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深夜の大学での事だった。
届け出が受理されれば夜間の活動が許可されている本校では、論文作成の為に図書館に籠る学生や夜な夜な謎のサークル活動に励む学生(部外者が参加してるとの目撃情報あり)らの姿が散見される。
大学の空き室を借りて活動する科学による心霊現象の再現を目的としたオカルトサークル『似非科学目録』の一団は、心霊写真の完全再現を目論み研究に精を出していた。
「何度も言うようだが、現代の科学技術を持ってすれば心霊写真の1枚や2枚撮るなど造作もない。だが、200年前300年前にプロジェクターがあるか?画像編集ソフトがあるか?AIによる画像生成ができるか?我々は土の中に埋まってる石器時代の道具のような古典的技術を持って心霊写真を再現するッ!!」
怒声とも取れる檄を飛ばす代表に一団は強く頷いて答える。
彼らの熱意には相応の価値や意味があるのか?残念ながら無価値で無意味だ。『科学世紀』と称される現代日本国において彼らの熱意は、ただ己の欲求を満たす為だけの倒錯的行動の燃料でしかない。
「そして今回、三上さんが旅行先の古道具屋でポラロイドカメラを入手し提供してくれました!最早、博物館でしかお目にかかれない骨董品の中の骨董品!皆存じているだろう。デジタルカメラ程では無いが撮影後直ぐに写真を確認できるこのカメラは、過去のオカルトマニア達が愛用していた逸品!皆さん三上さんに拍手を!」
夜間であると自重してか拍手は控えめではあるが、三上に向けられる視線が拍手の音量以上に賞賛していた。
「それでは!初めに試験運用も兼ねて我々『似非科学目録』一同の記念写真を撮りたいと思う!」
代表の提案に反する者はこの場に居ない。新参者の的場がカメラマンを名乗り出て他が代表を中心に並ぶ。
「行きますよ!はい、チーズ」
的場の古典的掛け声と共にシャッターが切られる。フラッシュが焚かれ眩い光が一団を照らした直後、教室から一団の姿は消えた...
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「そして、コレがその時に撮られた写真」
封筒から取り出された1枚の写真には、話しに聞くオカルトサークル一団の姿は無く、ただ空き教室の風景が写されていた。
「どう?何か見える?」
「いいえ。何の変哲も無い風景写真だわ」
そう断言すると写真を机に置き周囲を見渡すマエリベリー・ハーン(メリー)。これと言って装飾もされてない小綺麗な空き教室。言わずもがな。件の空き教室だ。
机を挟んで不満気な表情で頬杖をつく
「特定の時間になると変化があるとか?蓮台野のお墓の時の様に」
「その可能性を考えてワザワザこの時間に来たのよ」
時刻は22時03分。『似非科学目録』唯一の生存者である的場の話しでは、写真が撮られたのが22時10分前後とのことだ。
まだ少し時間がある。メリーは気になった事を蓮子に問いかけた。
「その失踪したサークルメンバーってウチの学生なの?」
「的場君の話しではそうだね。2日前の事らしい」
「それが本当なら変だわ。オカルトサークルとは言え、集団失踪したならイヤでも耳にするもの」
蓮子はワザとらしく指を鳴らし得意気に話す。
「私も同じ事を思って調べてみたんだ!そしたら『似非科学目録』なんてオカルトサークルは実在しなかったし、的場君から聞いたメンバーも大学に在籍してる記録は無かった」
「騙された...?」
メリーの最もな可能性に首を振る。
「的場君、それ以来大学にも来ないでメンバーを探し回ってるよ。騙すだけなら大袈裟過ぎると思うね」
「と、言うことは...」
「可能性は3つ。何らかの意図があって嘘をついてるか精神的に滅入って幻覚を観ていた......サークル自体が初めから存在しなかった可能性。サークルは確かに存在したけど、カメラで撮影された事でメンバーの存在が消滅した可能性。メンバーは今も存在してるけど私達が認識出来てない可能性」
「秘封倶楽部としては、2つ目の可能性であって欲しいわね」
メリーの冗談に蓮子は頷いて同意する。
それはそうと、可能性を並べた以上は検証しなければならない。
「カメラは無いの?」
「ここにあるとも」
勿体ぶってユックリとバッグから取り出されるポラロイドカメラ。「何故、最初から出さないの」と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。最終的に言いくるめられると過去の経験から学んでいるからだ。
代わりに呆れの表情で無言の苦情を入れながらポラロイドカメラを受け取る。
フィルムを内蔵する都合上、三角形の様な独特なデザインが採用されたポラロイドカメラ。写真は携帯端末でしか撮ったことが無いメリーにとって骨董品同然とは言え、本格的なカメラは日常では味わえない重みと高揚感を感じさせた。
「......特におかしい箇所は無いわね」
「結界の境目を見る目」と自称している特別な目を持つメリーの目を通して視てもポラロイドカメラは普通の外見をしていた。
「ファインダーを覗いて観てみて」
「ふぁいんだー?」
「ここ、この部分から覗いてレンズの照準を合わせるみたい」
蓮子の指示通りファインダーを覗きレンズの照準を特に理由も無く蓮子へ向けた。
四角く縁取られたガラスの先。そこには蓮子では無く"森"が視えた。
「え!?」
慌ててファインダーから目を離せば視界は空き教室をバッグに訝しむ蓮子の姿を映す。再びファインダーを覗けば再び"森"が視えた。
「蓮子.......ファインダーを覗くと"森"が視えるのが普通ぅ...」
「普通じゃないね」
状況を理解した蓮子は、1つの結論に至る。
「私が観ても異常は無かった。考えられる可能性としてそのカメラ自体が"結界"を内包しているんだわ!」
それは実に『秘封倶楽部』らしい結論であった。他者であればもっと現実的な可能性を模索し結論を出していただろう。
蓮子とメリー。ふたりの『秘封倶楽部』は、メリーの特別な目があるからこそ他者が信じる常識の向こう側を観測する事が出来る。
「となればどうするの?」
「決まってるでしょメリー。私達でこのカメラの秘密を暴きに行くのよ!」
蓮子ならそう言うと確信していたメリーは強く頷く。
蓮子とメリー。ふたりの『秘封倶楽部』は、蓮子の行動力があるからこそ他者が信じる常識の向こう側へ飛び込める。
ふたりは、どちらが提案するまでも無く肩を寄せ合いレンズに向けてピースサインをした。
「はい、チーズ!」
古典的な掛け声と共にシャッターを切る。今宵も『秘封倶楽部』の活動が始まる!