「あっちに着いた連中、えらく張り切っているらしい。俺の顔見知りも向こうに行くと言っていた」
「金払いは悪くないらしいが」
指揮部隊に属する陣借り達である。調練の充実度は賊と比べるまでもなく、主力をなす戦力として数えられていた。
「それにしてもよ、あいつら知ってるのか?賊と戦うことで皇都に喧嘩売ってるのを。端金でそんなことに付き合うなんざ御免だね」
「全くだ。陳腐な物言いだが、長いものには巻かれるに限る」
巨大な権力の庇護の下で安寧を求めるのは、確かに立派な選択の一つである。しかし、寄りかかる大樹が根から折れて、道連れになることもあるのだ。
長いものに巻かれる生き方は、印象に反して相当に難しい。軍の規模だけで雇い主を測り、負け戦に巻き込まれる陣借りは、失敗と破滅の一例だろう。
大陸随一の大国を牛耳る者に与したとて、それから逃れられる保証がどこにあるというのか。
そこまで考えて
軽率きわまる話だが、
────────
進軍の様態を大きく変えるという下知は、その日の内にあった。
先頭と最後尾が合流し、指揮部隊が一つとなる。賊を軍にとっての贅肉だと看做して切り捨て、身軽になって《
なけなしの兵糧と共に放り出された賊の群れを追い越し、最後尾が追いついてくる。進軍しながら、休息もそこそこに行われる慌ただしい再編。
各処で声を張り上げて指示を出す部隊長らの顔に、隠しきれない焦りが滲んでいる。
間に合わぬかもしれない。その不安が、確かな実体を持って彼らの眼前にあるのだ。
日が改まり、駆けつつの進軍になった。切迫した空気は末端にまで広がっている。物見からの伝令が、その理由だった。
昨日の今日で、城攻めが始まっている。前面に足掛かりを与えない備えはあっただろうが、半日で蹴散らされたようだ。徒士と騎竜隊が一体となり、曲輪に取り付かんとしているらしい。
指揮官の焦燥は、兵に伝わる。乱れを生む。急ぎつつも一応は保たれていた秩序が崩れ始め、渾然とした様相を呈し始めた。
その状況下で見えるもの、感じられるもの。
日が落ちてなお駆け通し、ようやく横になるまでの間、ずっとその流れを追い続けた。
そこか、と心中で呟く。どこから近づく、いつ仕掛ける。星を見ながら考える内に、いつの間にか空が白み始めている。
城を覆うのは静けさだ。とても、敵と味方が対峙している剣呑な気は感じられない。
あの男がやったのだ。
薄明の中で攻撃準備が進む陣中を、
十年の陣借り生活。所作は体に染み付いている。
それを繰り返していけば、密度が変わってきた。統一された軍装を纏う、正規の将兵の密度だ。その光景が、己が見たものの正しきを教えてくれる。
そんな中、視界の端に見える人だかり。将も、兵も、陣借りまで集っている。
彼らが熱心に見つめる先に、立ち昇る二つの火柱があった。篝火は焚いていない。薪が燃える音も無い。
台の上に立つ壮年の男、その両手から火が噴き上がっているのだ。術士の装束。同じ格好をした四人が侍っているが、装飾はより豪奢に見える。
「見るがよい、我らが天より授かりし聖炎を。その輝き、揺らめきを眼に映せ。さすれば心中に怯懦の残ることがあろうか」
言われるまま、無言の裡に炎を見つめる人々。安らぎに身を任せる者の表情だった。恐怖を和らげる手段として、《
炎の揺らめきが見る者の心を鎮めるというのは、野営で火を起こしていれば何となく分かる。
いわば当たり前の事象に、天という言葉を持ち出しているのには、少し引っかかった。どこまでも個人的な感傷に過ぎないが……。
「聖炎に天意を見よ。我らが故国に跳梁す凶徒どもを平らげ、静謐を取り戻すことこそ──」
