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科学技術の飛躍的な進歩により、民間向け月面ツアーが企画されるようになった今日この頃。しかしながら、到底平民には払えない高額なツアーであり、宇宙と地上の距離が1歩だけ近付いた様な些細な変化を感じるばかりだった。
それとは別に月面ツアーよりもリーズナブルな価格で宇宙を体験できる『人工衛星1泊2日の旅』というツアーがある。
前世紀の時代に苛烈を極めた宇宙開発競争の末、地球の周りを漂う宇宙ゴミは、無視できない数にまで膨れ上がった。
その多くが打ち上げロケットから切り離された使い捨ての部品であったり、新型に切り替えられ棄てられた人工衛星など自然に分解される素材でない事から、宇宙技術に長けた国々が共同で問題解決に立ち上がる。
『クリーン&ビルド計画』と名付けられた計画は、宇宙ゴミを回収すると共に新たな宇宙事業へ再利用する"上手く行けば"画期的な計画だ。
当然、多くの疑問の声や反対運動が起きたが計画は強行され"何故か"障害も事故も無く無事完遂された。
結果、宇宙ゴミは80%以上の減少が確認され、宇宙ゴミの再利用による大幅なコスト削減に成功した5基の人工衛星が建造された。
様々な研究を目的とした既存の宇宙ステーションとは違い新たな人工衛星は、宇宙事業として以前から計画されていた民間の宿泊施設としての機能に注力して設計されている。
単純な宿泊施設として評価すれば、お世辞にも良い環境とは言えない。が、その環境も逆に「宇宙らしさ」として好意的に評価されている。なにより、人工衛星内で運営されているカフェテラスで名物の『サテライトアイスコーヒー』を、地球を眺めながら飲める唯一無二の体験が多くの人の興味を惹き付け、宿泊予約は数年先まで埋まっていた。
「スイーツセットが1万円.......ランチセットは5万円もするなんて...!」
「こっちの宇宙食シリーズならほとんど半額よ」
1日を通してほぼ満席を維持しているカフェテラス。その1席にふたりの少女の姿があった。
「宇宙食って無重力空間での食事を前提としてるから、ゼリーみたいにスタンドパウチに入れられてるでしょ?此処のカフェテラスって重力あるから"風情"を感じないのよね」
「せっかく宇宙まで来て地球と同じ物を食べる方が"風情"が無いと思うんだけど?」
ふたりの少女について説明は不要だろう。
月面ツアーの記事を読んで宇宙旅行に心を踊らせるも、バイトの給料程度では何十年かかるかも分からない金額に断念したふたりは、『秘封倶楽部』らしいやり方で月へ行こうと試みていた。
現在は、月よりも近くを周回する人工衛星に照準を合わせ、蓮子の特別な目で正確な時間を測り、メリーの特別な目で結界を越えて来た。
「それにしても、まさか本当に上手くいくとはね」
注文を終えたふたりは、改めて今回の試みについて語らう。
「この人工衛星は日本製。律儀にミニマムサイズの神社が立てられているのよ。だからメリーの能力で来れたんだわ」
信州旅行での一件以来、メリーの能力は霊的に強力な力を持つ場所......つまりパワースポットで強い反応を見せることが判明した。
「それでも、時間と場所の精密な観測が必要不可欠だったわね。蓮子サマサマだわ」
「ええそうよ。崇め奉りなさい!」
今回たまたま上手くいったが、肉体のまま結界を越えるには多くの複雑な条件がある。それでも蓮子には上手くいく確信があった。
信州旅行の少し前、テラフォーミングの一端を背負って宇宙へ飛び立ち、原因不明の事故で人の制御下から離れた『衛星トリフネ』に侵入したふたり。その際に利用したのが地上と衛生内に建てられた同じ神を祀る2つの神社である。つまり、2つの地点を結ぶ霊的なポイントがあれば肉体のまま境界を越えられるのだ。
「それはそうと、月へ行くなら"繋がり"を探ないといけないわね。有名所なら『竹取物語』のかぐや姫が残した不死の薬が捨てられた富士山かしら?」
「可能性はあるわね。でも、富士山って不死の薬よりも木花咲耶姫にまつわる神話の方が有名な気がするわ。月の神様の月読命を祀る月読神社から試してみる?」
「良いわね。どうせなら星条旗とか日本以外の物でも試してみましょ!」
ふたりが月へ行く日は来るのか?月よりも魅力的な何かに興味が移り忘れるかもしれない。意外にも早々に辿り着くかもしれない。それでも、今この時ふたりを突き動かすロマンと好奇心は、いつか月へと導くだろう。