秘封世界単話集   作:見張

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2話「盲目的な労働」

 

M県S市の廃墟群にて――

 

日本国における少子化問題が表面化されて早ウン十年。中身の無い議論に上辺だけの対策案が繰り返され、遂には開き直りの選民思想的法案が国会で討議されるようになった今日この頃。日本各地で人口減少からの財政難を理由に市町村合併を繰り返すも、1部の都市を除いた多くの町や市が『消滅可能性都市』に認定され滅びる時を待っていた。

私が現在立っている自然に侵食されたこの廃墟だらけの街も、かつてはS市のベッドタウンとして多くの家族の姿があった。今は代わりに動物や虫の親子が住み着いている。

 

何故私はこんな所に来ているのか?端的に説明するならば「人探し」だ。

 

日本の首都が東京から京都に移った頃......いや、正確にはまだ東京が首都だった頃から日本各地で"結界"絡みの異常現象が確認されるようになった。大抵は神隠しとか瞬間移動とか封じ込めてたよく分からないモノが出てきたりとか...まぁ、死んでも数十人程度の事がたまに起きるようになったんですよ。

 

警察や自衛隊にそんな異常現象を対処しろと無理難題を言うワケにもいかず、民間の専門家(胡散臭い連中)を中心に結成されたのが、私達『結界省』なのです!

 

画面の向こうの聡明な皆々様ならとっくに感づいてることでしょう。こんな廃墟系YouTuberも来ないような場所に居る人なんて"結界"絡みしかないと。そうです!そうなんです!そのせいで道とは言えない道を不慣れなオフロード車のエンジンを吹かしながら片道2時間かけて来たんです!分かりますかこの辛みがッ!

 

「......何考えてんだ私」

 

慢性的な人材不足によるオーバーワークで溜まったストレスを存在しない視聴者へのメタ説明で発散する女性。本人が説明した通り『結界省』の職員である彼女は、ここ数日S市で散発している不可解な失踪事件の被害者を救出する為にこの街に来ていた。

 

何故この街に被害者が居ると分かるのか?と疑問に思うだろう。天皇家が京都府に遷都して以降、政令指定都市などの人工が密集する市を中心に様々な結界が張り巡らされた。その結界の"揺らぎ"や"損傷"を追う事で被害者の居場所を特定できるのだ。この捜索方法は悪事への転用が容易である為『結界省』の中でも1部の者しか知らない。

 

「よっこいしょういち......しょういちって言っちゃった」

 

過去の土砂崩れの影響で崩壊した道路の段差を乗り越える。かつては多くのファミリーカーが通ったであろうこの道も現在は自然のアスレチックだ。

 

「此処がココだから、コッチ......うへぇ」

 

彼女が握る携帯端末には、最新の衛星写真と街が現役だった頃の古い地図の2種類が表示されている。地図では公園へ向かう一本道も今は見る影も無い。彼女の視線の先にあるのは、コンクリートと土草が混ざり合う小山。

 

「......」

 

小山を乗り越えて公園に向かう事は然程難しくは無いが、彼女の直感......と言うよりは人間としての本能が躊躇させる。

どういうワケかなんの取り柄も無い一介の自衛官でしかなかった彼女が『結界省』の職員として招集されて4年目が過ぎた今日この頃。ベテラン気取りの元特殊部隊隊員や極端に神経質な超能力者よりも的確に現象に対処し生き残って来れたのは、他人よりも本能に忠実な性分だったからに他ならない。

 

「迂回するしかないか...」

 

そう呟き携帯端末に視線を落とした瞬間、右腕に走る悪寒と鳥肌。反射的に右半身を避けた刹那、黒い風が紙一重横切った!

 

「ッ!!」

 

身体をしゃがみながら半回転。流れる動作で腰のホルスターから拳銃を抜き襲撃者へ銃口を向けた!

 

「(........じんめん.........じゃない...!)」

 

最初にイメージしたのは人面犬。だが、それが直ぐに誤りだと撤回する。人間の骨格では再現不可能な輪郭。上半身を低く構える警戒姿勢。上下黒で統一した服装。露出部から見える若々しい潤いのあるアジア人の肌。そして......目的の失踪者と同じ顔。紛れも無い犬の姿をした人間だ。

 

「(小山で待ち伏せしてた。登ってたら避けられなかった!いや、そうじゃない。約500mを目を逸らした1秒かそこらで詰めて来た。マッハ何キロだよ!?いやいやいや違うそうじゃない、ソニックブームを感じ無かったあたり科学的に説明出来る速度では無い。ワザワザ犬の骨格してるのなら最高速度は直線のみ。横に逃げれば狙える!)」

 

この間0.53秒。彼女は正確な狙いを付けずに引き金を引く!弾丸の速度は秒速350m。人間では言わずもがな犬の反射神経でも回避不可の弾丸を犬人間は横っ飛び紙一重で回避!......いや違う。弾丸は避けずとも犬人間の横を通り抜けていた。犬人間はただ発砲音に反射的に回避行動を取っただけだった!

 

無防備な滞空時間。彼女は犬人間と目が合う。茶色が混じった黒色の瞳の中に光は無く、怒りだけが攻撃的に彼女を射抜く。彼女はその瞳を知っている。恐怖していたのだ。恐れて恐れて恐れて何度も心が壊れるまで恐れた末に怒りに転じた瞳。

何に恐れたのか?彼女は当然知らない。ただ確信する。犬人間にとって最も攻撃的な存在は犬だった。だから犬の姿になったのだと。

 

「(楽にしてやる)」

 

確定した着地点。今度は正確に狙いを定めて引き金を引いた。

 

「司令部、こちらマンハンター。失踪者を発見するも肉体に変異を確認。敵性有りと判断し射殺した」

 

「司令部よりマンハンター。至急研究員を派遣する、現場の保全に注力せよ」

 

「了解」

 

『マンハンター』と名乗った彼女は小山...その向こうへ視線を向ける。その先にあるであろう"結界"とは何なのか?何が作用している?何を隔てている?何を封じ込めている?その真相を彼女が生涯で知る事は無い。

 

「知らぬが仏、見ぬが極楽ってね」

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