その時、陣の各処で響く鉦の音が朝を貫いた。敵襲。谺する叫びは量感すら有しているかのようである。屯していた将兵は血相を変え、各々の持ち場へと走ってゆく。とうに起きてはいるが、叩き起こされている印象があった。
あの男、天意とやらを説いていた男は周囲の術士に何事か指示すると、皆を引き連れ去っていった。やはり、術士達の長で間違いあるまい。
狙うべき相手。殺気を、意識の一欠片をも向けることなく、
目指す処まで、あと少しだった。戦闘態勢に移って駆け回る兵達に紛れているから、誰何されることもない。
その中で、何が起こっているか断片的に聞こえてくる。
城を陥とし、疲れきった処を狙うつもりが、逆に先手を取られている。賊を盾にして反撃を躱すというやり方も、この軍は自ら捨て去ってしまっていた。
狼狽の一字が、軍を覆い始めている。その陣舎に至った時、よく分かった。
規模は、周囲のそれとは比較にならない。番をする兵も多い。だが、厳重な警固がはっきりと乱れている。
いつ、ここまで攻め寄せられるか分からない。その恐怖が彼らを浮き足立たせていた。
これならば、やれる。頭より前に、肌でそれを理解した。躊躇とは無縁の足取りで、
平伏し、叫んだ。
「急報、急報にござりまする」
「何事ぞ。早くも敵が動き出したか」
問う声があの男のそれだと気づいた時、地を蹴っていた。
顔を上げる。人の群れ。術士が十人と、それを束ねる長。硬直した顔がすぐ目の前にある。
剣を引き抜いた。横一文字に光が走って消えたと思った時、首が二つ宙を舞っている。大口を開けて固まるもう一人の胸を刺し貫いた。
引き抜いた刃にべっとりと付いている血を、袖で拭う。
「曲者」
声が叫びとなる前に、四人目の胴を両断した。勢いのままに手首を翻し、もう一人の首を飛ばす。
殺気を感じ、
斬りながら、営舎の出口へ駆け出す三つの影を捉えていた。追いながら、鏢を投げつける。鏢は意思あるもののように飛んで、三人の首筋を貫いた。
命ある者は、営舎の中で二人だけになった。
術士の長は憎悪に満ちた目をこちらに向けながら、動揺を隠しているように見える。普通に歩いて十歩の距離、つまり一瞬で詰められる。
「ここを突き止めるとは、そこそこに頭は回るようだ。しかし、雇い主を選ぶ知恵は無いな」
喚声が聞こえる。弓を構え、空と陸からの攻勢に備える指示が方々で下っている。既に戦端は開かれているのだ。いつ、どれだけの増援がここに来るものか、読み切れないところがある。
とにかく、この男と対していれば、術士の指揮系統が乱れる。可能な限り、それを長くすることだ。
男の両手から炎が奔る。火を恐れる生物としての本能も忘れ、
力のまま、剣を横に薙ぐ。確かに首を捉えたと思ったが、確かな力に阻まれた。泥濘に剣を突っ込んだ感覚にも似ている。
強烈な熱の発散を知覚し、咄嗟に飛び退った。勝ち誇ったように笑う男の姿が、揺らめいている。立ち昇る陽炎が、男を守る壁となっていた。
炎に巻かれた刃は未だ熱を帯び、ぶすぶすと音を立ててはいたが、剣として死んではいない。
「無駄はよせ。炎の楯に守られし我が身に、下郎の刃が届くものか」
立て続けに浴びせられる炎を走りながら避けつつ、繰り返し鏢を投げつける。相手を中心とした円を描いているのだ。
鏢が静止し、黒焦げになって地に落ちる。その時だけ炎の壁は見えるのだ。男の全方位を守るように張られている。
次々と迫る熱の塊に追われながら、足は止めない。組み上げられた術式の隙。それを探している。
術士が空間中の仙気に干渉する以上、両者を繋ぐ結節点と呼ぶべきものが、確かに存在する。そこを叩けばたちまち術式は崩れ、刃はこの男に届くだろう。
