秘封世界単話集(完結)   作:見張

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16話「異界武闘」

世界には、裏と表が存在する。「光が当たれば影が産まれる」とか「健康に費やした時間の分だけ寿命は縮む」みたいな宗教か哲学の話しでは無い。

意図してか偶然か、世界には多くの人間が暮らす表側とは別に裏側が存在する。その世界を俺は「異界」と勝手に呼んでいた。

 

そんな「異界」のひとつに強者のみを招く奇妙な性質を持った世界がある。現在の俺の活動拠点だ。

かつては俺も招かれた側の人間だった。その時に住み着いていた爺さんからこの世界の性質を聞き、なんやかんやあって受け継いで今に至る。

 

某格闘漫画の有名なセリフがあるように、男なら1度は強くなりたいと願う......最強に憧れる!

現代日本では稚拙とも受け取れる憧れを捨てられなかった俺にとって、この世界は相手に困らない最高の場所だった。

 

そして、今日も強者が招かれる...

 

「突然だけど手合わせ願いたいッ!!」

 

本当に突然の事でる。娘の趣味である神社巡りに付き合い鳥居をこえた瞬間、神聖な趣のある境内では無く、妙に明るいトンネル内部へと瞬間移動してしまったのだ。その上、待ち構えていたかの様に勝負を挑む男性まで居るのだから驚かないワケが無い。だが、それも薄瞬のみ。不意打ちも出来ただろうに堂々と正面から挑む者に感心しながらも冷静に質問を投げかける。

 

「貴様との勝負に応じる前に2つ聞かなければならない。家族との大事な時間に割って入られた事は咎めまい...が、元居た場所に戻れるのだろうな?」

「それに関しちゃ心配要らないぜ。勝負が終わったらちゃんと帰してやるさ」

「もう1つ。貴様を実直な男と見込んで名を聞こう」

摩緒(まお) 明之(はるゆき)、31歳。前はフルコンタクト空手やってたけど、今は我流です!」

御坂(おざか) 道代(どうだい)。歳は52。流派は古流柔術!」

 

摩緒 明之――身長188cm、体重91kg。

御坂 道代――身長186cm、体重94kg。

 

両雄の数値による肉体的な差はほとんど無いが、体躯は正反対と言わざるを得ない。

階級制を敷く格闘技に見られる無駄な脂肪を削ぎ落とした摩緒の体躯に対し、骨と筋肉と並ぶ人体の鎧である脂肪を適度に蓄えた御坂。

 

これまで幾十人と「達人・名人」と呼ばれる者達と闘った摩緒。それ故に、この世界へ招かれる実力を持つ者からは、個性に合わせた独特の"気"を感じるようになった。そんな摩緒が御坂から感じた"気"は......「大樹」であった。

敵意も殺意も感じ無い。ただ、その場に根を深く広く張り背を伸ばした「大樹」。それ以上でも以下でも無い........故に恐怖心を抱いた。人間が木を倒せるか?殴って蹴って組んで投げて木を倒せるか?不可能だ。

 

摩緒は、負けを確信する。それでも、この勝負で得るだろう経験は間違い無くレベルを上げてくれる。その確信が身体を構えさせる。

 

「シャアッ!!!」

 

腹を括り一気に間合いを詰める!

フルコンタクト空手をベースにした摩緒の我流は、息を吐けば相手にかかる程の至近距離での打撃を得意とする。当然、選手の安全を考慮した頭部への打撃や金的といった技を禁止してない分、ハマれば相手に何もさせずに完封してしまう凶悪さがある!

 

初撃は左刻み突き。達人が使えば一撃で落とせる威力もある伝統空手最速の突き。残念ながら摩緒の刻み突きにそのような威力は無いが、攻めの起点として重宝している。

狙いは顔面。この攻撃に大半は回避を選択する。1度だけワザと受けてカウンターに転じられた事もあったが、御坂が同じ事をしてきても対策は既に用意している!

 

拳は.......顔面を打ち抜いたッ!!

 

クリーンヒット!体重が乗った確かな手応えに拳が痺れる!御坂にカウンターの気は無い。追い討ちに右ボディブロー!間合いを取らせず下突き連打!!

