秘封世界単話集   作:見張

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一身上の都合でしばらく休載していました。本日より連載を再開します。


12話「引退」

京都府が日本国の首都になって久しい在りし日。日本中に張り巡らされた結界を管理する『結界省』で今日、とある計画が立案さてれいた。

 

北舘(きただて)さんの退職祝いをしようの会発足。はい、パチパチ〜」

 

会議室を借りて集まった5人のメンバー。リーダーである霧島(きりしま)が拍手を促すも誰も応じない。それどころか激務に次ぐ激務で休む暇すらないのに無理矢理集められて露骨に不機嫌そうにする者も居れば、表情に出さないまでも態度で慎ましく抗議する者も居る。

 

「なんだお前らぁ!大先輩の引退だぞ!?」

「葬式なら先週やっただろ。だいたい誰だよ北舘って!」

 

『結界省』はその仕事の性質上殉職率が高い。故に「退職=殉職」というブラックジョークが浸透している。

 

「マンハンターだよ」

「はぁっ?!あの婆さん辞めんの!?マジかよショックだわ〜」

「意外ね。貴方、叔母様のこと嫌ってると思ってたんだけど?」

「別に好きでも嫌いでもねぇよ。ただ、婆さんが世話してるあのいけ好かないクソガキどうすんだよ。あんなの誰も面倒見たがらないぞ?」

 

メンバーの中で1番機嫌が悪い男性――真島(まじま)は、ふたりの女性メンバーに視線を向ける。その視線に正面から対立するのが山瀬(やませ)だ。

 

「叔母様の忘れ形見を腫れ物扱いするなんて不義理な男ね」

「実際腫れ物だろ。不義理な俺の代わりにお前が預かれよ」

「止めろ。ミライちゃんの世話は俺が引き継ぐよう北舘さんから打診があった。お前らの手は焼かせない」

 

霧島の口約束に場の空気が和らぐ。ミライと呼ばれる少女の処遇は、実際このメンバーだけでなく『結界省』全体の悩みの種である。詳細はあえて省くが、ミライの特殊能力と難のある性格の組み合わせは害悪の一言に尽きる。それでも『結界省』で手厚く保護されているのは、その特殊能力が職員100人分の労働力に匹敵するからに他ならない。

 

「とにかくだ。北舘さんは、今年で85歳。歩くのも辛くなったと勇退を決意なさった。創設期から現場一筋でこの組織を支え続けた御方だ。忙しいからってお疲れ様ですの一言で済ませて良いワケが無い。可能な限り人を集めて盛大に祝ってやりたいんだ!」

 

普通の会社ならば容易(たやす)いことだろう。だが、此処『結界省』にて退職する1人の為に多くの人を集めるのは容易(ようい)ではない。それでも、霧島の大先輩への純粋な敬意がメンバー全員に伝わる。メンバーの誰もが1度は北舘に助けられた過去がある。

出来る限りやってみよう。そう決意した時だ...

 

「ババアならあと3年と145日は辞めねぇよ?」

 

ドアから顔だけを覗かせる少女に全員ギョッとする。他でもないこの少女こそがミライ本人だからだ。

 

「4日後、札幌で大勢人が死ぬぞ。ババアも辞める辞めない言ってられない状況だ」

 

ミライは、邪悪な笑みを向けて続ける。

 

「良かったなぁ暇人ども。私が教えてやらなきゃ人集めに必死になってたせいで初動遅れるところだったぞ?感謝しろ」

「あー、ありがとうマジ感謝するわ。後でキャベツ太郎欲しい分だけ買ってやる」

 

霧島の感情がこもってない感謝に気分を良くしたミライは、意気揚々とドアを閉めて駆け出す。そして10秒後、全員が深い溜め息を吐いた。

 

「というワケだ。北舘さんの退職祝いをしようの会解散。多分、今日から徹夜だろうから頑張ろうぜ」

「俺、既に二徹目なんだけど?」

「大丈夫よ。医務室に栄養剤たくさんあるから」

 

こうして彼らの日常は続く。

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