それを、探り出すのが肝心だった。今にして思えば、術士の営舎を探し出す方法は、これの規模を大きくしたものに過ぎない。
《
それを授けてくれた人を、
「不遜にも挑んでおきながら、その有様は何だ?鼠のように逃げ回ったところで、時が経って来るのは我が味方だぞ」
東からは戦の音が絶えず響いてくる。後退、増援を、死守せよ。断片的に聞こえる言葉が、激戦を伝えていた。
目の前の男は術士を統括する立場にあるが、総大将ではないようだった。それだけに、変則的な一騎討ちに注力している印象である。
そのためだろう、中々隙を晒そうとしない。狙うべき点は度々見えるのだが、すぐに覆われてしまう。投げつけた鏢は火球で撃ち落とされる。
残る鏢はあと一本。潮時、その言葉が脳裏に浮かぶ。
その時、西が湧いた。これまで戦が続いていたのと真逆の方角から、鯨波が上がったのだ。
兵が次々と逃げ込んでくる気配を感じる。西に新たな敵、悲鳴に近い叫びも聞こえた。
西からの新手の咆哮に、
目の前の男、その余裕が初めて崩れた。西に目を向け固まっている。眼前に見える、はっきりと。死命を分かつ一点。
鏢、最後の一本を構えた。我に返った男が、それを迎撃しようと火球を生み出す。
投げつける。そのふりをして、鏢を真下に落とした。火球が空を切るのと同時に、鏢を思い切り蹴りつけた。
触れてもいないというのに、強かな手応えが伝わる。彼我の距離を飛び越えた鏢は、確かに貫いていた。宙空に罅のようなものが走り、炎の壁が霧のように掻き消えてゆく。
体は勝手に動いていた。考える前に剣を振り下ろす。男は目を剥きながら必死に横に避ける。遅い。
すれ違った後、二人の間には右腕が落ちていた。
剣に付いた血を払い、鞘に収める。男は片腕を失いながら、顔に浮かぶ敵意を消そうとはしない。青ざめてはいるが。
「私の、勝ちだな」
初めて、かけた言葉だった。暫し沈黙していた男は、にわかに口の端を吊り上げる。術式を組み上げるどころか、逃げる力も残っているようには見えない。
「それはよい、認めてやる。確かにお前は勝った。だが、私は決して負けはせん」
戦の喧騒が、少しずつ遠ざかってゆくのを感じる。その中にあって、男の両目には異様な光があった。
「何故と問うか?私はお前の剣によって死ぬ訳ではないからだ。我が最後をお前の恣にされて、たまるものか」
見開かれた目が、血走っている。そして、熱。先程までとは比べ物にならぬ程、激しい熱の高まり。
視界が赤く霞む。斬り口から滴る血が、沸き立って霧と化していた。やがて、地面そのものを熱が侵食し始める。
その時、西からの飛影。
「
「殉ずるべし!」
男は片方が失われた両手を掲げ、叫んだ。
上空から、自ら巨大な火柱となって爆ぜた男の、痕跡を見る。
亡骸などは無い。強いて挙げるとすれば、未だ一帯に溢れる高熱と、黒く煤けた地面そのものが、亡骸だった。
名ぐらい、聞いてよかったかもしれない。
「助かった、
誇らしげに嘶く
静寂に包まれた原野に、数千を超える骸が転がっている。大半は、敵のものだ。味方とて無傷とはいかず、力尽きて横たわる飛竜もいた。
一処に埋葬し、弔うこととなろう。これから先、ここを通ることがあれば、黙祷を捧げようと
大音声の波が押し寄せてくる。勝鬨。各々が腹から張り上げているであろう声は、戦の疲れなど無いかのように力強い。
東から、そして、西から。自分達の住処と生業を脅かした力を跳ね除けたという感慨は、一入であろう。
横合いから差し込む光の眩しさに、
暁だ、と思った。