 

「(バケモノめ...!)」

 

ここまで当てた打撃の全てがサンドバッグを打つ様にキレイに決まっている.........故にビクともせずに立ち続ける御坂の打たれ強さに驚愕する。

 

いつまでも殴られ続ける御坂では無い。肘打ちを打とう下突きを止めた一瞬の隙を見逃さず肋骨へ掌底。掌底の衝撃は、肋骨から背骨へ伝播、脊髄に僅かな麻痺を与える。結果、摩緒の動きが止まる!

 

時間にして2秒弱の無防備..........達人を相手に致命的な2秒の無防備を晒した!!

胸グラを掴んだ御坂は、力任せに摩緒を壁に叩き付ける!

 

「ウグッ!」

 

受け身が取れずモロに後頭部を壁に強打!意識が飛びかける!それでも、追撃から身を守ろうと無意識にガード姿勢を取ろうとするも手遅れであった。御坂の拳は、既に摩緒に触れているのだから...!

 

「フッ!」

 

伝説のアクション俳優が使用したことから世に広まった1インチの超至近距離から放つ「寸勁」と呼ばれるパンチ。更に距離を縮め遂に密着した状態から放つパンチがある。中国拳法で「無寸勁」と呼ばれるその技を、御坂の流派では「縮手(しゅくて)」と名付けていた。

その威力は絶大。壁に密着させたことで衝撃を逃がす余地を奪ったこの状況においては殺人的破壊力を持つ!!

 

悶絶し膝から崩れ落ちる。胸を押さえ全身から滝の様に汗を流す摩緒の姿に決着が着いたと確信した御坂は、気まぐれにアドバイスをする。

 

「加減はしている、骨は折れてるが臓器は大丈夫だ.............貴様のスタイルは、恐らく強引に間合いを詰めた打撃から、相手が無理に離れた瞬間を狙い強力な一撃を打つものだろう。そのスタイルを活かすなら合理的になれ!俺のように打たれ強い相手にも効かせられる打撃を身に付けなければ、これ以上強くはなれないぞ!」

 

摩緒自身、言われるまでもなくその改善点には気付いていた。が、フィジカルと才能に物を言わせ積み重ねた勝利と自信が改善点から目を背けさせていたのだ。

 

「師事を受けろ。こればかりは、いち個人が0から積み重ねるには時間がかかり過ぎる」

「......なら..........貴方が教えてくれッ.....よ!」

「俺の流派は、戦を想定した柔術。当然武器を持っているのが前提の流派だ。貴様の我流とは相性が悪い」

 

痛みが落ち着き何とか立ち上がった摩緒。それでも、少しでも楽になろうと壁に背中を預けてしまう。

 

「最後の一撃.......武器持ちが前提なら要らない技だろ?貴方は、間違い無く打撃の達人だ...!」

「刃物を持って歩けば捕まるからな。俺には、家族を守る武器が必要だ...24時間365日持ち歩いても不自然では無い武器だ!」

 

御坂の答えを聞いて納得する......相性は悪いと。御坂 道代という男は、守る為に強くなった。強くなりたくて強くなったのでは無い。勝ちたくて強くなったのでは無い。生き残る為に強くなったのでは無い。

広く枝を伸ばし生やした葉が作る傘は、夏の暑い日差しや雨から守る。深く張った根は、地盤を安定させ災害から土地を守る。御坂 道代という男は、「大樹」の様に家族を守る為に強くなったのだ。最強に憧れて強くなった摩緒とは真逆と言ってもよい人間なのだ。

 

「そうかい.........ありがとうございます。貴方と会えて良かったよ。出口は、ちょっと待ってくれ」

 

端に置いていたリュックからペンを取り出すと、壁に適当なドアの絵を書く。すると、絵は立体的に変化して行き遂に実体を得た。

ドアを開くと先には、御坂が娘と訪れた神社の境内の景色が見える。

 

「どうぞ」

「うむ。達者でな」




やりたい事が出来たので、今話で完結とします。
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