秘封世界単話集   作:見張

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6話「蓮子・ザ・ラン」

 

「ハァ!...ハァ!...ハァ!」

 

月明かりが照らす四方を山々に囲まれた農村。日本文化の保護を目的とした生産性皆無の農村は、昼間こそ管理者が農作業に従事しているが、夜間は全面立ち入り禁止の無人状態になっている。

 

そんな農村の整地された未舗装路を宇佐見(うさみ) 蓮子(れんこ)は走っていた。

 

「(場所はS県の自然文化保護区!時刻は23時58分08秒!)」

 

夜空で燦然と輝く星々と1番大きく輝く月を見て正確な場所と時間を当てる。

特別な目を持っているのはマエリベリー・ハーン(メリー)だけではない。蓮子もまた特別な目を持っていた。特別と言ってもメリー程では無い。あくまで月と星が見える夜限定の能力......才能と言っても良いモノだ。

 

「ハァ!...ハァ!...ハァ!」

 

蓮子は走る。遂には未舗装から畦道に入りショートカットを目論む。

 

「うわぁッ!」

 

土が崩れ危うく転びそうになる。オカルトサークル『秘封倶楽部』として、時折個人的なフィールドワークで獣道や岩場を移動することがままある蓮子。それでも『科学世紀』の首都――京都府で生活している以上コンクリートの上を移動する方がずっと多い。田んぼを隔てるだけの畦道を走るなど無謀だ。

 

それでも蓮子は走った。脳裏に「急がば回れ」とコトワザが皮肉めいて横切ったことに苛立ちながらも走った。

 

「(あと少し...!)」

 

蓮子は走る。その先で『秘封倶楽部』の相方であるメリーが待ってるからだ!何度過ちを犯しふたりが離れようとも必ず再会する。もう一度......いや、何度でも会う為に蓮子は走るのだ!

 

 

「毎回思う......というより言ってるけど、どうしてそんなに時間にルーズなのかしら?」

「はい...」

 

時刻は0時16分。約束の集合時間から16分オーバーしていた。

 

蓮子がとあるオカルトフォーラムで入手した情報から、この農村で発生しているとされる怪奇現象の正体を暴こうと不法侵入したふたり。農村の広さと時間的猶予を考慮して二手に分かれて調査する運びとなった。

迂闊に携帯端末を起動すればGPSなどで侵入がバレる可能性を考えて、集合時間厳守を固く誓い(主に蓮子がメリーに対して)別れたのだが.......案の定と言うべきか、遅刻癖のある蓮子は遅れてしまった。

 

「今日は月が綺麗ね」

「......」

「そして星も綺麗だわ」

「......」

「蓮子の目なら正確な時間と場所が分かるのにどうして遅刻するのかしら?」

「......」

 

今日のメリーは一段と不機嫌だ。蓮子が遅刻したのが原因なのは間違い無いが、ここ数日は洗剤の注文で桁を1つ間違えたり、蓮子が遅刻したり、ソフトクリームを買ってすぐ落としたり、蓮子が遅刻したり、提出しなければならないレポートのデータを誤って削除したり、蓮子が遅刻したりとストレスを溜めていた。

 

悲しい事にコレが初めてではない。褒められた事ではないが、平凡よりも頭のキレる蓮子は既に対処法を確立していた。

 

「何か言うことは無いの?」

「ごめんなさい」

 

余計な事を言わずに素直に謝る。

遅刻こそすれど、すっぽかした事は一度も無い蓮子への信頼があるからこそメリーはこの程度で許すのだ。

 

我々からすれば随分と甘い対応の様に思えるだろう。だが、時として夢か現かも判らなくなるメリーにとって蓮子の存在は本人が思っているよりも大きかった。

 

「......せめて遅刻は5分以内に収めてよね」

「善処します...」

 

こうしてメリーの説教は終わり、『秘封倶楽部』の活動を再開するのだった。

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